運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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魔女との戦いの始まり

 境内内部。歴史を感じさせる木で作られた床に座りながらキャスターは交渉しに来たライダーと対面していた。

 ライダーの背後にはアサシンが立ち、ライダーの首を何時でも切り落とせるように自身の長物を構えていた。少しでも不審な動きを見せたり、或いはキャスターかアサシンの気が変われば命を奪われる現状に在りながらもライダーは真っ直ぐにキャスターに視線を見つめる。

 

「・・・・それで?私達の命運を握るほどの重大な話とは何かしら?」

 

「その前に聞きますが・・・キャスター?・・貴女は何処までこの地で行なわれている『聖杯戦争』の仕組みを理解していますか?」

 

「・・・そう・・・どうやら貴女も知っているようね。この地に現れるとされる『聖杯』が紛い物だと言う事を」

 

 神代時代の魔術師であるキャスターは他陣営の動きを監視する中も、冬木で行なわれている『聖杯戦争』の仕組みを調べていた。

 その結果、この地に現れる『聖杯』は伝説に名を残している『聖杯』とは、全く別の代物だと言う事を理解していた。一応願望器としての力は宿っているが、それ以外に何か別の機能が『聖杯』に宿っている事まではキャスターは掴んでいた。

 

「私達『英霊』を現世に呼び出し、しかも自らの意思と関係なく『自害』までさせられるサーヴァントの『令呪』システム。間違いなくこの『聖杯戦争』を構築した者達は神代の魔術師達に及ぶ実力者だわ。最も『聖杯』が完成した時に願望器としての機能以外にも何か在るみたいね。恐らくはその機能の方こそが、『聖杯戦争』を構築した魔術師達の本命だろうと言う事までは掴んでいるわ」

 

「流石はキャスター。では、私が知る『聖杯』に宿っている願望器として以外の機能をお教えします。『聖杯』の本来の機能。それは・・・『穴』を作り上げる機能です」

 

「『穴』?・・・・・・ッ!?まさか!?『聖杯』の本来の機能とは!?」

 

 ライダーから得られた情報と自身が調べ上げた『聖杯戦争』のシステムの調査情報を照らし合わせたキャスターは、驚愕に目を見開いた。

 『聖杯』に隠されている最後の機能。『英霊』、『令呪』、そして『聖杯』の三つ。これらは『聖杯戦争』に於いて何よりも重大な代物。それら全てに宿っていた隠されていた役割をキャスターは遂にライダーからの情報で掴み取った。

 

「・・・そう・・・そう言う事だったのね・・・やってくれるわね。私達『英霊』は“餌”に過ぎなかった訳ね・・・・それでライダー・・・この事実を私達に教えたのはどう言うつもりかしら?」

 

「先ずは『聖杯』に関して正しい認識を持って欲しかったのが理由の一つです。そして此処からが本題です。実を言えば此処の『聖杯』は既に・・・・“壊れています”」

 

「ッ!?・・・・“壊れている”?・・・いえ、確かにそうかもしれないわ・・・其処のアサシンが証拠の一つと言っても良いわね」

 

「随分な言い草だな、女狐・・・・とは言っても、お主の言葉が事実なのは確かよ。私のような存在が召喚されたのだからな」

 

 キャスターの言葉にアサシンは苦笑を浮かべながらも、キャスターの言葉が正しい事を肯定した。

 本来『アサシン』のクラスとして召喚されるサーヴァントは、他のクラスのサーヴァントと違い歴代の『ハサン・サッバーハ』の頭首しか呼び出されない。だが、今回のアサシンは『ハサン・サッバーハ』と全く関係ない者が呼び出された。

 実力は問題ないので気にしていなかったが、ライダーからの情報を照らし合わせれば、確かに『聖杯戦争』に異常が起きている可能性を高める証拠の一つだった。

 その異常の正体を知っている筈のライダーにキャスターは僅かに口元を歪める。何せ小出しに出される断片的な情報だけでも、ライダーが自分達にとって切り札になる情報を握っていることは明らかだった。情報だけを得られれば、ライダーを切り捨てようとキャスターは考えていたが、切り捨てられなくなった。もしも切り捨てて重大な情報を失うのはキャスターとしては本意では無いのだから。

 

