運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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冬木の地

 冬木の地にある穂群原学園。

 其処に通っている高校二年生の遠坂凛は魔術師だった。若いながらも冬木で行なわれる『聖杯戦争』を構築した御三家の一つの『遠坂』の現当主。五つの属性全てを兼ね備えた『五大元素使い(アベレージ・ワン)』と呼ばれる稀有な特性を持った天才の魔術師。何れは父が残した遺言に近い言葉を叶えると誓っていた。だが、遠坂凛は学園の優等生で通っているにも関わらず、学校を休んで家で『聖杯戦争』に参加する準備を急いで行なっていた。

 開催までの時間で言えばまだ一ヶ月半以上も日数が在るのにも関わらず、凛は必死に『聖杯戦争』に参加する為に準備を不機嫌そうにしながらも行なっていた。

 と言うのも昨日学園の帰りに一人の銀色の少女と、その少女と同じ銀色の髪に長身の女性と出会ったからだった。

 

『こんにちは遠坂凛。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン』

 

『アインツベルンですって!?』

 

『凛は良く知っているでしょう。それで今日は『聖杯戦争』が一ヶ月半先に開催される事を教えに来たの』

 

『何ですって?・・・そんな・・・まだ前回の聖杯戦争から十年しか経っていないのに・・如何して!?』

 

『クスクス、どうしてだろうね?だけどね、重要なのは其処じゃないんだよ。一度しか言わないから良く聞いてね。“聖杯戦争は今回で最後。だって、アインツベルンが私を除いて滅んじゃったからね”』

 

『ッ!?・・・・ア、アインツベルンが滅んだですって!?』

 

 イリヤスフィールが告げた事実に、凛は驚愕の余り声の震えが隠せなかった。

 真偽のほどは定かではないとは言え、事実だとすれば『聖杯戦争』を構築した御三家の一つが失われたと言う事に他ならない。一体何がアインツベルンに起きたのかと凛が呆然とイリヤスフィールを見つめると、その横に立っていた女性が人では在り得ない膨大な魔力を発揮する。

 その魔力を感じた凛は一瞬にして背後に飛び去って、一定の距離を保ちながら左腕に宿る『遠坂の魔術刻印』を光らせながら女性を見つめる。

 

『サ、サーヴァント!?』

 

『正解よ。彼女は私が呼び出したの。本当なら開催する二ヶ月も前にサーヴァントを召喚するのは無理なんだけど・・・少し裏技を使って呼び出したの。その代償がアインツベルンの崩壊だったけどね』

 

『クッ!!』

 

 イリヤスフィールの言葉に凛は無駄かもしれないと思いながらも、左手の人差し指をイリヤスフィールの横に無言で立つ女性に構える。

 だが、凛の人差し指の照準が女性に合う前に突如として女性の姿は凛の視界から消え去る。

 

『消えた!?一体何処に!?』

 

 視界から消えた女性を探そうと凛は慌てて辺りを見回す。

 その瞬間、突然背後から腕が伸びて来て凛の左腕がガシッ、と掴み取られる。

 

『ッ!?』

 

 左腕を掴まれた事に凛は驚愕しながら背後を振り向いてみると、ほんの一瞬前までイリヤスフィールに横に立っていた女性が背後に立っていた。

 一瞬にして背後に移動され、自身の家系の魔術刻印が宿っている左腕を掴み取られた事実に、凛は呆然としながら自分につまらなそうな視線を向けている女性の顔を至近で見つめていると、イリヤスフィールの笑い声が響く。

 

『クスクス、此れで凛は一回死んだね・・・もう良いよ、ルインお姉ちゃん』

 

 イリヤスフィールの呼びかけに女性-『ルイン』-が凛の左腕を掴んでいた手を緩めた瞬間、凛は力任せに腕を振るってルインの傍から離れる。

 ルインはその様子をやはりつまらなそうに眺めながら、イリヤスフィールの横に戻って怒りに満ちた視線を向けて来ている凛に顔を向ける。

 

『・・・・見逃すってわけ?』

 

『そうだよ。だって、凛には強力なサーヴァントを呼んで貰いたいんだもの。折角の『聖杯戦争』なんだから、やっぱりサーヴァント同士の戦いが醍醐味なんだからね。今日はあくまで宣戦布告。それじゃ頑張ってね、凛。次に会う時は本当の殺し合いの場だからね』

