運命に現れる恐怖の根源   作:ゼクス

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鮮血神殿 後編

 士郎達が窓から校舎の一角が吹き飛ぶのを目撃する少し前。

 放送室の機器を利用して自らの要求を一方的に告げた慎二は、紅く染まった放送室の中で自身の勝利を確信して椅子に座りながら有頂天になっていた。

 

「ハハハハハハッ!やったぞ!!僕の勝ちだ!!衛宮は学校の連中を見捨てられないからな!」

 

 自分の勝利を慎二は疑っていなかった。

 士郎とは友人としての付き合いがあったので充分に性格は理解している。学校に居る生徒達を士郎は見捨てる事は絶対に出来ない。サーヴァントの方は自害など望まないだろうが、『令呪』の指示にサーヴァントは絶対に従う。

 それを慎二は良く理解している。本来の召喚者でない自身に素直に従っているライダーがその証拠だった。余裕に満ちた顔をしながら座っていた椅子に踏ん反り返って、慎二は手に持っている辞典と同じぐらいの厚さと大きさを持っている本-『偽臣の書』-を眺める。

 その書こそ魔術師でない慎二がライダーを従える事が出来る道具だった。『聖杯戦争』を構築した御三家の一角である『間桐』が主に『聖杯戦争』のシステムの中で担ったのはサーヴァントを従える『令呪』システム。その技術を応用して生み出されたのが『偽臣の書』。

 本来のサーヴァントの召喚者が所持している『令呪』を『偽臣の書』に委譲し、マスターとしての権限を一時的に『偽臣の書』を所持している者に明け渡す。魔術師でもない慎二がライダーを従えられているのは『偽臣の書』のおかげだった。更に『偽臣の書』にはライダーの魔力を慎二が使用して『魔術』に近い現象を使用出来ると言う能力もあった。

 

「フフフッ!衛宮とそのサーヴァントは此処までだ・・・ライダー、『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』が学校にいる奴らの生命力を吸収し切るまで後どれぐらいだ?サーヴァントの気配が減る前に連中に死なれたら困るからね」

 

「・・・・・」

 

「ライダー?何黙っているんだ?僕の質問が聞こえなかったのか?」

 

 背後に居る筈のライダーが何も答えない事を不審に思った慎二は振り返り、困惑した様子で放送室の中を見回しているライダーを目にする。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「・・・マスター。『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』が発動しているにも関わらず、私に魔力が補充されません。また、人の気配が誰一人として感じられません」

 

「何だと!?」

 

 ライダーが告げた情報に慎二は驚愕と困惑に包まれながら慌てて椅子から立ち上がった。

 空間が紅く染まっていることから、ライダーの宝具の一つである『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』が発動しているのは間違いない。しかし、ライダーには結界から吸収して得られるはずの魔力が全く送られて来なかった。

 一体どう言うことなのかと慎二は慌てて放送室から出て、一番近くの教室の扉を開けて、誰一人としていない無人の教室を目にする。

 

「なっ!?ど、どういう事だよ!?ライダーー!!」

 

「・・・私にも分かりません。考えられるとしたらセイバーとアーチャー以外のサーヴァントが関与した可能性があります」

 

「くっ!!不味い!!連中が居なかったら人質の意味が無いだろうが!!」

 

 慎二は自分の策が何者かに潰されたことに怒りを顕にした。

 士郎と凛が慎二とライダーを攻められなかったのは、学校の生徒達と言う人質が存在していたからこそ。それが無くなってしまえば、凛と士郎はセイバーとアーチャーをライダーに襲い掛からせることが出来るようになる。

 自分が考えた策略を完全に潰された事実に慎二は、怒りと屈辱に顔を歪ませながら無人の教室内のテーブルを蹴り飛ばす。

 

「くそっ!!一体何処のどいつだ!?僕の邪魔をしやがって!!絶対に赦さな…」

 

「貴様ごとき他人の力をあてにしている奴に赦して貰う覚えなどないな」

 

『ッ!!』

 

 突然教室内に響いた第三者の声にライダーと慎二が慌てて教室内を見回そうとした瞬間、慎二に向かって教室内に在った椅子の一つが勢い良く投げつけられる。

 

