空から太陽の日差しが降り注ぐ時間帯。
買い物をしている主婦や、外回りに出ているサラリーマンなどが新都の街中を歩いていた。何気ない日常を過ごしている者達は、それぞれの目的や仕事の為に街を歩いている。誰もがその日々が続くと思う中、昼でも余り日差しが届かない路地裏で一人の女性の命の火が消えようとしていた。
女性はただ街を歩いていただけだった。友人と携帯で話をしたり、自身が着る服などの買い物をする為に街に出ただけの女性だった。しかし、不運としか言えないことに獲物とされて路地裏に引き込まれ、首筋に痛みが走ったと同時に意識が遠退いて行き、女性の生命は人知れず失われたのだった。
学校での出来事の後、凛は綺礼に直接連絡して対応を頼み、聖堂教会のスタッフを派遣して貰うと言うことで隠蔽工作をした。封鎖結界に取り込まれた学校の生徒には被害は出ていないが、戦闘があった為に校舎や校庭には甚大な被害が出てしまった。人数が人数の為に処理には手間取ったようだが、最終的に学園の方は二月中は休校と言う事に治まった。因みに学園の修理費の方は教会の方にアインツベルンが出すという連絡が届いている。
そして学校での処理が終わった後、士郎、凛、セイバー、アーチャーは衛宮邸へと戻り、居間で慎二とライダーに関して話し合っていた。
「それで・・・詳しく聞く暇が無かったけど・・・どうして重傷のライダーを慎二と一緒に逃がしたのが不味いんだ?」
「・・・・ハァ~・・・サーヴァントに関して説明不足だったわね・・良い?サーヴァントにとって『魔力』は何よりも大事なものなの。現界を続けるにしても、戦闘に関しても、宝具の使用に関してもね。そして傷の治療に関してもよ」
「我々サーヴァントは現世で活動する為には『魔力』が必要なのだ。『単独行動』のスキルが在れば別だが、保有している魔力が我々にとって命綱と言って良い。現に私がセイバーに負わされた傷の治癒も凛から送られて来る魔力によって治療されていた」
「ちょっと待ってくれ。傷の治癒に魔力が必要なのは分かったけど、セイバーはどうなんだ?ランサーからやられた傷はすぐに治ったように見えたけど?」
「シロウ・・・あの時私は貴方に治癒を願い出た事を覚えていますか?」
「・・・あぁ、そう言えば確かに言われた」
「私は自然治癒力が高いので時間さえあれば傷は癒されます。ですが、それは表面的なものなのです。戦闘中に怪我を負えば、当然治癒力に回せるだけの魔力は無く傷は残ったまま。戦闘以外でならば治癒力に魔力を回せます」
「つまり・・・サーヴァントが持つ治癒力は魔力によって発揮出来るって事か?」
「はい・・・・通常ならばマスターから送られて来る魔力によって治癒力は発揮出来ます。ですが、ライダーのマスターは魔術師ではない」
慎二はライダーと言うサーヴァントを動かす為の動力源にあたる魔力を供給せず、一般人から魔力を得ていた。通常時ならば生命の支障に来たすほどの魔力を得る必要は無いが、今のライダーは魔力が枯渇寸前で治癒力が発揮出来ない。治癒力を発揮する為には魔力を得るしかない。だが、慎二はその魔力を供給出来ない。
再び外部に頼る事でしか慎二はライダーを復活させることができない。頼らなければライダーは消滅するしかないのだから。その魔力の供給に当たる場所こそが逃がしてしまった最大の問題だった。
「重傷を負ったライダーの傷を癒せるだけの魔力を慎二は提供出来ない。だからこそ、今までもライダーの魔力供給の為にアイツは『魂食い』を行なっていたのよ。だけど、今のライダーは間違いなく現界していられるのもギリギリの状態に違いないわ。あのイリヤスフィールの二体目のサーヴァントに重傷を負わされたばかりか、逃げる為に宝具も使用した。あの規格外のサーヴァントを吹き飛ばす威力を持った宝具をね。正体までは分からないけれど、あの学校の状況から見て『対軍宝具』で間違いないでしょう。問題は其処まで魔力を消費した事よ」
「現界にまで支障を来たすほど疲弊していた場合、今までのように相手の命に極力影響を与えないレベルではまともに戦えるくらいに回復するまで数日は掛かるだろう。凡そ一日三十人の人間を襲った場合の考えだがな」
「さ、三十人だって!?そんな!?」
アーチャーが告げた犠牲者になるかもしれない大よその人の数に士郎は思わず叫んだ。
