運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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天馬降臨

 ライダーと慎二が潜伏しているビルのすぐ近くにあるビルの屋上。

 その場所は既に屋上としての様相は完全に失われ、半壊状態になっていた。一般人では視認さえも不可能な速度で黒い閃光と紅い閃光は激突し合い、火花が一瞬たりとも散らずに済む事は無く、甲高い金属が激突する音が響き続けていた。

 

ーーーギン!!ガギィン!ギィィン!!ガギィィィィーーン!!

 

『ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 屋上を半壊状態に追い込んだブラックとランサーは、互いに武器を振るいながら歓喜に満ち溢れた笑い声を上げ続ける。

 それに伴った両者の戦いは激しさを増して行き、屋上に亀裂が走り、更に無残な姿へと変わって行くが、破壊を撒き散らしている両者は止まらない。ランサーが振るう神速の槍捌きをブラックは両手のドラモンキラーで受け流し、隙あらば攻撃をランサーに放つ。その攻撃の速さはランサーの槍の速さと変わらず、ランサーの体には浅い傷が既に幾つも出来ている。

 しかし、ランサーは自らの傷などに構わずにブラックに攻撃を繰り出し、数は少ないながらもブラックも浅い傷を負っていた。だが、二人は自らの傷など構わずに目の前の相手との戦いを心の底から楽しんでいた。

 

「良いぞ!!ランサー!もっと俺を楽しませろ!!」

 

「ハッ!やっぱお前も俺と同じ口だったようだな!こういう戦いを願っていたぜ!死力を尽くせる戦いをな!!」

 

「ならば、もっと死力を振り絞れ!!そうすれば更に俺は楽しめる!!」

 

 互いに一瞬たりとも止まることなく叫びあいながら、尚も戦いは苛烈さを増し、崩壊して瓦礫と化した屋上のアスファルトに足を取られないようにしながら駆け続ける。

 何せブラックもランサーも攻撃を一瞬でも止める事が自らの敗北に繋がると理解している。ステータスと言う面では圧倒的にブラックの方が上だが、ランサーはその実力差を無意味にする“因果逆転の力”を持っている。

 ランサーの『宝具』である『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』。真名を解放して放てば『心臓を穿つ』という結果を『槍を放つ』という原因より先に生じさせる、因果の理を捻じ曲げると言う戦いの情勢さえも一瞬にして変貌させてしまう致死の一撃。余程の幸運か加護でもない限り、必ず敵の心臓を捉える回避不可能の攻撃。その一撃は流石にブラックでも死に至る。

 だからこそ、ブラックはランサーに『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』を使用させない為に一瞬たりとも攻撃の手を緩めなかった。『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』を使用する為には当然ながら魔力を『ゲイ・ボルグ』に込めなければならない。

 その動作はランサーの技量ならばほぼ一瞬で済むが、その一瞬こそが自らの死に繋がるとランサーは理解していた。『真名解放型の宝具』は魔力を込める工程と、真名を解放すると言う二工程が必要。その二工程を終える前にブラックの攻撃が自らに届く事をランサーは悟り、その事実が尚彼を燃え上がらせていた。

 

(俺が全力を発揮してもなおもコイツには届いてねぇ!これだ!!コレこそが俺が心の底から望んでいた戦いだ!!)

 

 ランサーが召喚に応じたのは『自らが死力を振り絞れる強敵との戦い』の為。

 その相手にこれ以上に無いほどにブラックは当て嵌まっていた。自身と同種である『戦闘狂』のブラックウォーグレイモン。目的があって戦うのではなく、戦う事こそが目的。そしてブラックは全力を発揮しても、自らが勝てる可能性が限りなく低い相手だとランサーが悟っている。

 全力では届かない。死力を尽くさなければブラックには届かない。その事実がランサーの戦意を天井知らずに押し上げて行き、その速さを上げて行く。

 対するブラックもランサーとの戦いはライダーと慎二で募っていた苛立ちを忘れるほどに楽しんでいた。一瞬の油断が自らの敗北を招く緊張感。自身と同じ『戦闘狂』であるランサーの技量。その全てがブラックの戦意をランサー同様に天井知らずで上げていた。

