作者が昼寝をしていたあるとき……。奴は突然現れた。

 青い髪に青いひげ、そして原作では決して見せかなかったやたら清々しい笑顔を浮かべた……全裸の奴が。

 俺もう末期なのかな……とショックを受け必死に言い訳を探す作者。その時目に留まったのは最近アニメを見て読み始めた《境界線上のホライゾン》。そしてそこに出てくる全裸のフランス国王陛下。

 ゼロの使い魔のガリアってこっちの世界でいうところのフランスに相当するらしい。

 なんか欧州覇者になる凄いところらしい。

 実際ゼロの使い魔での最大勢力を誇る国らしい……。

 よろしい、ならば執筆だ!!


 きれいなシェフィールドが現れて改心しちゃったジョセフさん! だけどその際になんか人として大切なものまで失っちゃったみたいで!?

 咲き乱れる肉体美! 誰得な状況!! 原作とは違う形でぶっ壊れちゃった狂王さんは今日も今日とて全裸道の極みを目指す!! 今ならきれいな嫁さんもついてくるよ!!!

 さぁみなさんご一緒に、

Vive La――Joseph!!

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仰ぎ敬え!

 ガリアの王子――ジョゼフは世界を憎んでいた。

 

彼に魔法の才能を与えず、そして彼の才能をすべて奪って生まれたかのような弟を授けた世界を憎んでいた。

 

 チェスの腕が強くとも、誰よりも賢い座学の成績を収めても、決して彼の周りにいる人間は彼を省みようとしなかった。

 

 父も母もその臣下たちも。誰もかれもが彼の弟であるシャルルシャルルシャルルシャルル!!

 

 だから彼は努力することをやめ、流されるままに生きてきた。

 

 弟に対する嫉妬をくすぶらせながら、それでもどうしようもない世界に絶望しながら彼は流されるままガリアの魔法学院に通っていた。

 

 本来なら王族が通うような場所ではない。だが、魔法を使えないというのは王族といえども恥ずべき、忌まわしきことだった。

 

 それゆえに、せめて魔法学院を出たんだぞという箔を付けるためにジョゼフは無理矢理この学院に通わされている。

 

 おつきのものも、騎士すらも彼にはついていなかった。王族であるにもかかわらず……。そのあんまりな自分の惨状に彼は「どうせ自分が死んだところでたいした痛手にならないとでも思っているんだろう」と考えていた。

 

 そんな風に世界のすべてを恨んでいると言わんばかりの彼に友人なんてできるわけもなく、彼は魔法学院でもただ一人孤独に過ごしていた。

 

 そんなある日、彼はとある授業に臨んでいた。いわゆる使い魔召喚の儀という歴史と伝統がある(魔法が使えないジョゼフからすればどうでもいい授業にすぎないが)大切な授業らしい。

 

 メイジたちはここで初めての使い魔を召喚し、メイジとしての第一歩を踏み出すのだという。

 

 だから魔法が使えないジョゼフであってもその授業は強制参加とされた。たとえ使い魔を呼び出す魔法が結実しないであろうとされても、参加したという事実すらないと卒業が危ぶまれてしまうほど重要な授業だったからだそうだ。

 

 だが、誰もジョゼフの魔法が成功するなんて期待していなかった。当然だ、何せ彼は今まで魔法を一度も成功させたことがない。恥ずべき二つ名《無能》をもつ学園一の問題児だったから。

 

 だから、

 

「なんだ、これは……」

 

 ジョゼフの前に銀色の鏡のようなゲートが開いたときは学園の生徒全員が度胆を抜かれた。だがそれ以上に度胆を抜かれたのはジョゼフだった。

 

 まさか魔法が成功するなんて、彼自身がだれよりもそんな可能性を考えていなかったのだ。

 

 だが、そのあと起こった現象に彼らはさらに度胆を抜かれることになる。

 

 銀色のゲートから姿を現したのは、

 

「きゃっ!?」

 

 かわいらしい悲鳴をあげて地面に転がり落ちた、一人の美少女だったからだ。

 

 見たこともない黒眼黒髪のエキゾチックな見た目。その見た目は、サハラを越えこの国によく来る東方の商人たちを彷彿とさせた。

 

「こ、ここは?」

 

