運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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過去の出来事

 一夜明けた翌日の早朝の衛宮邸。

 その居間には昨夜聞きたい事情が出来て泊まった凛に、家の主である士郎。そして凛が用意した白のシャツに青いスカート、黒のタイツと言う現代服を纏っているセイバーの姿が在った。

 険しい視線を凛はセイバーに向けながら、真剣な顔をしながら気になっていた事を質問し出す。

 

「・・・回りくどいのは嫌だから率直に聞くけれど・・・・セイバー?昨日衛宮君に召喚された筈の貴女が何で“イリヤスフィールの事を知っているのかしら”?」

 

「・・・・それに答える前にシロウに聞きたいことが在ります」

 

「俺に?一体何だ?」

 

「・・・・シロウ・・・貴方は『衛宮切嗣』と言う名の男を知っていますか?」

 

「ッ!!・・・・俺の養父だ・・・十年前の災害の後に俺は衛宮切嗣に・・・爺さんの養子になったんだ」

 

 自身の養父の名がセイバーの口から出た事に驚きながらも、士郎はセイバーの質問に答えた。

 それを聞いたセイバーは真剣な眼差しを士郎に向けながら、更に士郎に質問する。

 

「では・・・切嗣は生きているのですか?」

 

「・・・いや・・・爺さんは数年前に無くなった」

 

「・・・そうですか」

 

 僅かに顔を暗くしながら答えた士郎の言葉に、嘘は無いと判断したセイバーは静かに目を閉じる。

 やがて考えが纏まったのか、セイバーはゆっくりと目を開けて凛と士郎の顔を見つめながら自身の秘密の一端を話す。

 

「混乱させない為に黙っているつもりでしたが・・・私が現代に召喚されたのはこれが二度目なのです」

 

「何ですって?ちょっと待ってセイバー?・・・貴女は『記録』じゃなくて『記憶』を持っているの?」

 

「どう言う事だよ、遠坂?『記録』じゃなくて『記憶』って?」

 

「英霊って言うのは本来時間軸が外れた場所に居るの。其処から私達は『聖杯』の力を借りて英霊を召喚するわ。だけど、召喚される英霊は正確に言えば英霊の分霊なの。私のアーチャーだって英霊の座に居る本体じゃなくて分霊なのよ。そして消滅した英霊は本体が居る『座』と呼ばれる場所に戻るんだけど、その分霊が所持していた『記憶』は本体に『記録』されるの。だから、別の聖杯戦争で同じ英霊が召喚されたとしても、『記憶』を持っている筈が無いのに、セイバーは『記憶』を持っている」

 

「真名に関わる事なので詳しくは言えませんが、私は在る事情で『記憶』を保持して召喚されるサーヴァントなのです。そして私は十年前に行なわれた第四次聖杯戦争でアインツベルン陣営のサーヴァントとして召喚されたのです」

 

「十年前の聖杯戦争にセイバーは参加していたのか!?」

 

 告げられた事実に士郎は驚愕しながらセイバーを見つめた。

 十年前の聖杯戦争で起きた出来事によって、士郎は一度全てを失った。それに直接関係していたと言う自らのサーヴァントであるセイバーを思わず士郎は凝視してしまう。

 逆に凛は何故イリヤスフィールがセイバーの事を知っていたのかを知り、納得したように頷く。

 

「なるほどね。何故イリヤスフィールがセイバーの事を知っていたのかようやく納得がいったわ。だけど・・どうして其処で衛宮君のお父さんが出て来るのかしら?」

 

「・・・・イリヤスフィールの実の父親が衛宮切嗣だからです」

 

「なっ!?あの子が爺さんの実の娘!?ちょっと待ってくれ!俺は爺さんに娘が居るなんて聞いたことも無いぞ!?爺さんは天涯孤独だって聞いていたんだ!?」

 

「それに関しては分かりませんが、私は確かにアインツベルンの本拠地で切嗣と幼いイリヤスフィールが戯れているのを目撃しました」

 

「セイバーが嘘をつく理由は無いわね・・・・だけど、セイバーが十年前に召喚されていたとしたらどうしてイリヤスフィールはセイバーを怨んでいるの?昨日の帰り際の発言からだと、相応の事情が在ると思うんだけど?」

