私がいた鎮守府はそんなに大きいものでもなかった。年季が入った昭和の鎮守府。そしてそこに配属されたのは新米の提督。海軍の大学を卒業したての新鮮ほやほやの提督だった。そこに私は配属された。名前は笹森一馬。首席で卒業して大学でも人気者だったらしい。
「よろしくな、瑞鶴」
「はい!よろしくお願いします!」
私はここの鎮守府の二隻目の空母らしい。私より先に来た艦娘は誰なのかしら・・・
「あなたが新造艦?・・・よろしく」
そこにいたのは一抗戦の加賀だ。ここの秘書官も任されている。
「ええ!よろしく!」
私はそういって握手を求めたが向こうはそれには答えず
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずくなった。
「挨拶が済んだのなら早く部屋に行ってくれないかしら、提督はまだ仕事があるの」
カッチーン。そう思ったね。配属されてすぐだけど、早速喧嘩しそうだよ。そう思ったが提督はそれを阻止してくれた。
「こらこら、せっかくなんだから仲良くしろよ。そうだ、昼の時間だし食堂でも行くか」
そういって二人の会話を遮断させ、無理矢理食堂に連れてかれた。
食堂はそこも昭和の雰囲気を漂わせるようだった。味があると言われればそうだがぼろいと言われたらそうである。
「間宮さん。今日のランチは?」
「あら、提督と加賀さん・・・と・・・」
「本日配属された瑞鶴だ。こいつにも加賀と同じで空母盛りで」
「わかったわ」
そういって間宮さんは食堂の奥に行った。準備だろうと思うが
「ねぇ提督。空母盛りって?」
「え?空母は消費が激しいだろ?そうなってくると補給を普通よりかなり多めにしないといけないんだろ?」
そういって間宮さんは昼ご飯を持ってきてくれたのだが・・・
「なにこれ?」
提督のが一人前と考えると・・・十人前はある・・・
「あら?食べないの?」
そんなことを考えていると隣で加賀さんはその量にビビることなくばくばくと食べている。すごい食べっぷりだ。
「どうした瑞鶴?」
提督に声をかけられたが目線は目の前に十人前だ。
「あら。まともに補給ができないのなんて同じ空母として恥ずかしい」
カッチーン・・・もう二回目だよ。この元戦艦腹立つわね。先に配属されたからっていい気になって・・・
「こ、こんな量は余裕よ!!よ・ゆ・う!!」
そういって目の前のご飯に豪快にかぶりつく。もうやけくそだった。とりあえず浸りは何か話しているけどご飯に集中・・・
「ご、ごちそうさま・・・」
加賀に遅れて三十分後に完食できた・・・もう今日はご飯いらない・・・
「あら。ご飯粒が茶碗に残ってるわ」
そういって加賀は私の茶碗にこびりついた米粒を集めてそれを箸で摘まみそれを渡しの口元に持ってきた。
「ほら、食べなさい。残すのは私が許さないわ」
そういって無理矢理箸が口の中にぶち込まれた。
「ぶっふ・・・」
正直吐きそう。この後に空母の演習とか・・・
空母の演習所に行くと先に加賀が弓を構えていた。私が入ってきたことなどわかっていないくらい集中している。
「・・・・・・」
そして、放たれた矢は的のど真ん中に命中。ふぅ、っと安堵の息を漏らすと瑞鶴が目に入った。
「あら、いたの?」
「・・・・・・」
「??」
正直感動していた。こんなにも凛々しく、かっこよく、真剣で・・・私は言葉を失っていた。
「おー先に来てたのか?」
その刹那、提督がいきなり空母の演習場に入ってきた。
「提督、入るときにはお辞儀です」
「ハイハイ・・・」
そういってまたはいるところからやり直し今度は加賀に言われた通りに入ってくる。
「提督・・・その恰好は?」
「ああ、俺も中学生のころから弓道やっててさ、それでたまに此処来て練習してるってわけだ」
提督は私たちと同じで袴の姿だった。そして自前の弓。提督は的の前に立つ。
「・・・見てなさい。提督の腕前を」
加賀はそう私に言うが信じられな・・・
ピリッ・・・
弓を構えた瞬間に生まれた重い緊張感。ただ弓を構えただけでこんな空気になってしまうの?感じる・・・この集中力・・・たぶん、周りの音なんか聞こえてなくて、的に集中してる・・・
放たれた矢は先ほど加賀さんが射た的に行く。そして矢は先ほどの矢を貫通する威力、そして真っ二つにするコントロール。圧巻だ。正直艦娘よりも上をいっているかも・・・
「ふぅ・・・」
そう息をつくと二本目を構える。そしてそれは先ほどと同じ結果だ。先ほどの矢を真っ二つにして真ん中に当たる。この精密さ、集中力、私も欲しい!!