 

『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 もはやブラックとランサーは周りにも、戦いの中で負って行く傷にも気に留める事さえもせずに互いに歓喜に満ちた笑い声を上げながら戦い続け、ビルの屋上を崩壊させて行くのだった。

 

 

 

 

 

 ライダーと慎二が居るビルの屋上から更に上空。

 暗闇で覆われている空の上でルインとキャスターは互いに攻撃を放ちながら、相手の考えを悟ろうとしていた。

 

「ディバインバスターー!!!」

 

「フッ!」

 

 ルインが放った魔力砲撃に対して、キャスターは素早くローブを翼のように広げて内側に浮かんでいた紋様の中に魔力砲撃を吸収した。

 そして砲撃が完全に止むと同時にローブの内側に浮かぶ紋様から砲撃をルインに向かって跳ね返す。

 

「返すわ」

 

「入りませんね!!アンチ・マギ・リンクフィールド!!」

 

ーーーバシュン!!

 

「ッ!?」

 

 叫ぶと共にルインの前方に何らかのフィールドのようなモノが発生し、キャスターが跳ね返した魔力砲撃は霧散した。

 その事実にキャスターはローブで隠している目を見開く。ルインが行なった事は『魔術』を無効化した事に近い。しかも今の魔力砲撃はかなりの魔力が篭もっていた事を跳ね返したキャスターは感知していた。それを無効化したルインには『対魔力』に近い現象さえも引き起こせる事に気がつき、キャスターは険しく口元を歪める。

 

(フゥ~、今のでこっちに『対魔力』に近い現象を引き起こせると思わせられたでしょう・・これで高位の『魔術』の使用を少しは控えて欲しいですね)

 

 そうルインは内心で呟きながら、油断なく空中に浮かんでいるキャスターを見つめる。

 何故ならば先ほど使用した魔法『アンチ・マギ・リンクフィールド』は、『魔法』に対しては効果を発揮するが『魔術』に対しては効果が全く無い代物なのだ。先ほどの砲撃が無効化出来たのは、あくまでルインが放った砲撃だったからに過ぎない。

 その事を知らないキャスターは警戒心を強めてルインを睨み付ける。

 

「・・・厄介な相手ね、貴女は・・・『魔術』と同じ現象を引き起こせながら、それでいて全く違う異質な力を振るう。この様子だとまだ切り札を隠してそうね」

 

「さぁ、どうでしょうね・・・ただ、貴女の弱点を見切らせて貰いました」

 

「私の弱点?・・・・興味深いわね。この私にどんな弱点があるのかしら?」

 

「教えてあげますよ、ソニックムーブ」

 

「ッ!?」

 

 ルインが高速移動魔法の詠唱を呟いた瞬間、ルインの姿はキャスターの目の前から消失した。

 その事実にキャスターが慌てて魔術障壁を張り巡らそうとした瞬間、その背中に凄まじい衝撃が襲い掛かる。

 

「ガッ!?」

 

 いきなりの背中からの衝撃にキャスターが慌てて振り向いてみると、両手を魔力で覆ったルインが拳を構えていた。

 

「これが貴女の弱点です!!シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!」

 

「わ、私の魔術障壁を簡単に!?」

 

 ルインが打撃強化と効果破壊を伴った魔法である『シュヴァルツェ・ヴィルクング』で覆った拳を振るうと共にキャスターが張り巡らした魔術障壁が次々と砕けて行く。

 本来ならば『魔導師』ならば対処を行なえるが、生粋の『魔術師』であるキャスターには対処が出来ない。『魔術師』と『魔導師』で違う点は技術の体系ではなく、『魔導師』は前線に出ると言うのに対して『魔術師』は研究者という側面が大きい。現代の『魔術師』の中には格闘を習う者も居るが、過去の英霊であり『魔術師』のサーヴァントであるキャスターの接近スキルは低い。対してルインは膨大な接近戦用の『魔法』を保持している。故に接近戦に弱いキャスターをルインは圧倒する事が出来るのだ。