 

「・・・・・私が彼女の母親を・・・イリヤスフィールの実の母親である『アイリスフィール』を護れなかったからだと思います」

 

 そうセイバーは悔恨と悔しさが混じった声を出しながら顔を下に俯けた。

 その様子に一体何が在ったのかと士郎と凛がジッと待っていると、ゆっくりとセイバーは十年前の聖杯戦争に関する事を話し出す。

 

「十年前の聖杯戦争で切嗣に召喚された私は、彼の妻であったアイリスフィールと共に聖杯戦争に参加しました」

 

「?・・・爺さんと一緒に戦ったんじゃ無いのか?爺さんがセイバーを召喚したんだろう?」

 

「シロウ・・・言い難いのですが、切嗣は貴方には良き父親だったかもしれませんが、私からすればあの男は絶対に赦す事が出来ない裏切り者なのです!!」

 

『ッ!!』

 

 出会ってから冷静沈着だったセイバーが心の底から怒りを顕にしている事に士郎と凛は面食らったようにセイバーを見つめた。

 テーブルに載せたセイバーの手は強い怒りに満ちているようで震えている。それだけセイバーが切嗣に対して負の感情を持っていることに士郎が驚いていると、セイバーは心を落ち着けて話を再開する。

 

「話を止めて申し訳ありません。順を追って説明します。私は切嗣に召喚されました。ですが、私の姿を見ると共に彼は私を無視するようになりました」

 

「ハッ?・・・自分のサーヴァントを無視って?」

 

「リン。彼はあくまでサーヴァントを聖杯戦争を勝つ為の道具だと考えていたのです。そして私は彼とは殆ど交流を持ちませんでした。そんな彼の代わりに共に戦ってくれる事を名乗り出てくれたのが、イリヤスフィールの母親。アイリスフィールでした。私も騎士として絶対に彼女を護ると誓っていたのですが・・・『聖杯戦争』の途中でまんまと彼女を敵の陣営に奪われてしまったのです」

 

「・・・人質って事かしら?」

 

「いえ、違います・・・アイリスフィールが敵の陣営に狙われた理由はもっと重大な理由です」

 

「そいつは一体?」

 

「・・・彼女が降臨する『聖杯の器』を所持していたからです」

 

「せ、『聖杯の器』ですって!?」

 

「ど、どう言う事だよ!?遠坂!?お前確か教会で、『聖杯は霊体』って言っていたよな!?何で『聖杯の器』なんて物が在るんだよ!?」

 

「わ、私にだって分からないわよ!?家に在った資料だと『聖杯は霊体』って記されていたんだから!?」

 

 自身の知っている情報とセイバーが告げた『聖杯』に関する情報の違いに凛も混乱しながら、士郎に答えた。

 

「リン。私も詳しくはアイリスフィールから聞いた訳では在りませんが、恐らく『聖杯の器』とはサーヴァントだけではなく生きている人間が『聖杯』に触れる為の物では無いのでしょうか?サーヴァントだけが触れられると言う点では何かと不便です」

 

「あっ・・・そう言えばそうよね。マスターが叶えたい願いを『聖杯』に告げようとしても、触れられないんじゃ叶えられない。その為の『聖杯の器』って訳ね」

 

「恐らくはその通りでしょう。話は戻しますが、アイリスフィールを護れなかった私は敵が行なった聖杯降臨の儀の場に訪れて私以外に残っていたアーチャーのサーヴァントと戦いました・・・・ですが、其処で切嗣が赦し難い事を行なったのです」

 

「爺さんは一体何を?」

 

「・・・・『令呪』を用いて私に・・・降臨していた『聖杯』の破壊を指示したのです」

 

「何だって!?」

 

「せっかく降臨した『聖杯』を破壊したですって!?衛宮君のお父さんは何を考えているのよ!?」

 

