運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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弓兵の憤り

 早朝の衛宮邸。

 凛とセイバーが暫らくの間衛宮邸に同居する事に関して大河は怒り、桜が暗い雰囲気を発したりしたが凛の口先で丸め込んだ。

 他には低血圧の凛の寝起き姿に士郎が持つ凛に対しての憧れが壊れたりなどのイベントが起きたりしたが、既に何時もの凛に戻って何時も朝食を食べにやって来る桜と大河が先に学校に行った後、今日の方針について凛と士郎、セイバーは話し合っていた。

 

「それじゃ今日は互いのサーヴァントを交換して動きましょう。衛宮君にはアーチャーが。私にはセイバーが付いてそれぞれ行動する。休学中の私と違って衛宮君は学校に行けるからね」

 

「なるほど・・・シロウの護りに関しては思うところが在りますが、リンの方針は理に叶っていますね。現状では学校の結界の方も気を抜くのは危険過ぎますが、他にもサーヴァントは居ます」

 

「そう・・・今のところ私達が確認しているサーヴァントは互いのサーヴァントを除いて二体だけ。『クー・フーリン』の『ランサー』。イリヤスフィールのサーヴァントのクラスが『キャスター』だと仮定した場合、残りは『アサシン』、『ライダー』、『バーサーカー』の三クラス。この内のどれかが学校に結界を張って、そして新都でガス漏れ事故を装って魔力を集めているわ」

 

「そうだよな・・・他にもサーヴァントが居る可能性が高いんだよな・・・なぁ、新都のガス漏れ事故の犯人があのイリヤスフィールって事は無いか?」

 

 サーヴァントを一体以上使役すると言う事は、それだけ魔力を消費すると言う事に他ならない。

 出来れば外れて欲しいと内心では思いながらも、士郎はガス漏れ事故の犯人がイリヤスフィールではないのかと考えていた。その質問に対して凛は難しそうに腕を組み、セイバーも難しそうに顔を歪める。

 確かに士郎の言うとおり、一体のサーヴァントを支えるだけでもかなりの魔力が消費される。それが二体以上となれば膨大な魔力が消費されるのは間違いない。新都のガス漏れ事故が魔力を得る為の行動だとすれば現状ではイリヤスフィールとそのサーヴァントが新都で起きている事件の犯人の可能性が高かった。

 

「確かに有力な候補なのは間違いないけど・・・・私は違うと思うのよ」

 

「どうしてだ?」

 

「何となく何だけどね。イリヤスフィールはルールを重んじているような気がするの。それに私がイリヤスフィールのサーヴァントと初めて接触したのは二ヶ月以上前なの・・・凄く認めたくないんだけど、サーヴァントを支えるマスターの技量としてはイリヤスフィールは破格の存在なのよ。恐らくアインツベルンの今回の策は規格外のサーヴァントを召喚して勝利するって言うサーヴァント頼りの戦略だったんでしょうね」

 

 イリヤスフィールに思うところが在る凛だが、その実力は認めるしか無かった。

 魔術師としての技量では負ける気は無いが、サーヴァントを支えるマスターの技量では明らかにイリヤスフィールが上回っていた。だからこそ、凛はイリヤスフィールが『魂食い』を行なってサーヴァントを支えているとは思えない。

 何よりもイリヤスフィールがサーヴァントを召喚したのは二ヶ月以上も前。『聖杯戦争』が本格的に開始される前にサーヴァントを召喚して支えるなど凛には出来ないどころか不可能。その不可能を成功させたイリヤスフィールが『魂食い』をサーヴァントに行なわせているとは思えなかった。

 

「二ヶ月以上も前からサーヴァントを召喚させて現界させていたマスターよ。今更『魂食い』を行なわせているとは思えないのよね」

 

「そうか・・・確かにガス漏れ事故が起きるようになったのは此処最近の事だったな。その前からサーヴァントが居たんじゃ、ガス漏れ事故のような事件がもっと起きているはず」

 

「そう言うことよ。因みにイリヤスフィールと最初に会ってから冬木市だけじゃなくて、付近の街や市でそう言う事件が起きてないか調べたけれど、『魂食い』と思われる事件は起きてなかったわ。更に言えばこの前の去り際にイリヤスフィールが言っていたでしょう?『私にとって『聖杯戦争』は本当はどうでも良いの。誰が『聖杯』を得ても構わないわ』って・・・本当かどうかは分からないけれど、イリヤスフィールは『聖杯戦争』に対する興味が低いのよ。今のところ興味が在るのは・・・」

 