 次々とルインが繰り出す拳に施した魔術障壁が砕かれていく事にキャスターは焦りを覚え、背後へと急いで下がる。

 

「舐めないで!!」

 

 後方へと下がると共にキャスターは手に持っていた杖から紫色の光弾をルインに向かって撃ち出した。

 それに対してルインは自身の前方に魔力障壁を発動させると同時に、別の魔法も発動させる。

 

「フェイク・シルエット!!」

 

「分身!?・・いえ、これは幻影!?」

 

 目の前で増えたルインの正体をキャスターは悟って、自分の周りを高速で動き回るルイン達を眺める。

 本物と見間違えるほどの幻影を一瞬にして複数発生させたルインの技量に、キャスターは警戒心を更に強めて周りを飛び回っているルイン達を見つめる。

 

「(これほど『魔術』とは違う異質な力を扱うサーヴァントに、最優のサーヴァントのセイバー以上の接近戦をこなせる同じく異質なサーヴァント・・・やはり、この陣営が『聖杯戦争』で最強なのは間違いないわね・・・やはり、何としても更なる力を得なければならないわ・・・だけど)・・・・フッ!!」

 

 キャスターが勢いよく杖を振ると共に紫色の光が四方に走り、光にルイン達が触れた瞬間にルイン達は全て消滅した。

 本体の攻撃が来ると思ってキャスターは辺りを見回すが、追撃が来る様子は無く、キャスターは口元に手をやりながら笑みを浮かべる。

 

「やはりアレだけのサーヴァントを二体同時に戦わせるのはマスターの消耗が高いようね。長時間の同時戦闘はマスターへの負担が多過ぎる・・・ならば、此方の取れる手段は増えたわね・・フフフッ」

 

 キャスターはそう笑いながら、ゆっくりとライダーと慎二が居るビルの屋上と、その場所に向かって猛スピードで接近して来ているサーヴァントの気配に目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 ビル内部の一室。

 その場所に置かれていた机や椅子は全て力任せに粉砕されていた。それを成したイリヤスフィールが操る傀儡兵は、重い足音を立てながら獲物である凛に向かって真っ直ぐに駆け出し、右手に握っている分厚い剣を振り下ろす。

 

「クッ!!」

 

 豪快に傀儡兵が振り下ろして来た剣を凛は床を転がりながら躱わし、自身の背後にあった机の瓦礫に構わずに傀儡兵を操っているイリヤスフィールに向かって左手の人差し指を構える。

 しかし、凛がガントをイリヤスフィールに向かって撃ち出す前に、傀儡兵が左手に握っている銃を構えて凛に向かって銃口から魔力弾を連射する。

 

(避けられない!?なら!!)

 

 目の前に迫る魔力弾を避けられないと瞬時に判断した凛は、素早くスカートのポケットに手を入れて輝く宝石を取り出し魔力弾に向かって投げつける。

 

「Set―――――ッ!」

 

ーーードゴォォォン!!

 

 凛が『宝石魔術』の詠唱を唱えると共に宝石が輝き、大爆発を引き起こして魔力弾を飲み込んだ。

 同時に立ち止まることなく凛は床を転がりながら、別室に飛び込んで身を低くして潜むように這いながら荒い息を吐く。

 

(ハァ、ハァ、ハァ・・・全く!とんでもない代物を出してくれたわね)

 

 身を隠しながら凛は内心で苛立ちに満ちた声を上げながらポケットに手を入れて、残りの宝石の数を確認する。

 『切り札』の宝石こそ一つも使用していないが、それ以外の宝石は幾つか消費されてしまった。逆に相手の傀儡兵は多少の破損はあっても充分に動ける範囲。直接『宝石魔術』が決まれば確実に破壊出来るだろうが、ガントの魔術では破壊は難しいことを凛は既に知っている。

 

(ガントを防いだ光の盾のようなもの。アレはガントじゃ破れない。破れるのは一撃の威力が高い『宝石魔術』だけ。何とかして隙を見て)

