運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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幻想種と魔眼

 穂群原学園の校庭。

 ブラックとライダーの戦闘で荒れ果てた校庭でブラックは疑問と困惑に満ちた視線で、自らに強い意志が篭もった目を向けて来ている士郎を見つめていた。

 その近くでは命が助かった事に安堵の息を漏らしている涙目の慎二と、その慎二を護るように立っているセイバーが居た。そしてブラックは珍しいことに本当に士郎がセイバーに慎二を護るように命じた事に本気で困惑していた。

 

「・・・・貴様・・・どう言うつもりだ?」

 

「・・お前に慎二は殺させない。慎二を殺す気なら止めさせて貰う!」

 

「・・・・分からん・・・何故貴様は敵を護る?しかも無関係な連中を大量に殺そうとし、更に街でライダーに『魂食い』を命じた奴を?」

 

「確かに慎二のしたことは赦されない・・・だから、償わせる!サーヴァントを倒せば其処までの筈だ!慎二を殺す必要は無い!」

 

(コイツ・・・歪んでいると思っていたが・・・異常だ。コイツの歪みは俺が予想していたよりも深い)

 

 自身が予想していた以上に士郎の歪みが深いことを理解したブラックは、目を細めて士郎を見つめる。

 確かにサーヴァントを倒せば、主だったマスターはその時点で『聖杯戦争』から脱落する。だが、それはあくまで“一時的”な可能性が存在しているのだ。『はぐれサーヴァント』と言うマスターを失って、新たなマスターを求めるサーヴァントも存在している。更に言えば『聖杯戦争』を構築した御三家の魔術師家系にはある特権が存在している。

 魔術師で無いと言え、御三家の関係者である慎二を逃せば、再び何かしらの災厄を引き起こす可能性が在るのだ。それはライダーと言うサーヴァントを従えていた事で明らかだった。

 

「・・・償わせるだと?・・・そんな事は不可能だ。この『聖杯戦争』と言う儀式自体が裏の世界の出来事。一般の人間が知れば、そいつらは殺すか記憶を消去するしかない。更に言えば、其処に居る小僧は自ら進んで『聖杯戦争』に参加した者だ。殺すには充分な理由だ!!」

 

「違う!!殺す理由なんてない!!慎二は確かに沢山の人達にライダーを襲わせたかもしれない!だけど、それは『聖杯戦争』があったからだ!慎二はそれに踊らされた被害者の一人だ!!」

 

「被害者だと?・・・・・ククククッ!笑わせてくれる!貴様は知っているか分からんが、其処に居るセイバーの背後に居る小僧は、自分の私怨でライダーにこの学校に通っている人間達を襲わせた!自分の意思でな!そんな事をやった時点で、被害者などと言う言い訳は通じんぞ!」

 

 ブラックはそう士郎に告げると共にもはや問答をする気はないと言うように、セイバーの背後で恐怖に震えて腰が抜けている慎二に向かって殺気を放ちながら前へと足を踏み出す。

 

「其処を退け!セイバーのサーヴァント!其処の無知な小僧と違って貴様ならば分かっている筈だ!この場でライダーのサーヴァントと其処の小僧が共に逃げれば、一体どうなるのかがな!?」

 

「・・・確かに私自身も後ろに居る少年には思うところが在るのは事実です」

 

「セイバー!?」

 

「・・・ですが、それはライダーを倒せば済む事!既に半死状態のライダーを倒して、この場から去るが良い!竜人よ!!」

 

 セイバーはそうブラックに向かって宣言すると共に、不可視の剣を構えなおしながら前へと踏み出す。

 自身の考えに応じてくれたセイバーに士郎は感謝の念を抱き、逆にブラックは慎二にだけ向けていた殺気を士郎とセイバーに向けて放ちだす。

 

(くっ!圧力さえも伴う殺気!・・・やはり、このサーヴァントは危険です!)