「(やってくれるわね。最初に『聖杯戦争』の真実を教えたのは自分の身の安全の為と言う事ね・・・確かにライダーと手を組んだ場合のメリットは計り知れない。だけど一つ見逃せない問題が在るわね)・・・・其方が確かに私達にとって重大な情報を握っているのは事実見たいね。だけど、私は寝首を掛かれる可能性がある者と手を組みたくないの。貴女自身には問題は無くても『令呪』によって強制される可能性があるのだか…」

 

「その点に関しては問題はありません。私のマスターは既に『令呪』を三画とも使い切っています」

 

「・・・・どういう命令で使用したのか教えて貰えるかしら?」

 

「えぇ・・・先ずは私を従えていた間桐慎二へ命令権を渡す為に必要な『偽臣の書』の為に一画。二画目の命令は『衛宮士郎をどんな手を使っても構わないから護る』事です」

 

「何ですって!?他のマスターを護る為に貴女のマスターは『令呪』を使用したと言うの!?」

 

「そうです。そして三画目は『二つ目の『令呪』による命令を何が起きても実行する』と言う内容です」

 

「・・・・・・」

 

 余りの『令呪』による命令の内容にキャスターは言葉を失った。

 『令呪』の存在は何よりも重大なモノ。その『令呪』をよりにもよって他のマスターを護る為にライダーのマスターは使用した。真実かどうかはともかく、同盟も組んでいないセイバーのマスターである衛宮士郎を護る為に『令呪』を使用したとなれば、ライダーの本当のマスターがどのような感情を衛宮士郎に抱いているのかキャスターには察することが出来た。

 

「・・・・・本当かはともかく、確かに真実だとすれば貴女が寝首をかくとは考え難いわね。でも、それで手を組むかは別よ。そろそろ話して貰うわ?貴女が握っている私達の命運を握ると言う情報を?」

 

「もちろんです・・・では説明します」

 

 そしてライダーは話し出す。現在の『聖杯戦争』に起きようとしている出来事。

 キャスターとアサシンを狙っている間桐臓硯と言う妖怪の存在。自らがキャスターと手を組む上での要求内容。その内容の中に本来のマスターが『令呪』で命じた『衛宮士郎に対しては何も行なってはならない』と言う条件も組み入れられていた。

 重要な情報を聞き終えたキャスターはゆっくりとアサシンに目を向け、アサシンが頷き返すと共に右手の手袋を取って『令呪』を晒す。

 

「『アサシン、自らの体に異変を感じ次第に自害しなさい』」

 

「仕方あるまいな」

 

 キャスターの強制的な命令にアサシンは同意するように頷いた。

 何故キャスターがアサシンに対して『令呪』を使用することが出来るのかと言うと、アサシンはキャスターが召喚したサーヴァントだからである。『令呪』を獲得した魔術師ならばサーヴァントを召喚する権利を得ることが出来る。

 魔術師のサーヴァントであるキャスターもソレは例外ではない。無論それは暴論に近い事だが、キャスターはその裏技を使用してアサシンの召喚を成功させた。しかし、その裏技はデメリットが一つ存在していた。そのデメリットとはアサシンは今居る場所の山門から遠く離れる事が出来ないと言う事だった。一応寺内部には入れるが、他のサーヴァントのようにアサシンは自由に動き回れる事が出来ない。

 先の『令呪獲得戦』のおりにキャスターがアサシンを仕向けられなかったのは、そのデメリットのせいだった。その他にも今回のアサシンには不安定な部分が多い。

 ライダーからの情報で其処を付かれる可能性が高い事が判明したので、キャスターは『令呪』の使用を踏み切ったのだ。

 

「これだけの情報を与えてくれて、更に私達に力を貸すと言うなら貴女の要求を叶える事を私の真名に於いて誓うわ、メドゥーサ」

 

「感謝します、キャスター。それと此れが私のマスターの髪の毛です」

 

 ライダーはそう言いながら、服の中からハンカチで丁寧に包まれていた紫色の髪の毛をキャスターに差し出した。

 キャスターは差し出されたハンカチの上に乗っている髪の毛を慎重に受け取り、即座にローブの中に入っていた試験管のような物に仕舞う。

 

「分かっているでしょうけど、貴女のマスターを確実に私が救えると言う保障はまだ無いわ。今の説明では急いで完成させた為に不安定な部分も在る様だけれど」

 

「その調整を考えれば一日か二日は時間が在る筈です・・・その間に此方も態勢を整える事が出来れば」

 

「そうね・・・・貴女の話が事実ならば戦力の増強は必要ね・・・質問するけど?貴女のマスターが命じた護るべき相手は『衛宮士郎』だけなのね?」

 