 

「考え事は終わった、リン?」

 

 凛の思考を遮るように重い足音が部屋の中に響くと共に、イリヤスフィールの声が凛の耳に届いた。

 見つからないように僅かに顔を動かし、恐る恐る部屋の入口の方を見てみると、傀儡兵の背後に立つ僅かに汗を流し、何処となく顔色が青くなったイリヤスフィールが部屋の入口のところに居た。凛はそのイリヤスフィールの状態に疑問を覚える。

 現在の状況はイリヤスフィールの方が明らかに有利。にも関わらず、イリヤスフィールの状態は追い込まれているように凛には見えた。

 

(どういう事?イリヤスフィールの方が優勢なのに・・・汗を流している?何か別の事でイリヤスフィールは疲弊して・・・・・っ!?そうか!?考えたら当然だわ!あんな規格外なサーヴァントを二体同時に戦わせていたらマスターの魔力が持つ筈がない!?)

 

 イリヤスフィールは確かに今回の『聖杯戦争』に於いて最高のマスターとしての資質を持っている。

 だが、そのイリヤスフィールのマスターとしての資質を持ってしても、ブラックとルインを二体同時に戦わせるのは負担が大き過ぎた。枯渇には至っていないが、その身に保有している魔力は今も吸い取られている。このままでは遠からずにイリヤスフィールの魔力は尽きる。

 その事実に辿り着いた凛は声を部屋全体に響くように魔術を発動させて、イリヤスフィールに話し掛ける。

 

「随分と辛そうね、イリヤスフィール?流石の貴女でも二体のサーヴァントを従えるのは苦しそうね」

 

「クッ!!」

 

 自らの状態を悟られたことにイリヤスフィールは悔しげに声を上げて、部屋の中に潜んでいる凛を暗がりを見つめながら探す。

 このままでは確かに魔力が消費されていく事でイリヤスフィールは不利になる。逆に凛はこのまま時間を掛ければ自身が有利になって行く事を知った。追い込む側が追い込まれる側に代わった事を理解したイリヤスフィールは悔しげに顔を歪めて、左手に嵌まっている『グランギニュル』を構える。

 

「・・・・そうね・・・悔しいけど凛の考えているとおりよ・・・・だから、諦めるわ」

 

「諦める?」

 

 イリヤスフィールの負けを宣言するような発言に、逆に凛は不安な気持ちを抱いた。

 今の発言は確かに何かに対する負けの宣言。だが、それをイリヤスフィールが告げるのは早い。持久戦になる前にイリヤスフィールが勝利する可能性もあるのだから。

 だが、これ以上の戦闘をイリヤスフィールはする気がなかった。凛には気が付かれていないが、念話でルインからこれ以上の戦いは止めるように伝えられたのだ。ブラックの方は完全にランサーとの戦いを楽しんでいるので、これから更に魔力は減って行く。凛だけならばギリギリまで戦えるが、乱戦となっている現状でソレは悪手だとルインから届いている。故にイリヤスフィールは“諦めた”。

 

「貴女の魔法少女姿を写真に撮るのは諦めるわ」

 

「そっちか!?」

 

 発言の意味を理解した凛は思わずツッコミを入れるが、次の瞬間に途轍もない嫌な予感が襲い掛かり、慌てて傀儡兵とイリヤスフィールが居る方に目を向けてみると、イリヤスフィールの姿は無く、代わりに入口の前で仁王立ちする傀儡兵だけが居た。

 一体どうしたのかと疑問に凛が思った瞬間、傀儡兵からイリヤスフィールの声が響く。

 

『この傀儡兵は後十秒後に大爆発を起こすから、早く逃げてね、リン。それじゃあね』

 

「なぁっ!?」

 

 言葉の意味を理解した凛は一瞬で顔を青ざめさせ、何とかしようと宝石を取り出そうとするが、無情にも傀儡兵から音声が響く。

 

『・・・・・5・・・・・4・・・・3・・・2・・・』

 

「うそでしょうぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 もはや間に合わない事を悟った凛は絶叫を上げて、耳に届くカウントタイマーの音声に絶望で顔を染める。

 しかし、カウントがゼロを告げる直前に部屋の傀儡兵に背後から強烈な蹴りが叩き込まれ、傀儡兵はその威力によって冗談のように窓の外へと吹き飛ばされて窓の外でそのまま大爆発する。

 

「クゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 爆発の衝撃から逃れようと体を低くし、衝撃が治まったのを確認するとゆっくりと凛は起き上がり凛は起き上がり、窓ガラスの破片や椅子や机が散らばっている部屋を見回す。

 

「・・・た、助かった・・・でも、一体だれが?」

 

「無事でしたか、リン?」

 

「セイバー!!」

 

 部屋の中に入って来た武装したセイバーの姿に凛は驚きながらも、セイバーが自身を助けてくれたのだと悟る。

 

「どうして此処に?」

 

「私にもライダーを逃した責任はあります、それにシロウも覚悟を決めてこの場に訪れました」

 

「衛宮君も来ているの!?」

 

 慎二の事で答えが出せずに悩んでいた士郎がこのビルに来ていることに凛は声を上げると、セイバーの背後から士郎が顔を出す。

 

「・・・遠坂」

 

「・・・此処に来たって事は覚悟を決めて来たと思っていいのよね?」

 

「・・・・あぁ・・・俺は慎二を倒す。今回みたいな事態になったのは俺の責任だ。だから、責任を取る・・・桜に恨まれる覚悟もして来た」

 

「そう・・・なら、早く行きましょう。アーチャーが先に行っているけど、まだアサシンのサーヴァントが姿を見せていないし、急いだ方が良いわ」

 

「分かった」

 

 凛の言葉に士郎は頷き、セイバーも無言のまま頷いて三人はライダー、慎二、アーチャーが居る屋上へと急いで向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ビルの屋上。

 その場所には大量の竜牙兵の残骸が床に転がっているだけではなく、床に数え切れないほどの剣が突き刺さっていた。そして屋上の端には魔力を発する剣に周りを囲まれ、恐怖に怯える慎二を庇うように立つライダーが、視線の先で竜牙兵達をほぼ一瞬で駆逐したアーチャーを眼帯で覆われている目で見ていた。

 当初はライダーは屋上に出て再び自身が騎乗する『幻想種』を召喚しようとしたのだが、屋上には既に大量の竜牙兵達が存在していた。キャスターの罠だったと悟った時には既に遅く、大量の竜牙兵達は一斉にライダーと慎二に襲い掛かった。もはや恐慌状態で喚きながら慎二はライダーに竜牙兵達の破壊を命じ、ライダーは回復した魔力を振り絞って戦った。

 しかし、昼間のブラックとの戦いで負った傷は完治しておらず、その上に魔力も乏しい状況では慎二を護りきれず、竜牙兵の刃が慎二の命を奪い取ろうとした瞬間に、空から大量の剣が降り注ぎ竜牙兵達を破壊し、それを成したアーチャーが現れたのだ。

 キャスター、ランサーだけではなく更にアーチャーまで現れた事実にライダーは自身と慎二に取って最悪な出来事が起きていると確信してアーチャーを見つめるが、慎二は構わずに恐怖に震えながらアーチャーに話しかける。

 

「お、お前は・・・衛宮と一緒にいたサーヴァント?な、何でお前まで?」

 

「間桐慎二。貴様の所業の数々は『聖杯戦争』の継続を阻害すると判断された。もはや何処にも逃げられんぞ。貴様は全てのサーヴァントとマスターから標的にされているのだからな」

 

「なっ!?・・・な、何だよ!?それ!?僕はライダーを戦えるようにしただけだ!!『聖杯戦争』で『魂食い』を行うことは認められているんだぞ!?それなのに!?何で僕が標的にされるんだ!?」

 