 告げられた事実に士郎と凛は信じられ無いと言う声で叫んだ。

 降臨した万能機である筈の『聖杯』を衛宮切嗣はセイバーに破壊するように指示を出した。そんな事をした理由が士郎と凛にはわからなかった。

 そしてセイバーが切嗣に対して憎しみに近い怒りを抱いているのにも納得出来た。セイバーが召喚に応じたのは『聖杯』を使って叶えたい願いが在る為。だが切嗣はその機会を土壇場になって『令呪』を使用して不意にしたのだ。

 

「セイバーが怒るのも当然ね。事情も説明しなかったんでしょう?」

 

「はい・・・切嗣はただ破壊するように命じただけです」

 

「爺さん・・・一体何でそんな事をしたんだ?」

 

 自らの養父の所業に士郎は驚きと困惑に包まれながら、切嗣が実行したことの意味について考え込む。

 だが、幾ら考えても『聖杯戦争』と言う事柄を知ったばかりの士郎では何も思い浮かばなかった。その謎を解く為には『聖杯戦争』を勝ち進むしかないのだと考える。

 

(爺さん。俺はアンタが知ったことの意味も解き明かすぜ)

 

「・・・・これで納得出来たわね。それにしても『聖杯の器』か・・・・あら?もしかしたら今回も『聖杯の器』が在るんじゃないかしら?」

 

「それは間違いないでしょう。アイリスフィールはアインツベルンが代々『聖杯の器』を管理していると言っていました。当然今回もその器をアインツベルンが・・・正確に言えばイリヤスフィールが所持している筈です。アイリスフィールは常に手元に隠していると言っていました」

 

「・・・・あの時のアーチャーの攻撃って今考えたら危なかったのね。もしも『聖杯の器』が無くなっていたら『聖杯戦争』が終わっていたわ」

 

 新たに知った情報でイリヤスフィールへの攻撃は、『聖杯戦争』の終わりを意味していた事を理解した凛は冷や汗を全身から流す。

 『聖杯戦争』で勝利する事を目的としている凛にとっても、『聖杯戦争』が不本意な形で終わるのは不味い。イリヤスフィールに対してはサーヴァントの方を倒す方面で進めなければいけないのだと凛は理解した。

 

「・・・ハァ~、でもセイバー・・・貴女不味いわよ。イリヤスフィールは間違いなく貴女を怨んでいるわ。絶対に貴女だけには聖杯を渡す気は無いでしょうね」

 

「仕方が在りません。騎士としての誓いを私は行ないながら、彼女の母親を護りきれなかったのですから・・ですが、私にはどうしても『聖杯』が必要なのです」

 

「じゃなければ召喚に応じないわよね・・・衛宮君もイリヤスフィールに気をつけた方が良いわよ?」

 

「なんでさ?」

 

「ハァ~・・・あのね。イリヤスフィールにとっての父親である衛宮切嗣は『聖杯戦争』を終えた後にも関わらずイリヤスフィールの下に戻らなかった。当然衛宮切嗣が土壇場になってアインツベルンを裏切るような行動をした事をイリヤスフィールが知らない筈が無いわ。だけど、衛宮切嗣はもうこの世には居ない。抱いていた怒りの矛先は、養子になった貴方に向けられても可笑しくないのよ」

 

「うっ・・そうか・・そうだよな。俺があの子から爺さんを奪ったようなもんだしな」

 

「次にイリヤスフィールと会う前にどうするか決めておきなさい。とは言っても『聖杯の器』なんて重要な物を所持しているイリヤスフィールを殺すわけにはいかないわ。もしも自分の死と共に『聖杯の器』が砕けるようにされていたら、結局今回も勝者が出ないで終わるんですものね」

 

「しかし、それも難しい。昨夜戦ったイリヤスフィールのサーヴァントと思われる『キャスター』は強敵です。『対魔力』に対しても瞬時に情報を把握して対処法を編み出しました」

 

「しかも空間操作なんて魔法の領域に至る魔術を一小節での詠唱で使いこなしていた。厄介過ぎる相手だわ」

 

 昨日の夜に戦ったルインの事を思い出した凛は険しい声を出した。

 イリヤスフィールを殺さないで『聖杯戦争』から離脱させる為にはサーヴァントを倒すしかない。だが、ルインは魔法の領域の力を振るうばかりか、『無限再生』と言う厄介なスキルも存在している。