「えぇ、そうです・・・“彼女”にとっての実の姉やその他の親しい者を護る命令は受けていません」

 

「そう・・・(なら、問題は無いわね)」

 

 兼ねてより考えていた手段の実行に問題が無いことを悟ったキャスターは、口元を笑みで歪めるのだった。

 

 

 

 

 

 一方、各陣営でそれぞれ動きが現れだした頃の衛宮邸では、凛が用意した道具を士郎が『投影』を使って具現化させる練習が行なわれていた。

 土倉に在った鍋やヤカンを始め、アーチャーに命じて遠坂邸から持って来させた盾や剣、槍、弓などとにかく衛宮邸にある物も含めて士郎の魔力が持つまで『投影』を行なわせた。

 

「ゼェ、ゼェ、ハァ、ハァ」

 

 魔力を限界まで消費した士郎は荒い息を吐きながら、自身が『投影』した物を見つめていた。

 それを横で眺めていた凛はゆっくりと何かを確かめるようにそれぞれ手に取って行く。

 

「う~ん、色々と試してみたけれど殆どが中身の無いガラクタね・・・最もこれは別物だけれど」

 

 士郎が『投影』した物の中からゆっくりと凛は、遠坂邸からアーチャーが持って来た年代物の剣を取る。

 ソレは正確に言えば凛がアーチャーに持って来るように命じた剣を士郎が『投影』した物。その剣だけは他の多くのガラクタと違い、確りと中身が存在し、実用にも充分に耐えられる代物だった。

 

「衛宮君・・・この剣を投影した時に何か他と違う印象を感じなかった?」

 

「あぁ・・・確かに感じた。何時もの『解析』と違って何時作られたのか、材質は何なのかって・・・とにかく何時もよりも解析の情報が多かったんだ」

 

「そう・・・なら、間違いないわね。衛宮君・・・貴方の魔術師の属性は『剣』よ」

 

「『剣』が属性?」

 

「そう・・・魔術師は自分に在った属性なら効果が上がるのは分かっているでしょう?貴方の場合はソレが『剣』って言う異常な属性なのよ。正確に言えば刀剣類全般かしらね。槍の方も問題ないし、後は弓道をやっていたのか弓ぐらいね」

 

 『投影』された中から実用に耐える事が出来そうな物を分別しながら、凛は士郎の魔術師としての属性に関して話した。

 

「それで・・・俺の属性が『剣』だとして、出来そうなことは在るか?サーヴァントにダメージを与えたり?」

 

「それは無理ね。確かに『投影』した物は魔力を帯びているけれど、神秘の塊であるサーヴァントにダメージを与えられる代物じゃないわ。だけど、魔術師戦なら別かも知れないわ。例えば何も手に持っていないのに衛宮君が突進して、相手の魔術師が油断したその時に『投影』して武器を出現させるとかね」

 

「なるほど・・・いきなり武器が現れたら相手は驚くって事か?」

 

「そう言う事。貴方の投影魔術は普通とは違うから、絶対に相手は驚くわ。サーヴァント戦は無理だとしても、魔術師戦ならチャンスを作れる可能性が出来たわね」

 

 そう凛は現状で士郎が出来る戦いに関して自身の考えを告げた。

 実際に士郎の異常な投影魔術は魔術師戦ならば戦力になる。しかし、士郎が望んでいるサーヴァント戦での戦力は望めない。幾ら異常な投影魔術とは言え、流石に『宝具』の『投影』など凛は出来ると思えなかった。更に言えば分を超えた魔術は術者に必ず跳ね返って甚大なダメージを及ぼすのだから、『宝具』の『投影』はどれだけ士郎にダメージを与えるのか凛には想像もつかない。

 

「とにかく、今投影した家の剣を主力として戦うのが良いわね」

 

「分かった・・・それで、キャスターの拠点が『柳洞寺』の可能性が高いのは事実なのか?」

 

「えぇ・・・セイバーにも確認したけれど、『柳洞寺』は遠坂邸よりも高位の霊脈らしいのよ。十年前の『聖杯戦争』では拠点として使うマスターは居なかったらしいけれど、冬木中から魔力を奪うには一番効率が良い場所よ。キャスターが拠点にしている可能性は高いわ」

 

「・・・確か遠坂の話だと学校でルインって言うサーヴァントの女性が、学校内にキャスターのマスターは学校の誰かと言ったらしいけれど・・・『柳洞寺』・・・まさか、一成がマスターとかじゃないよな?」

