運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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悪意の胎動

 『聖杯戦争』に参加しているサーヴァントの殆どが参戦した戦いが終わった翌日。

 郊外の森の奥深くにあるアインツベルン城内部。その城のリビングにあるソファーに深く腰掛けて、ブラックは冬木市に放ったサーチャーの一つから送られて来る間桐家を空間ディスプレイを通して監視していた。

 慎二はアーチャーによって討たれたが、ライダーの本来のマスターは間桐家内に居る。今回の『聖杯戦争』が最後の機会と言う現状なのだから、御三家の間桐家は何かしらの動きを行なう。その第一段階が慎二にライダーを与えての動きなのだろうとブラックは考えるが、逆にソレがブラックに不信感を与えていた。サーヴァントは並みの魔術師では手も足も出せない存在。『聖杯戦争』を構築した御三家ならば知っていて当然の事実。にも関わらず、間桐の陣営は碌に魔力を提供出来ない慎二にライダーを従わせていた。

 

「・・・・・何を考えている?・・・・他の陣営の戦力偵察だとしても、本来のマスターとのレイラインが繋がっていないライダーでは能力も低下する・・・・『メドゥーサ』となれば有名な反英雄・・・それほどの存在を使い潰しても構わん切り札でも奴らには在ると言うのか?」

 

 昨夜の戦いの中でライダーが生き残ったのは、本当に運が良かった事なのだとルインから話を聞いたブラックは思っている。

 『偽臣の書』が運良く失われたことによってライダーは助かった。もしも『偽臣の書』が無事だったならば、ライダーは昨夜で脱落していたのは間違いない。しかし、間桐家に居る本来のマスターも、そして間桐臓硯も動かなかった。

 

「・・・・・何を企んでいる?・・・・・それにランサーの今のマスターの行動も不可解だ。奴ほどの実力者を他の陣営の偵察にしか動かしていない。更に昨日の戦いでも俺の邪魔を優先していた・・・・間桐家同様に可笑しい」

 

 現在の確認しているサーヴァントの中でブラックが最も自分を討てる可能性が高いのは、ランサー-『クー・フーリン』-だと考えている。

 ランサーとの戦いは純粋な実力勝負にどうしてもなってしまう。放てば心臓を穿つ『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』。生前ではどうか分からないが、サーヴァントとして召喚されたブラックには『霊核』が存在している。『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』はその『霊核』を破壊する『宝具』。

 故にランサーに『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』を使う暇を与える事は出来ない。凄まじい威力を誇る必殺技の『ガイアフォース』も『宝具』である『オメガブレード』も、ランサーに対しては使用出来ない。別の宝具である『全てを従える意志力』を使用すればランサーの『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』は封殺出来るが、ソレは自らの敗北に等しいとブラックは考えているので使用する気は全く無い。ランサーとの決着は純粋な実力勝負で決めるとブラックは心に決めているのだから。

 だからこそ、ソレだけ自身が認めているランサーを威力偵察ぐらいにしか使用していない。今のランサーのマスターの行動はブラックにとって不可解でならなかった。

 

「・・・・・・まさか?・・・連中にはサーヴァントと言う存在を打倒出来るだけの切り札があるとでも言うのか?そう考えれば連中の不可解な行動も納得出来る・・・・だが、それが事実だとすれば一体ソレは何だ?」

 

 そうブラックは普通ならば考えも浮かばないことも視野に入れて、二つの陣営の考えを読み取ろうとする。

 ブラックがソファーに深く座り込んで考え込んでいると、部屋の扉が開いて誰かが部屋の中に入って来る。それを感じたブラックは振り向く事も無く、部屋に入って来た者に声を掛ける。

 

「イリヤスフィールはどうした?セラ」

 

「お嬢様はリーゼリットとルインフォース様に護られながら眠っております。昨晩は大分魔力を消費したようですので」

 

