運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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恐怖の根源召喚

 世界から外れた場所に位置する空間。

 魔術師達が『英霊の座』と呼ぶ位置の更に奥深くに、まるで干渉さえも禁じられた空間だと言うように封じられた『英霊の座』が存在していた。その空間だけには触れてはならないと言うように、『英霊の座』は雁字搦めに封印され、その『英霊の座』の主も『座』の中で無数の鎖に封じられていた。

 その『英霊の座』の主も『座』の中で正体も知られては不味いと言うように、姿さえも覆い隠す程の鎖で雁字搦めに封じられ、ゆっくりと眠りについていた。

 だが、決して干渉してならない『座』に干渉するように悪しき邪念と一つの切実な想いが篭もった魔力、そして詠唱らしき声が届く。

 

ーーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ。

    されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者ーーー

 

(・・・・・・・ククククッ!!!!俺を手繰る者だと?・・・・笑わせる。誰だか知らんが俺を手繰る者などと下らん事を言ってくれたな!!)

 

ーーー汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!!---

 

(良いだろう!この場所に繋がれるのも飽きていたところだ!!!現世で暴れられるのならば、この声に応じてやろう!!!)

 

 何処からともなくと届いて来た詠唱に応じるように、『座』に縛られていた存在は自身を縛っていた鎖を全て粉砕し、その身を完全に現した。

 同時に悲鳴を上げるように空間が軋みを上げ、何としてもその存在を外に出さないと言うように無数の鎖が伸びるが、ソレを粉砕するように漆黒の大剣が振り抜かれ、封じられていた存在は現世へと向かい出したのだった。

 

 

 

 

 

 遠く北の果てに存在する閉鎖的な魔術師の一族アインツベルン。

 日本の冬木市と言う土地で行なわれている魔術儀式-『聖杯戦争』を構築した始まりの御三家の一つ。

 巨大な古城の一角で『聖杯戦争』に参加する為に、今回の『聖杯戦争』の参加者である年頃は十歳前後の雪の精を思わせるような可憐な容姿の少女-『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』が開催よりも二ヶ月も早く参加資格であるサーヴァントの召喚を行なっていた。

 本来ならば『聖杯戦争』が始まる二ヶ月も前にサーヴァントの召喚を行うなど不可能に近い筈なのだが、イリヤスフィールはとある事情によって不可能を可能にする事が出来た。

 呼び出そうとしている英霊の名は『ヘラクレス』。前回の聖杯戦争での失敗を活かし、今回のアインツベルンの召喚するサーヴァントは七クラスの内、狂戦士のクラスである『バーサーカー』。大英雄の『ヘラクレス』を狂戦士にし、純粋な力だけで今回の聖杯戦争での勝利者となるのがアインツベルンの戦略だった。

 聖遺物も揃い、サーヴァントを支えるマスターとして最高の適性を持っているイリヤスフィールならば失敗は在り得ないと召喚の場に集まっているアインツベルンの誰もが考えていた。

 だが、その考えを否定するかのように召喚の魔法陣から荒々しい膨大な想念が立ち上り、イリヤスフィールの魔力が凄まじい勢いで吸い取られて行く。

 

「キャアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「こ、これは一体!?」

 

 毅然として立っていたイリヤスフィールが胸を押さえながら床をのた打ち回る姿に、召喚の儀を見ていたアインツベルンの現頭首であるアハト翁も驚愕に満ちた声で叫んだ。

 まさか、英霊ではない何かを召喚してしまったのではと召喚の場に集っていた誰もが思いながら魔法陣を見つめていると、突如として魔法陣から凄まじいまでの黒い光が溢れ、広間を覆い尽くす。一瞬にして明かりさえも見えない場に変わった事に誰もが驚愕に目を見回していると、徐々に黒い光はまるでビデオが巻き戻るように魔法陣へと集約する。

 そして魔力が吸い取られるのが落ち着いたイリヤスフィールが、荒い呼吸をしながら胸を押さえて顔を上げてみると、自身を覆いつくすほどの巨大な影に気がつく。

 一体何なのだとイリヤスフィールが顔を上げてみると、其処にはまるで闇が具現化したかのような漆黒の体に、金色の髪が後頭部から広がり、鈍く光る銀色の兜と胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に、三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人が負の魔力を撒き散らしながら立っていた。

 イリヤスフィールはその魔力に生物として原初の恐怖を感じながら、漆黒の竜人を見つめると、サーヴァントのマスターとしての能力で目の前にいる相手のパラメータが映る。

 

【クラス】バーサーカー

【マスター】イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

【真名】???