しかし、実際に現界しているのもギリギリで重傷を負っているサーヴァントを戦えるように戻し、怪我の治療を行なう為にはそれぐらいの犠牲が必要だった。これがまともな魔術師ならば、生成される魔力を送る事でサーヴァントの治癒力を発揮出来るが、魔術師でない慎二には不可能。必然的に一般の人間に犠牲者が出るのは間違いなかった。
その事実に行き着いた士郎は、自身の行動の結果で何も知らない人々に犠牲が出てしまう事実に顔を下に俯かせる。だが、事態は士郎が想像しているよりも悪かった。
「だが、今の話は冷静に『聖杯戦争』の、裏のルールを理解している者が行なう行動だろう。しかし、今の間桐慎二がその冷静な判断を出来るとは全く思えん。あの小僧は間違いなく」
「折れていますね。心が」
アーチャーの言葉に続くようにセイバーが言葉を続けた。
彼らは経験上間違いなく慎二の心が折れていることを悟った。自分達でさえも脅威と感じたブラックの殺気を何の覚悟も無い者が受ければ、その心は恐怖心に支配される。それから逃れようと慎二が形振り構わない行動を行なうのがアーチャーとセイバーには目に見えていた。
凛もそれには同感としか思えなかった。もはや慎二が冷静な判断を下せるとは思えない。間違いなく自らに宿った恐怖心を晴らす為に形振り構わない行動を行なう筈なのだ。
「・・衛宮君。慎二に関してはもう諦めるしかないかもしれないわ」
「なっ!遠坂!?」
「貴方と慎二が友人の関係なのは分かっている。だけど、慎二が学校の生徒を襲ったのも間違いない事実よ。イリヤスフィール達の邪魔のおかげで学校の皆はあの結界の影響を免れたけど、失敗すれば全員があそこで死んでいた。それ以外にも慎二は綾子や弓道部員の生徒をライダーに襲わせていた事を忘れてはいけないわ」
「間桐慎二とライダーを野放しにしておけば、今まで以上の犠牲者が出る。あの場でイリヤスフィールの二体目のサーヴァントが間桐慎二を殺そうとした判断を私は間違っていないと考えている。逃した方が明らかに害を関係の無い者に及ぼすのだからな」
「アーチャー!お前!?」
「衛宮士郎・・・ハッキリ言わせて貰うが、私は凛に貴様との同盟の破棄を進言しようと考えている」
「なっ!?」
「アーチャー!貴方何を言って!?」
自らのサーヴァントであるアーチャーの言葉に凛も思わず叫ぶが、アーチャーは臆することなく真っ直ぐに士郎を見つめる。
「・・・凛。私が今の考えに至った理由を説明しよう。もしも今回の件で君がイリヤスフィールの二体目のサーヴァントの立ち位置に居た場合、君はどうしていた?」
「・・・そうね・・・間違いなくライダーの相手をアーチャーに任せて、私が慎二を相手にしていたわ。結界の事も考慮したら、早急に戦いを終わらせようとしたはずよ」
「私は無論それを援護する行動を取っていた。隙あらば間桐慎二の命を奪う事も私は躊躇わない。此処までは問題は無い。だが、衛宮士郎?貴様はそんな状況になっていた場合、貴様は間桐慎二を護る為にセイバーを差し向けるだろう?」
「そ、それは」
「イリヤスフィールには『聖杯の器』と言う理由があるが、間桐慎二には『マスター殺し』をしない理由は無い。だが、貴様は同盟関係にある私達の行動を阻む可能性がある。私が同盟を破棄するように進言する理由は其処だ。味方だと思っていた者に背後から奇襲をされる事が戦いの中で一番恐ろしいことなのだからな」
アーチャーはそう締め括り、士郎は何も言い返すことが出来ず、セイバーもアーチャーの意見には同意せざるを得なかった。
戦場で何よりも恐ろしいのは味方だと思っていた相手の反乱。生前の出来事でそれを嫌と言うほどに味わったセイバーはアーチャーの意見を否定出来なかった。セイバーは士郎の考えには共感出来るが、同時に士郎は敵である相手に対しても命を奪わないという方針を持っている。
サーヴァントだけを倒す方針には騎士として賛成出来るが、それだけで『聖杯戦争』は勝ち進めるものではないこともセイバーは分かっている。
アーチャーの説明を聞いていた凛も、士郎ならばそんな状況になった時に動くかもしれないと内心で納得するが、同盟破棄の件は納得出来なかった。
(アーチャー?貴方の考えは理解出来たわ・・・だけど、そもそもこの同盟を結んだ理由を忘れていない?イリヤスフィールが二体もサーヴァントを従えていることが明らかになった今、同盟の破棄は認められない。何よりも私達は切り札の『宝具』が使用出来ないじゃないのよ?)