 セイバーは魔力不足で最大の宝具が使用できず、アーチャーの方は切り札である『宝具』が分からないと言う始末。更に言えばルインは未だにサーヴァント最大の切り札である『宝具』を見せていない。

 厄介過ぎる相手だと凛が顔を険しく歪めていると、突然背後にアーチャーが実体化する。

 

「その件で気になることが在る」

 

「アーチャー?・・・・傷は良いの?」

 

「問題無い。全力の戦闘は無理だが、ある程度は戦えるレベルに回復した」

 

「そう・・・それで気になる事って?」

 

「うむ・・・昨夜イリヤスフィールは去り際に『次に会う時は“私のサーヴァント”が貴女達を倒す』と言っていた」

 

「それの何処が気になるのよ?」

 

「凛。彼女はセイバーが戦ったサーヴァントの事を『ルインお姉ちゃん』と呼んでいた。本名なのかそれとも偽名なのか分からんが、可笑しいと私は感じた。もしもセイバーが戦ったサーヴァントこそが彼女のサーヴァントだとしたらイリヤスフィールは本来は『次に会う時は“ルインお姉ちゃん”が貴女達を倒す』と言う発言が正しいと私は思う」

 

「・・・まさか・・アーチャー?・・・アンタ・・昨日セイバーが戦ったサーヴァントは、イリヤスフィールの本当のサーヴァントじゃないって言いたいの?・・・冗談は止めてよ。それってイリヤスフィールは“他にもサーヴァントを従えてる”かもしれないって事じゃない!?」

 

「遠坂?そんな事が在るのか?」

 

「在る訳無いでしょう!サーヴァントは原則的にマスター一人に一体なのよ!はぐれサーヴァントとか居るなら別でしょうけど、そんな都合よくサーヴァントが召喚したマスターから離れるわけないでしょう!?だから、イリヤスフィールが昨日の戦った女性以外の他のサーヴァントを従えているなんて在り得…」

 

「いえ、在り得るかも知れません、リン」

 

「えっ?」

 

 アーチャーを援護するようなセイバーの発言に凛は思わずセイバーを見つめ、士郎もどう言う事なのかとセイバーを見つめると、セイバーは前回の聖杯戦争で戦った二体のサーヴァントを思い出しながら説明する。

 

「確かに『聖杯戦争』に於いて原則的にサーヴァントは一人一体です。ですが、私は前回の『聖杯戦争』の時にその原則を破る二体のサーヴァントと出会いました」

 

「・・・・どんなサーヴァントなの?」

 

「はい、先ずは『アサシン』のサーヴァントです。前回のアサシンは現代で言う『多重人格』のサーヴァントでした。その宝具は一体で在りながら自らが持つ人格の数だけ分裂出来ると言う宝具でした。私が知る限り、最低でも五十体のアサシンが居た筈です」

 

「なっ!?・・・何よ、そのサーヴァント?確かに『アサシン』はマスター殺しに特化したサーヴァントだけど、それじゃ一体倒しても他にもアサシンが居たって訳でしょう!?反則よ!!暗殺者がそんなに居るなんて!?」

 

「無論、分裂したと言ってもアサシンは一体とされているので分裂すればするほどアサシンの基本の能力は低下していました」

 

「でしょうね。そんなとんでもない能力で何の代償も無い筈が無いわ・・・・・それでもう一体のサーヴァントは?」

 

「ライダーのサーヴァントです。その正体は世界に知らぬ者が居ないほどの大英雄。『征服王イスカンダル』です」

 

「せ、征服王だって!?」

 

「う、嘘でしょう!?そんな大物が前回呼ばれていたって言うの!?」

 

 余りの大物に士郎と凛はもはや驚愕に染まった声を上げて、顔を見合わせた。

 『聖杯戦争』では過去の英霊が召喚されると言う事を二人とも理解しているが、それでも『征服王イスカンダル』が聖杯戦争に参戦していたと言う事実は驚愕を隠せなかった。

 

「ぜ、前回の聖杯戦争ってどんだけ強力な英霊が呼ばれていたのよ!?」

 