「私と言う事ですか?」

 

「えぇ・・・・間違いなくイリヤスフィールがこの『聖杯戦争』に参戦した意味の中には『復讐』が大きいと思うわ。それにイリヤスフィールは『聖杯戦争』に興味が無くてもサーヴァントは別よ。サーヴァントが召喚に応じるのは叶えたい願いがあるから」

 

「つまり、イリヤスフィールは望んでいないけれど、あの女性のサーヴァントは別って事か?」

 

「そう言う事よ。『聖杯戦争』自体に興味が薄いイリヤスフィールと違って、あの女性が勝つつもりで動いているとすれば魔力を得る事は望む筈よ。まぁ、今のは彼女達がガス漏れ事故の犯人だと仮定した場合の推測だけどね」

 

「・・・・やっぱり、あの子をどうにかする為にはサーヴァントを倒すしか方法が無いって事なんだよな?」

 

「・・・・・いえ、そうとは言えないかもしれません。イリヤスフィールは私だけには『聖杯』を与えないと宣言しています。自分のサーヴァントが倒され、尚且つ私が『聖杯』に届くと感知すれば」

 

「『聖杯戦争』を存続させない為に『聖杯の器』を破壊するかもしれないって事よね・・・ハァ~、イリヤスフィールってどれだけアドバンテージを持っているのよ?サーヴァントは二体以上居るかもしれなくて、『聖杯戦争』を継続させる為の『聖杯の器』を所持しているから『マスター殺し』も出来ない」

 

 イリヤスフィールが持ち過ぎているアドバンテージの数々に凛は頭を抱えたい気持ちで一杯だった。

 興味が薄い分、他のマスターがどれだけ望んでも『聖杯戦争』を終わらせるのに躊躇いが無い。実際のところはイリヤスフィールは『聖杯戦争』を自らのサーヴァントの為に終わらせる気は無いのだが、それを知らない士郎、凛、セイバーが先ずイリヤスフィールに対して行なわなければならないのは『説得』と言うのが現状だった。

 

「まぁ、イリヤスフィールと話をする機会は在ると思うわよ。毎日昼間は冬木市を歩いて周っているでしょうしね」

 

「その可能性は高いでしょう。彼女の母親『アイリスフィール』は『聖杯戦争』に参加するまでずっとアインツベルンの本拠地で過ごしていました。前回の『聖杯戦争』の時は街を歩くだけで子供のように喜んでいました。同じようにイリヤスフィールもあの日常を過ごしていたとすれば、外の世界を歩くのが彼女の楽しみとなっているはずです」

 

「・・・そんな閉鎖的な家にあの子は居たのか・・」

 

 セイバーが告げたイリヤスフィールの家系の現状に、士郎は悲しげに声を出した。

 養父である切嗣の実子で在りながらも十年前から離れて過ごしていたイリヤスフィール。『聖杯戦争』で争う事になる相手であり、自身の命を狙っているかもしれない相手。出来れば戦いたくないと言うのが士郎の本音だが、イリヤスフィールはセイバーを消滅させる気なのは間違いない。

 結局争うことになるのは間違いないのだと理解した士郎は暗く顔を俯かせるが、凛は構わずに背後で霊体化しているアーチャーに呼びかける。

 

「アーチャー。と言う事だから夕方まで衛宮君の護衛をお願いね?」

 

「マスターの方針ならば従おう」

 

 凛の呼びかけに実体化したアーチャーは、士郎に視線を向けながら了承の声を出した。

 その何処と無く嫌な気持ちを抱いてしまう視線を向けられた士郎は、アーチャーに対して自身も視線を返すのだった。

 

 

 

 

 

 昼時の時間帯。

 朝の方針で冬木を歩いていた凛とセイバーは、新都の繁華街を歩いて敵のマスターの拠点になる場所は無いか探索していた。

 

「アーチャーからの連絡だと、昨日破壊した幾つかの基点が復活していたそうよ・・・序でに学校を休んでいる学生が三学年合わせて十名以上居るらしいわ」

 

「やはり、学校に潜んでいるサーヴァントは『魂食い』を行なっていると言う事ですか?」

 

「間違いなくね・・・その十名の中に綾子が居たらしいわ」

 

「アヤコと言うのは、もしや昨日会ったリンとシロウの友人ですか?」

 

「・・・えぇ」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら凛はセイバーの質問に返事を返した。

 冬木のセカンドオーナーである自身の管理地で好き勝手やっているマスターに対して凛は怒りを覚えるが、再び友人が『聖杯戦争』に巻き込まれた事に、凛は十年前に犠牲になった友人の事も思い出してしまい、我知らずに手を強く握り締める。

