運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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干将・莫耶

 郊外の森にあるアインツベルン城の一室。

 昨晩の戦いで深いダメージをブラックが負ったのでイリヤスフィール達は今日は街に出る事は無かったが、それでもサーチャーを使って各陣営の動きは監視していた。当然『柳洞寺』近くでの戦いも捕捉していたが、監視の任についていたセラとリズの二人が注意を払っていたのは、士郎達が居る場所から離れた屋根の上で会話しているアーチャーとライダーの話の内容だった。

 アーチャーの真名が以前から考えられていた相手だと言う事は最初の会話で判明したが、セラが重要視する内容はその後の会話だった。その会話の内容にセラは顔を青褪めさせて震えながら呟く。

 

「・・・何と言う事ですか・・・まさか、アインツベルンの秘奥を『間桐』が得ていたとは・・・・ブラックの考えは当たっていた・・・しかも、“アレ”に染まり切っている代物が・・リズ」

 

「何?」

 

「お嬢様とルイン様、そしてブラックに今の事を報告して下さい。アーチャーの真名。そしてブラックが感じたという危機感を与えた存在の正体は、ライダーの話に出て来た相手でしょう。実際に“アレ”が顕現出来るとなれば脅威以外の何ものでもないですからね」

 

「分かった。すぐに伝えて来る」

 

 セラの指示にリーゼリットは即座に動き出し、別室で治療を受けているブラックの下に急いで向かい出した。

 それをセラは確認すると共に戦いの場ではない別地点に滞在しているサーチャーを総動員してライダーの話に出た相手を捜索し出す。独断の行動だが、ブラックならばそう指示を出すだろうとセラは考えての行動だった。

 

「ブラックの言っていた通り、倒したギルガメッシュが別の『聖杯の器』に取り込まれたとすれば、一刻も早く見つけなければ。由々しき事態になるかも知れない」

 

 そうセラは呟きながら、ライダーがアーチャーに告げた存在を急いでサーチャーを総動員して捜索し出すのだった。

 

 

 

 

 

 『柳洞寺』から程近い場所の街中。

 人払いの結界が張られて人通りが無いその場所で、キャスターとそのマスターである葛木宗一郎がセイバーとそのマスターである衛宮士郎、そしてアーチャーのマスターである遠坂凛と戦っていた。

 だが、その戦いは士郎と凛が予想していた戦いとは掛け離れていた。セイバーも含めた三人の考えではキャスターの相手はセイバーが行ない、士郎と凛がマスターである葛木の相手をするという考えだった。

 しかし、その三人が考えていたことを討ち破る出来事が目の前に広がっていた。

 

「ハアァァァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 セイバーが振るった不可視の剣を葛木は流れるような動きで回避し、まるで蛇を思わせるような変則的ながらも速い拳が逆にセイバーの体に叩き込まれて行く。

 本来ならば魔術師でない葛木の拳など幾ら叩き込まれようとも神秘の結晶であるセイバーにダメージは無い筈だが、葛木のサーヴァントは神代の魔術師のサーヴァントであるキャスター。サーヴァントに対抗出来るだけの『強化』を施す事は可能だった。

 しかし、本来ならばそれだけではサーヴァントに対抗する事は出来ない。しかし、凛と士郎、そしてセイバーは知らない事だったが、葛木はただの一般の教師ではなかった。相手を殺傷する事に特化した武術の達人でもあった。それに加えてセイバーも一般人と言う思い込みを持っていたので油断を僅かにしてしまい、慣れない体術の攻撃に防戦一方に追い込まれていた。

 そして遂に葛木の鋭い拳の一撃がセイバーの腹部に直撃する。

 

「ムンッ!!」

 

「グフッ!!」

 

「君にとってこの時代の戦いの技術には未知のモノが多い。現代では剣を使った相手に対抗する技術も存在しているッ!!」

 

「クッ!!」

 

 言葉と共に葛木が振り下ろして来た一撃をセイバーはギリギリの所で避けた。

 しかし、葛木は避けられた事に動揺することなく素早く避けた直後のセイバーの間合いに入り込み、その首を掴んで締め付ける。

 

「ガアッ!!」

 

「キャスターからサーヴァントは仮初の体以外は人間と変わらないと聞いた。首を絞められれば息が出来ずに苦しむと言うこともッ!!」

 

ーーーズドオオオン!!