(凛・・・その件に関しては報告が遅れたが、今だ真名や私の詳細に関する部分は曖昧だが、今日の戦闘で『宝具』を私は思い出した)
(ッ!?本当なの!?)
今まで召喚ミスのツケで分からなかったアーチャーの宝具が分かった事実に、凛は士郎とセイバーに悟らないように内心で笑みを浮かべた。
サーヴァントの最終的な切り札である『宝具』。それをアーチャーが使えるようになった事実は確かに大きい。だが、凛は『宝具』に関しては分かっても同盟破棄はまだ早いと考えてアーチャーにレイラインを通じて伝える。
(アーチャー・・確かに『宝具』のことは大きいけれど、イリヤスフィールのサーヴァントは規格外よ。しかもまだ切り札を隠しているかもしれない。同盟の破棄は認められないわ)
(・・・・分かった。マスターの方針には従う。だが、衛宮士郎は今回の件で分かったように我々に牙を向ける可能性を持つ獅子身中の虫である事も忘れないでくれ)
(・・・・・・分かったわ)
何処と無く不機嫌そうな様子ではあるが、凛はアーチャーの言葉に同意を示し、今度の行動を士郎とセイバーと共に話そうとする。
だが、その前に凛の魔術師としての感覚に衝撃が走り、アーチャー、セイバー、士郎も同様の衝撃を感じて衝撃が届いて来た方に目を向ける。
「今のは?」
「魔力のパルスよ。方角からすると・・・・教会の方?」
感じた魔力パルスの衝撃に疑問を覚えた凛は立ち上がり、襖を開けて教会が在る方向の空に目を向けてみる。
後からセイバー、アーチャー、士郎も続き、教会のある方向の空を見てみると、煙のようなものが空に舞い上がっていることに気がつく。
「何だ?アレは?」
「・・・招集の狼煙ですって?綺礼の奴一体何を考えているの?」
空にたなびいている煙が聖堂教会が『聖杯戦争』の参加者の招集を告げる合図だと気がついた凛は、顎に手をやりながら考え込む。
本来ならば聖堂教会は『聖杯戦争』に参加しているマスターには干渉しないが、何か重大な取り決めが行なわれる時だけ招集を呼びかけるというルールが存在している。その合図が出されたという事は、『聖杯戦争』に関する重大な要件なのだと考えて凛は離れに作った自身の工房に向かいだす。
「使い魔を教会に送るわ」
「行かないのか?良く分からないけれど、呼び出しなんだろう?」
「アレは私への呼び出しじゃなくて、『聖杯戦争』に参加している全マスターへの招集なの。他の陣営のマスターが集まるって事だけど、全員が素直に応じる筈がないでしょう?だから、使い魔を送って用件だけを聞くの。教会に直接行って襲われる可能性だってあるんだから」
「あぁ、そうか」
「じゃ、居間で待っていてね」
納得した士郎の様子に笑みを浮かべながら、凛は自らの工房へと歩いて行く。
外で待っていてもしょうがないと感じた士郎は家の中に戻ろうとするが、その前に教会が在る方の空を顔を暗くしながら眺めているセイバーに気がつく。
「ん?・・・セイバーどうしたんだ?」
「・・・いえ・・・何でもありません」
「何でもないって顔じゃないぞ?何か不安な事でもあるのか?」
「・・・・・・シロウ・・・・覚悟だけはしておいて下さい。この招集は恐らく・・・・貴方にとって辛いものになるでしょうから」
「えっ?」
意味深なセイバーの言葉に士郎は疑問の声を上げるが、セイバーはそれ以上何も告げることなく家の中に戻って行く。残された士郎はセイバーの言葉に首を傾げるが、セイバーの言葉が正しかったともう少し先で理解するのだった。
教会の礼拝堂にある信徒席。
緊急招集の合図を出してから一時間後、言峰綺礼は信徒席から自身の姿が良く見える場所に立ちながら、信徒席から感じられる気配に笑みを浮かべていた。招集に堂々と応じて姿を現すマスターやサーヴァントは誰一人として現れず、前回の『聖杯戦争』の出来事に酷似している状況に笑みを綺礼は隠せなかった。
そしてこれから告げることも前回と良く似ている。しかし、それを自らの好みに合わせて告げられる幸運に僅かな喜びを感じながら綺礼は声を出す。
「声を返せる者が誰一人としていない事を寂しくは感じるが、今はそれを嘆いている状況では無いので用件を急ぎ伝えさせて貰う。諸君ら『聖杯』に選ばれし者達が参加している『聖杯戦争』だが、今重大な危機に見舞われている。暴走したマスターに従うサーヴァントが昼間だと言うのに命を奪うほどの『魂食い』を敢行し、既に二十名以上の犠牲者が出てしまった」