 

 イリヤスフィールはそう告げると共にルインと共に凛に背を向けて、その場から去って行った。

 余りにも無防備過ぎるその姿を凛は人生最大の屈辱に顔を歪めながら、ただジッと二人の姿が消えるまで見つめるしかなかった。

 

 そしてその出会いの翌日から凛は学園に休学届けを出して家で魔術の修行と『聖杯戦争』に参加する為に準備を行なっていた。予想外の五回目の『聖杯戦争』の開催のせいで既に望んだ英霊を召喚出来る聖遺物を手に入れる手段は無い。

 何よりも学生である凛では、聖遺物を手に入れる伝手も手段など無かった。両親は既に死別しているので、父親が魔術師として使っていた伝手なども失われている。ただ一つだけ可能性が在るが、その方法は凛としては出来るだけ使用したくないので除外した。ならば、魔術の修行を行なって聖遺物無しでの英霊召喚を行ない、召喚された英霊の実力を上げる以外に凛には方法が無かった。

 聖遺物無しでの英霊召喚は、自身と相性が良い英霊が呼び出される。凛としては自身の魔術の特性も考えて三騎士に分類されるクラスである『セイバー』を望んでいた。

 

(絶対に許さないわよ、イリヤスフィール!!!この私を!遠坂凛を侮辱した罪!!億倍にして返してやるんだから!!!)

 

 そう凛は怒りに満ち溢れながら、自身の魔術修行を行なっていく。

 自身の今の行動こそがイリヤスフィールの本当のサーヴァントが望んでいる行動だとも知らずに。

 

 

 

 

 

 冬木市郊外に存在する鬱蒼と茂った広大な森林地帯。

 その広大な森林地帯の奥深くに巨大な古城であるアインツベルン城が存在していた。その城の主であるイリヤスフィールは、不機嫌そうにしている長身で黒尽くめの男性-ブラックの膝の上に座りながら、冬木市にばら撒いた探査用のサーチャーから送られて来る遠坂邸の外からの映像を楽しげに眺めていた。

 

「フフッ、凛たら必死になってサーヴァント召喚の準備を進めているね。学校にも行かないんだから、それだけ本気って事だよね、ブラック?」

 

「俺はソイツの事を知らん。だが、情報では天才だと言うらしいからな。やる気になればそれだけ楽しめる」

 

「そうだね・・・でも、凛に宣戦布告したのに間桐の方は良いの?まぁ、現在の間桐の後継者は魔術回路も失われてるから脅威じゃないかも知れないけど・・・間桐臓硯は脅威だよ。お爺様よりも三百年以上生きている妖怪だもの」

 

「だからこそ、奴らが自ら動くのを待つことが今のところは最良だ。お前にしても聞いた情報しか知っていない相手だ。時間はまだ充分に在る。お前が俺を早期に召喚してくれたおかげでな」

 

 ブラックは手に入れた時間と言う力を有効に使うつもりだった。

 北のアインツベルンを滅ぼす時に其処にいたアインツベルンの魔術師達から過去の聖杯戦争の情報もある程度は得られていた。イリヤスフィールはその時に自身の父に関する重要な情報を得られたので、ブラックがアインツベルンを滅ぼしたことに対して本当に何も思わなくなった。

 最もそれでも長年抱いていた憎しみに近い蟠りは消えていない。ゆっくりとイリヤスフィールはルインから教えて貰ったサーチャーの操作方法を使用して、かなりの年月を感じさせる武家屋敷を映し出す。

 複雑な感情が混じった瞳でイリヤスフィールは武家屋敷を眺め、ブラックはそんなイリヤスフィールの感情を感じたのか黙って監督役が住む教会と不気味な雰囲気を放つ間桐邸に神経を集中させる。沈黙が部屋の中に満ちていると、静かに部屋の扉が開き、何らかの資料を持った白い侍女服を纏った何処か人形のような印象を感じさせる女性が室内に入って来る。

 

「失礼します、お嬢様にブラック・・・頼まれていた情報が届きましたのでお渡しに来ました」

 

「ありがとうね、セラ」

 

 女性-『イリヤスフィールの付き人であるセラ』-が渡して来た資料が纏まっているファイルをイリヤスフィールは受け取り、ブラックに見えるように広げる。

 広げられた資料をブラックは素早く読んで行き、僅かに興味を覚えた項目に目を細める。

 

