原作よりも急いだつもりだけど。
やっぱり、見捨てられたおっさんは助けられなかった。
でも、それでもいい。
今必要なのは、逃げることではなく。
――立ち向かえることだから。
ビルが壊れてる、街が燃えている。
人がたくさん死ぬ、きっとこれが戦争、命の重さを無視した戦い。
レギオはじっと壊されたビルを眺めて。
「さようなら、名前も覚えてない政治家。あなたたちは、判断を間違えたんだ」
なにを、どんな、判断を間違えたのか。
一言も言わなかった。
ただ、そのあとの彼女の目には、ヴァルシオンが映っていたのは確かだと思う。
パイロットも含め、きっと因縁の相手。
システムに囚われたテンザン氏は、気にかけますが、そちらはさほど重要ではありません。
むしろ、メインディッシュが来た時にしゃしゃり出てこられる方が邪魔です。
ある程度は挑発して、しっかりとターゲットをこちらに向けさせましょう。
ついでに、あの男も。
「せいぜい、いじめてあげましょう」
回線を開いていたからなのか、一瞬グルンガストの動きが乱れた。
そんなに怖かったんでしょうか。
トリエの
止めに歩兵用リボルビング・ステークの完成品(無論嘘)をぶち込んでやろうかと言って、人差し指を軽くお尻に触れただけなんですが、やったこっちが驚く程の逃げっぷりを発揮していました。
驚いて、腰を抜かしていたイルムさんに一言、冗談ですよ、と言っておいた。
――やるんなら、
――と、「冗談ですよ」と言ったあとに、口から言葉がこぼれたような気がしますが、それが原因ではないでしょう。そんなに後ろから刺されるようなことをしていないでしょう。彼のことですから。
トリエに諫められましたが、私が現状過保護になってしまうのは、理解して欲しいところです。
あなたを、殺す機械に乗せたのは私なんですから。
そして戦いは始まる。
システムに飲まれたテンザン氏は、その殺意を暴走させて、しかしその思考はゲームのそれである。
ゆえに、この惨状は生まれた。
レギオ少尉の言葉によって――
「さぁ、テンザン。ゲームをしましょう。ただの的当てよ。簡単でしょう」
後に、こう呼ばれたOFF。
最強たる存在が、味方に牙をむく。
究極ロボヴァルシオンと共にいる彼らが気づくことはない。
自ら従えた猛獣に襲われるということを。
そんなはずはない、システムに飲まれたその男は考える。
『はい、またミス。減点ね。いったい何回ミスするのかしら?』
なぜ、なぜ、なぜこうも、いやこれほどまでに。
――味方にしか当たらないのか。
――味方を倒しているのか。
――味方が弾丸としてこちらに来るのか。
『あなたの大好きなゲームをしようというのよ。ただの的当てを、ね』
挑発的な声とは裏腹に的確に動き、的確に誘導し、究極ロボ――ヴァルシオンの攻撃を味方のみに集中させている。ヴァルシオンをまるで自動迎撃システムのように扱う。
時にビルの向こうから、時に味方を射線軸上に置き、そして時に味方を担ぎ上げ、こちらへと投げる。
DC残党はその地獄絵図から逃れられない。
指示が届かない、たったそれだけに尽きる。
そのバイザーが見えた瞬間には、彼らは究極ロボの餌食にされるのだから。
直撃すら無力化していき、時にビルを蹴り飛ばし、三次元に動き回るその亡霊を。
幾人が捉えることができただろうか。
彼らは気づくことはない、この暴れまわる亡霊が、たった一人を助けるために、究極ロボという名の邪魔が入らないようにするためにこの恐ろしい攻撃を行っているのだということを。
そう、これは攻撃――究極ロボを使った。
敵を利用するという、コストパフォーマンスに優れながらも、その内容と残虐性と達成難易度と利点の少なさから、決して資料に残ることのない――禁じ手となるその作戦。
