そのため、セリフのいくつかを改行しております。
注意してください。
それから少しして、この場所を離れることになった。
私は降ろされそうになったけど、イングラムさんが口添えしてくれて残ることになった。
パイロットとして使えるから。だから、きちんと頑張んなくちゃいけない。
階級を覚えて話し方を覚えて。
それからそれから……。
正体不明の少女ディー・トリエル。
彼女の正体を探ろうとするものは、何もイングラムだけではない、他にもいたのだ。
それはある偵察中の二機の会話からでもわかった。
『なぁ、その話は本当なのか?』
『間違いない、あのゲシュペンストはおかしい。トリエが乗ったもうひとつの機体であるリオンに比べて、各パーツの損耗度合いが小さすぎる。現にあの子の乗ったリオンは、ハガネ内部での修理は不可能だったみたい。トリエの要望もあって全部ばらして、リョウトの乗るリオンに使える予備パーツにならないか探しているところ』
『そんなに、壊れてたのか』
『一回使っただけなのに、教導隊時代から使われていた。旧式機のような消耗度合いだった』
『そんなに昔から使われていたわけじゃないだろ』
『製造自体は資料から見て、南極の一件以降、例の筐体も含めて、青い翼のパイロットが関わっているのは間違いない。それに、コックピットだけなら何度も全交換されている』
『それも気にはなるな。どうしてバーニングPTが残っていたのか』
『あれには独自の改造が施されていた。はっきりとはわからないけど。PTやAMからでも筐体と連動してゲームができるようになってた』
『そんな改造が? 間違いじゃないのかよ』
『ログの大半は消されていたけど、残っていたログから確かにリオンで行われた痕跡が残ってる』
『何のためにだ』
『わからない、でも――』
『でも?』
『新兵の練習にはなるし、なによりも新機体になれることは可能だと思う』
『そうか、ロブたちにも聞かないといけないかもな。例のゲシュペンストも含め。……そういえば、最後にビアン――』
そんなとき救難信号を受け取ったんだ。
私たちはそこに急いだ。
リクセント公国、そこで私たちは出会ったんだ。
みんなは、何度目かの邂逅なんだろうけど。
私は初めて見た、騎士の青い翼を。
シラカワ博士に今後一生からかわれるようなことをした数日後、私は一路リクセント公国に向かっています。
それは決別のために、DC残党との、あの人との別れのために。
一発の弾丸に深い意味はないけれど、意思表示は可能だ。
そのためだけに用意した実弾だ。
着いた時にはちょうど、増援としてテンザン氏が別働隊として攻め込もうという時だった。
通信回線を開き、ストークに通信を入れる。
「応答願います、テンペスト少佐。応答願います、テンペスト少佐」
『――レギオ少尉か。こちらの応援ならば、感謝する』
「いいえ違います。――やはりあなたは、沈む船に残ったんですね。非常に残念です」
『なんの話をしている? 君は未来を知っているかのような口調で、わけのわからないことを』
「きっと、知れば残酷ですよ。決して思いが報われない未来というのは。――いえ、あなたには関係ありませんね。今から放つのは、私からDCへの決別の弾丸です」
銃口をテンザン氏の機体へ向け、照準を中央から微妙にずらして撃つ。
『ッ! あぶねぇ!! おい、なんで俺を撃ったレギオォ!! ……おまえ、まさか』
「たった今、あなたがたと袂をわかちました。
今のがその一発です。
理由は、言わずともわかりますよね、私が従っていたのはビアン博士がいたからです。
彼なき今、彼の理念を引き継ぐ者たちに立ちふさがり、彼の思いも理念も全く受け継がない。
DCというモノにしがみつくダニ以外の何者でもないあなたがたに、私が付き従うとでも? はっ、まったくもっておめでたい頭です」
『つまり、こちらにつく気はなく。腐った連邦に与すると?』
「坊主憎ければ袈裟まで憎いあなたからすれば、ひどい裏切り行為に見えるでしょう。
ですが、私から見ればあなたのやっていることは、連邦をDCに置き換えただけの人間を増やすだけで決して復讐を果たしてはいないんですよ。
どうして、個人で上層部を攻撃することをしなかったんですか? あなたが復讐すべきは連邦上層部だけでしょう。
わからなかったのですか?
作戦を強行した人間、撃った本人、そしてそれを強制した上層部が誰かも分からずに。
ただただ、連邦というだけで、それを確かめもしなかった。
あなたに!
自分の恨みを組織に与してぶつけるしかないあなたに!
私は、決別します」
『言わせておけば、何がわかる!! あの日を――』
「知るわけがない! でも、知るつもりもない!
だけど、復讐は虚しいからって止めるつもりもない!!
復讐を組織の中に与してしか果たせないあなたが、酷く滑稽だ。
そして、組織に与している。
あなたの未来が――」
自分が言葉を紡ぐ、それが私には私自身に聴かせるように思えた。傍観者たる自分ではなく、彼によく似た。復讐を糧としている私に。欲して止まないものを目覚めたその瞬間から奪われていた私に。
「組織に与しているが故の最期だなんて。笑えますよ」
最後まで、言い切った。最後の言葉は嘲るように、まるでどこかのあしながお兄さんを彷彿とさせるようだった。
これが契機になったのかは分からないが、流れは既にDCから彼らへと変わっていた。
復讐鬼となっていたはずの男に、打ち込まれた楔は小さくはない。
小さくはなくても、決していい方向に向くことはないのは確かだ。
青い翼の騎士は、どこかおかしかった。
まるで二人の人間がそこにいるかのようだった。
そして、テンペスト・ホーカーという人によく似た雰囲気が、そのうちの一人から漂っていた。
無事に王女を保護し、これにて任務終了かと思ったけど。
まだひと波乱ありそうだった。
それに波乱はもう一つ私にあった。
私の機体にあしながお兄さんと名乗る人物からメールが来たからだ。
その内容、それは、それは。
よくよく、彼を見ているとなんだかそう感じます。
確かに、組織にいた方が彼の目的は達しやすいでしょうが、その結果がそれではただの八つ当たりにほかならないでしょう。
手段が目的になってしまっているのです。
とかく彼の最後は、なんとも言えず、復讐鬼ではなく。
組織に駒として使われる哀れなモルモットという感じですから。
復讐に邁進していたのか、あるいは葛藤の中にいたのかもしれません。
中途半端な復讐鬼。
自分が彼につけたあだ名です。
何日か執筆できない日の中でいろいろ思い浮かんでしまったので、フラグ増設です。
しかしながらいい方向には進まずに、むしろ悪い方向に進んでいます。
本当に、作者は千仭の谷どころか、エベレスト山頂からでも彼女達を突き落としたいのでしょうか。
誰か教えてください。