「ほう。『聖杯戦争』が開催されると分かって、時計塔と言う魔術師の総本山が執行者とやらを送り込む準備をしているか」

 

「凄いね。執行者って言ったら埋葬機関の代行者とも互角に戦えるって話だよ。しかも『伝承保菌者(ゴッズホルダー)』だなんてね」

 

 『伝承保菌者(ゴッズホルダー)』とは特殊な魔術師の一族であり、人の身で英霊や神にしか使えない宝具を使用する事が出来る。流石に使用出来る宝具の詳細までは書かれていなかったが、かなりのレベルの魔術師が現れる事実にブラックは歓喜に満ちた笑みで口元を歪める。

 

「クククッ、面白い。こう言う奴が参加すると言うなら召喚に応じたのは正解だったな・・・・ほう、やはり間桐とやらも諦めている訳では無いようだ」

 

 次の資料を目にしたブラックは、御三家の最後の一角である『間桐』も聖杯戦争に必ず参加して来ると確信を深めた。

 イリヤスフィールもその資料を覗いて見ると、其処には間桐の長女とされている間桐桜が、実は十一年前に遠坂家から養子に出された者だと言う事が書かれていた。

 

「ヘェ~、凛と桜って姉妹だったんだ。だとしたら、今の間桐の魔術は桜が受け継いでいるのかもね。これで桜があの家に出入りしているのに納得出来た。監視の為だったんだ。クスクス」

 

「・・・・・・果たしてそうかな」

 

「えっ?違うの?」

 

「桜とか言う小娘を見たが・・・アレは人形に限りなく近い。お前が見ていた家以外での行動は殆ど決まっている。操り人形に近いながらも、僅かに人を残したような印象を俺は受けた」

 

「フゥ~ン・・じゃ、臓硯の操り人形なのかもね。直接は出なくて間接的に臓硯が出て来るのかな?」

 

「フン、ああ言う裏方で暗躍する奴は気に入らん。今は動かんが聖杯戦争が始まったら潰してやる」

 

「フフッ、ブラックに潰されるなんて不幸だね・・・・ねぇ、ブラック・・・今日はもう良いよね・・一緒に出かけない?」

 

「・・・・・・・まぁ、構わんか」

 

「やった!!じゃ、肩車してよ!!ブラックって背が高いから凄く視界が広がるんだもの!!」

 

 イリヤスフィールはそう言いながら手を伸ばすが、ブラックはゆっくりと膝の上に乗せていたイリヤスフィールを下に下ろす。

 

「外に出たらだ」

 

「は~い!!」

 

 イリヤスフィールはブラックの言葉に素直に返事を返し、ブラックは不機嫌そうにしながらも黒いロングコートを羽織り、イリヤスフィールも自身の紫のコートを羽織るとブラックと共に冬木市へと向かい出した。

 

 

 

 

 

 間桐家に存在する地下室。

 暗く淀んだ其処は一般的な魔術師の工房と明らかに違い、大量の間桐の魔術で作られた蟲が存在していた。鼻が曲がりそうな臭気が常に充満し、湿っぽい空気で地下室は満たされていた。

 その石造りの地下室の真の主であるまるで骸骨のような顔つき、光を一切宿さない目をしている間桐臓硯は焦りに満ちていた。五百年以上生きる間桐臓硯にとって大抵の事は焦る事ではないが、今回の件は焦る以外に他ならなかった。

 自身が他の魔術師の家系である『遠坂』と『アインツベルン』とで構築した『聖杯戦争』と言う魔術儀式が今回で終わってしまう事が分かってしまったからだった。遠く北の大地で閉鎖的に過ごしていた魔術師の一族である『アインツベルン』が滅んだと言う情報がまるで図られた様に裏の情報で一気に流れたからだった。

 当然その情報は臓硯にも届き、彼は焦るしかなかった。彼の願いを叶えるためには『聖杯』と言う奇跡が何よりも必要。だが、『聖杯戦争』を構築する為の御三家の一角が完全に滅びた今、『聖杯戦争』の存続は絶望的だった。だが、まるで天は彼を見放していないと言うかのように冬木の地にアインツベルンの者が現れ、更に六十年周期で起きる筈の『聖杯戦争』が僅か十年で起きると言う奇跡が起きた。今回の聖杯戦争には何としても勝利しなければならないと臓硯は心に決め、準備を急いでいた。