 緋色の変わったズボンに(袴というらしい)白い上着(ビャクエというらしい)に身を包んだ少女。俗にいう巫女服の格好をした少女は突然目の前の景色が変わったのに驚いているのか、きょろきょろとあたりを見回し、

 

「ひぅ……」

 

 自分のことを驚いた瞳で凝視している極彩色の髪を持つ変わった人々の姿に気づき、怯えたような声を漏らす。

 

 それはそうだろう。突然目の前に現れた銀色の鏡に飲み込まれたと思ったら、見たことも聞いたこともない場所に放り出され、明らかに故郷の人間たちとは違う人々に凝視されていたのだから……彼女の恐怖はひとしおと言っていいだろう。

 

 そんな彼女の姿を見て彼女を召喚したジョゼフは、

 

「なんと可憐な……」

 

 一瞬で心奪われていた。今まで世界を恨んでいたことなどどうでもいいほどに、彼は彼女に心奪われてしまっていた。

 

 いや、むしろ世界に感謝を抱きすらした。

 

 自分に魔法を与えなくとも、優秀すぎる弟を皮肉交じりによこそうとも――たった一人、この少女を自分のもとに遣わせてくれただけで彼は世界に感謝した。

 

 おびえて今にも泣き出しそうな少女にジョゼフはずんずんと歩み寄る。そして、

 

「君……」

 

「は、はい!?」

 

 突然声をかけられ、何をされるんだと怯えながらこちらを振りむいた少女を、

 

「っ!!」

 

「すまなかった」

 

 とりあえずジョゼフは抱きしめた。とにもかくにも彼女を落ち着かせようとしたのだ。弟のシャルルも、女性は大きな男性の胸にかき抱かれると無情の安心感を得ると言っていたし……。

 

「言葉はわかるか? 本当にすまない!! どうやら東方の方とお見受けするが、こちらとしてもあなたに悪気があってこちらに呼んだわけではないのだ。事情は込み入っているからちょっと今は話せないが、とにかく落ち着いてほしい。我々は君に危害を加える気はない」

 

 周りの生徒たちがいつになく饒舌なジョゼフに驚いているが、そんなことジョゼフは知ったことではなかった。今の彼の最重要事項はこの怯えきっている少女を何とか安心させることだったのだから。

 

 だが残念なことに彼はいきなり失敗をしていた。

 

 東方の中でも最果てといわれる島国《ジパング》に住んでいた少女は、「女性は慎ましやかに。男性も簡単に女性に触ってはいけない」と教育されていた。おまけに彼女は神官職である巫女だった。男性に力強く抱きしめられる機会など皆無といっていい。

 

 当然そんな彼女が突然見も知らぬ男性に抱きしめられたら、身の危険を感じないわけがないわけで……。

 

「きゃ、きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 混乱の極みに達した少女は父親に教えられていた護身法――いわゆる神官職を守るための聖具《玉串》に、この国でいう魔力に相当する霊力を込め力いっぱいなぐりつける――を発動しジョゼフを天高く打ち上げた。

 

 宙を見事に飛んだジョゼフはこう思った。

 

 あぁ、かよわい可憐な女性かと思えばこんなこともできる強い女性でもあるのだな……ますます惚れなおしたぞ。と、

 

 何かいろいろダメな感じになりつつあったが……とりあえず、歴史に名を残す狂王ジョゼフは、この時その存在を消し去ったのだった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 それからしばらく経ち、少女がハルケギニアの生活にも慣れ、ジョゼフとの関係もソコソコ修復され、こちらでの名前――シェフィールドという名前を授かったときのお話だった。

 

「シェフィールド!! 余は気づいたぞ!!」

 

「きゃぁあああああああああああ!?」

 

 ジョゼフは最近使えない魔法に頼らずとも、シェフィールドを守るために体を鍛えていた。おかげで、素手でシェフィールドにちょっかいを出した上級生をのしてしまうほどに強くなった彼だったが、それでも「鍛練とは日々の継続が重要なのだ!」といって、毎朝早朝に起きてはランニングをしている。

 

 シェフィールドはその間に起きて着替えを済ませてしまうのが日課(本当は慎むべきという考えから別部屋にしてほしかったのだが平民に部屋を与えるわけにはいかないという学院の意向と、ジョゼフからの激しい反対(無論下心込み)をうけ泣く泣く同じ部屋で暮らしていた)なのだが、今日はどういうわけか興奮した様子でジョゼフがいつもより早く帰ってきたのだ。