 

 先ほどまでは直接向けられていなかった故に余り感じなかったが、殺気を直接向けられたことでブラックの力量をセイバーは肌で感じ取ることが出来た。

 明らかにブラックはサーヴァントの中でも異常な存在。マスターではない故にそのステータスを見る事は出来ないが、明らかに今の状態の自分よりも上だということをセイバーは理解した。同時にブラックが装備している篭手も自身には危険なものだと『直感』が叫んでいた。

 

(あの篭手?・・まさかとは思いますが・・・もしもそうだとすれば・・・このサーヴァントは私の天敵!?)

 

「出来る事ならば万全な貴様と戦いたかったが・・・・俺の邪魔をした時点で止めだ!!貴様らも此処で潰してやる!!オォォォォッ!!」

 

 咆哮と共にブラックは地面を蹴りつけ、ほぼ一瞬にしてセイバーの間合いの中に入り込んだ。

 一瞬で自身の領域に踏み込んで来たブラックにセイバーは内心で驚愕しながらも、即座にブラックに向かって不可視の剣を振り下ろす。

 

「ハアァァァァァッ!!」

 

 セイバーの渾身の斬撃に対してブラックは即座に左手のドラモンキラーを動かし、セイバーが振り下ろして来た斬撃をセイバーの手元近くで防ぎ、ガキィンと甲高い音が鳴り響いた。

 そのままセイバーは剣を振るおうとするが、その前にブラックが素早く滑らすように左手を動かし、不可視の剣から火花が起きる。

 

(ッ!?不味い!?)

 

 ブラックの狙いに気が付いたセイバーは急いで剣をドラモンキラーから離そうとするが、その動きが分かっていたと言うようにブラックは更に左手を動かし、一定の距離を移動した瞬間に火花が消え、ブラックは目を細める。

 

「貴様の剣。どれぐらいの長さか分かった。もはや不可視に惑わされる事はないぞ!!」

 

(くっ!不用意に私の間合いに入り込んだのは、私に剣を振るわせて防ぐ為!・・・このサーヴァント・・・戦い慣れしているどころではない!)

 

 自らの優位の一つが簡単に失われた事実に、セイバーは歯噛みしながらブラックを見つめる。

 接近戦でセイバーが有利に事を進めることが出来る理由の一つには、宝具『風王結界(インビジブル・エア)』の剣を不可視にする効果のおかげである。派手さは余り無いが、『風王結界(インビジブル・エア)』の剣を不可視にする力は接近戦において絶大な効果を発揮する。不可視と言うことは剣の刀身の長さが分からず、間合いを測れないという事。

 武器を持つ者にとって間合いが分からないという事は、それだけで不利になるのだ。以前ランサーがセイバーと戦った時に攻め切れなかったのも、『風王結界(インビジブル・エア)』の力で剣が不可視になっていたのも大きい。

 その優位の一つを呆気ないほど簡単に破ったブラックの力量に、セイバーは戦慄しながらも剣を走らせたことで亀裂が入っているブラックの左手のドラモンキラーを見つめる。

 

「・・・・此処まで簡単に私の剣の長さを見破られたのは初めてです・・ですが、その代償も在るようですね。その篭手・・・一体何度私の剣を受けられますか?」

 

「さてな。俺にとっては代償ですらない。貴様を潰せば良いのだからな!!」

 

「舐めるな!!」

 

 ブラックの叫びに対してセイバーも叫び返すと同時に相手に向かって自らの武器を繰り出し、甲高い金属音が鳴り響いた。

 一撃を受けただけでも大ダメージを免れることが出来ない力を込めた攻撃をブラックは両手のドラモンキラーだけではなく両足からも繰り出し、セイバーはその攻撃を自らの剣から吹き上がる風と魔力を放出することで受け流して行く。セイバーも負けていられないというように剣を渾身の力で振るうが、ブラックはその剣を最小の動きで回避していく。

 さながら暴風のようにブラックとセイバーは互いに攻撃を繰り出していくが、徐々にセイバーの方が追い込まれて行く。

 

「オォォォォォォッ!!」

 

「くぅっ!?」

 

「セイバー!?」

 