 自身の管理地で好き勝手やっているマスターには必ず報いを与えてやると内心で誓いながら視線を彷徨わせて、目にしたモノに呆然と立ち止まってしまう。

 

「リン?・・・一体どうしたのですか?」

 

 いきなり立ち止まった凛の姿に疑問を覚えながらセイバーが質問すると、ゆっくりと凛は右手で自身が見ていたモノを指差す。

 その指の先にセイバーが視線を向けてみると、ファミレスの中で大量に注文した食事やデザートを明らかに自棄食いと思われる勢いで食べているイリヤスフィールとルインの姿が在った。

 

「ハフッ!早く帰って来てって言ったのに!女を連れて帰って来るなんて!!しかも全然悪びれないし!!」

 

「生前も思いましたがあの人は本当にデリカシーと言うか!女心が分かっていないんですよ!!しかも!『お姫様抱っこ』した理由が、『体がでかいから、人間の状態では片手で運ぶのは不便だ』ですよ!!!本気であの人は女心が分かってないんです!!うぅ・・・『お姫様抱っこ』なんてずっと一緒に居た私でも数えるぐらいしかして貰った事が無いのに」

 

 イリヤスフィールとルインはそれぞれ自棄食いしながら、今日はさっさとライダーとそのマスターの監視に向かったブラックに対して不満を漏らした。

 その様子を外から見ていた凛とセイバーは、自分達がファミレスで自棄食いを行なうような主従の為に同盟を結んだ事に頭が痛くなるような気持ちを抱いた。ただセイバーは一瞬だけまだ大量に残っている食事の数々に目が移動したのだが。

 

「・・何しているのかしら?あの二人は?」

 

「・・・自棄食いではないでしょうか?」

 

「ハァ~・・・どうする、セイバー?話して行く?」

 

「・・・えぇ・・出来れば対話は持ちたいところです」

 

「なら、行きましょう」

 

 自身も詳しく知りたい事があったのでセイバーからの了承を貰った凛はファミレス内部にセイバーと共に入り込み、イリヤスフィールとルインが座っている席の前に立つ。

 

「・・相席良いかしら?」

 

「・・・・・別に構わないよ、どうせ聞かれる事は分かってるけどね」

 

 凛の質問に驚くことなくイリヤスフィールは凛とセイバーの二人にそれぞれ険しい視線を向けて返事を返した。

 ソレと共に向かい合うように座っていたルインが立ち上がり、イリヤスフィールの隣に座り、開いた場所にセイバーと凛は座って互いに向き合う。同時にルインが遮音と認識阻害の魔法を一瞬の内に発動させて他人の目を向けなくさせる。

 一瞬で対話が行なえる準備を行なったルインの技量に凛とセイバーは顔を険しくするが、イリヤスフィールとルインは構わずに真剣な眼差しを二人に向ける。

 

「それで、聞きたい事は何かしら?」

 

「率直に聞かせて貰うけど、セイバーから『聖杯の器』の件は聞いたわ。貴女がそれを所持している可能性が高いこともね?」

 

「フゥ~ン・・・セイバーに聞いて知ったんだ・・・・(遠坂家は本当に失伝しているんだね。『聖杯戦争』の真実を)」

 

 予想はしていたが今のやり取りでイリヤスフィールは、御三家の一角である『遠坂』が『聖杯戦争』の真実に関する情報を失っていることを確信した。

 冬木で行なわれる『聖杯戦争』は『アインツベルン』、『遠坂』、『間桐』の御三家が敷いた魔術儀式。当然御三家の一角である『遠坂』は『聖杯戦争』の真実を知っている筈。にも関わらず遠坂凛は『聖杯の器』に関する情報をセイバーから聞いて知った。

 それは『聖杯戦争』の真実を『遠坂』が失伝してしまった事に他ならなかった。それを理解したイリヤスフィールは内心で笑みを浮かべながら声を出す。

 

「そうよ。セイバーがそっちに居るから分かったみたいだけどね」

 

「イリヤスフィール・・・・・アイリスフィールの事に関しては言い訳は出来ません。彼女を私は護る事が出来なかった・・・それは覆すことが出来ない事実ですから」

 

「・・・・・えぇ、セイバー・・・貴女はお母様を護れなかった。だから、私は貴女を赦さない。戦争だったのは知っているし、お母様がどう言う考えで参加したのかも理解している。だけど、私の感情が貴女を赦せない・・・そして切嗣も赦せない。切嗣はアインツベルンだけじゃなくてお母様も裏切ったから」