「ヒィッ!!」

 

「フッ!!」

 

 高速で迫って来た椅子に対して頭を抱えた慎二を護るようにライダーが椅子を蹴りつけて、椅子を弾き飛ばした。

 そのまま椅子が飛んで来た方に顔を向けてみると、先ほどまで気配も感じられなかったと言うのにサーヴァントの気配を発している黒い服の男-二日前の夜に綾子を襲う邪魔をした人間体のブラック-が立っていた。

 

「あの夜のサーヴァントですか・・・学校に人間達が居ないのは貴方のせいですね?」

 

「答える義務も義理も貴様らには無い」

 

「そうか・・ライダーが言っていた八体目のサーヴァントって言うのはお前の事だな。よくも僕の計画を潰してくれたな!」

 

「・・・・下らん」

 

「なっ!?」

 

 何の感情も感じられないブラックの声に慎二は驚愕するしかなかった。

 ブラックは全く慎二に対して興味が無い。ただ吠えるだけの路傍の石程度と言う認識しか持っていなかった。慎二が必死に考えた策略に対してもブラックは何の関心も得ていない。

 その気になればルインの力を借りなくても無意味にすることが出来た結界なのだから。故に慎二に対する感情はブラックには一つしかなかった。

 

「無駄話に時間を掛ける気も無い・・・貴様らは・・・“殺す”。ハイパーダークエヴォリューション」

 

ーーーギュルルルルルルルッ!!

 

「なっ!?い、一体何が!?」

 

 低い声でブラックが自らの真の姿を現す為の言葉を呟いた瞬間、ブラックの体を黒いバーコード状のようなモノ-『デジコード』が覆い尽くした。

 見た事も無い現象にライダーは思わず驚愕の声を漏らすが、すぐさま自身の手に愛用の武器である釘剣を出現させて、繭と化した黒いデジコードに向かって全力で投げつける。黒いデジコードの中に居る者を外に出してはいけないとライダーの本能が叫んだのだ。

 ライダーが全力で投げつけた釘剣は真っ直ぐに黒いデジコードに向かって突き進み、黒いデジコードの内部に入り込むと同時に、ライダーは自身が投げつけた釘剣に繋がる鎖から釘剣が受け止められた事に気がつく。

 

「クッ!」

 

「この前は互角だったな。だが、今回は違うぞ!!」

 

「ッ!?」

 

 黒いデジコードの繭の中から声が響くと同時にライダーは凄まじい勢いで釘剣が引っ張られ、手を離すまもなく壁に叩きつけられる。

 

「ガッ!」

 

「ライダー!?」

 

 意図も簡単に壁に叩きつけられたライダーに、慎二は驚愕した叫びを上げて繭が在った方に目を向ける。

 其処には繭は存在していなかった。其処に存在していたのは全身から禍々しい負の魔力を発し、死を予感させる殺気を放っている漆黒の体に鈍く光る銀色の兜と胸当てをし、両腕の肘まで覆う手甲の先に三本の鍵爪の様な刃を装備した漆黒の竜人-真の姿に戻ったブラック-がライダーの釘剣を右手に握って立っていた。

 真の姿に戻ったブラックはゆっくりと握っている釘剣に付いている鎖の先に居るライダーに目を向け、そのまま釘剣を引っ張る。

 

「ムン!!」

 

「ハッ!」

 

 再び釘剣を力任せに引っ張ろうとしているブラックに気が付いたライダーは、即座に釘剣の根元を手放した。

 それを予想していたのかブラックは体勢を崩す事も無く、釘剣の根元である輪のような物を自身の下へと手繰り寄せ、そのまま左手に装備している『ドラモンキラー』の爪部分に通して釘剣の先を握っていた右手を離すと、そのまま勢い良く釘剣を教室内で振り回す。

 

「オォォォォォォォォーーーー!!!!」

 

「ヒィッ!!」

 

「クッ!」

 

 ブラックが釘剣を振り回すと共に教室内の机や椅子が瓦礫へと変わって行き、釘剣の先と瓦礫の山が慎二に向かった。

 自身に向かって来る大量の瓦礫に恐怖の声を慎二が漏らした瞬間、ライダーが慎二を抱えて教室の外へと飛び出し、瓦礫の山と釘剣から逃れた。

 

「マスター、無事ですか?」

 

「・・・あぁ・・だ、だいじょう…」

 

ーーーポタッ!