 

「グアッ!!」

 

 葛木は叫ぶと共に全力でセイバーを地面に叩きつけて、セイバーは地面に倒れ伏してしまう。

 それを目撃した凛は葛木の武術の技量に思わず信じられないというように声を漏らしてしまう。

 

「・・・・・嘘でしょう?」

 

「遠坂。お前達の敗因は私を一般人だと思い込んだ事だ」

 

「クッ!!・・(冗談じゃないわよ!!この男の武術の技量!?下手したら綺礼並じゃないの!?)」

 

 凛は中国武術をある程度修めている。そのおかげで葛木の武術の技量がどれだけ高いのか理解していた。自らの技量では遠く及ばないほどの達人。

 ならば武術ではなく魔術で凛は対抗しようと考え、右手の人差し指を構えた瞬間、一瞬にして葛木が目の前に現れ、胸の中心に拳が叩き込まれる。

 

「ウッ!!」

 

「優れた魔術師とは言え、詠唱出来なければ打つ手は限られているだろう」

 

「ゲホッ、ゲホッ!!」

 

 肺に走った激痛に凛は苦しげに咳き込み地面に膝をついてしまった。

 その隙を逃さずに様子を静かに伺っていたキャスターが凛に向かって魔術を発動させる。

 

「『重圧(アトラス)』」

 

ーーーズシッ!―――ズウウウン!!

 

「ガッ!!グゥゥゥゥッ!!」

 

「遠坂!?」

 

 キャスターの魔術が発動すると共に凛の体に重圧が襲い掛かり、地面に膝を着きながら苦しげに呻く。

 それを目撃した士郎は凛を助けようと葛木の背後に居るキャスターに向かって襲い掛かろうとするが、葛木がそれを遮る。

 

「退けえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「ムン!!」

 

ーーーバキィィィィーーン!!

 

 士郎が振り下ろして来た木刀に向かって葛木は迷うことなく拳を振り抜き、木刀は甲高い音を立てながら砕け散った。

 これで士郎は武器を失ったと葛木が思った瞬間、士郎は魔術回路を起動させて叫ぶ。

 

「『投影開始(トレース・オン)』ッ!!」

 

「何ッ!?」

 

 士郎が叫び終えると共にその手に光が走り、年代を感じさせる西洋の剣が出現した。

 その事実に葛木は目を見開き、背後で見ていたキャスターも士郎が使った魔術の異常さに、ローブに隠れている目を見開く。確実に葛木が動揺したのを悟った士郎は『投影』した剣を葛木に向かって振り抜く。

 

「オォォォォォッ!!」

 

「クッ!!」

 

 士郎が振り抜いた剣を辛うじて葛木は避けるが、スーツに切れ目が出来る。

 しかし、即座に葛木は体勢を直して士郎が振るった剣に向かって拳を叩き込み、剣を破壊する。

 

(クッ!!この剣じゃ駄目だ!!キャスターが強化したコイツの拳に歯が立たない!何か別の剣を!コイツの拳に負けない剣が必要だ!!)

 

『戦いになれば衛宮士郎に勝ち目は無い。ならば、せめて想像の中で勝て』

 

(ッ!!アイツの剣なら!!)

 

 脳裏に過ぎった昨夜のアーチャーの言葉と、アーチャーが扱っていた二本の黒と白の双剣を士郎は思い出す。

 仮にも『宝具』に分類される双剣。それを投影出来るかと言う疑問も士郎の中に浮かばなかった。ただやるだけだと言うように士郎は両手を構える。

 

「『投影開始(トレース・オン)』ッ!!」

 

「無駄な事だ。眠れ、衛宮!!」

 

 ライダーとの契約で葛木とキャスターは士郎を殺す事は出来ない。

 だが、事前に気絶させる程度のダメージはギリギリ許容出来るとライダーは自らの状態で判断していた。この場で気絶させて『聖杯戦争』に関する記憶を消し、冬木から士郎を離して安全を計る。