 

「・・・・・イリヤスフィール?・・・貴女は衛宮切嗣が何故『聖杯』を破壊したのか、その理由を知っているのかしら?」

 

「・・・・・・知らないよ。知っていたって教えないけどね。どっちにしたって切嗣がお母様を裏切ったのは事実だもの。けど、お兄ちゃんは複雑かな?冬木に来てから監視していて見ていたけど、本当に何にも知らないんだもの。魔術だって殆ど使えないしね。アレじゃ、お兄ちゃんにも怒っていた私が悪いみたいに思えるよ」

 

「確かに・・・士郎のヘッポコさと魔術師としての技量じゃ、何か怒っている方が馬鹿みたいに思えるわよね」

 

 昨夜士郎に行なった魔術練習を思い出した凛は、イリヤスフィールの言葉に同意出来た。

 『強化』魔術を使えると言う話で行なった魔術練習だったが、予想外のどころか士郎は魔術を使う時に一から『魔術回路』を造ると言う一般の魔術師からすれば信じられないことを行なっていた。本来一度『魔術回路』を造れば、後はスイッチのオンオフを行なえば魔術は使えるようになる。

 だが、士郎はその『魔術回路』のスイッチの事さえも知らなかったという有様だった。何気に監視された事でイリヤスフィールが士郎に抱いていた憎しみに近い感情は薄れたのだ。

 イリヤスフィールのその感情を感じたのか、セイバーは自身の主の考えをイリヤスフィールに告げる。

 

「シロウは出来る事なら貴女と戦いたくないと言っていました」

 

「ヘェ~・・・・言っておくけど私は『聖杯戦争』から降りる気は無いからね。『聖杯』を誰が得ても構わないけれど、セイバーには渡さない。だから、セイバーのマスターであるお兄ちゃんに勝たす気も無いの」

 

「説得は無理って事かしら?」

 

「無理よ。それに負ける気も全然ないしね。それに降りるって事はルインお姉ちゃんが消えちゃうって事だもの。絶対にそんなのは嫌なの」

 

「『聖杯戦争』が終わったら結局サーヴァントは消滅するのに?」

 

「それ間違いだよ。あくまで『聖杯』が行なうのは召喚までの作業だけで、『聖杯戦争』後もサーヴァントを現界させているだけの魔力さえ在ればサーヴァントは保持出来るの。私にはそれだけの魔力が在るから現界に関する問題は無いからね」

 

「そう・・・・・なら、新都で起きているガス漏れ事故の犯人は貴女達なのかしら?」

 

「・・・・次に同じ事を言ったら赦しませんよ。私もイリヤちゃんもそんな事をする気は無いですね」

 

 凛の言葉に静かに黙っていたルインが殺気混じりに声を出した。

 その様子に凛とセイバーは新都で起きているガス漏れ事故の犯人はイリヤスフィールとルインの可能性が減ったと感じていると、イリヤスフィールが声を出す。

 

「そっちの方の犯人は私とルインお姉ちゃんじゃないよ。犯人は分かっているけどね。でもね、凛。そっちよりも貴方やお兄ちゃんが通っている学校に潜んでいるマスターとサーヴァントの方が危険だよ。昨日も襲っていたみたいだからね・・・確かアヤコだったかな?」

 

「綾子ですって!?アンタ達!綾子をどうしたのよ!?」

 

「戦いの場を目撃されたから記憶を消す為にこっちの陣地に連れて行ったの。今頃は警察署で保護されている筈だよ。それと良い情報を教えて上げるね。昨日アヤコを襲った『ライダー』のサーヴァントはマスターの意趣返しでアヤコを襲っていたみたいなの」

 

「意趣返しですって?・・・綾子に個人的な恨みが在ったってことなの?」

 

「そうらしいよ。信じるか信じないかは別にどっちでも良いけれどね。それじゃ帰ろうか、ルインお姉ちゃん」

 

「はい、イリヤちゃん」

 

 イリヤスフィールの言葉にルインは立ち上がり、そのまま会計を済ませて去ろうとするが、その前にイリヤスフィールがセイバーと凛、そしてテーブルに載っている手を付けなかったデザートと食事を示す。

 

「今日はそっちの考えが聞けたから奢ってあげるね。でも、お兄ちゃんには伝えておいて。『聖杯戦争への参加を決意したんだから私達は敵同士。私達の邪魔をするなら容赦しない』ってね」

 