「そのイスカンダルでも最後まで残れなかったのか?」

 

「はい・・・彼は私との戦いで疲弊していたところをアーチャーのサーヴァントに倒されたのです。アーチャーの真名は最後まで分かりませんでしたが、強力なサーヴァントだったのは事実です」

 

「ウワァ~・・・・前回のアーチャーってそんなに凄かったのね。疲弊していたからってイスカンダルなんて大物に勝つなんて」

 

「凛」

 

「安心して。私のサーヴァントは貴方よ」

 

 不満そうな視線を向けて来たアーチャーに凛は手をやりながら声を掛けた。

 納得いかなさそうな顔をしながらも、アーチャーは話を進める意味を込めてセイバーに質問する。

 

「それでそのイスカンダルの宝具とは一体何だったのかね?」

 

「イスカンダルの宝具は二つでした。一つはライダーの名に恥じない強力な戦車。そしてもう一つは・・・・自らの心象風景を具現化する結界でした」

 

「そ、それって『固有結界』じゃない!?何で魔術師でもないイスカンダルが『固有結界』なんて代物を使えるのよ!?」

 

「・・・・『固有結界』ってなにさ?」

 

「こ、このヘッポコは!」

 

 士郎の発言に凛は青筋を幾つも浮かべて肩を震わせながら、士郎を睨みつけた。

 自身が不味い事を言ってしまったことに気がついた士郎は、恐怖を感じながら凛を見つめる。

 気持ちを落ち着けようと凛は何度も深呼吸を行ない、心を落ち着けた後に『固有結界』に関する説明を行なう。

 

「『固有結界』って言うのは魔術の大禁術にして一つの到達点とさえも言われているわ。自分の心象風景を現実に具現化する大魔術よ。そんなとんでもない代物を魔術師でも無いイスカンダルが使用したんでしょう?・・・正直信じられない気持ちで一杯だけど・・・それでどんな効果だったの?」

 

「彼の『固有結界』の効果は生前に共に戦った軍勢を『英霊の座』から呼び出すと言う規格外なものでした。その名も『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』です・・・私もあの光景には圧倒されるしかなかった」

 

「・・・・独立サーヴァントの連続召喚。冗談でも止めて欲しかったわね」

 

「冗談では在りません。そして目撃したアイリスフィールから聞いたのですが、イスカンダルは自身の配下を現実世界に出現させることも出来たようです・・・そして宝具とは英霊が持つ伝承が形になったものです」

 

「・・・・なるほどね。イリヤスフィールが召喚したサーヴァントが、英霊を宝具にしているとしたら他にもサーヴァントが居てもおかしくはない。いえ、自分の家系を滅ぼすようなサーヴァントを召喚したんだから、寧ろその可能性が高いわね」

 

「・・・・サーヴァントが一人に何体も付いている可能性があるって事か?」

 

「この推測を高める材料は他にも在る。昨夜イリヤスフィールはサーヴァントと離れて現実世界に残った。私とセイバーは結界に取り込まれたが、まだ他にもサーヴァントが残っている現状で自らのサーヴァントと離れるのは危険が多過ぎる。ルインと言う名の女も『マスターの護りを万全にするのは当然の事』と言っていた。離れているのに万全と言う発言は可笑しい。そう言えるだけの確信が奴には在ったのだ」

 

 アーチャーはそう締め括るように発言し、居間に重い沈黙が生まれた。

 イリヤスフィールにはルイン以外にもサーヴァントが居る可能性が高い。もしもそれが事実だとすれば、イリヤスフィールがこれ見よがしにルインを連れまわしていたのに納得が出来る。

 彼女達にとってルインの存在が知れ渡るのは困る事では無かった。何せルイン以外のサーヴァントがイリヤスフィールの背後には居るのだから。彼女の情報を幾ら知られてもイリヤスフィール達には困る事では無いのだから。

 そして考えが纏まったのか凛はゆっくりと真剣な眼差しを士郎に向けて、一つ提案する。

 

「衛宮君・・・手を組まない?」

 

「手をって?・・・同盟を結ぶって事か?」

 