 ブラックの猛攻に徐々に追い込まれて行くセイバーの姿に士郎は思わず叫んだ。

 校舎からと言う遠い距離だったせいで士郎は気がついていなかったが、ブラックの攻撃は完全に攻撃を避けたはずのライダーに傷を負わせるほどの衝撃波を纏った攻撃。剣と言う白兵戦を主とする武器を扱うセイバーは、その戦い方故に衝撃波に身を晒しているようなものなのだ。

 ライダーよりも【耐久力】が高く、鎧を纏っているおかげで傷などは負っていないが、既にセイバーが着ている蒼いドレスは所々破れていた。更に言えばブラックの戦い方もセイバーにとって相性が悪かった。

 ブラックの武器はその身そのもの。故に両手両足を武器と考えれば、四つの武器をブラックは扱っている事になる。剣一本と四つの武器。どちらが有利なのかは明白。増してやそれぞれが同等に近い威力を秘めているという事は、セイバーは剣一本で四つの武器を防がなければならないという事である。

 神掛かったセイバーの剣技と小柄な体を活かした体捌きを持ってしても、セイバーの体力は徐々に奪われ、遂にブラックのドラモンキラーがセイバーの左肩に傷を負わせる。

 

「ムン!!」

 

「ッ!!ガアァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

「なっ!?セイバー!!大丈夫か!?」

 

 見た目では大したことが無いような傷なのに、まるで高熱で炙られた鉄の棒を押し当てられたような悲鳴を上げたセイバーの姿に、戦いを見つめる事しか出来なかった士郎は思わず叫んだ。

 その声に意識がハッキリと戻ったセイバーは左肩から走る激痛に苦しみながらも、ブラックから距離を取って荒い息で呼吸を乱しながらブラックの両手に装着されているドラモンキラーを苦い表情で見つめる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・やはりその武器は!?」

 

「気が付いたか。貴様にとっては最悪な武器だろうな」

 

「・・・イリヤスフィールから私の真名は聞いているようですね?」

 

「当然だ。奴の望みは貴様には『聖杯を渡さない』事だからな・・・さて、コソコソと動いて俺から逃げられると思っているのか!?」

 

「ヒッ!!」

 

 ブラックは怒りに満ちた声で叫ぶと共に、セイバーとブラックが戦っている間に逃げようと校門の方に這いながら移動していた慎二に体を向けた。

 戦いを見るのに夢中になっていた士郎も校門の方に慎二が移動していたことに気が付き、慌てて慎二を捕まえようとするが、ブラックはもはや逃がさないというように両手を慎二に向かって突き出す。

 

「見るに耐えん!!跡形も無く消え去れ!!ウォーブラスターーー!!!」

 

ーーーズドドドドドドドドドドッ!!

 

「慎二イィィィィ!?」

 

「アァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」

 

 ブラックが連続でエネルギー弾を放つのを目にした士郎は叫びながら慎二に向かって駆け出し、慎二は今度こそ避けられない死の脅威に恐怖に満ちた声で叫ぶ。

 今度こそ終わりだとブラックが確信した瞬間、突如慎二に向かって紫色の影が走り、慎二を抱き抱えると同時にエネルギー弾を避けることで、全てのエネルギー弾はその先にあった校門に直撃して大爆発を起こす。

 

「・・・まだ、動けたか?ライダー」

 

 慎二を救ったライダーに向かって、ブラックは不機嫌さに満ちた声を出した。

 ライダーの状態は満身創痍と言う状態が相応しかった。全身は傷だらけで血を流し、ブラックの一撃を受けた腹部の部分は今でも血が流れ続け、着ていた黒いボディコンシャスな衣装も殆ど服としての意味を失っていた。

 本来ならば男性が見れば欲情するような豊満な肢体は血で染められていて、欲情するという気持ちは抱けない有様だった。現にそんな状態でも動いたライダーの姿に士郎とセイバーは声を失っていた。

 

「・・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・セイバーとそのマスターが・・・時間を稼いでくれたのが・・助かりました」

 

「・・ライダー?・・・ハハハハハッ!!良いぞ!!さぁ、ライダーー!!早く僕を連れて逃げるん…」

 

「黙れ」

 

「ヒッ!」

 

 殺意に満ちたブラックの低い声に慎二は再び恐怖に染まった声を上げるが、ブラックは慎二などに構わずライダーだけを見つめる。

 