 何処と無く非難が混じった声で部屋の中に入って来たセラが、目の前でソファーに座り込んでいるブラックの背に向かって声を掛けた。

 イリヤスフィールの教育係であるセラにとって、イリヤスフィールに負担をかけるのは認めがたい事であった。『聖杯戦争』だとは理解しているが、出来るだけイリヤスフィールへの負担を減らしたいとセラは親心に近い感情で思っている。ましてや、“今回のような魔力不足にならない為の対処法を既に取っているのにも関わらず、ソレをブラックは使用しなかった”のだから。因みにその方法の時にルインが悪鬼羅刹と化して止めようとしたが、ブラックに黙らされた。

 その方法の為に身を捨てたセラとしては、尚更に今回のブラックの行動が認められなかった。

 

「・・・・一体どう言うつもりなのですか?お嬢様の魔力負担を減らす為に対策を行なっていたと言うのに、昨夜はお嬢様だけから魔力を供給していたのは?」

 

「簡単だ。昨日あの場に居た連中の殆どが思っただろう。『アインツベルン陣営にとって持久戦は不利』だとな。その弱点を知ってノコノコと行動して来る奴らが必ず出て来る。お前ならば『一撃に賭けた短期戦』と『隙が確実に現れる持久戦』。どちらを選択する」

 

(・・・・・昨夜の行動はその為に・・・・分かっていた事ですが、お嬢様が召喚したこの者は恐ろしい存在・・・味方ならば頼もしいのは事実ですけど・・・敵となれば最悪を通り越す存在。恐ろしい)

 

 そうセラは目の前でソファーに座って空間ディスプレイに映っている他陣営の拠点を監視しているブラックの背を、畏怖を込めた視線で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 衛宮邸の玄関口。

 早朝の朝も早い時間帯に、凛は昨夜の件での報酬である『令呪』を貰いに行く為に、玄関に来ていた。自身の靴を履きながら自身を見送りに来た士郎とセイバーに凛は振り向く。

 

「それじゃ、教会に行って綺礼に会って来るわ。お昼頃までには戻るから勝手に他の陣営を探索に行くとかはしないでね」

 

「あぁ、分かってる・・・・なぁ、遠坂?」

 

「何?」

 

「その・・・やっぱり、慎二の遺体は戻って来ないのか?」

 

 昨夜の件が終わった後に、綺礼が派遣した教会の構成員達が回収して行った慎二の遺体の事を思い出しながら士郎は顔を暗くして凛に質問した。

 その質問に凛は僅かに顔を曇らせるが、悟られないように士郎の質問に答える。

 

「・・・多分、慎二の遺体は間桐に返されるわ。アイツは魔術師でもない一般人だったから教会が何かする訳もないでしょうし・・・でも、『聖杯戦争』中は教会で管理するでしょうね」

 

「・・・・そうか」

 

「・・・それじゃ。もう行くわ」

 

 凛はそう士郎に告げると共に玄関を開けて、衛宮邸から出て教会へと向かって行った。

 それを確認したセイバーは居間へ戻ろうとするが、その前に士郎がセイバーに向かって声を掛ける。

 

「待ってくれ、セイバー。頼みがあるんだ」

 

「頼み?・・・私にですか?」

 

「あぁ・・・セイバーにしか頼めない事だ。その・・・俺に剣の鍛錬をつけて欲しいんだ」

 

「私がシロウに剣の鍛錬を?」

 

「そうだ・・・・俺は今回の件で自分の力の無さを痛感した。だから、強くなりたい。せめて足手まといにならないぐらいの実力は身に付けたいんだ」

 

「・・・・分かりました。確かにシロウに実力が付くのは良い事です。ですが、現状の時間帯で急激な成長は見込めないと考えて下さい。一日や二日の鍛錬で実力が上がると言うのは余程の才能が無ければ無理なのですから」

 

「分かってる。それでも俺は何かしたいんだ。宜しく頼む、セイバー」

 

「はい、微力ながらシロウの力になります」

 

 そうセイバーは士郎に告げると、道場の方へと士郎と共に歩いて行き、剣の鍛錬を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 冬木教会礼拝堂。

 『令呪』を貰いに来た凛は礼拝堂に置かれている椅子に座りながら、『令呪』を持って来る筈の綺礼が来るのを待っていた。そして凛が椅子に座りながら待っていると、礼拝堂の奥へと続く扉が開き、綺礼が礼拝堂に入って来る。