 それがキャスターとライダーが士郎に対して行なう予定の行動だった。これで確実に決まるとキャスターは笑みを浮かべようとする。だが、葛木が振り下ろした拳は士郎が直前に『投影』したモノによって防がれる。

 

「なっ!?」

 

 自身が目にした物に冷静だった筈のキャスターが思わず、驚愕と困惑に満ちた声を上げた。

 それは士郎に拳を振り下ろした葛木も同様だった。最初に現れた年代物の剣は簡単に砕けたのに、今は幾ら力を込めても士郎が重ねるように構えている二本の剣は砕けなかった。

 『重圧(アトラス)』によって身体が地面に押さえつけられている凛も、苦悶に満ち溢れた顔をしながらも信じられないというように士郎が持っている剣を見つめていた。

 士郎が握る二本の剣。それはアーチャーが扱う黒と白の双剣。『夫婦剣・干将(かんしょう)莫耶(ばくや)』。

 

「オォォォォォォォォッ!!!」

 

「グウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 裂帛の気合と共に士郎が『投影』した『干将(かんしょう)莫耶(ばくや)』を振り抜くと共に、葛木は後方へと弾き飛ばされた。

 その事実にキャスターは目を見開きながら、信じられないというように唇を震わせて士郎が握っている『干将(かんしょう)莫耶(ばくや)』を見つめる。

 

「『宝具』を『投影』したと言うの!?ありえない!そんな事を人間が出来る筈が!?」

 

 目の前の光景にキャスターは驚愕と困惑に包まれながら叫んだ。

 ただの半人前以下の魔術師だと考えていた士郎の予想外の力にキャスターは驚愕し、葛木の身を心配して目を動かすと、葛木にやられて倒れ伏していたセイバーが起き上がり、『重圧《アトラス》』に縛られていた凛に駆け寄るのを目にする。

 

「しまった!?」

 

 セイバーの狙いに気がついたキャスターは目的を果たされる前に、凛に何かをしようとする。

 だが、キャスターが何かを行なう前にセイバーの身体が『重圧《アトラス》』に触れて、甲高い音を立てながら『重圧(アトラス)』は砕け散った。

 

「無事ですか、リン?」

 

「ゲホッ、ありがとう、セイバー・・・正直危なかったわ」

 

「いえ、私も油断しました」

 

「遠坂!セイバー!大丈夫か!?」

 

 二人の傍に士郎が近寄りながら心配そうに声を掛けた。

 凛とセイバーは士郎に向かって自分達は大丈夫だと言うように頷き、士郎は安堵の息を吐きながらキャスターと葛木に向かって双剣を持ち直して身構える。

 キャスターと葛木は予想外の士郎の力に動揺するが、すぐにその動揺を治めて冷静にこの後の対処法を考える。

 

「(アーチャーはライダーが抑えているとは言え、宗一郎様がセイバーにダメージを与えられたのは予想外の奇襲のおかげ・・・・このまま戦うのは不ッ!?)宗一郎様!!」

 

ーーーガキィン!!

 

 突然に何かに気がついたようにキャスターは葛木の傍に駆け寄り、遠方から高速で迫って来た矢を魔術障壁で防御した。

 その攻撃を目にしたセイバー、士郎、凛は漸くアーチャーからの援護射撃が来たのだと悟って笑みを浮かべる。対してキャスターは葛木を抱えながら、ライダーがしくじったと考えて苦虫を噛み潰したような顔をしながらローブを広げる。

 

「今日のところは退かせて貰うわ!!次に会う時は必ずその首を貰うわよ!!」

 

 キャスターがそう叫ぶと共に広がっていたローブは葛木とキャスター自身を包み込み、徐々に小さくなって行き士郎達の目の前から消え去った。

 

「逃げたみたいね・・・深追いは止めておきましょう」

 

「えぇ、キャスター自身もそうですが、そのマスターも予想外の実力でした。一度対策を練り直さなければならないでしょう」

 

 凛とセイバーはそう言いあい、士郎は戦闘が終わったのを確認すると、改めて自分が『投影』した『干将(かんしょう)莫耶(ばくや)』を見つめる。

 

