運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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あけましておめでとうございます!!

本年も宜しくお願いします!!

次からは『魔法世界』の方も更新する予定です!!


王との決着・・・そして堕ちた少女

 暗がりに包まれているアインツベルンの森。

 本来ならば静寂に包まれているはずの森で、凄まじい激突音や破壊音が鳴り響き続けている。轟音が鳴り響く場所には既に森の木々が存在せず、更地に近い状態になっていた。そしてその場所の地面には凄まじい魔力を発している武具の数々が地面に突き刺さっていた。墓標を思わせるように剣、槍、斧、矛などが地面に突き刺さり、今もその数を増やしていた。

 

「おのれ!!」

 

 怒りに満ち溢れた声と共に黒い服から輝く金色の鎧を纏った金髪の青年が怒りに満ちた声で、背後に浮かぶ『宝具』の数々を轟音と共に前に向かって射出する。

 その『宝具』の数々には“必中”と言う概念が含まれていた。放てば確実に当たる筈のそれらは真っ直ぐに『宝具』の墓標を今も作り上げているブラックへと音速に近い速さで直進する。これならばと青年は会心の笑みを浮かべるが、『宝具』の数々がブラックに届く直前に、突然にブラックが後方へと振り向き、その背に翼のように備わっていた黒い盾に『宝具』は激突する。同時にその時の衝撃を利用してブラックは勢い良く後方に宙返りし、目を見開いている青年に向かって両手を突き出す。

 

「ウォーーブラスターーー!!!!!」

 

ーーーズドドドドドドドドドドッ!!

 

 ブラックが突き出した両手の先から連続で赤いエネルギー弾が放たれ、真っ直ぐに金髪の青年に向かって直進する。

 流れるような動きに青年は信じられないと言う思いを抱きながらも、背後の空間に手を伸ばして一つの盾を取り出す。その盾もまた『宝具』。

 自らが放ったエネルギー弾を盾で防ぎながらも揺るぎすら見せない金髪の青年を見ながら、ブラックは危なげなく地面に着地して近くに落ちていた一際強力な魔力を放つ剣を握りながら目を細める。

 

「貴様・・・前回の聖杯戦争に召喚されたアーチャーのサーヴァントか?」

 

「ほう・・・良く(オレ)が前回のアーチャーだと分かったな?」

 

「集めた前回の情報の中に、貴様の攻撃方法と容姿の情報があった。よもや十年も現界していたとは思ってなかったがな。しかもその体・・・貴様、どうやって『受肉』を果たした?」

 

 戦う前から感じていた目の前の青年に対する違和感。サーヴァントで在りながらサーヴァントの気配を発していない存在。

 その正体をブラックは『宝具』を迎撃しながら悟った。目の前に居る相手は“サーヴァントとしての魔力によって構築された仮初の体ではなく、確かな現実の肉で構成され、受肉を果たした存在”なのだと言う事を。自らの状態を察したブラックに青年は僅かに眉を動かして、燃えるような赤い瞳をブラックに向ける。

 

「小賢しい雑種の分際で良く気がついたものだ。さよう、既に(オレ)はサーヴァントと言う枠組みから外れ、十年前に『受肉』を果たした。『聖杯』の力によってな」

 

「・・・・有り得んな。前回の『聖杯』はセイバーによって消滅したはず。その『聖杯』の力で『受肉』をしただと?」

 

「フハハハハハッ!確かに『聖杯』は貴様の言うとおり、セイバーによって砕かれた。しかし、その時に(オレ)は『聖杯』の真下に居たのだ。『聖杯』から溢れ出たモノを(オレ)は浴び、ソレを飲み干した果てに『受肉』に至ったのだ・・そして(オレ)は決めた。アレは(オレ)が使うとな」

 

「ほう?・・・・・何の為にだ?」

 

「決まっている。セイバーの『受肉』の為だ。アレをセイバーに与えた時に、果たしてどうなるのか興味深い。最もアレは雑種を殺す事に特化している。完成した時には(オレ)が望まずとも、雑種どもが消えるかも知れんな。まぁ、雑種がどれだけ消えようが(オレ)には関係ない」

 