 

「遅くなってすまない。昨夜の件の後始末で忙しかったものでな」

 

「まぁ、アレだけの騒ぎだから仕方が無いわね。それで報酬の『令呪』は何処にあるの?まさか、本当は『令呪』なんて無かったとは言わないわよね」

 

「安心しろ、『令呪』ならば此処にある」

 

 そう綺礼は告げると共に右腕のカソック服を捲り上げて、肌に刻まれている刺青のような文様を凛に示す。

 その紋様を見た凛は確かに綺礼の右腕に刻まれている文様の正体が『令呪』だと悟るが、訝しげに眉を顰めて綺礼の腕に刻まれている『令呪』を見つめる。

 

「・・・ねぇ、数が少なくない?今までの四回分の『聖杯戦争』で発生した『令呪』の数にしては少ないと思うんだけど?」

 

 凛がそう疑問に思うのは当然の事だった。

 今までの『聖杯戦争』で回収した『令呪』ならば、それなりの数があっても可笑しくない筈。しかし、綺礼の腕に刻まれている『令呪』の数は七画ほど。『聖杯戦争』で七人のマスターに与えられる『令呪』は全て合わせれば『二十一画』になり、それらが聖杯によって各マスターに『三画』配られる。今までの『聖杯戦争』では綺礼の腕に刻まれている『令呪』しか無いのかと凛が疑問に思っていると、綺礼が事情を説明する。

 

「数が少ないと思うのは当然だろうが、その原因は前回の『聖杯戦争』の時にある。あの時も今回のように『聖杯戦争』で特別なルールを設けたのは伝えただろう?その時に我々聖堂教会は討伐に力を貸した全てのマスターに『令呪』が与えられなかった。その原因は当時の監督役である私の父の死が原因だ」

 

「・・・・ふぅ~ん。つまり、他の陣営に『令呪』を渡さないどころか、奪ったマスターが居るって訳ね?貴方のお父さんを殺して?」

 

「その通りだ、凛・・・私の父を殺した男の名は『ケイネス・アーチボルト』。当時は時計塔で有能な魔術師だった人物なのだが、『聖杯戦争』の中で重傷を負い魔術師でさえ無くなってしまったのだ。再起の為に彼は『聖杯』を求めた。それ故に他陣営に『令呪』が渡るのを恐れて凶行に走ったのだ。おかげで教会が管理していた『令呪』の数は此処まで減ってしまったと言う訳だ。さて、話は此処までだ。受け取れ、凛。此度の報酬だ」

 

 綺礼はゆっくりと『令呪』が宿っている右腕を凛に向かって差し出し、凛自身も自らの『令呪』が宿っている腕を差し出す。

 それと共に綺礼は秘蹟を行ない、右腕に蓄積していた『令呪』の一画を凛が差し出して来た腕に転写した。痛みも無く宿った『追加令呪』を凛は確認すると、捲くっていた服を戻して綺礼に背を向ける。

 

「確かに受け取ったわ、綺礼。それじゃ帰らせて貰うわよ」

 

「もう帰るのか?茶ぐらいは出そうと考えていたのだが?」

 

「あんまり長く居ると他の陣営に睨まれるかもしれないから止めておくわ」

 

「そうか・・・では、諦めるとしよう。間桐慎二を討ってくれた事を感謝するぞ、凛。間桐家の方には今後も『聖杯戦争』に参加するならば、次は無いと伝えておいたので安心したまえ」

 

 その綺礼の言葉に凛の足は教会の出口の前で止まった。

 綺礼は凛の動きが止まった理由を察して内心で笑みを浮かべながら、入り口の扉に手を掛けて止まっている凛の背に向かって声を掛ける。

 

「時臣師も喜んでいる事だろう。お前ともう一人が共にサーヴァントを召喚出来るだけの魔術師としての技量を身に付け、『聖杯戦争』に参加しているのだから。師は言っていたよ。もしも互いに争う事があるならば、ソレこそがしあわ…」

 

「止めなさい!綺礼!!」

 