 

「おぉ!? すまない!! 着替えの途中だったか……だが、たとえ裸であっても美しいぞ、シェフィールド!!」

 

「い、いいから出て行ってください!! そして鼻血を拭いてください!!」

 

 言動は紳士的であったが、残念なことにジョゼフの体はとても正直だった……。

 

 

「で、な、何をお気づきになられたんですか?」

 

「うむ」

 

 結局ひと悶着あった後、再び玉串で殴られジョゼフが天高く飛ぶなんていつものやり取りを交わし、着替えを済ませたシェフィールドとジョゼフはちょっとだけ真面目な顔になりながら話を開始した。

 

最近ジョゼフは今更自分がシェフィールドと一緒になる(彼女には無断で……。彼は自身の謀略をフルに使い外堀を埋めていた)ことを反対しだした父の家臣団を黙らせるために、積極的に政治にかかわるようになっていた。

 

 事情を知らないシェフィールドは、右も左もわからない自分を助けてくれたジョゼフに恩返したしたくて、東方流の帝王学を(聞きかじり程度の知識だったが、なかなか斬新な考えもたくさんありジョゼフをうならせていた)ジョゼフに教えていたのだが。

 

「いくら無能と呼ばれても私は王の息子だ。周りの評価から考えて決して王にはなれんだろうが、その血を使えば宰相ぐらいにはなれると思うのだ。そうすればもう家臣たちにでかい顔はさせない」

 

「ですがジョゼフ様、そんな理由で宰相になられるのは賛成しかねます。仮にも一国の政治にかかわる重要なお立場……家臣の方々を黙らせるためだけになられるというのは」

 

「無論それだけではない!! 実はつい先日に行われた園遊会でようやくシャルルと和解できたのだ!」

 

「まぁ!」

 

 その報告はシェフィールドにとって嬉しいことだったのか、彼女はかわいらしく両手を合わせて微笑みを浮かべる。

 

 ジョゼフの弟でありもう一人のガリアの王子であるシャルルとの仲は、決して悪くはなかった。少なくともはたから見れば……。

 

 だが、東方の神官であるシェフィールドはかなり直感に優れており、なんとなく彼が根っこの部分でジョゼフを疎んでいることを、ジョゼフが弟のことをいまだに苛烈な嫉妬の視線で見ていることに気づいていた。

 

 せっかくの兄弟なのにそれはあまりに悲しすぎると、彼女は必死に二人の仲の改善に努めてきたのだが――それがようやく実を結んだというのだ。喜ばないわけがなかった。

 

「うむ……まぁ、お前の言うとおり私たちは似た者同士だとわかってな。腹を割って話してみれば案外お互い下らぬことにこだわっていたものだとわかったよ。ありがとう……シェルフィード」

 

「いえ、私はジョゼフさまの使い魔ですから」

 

 そういって、美しい笑顔で微笑むシェフィールドにジョゼフは、

 

「……」

 

「じょ、ジョゼフ様!? 鼻血!? また鼻血が出てます!? ちょっと不安を覚える量で出ています!!」

 

「くっ……お前はどこまで私をもだえ苦しませれば気が済むのだ」

 

 閑話休題……。

 

「というわけで、私はシャルルと約束した。お前は王で、私は宰相……ともにガリアを盛り立てていこうと」

 

 そこでだ! と、ジョゼフは元気よく立ちあがった。鼻に詰め物をしていなかったらもっと恰好がついただろう。

 

「私は宰相として、民と王の架け橋になりたいのだ」

 

「架け橋ですか?」

 

「そうだ! ガリアの王政は絶対王政。王は孤高であらねばならぬ。だがしかし、それでは時には民をないがしろにする間違った判断を下してしまうこともあるだろう。お前が言うように、民あっての国。それはあまりによろしくない。そこで私は民に親しみやすい宰相となり、その声を王に届けようと考えたのだ!」

 

「素晴らしい考えですわ、ジョゼフ様」

 

 おそらく気安い貴族になるというのはかなりの難関が立ちふさがるだろうとシェルフィードは思っていた。彼女の国であっても、そういったことをできる貴族は珍しい。ましてや王族となると皆無といってもいい。

 

 それでも、彼女はジョゼフならなぜかやってくれると思えた。彼にはそんな魅力が――魔法の素質さえあれば、王になれるほどのカリスマがあったから。

 