「・・・これって・・・俺が『投影』したんだよな?」

 

「じゃなきゃ、その手に握られてないでしょう・・・それにしても、まさか『宝具』の『投影』まで行なえるなんて・・・しかも、アーチャーの剣よ、ソレ」

 

「凛、その小僧の剣と私の剣を同列に考えるのは止めて貰いたい」

 

 凛の言葉を否定するように、三人の背後から声が響いた。

 三人がゆっくりと振り向いて見ると、憮然とした顔をしたアーチャーが立っていた。

 

「アーチャー!!アンタね!!何であんなに援護が遅れたのよ!?危うく全滅するところだったのよ!?」

 

「それに関してはすまない・・・だが、此方も予想外の敵と交戦していたのでな」

 

「予想外の敵?それは誰ですか、アーチャー?」

 

「・・・・・・ライダーだ」

 

「なっ!?ライダーだって!?」

 

 アーチャーが告げた相手に士郎は声を上げ、凛とセイバーは目を細めてアーチャーに何が起きていたのか詳しく聞く。

 

「援護射撃をしようとしていたところにライダーが襲い掛かって来た。恐らくだが、キャスターとライダーは手を組んでいる。一瞬の隙をつかなければ援護など出来ないほど必死だった」

 

「・・・だとしたら厄介ね。強力な『対軍宝具』を所持しているライダーがキャスターと手を結んでいるなんて」

 

「加えて言えば、ライダーの力は以前よりも上がっている。本来のマスターに契約が戻った事によってライダーは本来の力を発揮出来るようになったのだろう」

 

「厄介ですね。だとすれば、益々キャスターの陣地内で戦うのは危険が大き過ぎる」

 

「対策の練り直しは絶対に必要と言う事ね・・・戻りましょう」

 

「あぁ」

 

 凛の言葉に士郎は頷き、セイバーとアーチャーと共に衛宮邸へと戻って行った。

 アーチャーの目に何らかの決意が決まった覚悟の色が宿っていることに気がつかずに。

 

 

 

 

 

 何処かの暗い闇に満ち溢れた空間。

 その場所からアインツベルン以外に街での戦いを“蟲”を通して見ていた者がいた。その者の名は間桐臓硯。『聖杯戦争』の裏で暗躍している者だった。

 その顔は心の底から楽しげに歪んでいた。まるで必死に足掻いている者の行動が愉快だと言いたげに、その顔の口元は邪悪に歪んでいた。

 

「カカカカカカカッ、ライダーの奴も足掻いておるわ。その行動こそがワシの狙いだと知らずに、カカカカカカカカッ!!!」

 

 臓硯はそう笑いながら、背後をゆっくりと振り返り、地面に横になっている少女-『間桐桜』-を見つめる。

 安らかな顔で桜は眠っていた。普通の者ならばその寝顔に心が奪われても可笑しくないほど安らいだ寝顔。だが、眠っている桜の周りには悪意に満ち溢れた影が蠢いていた。一つ一つの影が意思を宿しているかのように動き、臓硯は心の底から愉快そうに見つめる。

 

「カカカカカカッ!流石は最古の王と言うべきか?サーヴァント数体分の魂を吸収したおかげで、『黒の聖杯』は完全に起動した!七騎全て吸収する必要は無い!!後数騎加えれば完成する!」

 

 全てが臓硯の思惑通りだった。

 『黒の聖杯』が完成した事によって起きている出来事にも臓硯は興味が無い。人間を辞めた臓硯の目的はただ一つ、『聖杯の力によって不老不死』になることだけ。その為に五百年生きて『聖杯戦争』の監視を続けて来た。そしてもうすぐソレがなされる段階に至ろうとしていた。

 最大の障害と成るかもしれない『オメガブレード』を持つブラックにも、臓硯は既に危険性が無いと考えていた。ギルガメッシュを吸収した事によって全てのサーヴァントを取り込む必要性は無くなった。一番危険な存在であるブラックを放置して、他のサーヴァントを桜に取り込ませる事で『黒の聖杯』を完成させ願いを叶える。他のサーヴァントならば“アレ”の力を得た桜には勝てない。