「どう?これがうちの提督よ、私もこの人に教わってから錬度が驚くほど上がったわ」
そういって加賀は立ち上がり再び的の前に立つ。それに続くように瑞鶴も構えた。
構え方はこうで・・・足、手、目線、ええとそれから・・・とりあえず見様見真似だが・・・
「そうじゃないわ」
そういって加賀さんは自分の弓を絞るのをやめ、こちらによって来る。
「つま先の向き、目線、矢の構え方・・・そうそのまま」
「え!?ちょ・・・」
加賀が体を密着させながらの指導・・・正直恥ずかしい・・・
「動揺しないで・・・そうよ、そのまま的から目を離さずに」
瑞鶴が構えてみると先ほどよりも楽に感じた。なぜか・・・余計な力が入っていないからか・・・何しろ構え方だけ変えるだけでこんなにも違うものなのか。
「おお。仲良くやってるじゃん」
「そうでもないわ、ただ、この子の構え方があまりにも不恰好だったから指導しただけよ」
「ぶかっ・・・」
「はいはい、そういうのを仲良しっていうんだよ。瑞鶴射てみろ」
とりあえずさっきの構えからは崩していない。このまま狙ってみる・・・呼吸を整え、息を止め、集中・・・そして自然と放たれた矢は的には当たったもののぎりぎりだ。
「・・・・・・」
「今のは構えはよかったが・・・」
そういって自分の弓を絞る。
「足りなかったのは風向きと風力の計算だ!」
そういって提督の放った矢は先ほど瑞鶴が当てたところに吸い込まれていき矢を真っ二つにした。
「そう、特に海の上になると風が吹いてないことなんてない。もしかしたらスコールだってあり得る。そういう状況でも自分の実力をしっかり出さないとだめよ」
「わかってるわよ!!もう!!」
そういってやけくそに構えてるが提督に留められる。
「はい、深呼吸。んでさっき加賀さんから教わったら構えかたをやってみて」
そういわれ、構えなおすが・・・あれ、これで合ってるっけ?
「そうじゃなくて・・・」
「ひゃ!?」
提督はさっきの加賀のように体を密着させ指導。瑞鶴はかなり動揺。
「もともと私の構え方も提督に教わったものだから私よりも政界の構え方を教えてくれるわ。ほら、さっさと構える。早く提督から離れなさい。迷惑そうよ」
「加賀さん。そんなことないから空母同士仲よくな」
「・・・私の気も知らないで」
「んで、ここをこうで・・・よし今回の風は俺が調整するから・・・」
直接指導。加賀さんとやってることは変わらないのかもしれない・・・でもなぜかみるみると上達して意欲があるっていうのがわかる。・・・なんでだろう提督が教えてるから?
「よし、あとは自分のタイミングで・・・」
そういって提督が離れて行く・・・あれ?なんで少し残念になったんだろう・・・
そしてそのまま放つ。そしてそれは的のど真ん中に吸い込まれていった。
「よし!!」
「弓道ではガッツポーズ禁止よ」
「いいじゃない!真ん中よ!!」
「ああ、すごいな瑞鶴!」
とても不思議。すごく居心地がいい。加賀はわからないけどとても歓迎ムードだからかすごく安心できる。これが私が着任した鎮守府・・・
そして、この鎮守府の司令部レベルが上がり難解の海域まで攻略できるともいわれるようになったある時・・・ことが起こった。
「相変わらず不愛想ね。もっと嬉しそうにしなさい!」
「いえ、そうでもありません。さすがに気分が高揚します」
彼女が身に包んでいるのはウエディングドレス。瑞鶴はその着付けの手伝いだ。ケッコンカッコカリをしたのでその式を鎮守府で行うことになった。不愛想の加賀にはうれしいのかどうなのかはわからないが、まぁ、幸せなんだろう。だって、こんなにかわいい加賀さんは初めて見た。
「あのね~そんなんじゃ提督ににげられちゃうよ。もっとスマイル!!」
そういって瑞鶴は思い切り笑って見せるが
「・・・何一人でにやにやしてるのかしら。恥ずかしい」
加賀は平常運転だ。
「うるさいわね元戦艦!!」
「あら、事実をいったまでよ」
そのいつものやり取りが終わると加賀が真剣な表情で聞いてきた。
「でも、いいの?あなたも提督のこと好きだったんでしょ?」
「べえつに・・・そんなこと・・・」
瑞鶴は相変わらずわかりやすい。勿論好きだった。やさしく凛々しくかっこよく、艦娘を思ってくる。人間のように接してくれて、何よりやさしいし弓道もうまい。・・・あれ?