「度し難いな・・・貴様は裏の世界のルールである『神秘の秘匿』さえも護ろうとせずに『魂食い』をライダーに行なわせた。もはや貴様は『聖杯戦争』の参加者とは認められてすらいない。例えライダーとの契約を破棄しようと貴様は殺される対象になっている」

 

「そ、そんな!?」

 

「・・・・やはり、其処までの事態になりましたか」

 

「ライダーー!!お前まさか!?こうなることが分かって!?」

 

 ライダーの発言に慎二は怒りと困惑に満ち溢れながらライダーに向かって叫ぶが、ライダーは気にした様子も見せず、寧ろ侮蔑さえも込めた声で慎二に話しかける。

 

「私は神秘の秘匿に差し障ると人を襲う度に伝えました。ですが、それに耳を貸さずに命じたのは貴方です、マスター」

 

「うっ!!・・・く、クソ!!何でだよ!?何で僕がこんな目に合うんだ!!僕はただ“本当は持っていたモノを取り戻そうとしただけだ”!!僕は間桐の後継者なんだ!!!魔術師であるべきなんだ!!」

 

「貴様は魔術師という存在を勘違いしている。魔術師になると言うことは同時に他の魔術師を殺し、殺される覚悟を持たなければならない。貴様はその原則を知らずに『聖杯戦争』に参加した。もはや、これ以上の犠牲を出す前に引導を与えてやろう。I am(我が) the bone(骨子は) of my sword(捻じれ狂う)

 

(魔術の詠唱!?このサーヴァントはアーチャーなのでは!?)

 

 アーチャーの呟きの意味を理解したライダーは目を見開くが、アーチャーは構わず黒塗りの弓を何処からともなく出現させ、弓に捩れ狂ったような剣を矢にして構える。

 膨大な魔力を発する奇妙な剣に全身の肌が震え、ライダーは慎二の手を握ると、そのまま飛び上がって剣の囲いを抜けようとするが、その前にアーチャーが矢を放つ。

 

「『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』」

 

 放たれた矢は空間さえも捻じ曲げる勢いで真っ直ぐに突き進み、ライダーと慎二が居た場所を通過して行った。

 後に残されたのは矢の破壊力に抉れた屋上の路面と矢の威力に退かれるように流れる風、そしてその風の中に浮かぶ何らかの切れ端と思われる紙らしきもの。

 突き刺さっていた無数の剣は何時の間にか消え、屋上には慎二とライダーの姿は無くなっていた。しかし、アーチャーは油断無く抉られた屋上の端を見続けた瞬間、屋上の入り口が開き、凛、セイバー、士郎が屋上にやって来る。

 

「アーチャー!!」

 

「凛か・・・・それにお前もセイバーと共に来たのか?衛宮士郎」

 

 アーチャーは凛と共に居るセイバーと士郎に目を向けながら声を出し、士郎は屋上に広がる破壊の跡と慎二とライダーが居ない事に気がついて、アーチャーに質問する。

 

「・・・・お前が慎二とライダーを?」

 

「あぁ、逃げ場を無くして『宝具』を撃った。今のライダーには『幻想種』を呼び出す魔力も無い。屋上から落ちたとしても、負傷だらけの体では間桐慎二を護れるだけの力は・・・・・ムッ!?」

 

「これは!?シロウ!リン!!下がって!!」

 

 突然に発生した膨大な魔力を感知したアーチャーとセイバーは慌ててライダーと慎二が直前までいた屋上の端を士郎と凛を護るように立ちながら目を向けた瞬間、地上から白い閃光が走り、アーチャー達の頭上で滞空する。

 一瞬凛と士郎は滞空しているモノの姿に戦いの場で在る事を忘れて魅入ってしまった。真っ白い体に同じく真っ白の翼を二対左右に生やし、長い四肢と首を持った生物。その姿は見る者を魅了せずにはいられない幻想の生物。『天馬(ペガサス)』がその背にライダーと慎二を乗せて士郎達の頭上で滞空していた。

 

「馬鹿な!?既にライダーには『幻想種』を召喚出来る魔力は無かったはずだ!?」

 