「賛同してくれるかシェフィールド!!」

 

「はい、あなたならきっと……その理想かなえることが出来ますわ」

 

「そうか、ありがとう!! ではまず余は脱ぐことから始めよと思う!!」

 

「…………………はい?」

 

 何か今聞き捨てならないことを聞いた気がしたシェフィールドは思わず首をかしげたが、

 

「そうかそうか、賛同してくれるか!! ではいくぞ、シェフィールド!!」

 

 シャルルとの仲直り、シェフィールドとの会話と嬉しいこと続きで若干アッパー入っていたジョゼフは、その疑問の声を肯定と勘違いしてしまい、

 

「とうっ!」

 

「っ!?」

 

 突如服を脱ぎ捨て全裸になった。いや、全裸というのはいささか語弊があるか……一応大事なところは隠している。

 

 ……葉っぱで。

 

「シェフィールドの故郷では人が手っ取り早く仲好くなるのは裸の付き合いが良いそうだな! ゆえに私も裸になれば親しみやすくなるだろう! まぁ、さすがに本当に全裸ではいささかどころかかなり問題が出てくるだろうからあそこは隠しているが、うむ。そこは私の話術でカバーだ!!」

 

 何やら燃え上がるジョゼフにぶるぶる震えるシェフィールド。

 

 いろいろ唐突過ぎて脳の配線がショートしたシェフィールドの脳裏には「あぁ……なんか大変なもの教えてしまった」とか「天才と何とやらは紙一重」という言葉が乱舞するが……。

 

「きゃぁああああああああああああああああ!?」

 

 結局、目の前で男性が裸(に近い)格好になっているという事実に耐えられなかったのか、彼女は勢いよく玉串を振り回しジョゼフを部屋からたたきだした。

 

 なぜだぁあああああああああああああ!? と悲鳴を上げジョゼフは窓から天高く飛んだが学院の生徒たちは「またやってんのか……」と呆れた顔で苦笑を浮かべながら、黙って流した。

 

 ある意味名物として、学院の人々に愛され始めたバカップル二人の痴話喧嘩だった。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 さらにそれからしばらく経ち、ジョゼフの父である現ガリア王国国王が病床に臥せっていた時だった。

 

 彼の弟であるシャルルは病に伏せる父親の枕元へと呼び出されていた。

 

「シャルル……きたか」

 

「はい、父上」

 

「私はおそらくもう長くないだろう……。わかるのだ。長年のメイジとしての直感が私に死の足音を聞かせてくれる」

 

「そんな……父上」

 

「だからそろそろ私も決めた……次期国王を誰にするのか」

 

「っ!」

 

 それはシャルルとジョゼフがずっと心の奥底でいがみ合った原因となるものだった。もう二人の間では結論が出ている。

 

 シャルルが王で、ジョゼフが宰相。初めシャルルは兄のことを心の奥底で憎んでいた自分の醜い心が恥ずかしく、何度もジョゼフに考え直すよう話を持ちかけていたのだが今ではジョゼフは全身全霊で宰相になるための努力に励んでいるため、いまさら王になれなどといえない感じになってしまっていた。

 

 まぁ、あの聡い兄のことだ。おそらくそれすら織り込み済みでああいった行動をとっているのだろうと、内心でシャルルは苦笑を浮かべる。

 

 とはいえ、本人たちがいくら望もうと望むまいとやはり父王の意見は重要だった。何せ彼はこの国を治めつづけた強国の王。若輩の自分たちでは気づかない、思いもよらない王の選定基準を持っているかもしれなかった。そうなれば、自分たちの安い希望などもはや語っていられなくなるかもしれない。

 

 だから、シャルルは緊張した面持ちで父王の判断を聞く。そして、

 

「次期国王は……シャルル、お前がなれ」

 

「……謹んで、拝命いたします」

 

 希望通りの父の言葉に、シャルルは安堵と共に、若干の残念さを感じる自分に気付いた。だからこそだろう。彼は次のセリフを止めることができなかった。

 

「ですが父上。なぜ兄上ではないのですか? 父上もいいかげん気づいておられるはずです。兄ほどの叡智を私はもっておりませんし、兄も魔法が使えないわけではない。彼の得意系統は伝説と語られたあの……」

 