「・・・・・・なるほど、貴様の考えは理解した。決めたぞ。貴様は此処で潰すッ!」

 

 ブラックはそう叫ぶと共に握っていた長剣を地面から引き抜き、ゆっくりと長剣を構えながら青年を睨みつける。

 まるで自分の物であるかのように平然と長剣を握るブラックの姿に、青年は苛立たしげに顔を歪めて、後方の空間から一振りの剣を引き抜く。その剣の名称は『原罪(メロダック)』。『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』や太陽剣と言う名称で呼ばれる『最強の魔剣グラム』の原典。原典ゆえに『グラム』の特性も宿している『宝具』。

 青年はその幾つもの『宝具』の親と呼べる『原罪(メロダック)』を握り、無造作にブラックに向かって構える。

 

「この剣は北欧神話に名を残す最強の竜殺しの剣の原典。貴様にとってはこれ以上に無いほどの天敵であろう」

 

「天敵だと?笑わしてくれる。俺にとっての天敵などこの世に存在するものか。しかし、『原典』か・・・・・『無数の宝具』。前回の『聖杯戦争』に関する情報・・・・・分かったぞ。貴様の真名は『ギルガメッシュ』。古代ウルクとか言う国の王だった者か」

 

「ほう・・・良く(オレ)の真名に気がついたな。さよう、この(オレ)こそがこの世の唯一無二の王。『ギルガメッシュ』よ。光栄に思え。この(オレ)自らの手で貴様の首を落とされる事をな。『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」

 

 青年-『ギルガメッシュ』-が宣言すると共に、背後の空間の歪みが数を増やし、更に無数の『宝具』が出現した。

 しかもギルガメッシュの本気が伺えるのか、現れた宝具の数々は先ほどまでよりも遥かに強力な物ばかり。手に持つグラムを始めとして、ギルガメッシュの背後には『グラム』と同じ北欧神話に名を残す神槍『グングニル』。今回の『聖杯戦争』にライダーと召喚された『メドゥーサ』の首を生前に切り落としたギリシャ神話に伝わる鎌のような形を思わせる神剣『ハルペー』。古代インド神話に伝わる『ヴァジュラ』。ニーベルンゲンの魔剣であり強烈な『報復』の概念を宿している『ダーインスレイヴ』。

 その他にもランサーの『ゲイボルグ』、『クラウ・ソラス』などありとあらゆる伝承に名を残す『宝具』の『原典』。更には無名の『宝具』の『原典』までもギルガメッシュの背後に浮かんでいた。

 これこそがギルガメッシュの持つ『宝具・王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』。生前に収集した宝物の数々を呼び出す『宝具』。多くの『宝具』には『原典』が存在し、ギルガメッシュはその『原典』を所持していると言う英霊の天敵と呼べる英霊だった。

 

「壮観であろう。これほどの宝物を目にした事など貴様にはあるまい?」

 

「・・・確かにな。しかし、貴様も随分と大盤振る舞いをしてくれる・・・それだけの『宝具』の『原典』を・・・“俺にくれるのだからな”」

 

「・・・・何だと?」

 

 一瞬ブラックの言葉の意味が分からなかったギルガメッシュが聞き返すと、ブラックはゆっくりと背後に向かって左手を動かす。

 その動きと同時にブラックの背後の地面に突き刺さっていた『宝具』の数々が何処へともなく光に変わって消え去った。その事実にギルガメッシュは限界にまで目を見開く。今、ギルガメッシュは『宝具』を回収していない。にも関わらず、ギルガメッシュの意思に関わらず『宝具』が消失した。

 まさかと言う気持ちを抱きながらブラックを睨みつけると、ブラックは目を細めて右手に握っていたAランクに分類される『宝具』に位置しているフランスの叙事詩の聖騎士が扱ったとされる『絶世の名剣(デュランダル)』の『原典』を他の『宝具』同様に消失させる。

 

「真名と『宝具』を教えて貰った礼だ。俺の『宝具』を教えてやろう。『全てを従える意志力』。握った物が『宝具』に分類される代物ならば、所有権を奪い取れる『宝具』だ」

 