 

「へっ?」

 

 水滴が落ちるような音に慎二が疑問の声を上げて、音が聞こえて来た自身のすぐそばに目を向けてみると、廊下の床に赤い血が垂れていることに気がつく。

 まさかと思いながら慎二が自身の右頬に手を当ててみると、其処には瓦礫の破片で切れたのか頬には裂傷が出来ていた。

 

「あぁ、血が!僕の血が!!ライダーー!!奴を殺せ!!この僕に傷をつけた礼をして…」

 

 慎二の叫びを覆い尽くすように先ほどまで居た教室の壁が吹き飛び、ブラックが殺意に満ちた視線をライダーと慎二に向けながら廊下に現れた。

 二人の姿を確認するとブラックは先ほど使用したボロボロになっている釘剣をライダーに向かって投げつける。

 

「返すぞ!!」

 

「させません!!」

 

 ブラックが投げつけて来た釘剣に対してライダーは即座に別の釘剣を投げつけ、二つの釘剣は弾き飛ばされた。

 同時にブラックが使っていた釘剣は限界に達したのか砕け散るが、ブラックは気にすることなく左手の爪先に通していた輪を放り捨て、即座に右手に赤いエネルギー球を作り上げてライダーと慎二に向かって投げつける。

 

「借り物の礼だ!!!」

 

「ッ!マスターー!!」

 

 迫って来る赤いエネルギー球の脅威を察したのか、ライダーは慎二の体を掴むと同時にその場から離れるが、赤いエネルギー球が廊下に直撃すると共に発生した爆発によって外へと吹き飛ばされてしまう。

 同時に吹き飛んだ壁からブラックは外へと出たライダーを追いかけるように、校庭の方へと歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 時間は戻り、学校の二階の窓から校庭で始まったブラックとライダーの戦いに士郎、セイバー、凛、アーチャーは言葉が出せなかった。

 次々と釘剣を地面や空から放ち、トリッキーな動きでライダーは攻撃を繰り出すが、その全てをブラックは見切っていると言うように両手に装備している篭手や足に装着している鎧で弾くか、或いは逆に自身に向かって放たれる釘剣を奪い取って他の釘剣を粉砕して行く。

 慎二も命の危機を理解しているのか、ライダーを援護するように必死に右手に在る本を握って影の刃をブラックに向かって放っているが、その攻撃はブラックに届く前に霧散して行く。

 その様子を士郎達と同様に窓の外からルインに抱えられて見ていたイリヤスフィールは、慎二の行動に笑っていた。

 

「アハハハッ!ライダーのマスター必死だよね?あんな魔力をただ刃の形で放っているだけの『魔術』ですらない攻撃が、神秘の塊のサーヴァントに通じる筈が無いのにね?寧ろ援護と言うよりも有害な行動だよね、ライダーにとって」

 

「どう言う意味だよ、それは?」

 

「お兄ちゃんは気が付いていないみたいだけど、他の皆は気が付いているでしょう?あのライダーのマスターがやっている行動が何を意味しているのか?」

 

「・・・えぇ・・・そうね。慎二の奴がやっている行動は『魔術』ですらない魔力行使・・そして『魔術回路』が無い慎二は魔力の生成が出来ないのにも関わらず、魔力を行使している。間違いなく慎二は自分の近くに存在している魔力の塊から魔力を削って行使しているのよ」

 

「魔力の塊?・・・・・まさか!?」

 

「はい・・・間違いなくあの少年はシロウが気づいたように・・・・“自らのサーヴァントの保有している魔力を削って魔力を放っています”。現にあの少年が魔力を行使する度にライダーの魔力が減少しています」

 

「サーヴァントは保有する魔力が無くなった時に消滅する。相手のサーヴァントに何の効果も発揮出来ない魔力攻撃を無駄に放っているあの小僧はライダーの足を引っ張り続けているという事だ」

 