 

 『柳洞寺』の住職の息子である柳洞一成の事を思い出した士郎は、また親しい者が敵となるかも知れない事実に顔を歪めた。

 慎二の事がまだ割り切れていないと凛は察するが、その士郎の考えを否定するために自身の考えを告げる。

 

「そうとは限らないわよ。実は夕食の時に来た藤村先生から聞いたんだけど、『柳洞寺』にはもう一人。学園の関係者が住んでいることが分かったのよ」

 

「本当か?それで一体誰が?」

 

「論理の葛木先生よ。どうもあの人は『柳洞寺』に下宿しているみたいなの。キャスターを召喚したマスターはイリヤスフィールのサーヴァントが倒したようだし、『はぐれサーヴァント』になったキャスターが魔術師じゃない一般人をマスターにした可能性は高いわ」

 

「って事は、やっぱり一成か葛木先生のどちらかがマスターの可能性が高い訳だな?」

 

「でしょうね・・・とにかく明日藤村先生の話だと学校の復帰に関しての会議が学校で行なわれるそうだから、葛木先生がマスターかどうか確かめるには良い機会だわ。衛宮君とセイバーも参加するわよね?」

 

「・・・あぁ、もちろんだ」

 

 士郎としては出来ることならば知り合いとこれ以上争いたくは無いが、キャスターが無関係な人々を襲っているのは見過ごすことが出来ない。

 慎二の時のようなミスは絶対に繰り返さないと心に固く誓いながら、士郎は魔術の鍛錬に打ち込んで行く。今まで成功率が低かった『強化』の魔術も、自らが『投影』した物ならば成功するのが判明し、今日の魔術鍛錬は終わった。

 そして深夜。明日の事を思って眠れなかった士郎は、縁側に座って夜空に浮かぶ月を眺めていた。その手には今日の魔術鍛錬で『投影』に成功した剣が握られていて、何かを確かめるように見つめていた。

 

「・・・・『剣』が俺の属性か・・・・この力で『聖杯戦争』を勝ち抜いていかないといけないんだよな」

 

「こんな夜更けに何をしている、衛宮士郎」

 

「アーチャーか」

 

 突然自分に呼びかけて来たアーチャーに驚くことなく、士郎は顔を上げて何時の間にか自分の前に立っていたアーチャーに顔を向けた。

 

「何のようだ?」

 

「何、見張りをしていたらお前が縁側に出るのが見えたのでな・・・それにしても、それが今日の魔術の鍛錬で貴様が『投影』したと言う剣か?」

 

「あぁ、そうだ・・・『投影』をどう使って戦えば良いのか考えていたんだ」

 

「なるほど・・・・少しは私の言葉が身に染みたようだな。だが、貴様の力ではこれから先に戦う相手にしても何も出来ないだろう」

 

「喧嘩を売っているのか?お前」

 

「・・・本来は敵になる可能性がある貴様に助言などしたくないが、凛が気にしているようだからな・・・・一度しか言わんから良く聞け。戦いになれば衛宮士郎に勝ち目は無い。ならば、せめて想像の中で勝て。貴様の戦いは現実ではなく、イメージの中での戦いだと思え」

 

「どういう意味だよ?それは?」

 

「一度しか言わんと言った筈だ。では、私は警護に戻らせて貰う。貴様も早く休むのだな」

 

 アーチャーはそう士郎に背中を向けながら告げると共に、その身を霊体化させて士郎の前から姿を消した。

 残された士郎は言葉に隠されている意味が分からずとも、アーチャーが告げた言葉は自分にとって何か重要な事だと考えながら明日の為に自身の部屋へと戻って行く。その様子を屋根の上から眺めていたアーチャーは自らの行動に苦笑を思わず浮かべる。

 

「・・・私もどうかしている・・・“自分が殺したいと思っている相手に、助言をするなど”・・・だが、あの衛宮士郎はもしかしたら私とは違う道を進むかも知れん・・・・間桐慎二の事は必ず奴に影響を及ぼすのだから・・・しかし、もしも奴が変わらないままならば」

 

 それ以上アーチャーは言葉にすることなく、自らの部屋に入って行く士郎の事を様々な感情が篭もっている目で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 翌日の昼近く、藤村大河からの情報で学校の会議が終わる時間帯に士郎、セイバー、凛は学校の近くで待機していた。