 だからこそ、臓硯は自身の勝利を疑ってなかった。ゆっくりと臓硯は安らかな顔で眠っている桜を眺める。こうしている間にも“アレ”の力を手に入れた影が何をしているのかも臓硯は知りながら、全く気にしていない。臓硯にとって自身の願いの前では全て瑣末な出来事でしかないのだから。

 

「焦ってはならぬ。あとほんの僅かでワシの長年の望みは叶うのだから・・・・その為に存分に貴様には働いて貰うぞ、桜よ」

 

 臓硯はそう眠る桜に自ら勝利を確信したような声を掛けた。

 自分が放置しようと決めた存在がとうの昔に己を抹殺することを決めていると知らずに、そして桜の周りで蠢いている影の一つから紅く輝く瞳がジッと臓硯を愉快そうに見つめている事にも気がつかずに、己の勝利を臓硯は確信し笑い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 言峰教会執務室。

 その部屋の主である言峰綺礼は、珍しい事に非常に困惑した顔をしていた。昨夜アインツベルンを強襲した筈のギルガメッシュが戻ってこないばかりか、ギルガメッシュと繋がっていたレイラインまで途絶えてしまったのだ。それが意味する事を綺礼が違える筈が無い。

 “ギルガメッシュがアインツベルンのサーヴァントに敗北した”。しかし、その事実を綺礼は信じられなかった。慢心に満ち溢れているギルガメッシュだが、その実力は英霊で在るならば勝てる存在が少ないほどの実力を持つ存在。十年前の『第四次聖杯戦争』でもギルガメッシュがその気になれば勝てる存在は居ないはず。何よりもギルガメッシュは『受肉』しているので、魔力不足と言う弱点はない。しかし、現実に繋がっていたレイラインは途絶えてしまっている。

 

(・・・此処までくればギルガメッシュの敗退は間違いない。アインツベルンのサーヴァントの実力は、私の予測以上だったと言う事か)

 

 自らの切り札消失の事実に綺礼は内心で慌てながら、自身がどう行動すべきなのか対策を考える。

 その綺礼の背後に何の前触れも無く、ランサーが実体化して考え込んでいる綺礼に声を掛ける。

 

「よう、随分と慌てているようだが?何かあったのか?言峰」

 

「ランサーか?・・・一体何の用だ?お前には各陣営の監視を言い渡して居た筈だが?」

 

「おいおい・・・幾らレイラインを通じて声を掛けても答えなかったのはテメエだろうが?」

 

「ムッ」

 

 ランサーの言葉に綺礼は思わず呻くような声を出した。

 ギルガメッシュの事を考え込んでいて気がつけなかったが、そう言えば確かにレイラインを通じてランサーが語りかけて来たような覚えが綺礼には在った。自らの醜態を晒した事実に綺礼は苦虫を噛み潰したような気持ちを抱きながら、ニヤニヤと笑っているランサーに顔を向ける。

 ランサーからすれば最初のマスターを闇討ちで襲い掛かって命を奪った綺礼の事は、内心では殺したい思いを抱いているが、『主変え』に同意するように『令呪』を使用されているので嫌々ながらも一応従っているに過ぎない。綺礼が見せた醜態に笑みを浮かべながら、ランサーは自分が調べた事の報告を行なう。

 

「報告するぜ。先ず如何言う訳だか、ライダーとキャスターが手を組みやがったみてえだ」

 

「何だと?確か貴様の報告ではアサシンのマスターはキャスター・・・更にキャスターの陣営が強化されたと言う事か?」

 

「だろうな。さっきも街中で戦ってやがった。そん時にライダーはアーチャーも勧誘していたみてえだぜ?詳しい話は距離があって聞こえなかったが、二人で話し合って纏まった後にアーチャーの奴はライダーに邪魔されずに、キャスターに矢を撃ちやがった。もしアーチャーの野郎がライダーの提案に乗っていたら、マスターのお嬢ちゃんも、手を組んでいるセイバーとそのマスターもどうなるか分からないぜ?」

 