ゆっくりと綺礼は今の自身の言葉を伝えに聞いている者に理解が及ぶように時間を於き、その相手の顔が見れない事を残念に思いながら話を続ける。
「話を聞いている者達は、何故教会が招集を行なったのかと疑問に思っている者も居るだろうから理由を説明しよう。事は前回の『聖杯戦争』に理由がある。前回の『聖杯戦争』の時も今のように神秘の隠匿を忘れて自らの欲望の為に大勢の人々に犠牲を出したサーヴァントとマスターが居た。大勢の人々が神秘を目撃し、我々聖堂教会が対応し切れない事態にまで至ろうとしてしまった。私は前回の反省点を踏まえ、事態が大事になる前に事の解決を行なう事にした。監督役が持つ権限を使用し、諸君らに神秘の隠匿を破る暴走したマスター、『間桐慎二』とライダーの抹殺を願い出たい」
確実に今の言葉に動揺している少年の事を考えて、綺礼は内心で喜びを感じながら礼拝堂の中をゆっくりと歩き出す。
「無論、ただとは言わない。本来ならば中立であるはずの我々からの頼みだ。事を解決へと導いたマスターには報酬として我々聖堂教会が管理している『令呪』を一画進呈しよう。この『令呪』は過去の聖杯戦争に参加したマスター達が未使用のままにしていた『令呪』。我々聖堂教会が戦いに敗れたマスターを保護するのは『令呪』の回収も理由の一つ・・・急な事でこの場には無いが、我々の要求を叶えてくれたマスターには必ず『令呪』を進呈する事を神に誓おう」
告げた情報がゆっくりと使い魔を通じて拝聴している者に届く時間を綺礼は与え、全員が理解したと思って話を再開する。
「前回の出来事の時にも出来る事ならば我々の要求を叶えてくれた全員に『令呪』を与えたかったが、それは『令呪』を他陣営に渡したくないと考えたマスターの一人によって阻まれてしまった。当時の監督役を殺して、『令呪』の進呈を出来なくしたのだ。故に私は同じ悲劇を起こさない為に『令呪』を進呈するのは一人のみとする。例え同盟を組んで行動したとしても『令呪』を進呈するのはライダーを従えているマスターである『間桐慎二』を討ち取った者のみとする。ライダーの方は残念ながら討ち取ったとしても『令呪』は進呈出来ない。これに関しては複数のサーヴァントが同時にライダーに襲い掛かれば、判別が難しいからだ。更に言えば、街で人々の命を奪っているライダーの行動は間桐慎二が強制的に命じていること。故に『聖杯戦争』に悪影響を与えている一番の人物は『間桐慎二』だと我々は判断した」
厳かに綺礼は断言するような声音で、信徒席から感じられる視線を見回す。
『令呪』と言う切り札は誰もが欲しい手札。それを報酬として差し出されるのは魅力的な話。しかも受け入れなければ他陣営に切り札が一つ増えるという意味もある。どの陣営も『令呪』の重要性は理解している。
ほぼ間違いなく殆どの陣営が慎二を狙いだす。その時に自身の脳裏に浮かび上がる人物がどう行動するのか楽しみだというように綺礼は目を細める。
「諸君らにとっても『聖杯戦争』は重要なものであろう。『聖杯戦争』を継続させる為にも『間桐慎二』は討たなければならない。また、凶行を行なう『間桐慎二』に肩入れする者が現れた場合、その者も『聖杯戦争』の継続に悪影響を与える者だと我々は判断する。では、速やかに新都で凶行を繰り返す『間桐慎二』を討ち取りたまえ。彼の死を我々が確認しだいに従来の『聖杯戦争』を再開する」
そう綺礼は宣言すると礼拝堂から出て行き、信徒席に潜んでいた使い魔達の気配が去って行く。
ゆっくりとこれから起きるであろう出来事に廊下を歩きながら綺礼が笑みを浮かべていると、廊下の暗がりから僅かに苛立ちが篭もった声が響く。
「楽しそうだな?」
「フッ・・・・お前が持ち帰った情報は素晴らしかった。おかげで私の楽しみが増えたぞ」
「エセ神父が」
廊下の影に潜んでいる相手は心の底から侮蔑しきった声を出すが、綺礼は全く気にした様子も見せずに話を続ける。
「今回お前が持ち帰った情報は私にとってこれ以上に無いほどに有意義なものとなった。その礼としてお前が戦いたがっていた相手と全力で戦う事を許そう」