「シャルル……わかっているさ。私とて、その事実を知った時はあまりの自分の先見の明のなさに絶望した。これで王を名乗っていたのかと初めて自嘲という笑みを浮かべたほどにだ。あれ程の叡智、神の系統である虚無。その二つを持つジョゼフはおそらく歴史に名を残すほど偉大な王になれたであろう」

 

「では……なにゆえ」

 

「それはな……」

 

 その時だった、中庭で変な騒ぎが起こり始めた。

 

 そこではジョゼフが学院を卒業してから本格的に王宮に入ったことを期に、彼を守る盾にならんとして彼の使い魔であるシェフィールドが騎士たちを相手にガーゴイルやスキルニルを使って用兵技術を学んでいたところだったのだが、

 

「シェフィールド! 余の可愛いシェフィールド!!」

 

「あ、あのジョゼフ様、嬉しいには嬉しいんですが全力全開でそんな力強く叫ばれると、さすがに恥ずかしっ……!?」

 

 いつものように顔を真っ赤にして抗議の言葉を上げようとしたのだろう。どことなく惚気が混じったシェフィールドの言葉がジョゼフに注意を促そうとして……固まる。

 

「ようやく余はたどり着いた!! 全裸道の極致へ!! いままでは葉っぱで隠していたが、やはりそれは着衣だと、真の全裸たりえないと、常日頃からどうにかできないかと思っていた。その時余に天啓が降り立ったのだ。そうだ、虚無にはどうにかできるものがあるではないかと! というわけで余は試行錯誤を繰り返し、ほかの詠唱の邪魔にならぬよう第二思考(のちの並列思考と呼ばれる同時魔法使用を行う高等技術。歴史上ジョゼフが初めての使い手となる)でこれを常時使い続けることに成功した!! 括目してみよ、これが虚無の幻影(イリュージョン)の力を借りて実現させることができた着衣ゼロの全裸の極み! 名付けて……虚無モザイクっ!?」

 

 きいぃやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? と絹を引き裂くような悲鳴があがり、それと同時に吹っ飛んでいくジョゼフが窓を通り過ぎていくのをシャルルは確認する。

 

 ……一応ここ30メイルの高さはあるはずなんだけど。と、埒もないことを考えていたシャルルの目前の窓を今度は落下していくジョゼフが通り過ぎた。

 

 そして結局中庭に落下したのか、半狂乱になるシェフィールドの声と「シェフィールド様を、変態からをお守りしろ!!」「な、何をする騎士たち!? 余は宰相だぞ!?」「黙れ、バカ! ガリアの汚点、ここで消し去ってくれる!!」となぜか騎士と兄が戦闘に入る轟音が聞こえてきて……。

 

「なんか……あれは、ちがう」

 

「えぇ……そうですね」

 

 最後の力を振り絞りそう言って力尽きた(意識を失っただけなのであしからず)父王にちょっとだけ涙を流しながら、シャルルは父の面倒をメイドたちに任せ最近なんか目的を『気やすい宰相』から『全裸道を極める』という本末転倒な感じになりつつあるジョゼフのもとへと向かう。

 

 ほんと何でああなってしまったのか……。と、割と残念な感じにぶっ壊れた兄に嘆きながら、騎士たちとの戦闘を止めるためシャルルは中庭に降り立った。

 

 

 

…†…†…………†…†…

 

 

 

 さらにしばらくたち、ゼロの使い魔原作時期。

 

 トリステイン所属の水精霊騎士隊は現在最も巨大な戦を行っている、ガリアVSロマリア・ゲルマニア連合軍の戦争の偵察に来ていた。

 

 事の発端は虚無が四つそろったことによりロマリアの教皇猊下が『聖戦』の発動を宣言したことから始まる。

 

 ルイズを武器にしないと誓ったトリステインはあたりさわりのない言葉でそれを辞そうとしていた。もし参戦するにしても、兵站――つまり、後方支援を担当することでルイズの参戦を免除してもらう腹積もりだったのだ。

 

 だがしかし、それよりも先にガリアがロマリアに対しとんでもないことを言い放ったのだ。

 

「聖戦? 勝手にやっていろ。今のハルケギニアの光景が見えない金狂いの生臭坊主ども。いったいどこにそんな資金があるというのだ? 付き合ってられん。帰る」

 

 という言葉を、数百倍丁寧かつ慇懃無礼に言い放ったらしい。

 