【性別】男性

【属性】混沌・悪

【ステータス】

【筋力】  A++  【魔力】  B

  【耐久】  A+  【幸運】  A

  【敏捷】  A++  【宝具】  EX

【クラス別スキル】狂化:E

【保有スキル】気配遮断:A+

       心眼(真):EX

       戦闘続行:A+

       直感:A

 

「・・・・何?・・・このサーヴァント?・・こんなステータス・・今までの聖杯戦争のサーヴァントにだって記録されて無いわ?」

 

 余りの巨大なステータスにイリヤスフィールは呆然とした声を出して、自身の前に立つ漆黒の竜人を見つめていると、ゆっくりと漆黒の竜人は辺りを見回し、まるで確かめるように腕を横に振るう。

 漆黒の竜人がブン、と右腕を振るう音と共に凄まじい風圧が発生し、その先に在った窓ガラスが全て風圧に寄って粉砕され、ソレと共にその方向に運悪く立っていた数名のアインツベルンの魔術師が叫び声も出せずに外へと吹き飛ばされて行った。

 いきなりの行動に広間に居た誰もが声を失って呆然と漆黒の竜人を見つめるが、漆黒の竜人は苛立たしげに自身を右腕を見つめる。

 

「チィッ!!・・・・此処まで弱体化しているとはな・・・まぁ、戦えるのならば我慢するか」

 

「・・・嘘・・・・喋った?・・・バーサーカーのクラスで呼んだのに」

 

 口を利いた漆黒の竜人の姿に、イリヤは呆然と信じられないものを見たと言うように声を上げた。

 バーサーカーのクラスとは文字通り狂った者を呼び出すクラス。本来ならば口を利くだけの理性など存在していないにも関わらず、目の前に立つ漆黒の竜人は平然と声を上げた。

 広間に居る誰もが。召喚者であるイリヤスフィールでさえも声を失って漆黒の竜人を見つめるが、突然に広間にパチパチと拍手が鳴り響く。

 

「良くぞやった、イリヤスフィールよ。目的の英霊では無かったが、このサーヴァントは紛れも無く『最凶』のサーヴァント。此度こそ必ずや我らアインツベルンの悲願である第三魔法『天の聖杯(ヘブンズフィール)』は成就されるであろう」

 

 そうアハト翁は声の中に呪詛を秘めながらイリヤスフィールに声を掛けた。

 イリヤはその声に毅然と立ち上がろうとするが、アハト翁が近づいた瞬間、突如として背後に居た漆黒の竜人がもはやこの場に用は無いと言うようにイリヤスフィールにもアハト翁に対しても背を向ける。

 

「下らん。貴様らの考えなどで俺を縛るな」

 

「何だと?・・・口の聞き方に注意しろ、サーヴァント(道具)よ。お前はイリヤスフィールに召喚されたサーヴァントなのだ。我らアインツベルンに従うのは当然の義務だ」

 

「俺は誰にも従わん。呼び声に応じたのは『座』から抜け出す為に過ぎん。『聖杯戦争』とやらに参加する英霊どもとは戦ってやるが、それ以外に貴様らに対してなど興味は欠片も湧かん」

 

「・・・イリヤスフィール。そのサーヴァントに教えてやるが良い。所詮自身がマスターに従うしかないサーヴァントだと言う事を」

 

「お爺様。令呪を使うのは幾ら何でも早計では」

 

 イリヤスフィールは今後の『聖杯戦争』の事も考えて声を出すが、アハト翁は怒りを込めた眼差しで漆黒の竜人を見つめていた。

 アインツベルンの千年に至る悲願を漆黒の竜人は知らずとも『下らん』と言う言葉で切り捨てた。その言葉は盲執に囚われているアハト翁にとっては赦し難い事だった。『聖杯戦争』で三回しか使えない令呪を早々使うのは不味いかも知れないが、目の前に居る漆黒の竜人には首輪が必要だとアハト翁は感じていた。

 もしも首輪を付けなければ漆黒の竜人が好き勝手に暴れるとアハト翁は感じていたのだろう。その考えは間違いでは無かった。だが、付ける首輪をアハト翁は間違った。漆黒の竜人に対して令呪と言う強制的な首輪を使うこと自体が間違っていたのだ。それを表すように漆黒の竜人は低い声で“命じる”。

 

「やれ・・・・ルイン」

 

「仰せのままに、マイロード」

 

『ッ!!』

 

 突然に広間に響いたアインツベルンで聞いた事も無い声に、広間に居たアインツベルンの関係者全員が目を見開いた瞬間、女性の右腕がアハト翁の胴体を貫く。

 

「グハッ!!!」

 