 冷静な様子をかなぐり捨てて凛は背後を振り向き、綺礼に向かって怒りに満ちた視線で睨みつける。

 その様子に綺礼は内心ではともかく、両手を後ろで組みながら凛に背を向けて僅かに憂いを帯びた声を出す。

 

「すまなかった、凛。お前の気持ちを考えていなかった。だが、忘れてはならない。『聖杯』を手に入れるのは『遠坂家の悲願』だと言う事を」

 

「・・・・分かってるわ。『聖杯』は絶対に手にするわよ」

 

 凛はそう言い捨てると共に荒々しく扉を開けて、外に出ると共に勢いよく扉を閉めて教会から出て行った。

 綺礼はその様子に凛の気持ちを考えながら笑みで口元を歪めていると、誰も居ないはずの礼拝堂の中に愉快さと傲慢さに満ちた笑い声が響く。

 

『ハハハハッ!愉快愉快!時臣め。死の寸前まで(オレ)を楽しませられなかったくせに、よもや死んだ後でこの様な催しを遺していたとはな!いやはや、(オレ)も驚いたぞ』

 

「師にとって今回の『聖杯戦争』は望んだ結果であろう。ライダーではなく『間桐慎二』だけを標的にしたのは間違って居なかったようだ。ライダーが生き残ったのは私にとっても僥倖と言える」

 

『確かにその通りだな、綺礼よ。しかし、随分な親心もあったものだ』

 

「凛にとっては喜ぶべき事だろう。ライダーの本当のマスターが誰なのか分かったのだからな・・・さて、話は変わるがお前にやって貰いたいことがある」

 

『・・・ほう・・・・まぁ、構わんぞ。中々に愉快な劇を見られるかもしれぬ。それに応えてやろう。(オレ)に何をして貰いたいのだ、綺礼?』

 

「何、『聖杯戦争』は進んでいるが、どの陣営も今のところ敗北していない。間引きはそろそろ必要だろう。アインツベルンの陣営を潰して貰いたいのだ。間桐の怪しい行動を考えれば、『聖杯の器』の回収は必要だからな」

 

『良かろう。今夜にでも潰してこようぞ。愉しみに待っていろ、綺礼』

 

 その言葉を最後に礼拝堂の中にあった綺礼以外の気配は消えた。

 これで問題が一つ減るだろうと考えながら、綺礼は礼拝堂の奥へと歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 冬木市内にある円蔵山。その場所は冬木の霊脈の全てが集まっている場所。

 同時に円蔵山の頂上にある柳洞寺を基点としてサーヴァントにさえも影響を及ぼすほどの結界が張られていた。そしてキャスターの拠点の場所でもある。

 柳洞寺の主から設けられた部屋の中で、霊脈を利用した監視網から送られて来る映像を宝玉に映して眺めながら、キャスターは昨夜の出来事で得た情報を吟味していた。

 

(昨日の件であのルインと言う名の女が所属するアインツベルンの陣営は、持久戦が不利と言うことが明らかになった。しかし、相手は二体のサーヴァントを従えている陣営。持久戦に持ち込むのも苦労するのは間違いない。やはり、短期戦も視野に入れるべき・・・ルインと言う女の『宝具』が黒い竜人だとしても、まだ切り札を隠している可能性はある・・・やはり、あの陣営に挑むのは一筋縄ではいかない)

 

 神代の魔術師であるキャスターから見ても、アインツベルン陣営は隙が見えない陣営だった。

 迂闊に攻め込めば確実に手痛い反撃どころか、自身の陣営の敗北さえも考えられる陣営なのだとキャスターは見ていた。もしも挑むのならば強大な戦力が必要。

 だが、キャスターにはその強大な戦力は無い。冬木市中から魔力を集めているとは言え、確実に勝てると言う保障が無いのだから、キャスターはアインツベルン陣営には今のところ攻める気は無かった。

 

「『アサシン』は山門から動けない。となれば、他の陣営のサーヴァントを奪うべきね。有力な候補としてはセイバーに、竜種に匹敵する力を持った『天馬(ペガサス)』を従えているライダー。次点としては強力な宝具を矢として使用したアーチャーと言うところかしら・・・でも、この中で一番手に入れやすいサーヴァントは一人だけね」