 まさしく神をも畏れぬ行いだったとその光景をじかに見てきたアンリエッタは震えながら語った。

 

 教皇猊下はその言葉を聞き笑って鷹揚に頷いた後、

 

「よろしい、ならば戦争だ」

 

 という言葉を数万倍美しい言葉で飾り付けて言い放ったらしい。

 

 狂信の意味を理解したと彼らの副隊長であり伝説の使い魔である平賀サイトは冷や汗を流しながらそう語った。

 

 というわけで、現在ガリアとロマリア……ついでに戦争による武器商売でさらに金を稼ぐことを狙ったゲルマニアが三つ巴で戦争をしているのだが(トリステインは完全に無視された形になる)、当然トリステインとて近くで戦争が起きているというのに黙ってみているわけにもいかない。

 

 というわけで、サイト率いる水精霊騎士隊におそらくこれから味方をするであろうガリアの戦況を見てくるように言われたのだが……。

 

「押されてるな……」

 

「えぇ、あっちにはゲルマニアがついているから」

 

 おかげでキュルケ実家から勘当されたそうよ? と、あくまで友人であるシャルロットと戦うことを嫌ったキュルケが現在文無しになった事情をルイズは歯噛みしながら話す。

 

 なんやかんや、宿敵天敵といいながらもやはりキュルケのことが心配らしい自分の優しいご主人様の頭をなでながら、サイトは自分の世界の兵器の中に紛れ込んでいた双眼鏡を片手に戦況を見守る。

 

「ゲルマニアの兵站を受けたロマリアはまさしく破竹の勢いで進んでいるわ。まぁ、当然でしょうね。宗教的に見て正義はあっちにあるわけだし、士気はほかの軍の比じゃないでしょう」

 

「対するガリアも一応ブリミル教が国教だからね……。シャルル国王が淡々と聖戦を行うことのデメリットを説いたから混乱は起きていないものの、やはり士気は下がっているようだ」

 

 このままじゃガリアは押し切られるぞ? と、元帥家という生粋の軍人の家系に生まれたギーシュの予想に、サイトは思わず歯ぎしりをする。

 

 もとよりサイトは日本人。宗教関係の戦争の愚かしさは歴史の授業で嫌というほど習ってきた。友人であるシャルロットも今は祖国を守るために従軍していることが拍車をかけ、彼はガリアに何としてでも勝ってほしい心情だった。

 

 その時だ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおお! 気合い入れろ、お前らぁあああああ!!」

 

「今とんでもない報告が入った! あれが来るそうだ!!」

 

「こうしてはおれん!! これ以上ガリアの恥部を晒すなぁあああ!!」

 

 なんか、ガリア軍内部で局所的にとんでもなく気合が入った掛け声が上がり、突如前線を盛り返し始めたのだ。

 

 その活動は見る見るうちにガリア軍に伝播していき、先ほどの士気の低さはどこへやら……一兵士に至るまで死に物狂いで戦い始めた。

 

「な、なにが!? 何が起こったのです!? (大体この戦争自体原作ではこんなことになっていないのに!?)」

 

 そんなことを言って慌てはじめたのは、ルイズの兄にして同じ虚無の担い手カーリッシュ・ラ・ヴァリエールことカールだ。

 

 なんでも未来が見えるとうそぶいている彼だったがさすがの彼にしてもこんなことは予想外だったのか、なんだかとっても慌てふためいている。

 

 その時だった! 突然戦場の空に巨大な窓が出現しそこに青いおひげがダンディな美丈夫が顔を出したではないか!

 

「やぁ、我が親愛なるガリア兵士の諸君。苦戦しているのか!! ならば余が助けにいこう! 大船に乗ったつもりで待っていろ!!」

 

 そんな大言壮語を吐くからにはおそらく彼はガリアの切り札なのだろうとサイトはあたりをつける。が、隣を見た瞬間その考えは変わった。

 

「え、る、ルイズ? どしたの?」

 

「なんで……あの人がこんなところに!?」

 

 あわててサイトが周囲を見回すと、水精霊騎士団の面々全員が口をあんぐりとあけてその美丈夫を見上げていた。

 

「え、えっと……誰なのアレ?」

 

「サイト……異国から来た君が知らないのは仕方がないが、アレとかいうな。あの人は今現在ハルケギニアで最も偉大とされる宰相閣下」

 