「ごめん・・・」
不意に涙が流れた。加賀に見られたくない。そう思い。すぐさま後を向く。・・・そっか、悔しかったんだ。振られたわけじゃないけど、どこかに行っちゃうわけでもないけど、もう・・・提督にとっての一番にはなれないんだ・・・
「・・・私はあなたがうらやましい。そうやって感情表現が豊かで、いろんな艦娘と仲が良くて・・・何より明るい・・・」
「あたしもあなたがうらやましいや。そのクールでかっこよくてツンってしてるけど誰よりも仲間を思っているあなたが・・・」
お互いがお互いをほめてしまい少し気まずいが・・・
「フフッ」
「なに笑ってるの五抗戦」
「そう?あなたもじゃない?」
「フフッ、そうね。ありがとう・・・瑞鶴」
「えっ?」
なんか、初めて名前で呼んでもらった気がする・・・
「何かしら?」
「今名前!!」
「言ってません。うぬぼれないでください」
カーン・・・と鐘の音が鳴り響く。これは始まる前の予鈴だ。
「じゃあ行くわ・・・」
「うん。いってらっしゃい」
そして始まった結婚式。正式にはカッコカリだが、そんなことは関係ない。笑顔の新郎新婦は本物の夫婦だった。皆に祝福をされ、神父の長ったらしい話。それらが終わったら・・・誓いのキス・・・
「ここまでは幸せだった。歓迎してくれた提督に競い合えるライバルの加賀さん・・・自分を向上出来て仲間たちも頼もしくて・・・」
「笹岡一馬・・・なるほどな。確かにあいつは提督室で死んでいた・・・」
「でも、なぜそんな事故死が瑞鶴が殺めたことになるんだ?」
「そこは知らん。亮は何かあるのか?」
「・・・事故死ではあったが・・・瑞鶴が関係していることぐらいだな・・・」
「それと加賀もだな・・・」
「ああ・・・瑞鶴は笹森提督には惚れていた・・・」
「・・・・・・」
その質問に対し黙ったままだったが
「はい、惚れていたと。それを・・・嫉妬か?」
「違う!!」
瑞鶴は即座に否定している。
艦娘にはケッコンカッコカリという制度がある。錬度が最高値まで達したものがケッコンカッコカリを行うとどういう理屈かわからないが、さらに強化できる。という制度だ。だがケッコンカッコカリをするなど並の提督ではできない。錬度に達するまでの時間。艦娘からの信頼。そのことを考えるとかなり優秀な提督だったのではないかと思う。
「とりあえず、続きは話せるか?」
「ええ・・・」
そういって話そうとしたのだが・・・
ぐぅ・・・
・・・どこかで腹の虫が泣いた。その先には顔を赤らめた瑞鶴がいた。
「・・・先に飯食うか、そろそろ昼飯の時間だし」
そういって立ち上がり瑞鶴の手錠を外してやる。
「あのな・・・」
清はさっさと仕事を終えたそうにせかしているが
「話すことでいっぱいだ。話すにつれてどんどん息が荒くなってるから少し休ませてやろう・・・」
そう清に耳打ちをする。
「・・・わかったよ。カウンセラーのお前が言うにはそうなんだろうな」
「ああ、ありがとう。瑞鶴、飯にしよう。食べられるだけでいいから」
そういって、補給ドリンクを渡しそのまま食堂にいく。夕立のことだからたぶん自分で料理をしているだろう。そう思いながら食堂をのぞいてみると・・・なんか面白いことになっていた。