 ライダーが『天馬(ペガサス)』を召喚出来た事に対してアーチャーは信じられないと言うように声を上げ、改めてライダーに目を向けて更に声を失う。

 先ほどまで確かに魔力が殆ど無く圧力を感じられなかったはずのライダーが、その身から魔力を発していた。万全とは言えないが、それでも戦えるレベルにライダーの魔力は回復している。一体どう言うことなのかとアーチャー達が疑問に思っていると、ライダーの後ろに居る慎二が勝ち誇った声を上げる。

 

「ハハハハハハハッ!!どうだ!!僕は死ななかったぞ!そうさ、この僕が死ぬはずが無いんだ!さぁ、ライダー!!お前の力を見せて…」

 

「薄汚い手で私とこの仔に触れないでくれますか?間桐慎二」

 

「えっ?」

 

 ライダーの言葉に慎二が疑問の声を上げた瞬間、慎二の首をライダーが掴み取って『天馬(ペガサス)』の背から引き摺り下ろして持ち上げる。

 

「ゲベッ!?ラ、ライダー・・・何を?」

 

「何を・・・貴方こそ忘れていませんか?貴方の手にあるべき物が無い事に?」

 

「ッ!?」

 

 言葉の意味を理解した慎二は慌てて自身の両手を見つめ、ライダーを従える為に重要だった代物である『偽臣の書』が無い事に気がつく。

 先ほどのアーチャーの『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』が放たれた瞬間、ライダーは一か八かの賭けに出ていた。慎二が持つ『偽臣の書』を手放すように、勢い良く慎二の襟首を掴んで背後へと飛び退いたのだ。突然のライダーの行動と『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』の威力を目の当たりにしていた慎二は思わず『偽臣の書』を手放し、『偽臣の書』は『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』に巻き込まれて消失した。

 それによって本来のマスターとのレイラインが復活したライダーは急いで魔力を供給し、ビルの外壁にしがみ付いた。その時に慎二が後ろから抱き付いて来たのは予想外だったが、振り払っている余裕などなかったのでそのまましがみ付かせたまま『天馬(ペガサス)』を召喚したのだ。この策が成功したのはアーチャーが『偽臣の書』が破壊されると共にライダーと本来のマスターとのレイラインが復活する事を知らなかったおかげである。

 そして本当のマスターとのレイラインが復活し、『偽臣の書』で結ばれていた慎二との仮の主従が無くなった今、ライダー本人にとって慎二は赦しがたい存在でしか無かった。

 

「色々と貴方には言いたい事はありますが、それはもう構いません・・・だって、貴方は・・・ここで“死ぬのですから”」

 

「ま、待て!?ライダーー!!アイツが!?アイツが僕を殺す事を認めると思うのか!?」

 

 ライダーが本気で自分を殺す気だと悟った慎二は必死にライダーの手を掴みながら叫ぶが、ライダーは構わずに慎二を引き寄せて、その首に尖った八重歯を煌かせる。

 

「大丈夫です、痛いのは一瞬ですから」

 

「や、やめろ!やめて・・・・・・・ギッ!ギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「ッ!」

 

「・・・・慎二」

 

 ライダーに首筋を噛みつかれると共に上がった悲鳴に凛は顔を顰め、士郎は辛そうにライダーに生命力を奪われている慎二を見つめる。

 アーチャーとセイバーは警戒するように慎二の生気を吸っているライダーを見つめ、少し経つと共にライダーは口を離して慎二を屋上に向かって放り捨てる。

 

「・・・あ・・あぁ・・・」

 

「アーチャー、貴方には感謝の礼として慎二の首を上げます。どのような状況なのか分かりませんが、其処の下衆の命を奪うのは貴方にとってのメリットになるのでしょう?」

 

「出来れば君の命も欲しいのだがね、ライダー?」

 

「残念ですが、私の命はまだ渡せません。私にはやらなければならない事があるのです」

 

「やらなければならないこと?それは一体?」

 

「教えられません。では、失礼します!ハッ!!」

 