「貴様あぁぁぁぁぁぁっ!!!(オレ)の財を簒奪しただと!?それが赦される事だと思っているのか!?」

 

「知らんな。貴様が勝手に『宝具』を放って来ただけだろうが」

 

「もはや貴様の存在が不愉快でならん!!この世から跡形も無く消し去ってくれるわ!!」

 

 ギルガメッシュは怒号と共に背後の空間に浮かんでいた一級品の『宝具』の数々をブラックに射出した。

 しかし、その射出された『宝具』の多くはBランクの『宝具』が殆どで、Aランクの『グングニル』や『ダーインスレイヴ』などは背後に留まったままだった。自らの『宝具』を簒奪される事に怒りは在るが、それよりも強力な『宝具』をブラックが得てしまう事をギルガメッシュは恐れて射出する『宝具』のランクを抑えたのだ。

 それこそがブラックの狙いだった。ブラックの『宝具』である『全てを従える意志力』は、相手の『宝具』の所有権を奪うと言うサーヴァントにとって天敵と呼べる『宝具』だが、Aランク以上の『宝具』を従える為には数分間その場に留まらなければならないと言う欠点が存在している。

 『絶世の名剣(デュランダル)』を従えられたのは、ギルガメッシュと会話をする事で時間を稼げたおかげである。その欠点を知られないようにする為に話をしている間に『絶世の名剣(デュランダル)』を従え、自らの『宝具』をギルガメッシュにブラックは教えたのだ。

 そしてAランクの『宝具』の射出が減ったおかげで、ブラックはギルガメッシュが射出する『宝具』を迎撃しながら接近する事が出来る。

 

「オオォォォォォォォォォッ!!!」

 

ーーーガガガガガガキィィィーーン!!

 

 次々と迫って来る『宝具』の軍勢を両腕のドラモンキラーを全力で振るって迎撃しながら、ブラックはギルガメッシュに接近して行く。

 同時に自らの制御を離れて行く『宝具』をギルガメッシュは認識し、怒りで顔を赤く染めながら『原罪(メロダック)』を震わせる。彼にとって今の状況は予想だにしていなかった事だった。

 自らの敵と呼べるサーヴァントが存在している筈が無い。自らが求めているセイバーでさえ、ギルガメッシュは勝てると確信していた。だが、それは慢心だったと宣言するようにブラックは次々と迫る『宝具』を迎撃し、従えながらギルガメッシュの下に近づいて来ている。

 射出している『宝具』の中には、手に握っている『原罪(メロダック)』には及ばないながらも『竜殺し』の力が宿っている『宝具』も在ると言うのに、ブラックは怯む様子は無く寧ろ嬉々として迎撃して行く。その気迫にギルガメッシュの足は我知らずに背後に下がってしまう。

 

「・・・・・この(オレ)が恐怖を感じているだと?ありえん!!!(オレ)は王だ!!貴様のような名も知らぬ雑種に脅えるなどありえん!!」

 

 自らの足が下がっていた事実にギルガメッシュは宿った恐怖を否定するように吼え、ブラックに向かって駆け出す。

 

「消え去れ!!!」

 

 迫る『宝具』の軍勢に両腕を使用しているブラックの隙を衝き、ギルガメッシュは全力で『原罪(メロダック)』を振り抜く。

 しかし、『原罪(メロダック)』の刃がブラックに届く直前に横合いからブラックが足を降り抜き、『原罪(メロダック)』の刀身部分をガアン、と蹴りつける。

 

「なっ!?」

 

「剣と言う奴が切れるのは刃の部分だ。幾ら魔力を纏っていたとしても、刀身の部分ならば触れても傷つくことはない!!」

 

(馬鹿な!?この剣は『竜殺し』を宿す『原罪(メロダック)』!?その剣に怯むことなく蹴りを叩きつけただと!?一歩でも間違えば貴様は重大なダメージを負ったというのに!?)