「・・・貴様・・・・ハズレかと思っていたが・・・・どうやら俺の勘違いだったようだ。貴様は当たりだ。ハズレだったのは其処の下らん奴のせいだったようだ!貴様が戦う理由を知りたくなったぞ!クククククッ!」

 

「・・・なるほど・・・・貴方は『戦闘狂』のようですね・・・・・・ですが、私はソレに付き合う気は在りません・・・この場は退却させて貰います」

 

「悪いが貴様を逃がす訳には行かん。其処の小僧がマスターならば尚更な!」

 

「いいえ・・・逃げさせて貰います」

 

 ライダーはそう告げると共にゆっくりと自身の両目を覆っている眼帯に手を伸ばす。

 その動きにブラックの『直感』は危機を告げ、迷うことなく地面に向かって全力でドラモンキラーを叩きつけて、大量の土を舞い上げた。

 ブラックの動きにライダーは僅かに動揺するが、構わずに眼帯を外して隠していた妖艶な美貌と宝石を思わせる、淡紫の異質に輝く瞳を外に晒す。そして次の瞬間、ライダーの行動を見ていた士郎とセイバーに向かって凄まじい圧力が圧し掛かり、士郎は下半身が石になったように動かなくなる。

 

「こ、これは!?」

 

「まさか!?『石化の魔眼』ッ!?シロウ!!」

 

 ライダーの瞳の正体に気が付いたセイバーは、慌ててシロウの前に移動して護るように立つ。

 幸いにも『対魔力』が最高位のおかげで、セイバーは動きが鈍くなるだけで今のところは影響は済み、士郎の前に立って壁になることが出来た。そのおかげで士郎の石化の進行は遅れ、セイバーは険しい顔をしながらライダーを見つめる。

 

「ライダー!!まさか、貴女の真名は『メドゥーサ』!?」

 

「そう!私の真名は『メドゥーサ!』神々に貶められ、怪物となったゴルゴンの三姉妹の末妹!」

 

 ライダーはそう自らに宿っている最高位の魔眼である『石化の魔眼(キュベレイ)』を晒しながら叫んだ。

 『メドゥーサ』。その名こそが今回の聖杯戦争に騎兵クラスのサーヴァントとして召喚されたライダーの真名。本質的には『英雄』と言うよりも、善を成す為に必要とされた『反英雄』。最大の特徴はその瞳に宿る『石化の魔眼(キュベレイ)』。所持している宝具の一つである『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』で封印していなければ、裸眼を目視しただけで影響を及ぼしてしまう。

 対抗する為には一定以上の魔力値か『対魔力』が必要であり、それらが無ければ一瞬にして石化してしまう恐るべき力。先ほどまでのブラックとの戦いでは眼帯を外すという動作自体が命取りだった為に出来なかったが、士郎とセイバーのおかげでブラックとの距離が出来たので使用する事が可能になったのだ。

 

「本当に感謝しますよ、セイバーとそのマスター。貴女達のおかげで私に再びチャンスが巡って来たのですからね!この場から逃げさせて貰います!!」

 

ーーーブオオォォォン!!

 

『なっ!?』

 

 ライダーが叫ぶと共にその身から流れていた大量の血が動き、空中に真紅の魔法陣が輝き出す。

 膨大な光にセイバーが顔の前に手をかざした瞬間、真紅の魔法陣の円の中に目のようなモノが浮かび上がり、ライダーは口元を笑みで歪める。

 その瞬間、ライダーと慎二の背後の地面が爆発したように舞い上がり、その中から地面の中を進んで来たブラックが背後から奇襲を加える。

 

「オォォォォォォッ!!!」

 

「・・・残念ですね、一歩遅かったです」

 

「ッ!?」

 

 ライダーの呟いた言葉にブラックが目を見開いた瞬間、真紅の魔法陣が白く輝き、ブラックの目に一瞬白い翼が映ったと同時に白い光の暴流が爆音と共に校庭を塗り潰した。

 

「ガアァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!!」

 