『ブオォォォォッ!!』

 

 ライダーが『天馬(ペガサス)』に繋がっている手綱を動かすと、『天馬(ペガサス)』は嘶き、そのまま夜の闇を駆けて行った。

 追撃はしたくとも空を飛んでいる相手への攻撃手段が限られているセイバーはライダーに攻撃出来ず、アーチャーも『偽・螺旋剣(カラドボルグ)』を使った影響で攻撃は難しかった。

 

「ライダーの追撃は諦めるしかあるまい・・・それよりもセイバー、構わないかね?」

 

「・・・・えぇ・・・今回は同盟者である貴方や凛にも迷惑をかけました」

 

「では、やらせて貰う」

 

 アーチャーはそう告げると共に右手に黒い短剣を出現させて、虫の息である慎二に向かって歩み寄る。

 それを見た士郎はアーチャーが慎二に止めを刺す気なのだと悟るが、今度は止められなかった。既に慎二がした事は償うと言う領域を超えている。何よりも此処で止めれば凛とアーチャーとの同盟関係は完全に破綻する。故に士郎はこれから起きる事だけは絶対に目を逸らさない事だけは心に決めて慎二に歩み寄るアーチャーの背を見つめた瞬間、士郎の耳に声が届く。

 

「・・え、衛宮・・・た、助けて・・・くれ・・・」

 

「慎二ッ!・・・・・・俺にはもうお前を救えない・・・・俺はお前を助けたばかりに・・・沢山の無関係な人達を巻き込んだ・・・・だから・・・・俺にはお前を救う事は出来ないんだ」

 

「た、助けて」

 

「見苦しいぞ、間桐慎二。貴様の命運は此処までだ」

 

 アーチャーは助けを請う慎二に対して一切の躊躇いも見せずに、その心臓を短剣で突き刺した。

 最後に慎二がピクリと痙攣すると共に、間桐慎二の生命活動は終わりを迎えた。その最後の瞬間まで凛と士郎は目を離すことなく見つめ、士郎は友だった慎二を救えなかったことを胸に刻んだのだった。

 

 

 

 

 

 ブラックとランサーが戦っていたビルの屋上。

 その場所で応酬を繰り広げていたブラックとランサーは戦いを一時止めて、瓦礫だらけの屋上で睨み合っていた。ブラックの体には深手ではないがかなりの傷が存在し、対するランサーは青いボディースーツを真っ赤に染めていた。

 本来ならば決着をつけるまで戦いたがったが、ブラックはイリヤスフィールの事で、ランサーはマスターの指示で戦闘を一時中断し、ライダーがこの場を去った事も理解していた。

 

「・・・・今日は此処までだな」

 

「・・・あぁ、決着をつけられなかったのが残念だぜ・・・しかし、ライダーの奴。運良く逃げ延びたようだな」

 

「そうだな」

 

 ブラックとランサーは同時にライダーが去って行った方角を見つめる。

 ルインからの報告でライダーが真のマスターとのレイラインを取り戻し、慎二が死んだ事をブラックは知っている。慎二に関してはブラックは何の感情も抱かなかったが、獲物と認定したライダーが生き残っている事実には僅かに喜んでいた。

 

「間桐慎二って言うガキが死んだ事で『聖杯戦争』は本来の形に戻ると思うぜ。今日のところは此処までだな」

 

「残念だがな・・・・ランサー、次こそはその命を貰う」

 

「へっ、そっちこそ次で心臓を貰い受けるぜ。じゃあな」

 

 ランサーは言葉を告げると共にその身を霊体化させて、戦いの場から去って行った。

 それを横目で確認したブラックは追うことはせず、ゆっくりとライダーが去って行った方を見つめて目を細める。

 

「コレで何かしらの動きが『聖杯戦争』全体で起きるだろう。少なくともライダーが生き残った事で、間桐家は何かの動きを見せる。狙う理由が出来たな」

 

 そうブラックは呟くと共にランサー同様にその身を霊体化させて、イリヤスフィールとルインの下へと戻るのだった。


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