 土地勘のある士郎と凛で葛木宗一郎が『柳洞寺』に帰る方向を予測し、万が一方向が違っていた場合は霊体化して葛木を見張っているアーチャーから連絡が届く手筈になっている。

 

「それじゃ今朝話したように、弱めのガントを葛木先生に撃ち込んでマスターかどうか確かめるわね。弱めだから眩暈がする程度だし、問題は無い筈よ」

 

「分かった。だけど、本当に弱めで頼むぞ。あんまり影響が出るのは止めて欲しいからな」

 

「分かってるわよ・・・それと本当に葛木先生がマスターでキャスターが出て来た場合は、セイバー頼むわよ。貴女の『対魔力』なら大抵の魔術は無効出来る事に間違いないんだからね」

 

「はい。イリヤスフィールの横に居る女性には不覚を取りましたが、キャスターの魔術の大半は防げる自信はあります」

 

 セイバーはそう自らの意気込みを語り、凛は満足そうに頷きながら持っていた缶コーヒーを飲む。

 すると、学校で葛木を見張っているアーチャーから連絡がレイラインを通して届いて来る。

 

(凛。学校から例の葛木宗一郎が出た。他の教師達と一緒に行動せず、一人で『柳洞寺』の方面に向かって歩いている)

 

(そのまま貴方は監視を続けて。例の襲う予定のポイントから離れたと思ったらすぐに連絡をお願い)

 

(了解した。もしもあの人物がキャスターのマスターだった場合は、私は予定通りに狙撃すれば良いのだな?)

 

(えぇ。幾らキャスターでもセイバーを相手にしながら、貴方への対処は無理だろうからお願いね)

 

 そう凛はアーチャーに指示を伝えると共に、自身に視線を向けて来ているセイバーと士郎に顔を向けて頷く。

 

「予定通りにこっちに葛木先生は向かって来ているわ。襲う予定のポイントに辿り着いたらやるわよ」

 

 その凛の言葉に士郎とセイバーは頷き、三人は襲撃を掛ける予定のポイントへと急いで向かう。

 商店街から離れ、人通りも少ない場所に身を潜めながら三人は葛木が来るのを静かに待つ。ジッと来るであろう方向を見つめていると、道の曲がり角から長身で身をスーツで進み眼鏡を掛けた寡黙そうな男性-『葛木宗一郎』-が三人の前に姿を現し、無防備に背中を見せる。

 

「・・・昼間だけれど、葛木先生がマスターかどうか確かめるわよ。人払いの結界も張ったし」

 

「分かってる」

 

「・・・それじゃ!行くわよ!!」

 

 凛は叫ぶと共に身を晒し、葛木の無防備な背中に向かって右手の人差し指を構えてガントを撃ち出す。

 

「ハァッ!!」

 

 人差し指から放たれたガントは真っ直ぐに葛木の背に向かって突き進む。

 しかし、当たると思われた瞬間、突然にガントは葛木の背から逸れて電柱に直撃する。

 

(今のは逸らされた!?なら、やっぱり、この人が!?)

 

「・・・獲物が三人、お前の言葉通りに掛かったようだな、キャスター」

 

『えぇ、そのようですわね、宗一郎様』

 

 ゆっくりと葛木が凛に向かって振り返ると共に、何処からともなくキャスターの言葉が響いた。

 その声を聞いたセイバーは即座に青いドレスと白銀に輝く鎧を纏い、士郎も持って来ていた木刀を手に持ちながら凛の横に立つ。

 

「衛宮に遠坂か。やはり、今日私達を襲って来たのはお前達か」

 

「あら、先生?私達が襲って来るのがわかっていたみたいですね」

 

「キャスターの話では、現状でまともに動ける陣営はお前達だけらしいのでな」

 

(私達だけ?・・・どういう事?イリヤスフィール達や他の陣営に何か起きているって事なの?)