 

 平然と最高位の『竜殺し』の剣に攻撃を加えたブラックに、ギルガメッシュは戦慄せざるを得なかった。

 普通ならば自らの脅威となる武器を前にすれば多少の気負いか惑いが生まれるはず。だが、ブラックにはソレは無い。ブラックの両腕に装備しているドラモンキラーもまた『竜殺し』の力を宿した武装。故に『竜殺し』に怯えるという事は、ドラモンキラーに怯えるのに等しい。だからこそ、ブラックは『竜殺し』に関する武器に怯えを抱かない。自らの武器に怯えるなどブラックにとって絶対にあり得ない事なのだから。

 そして『原罪(メロダック)』の一撃でブラックを怯ませようと考えていたギルガメッシュは、アッサリと防がれた事実に一瞬だけ呆然としてしまい、次の瞬間に『宝具』の攻撃の合間を縫ったブラックの左手の一撃がギルガメッシュの胴体に叩き込まれる。

 

「ムン!!」

 

「ガハッ!!」

 

 強烈なブラックの一撃を胴体に叩き込まれたギルガメッシュは、胸部分の鎧に罅を入れながら後方へと吹き飛ぶ。

 その隙を逃さないと言うようにブラックは駆け出そうとするが、その直前に虚空から複数の鎖が飛び出し、ブラックの四肢に巻きついて動きを妨害する。

 

「『天の鎖(エルキドゥ)』よ!!」

 

ーーーガシィィィィーーン!!

 

「これは?」

 

 自らの動きを阻害するように四肢を拘束している鎖にブラックは目を細め、ギルガメッシュに目を向ける。

 拘束力としてはただの鎖程度の力しかブラックは『天の鎖(エルキドゥ)』から感じていない。しかし、破壊する為には力を込めなければならない。ギルガメッシュはその隙を逃さず、今まで待機させていたAランクの『宝具』を一斉に射出する。

 

「今度こそ消え去るが良い!!!」

 

 ギルガメッシュの咆哮と共に幾つもの神話に名を残す最高位の『宝具』の『原典』の軍勢が、砲声を轟かせながら射出された。

 最高位と言うだけあり、今までよりも強力な威力と魔力に大気は悲鳴を上げ、空間さえも捻じ曲がってさえいた。その数は三十以上。本来の力を解放する真名開放には及ばないと言え。最高位の『宝具』の乱射は凄まじい威力を発揮しながら『天の鎖(エルキドゥ)』を破壊しようとしているブラックに向かって直進する。

 左右に逃げようと背後に逃げようと必ずブラックにどれかは直撃する布陣だった。迎撃しようにも『天の鎖(エルキドゥ)』のせいで迎撃の態勢を整える時間は無い。確実に勝利する状況にギルガメッシュが笑みを浮かべようとした瞬間、その目は見開かれた。

 迫る『宝具』に対してブラックは迎撃ではなく、避ける為に『天の鎖(エルキドゥ)』の鎖を破壊し、迷うことなく地面を全力で蹴りつけて高く空に舞い上がった。

 

「雑種!!その程度で(オレ)から逃れられると思うな!!!」

 

 最大の一撃を辛うじて避けたブラックに対して驚きながらも、ギルガメッシュは即座に背後の空間に新たな『宝具』を出現させて空に飛び上がったブラックに照準を合わせる。

 例え逃げられたとしても空中では自由自在に避ける事など出来ない。威力は先ほどの『宝具』には劣るが、今度こそ決めると言うようにギルガメッシュは号令を発しようとするが、その直前に空中で動けないと思ったブラックが、ギルガメッシュに向かって勢い良く飛び出す。

 

「オォォォォォッ!!」

 

「馬鹿な!!」

 

 明らかに空中で突進に軌道を変えたブラックの姿に、ギルガメッシュは信じられないと言うように声を荒げ、『宝具』の射出が遅れてしまう。

 すぐさま我に返って慌てて『宝具』を射出しようとするが、時既に遅くブラックはギルガメッシュの目の前に辿り着き、両手のドラモンキラーを連続で振り抜く。

 

「ハアァァァァァァァッ!!!」

 

ーーーガキン!!キィン!!ガァン!!キィィーーン!!