 神秘はより強い神秘の前に無効化されると言う法則が存在している。

 神秘の塊であるサーヴァントに対しては『対魔力』を持っていなければ『魔術』は通用するが、ただ魔力を放っているだけの攻撃は通用しない。簡単に言ってしまえば凛が行使する『魔術』は中身が確りしているが、慎二の魔力攻撃は中身が全く無いスカスカの攻撃。一般の人間にならば通用するが魔術師やサーヴァントなどの特異な存在に対しては何の効果も発揮出来ない代物でしかないのだ。

 更に言ってしまえば『魔術回路』を持っていない慎二は魔力を生成する事も出来ない。ライダーと言う魔力の塊から魔力を削って攻撃している。だが、慎二が行使している力よりもライダーの方が圧倒的に強い。寧ろ現状では、ただでさえ魔力に不安があったからこそ『魂食い』や『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』を行なったのに『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』では魔力が得られず、『魂食い』を行なって得た魔力が減って行くのが現状だった。

 

「このまま行けば・・・ライダーは魔力不足で現界も難しくなって消滅するわ」

 

「死を予感させるほどの殺意など感じた事も無いのに、それを叩きつけられてライダーのマスターは恐慌状態だものね。フフッ、今日でライダーは終わり。そのマスターも死体も残らずに死んじゃうだろうね」

 

「何だって?・・・慎二が死ぬ?」

 

「そうだよ、お兄ちゃん。サーヴァントを失ったからって見逃す理由は無いもの。『聖杯戦争』に参加したんだから当然でしょう」

 

「・・・・・そんなこと・・・認められるか!!」

 

「シロウ!!」

 

 突然に走り出した士郎の後をセイバーは慌てて追いかけて行った。

 その場に残されたイリヤスフィール、ルイン、凛、アーチャーは士郎とセイバーが走り去った方向を見つめ、ルインはイリヤスフィールを降ろしながら呟く。

 

「ライダーのマスターを助ける気ですか?この結界で失敗すれば大量の死者を作り上げていたかもしれないのに?」

 

「衛宮君の方針が『サーヴァントを倒して、マスターは止める』だからね。特に慎二とは友達だったから、死なせたくないんでしょう」

 

「・・・なるほど・・・まぁ、彼がどうなろうと私は気にしませんが、貴女達にとっても彼の行動は不利益だと思いますけど?此処でライダーがあの一般人に犠牲が出るのは当然だと考えているマスターと共に生き残った場合・・・“どうなるか、分かっていますよね”?」

 

「・・・そうね・・・だけど、背後から撃たれるって言うのも警戒するのは当然でしょう?」

 

「えぇ、正解です・・・・・しかし、別に走っても良かったんですよ。此処に残った方が面倒ごとに巻き込まれなくて済んだのに」

 

「どう言う意味・・・ムッ!」

 

「アーチャー?」

 

 突然にルインとイリヤスフィールの背後の廊下に険しい視線を向けたアーチャーに、凛もアーチャーが見つめている廊下の角に目を向けると、カタカタと何かが歩いて来るような音が聞こえて来る事に気が付く。

 一体何が居るのかと凛が警戒心を強めた瞬間、廊下の角から白い頭部の無い人体骨格をモデルにしたような骨のみで構成されたモノと、二足歩行の獣の骨格で構成された二種類の異形-『竜牙兵』-が次々と歩いて来る。

 

「こ、これって!?」

 

「予想外でしたね・・・まさか、この学園に貴女と先ほどの少年、そしてライダーのマスター以外に四人目のマスターが居るとは思いませんでした」

 

「四人目のマスターだと?では、こいつ等はそのサーヴァントの使い魔か何かと言うことか?」

 

「えぇ、そしてそのサーヴァントは」

 

『私よ』

 

 ルインの声に続くように廊下内部に新たな声が響き、凛とアーチャーが周りを見回して見ると、竜牙兵の兵隊の背後の空間に口元しか見えないように紫色のローブで身を包んだ女性のサーヴァントが浮かんでいた。

 そのサーヴァントの姿を確認したルインは、やはりと思いながら新たに現れたサーヴァントを睨む。

 

「やっぱり、貴女でしたね・・・『キャスター』」

 