「えっ?」

 

 アハト翁の胴体を貫き、血が辺りに飛び散るのを目にしたイリヤスフィールは呆然とアハト翁の胴体を貫いている右腕の主である銀色の髪に蒼い瞳の長身でロングコートを身に纏った女性を見つめる。

 その女性から発せられている気配は明らかにサーヴァントの気配。だが、自身が召喚したサーヴァントは漆黒の竜人のはず。在り得ないはずの二体目のサーヴァントの出現にイリヤスフィールだけではなく、広間に居たアインツベルンの関係者全員が固まってしまう。もしもこの時に固まらずにイリヤスフィールが動いていたら、アハト翁は助かっていただろう。

 しかし、イリヤスフィールを含めた誰もが固まってしまい、漆黒の竜人の指示を止められるものは一人も居なかった。

 

「さようなら、妄執に固まった老害さん。ディバインバスター」

 

ーーードグオオオオン!!!

 

 女性-『ルイン』-は低い声でアハト翁に別れの言葉を告げると共にアハト翁を貫いている右腕は無く、左手から黒い砲撃が放たれ、アハト翁を貫いたばかりかその先に在った城の壁も粉砕した。

 砲撃が止んだ後に残されたのは巨大な穴が開いた城の外壁に、上半身を完全に失ったアハト翁の亡骸。第二次聖杯戦争から現在の第五次聖杯戦争。実に一世紀どころか二世紀近くもアインツベルンを統べ、頭首の座に居た老魔術師の最後にしては余りにも呆気無さ過ぎる最後だった。

 生まれる前からずっと自身を支配して来たアハト翁の余りにも呆気無さ過ぎる最後にイリヤスフィールは呆然とその場に残っているアハト翁の下半身を見つめるが、すぐに何故か笑いが込み上げて来て笑い出す。

 

「・・・・・フフフッ・・・フハハハハハハハハハハハハハハッ!!アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!お爺様・・・フフッ、死んじゃったんだ」

 

「き、貴様!!!」

 

 イリヤスフィールの言葉にアハト翁の死を認識したアインツベルンの魔術師の一人が怒りに満ちた声を上げるが、アハト翁を殺したルインはつまらなそうに自身の右腕に付いているアハト翁の血を振り抜く。

 

「私の方もかなり力が落ちています、ブラック様」

 

「フン、暴れるのには充分だ」

 

 ルインの呼びかけに漆黒の竜人はつまらなそうに声を出した。

 その自分達を全く気にしていない漆黒の竜人とルインの姿に、プライドの高いアインツベルンの魔術師達は怒りに満ち溢れて叫ぶ。

 

「戦闘用のホムンクルス達を呼べ!!イリヤスフィール!!其処のサーヴァントへの魔力供給を止めろ!!」

 

「・・・・・良いよ・・・もう良いや。バーサーカー!!やっちゃって良いよ!!」

 

『なっ!?』

 

 イリヤスフィールの指示にアインツベルンの魔術師達は叫んだ。

 だが、それが今のイリヤスフィールの心の底からの想いだった。或いは生まれる前から自身を支配していたアハト翁の死によって、イリヤスフィールは自らを縛るアインツベルンと言う鎖の崩壊を望んだのかもしれない。

 そして自身の魔力供給先であるイリヤスフィールの指示に漆黒の竜人はゆっくりと体を向けて、アインツベルン城内に居る戦闘用のホムンクルス達が入って来る入り口を見つめる。

 

「肩慣らしには丁度良いか・・・ルイン、お前は其処に居る俺を呼び出した小娘を護れ」

 

「仰せのままに」

 

「さぁ、久々の現世での戦いだ!俺を楽しませろ!!」

 

 漆黒の竜人は叫ぶと共に自身に向かって来る戦闘用のホムンクルスに向かって、歓喜に満ち溢れた笑みを浮かべながら飛び掛かった。

 

 この日、北の凍土の大地で千年に及ぶ歴史を持っていた魔術師の家系が一夜にして滅ぼされた。ソレを知る者は殆ど居らず、その名が知れ渡りながらもその魔術師の家系が滅びた事は誰にも知られる事は無かった。

 また、滅んだ数日後に一番近い空港から全身を黒尽くめで覆った男性と白い髪にルビーを思わせるような赤い瞳の少女が、白い服の侍女数名と銀色の髪の女性を伴って日本の冬木市へと旅立ったのだった。




Zeroで雁夜が使った詠唱が出たのは、ヘラクレスは明らかにアーチャークラスが適性高いのに、狙ったようにバーサーカーで召喚したので詠唱を加えたのだと考えました。

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