 

「雑種がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ブラックの咆哮と共に繰り出した連撃に対して、ギルガメッシュは『原罪(メロダック)』と背後の空間から抜き去った一振りの剣の『宝具』を持って応戦する。

 激しく甲高い金属音が更地に変わったアインツベルンの森の一角で鳴り響き、ブラックとギルガメッシュは接近戦で戦い続ける。だが、徐々にギルガメッシュはブラックの猛攻の前に後方へと押しやられて行く。

 自らが押し負けている事実に気がついたギルガメッシュは、必死にブラックに向かって『原罪(メロダック)』ともう一本の剣を振るうが、ブラックはドラモンキラーで防ぎながら猛攻を繰り出し続ける。

 

「おのれ!おのれ!おのれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「ムン!!」

 

 必死に『原罪(メロダック)』と宝具の剣を振るうギルガメッシュに対して、ブラックは迷うことなく左手のドラモンキラーを振るい、ギルガメッシュが振り下ろして来た宝具の剣と激突させる。

 剣とドラモンキラーはぶつかり合うと共に同時に罅が互いに広がり、全体に行き渡った瞬間に甲高い音を立てながら砕け散る。

 それをギルガメッシュは自らに訪れたチャンスだと考えて、『原罪(メロダック)』を無防備になったブラックの左腕に向かって振り抜く。

 

「貰ったぞ!!」

 

 防御が薄くなったブラックの左腕側に向かって、ギルガメッシュは『原罪(メロダック)』を全力で振り抜いた。

 今度こそ確実に決まるとギルガメッシュは確信するが、『原罪(メロダック)』の刃がブラックに届く直前に、突如『原罪(メロダック)』の刃の進路を塞ぐように膨大な魔力を発する巨大な漆黒の長剣が出現する。

 

ーーーガキィィーーン!!

 

「なっ!?」

 

 『原罪(メロダック)』の刃をギリギリのところで防いだ巨大な漆黒の長剣に、ギルガメッシュは驚愕と困惑に満ち溢れた叫びを上げた。

 ブラックを護るように現れた巨大な漆黒の長剣。その形状は西洋の剣が一番近いが、闇に同化するかのように刀身も柄も漆黒に塗り潰され、刀身の中央には見た事も無い文字が刻まれた剣。ソレはギルガメッシュからブラックが奪った『宝具』ではなく、ブラック自身の『宝具・オメガブレード』。

 自身さえも知らない『オメガブレード』の出現にギルガメッシュは目を見開くが、ブラックは構わずに右手のドラモンキラーを腕から外して『オメガブレード』の柄を握り締める。

 

「ハアァァァァァァッ!!!」

 

 驚愕に固まってしまっているギルガメッシュに向かって迷うことなく、ブラックは『オメガブレード』を全力で振り下ろす。

 迫る『オメガブレード』の刃にギルガメッシュは避けられないと判断すると、左腕を掲げて『オメガブレード』の刃に切り裂かせる。

 

「何ッ!?」

 

「グゥッ!!オォォォォォォォッ!!!」

 

 『オメガブレード』の刃に斬り飛ばされて舞い上がったギルガメッシュの左腕を目にしながらブラックが驚愕の叫びを上げた瞬間、左腕を失いながらもギルガメッシュは右手に握ったままだった『原罪(メロダック)』をブラックの右脇腹に向かって突き出す。

 『原罪(メロダック)』の切っ先はブラックの漆黒の鎧を貫き、深々と右脇腹にドスッと突き刺さる。

 

「ガアァァァァァァァッ!!!」

 

 幾ら怯まないとは言え、『竜殺し』の最高位を脇腹に突き刺されたブラックは苦痛に満ちた咆哮を上げて、思わず『原罪(メロダック)』を脇腹に刺したまま右膝を地面に着ける。

 それを目にすると同時にギルガメッシュは後方へと飛び退き、背後の空間の歪みに残された右腕を伸ばし、刃のあるべき場所が三本の円筒形の部品で構成され、それぞれに複雑な文様が刻まれている突撃槍を思わせる奇妙な剣を引き抜く。その剣こそギルガメッシュが持つ『宝具』の中で唯一真名開放を行なう事が出来る『宝具』。天地を創造したと言う伝承を宿す『対界宝具・乖離剣(エア)

 ギルガメッシュが高く掲げながら『乖離剣(エア)』に魔力を送り込むと共に円柱がそれぞれ回転し出し、膨大な魔力と風が唸りを上げる。

 

「跡形も無く消え去れ!!!『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッ!!!」

 

ーーードグオオオオオオオオオオオオン!!