(あのサーヴァントが『キャスター』ですって?じゃ、やっぱり慎二が言っていたようにイリヤスフィールと一緒に居る女性がイレギュラーって事ね」

 

 凛はそう得られた情報から状況を推察しながら、自身のサーヴァントであるアーチャーに視線を送る。

 視線の意味を理解したアーチャーは凛の考えに同意するように頷きながら、何かあればすぐに動けるように態勢を整える。

 その間にルインは竜牙兵達の背後に浮かんでいる『キャスター』の幻影に声を掛ける。

 

「前の貴女のマスターを殺した時以来ですね」

 

『そうね。あの時の事には感謝しているわ。おかげで私は素晴らしいお方と出会えたのだから・・・だけど、そのお方の反応が急に消えた・・・・・言いなさい!あの方は何処に居るのかしら!?』

 

 冷静な様子を捨ててキャスターは、ルインに向かって怒りと殺意に満ちた声で叫んだ。

 ルインの考えの通り、キャスターのマスターは士郎、凛、慎二同様に穂群原学園の関係者だった。マスターとしての契約を交わした時の条件で穂群原学園に通っているのだが、キャスターは自身のマスターの監視には注意していたのだが、その監視を破るように突然にマスターの反応は消失した。

 これに慌てたキャスターは本来は現れるつもりは無かったのだが、自身のマスターの安否を知る為に元凶であるルインに尋ねに現れたのだ。

 

「無事ですよ。ライダーとの戦いが終わったら戻しますので安心して下さい・・・とは言っても、聞いてはくれないでしょうが」

 

『当然だわ。私のマスターの安否は貴女が握っている。そんな状況を見過ごせるほど私は甘くないのよ!やりなさい!!竜牙兵!!』

 

 キャスターの指示に従うように竜牙兵達は一斉に動き出し、人型は手に持っている骨で出来たナイフのような形の武器を、獣型は鋭い牙を光らせてルインとイリヤスフィールだけではなく凛、アーチャーに向かって飛び掛かる。

 自分達にまで襲い掛かって来る竜牙兵達に対して苦い顔をしながら凛は左手を構えて『ガント』を撃ち出し、アーチャーは黒と白の双剣を構えて迎撃する。

 

「何で私達まで!!」

 

「キャスターからすれば、我々の威力偵察も含めているのだろう!!」

 

 次々と襲い掛かって来る竜牙兵達を凛とアーチャーは塵に帰しながら叫びあう。

 しかし、凛とアーチャーが破壊した先から竜牙兵達は次々と現れ、一向に数が減る様子が無かった。その事実にフッと凛はルインの攻撃ならば竜牙兵達の数を一気に減らせるのではないかと考えて目を向け、窓の外でイリヤスフィールを抱えたルインが空に浮かんでいる姿を目にする。

 

「なっ!?」

 

「バイバイ、リン。キャスターの相手は任せたから。それと“お爺ちゃん”も頑張ってね」

 

「お・・・・お爺ちゃんだと?」

 

 驚く凛に対してイリヤスフィールはルインの腕の中で手を振り、そのままルインに抱えられて校庭へと飛び去った。

 アーチャーはイリヤスフィールの言葉にショックを受けたように哀愁が背に重く圧し掛かるが、それでも竜牙兵を倒す動きが止まらないのは流石だった。凛はイリヤスフィールとルインに厄介ごとを押し付けられたことに気が付き、肩を怒りで震わせて竜牙兵達を据わった瞳で睨みつける。

 意志が無い筈の竜牙兵達はその瞳と視線にまるで恐怖を覚えたかのように後ずさるが、凛は構わずに左手を構えて『ガント』を据わった瞳のまま連射する。

 

「イリヤスフィーール!!!絶対に赦さないんだからね!!!」

 

 八つ当たり気味に凛は次々と竜牙兵達を破壊して行き、その場に居たアーチャーは『赤いあくま』の乱心に戦々恐々とするのだった。

 

 

 

 

 

 

「これで!!」

 

 校庭でブラックと戦いを繰り広げていたライダーが、自身の足元の地面に両手を押し当てると同時にブラックの前方の地面から五本の釘剣が勢いよく飛び出した。

 それに対してブラックは釘剣が届く前に自身の目の前の地面を全力で蹴り上げる事で土砂を衝撃と共に舞い上げる。

 