 光の暴流の威力を浴びたブラックは後方へと吹き飛び、そのまま遠くにあった学校の壁に激突した。

 そしてブラックが壁の瓦礫に埋もれると同時に白い光が収まり、紅く学校中を覆っていた『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』も消え去った。

 ゆっくりとセイバーと士郎は目を開く。其処には扇状に抉られたように深々と何かが突き進んだように見える校庭だけではなく、ライダーと慎二が居た場所にはまるでミサイルでも撃ち込まれたような大穴が開いていた。

 

「・・・こ、これって?」

 

「恐らくライダーの宝具でしょう・・・・光のせいで判別は出来ませんでしたが、恐らくは『幻想種』を呼び出したと思われます」

 

「『幻想種』?それって…」

 

「衛宮君!セイバーー!!」

 

 士郎がセイバーに質問しようとするとキャスターが送り込んで来た竜牙兵を倒し終えた凛とアーチャーが駆け寄って来た。

 

「遠坂とアーチャーか?今まで何してたんだよ?」

 

「何してたって・・・イリヤスフィール達に厄介ごとを押し付けられていたのよ・・・それよりも!慎二とライダーはどうしたの!?」

 

「・・・・すいません、凛・・・一瞬の隙をつかれて逃げられました」

 

「逃げられたですって!?それ、本当なの!?」

 

「あぁ・・・確かに逃げられた・・だけど、ライダーは重傷だ。アレなら暫らくは戦う事は…」

 

「馬鹿!!!重傷なのが不味いのよ!!!」

 

「衛宮士郎・・・・貴様はとんでもない事をしてくれたな」

 

「えっ?」

 

 明らかに怒っている凛とアーチャーの様子に、その怒りの理由が分からなかった士郎は疑問の声を上げ、セイバーは顔を下に俯ける。

 そのセイバーの様子に気が付いた士郎は凛とアーチャーに対して怒りの理由を尋ねようとするが、その前に学校の瓦礫が爆発したように吹き飛び、怒りと殺気に満ち溢れたブラックが立ち上がる。

 

「キサマァァァァァァァァァッ!!!よくも俺の邪魔をしてくれたな!!!」

 

『ッ!?』

 

 ブラックの咆哮に気が付いたセイバーとアーチャーは自らのマスターを護るように立ち、凛は『バーサーカー』クラスのサーヴァントだと思っていた相手が口を利いている事に困惑と驚愕に満ちた顔をして、ブラックを見つめる。

 

(どう言う事なの!?あのサーヴァントのクラスは『バーサーカー』のクラスじゃないの!?)

 

(凛・・困惑する気持ちは分かるが、今は落ち着け・・・小僧のせいであのサーヴァントはかなりの怒りを抱いている・・・私達に襲い掛かるかもしれん)

 

(・・・・そうね・・・衛宮君も迂闊な事をしてくれたわ)

 

 全身から殺気を満ち溢れさせているブラックの姿に、凛は何があっても動けるように身構える。

 それと同時にブラックは前へと足を踏み出し、怒りと殺意に満ちた視線を自らの邪魔をした張本人である士郎とセイバーに向ける。本気でブラックはキレていた。何が在っても重傷のライダーを慎二とだけは逃がす訳には行かなかったのだ。だからこそ、半死半生に追い込んだライダーを後回しにして慎二を殺そうとした。

 だが、それは士郎とセイバーによって阻まれてしまった。このままでは最悪な結果が待っているというのに、当事者である士郎は気が付いていない。それがブラックの怒りを上げていた。

 

「赦さんぞ!此処で確実に潰して…」

 

「ブラック!!待って!!」

 

「ん!?」

 

 頭上から聞こえて来た声にブラックが顔を上げてみると、ルインに抱えられているイリヤスフィールを目にする。

 

「ブラック!!お兄ちゃんの事なんて放っておいて!それよりもライダーの方を急いで追わないと!!」

 

「あの怪我です!!急がなければ、恐らくはブラック様が嫌悪する事を優先してやるでしょう!!」

 

「・・・・・・チィッ!!」

 

ーーードオオォォン!!!