 

 ギルガメッシュが真名を開放して『乖離剣(エア)』を振り下ろすと同時に、『乖離剣(エア)』から赤い閃光のような暴風が放たれた。

 その暴風は擬似的な空間断層すらをも作り出し、天地すらも引き裂き、相手を悉く殲滅する無慈悲な全ての存在を消し去る最大級の一撃。暴風が通った後にはありとあらゆるモノが空間断層に巻き込まれて消え去って行く。もしも何らかの理由で不安定にでもなっている世界が存在しているならば、その世界を崩壊させても可笑しくない究極の一撃が、真っ直ぐに地面に膝をついたままのブラックに向かって直進する。

 この一撃の前には先ほどのように上空に逃れて回避すると言う手段も使えない、何よりもブラックの右脇腹には『原罪(メロダック)』が突き刺さったままになっている。回避出来る状態ではない。

 何よりも例え回避出来たとしても、ギルガメッシュは『受肉』した事によってサーヴァントの仮初の体では不可能だった『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』の連続発動が可能になっている。

 

「今度こそこの世に居た痕跡も残さずに消え去るが…」

 

「『全てを(オメガ)』ッ!!」

 

「ッ!?」

 

 圧倒的な死の前にブラックが行なったのは回避でも防御でもなく、前へと一歩踏み出す事だった。

 同時に右手に握っていた『オメガブレード』を全力で、自身に向かって迫る暴風に向かってブラックは振り下ろす。

 

「『初期化する剣(ブレーード)』!!!」

 

ーーーパシューーーン!!

 

「馬鹿な!?」

 

 ギルガメッシュは目の前に広がった光景を否定するように我を忘れて叫んだ。

 擬似的な空間切断さえも引き起こす暴風が、ブラックが振り下ろした『オメガブレード』に触れた瞬間、暴風は一瞬にして消え去り、空中に大量の魔力を舞い上がったのだ。

 その魔力は自らが振るった『乖離剣(エア)』が擬似的な空間切断を発動させる為に集めた魔力だとギルガメッシュは瞬時に悟った。だからこそ、目の前の光景が信じられなかった。

 

「ありえん!!『エア』が!?この『エア』を超える剣など存在する筈が・・・ッ!?」

 

 何かに気がついたようにギルガメッシュは目を見開き、未だに空間切断の暴風をオメガブレードの力で『初期化』しているブラックを見つめる。

 ギルガメッシュの目には暴風からブラックを護るように幾重にもたつ白い影が映っていた。その影は必死に圧倒的な死を与える暴風からブラックを護り続けている。その影の正体をギルガメッシュは察し、同時に『オメガブレード』の正体を理解する。

 

「まさか!?その剣は!?」

 

「気がついたようだな!唯一無二の王を名乗ったギルガメッシュ!!貴様に良い事を教えてやる!!人間どもは時に貴様の想像など及ばん力を発揮する!!その力の一端がコイツだ!!」

 

 咆哮と共にブラックはオメガブレードを振り抜くと同時に『乖離剣(エア)』が発生させていた暴風は完全に魔力に初期化されて霧散する。

 その事実にギルガメッシュは驚きながらも再び『乖離剣(エア)』を起動させ、先ほどと同じように暴風を巻き起こす。

 

「『天地乖離す(エヌマ)』ッ!!」

 

「ガイアッ!!」

 

 ギルガメッシュが魔力を集める中、ブラックはオメガブレードを手放し、両手を掲げて大気中に漂っている負の力を凝縮して巨大な赤いエネルギー球-『ガイアフォース』-を瞬時に作り上げた。

 魔力とは違う別種の力で作られた『ガイアフォース』を目にしたギルガメッシュは急いで『乖離剣(エア)』を振り抜こうとするが、その前にブラックが完成した『ガイアフォース』を全力でギルガメッシュに向かって投擲する。

 