「フッ!!」

 

 舞い上がった土砂によって釘剣の勢いは弱まり、ブラックに届く前に勢いを失って地面に落ちた。

 ライダーは自身の攻撃が防がれたと感じると同時に、直前まで居た場所から飛び去り、土砂を貫いて右手を振るって来たブラックの攻撃を回避する。

 

「ドラモンキラーーー!!」

 

「クッ!!」

 

 辛うじてライダーはブラックの攻撃を避けて離れたところの地面に着地する。

 しかし、ライダーが着地した瞬間、ライダーの脇腹に裂傷が走って血が噴き出す。

 

「・・完全に回避してコレですか・・規格外ですね」

 

 既に分かっていた事だがライダーは脇腹を手で押さえながら、目の前に居るブラックの規格外さに苦い声を出し、即座に傷が在っても動き回る。

 ライダーの全身には浅いながらも数多くの傷が出来ていた。まともに一撃を受けていないというのに、ブラックの攻撃は一撃一撃が凄まじい衝撃波が巻き起こる。その衝撃波がライダーの体に傷を負わせていた。更に手持ちで使える釘剣は既に殆どが失われてしまった。

 

(以前会った時に私の釘剣を簡単に受けたのは、強度や威力、そして私が操作出来る鎖に走った衝撃を調べる為だったようですね・・・・・切り札が使えさえすれば、何とかなる可能性があると言うのに!?)

 

 現在の状況を少しでも好転させる手段がライダーには存在していた。

 サーヴァントの最大の切り札である『宝具』。それさえ使用出来れば、状況を好転させられる可能性は充分に在るのだが、ライダーは宝具を解放出来るだけの魔力が殆ど残っていなかった。

 本来は『他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』で得られた魔力を用いて宝具を使用出来るようにするつもりだったのだが、ブラックの策略によって魔力を全く得る事が出来なかった。しかも現在進行形で保有している魔力が消費されている。その原因はただ一人。

 

「ヒィッ!!来るな!来るな!!僕に近寄るなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「下らん」

 

「あっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!消えろよ!!消えてくれよ!!!」

 

(あの愚かな奴のせいで!!)

 

 無駄に自身の魔力を使用して攻撃をブラックに放っている慎二に、ライダーは内心で悪態をついた。

 間桐慎二は確かに魔術師としての知識を保有している。しかし、魔術師として最も必要な覚悟と言う面が全く出来ていなかった。『魔術』と言う裏の世界の技術に手を出すという事は、同時に死を覚悟しなければならないと言うこと。だが、慎二にはその点の覚悟が無い。

 身に余る力を手に入れて増長した者に慎二は過ぎない。その慎二が『殺意』に満ち溢れたブラックの殺気に耐えられるはずが無い。簡単に恐慌状態に陥り、それから逃れようと闇雲にライダーの魔力を削って攻撃を放っている。完全にブラックの戦術に嵌まっている慎二をライダーは見限りたい気持ちで一杯だった。だが、それがライダーには出来なかった。

 “本当のマスターの為にも、ここでライダーが敗北する訳にはいかないのだ”。

 

(私は・・・・まだ消えられないのです!!!)

 

 これ以上魔力が消費される前に切り札を使用する覚悟を決めたライダーは、無事な釘剣を自身に向かって構える。

 突然に動きが止まったライダーの姿に攻撃を繰り出し続けていたブラックは訝しげな気持ちを抱き、僅かに距離を取るように下がる。その動きを目撃したライダーは巡って来た最大のチャンスを無駄にさせない為に釘剣を自身の首に突き刺そうとした瞬間、慎二の声が響く。

 

「ライダーー!!!何をやってるんだ!!ソイツの動きが止まっている今の内に攻撃しろ!!」

 

「なっ!?」

 