「ホントなんで宰相に収まっているんでしょうね……本当なら国王のはずだったのに(そしてあいつぶっ殺して、俺がタバサにフラグたてるはずだったのに)」

 

 とぶつぶつつぶやくカールを無視して、ギーシュはその名を告げた。

 

「ジョゼフ・オルレアン……ガリア王国現国王のお兄様だ」

 

 そんなすごい人なのか!? と、サイトが驚く中、戦場からは信じられない言葉がこだましていた。

 

「いらねぇええええええええ!!」

 

「お願いだからくんなぁああああああああ!!」

 

「帰れ!! 帰ってくれぇえええええええええええ!?」

 

「……とてもそんな風には見えないんだけど」

 

 なんだか彼の顔を見た瞬間、戦っている騎士たちが無礼千万なせりふを吐きだしたのだ。

 

 え、え? ハルケギニアって絶対王政じゃないの? 宰相なんて偉い人に逆らったら打ち首じゃないの? 

 

 とサイトが大いに首をかしげる中、それはとうとう現れた!

 

「残念だが諸君! すでに余は降臨しているっ!!」

 

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 突如画面の声が肉声に変わり、天から一人の人間が降ってきた!

 

 サイトたちは慌ててそちらに視線を向けるが、太陽のまぶしさが邪魔をし、その姿を正確にとらえさせない。

 

 しかし、その人物がやたらとすがすがしい笑顔をしていることは何となくわかった。

 

「仰ぎ見あげよ、余とその弟を敬え!!」

 

「「「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」

 

 ガリア軍はあわててその落下物の下から退避し、ロマリア軍は「わけがわからないよ?」と突然逃げ出したガリア兵たちに首をかしげる。

 

 だが、

 

「お、おい」

 

「なんだ?」

 

「全裸が降ってくるんだけど?」

 

「はぁ!?」

 

 一人の兵士がようやくその落下物の正体を看破し、その正体がロマリア軍にも伝播する。しかし、それではあまりに遅すぎた。

 

「今必殺! 虚無・全裸おとしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

「えぇえええええええええええええええ!?」

 

 すがすがしい声でとんでもない技名を発したその人物にサイトは思わず絶叫を上げる。

 

 しかし、そのバカバカしい技名とは裏腹にその威力は絶大だった。

 

 同時思考による虚無の並列発動によってなされた異常強化――無敵(ノーダメージ)という一瞬だけ対象人物が受けるダメージを0にする魔法と、重力操作(グラビティ)による重量超上昇がかけられている――人物が地面に激突した瞬間、大地に激震が走り辺り一帯に爆発(エクスプロージョン)が咲き乱れたのだ!

 

「うわぁあああああああああああああ!?」

 

 ルイズの本気爆発に比べればなんてことはない小さな爆発(とはいえ、直径40メイルはあるが)。だが問題はその数だった。10や20ではきかない爆発群にさすがのサイトも思わず双眼鏡から目をはなし伏せる。

 

 そして爆発が収まったころには、

 

「括目してみよ、ロマリアの諸君!」

 

 おそらくこの戦場に出された兵力の半分以上を失った悲惨なロマリア軍と、災害を起こした中央に君臨する青髪青髭の美丈夫だけが残っていた。

 

「これぞ我が力、ガリアの力……」

 

 その戦場はその一撃でその美丈夫に支配されていた。

 

そのとんでもない火力に? 違う。

 

 彼が放つ暴力的カリスマに? 違う。

 

 その支配力はもっとわかりやすく、もっと単純に人々の視線を集めるものだ。

 

「モザイクから更なる進化を遂げた……」

 

 つまりその男は、

 

「虚無フレスコだぁああああああああ!!」

 

 大事なところをちょっと危ない感じの解像度のモザイクで隠した、全裸男だったのだ!!

