スーパーロボット大戦OG~駆け抜けるD~   作:ash.w

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踊る亡霊と復讐鬼

 セバスポトリ基地からの救援を受け、進路上ということもあり急行することになった。

 レギオが言っていたあの男とは、誰の事なんだろう?

 今回も私が乗るつもりだったけど。

 レギオも一緒に乗ってくれた。

 防衛システムのごまかしがその主な理由らしいけど。

 私は嬉しいな。

 あといつの間にかあった飴も、二人で舐めた。

 あしながお兄さんより、食通の練った飴を送りますって書いてあったけど。

 嬉しそうだね。私も嬉しいよ。

 じんわりと溶けてゆくそれは、私の何の味も感じない舌の上を転がしているハズなのに甘く感じた。

 それは、小さな幸せ。

 もうすぐやってくる別れの、その中にある小さな幸せ。

 

 

 

 

 

 

 

 口の中で転がした飴は、味覚ではなく――嗅覚、食感でその味を伝えているようだ。

 まるで味覚障害の子供の為に作られたように。

 多分そうだ、この状況を知っている。あしながお兄さんのくれたものだろう。

 というか、この瓶がすごい技術で作られているのかもしれない。

 ワームホールに耐えきる瓶の耐久値を知りたいくらいだ。

 そんなことはいいだろう。

 今は、この味をゆっくりと感じていよう。

 この瓶詰めのたくさんの飴が、半分位なくなる頃には、彼女の限界が来る。

 ブラックボックス開封の恩恵とでも言うべきものだ。

 防衛システムのごまかしのためにブラックボックスを開封したのだが――

 確かにあれは開いちゃいけない。

 自分が見た瞬間、その浅く広いオタク知識(?)から引っ張り出してきた。

 中身は記憶、そして歴史、さらには叡智。

 このうち私たちが使えるのは、歴史のごくごく浅い一部だけだろう。

 パスワードには、前世の知識をフル稼働した。

 現れてゆく文字の羅列を見られたかどうかだか、多分飴のおかげで見られてはいない。

 前世のネットスラング、ごくごく低学年で習う歴史、計算問題の応用、周期表の一部等々……十八×六四の画面いっぱいに表示されたパスワードにガッツポーズをしたのは、ちょっとした黒歴史である。

 なんだか、トリエがニコニコしていたが、多分幸せな気分を共有していることがその笑顔の理由なのだろう。

 二人乗りには、文句が出るかと思ったが、割とすんなりと通った。

 まさか私が寝ているあいだに誰か来たのだろうか?

 それを艦長に伝えた? 理由は不明だがそういうことだろう。

 トリエに聞いてもはぐらかされるだけだ。

 そんなつまらないことで喧嘩をしてしまうよりは、この飴を舐めたり、もっと話し合おう。

 最後の日まで。

 

 

 

 

 

 

 急行した基地で待っていたのは、先行量産型ヴァルシオン――通称ヴァルシオン改と十六年目の復讐鬼ことテンペスト・ホーカー――その人だ。

 未来は変えられない、事彼に関しては、復讐という後ろ向きな原動力のみで動くがゆえに。

 それ以外の生き方を見つけられず、そのための手段も、行いも、そして矛先も大雑把なその男は、私にとっての鏡でもあり、自分にとってのIFでもある。

 この男との決別は済ませた。ならばその覚悟と、行いを徹底的に馬鹿にするだけだ。

 違う道を歩む、その第一歩として――

 

「踏み台にさせてもらうよ」

 

 小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 壁となるガーリオンをブーストダッシュからの突撃でつかみ一回転、逆背負い投げというべき動きでガーリオンの背中を取ると、その背を蹴ってさらに跳躍。

 後方からついてくる味方機とフリーダムを置いてきぼりにしながら、そのゲシュペンストの皮をかぶった何かは、ヴァルシオンへと近づいてゆく。

 肉薄しながら、残ったガーリオンにフリーダムを使い撃墜できるようにサポートする。

 

「テンペスト・ホーカー!!」

 

 声を荒げて肉薄するそのゲシュペンストの拳を受けて止めたディヴァインアームに、縦長六角の文様が広がる。何かを長年の経験から感じ取った彼はそれを投げ捨てる。

 その経験は間違いではなかった。

 その文様が広がり切ると、その武器は砂になった。

 

「またお会い出来ましたね。しかも、そんなおもちゃで、復讐復讐と連呼することしかできないなんて、もうシステムに飲まれちゃいましたか?」

 

『レギオ少尉か?! 貴様は何を言っている。システム? なんの話だ? それにおもちゃだと? 君も知っているだろうに、このヴァルシオンの力を、強さを、ビアンのそばにいて知らないなどということは言わせないぞ!!』

 

 武器をひとつ失ったとて、その能力になんら変わりはないのだ。

 近接戦は危険と判断したテンペストは、距離を取りつつ、クロスマッシャーで散発的な攻撃を加えてゆく。

 

「ええ、知ってますよ。その強さも、力も。しかし、だからこそおもちゃなんですよ。思いも理念も無視する者たちしか乗らないからことさらに!!」

 

 距離をはなされたことで、何もできなくなったわけではない。ABフィールドを意識してか、実弾装備の950mmマシンガンで応戦する。

 

『先走りすぎだ、レギオ少尉』

 