 そうイリヤスフィールは僅かに殺気が混じった声で告げると、最後に冷たい視線をセイバーと凛に放ってルインと手を繋ぎながらファミレスを出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

 一方、休学中の凛と違って学校に来るのが問題ない士郎は、昼休みの時間帯を利用してセイバーの代わりに共について来たアーチャーの報告を屋上で聞いていた。

 

「昨日破壊した基点の幾つかが修復されていた。最も昨日の内に破壊した数が数なので全ての修復は無理だったようだがな」

 

「そうか・・・これで結界が発動しても本来の効果は発揮出来ないって事だよな?」

 

「喜ぶのは早いぞ。結界の効果が弱まったのは事実だが、代わりに今日は何名かの学生の行方が分からなくなっているそうだ」

 

「何だって!?」

 

「この学校に潜んでいるマスターは『魂食い』を平然とサーヴァントに行なわせるマスターだと言う事がハッキリした。結界の力によって魔力を得られる量が減る事に気が付いて、人を襲う事を容認したようだな」

 

「くっ!結界の基点を破壊した事が仇になったという事なのか!?」

 

「仕方が在るまい。何かを行なえば、それが何らかの影響を及ぼす。今回はそれが悪い方向に進んだと言う事だ」

 

「そんなに簡単に済ませられるかよ・・・くそっ!何とかして学校に潜んでいるマスターに止めさせないと」

 

「・・・・・どうやってだ?」

 

「何がだ?」

 

「どうやって学校に潜んでいるマスターを止めるのかと聞いているんだ?」

 

 何時に無く真剣な眼差しでアーチャーは士郎に質問した。

 士郎はその問いに対して自分なりに考えている学校に潜んでいるマスターに対しての行動をアーチャーに告げる。

 

「先ずはサーヴァントを倒す。その後にマスターは『聖杯戦争』が終わるまで言峰教会で保護して貰うつもりだ」

 

「マスターではなくサーヴァントをか・・・理想論だな。第一に貴様はこれだけの所業を行なったマスターを見逃す気か?」

 

「償いは絶対にして貰うさ。これだけの事を行なったんだ」

 

「・・・甘いな。これだけの所業を平然と行ない、更にはサーヴァントに人を襲わせるようなマスターが自らの行ないを反省すると思うか?私は不可能だと思っている」

 

「やってみなければ分からないだろうが。やる前から諦めている方が可笑しいんだ」

 

「・・・・・余りの馬鹿さ加減に頭が痛くなる・・・貴様に言っておく。一人も殺さないという考えでは犠牲は増えるばかりだ。サーヴァントは人間がどうこう出来る存在ではない。貴様のような半人前の魔術師が勝てる存在では無いのだ」

 

「・・・・・」

 

「認めろ。力無き者の言葉など誰も聞かない。時には誰かを殺す事も必要なのだ」

 

「・・・・・だけど、俺は・・・・・」

 

(やはり、衛宮士郎は在ってはならないか・・・今の内に)

 

 苦渋に満ちた顔で悩む士郎の様子に、アーチャーは険しい視線を向けながら士郎に見えないように左手を開く。

 しかし、アーチャーが行動を起こす前に授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響き、士郎はアーチャーに目を向ける。

 

「時間みたいだから、俺は戻る」

 

 そう士郎はアーチャーに告げると、屋上の入り口から学校内部へと戻って行った。

 その場に残されたアーチャーは閉じた屋上の扉を言葉では表現出来ないような視線で睨みつけていたが、視線を逸らすと共に霊体化して屋上から去って行った。

 そしてアーチャーも屋上から完全に去ると共に屋上の一角が歪み、その場所に霊体化し気配を完全に遮断して二人の会話を聞いていたブラックが実体化する。

 

「・・・・・あの小僧・・・・やはり何処か壊れている・・・己に対する配慮が薄い・・・それにアーチャー・・・・・どう言う事だ?奴が向けていた殺気・・・・アレも何処か不自然だった。まるで己に怒りを覚えているような・・・・まさか・・・・イリヤスフィールに聞く事が出来たな」

 

 ブラックはそう呟くと共にその身を霊体化させてその場から去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 夕暮れに包まれる放課後。

 士郎は学校の中で今日も基点を破壊する為に凛とセイバーが来るのを待っていた。昼休みの屋上での件からアーチャーは実体化する様子も見せない。とは言っても感知能力も低い士郎では本当にアーチャーが傍で護衛しているのかも疑問だったが、凛の指示には従っているアーチャーの様子からマスターの指示には従っているのだろうと考える。

 そして教室の窓から校庭の様子を眺めていると、突然に強烈な違和感を感じて胸元を押さえる。

 

ーーードックン!!