 

「予想外の事態じゃが、手駒は揃っておる。先ずは慎二を威力偵察に利用し、そして」

 

 ゆっくりと臓硯は自身が作り上げた蟲の大群が蠢いている下を見下ろす。

 其処には美しい肢体を晒しながら、次々と女性が見たら生理的嫌悪感を感じずにはいられない蟲に群がられている紫色の瞳と髪の高校生ぐらいの女の子の姿が在った。

 蟲達に次々と犯されている女の子は艶めかしい声を上げるが、その瞳には意思と言うモノが余り感じられなかった。その様子を臓硯は当然だと言う様子で眺めていた。

 十一年間人と人形の間に近い状態になるように女の子の精神を臓硯は作り上げたのだから。切り札は自身の手の中に在ると確信している臓硯はもうすぐ始まる『聖杯戦争』の戦略を練り出す。アインツベルンが一体何を召喚してしまい、滅んでしまったのかも知らずに。

 

 

 

 

 

 冬木の小高い丘に在る言峰教会。

 その教会の主である言峰綺礼は新たに行なわれる『聖杯戦争』の監督を行なうように、聖堂教会から指示を受けていた。綺礼自身もまた十年前に行なわれた第四次聖杯戦争の参加者であり、在る意味では『聖杯の降臨』を誰よりも切望しているものだった。

 

「よもや『聖杯戦争』を構築した御三家のアインツベルンが滅びるとはな・・・『遠坂』、『間桐』も衰退を辿っている現状。今回の『聖杯戦争』こそが最後の機会であろうな」

 

 荘厳な雰囲気を放つ礼拝堂で綺礼は誰もいないはずの礼拝堂に響くように声を上げた。

 その綺礼の声に応じるように礼拝堂の入り口の方から傲慢さと自信に満ち溢れた声が響く。

 

「確かに・・・此度の『聖杯戦争』がお前にとっても、(オレ)にとっても最後の機会なのは事実・・・我が妻となるあの英霊が召喚されるかは分からんが、召喚されたのならば何としても今度こそ(オレ)の物にせねばな」

 

「お前が望む者は召喚されるだろう」

 

「ほう・・・何故そう言い切れる?奴が召喚されたクラスである『セイバー』に適正を持つ者は、雑種とは言え数え切れんほど居るのだぞ?」

 

「勘だ。何故かは分からないが、私には分かる。この街には“あの男”の理想を受け継いだ者が居る。『聖杯戦争』を知っているのかどうかは分からんが、“あの男”の理想を受け継いでいるのだ。私の目的を阻む為に、必ず私の前に立ち塞がるだろう」

 

「フフッ、お前が其処まで言うのならば少しは期待しよう。召喚されなければ(オレ)は今回の『聖杯戦争』に興味など無くなるがな」

 

「構わんさ。さて、私も私で監督役として仕事を行なうとするか」

 

(オレ)は勝手にさせて貰うぞ、綺礼」

 

 そう入り口に立つ男は礼拝堂に立つ綺礼に声を掛けると、礼拝堂から出て行った。

 残された綺礼はゆっくりと『聖杯戦争』が始まると言うことで召集された工作員が撮った数枚の写真を、ゆっくりとカソック服の中から取り出して眺める。

 其処には一応の弟子である凛と対峙するイリヤスフィールとルインが映っている写真と、街中を一緒に歩く人間体のブラックとイリヤスフィールの姿が写し出されていた。

 

「最初に埋まった『座』は『バーサーカー』のはず・・・だが、明らかにサーヴァントと思われる女性は理性を持っている。アインツベルンは再び何らかのルール違反を行なおうとしたようだな・・・まぁ、構わん。このサーヴァントは敵ではない・・・問題は二枚目の写真に写っている黒い服の男・・・サーヴァントの気配が無いと言うのに・・・何故私の心が揺れるのだ」

 

 そう綺礼は自身の心をざわめかせる写真に写るブラックの姿を、礼拝堂に立ちながらジッと眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 冬木市新都方面の中央には街中で在りながらも不自然に広がった場所が存在していた。

 その場所の名は『新都中央公園』。十年前に起きた第四次聖杯戦争の終焉の地であり、同時に多くの人々を煉獄に追いやり、数え切れないほどの人の死を生み出した元凶の場所だった。