 

 イリヤスフィールとルインの言葉にブラックは苛立ちを晴らすように腕を横に振るい、学校の壁に巨大な亀裂を深々と作り上げた。

 そのままブラックは自身の怒りを治める為に霊体化して、士郎、凛、セイバー、アーチャーの前から姿を消した。ルインとイリヤスフィールは一先ずブラックの怒りが治まった事に安堵の息を漏らす。

 既に『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』が解かれている為に、これ以上の戦闘を続ければ人目が付く。何よりもキレたブラックの戦闘は必ず人目がついてしまう。あのままではセイバーと士郎を殺す為だけに『真の切り札』まで使用する可能性が高い。

 そうなれば『聖杯戦争』自体が崩壊する可能性があった。だからこそ、イリヤスフィールとルインはブラックを止めたのだ。ゆっくりとイリヤスフィールはルインに抱えられたまま、自分達を見つめている士郎達に目を向けて、ルビーのように輝く目を細める。

 

「・・・・今日はもう帰るけど・・・・セイバーと“シロウ”・・・・次に会った時はもう容赦しない」

 

「封鎖結界は教会の者がくれば解けるようになっています。ライダーとあの下衆には急ぐ事ですね。最悪な結果は逃れられる可能性は低いでしょうけど」

 

 そうルインは告げると共に転送用の魔法陣を足元に発生させて、士郎達の前から姿を消したのだった。その場に残された士郎はルインが告げた言葉の意味を考え、凛、アーチャー、セイバーは最悪な結果だけは何とか逃れる術を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 冬木市新都方面。

 乱立する多数のビルの屋上に逃げ延びた慎二とライダーは互いに荒い息を吐きながら座り込んでいた。慎二は生きていた人生の中で初めて感じた死の恐怖に、ライダーは塞がらない傷から流れる血と『幻想種』を呼び出す為に現界ギリギリまで魔力を消費した為だった。

 もはやライダーは戦闘不能どころの騒ぎでは無かった。体を動かすのも難しい状態。本来ならばマスターからの魔力供給で動けるぐらいにはなる筈だが、魔術師ではない慎二では魔力供給を行なえない。

 このままでは自身は消滅するしかないと理解しているライダーは、駄目もとで慎二に声を掛ける。

 

「慎二・・・・・『偽臣の書』を燃やして下さい」

 

「っ!?な、何を言っているんだ!?ライダー!!」

 

「このままでは私は現界を維持する事すらできなくなります。しかし、『偽臣の書』を燃やし、“本来の私の召喚者”に権限が戻れば魔力が供給される。そうすれば私は助かります」

 

「だ、駄目に決まっているだろうが!!コレが在るから僕は力を持っているんだ!!燃やせば、僕には何の力も無くなる!そうなったら!アイツが!アイツが!」

 

 慎二は頭を両手で抱えて、自身を必ず殺すと宣言しているブラックの恐怖に怯える。

 今回は助かったが次は生き残れるとは思えない。それほどまでの恐怖を慎二はブラックに植え付けられていた。

 

「ですが、それ以外に方法はないのです。もはや今までのように人の生命力を襲って回復出来るダメージではないのです」

 

「駄目だ駄目だ!!お前は僕のサーヴァントなんだ!!“アイツ”のサーヴァントになんて絶対に戻してやるもんか!!・・・・・・フフフッ!そうだよ!今までのやり方じゃ駄目だって言うなら、今までよりも奪えば良いんだ!!そうだよ・・・手緩かったんだ!今までの行動が!!ハハハハハハハハハハッ!!!僕は必ず生き残って魔術師になるんだ!!ハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

 狂ったように哄笑を上げる慎二の姿に、ライダーは顔を下に俯かせて全身に走る痛みも忘れて声にならない声で言葉を紡ぐ。

 

ーーー・・・・・・サクラ

 

 声にしていれば悲しみに満ちていただろうその声は、誰にも届くことなくビルの屋上に吹き荒れる風の中に消えて行ったのだった。




今回は士郎君の行動が悪い方向に進みましたが、あくまで今回はです。
彼の行動がプラスに働く時もありますのでご安心ください。

原作と違ってライダーが重傷を負っていることが一番の原因です。

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