 

「がっ!い、一体何だ?・・急に違和感が強くなった」

 

「どうやら、学校に潜んでいるサーヴァントが基点を復活させたようだな」

 

 何時の間にか士郎の背後に実体化したアーチャーは険しい声を出しながら、辺りを見回す。

 自分を一切気遣う様子を見せないアーチャーに思うところは在るが、今はそれよりもアーチャーが告げた言葉に対して士郎は質問する。

 

「って事は今学校の何処かに結界を張っているサーヴァントが居るって事か?」

 

「そう言う事だ。生憎と私は感知能力が低いので何処に居るのかは分からんがな・・・だが、貴様の『解析』ならば他の基点と連動している中心点を見つけられるはずだ。基点を復活させると言う事は中心点と連動させると言う事だからな。今ならば隠されている中心点を見つけられるはずだ」

 

「な、なるほど・・・分かった。やってみる」

 

 アーチャーの説明に士郎は納得したように頷いて、意識を研ぎ澄ませながら窓の外を見回す。

 『魔術回路』のスイッチが出来たことも在って、昨日よりも何処と無く『解析』し易くなっていた。何としても中心点を見つけてみせると思いながら士郎は外を見回す。

 弓使い(アーチャー)のサーヴァントで在る筈の男が魔術で造られた結界に関して詳しい事にも気が付かずに。

 そして校庭を見回していると、フッと昨日は気がつけなかったが弓道場に破壊した基点よりも遥かに強烈な違和感が出ている事に気が付く。

 

「弓道場だ!凄い違和感が出ている」

 

「・・・なるほど・・・そう言えば今日休んでいる者は弓道部の者が多いと職員室に居た教師達が言っていたな。中心点が弓道場に在るのならば、それだけ近くに居る者への影響を大きいだろう」

 

「冷静に判断している場合か!とにかく、本当に中心点が在るのか見に行くぞ!」

 

「仕方が無いか。凛から貴様の護衛を行なうように言われているからな」

 

 不満そうにしながらもアーチャーは士郎の考えを了承して体を霊体化させて走り出した士郎の後を付いて行く。

 弓道場に辿り着いた士郎は警戒しながら中へと入って行く。今日は弓道部に所属している生徒の休みが多い為なのか、部活は休みになっていて人の気配は感じられない。慎重に中に進んで行くと、奥の方の壁一面に描かれた明らかに他の基点よりも禍々しい巨大な刻印が輝いていた。

 

「こ、コイツが!?」

 

「あぁ、結界の中心だろう。発せられている禍々しい気配が他の基点とは比べものにならんからな」

 

 士郎の叫びを肯定するように実体化したアーチャーが顔を険しく歪めながら禍々しく刻印を見つめ、その両手に黒と白の短剣をそれぞれ具現化させて背後を振り向く。

 

「出て来たら如何なのだ?隠れているのは分かっているぞ」

 

「・・・アーチャーのサーヴァントなのに剣を持つとは・・・・変わっていますね」

 

 アーチャーの声に応じるように床にまで届くほどの長い紫の長髪に、抜群のスタイルを露出過多の刺激的な衣装で覆い、不気味な雰囲気を発している眼帯で両目を覆ったライダーのサーヴァントが音も無く姿を現した。

 学校に結界を張ったサーヴァントの出現に士郎は思わず怒りの声を上げそうになるが、その前にアーチャーが黒い短剣を士郎の前に突き出して動きを止める。

 

「戯け!相手が何のサーヴァントなのかも分かっていないのに不用意に動こうとするな」

 

「あぁ・・分かった」

 

 アーチャーの言葉に素直に士郎は従って改めてライダーを見つめると、ライダーの横に穂群原学園の学生服を着ている青いクセ毛の少年が歩いて来る。

 

「よぉ、衛宮。それがお前のサーヴァントかい?」

 

「お、お前は慎二!?何で此処に居るんだ!?」

 

 友人である『間桐慎二』がライダーの横に立ち並ぶ姿に士郎は驚き、ライダーと慎二を見比べた。

 その質問に対して慎二ではなく隣に立つアーチャーがハッキリと分かるように大きく溜め息を吐いて、ライダーと慎二に油断無く視線を向けながら声を掛ける。

 

「何でも何も在るまい。其処の小僧がそのサーヴァントのマスターだと言う事だ」

 

「そう言うことさぁ、衛宮」

 

「何だって?・・・だったらお前も魔術師なのか?」

 