「そう・・・もしも今の推測が当たっていたら、ハッキリ言って私も貴方もイリヤスフィールには勝てないわ。だから、手を組むの。その間、敵に関する情報は共有する。他のサーヴァントが来た時も、一緒に迎撃。あと私が言いだした事だから、貴方の面倒も見てあげるわ。魔術師としての基本的な事も含めてね。どう?破格の条件でしょう?」

 

「確かに・・・セイバーはどう思う?」

 

「私は構いません。現状イリヤスフィールとそのサーヴァントを倒す為の手段は私とシロウには在りません。リンとの同盟は私達にとってプラスになります」

 

「セイバーの方も納得したわね・・アーチャー。貴方は?」

 

「・・・セイバーとの同盟は納得するが・・・・其処の小僧がな」

 

「何?」

 

 不満そうな視線を自身に向けるアーチャーに、士郎は僅かに苛立ちが篭もった声を上げた。

 しかし、すぐにアーチャーは凛とセイバーに視線を戻して声を出す。

 

「小僧には不満は在るが、前衛のセイバーと後衛の私が揃うのは妥当だ。此処はマスターの指示に従おう・・・(イリヤに起きている現状を知るまでだがな)」

 

 そうアーチャーは内心を悟られないようにしながら凛の提案を了承し、二つの組は同盟を結んだのだった。

 

 

 

 

 

 アインツベルン城応接室。

 その場所で再びサーチャーを使って衛宮邸を監視していたイリヤスフィールは、自身の発言のせいでブラックの存在がセイバー、アーチャーの二組の陣営に知られてしまった事に落ち込んでいた。

 ゆっくりとイリヤは横に座っているブラックに視線を向けて、頭を下げる。

 

「・・・・ゴメンね、ブラック・・・私のせいで折角ルインお姉ちゃんが私のサーヴァントだと思わせていたのが駄目になっちゃった」

 

「気にするな。遅かれ早かれ知られる事だ。寧ろ前衛のセイバーと後衛のアーチャーが共に戦うのならば望むところだ。更に戦いが楽しめるからな」

 

 イリヤスフィールの頭の上に手を乗せながら、ブラックは気にしてないと言うようにイリヤスフィールの頭を撫でる。

 ブラックが怒っていない事にイリヤスフィールは安堵の息を漏らすと、ブラックはイリヤスフィールの頭の上から手を退かす。

 

「どちらにしても二体とも昨夜の戦いで負ったダメージが在るのだから、暫らくは戦わん。今のところの標的はセイバーとアーチャーのマスターどもが通っている学校に下らん結界を張った奴らだ」

 

 ブラックはそう言いながら空間ディスプレイを操作し、衛宮邸から穂群原学園の映像に変える。

 凛が見つけた学園に張られている結界は今だ完成していないが、このまま放置して置く気はブラックには全く無かった。新都の方で『魂食い』を行なっている『キャスター』も気に入らないが、あちらは死者を出さないようにしているので今は狙わない。

 だが、学園の結界を張った者は別だった。明らかに死者が出ても構わないと思っている。ブラックにとってソレは絶対に見逃せない嫌悪する事柄だった。

 

「昼から行くぞ。それまでは眠っていろ。昨日は遅かったからな」

 

「は~い」

 

 ブラックの言葉に素直にイリヤスフィールは返事を返し、待っていたセラと共に自室へと戻って行った。

 イリヤスフィールとセラが部屋の外に出ると共に、霊体化していたルインが実体化してブラックに話しかける。

 

「ブラック様が“あの子”以外の子供を気にするのは本当に珍しいですね?確かに放っておけない良い子ですけれど」

 

「勘違いをするな。イリヤスフィールとアイツは違う・・・ただ気になるだけだ。それにお前とて分かっている筈だ・・・“奴は長くない”」

 

「・・・・・はい・・・『フリート』ならば何とか出来たかも知れませんが・・・・私達にはイリヤちゃんは治せません。例え『オメガブレード』を用いても、生まれる前から無理な調整を受けていたイリヤちゃんは治せない」

 

「・・・・・気に入らんな」

 

 何処か虚しげにブラックは声を出しながら、自身を召喚したイリヤスフィールの事を考えるのだった。


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