「フォーース!!!」

 

「・・・こ、この(オレ)が・・・名も知らぬ雑種ごときに・・・ガアァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

 

 高速で迫って来たガイアフォースをギルガメッシュは避ける事が出来ず、激突したガイアフォースと共に後方へと吹き飛んで行き、一定の距離になった瞬間大爆発がアインツベルンの森中に響き渡った。

 同時にブラックの右脇腹に突き刺さったままだった『原罪(メロダック)』が静かに消え去り、ブラックは右膝を地面に再び着けて荒い息を吐く。

 

「ハァ、ハァ・・・・流石は最古の王だけはあるか・・・奴の望みがもう少しマシだったら・・・今よりも戦いを楽しめたかも知れんな・・・・・・ムッ!」

 

 何かを感じ取ったかのようにブラックは立ち上がり、辺りを見回す。

 辺りにはブラックが新たにギルガメッシュから所有権を奪い取った『宝具』が地面に突き刺さっている以外は、ただの更地。人の気配も何も感じられないのに、ブラックの『直感』は警戒心を最大に強めていた。

 ギルガメッシュ以上に危険な存在が何処かに潜んでいる。それを感じ取ったブラックが、地面に落ちていた『オメガブレード』を拾い上げて辺りを見回していると、何処からともなく大人になる前ぐらいの少女と思わしき笑い声が聞こえて来る。

 

『・・・・クスクス・・・クスクス・・・フフフッ・・・フフフッ』

 

(何だこの声は?・・・聞いているだけで俺の『直感』が危険を告げている・・・一体誰だ?)

 

 漠然としながらもブラックは姿が見えず、笑い声だけしか聞こえていないにも関わらず明確な危機感を姿が見えない相手に感じていた。

 この場で何としても倒さなければ取り返しのつかない災厄を声の主は引き起こすとブラックは『直感』し、イリヤスフィール、セラ、リーゼリットの護衛につかせていたルインを呼び出そうとする。出し惜しみなど出来る相手ではない。自らの『真の宝具』を使用しなければ、サーヴァントとなった身では勝てる相手ではないとブラックは悟り、『真の宝具』を使用する為にルインを呼び出そうとした瞬間、現れた時同様に笑い声の主の気配がフッと消える。

 

「・・・・逃げたか?・・・・一体何者だ?」

 

 笑い声だけで自らに危機感を与えた存在に疑問を思いながらも、ギルガメッシュから所有権を奪った『宝具』を回収して、ブラックはイリヤスフィール達が待つアインツベルン城へと急いで戻るのだった。

 

 

 

 

 

 アインツベルン城がある郊外の道路。

 其処には深夜にも関わらず一人の老人が横に鮮血を思わせるような禍々しい真紅の瞳の色をし、常闇を纏ったような黒い色合いの赤い縦線が入ったドレスを着た銀色の髪の少女を伴って、アインツベルン城のある方向を見つめながら道路の真ん中に立っていた。

 

「・・・危ないところであったわ・・よもやあのような剣を持ったサーヴァントが存在して居ったとわ・・・・(コヤツに使われでもしたら、折角のワシの切り札が消え去ってしまうところであった・・・あのサーヴァントにはコヤツを接触させん方が良いの)」

 

 そう老人-間桐臓硯-は考えながら横に立っている少女-変わり果てた間桐桜-を見つめながら考えを巡らしていると、二人を道路を走って来た車のライトが照らし、車の主と思われる男性が窓を開けて叫ぶ。

 

「危ないだろうが!!道路の真ん中になんて立っているんじゃない!!」

 

「・・・お爺様・・・お腹が空きました」

 

「好きにしてよいぞ、サクラ」

 

「アハ」

 

 臓硯の許しの言葉に桜は邪悪さに満ちた笑みを浮かべて、車の運転手の男性に目を向ける。

 目を向けられた男性は全身に言い知れない怖気と恐怖心が走った。まるで自分の生命が桜の目が向いた瞬間に終わったような感じを男性が受けた瞬間、男性の意識はプツリと消え失せた。最後の男性が見た光景は、黒い影のようなモノに自らの体が飲み込まれる光景だった。


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