「あぁ。間桐の家も魔術師の家系なのさ」

 

「なっ!?だったらまさか、桜も!?」

 

 新たに知った魔術師の家系の『間桐』の情報に士郎は、慎二の妹である桜の事を思い出して叫んだ。

 魔術師の家ならば、その家の人間である桜も魔術師なのではないのかと士郎は考えて狼狽する。桜の名前が出た事に慎二は僅かに苛立ちながら士郎に向かって宣言する。

 

「フン!!アイツは関係ないさ!間桐の後継者はこの僕、間桐慎二だ!!そしてコイツが僕のサーヴァント、ライダーさ」

 

「ならば聞かせて貰うが、この学園に張っている結界は貴様がライダーのサーヴァントに命じて張らせたのか?」

 

「まぁね。とは言っても使う気なんて無いさ。言うなれば他のマスターに対する保険だよ」

 

「信用出来んな。現にこの学校の生徒が休んでいる。それを行なっている者で一番怪しいのは、この学校にこのような結界を張った貴様とそのサーヴァントだ」

 

「ハァ~・・衛宮・・お前のサーヴァントは疑り深いな」

 

「い、いや、コイツは…」

 

「この小僧と違って私は貴様の事を良く知らんのでな。怪しい点が多い者を警戒するのは当然の事だ」

 

 士郎が慎二の間違いを訂正しようとする前にアーチャーが割り込んで士郎の言葉を止めた。

 自らが士郎のサーヴァントと思われる事には凄く不快感をアーチャーは感じているが、慎二の勘違いを訂正しない方が後々に自分達に有利に働く。だからこそ、このまま慎二には勘違いをしていて貰う気だった。

 このままでは話が進まないと感じたのか慎二は取り敢えず、アーチャーを無視してその背後に居る士郎に話しかける。

 

「衛宮のサーヴァントは警戒心が強過ぎるな。まぁ、良いさ。率直に言うけど衛宮。僕と組まないかい?」

 

「同盟を結ぶって事か?」

 

「そう言う事さ。誓って言うけど僕はこの学園に張った結界以外は何もしていないよ。まぁ、状況から考えたら信用出来ないだろうけど、代わりに僕が知っている他のサーヴァントに関する情報を教えてあげるよ」

 

「ほう、それは興味深い」

 

「君も興味が出たかい。なら、先に言っておくけれど、今回の聖杯戦争では『イレギュラー』クラスのサーヴァントが呼ばれているみたいなんだよ?」

 

「『イレギュラー』クラス?」

 

「そう。『聖杯戦争』に召喚されるサーヴァントのクラスは『セイバー』、『アーチャー』、『ランサー』、『ライダー』、『アサシン』、『キャスター』、『バーサーカー』の七つのクラスだ。だけど、時たまこの七つのクラスに大別されない『クラス』で召喚されるサーヴァントが居る。僕のライダーは七騎全部のサーヴァントの姿を確認したんだけれど、その内狂戦士のクラスである『バーサーカー』を確認出来なくて、代わりに『キャスター』のクラスと思われるサーヴァントが二体居たらしい」

 

「二体の『キャスター』だと・・・(と言う事はイリヤが召喚したルインと言う女以外に、他にライダーが目撃したという『キャスター』のクラスと思われるサーヴァントが居るという事か)」

 

 慎二からの情報にアーチャーは目を細め、油断無くライダーと慎二に視線を向ける。

 その背後に居る士郎も慎二から与えられた情報について考えていると、慎二が更に説明する。

 

「今言った事以外にも僕は他のサーヴァントに関する情報を持っている。手を結んだ方が良いと思うけど?」

 

「・・・・・悪いがすぐに答えられない。俺は遠坂と同盟を結んでいるからな」

 

「遠坂だって?・・・チッ!そう言うことか・・・・分かったよ。すぐに答えは聞かない。明日答えを聞かせて貰うよ。行くよ、ライダー」

 

 士郎が告げた苗字に一瞬だけ慎二の目が細くなったがすぐに笑みを口元に浮かべて、ライダーと共に弓道場から出て行った。

 遺されたアーチャーは慎二の言葉に素直に従っているライダーの姿に目を細めながら、背後に居る士郎に声を掛ける。

 

「小僧・・・先ほどの慎二とか言う小僧の言葉を信じるな」

 

「何でだよ?」

 

「・・・あの小僧からは魔術師特有の気配が感じられなかった。『魂食い』はサーヴァントの魔力を供給する行為だ。あの小僧が魔術師でもなくライダーを従えていると言うなら、当然魔力を供給する事など出来ん。人を襲わせて『魂食い』を行なわせる理由には充分な理由だ」