 慎二の指示にライダーは驚愕の声を漏らすが、『偽臣の書』が輝くと共にライダーの体から青白い雷が発生する。

 宝具を使用する為の行動を取ろうとしていたライダーに対しての、ブラックの動きが止まったのを好機だと勘違いした慎二の最悪なタイミングでの強制命令だった。『偽臣の書』はあくまで命令権を得られるだけで、『令呪』のように奇跡に近い現象をサーヴァントに引き起こせるまでの力は無い。つまり、強い意志で行動しようとしていたライダーが慎二の指示を逆らおうとした結果、『偽臣の書』の処理が限界に至り、反発した結果だった。

 そしてライダーにとっての最大の宝具を使用出来た好機は、一瞬にしてライダーの最大のピンチへと変わり、それを逃さなかったブラックの右腕のドラモンキラーがライダーの体にドンッと音が立てながら叩き込まれる。

 

「失せろ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 渾身の一撃を胴体に叩き込まれたライダーは口から血を吐き出し、そのまま悲鳴を上げる事も出来ずに校舎の方へと吹き飛び、壁に減り込んだ。

 同時に慎二が手に持っていた『偽臣の書』の一部が燃え上がり、慎二は目を見開きながら慌てだす。

 

「あぁっ!!本が!?僕の本が!?」

 

「余りにもつまらん戦いだ。せめて奴を操っている奴がまともなマスターだったら、楽しめたかもな」

 

「ヒッ!!」

 

 何時の間にか目の前に立って自身を見下ろしているブラックに気が付いた慎二は、恐怖に染まった声を出して後ずさる。

 だが、ブラックは逃がす気は無いと言うようにゆっくりと左手の爪先に赤いエネルギー球を作り上げて慎二に見えるようにしながら声を掛ける。

 

「貴様は随分とふざけた事をしてくれたな。俺は貴様のような下らん行動する奴が何よりも気に入らん。だから、死ね!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 遂に恐怖が限界に達したのか、慎二は『偽臣の書』を持ちながらブラックに背を向けて逃げ出した。

 大量殺戮を何の覚悟も無く行おうとし、恐怖に勝てずに逃げ出した慎二の背をブラックは見るに堪えないというように左手に作り上げていた赤いエネルギー球を全力で慎二に向かって投げつける。

 

「消えろ!!!」

 

 ブラックが投げたエネルギー球は寸分違わずに慎二の背に向かって突き進む。

 背後から迫り来る絶対の死に慎二は恐怖に染まった顔で振り返ってエネルギー球を目にして、絶望に染まり切った顔をした瞬間、エネルギー球の猛威から慎二を護るように蒼い閃光が走る。

 

「ハアァァァァァァァァッ!!!」

 

 蒼い閃光-セイバー-は渾身の斬撃をエネルギー球に向かって振り下ろし、エネルギー球を真っ二つに切り裂いた。

 同時に剣を覆っている風を操り、自身と背後に居る慎二を爆発から護るように風の障壁を作り上げて爆発の影響から逃れる。

 

「・・・何だと?・・・どう言うつもりだ、セイバーのサーヴァント?貴様が後ろに居る下らん奴を護る理由など無いはずだ」

 

「ッ!?・・(口をきいた!?『バーサーカー』クラスのサーヴァントでは無いのか!?)

 

 口を平然と利いたブラックにセイバーは驚愕と困惑に包まれて内心で叫んだ。

 戦いぶりやその身から発している禍々しい魔力、そして圧倒的な殺意にセイバーも凛同様にブラックは『バーサーカー』クラスのサーヴァントだと考えていた。だが、『バーサーカー』クラスは『狂化』と言うクラススキルでステータスが上がる代わりに理性を失って獣のように暴れるのが特徴のクラス。

 しかし、その『バーサーカー』クラスだと考えていたブラックは明らかに理性ある声で質問して来た。一体どう言うことなのかと内心で動揺しながらも表には出さずに、不可視の剣をブラックに向かって構えながらセイバーは叫ぶ。

 

「・・・・それが私のマスターの意志だからだ、竜人ッ!」

 

「マスターの意志だと?」

 

 セイバーの言葉にブラックは信じられないというように声を出して、何時の間にか近くに来ていた士郎の方へと顔を向けると、強い意志が篭もった視線を士郎はブラックに向けていたのだった。




次回はライダーが少し巻き返します。
士郎君の行動が一体何を呼んでしまうのかも待っていて下さい。

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