 

「じょ、ジョゼフが壊れたぁあああああああああああああああああああ!?」

 

 カールが悲鳴を上げているがそれ以上に悲鳴を上げたいのは水精霊騎士団の面々だった……。何が悲しゅうて戦場見に来て40過ぎたおっさんの全裸見ないといけないんだと、彼らは真剣に涙を流した。

 

 そして何となく理解する。ガリア軍が彼に絶対来てほしがらなかった理由を……。そりゃあんなもんが空から降ってくるならだれだって来てほしくないだろう。男ならなおさら……。

 

 だがしかし、彼の登場で戦況が一変したのもまた事実だった。

 

「公夫人!! はやくきてぇえええ!!」

 

「俺達じゃあいつ止められなぃいいいいいいいいいい!!」

 

 と悲鳴を上げながらも彼らは武器をとる。

 

 祖国を守るため。王の命令を守る為。

 

 バカで、全裸で、信じがたいほどイラつく……だがしかし、親しい偉大なる宰相の目の前で、これ以上の無様は晒せない。

 

 その時だった、ダメ押しとばかりにガリア軍の背後の丘陵から無数の軍馬の足音が響き渡ってきた。

 

「ジョゼフ様!! また一人で飛び出されて!! 私と一緒に行ってくださいって言ったじゃないですか!!」

 

「おぉ、余の可愛いシェフィールド!! よいではないか、戦とは目立つことが肝心なのだ!」

 

「あなたのそれは目立っていても、悪目立ちなんです!!」

 

 画面に映るのはこのハルケギニアでは珍しい、黒目黒髪のエキゾチックな容姿をした美女。サイトからしたらむしろ親しみやすい、日本人に限りなく近い顔立ちをした女性だった。

 

「ところで余のシェフィールド。それはいったいなんだ?」

 

「ジョゼフ様が新しい虚無を覚えられたので、私もちょっと本気出してみようかな~って。ようやくスキルニルの生産が追いつきましたから、優秀なメイジ殺したちに協力してもらって自立駆動機能を組み込んでみたんです」

 

 彼女が連れてきたのは、数万近い軍馬にまたがる甲冑を着こんだ軍勢だった。その誰もが杖を持ってはいない。だがしかし、誰もかれもが歴史の裏で活躍し一騎当千の活躍を果たした武芸の達人――メイジ殺し。

 

 その軍こそがのちにハルケギニア覇者と呼ばれたガリアを支えたとされる、自動人形――人形騎士団(マリオネッティ・フリッター)

 

 ガリアの伝説とされる偉大な二つが初めて戦場に揃う。

 

 《虚無宰相》ジョゼフ・オルレアン。

 

 《人形騎士団団長》シェフィールド・オルレアン。

 

 二人の合流を邪魔しないために、ガリア軍はあわてて道をあけジョゼフに向かっていくシェフィールドと、それに続く人形騎士団を通す。

 

 そしてジョゼフのもとへとたどり着いたシェフィールドは、勢いよくジョゼフに抱きつき。

 

「でも、先ほどの御姿……かっこよかったですわ」

 

「あぁ、余の愛しの女神(ミューズ)。君に再びそう言ってもらえるなら、余は10万の軍勢でもあれをして見せよう」

 

「それはやめてください……。あと、やるにしても服を着てください」

 

 と、周りの顔をおおいにひきつらせるトンデモ発言するジョゼフにくぎを刺した後、

 

「では、()きましょう」

 

「あぁ、君がいれば百人力だ」

 

 と、ともに同じ馬に乗り……。

 

「「我に続けッ!!」」

 

 完全に戦意を失ったロマリア軍を蹂躙すべく突撃を開始した。

 

それに機械的に続く人形騎士団。負けじと鬨の声を上げて突撃するガリア軍。

 

「「「Vive La――Joseph(虚無宰相に栄光あれ)!!」」」

 

「「「Vive La――Sheffield(シェフィールド公夫人に栄光あれ)!!」」」

 

「「「Vive La――Charles(シャルル皇帝に栄光あれ)!!」」」

 

「「「Vive La――Gallia(ガリア王国に栄光あれ)!!」」」

 

 ハルケギニアの覇者……ガリア王国が驕り高ぶった神を騙るものたちに鉄槌を下す。

 

 戦争は瞬く間に雌雄を決しようとしていた。

 




 いやね……ほんとはね、もう一つ書いている方のゼロの使い魔のジョゼフのキャラこれにしようかなって思っていたんですよ?

 いやいや、改心した後のやつね? 徐々にぶっ壊れてもらおうかなって。

 でもそれ相談した友人に「いや、さすがにそれはないわ……自重しろ」っていわれちゃって泣く泣くあきらめたんですけどね……。

 でもあまりにキャラ濃いじゃないですかコイツ? 脳内からいつまでも離れやがらなくて……。

 仕方なしに……爆笑しながらぶっ壊してやりましたよジョゼフ王。

 草葉の陰からたたらないでね?


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