 

「・・・・まさか、慎二が!?」

 

「衛宮士郎。もしもあの小僧がこの結界を発動させた時はどうする?」

 

「・・・止めるさ。慎二を殴ってでも止めるか、ライダーを倒してでも止めてみせる」

 

「・・・・・愚か者が」

 

 士郎の言葉にアーチャーは心の底から苦虫を噛み潰したような顔をして、両手に握る双剣の柄を強く握り締める。

 何かを我慢するようにアーチャーは士郎に視線を向けるが、両手に握る双剣を消失させると霊体化して士郎の前から姿を消した。その様子に士郎は疑問を覚えるが、すぐに弓道場の外から二つの足音が聞こえて来て凛とセイバーが弓道場の中に入って来る。

 

「あっ!居た!もう校門のところで合流する約束だったでしょう?」

 

「何か在ったのですか?シロウ」

 

「あぁ、実は」

 

 士郎は先ほどの慎二とのやり取りを凛とセイバーに説明した。

 ライダーのサーヴァントのマスターが慎二で在る事。今回の『聖杯戦争』にはイレギュラークラスのサーヴァントが呼び出されている可能性が在る事。慎二から得られた情報の全てを説明した。

 

「なるほどね・・・確かにイレギュラークラスが呼び出されている可能性は考えていたわ・・・・でも、衛宮君。慎二がこの学校の生徒をライダーに襲わせていないと言う言葉は怪しいわよ」

 

「なんでさ?」

 

「昼間、偶然にイリヤスフィールとそのサーヴァントと出会ったのです」

 

「何だって!?もしかして戦闘になったんじゃ!?」

 

「だったら此処には居ないわよ。何でか知らないけれどファミレスで自棄食いを主従揃ってやっていたの。一応『聖杯戦争』のルールで昼間の戦闘は禁じられているから戦いにはならなかったけれど」

 

「その時に聞いたのですがイリヤスフィールのサーヴァントが、昨日の晩にライダーのサーヴァントが『アヤコ』を襲っているのを見て助けたらしいのです」

 

「アヤコって?・・・・美綴の事か!?」

 

「えぇ・・・一応綾子を送ったって言う警察署に様子を見に行ったけど、昨夜の記憶が無い事以外は体調に異常は見られなかったわ。問題はライダーのサーヴァントが綾子を襲った理由が『意趣返し』だったらしい事なの。そしてアーチャーから念話で聞いたけれど、今日は弓道部員に休み多いらしいわね?」

 

「あぁ・・・その筈だ・・・だけど、それが一体?」

 

「まだ分からないの?昨日の放課後に会った時に綾子が言っていたでしょう?『慎二と大喧嘩した』って?つまり、慎二にはライダーを綾子に向かわせるには充分な理由があるの。そして弓道部員達にもね」

 

「・・・まさか・・・慎二の奴が」

 

 自身の友である慎二が行なったかもしれない所業の数々に、士郎は顔を暗くして悩むように下に俯く。

 その間に凛は発見した結界の中心点を調べようとするが、描かれている刻印に触れる前に手を止めて顔を険しくする。

 

「リン・・・どうですか?」

 

「・・駄目ね。コレは基点と違って破壊は無理だわ。間違いなく宝具級の結界。迂闊に干渉しようとしたら強制的に発動するかもしれないわね」

 

「と言う事はライダーのサーヴァントが解く以外に方法は無いのですね?」

 

「えぇ・・・・衛宮君?慎二とは会う約束は在るの?」

 

「あぁ・・・同盟を提案されて、明日答えを言う事になっているんだ」

 

「戦うならその時ね・・・悪いけど慎二が『魂食い』をサーヴァントにやらせている可能性が高い現状。こっちもそれ相応の対応をするわ」

 

「ま、待ってくれ・・・慎二が『魂食い』を行なっている可能性が高いのは分かった。だけど、戦う前にもう一度だけ話させて欲しい。同盟関係を結ぶ条件に学校の結界をライダーに解かせるって言ってみる。それで解かない時は・・・戦う」

 

「・・・お人よしね。分かったわ。確かにそれでこの結界が解除されるのなら助かるわ」

 

「シロウの指示に従います」

 

「ありがとう、二人とも」

 

 凛とセイバーが納得してくれた事に士郎は心の底から安堵の息を漏らして礼を告げた。

 霊体化して様子を伺っていたアーチャーが射殺さんばかりに士郎を睨みつけていることに気がつかずに。


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