アードラー・コッホが来る頃には、地獄絵図は完成していた。
無人の機体が残され、すでに味方機の認識もできなくなったヴァルシオンが、無人機を徹底的に破壊する。
そこに象徴としてのヴァルシオンは、存在していない。
あるのはただ殺戮と破壊を撒き散らすだけの、壊れたおもちゃだ。
そのことが理解できないままに投入される、もう一機のヴァルシオン。
それこそ、彼女が待ち望んでいたものだ。
そして狙われる、ヴァルシオン以外の味方機。
現場は混乱し、孤立するもう一機のヴァルシオン。
彼女はこのチャンスを待っていた。
「いまです。敵方は混乱しています。一気にヴァルシオンを!!」
このためだけに、ゲームと言ってテンザン氏を挑発したのだ。
おおよそ一分ほどかもしれない、しかし、それでも、原作にはなくても。
彼女を撃つ可能性のあるDC兵――彼女が撃たれる可能性をゼロにしたかった。
可能性が一番高そうなテンザン氏は混乱を撒き散らすだけの存在に成り果てている。
あとはこちらが誘導するだけだ。
「ほら、こっちですよ!」
向かうは、DC副総裁――いや、ただの欲望垂れ流し機である。
アードラー・コッホ――その人だ。
ヴァルシオンが討ち取られると同時に、アードラーは研究成果を奪われることを恐れ、破壊しようとした。
――が、これは原作どうりに阻止された。
原作と違うのはここからだ。
砲を逆賊へと向けて放とうとした時である。
『聞こえますか? アードラー・コッホ』
「なんじゃ?!――き、貴様。レギオか? そうか、ヴァルシオンを撃墜したのは、ゲイムシステムを利用してこんなことをしたのは貴様じゃな。わしの野望を、人類の未来を阻むというのか?! 一番、ビアン総裁のそばにいたお前が!! 『黙ってください!!』――なに?」
『あなたの頭は良くても、その使い方のせいであなたの頭はスッカスカですよ。まるで脳みそが骨粗鬆症になっているみたいじゃないですか』
「貴様ぁ!!」
『だいたい、あなたの野望は中途半端です。自分で設計したものじゃない。ただ機械を乗っけただけ。地位にしがみつき、まるで戦力の把握もできていない。優秀な人材も、自身の研究のたいまつ代わり。これが人類の未来なら、お先は海溝の底の底よりも真っ暗ですよ』
「っ!! うてぇ!! 裏切り者もろとも!!」
『だから、そんなところが小物だと言うのですよ。――申し訳ありませんリリーさん』
放たれた砲撃は、的確に打ち抜いた。何をかは言わなくともわかるだろう。
その砲火によって、船は間違いなく落とされた。
そのもう一隻にも通信を強制的に繋いでおいたのは、彼女の言い訳だろう。
私は最大限尽くしたと、だから、恨まないでくださいと。
自分勝手な、言い訳だ。
そんな少女の身勝手な言い訳を見透かしているであろう彼女は――
『感謝……します』
――あの人のもとへ、向かわせてくれることを。
そう言ってジュネーブ近郊の空に散った。
遅れてきたその武人は、彼女を看取った後、アードラーにその剣を向ける。
大義は、もはやない――と。
その象徴たる――今はもう見る影もないほどに狂った――ヴァルシオンを一刀のもとに両断し、その意思を示した。
その後の流れは大して変わらない。
副総裁とまで呼ばれたその男は、仲間に見捨てられるという最後に、納得ができないままであった。
男の描いたDCと、そして世界征服という絵にかいた餅は、火にくべられて潰えた。
少女は、ただただ涙を流していた。声を上げもせず、静かに彼女の散った空を見つめて。
この作戦、有効なのは障害物の多い地形でありながら。
市街地で使うと、被害が甚大になりやすいという欠点も持っています。
それでも、使ったのは。
『自分は、私は、王女以外の被害を出さないために王女を見捨てた。』
この思いが根底にあるからです。