 ブラックを伴ったイリヤスフィールはその場所にやって来て、途中で買った献花の花を鬱蒼と茂る雑草の中に置く。イリヤスフィールにとっては今居る場所こそが、自身の母親である『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』が『聖杯』へと転じた場所だと知っているからこそ、深い意味は無くとも献花を行ないたかったのだ。

 

「・・・・ねぇ、ブラック・・・この場所はどう思う?」

 

「随分と怨念に満ちた場所だ・・・余程死んだ連中は怨嗟と苦痛の声を上げたのだろうな」

 

「そう・・・この場所で私の父親は『聖杯』となったお母様を壊す指示を召喚したサーヴァントに命じた。アインツベルンを裏切った。私はお爺様からそう聞いた・・・お母様を裏切り、私を捨てたと聞いていた。だから、憎んだ。だけど、私を迎えに来ようともしていた。だけど答えを聞こうにも父親はもうこの世にはいない。だから、父親がこっちで養子にした男の子に復讐しようと思ってる・・・・ブラックはそんな私を止める?」

 

「止めんな。俺も俺を生み出した奴らを殺そうとした。復讐に関しては肯定も否定もしない。それに俺が答えを出して、お前は納得するか?」

 

「・・・・・駄目だよね。そんな他人の答えじゃ納得いかないや・・・・暫らくは保留にしようかな?こっちに来てから監視していたけど、魔術師としては半人前以下みたいだしね」

 

「そうだな。奴の家だけがサーチャーが内部に入れたからな」

 

 ブラック達が冬木市市内に放ったサーチャーが魔術師の家に入り込めたのは、イリヤスフィールにとって複雑な感情を抱くしか無い人物の家だけ。

 他の『間桐邸』、『遠坂邸』、『冬木教会』の三つは手の内が気づかれる可能性も考慮して外からへの監視を行なうように留めている。それだけその三箇所が魔術の工房として完成していると言うことだが、唯一イリヤスフィールが気にしている家だけは無防備に近く、更に魔術の訓練さえも眺める事が出来ると言う有様だった。

 

「あの人も随分と半端にしか魔術を教えなかったみたいだよね。刻印も受け継がなかったみたいだし・・・とは言っても血の繋がりが無いし、薬も無いから刻印を受け継いでも意味ないよね?」

 

「さてなぁ、どちらにしても俺は興味は無い・・・・(それにしても、さっきから監視の目が煩わしいな)」

 

 イリヤスフィールの言葉に素っ気無く答えながら、ブラックは自分達を監視している複数の気配に僅かに意識を向ける。

 その気配は間違いなく人の気配。恐らくは『中立』を宣言している聖堂教会辺りだとブラックは考えていた。

 

(どうします、ブラック様?いいかげんに排除しますか?)

 

(・・・止めておけ。こっちの手の内を敵かも知れん連中に教えるのは無駄な浪費でしかない)

 

 霊体化して付き添っているルインからの念話にブラックはそう答えた。

 ブラックもルインも『聖堂教会』の『中立』と言う立場を全く信用していなかった。戦争と言う言葉が出ているのだから、その時点で『中立』など在る訳が無い。本当の戦争を経験したことが在るブラックとルインからすれば、『中立』と言う場所は寧ろ第三の勢力だと考えている。

 だからこそ、監視の目は多少なりとも煩わしいと思いながらも自分達の手の内を見せないために工作員達を放置しているのだ。

 

「・・・イリヤスフィール。そろそろ戻るぞ。侍女どもがうるさいからな」

 

「は~い!」

 

 ブラックの言葉にイリヤスフィールは素直に返事を返して、ブラックの右手を自然に握る。

 その行動に対してブラックは何も言うことなく、二人は手を握り合いながら郊外の森の奥深くにあるアインツベルン城へと帰って行くのだった。




この作品では原作zeroの設定も流用しています。
Fete本編とzeroでは違う設定も在りますが、最後の決戦での場面以外はzeroの流れで進んだ事にします。

また、原作主人公である士郎とブラックが共闘したとしても、絶対に破局を迎える事を先に告げておきます。
特に某ワカメ君に対しては絶対に方針がぶつかり合うでしょう。
士郎はワカメ君を止めようとしますが、ブラックは先ず第一に殺すと言う方針で進みますので。

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