「・・・いかんな・・・一つの戦力に最大で四騎のサーヴァントが集まるなど・・・・それ以外には何か報告は在るか?」

 

「他の陣営じゃ、俺が気になったのはそれぐらいだ・・・だが、それとは別にだが・・・この街で失踪者が何人か出ているらしいぜ」

 

「失踪者だと?」

 

「あぁ・・・目立ってないようだが、家に住んでいた連中が消える事件が起きているらしい」

 

「むぅっ・・・其方に関しては教会のスタッフに調べさせよう。ランサー、お前はセイバーとアーチャーの陣営に張り付いておけ。もしもお前の考えの通り、アーチャーが凛を裏切った場合は手を貸してやれ。キャスターの陣営にこれ以上の戦力が集まるのを見過ごす事は出来んからな」

 

「分かった」

 

 ランサーはそう綺礼に返事を返すと共に、その身を霊体化させて綺礼の前から姿を消した。

 残された綺礼はランサーの報告にあった失踪者に関する案件を調べるように教会のスタッフに連絡を行ない、自身はギルガメッシュが抜けた穴をどう挽回するか考えるのだった。

 

 

 

 

 

 一方衛宮邸に戻った士郎、凛、セイバー、アーチャーだったが、今は三人しか衛宮邸に居なかった。

 それと言うのもライダーがキャスターと手を組んでいると報告を受けた凛が、アーチャーに命じて間桐邸の様子を伺って来るように命じたからだった。凛は既にライダーの本当のマスターが誰なのか分かっている。

 しかし、その事を士郎とセイバーには話していなかった。ライダーの本当のマスターは士郎にとっては想像もついていない相手なのだから。何よりも相手側が士郎には知られたくないと思っている。本来ならばそんな事を凛は気にせず話すのだが、ライダーのマスターだけは別だった。だから、士郎とセイバーにはアーチャーは『柳洞寺』の様子を見て来るように命じたと伝えてある。

 士郎はその事も疑わず、セイバーも弓兵の本来の役割を理解しているので凛の説明に疑いは持っておらず、居間で三人はキャスター達に対する対策を考えていた。

 

「キャスターとライダーが手を組んだのはかなり不味いわね」

 

「えぇ・・・ですが、キャスターにしろ、ライダーにしろ、彼女達が本領を発揮出来る場所は人目につかない場所です。特にライダーが召喚する『天馬』は凄まじい力を発揮しますが、その分使いどころは限られています」

 

「そうね・・・葛木先生の実力は予想外だったけれど、次に戦えばセイバーは遅れを取らないし、アーチャーも居る・・・それに『宝具』の『投影』なんて事を行なえた衛宮君も居るからね」

 

「俺自身驚いているさ。まさか『宝具』まで『投影』出来るなんて思いもしなかった。無我夢中だったのが幸いしたのかも知れない」

 

「火事場の馬鹿力ってやつかしらね・・・・だけど、衛宮君?貴方も知っていると思うけど、分を超えた魔術は身を滅ぼすわ。アーチャーの剣が『投影』出来たのは相性が良かったから、他のサーヴァントの武器を『投影』するなんて控えなさい」

 

「同感です。士郎の力は確かに強力ですが、何かしらの反動が来る可能性もあります。使用には充分に注意を払うべきでしょう」

 

「あぁ、分かってる」

 

 自らが得た力を実感しながら士郎は凛とセイバーの忠告を胸に刻む。

 そしてゆっくりと時計に目を向けて見ると、そろそろ大河がやって来る時間だと言う事に気がつく。

 

「そろそろ藤姉が来る時間だな。夕食の準備をして来る」

 

「じゃ、私は今の内に工房の方に行って来るわ。夜になったらキャスターとライダーが本格的に攻めて来るかもしれないから、今の内に備えをしておかないとね」

 

「では、私はアーチャーの代わりに周辺の警戒に勤めます」

 

 士郎、凛、セイバーはそれぞれ自らの行なう事を告げて動き出す。

 魔女が既に手を打っている事を知らずに、三人は自分達がすべき事を行なう為に動き出すのだった。




区切りが良い場所で終わらせました。
勘の良い人は次回の流れが推察できたと思います。

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