 

 キャスターはそう呟くと共に宝玉の中に映っている道場の中で剣の鍛錬を行なっているセイバーと士郎の姿を、特に凛々しく士郎を鍛えているセイバーを楽しげに眺める。

 

「・・・フフッ、やっぱり良いわね、彼女。戦力としてだけではなく、あの凛々しい顔立ちも良いわ・・・・それに」

 

 ゆっくりとキャスターはローブの中に手を入れて、今日の早朝に急いで街に行って手に入れた一枚の写真を取り出して何処と無く陶酔した様な顔をして見つめる。

 

「・・・やっぱり、良いわ。この衣装。あの子の愛らしさと可愛らしさを強調するような衣装。しかも、恐らくコレは魔術的防御も備えている。ハァ~、こんな衣装をセイバーにも着せて、この子と並べて見たいわ」

 

 そうキャスターが陶酔したように見つめる写真には、バリアジャケットを纏っているイリヤスフィールの姿が映っていたのだった。

 

 

 

 

 

 薄暗い闇に満ちた空間。僅かに輝く光も不安しか感じさせない場所の主である間桐臓硯は愉快そうに、闇の奥深くに居る者を見つめていた。

 

「カカカカカカカカッ!慎二の奴・・・出来損ないの分際で予想以上の成果を上げおったわ。これで他の連中のサーヴァントは見極められた。特に『アサシン』のサーヴァント・・・カカカカカッ!あのような不安定な存在を利用しない手は在るまい。後はこやつの調整さえ済めば全てワシの思うがままに『聖杯戦争』は進む」

 

 愉快そうに臓硯は闇の中で蠢くモノを見つめる。そのモノもまた闇だった。

 まるで揺らめくように闇は動き、周囲の闇と同化して行くように広がって行く。まともな者が見れば、その闇には恐怖と絶望しか感じられないだろう。それほどまでに濃密な負に満ち溢れた闇が蠢いていた。しかし、臓硯は逆にその様子を楽しげに眺め、自身の背後で射殺さんばかりに睨んで来ているライダーに振り向く。

 

「カカカカカッ!ライダーよ。ワシを殺したければ殺すが良い。その時にどうなるのかお前は理解しているだろうがな」

 

「マトウゾウケン!」

 

 自らを嘲るような視線を向けて来ている臓硯に、ライダーは怒りと屈辱に満ちた顔で睨みつけながら声を出した。

 ライダーの発する殺気はそれこそ慎二に向けていた憎しみを超えていた。赦されるのならば、目の前に立つ老人の姿をした妖怪を全力で殺しているほどのものだった。しかし、ライダーはそれが出来ない。目の前に居る臓硯が自らの本当のマスターの命を握っていることを理解している為に、殺したくても殺すことは出来ない。

 自分には絶対に手を出さないことを分かっている臓硯は、愉快げに笑いながら闇の奥に居る者に目を向ける。

 

「クククッ!しかし、衛宮の倅と遠坂の小娘が手を結んでくれたおかげで、こやつの闇は深まった。■■■よ。御主の愛しき者は遠坂の小娘が奪うかも知れぬぞ」

 

(・・・・・・ウバウ?・・・・トオサカセンパイガ・・・・アノヒトガ・・・センパイヲウバウ?)

 

「お前がどのような目にあっているかも知らず、どれだけ助けを求めても手を差し述べなかった、遠坂の小娘がお前の愛しき者を奪うのだ」

 

「(・・・・センパイガ・・・アノヒトニ・・・ウバラレル・・・イヤ・・・イヤ・・イヤッ!)ウバワセナイ!!アノヒトヲ!!ウバワセナイ!!」

 

「カカカカカッ!!・・・もうすぐだ。もうすぐ完成するぞ!ワシの切り札!!『黒の聖杯』が!!カカカカカカカッ!!!」

 

 更に深まって行く闇を愉快そうに臓硯は、闇の中心に居る者の姿を眺める。

 その背後に立つライダーは、自らの主に起きようとしている事を理解しながらも何も出来ない事実に、強く唇を噛み締めて唇から血を流すのだった。


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