 ガーリオンたちを潰したのか、それともこの勢いのままに押し切れると判断したのか。

 ATXチームが、支援に入る。

 うっとしそうな気配が、ヴァルシオンから感じ取れる。

 

『ジガンスクードもいるっすよ』

 

『少尉なぜこんな無茶を?』

 

 ガーリオン――レオナ機とタスクの乗るジガンが更にやってくる。

 

「支援には感謝します。ですが、私はこの人が正気でいるうちにこの人のダメさを徹底的にこき下ろしたいのです。復讐という妄執にとりつかれながらも、その実何ら復讐らしい復讐をしていない。この男を」

 

『妄執だと』

 

 回線がオンになったままだったので、そのままダイレクトに伝わる。

 

「はい、だって何もしてないでしょう。今回のことだって、アードラーから手渡されたおもちゃに喜んでいるだけ。復讐を果たせる? は、笑わせないでください。あなたはもう、モルモットに成り下がったのです」

 

『貴様!!』

 

 怒りに任せた攻撃、それゆえに読みやすく、また彼の経験はその怒りに塗りつぶされてやくたたずにされている。無論、そうなるように仕向けたというのもあるが。

 

「だって、今のあなたはモルモット。のちのちまで続く、そのシステムの被験者第一号。それが今のあなたの肩書きですよ」

 

 回線を彼とだけにしながら、貶めてゆく。

 

『モルモット、被験者? 何をわけのわからないことを』

 

「そうかからずに分かりますよ。あなた自身の身を持って」

 

 この言葉と同時に、クロスマッシャーの一撃を避け、アルトアイゼンを超えるほどの速度を発揮して、そのおもちゃに近づく。

 

『なっ』

 

「遅い!!」

 

 右肩をかすめ、しかしかすめた部分が砂に変わる。

 この一撃が契機となり、彼はそのシステムに飲まれた。

 ――と、同時に後方より、彼らが来る。

 システムの一部と化したテンペストを乗せたヴァルシオンを相手にしながら、通信を入れる。

 回線を開きっぱなしで――

 

「おや、いつぞやのスパイさん。バーニングPTをありがとうございます」

 

『き、貴様か? 貴様なのか? あんなふざけた命令を送ってきたのは?!』

 

「ええ、そうですよ。ですが、その便利なスパイがあなただとわかったのは、あの時、逃げてゆくあなたを見るまでわかりませんでした」

 

 しかしこれは嘘、原作知識で知っていた。だが、その当時の彼女が、何がしかできるような状況であったかといえば一概にそうとは言えない状況であったことは確かだ。

 少なくとも、単独でシャイン王女を助けに行けるような、精神状態ではなかったことは確かだ。

 

「先ほどのあなたの理由を聞かせていただきました。その上で言います――寝言は寝て言え」

 

『何?!』

 

「聞こえませんでしたか? 寝言は寝て言えと言っているのです。あなたの言っていることは、プロジェクトアーク――その完成を持ってしなければ不可能なこと。ついでに言うのなら、あそこには獅子身中の虫もいる。眠ってなんて到底無理です。最後に言わせていただくのなら、ジュネーブで頭チョンパなところに残る意味があったのか、それだけお聞かせください。盛大に笑ってあげますよ」

 

『貴様!』

 

 一度通信を途絶させ、全員に聞こえるように通信を入れる。

 

「このヴァルシオンは、私とフリーダムで何とかします――なので、ほかの相手はお願いします」

 

『できるのか?』

 

 イングラムからの通信が入る。その疑問に、自信を込めて――

 

「不可能なことは言いません。この人との決着は、よく似た私がつけます」

 

『そうか』

 

 それで、その男は納得したように、ほかの鎮圧に向かう。

 納得していないものもいたが、やがて全員がそれぞれの方へと向かう。

 

「さあ、壊れたおもちゃを壊しましょう。二度と誰にも触れられぬように」

 

 まるで一対一になることを待っていたかのように、ヴァルシオンが再び動き出す。

 少女は、珍妙な動きをゲシュペンストにさせた。

 まるで何かの儀式のように。

 それを待つようなヴァルシオンではないが、フリーダムが入れてくる茶々にいちいち反応を示してしまい。邪魔できずに、やがてその儀式を終えたゲシュペンストを回避できずに、触れられてしまう。

 

「酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ……ばぁくはつ!!」

 

 たった一回の技でその究極ロボが一機、この世から姿を消した。

 敵も味方も、何一つわからなかっただろう。

 ゲシュペンストが、ヴァルシオンに触れたそのすぐあとに、ヴァルシオンが爆散したのだから。

 理由も理屈もわからず、ただ強敵であったはずのその存在が、ただの一機に何ら打撃を与えることなく。この地上のゴミとなったその事実を、受け止められるものはさほどいない。

 その放心状態からいち早く立ち直ったのは、やはりハガネ、ヒリュウ側だった。

 宣言通り、単騎でのヴァルシオン撃破を成し遂げてみせたのだ。

 ハンスは驚きから立ち直ることもできずに、ステークの餌食となった。

 ほかの面々も似たように、フラッグシップとなり得たその機体が、一瞬でこの世から退場するさまを見せつけられ、放心状態のままに、その命をちらした。

 彼のちりざまはあっけなかった。

 その復讐心と同様に。




この子のスタンスは、DCが終わってからも続きます。
真面目になるのはOG2からでしょう。

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