「テメエ・・・・・絶対に碌な死に方しねぇぞ・・・手っ取り早く言ったら如何だ?アイツの邪魔をしたいだけだろうがよぉ」
「フッ、何か問題があるのか?お前は全力で望む者と戦え、私はあの者がどのような選択をするのか見たい。全く問題はないはずだが」
「ケッ・・・・・まぁ、良いぜ。テメエの下についていたんじゃ、何時戦える機会が巡って来るか分からねぇからな」
そう廊下の影に潜んでいる者は綺礼の言葉を了承すると、その気配を薄れさせた。
気配の主が完全に去ったのを確認した綺礼は、今晩行なわれるであろう盛大な戦いに思いを馳せる。
「さぁ、衛宮士郎。お前は如何なる選択をする?間桐慎二を殺すのか?それとも凛との同盟を捨ててでも間桐慎二を護るのか?興味深い・・・このような状況を与えてくれた運命に私は感謝しよう」
綺礼はそう興奮と歓喜に満ちた笑みを浮かべながら呟いた。その顔に浮かぶ笑みは苦悩するであろう士郎の事を考えて、これ以上に無いほどに邪悪に満ち溢れていたのだった。
「・・・・何を企んでいる。あの聖堂教会の監督役は?」
新都のビルの一つでイリヤスフィールとルインと共に、教会に送ったサーチャーから一部始終綺礼のルール変更の話を聞いていたブラックは訝しげに目を細めていた。
一見理に叶っているように綺礼の話の筋は通っているが、それ以外に何か目的があるとブラックは『直感』していた。その目的は確実に碌でもない事だろうと思いながら、ブラックはビルの屋上から新都の街を見回す。
「・・・ルイン?既に捕捉しているだけで何人犠牲になった?」
「・・・・最低でも三十人以上ですね。聖堂教会の対応が間に合わずに警察が動いています」
「そうか・・・」
「これでライダーの魔力は少しは戻ったと考えて間違いないよね。となると、またあの結界を何処かのビルに張って魔力を吸収しようとするかもね」
「結界が万全になるのは時間が掛かりますけど、不完全な結界でも魔力は吸収できますから、間違いなく今のライダーのマスターの心情ならやりますね」
「えぇ・・・邪魔さえなければライダーの方は片付いていたのにね」
そう言いながらイリヤスフィールは、地上で赤いランプを回している数台の止まっているパトカーをビルの屋上の端から見下ろす。
パトカーから降りた警官達が見ているのは、ライダーによって血を吸われ過ぎて生命力を完全に失った女性の死体だった。既にそのような死体が新都の路地裏に幾つも存在していた。聖堂教会のスタッフが処理を急いでいるが、恐怖心に支配された慎二は一刻も早くライダーを戦えるようにしようと形振り構わずに凶行を続けていた。
「あの小僧は果たしてこれを知ってどう思うだろうな?」
「分かりませんね・・・・それにしても、幾ら友人関係だったとは言え、学校に居た人間達を巻き込もうとした相手を護るのは予想外でしたね」
「そうだよね」
「・・・あの小僧は恐らく命が目の前で失われる事に納得が出来ないのだろう。自分の身が犠牲になっても構わないと考えているかも知れん・・・・・危険だな」
今回の件でブラックは士郎に対して興味よりも危険な相手だと認識した。
あの他人に対する甘さと優先差は日常ではともかく、戦いの中では利用される要素になる。謀略を得意とする者ならば絶対に見逃さない隙。先はともかく、今のところのセイバーの最大の弱点は衛宮士郎と言うマスターだった。
「キャスター辺りならば利用しそうな気がしますね」
「かもしれんな。だが、今はそれよりもライダーだ。奴にこれ以上凶行を続けさせる訳には行かん。監督役の男の話に他の連中が乗るか分からんが、乱戦になる可能性も考慮すべきだ。大体の居場所が分かっている現状で、他の連中も見逃すとは思えんからな」
ブラックはそうイリヤスフィールとルインに告げると共に、ゆっくりとイリヤスフィールの横に並んで新都の街並みを見つめる。
冷たい風が吹く冬木市の新都で『聖杯戦争』に参加しているサーヴァントとマスター達の争奪戦が始まろうとしていた。長い夜が始まる。その先に待っている結果は誰にも分からず、『聖杯戦争』に参加した者達の戦いが夕暮れが沈むと共に開始されるのだった。
Zeroの時と同じ状況になりました。
エセ神父は彼から得られた情報を利用して、慎二が狙われる状況を作り上げました。
最も全員がエセ神父の考えているとおりに動くわけじゃないです。