 

 葛木の言葉に疑問を抱きながらも凛は油断せず葛木を見つめていると、葛木はゆっくり手に持っていた鞄を地面に下ろし、眼鏡も外して油断無く士郎とセイバー、凛を見つめる。

 ソレと共に葛木の足元の影からせり上がる様にキャスターが、その姿を三人の前に現す。

 

「こんにちはセイバーのサーヴァントに、そのマスターの少年、そしてアーチャーのマスターのお嬢さん。昼間だと言うのに攻撃して来るなんて驚いたわ」

 

「よく言うわね。私達が襲う可能性を見越していたくせに」

 

「フフッ、その通りよ。そして罠に嵌まったのは其方だと言う事も考えるのね」

 

 ゆっくりとキャスターはそう告げながら、葛木の両腕に補助を掛けて強力な『強化』の魔術も施して行く。

 葛木は自らに補助が掛かったのを確認すると、士郎、凛、セイバーに向かって一歩踏み出して三人を睨みつける。明らかに戦う気など察した士郎は木刀の柄を強く握りながら、葛木に向かって質問する。

 

「葛木先生」

 

「何だ、衛宮?」

 

「アンタはキャスターのしている事を知っているのか?ソイツは無関係な人達をガス事故を装って襲っているんだぞ?そんな奴に協力するのか?」

 

「無論だ」

 

「なっ!?」

 

 葛木の迷いの無い言葉に士郎は思わず声を上げ、セイバーと凛も険しい視線を葛木に向ける。

 しかし、葛木は何も感じていないのか自らの考えを三人に向かって告げる。

 

「私にとっては他人がどうなろうと構わない。寧ろキャスターのやり方は手緩いと感じる。最も間桐慎二のようなやり方は認めんがな」

 

「アンタはキャスターに操られてる訳じゃないのか!?」

 

「無論だ。私は私の意志で行動している。そして私はキャスターから昨夜見過ごせない重大な事実を知った。『聖杯戦争』になど興味は無かったが、放置して於く訳にも行かなくなった。衛宮に遠坂よ。『聖杯戦争』から降りると言うならば手荒な事は止めるが?」

 

「冗談じゃないわね。見過ごせない事が何か知らないけれど、私も『聖杯戦争』には覚悟を決めて参加しているのよ」

 

「キャスターがしている事をこれ以上見過ごせるか!葛木!!俺達はアンタとキャスターを倒す!!」

 

「フゥ~・・・・セイバーも同意見かしら?」

 

「無論だ、キャスター。無辜の民に被害を及ぼす貴様らの所業・・・騎士としてこれ以上見過ごす事は出来ない」

 

「・・・そう」

 

 セイバーの宣言にキャスターは口元を歪めながら、何処からとも無く杖を出現させて自らも戦闘態勢を整え、戦いが開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 凛達と葛木、キャスターが対峙している場所から離れた地点にある一軒家の屋根の上。

 その場所には隙在らば狙撃しようと考えていたアーチャーが弓を構えていたが、今は弓を消して両手に黒と白の双剣を持って目の前に突然に現れたライダーと対峙していた。

 

「・・・どう言うつもりかね?君が何故私の邪魔をする?」

 

「そう言う手筈でしたので」

 

「・・・・・なるほど、どのような経緯かは分からないが、君はキャスターと手を組んだと言う訳か。どうやら我々の方が罠に嵌まったと言うようだな」

 

 ライダーの言葉にアーチャーは目を細めて、黒と白の双剣を握る手に力を込める。

 まんまと誘い込まれたのは自分達の方だとアーチャーは理解した。このままでは全滅も免れないと悟り、何とかして目の前に立っているライダーを出し抜こうとアーチャーは考えるが、その考えを遮るようにライダーが口を開く。

 

「そんなに警戒しなくても、私は貴方に攻撃は出来ませんので安心して下さい」

 

「・・・どう言う意味かね?」

 

「私も驚きました。いえ、実を言えば貴方の考えている通り、私は狙撃しようとしていた貴方を邪魔する事が目的だったのですが・・・予想外な事に貴方に私は攻撃出来ないのです、■■■■■■」

 

「ッ!?」

 

 ライダーがアーチャーに対して呼びかけた名前に、アーチャーは顔を取り繕うのも忘れて動揺を浮かべた。

 それほどまでにライダーの言葉はアーチャーが動揺を隠せなかった事のほどだった。何せその名前はアーチャーがマスターである凛にも隠している真名だったのだから。その真名を何故接触が少ないライダーが知っているのかとアーチャーは警戒心を強めながら、ライダーを睨みつける。

 

「・・・何故君がその名を知っているのかね?」

 

「こうして対峙したからですよ・・・アーチャー、貴方が本当に■■■■■■なら、私達に協力してくれませんか?桜を救う為に」

 

「どう言うことかね?桜に何が起きていると言うのだ?ライダー」

 

「話を聞く気になったようですね・・・では、お話しましょう。桜に関して」

 

 ライダーはそう告げながら、戦えない代わりの“時間稼ぎ”の為にアーチャーに自身が持っている情報を話すのだった。


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