ザイードに憑依して暗殺王を目指す!?   作:たくヲ

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If編 第5次聖杯戦争っす?

 俺は再建された冬木教会の一室で酒を飲んでいたっす。

 

 教会で酒を飲むのもどうかと思うっすけどね。

 

 部屋の扉が開き、今日の業務(・・)をいったん終えた言峰綺礼が部屋に入ってきたっす。

 

「……ザイードか」

「悪いっすね。あまりに遅かったから、先に始めてたっすよ」

 

 言峰綺礼がテーブルをはさんで向かい側の席に座る。

 

「気配を消して酒を飲むのはやめたほうがいい。この私とてとっさに攻撃しかねない」

「そうしたいのはやまやまなんすけどね。他のサーヴァントに見つかるのは好ましくないっすよね?」

 

 そう第5次聖杯戦争が始まってしまったっす。

 

 本来、俺は第5次聖杯戦争を無意味にするために、アインツベルンを滅ぼすつもりでいたっす。聖杯の器さえいなければ聖杯戦争が起こったとしても、敗北した英霊を聖杯の器にため込めないっすから、この世すべての悪(アンリマユ)の復活することもなくなるはずっすからね。

 

 でも、残念なことにアインツベルンの境界が強固になっていて、単独での突破はほぼ不可能になってしまっていたっす。

 

 近くに魔力供給を行う言峰綺礼がいれば別だったんすけど、アインツベルンを滅ぼすことを言峰綺礼に知られてはいろいろと問題が起こってしまうっす。

 

 そのせいでアインツベルンを滅ぼすことはできず、結果こうして聖杯戦争がはじまり、その監督役として言峰綺礼が呼び出されたわけっすね。

 

 言峰綺礼が右手で酒の入ったグラスを持つっす。その手の甲にはニ画の令呪。

 

「まあ、あれっすね。とりあえずは人生2度目の聖杯戦争と神のいたずらに乾杯ということにするっす」

「悪くない」

 

 二つのグラスがぶつかり、俺たちはそれを飲み干し、話し始めるっす。

 

「さっき来ていたのは最後のマスターっすね」

「見ていたのか?」

「もちろんっす。霊体化こそできなくてもアサシンの気配遮断は健在っすからね」

 

 そのマスターはあの衛宮士郎だったりするんすけど。やっぱりあの時に衛宮切嗣を殺っておくべきだったっすかね?

 

「何はともあれ、全てのマスターとサーヴァントが出そろった以上、第5次聖杯戦争が本格的に始まるわけっすね」

「アサシンのマスターの報告はないがな」

「それは戦争なら当然っす。以前の聖杯戦争も馬鹿正直に参加を表明する参加者はそういなかったっすよね?」

 

 実際、アサシンにつけられている可能性も考えれば教会に報告をしない方がいいのは明らかっすからねえ。

 

 まあ、詰めが甘いせいで、冬木市に入る時までは隠れられてなかったんすけどね。

 

「現状のサーヴァントとマスターの拠点、クラスは確認済みっす。まだわからないのはアサシンのマスターの名前だけっすけど、聞くっすか?」

「聞かせろ、ザイード。監督役として聞いておかねばなるまい」

 

 なんというか、随分と回りくどいっすね。

 

「言峰綺礼。この部屋には俺の魔術で結界が張ってあるっす。今回のアサシンに侵入されているわけでもないっすし、なによりあんたと俺の仲っすよ。本音で会話してもらいたいっすね」

「それは失礼なことをした。ならばザイード。他のサーヴァントとそのマスターについて教えろ。今回の聖杯戦争で私の生まれた理を見いだすためにもな」

「わかったっすよ」

 

 さて、こういう場合は三騎士クラスから言っておくのがいいっすよね。

 

「セイバーのマスターは衛宮士郎。あんたも知っての通り、遠坂凛の同じ学校に通っているっす。そして、あんたを殺した衛宮切嗣の義理の息子でもあるっす」

 

 サーヴァントのセイバーは前回の聖杯戦争で見た顔っすから、アーサー王で間違いないっすね。疑問はなんで『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は俺が持っているのに、なぜアーサー王を召喚できたのかということっす。

 

「あんたは知っていると思うっすけど、サーヴァントは現界して姿を見せているだけでも魔力を消費するっす。それがセイバーともなれば消費する魔力は俺とは比べ物にならないっすね。セイバーを現界させていて、しかも召喚で相当魔力を喰われてあの態度っす。衛宮切嗣に拾われる前は一般人だったとは思えないほどの魔力があるとみていいっすね」

「おかしなことではない。なにせ、あの衛宮切嗣に育てられたのだ。魔術の手ほどきくらいは受けていたのだろう」

 

 『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を埋め込まれたことがない以上、固有結界は使えない可能性は高そうっすからほぼ問題はないはずっすけどね。油断はしないっす。

 

 

「アーチャーのマスターは遠坂凛っすね。あんたもよく知ってる相手っすから別に説明はいらないかもしれないっすけどね」

「構わん。続けろ」

「あんた直伝の八極拳と、遠坂家の宝石魔術の二つを戦闘に用いる魔術師っす。基本的に万能の魔術師っすから気を付けてほしいっすね。とはいえ、実戦経験があまりに少ないっすからどうとでもなるっす」

「ふむ、戦争とはいえ、あの凛と戦わねばならないのは残念だ」

「まあ、遠坂凛の成長を実の親のように見守ってきたわけっすからね。残念っす」

「「はっはっはっは」」

 

 まあ、立ちはだかるなら仕方がないんすよね。言峰綺礼に対してはともかく、俺にはそれなりになついてくれていたんすけど。

 

 アーチャーは未来の衛宮士郎で間違いなさそうっすね。近接戦でならアサシンの技術でそれなりに戦えるはずっすけど……最終的には負けてしまうっす。遠距離戦は言わずもがなっすね。

 

 うまいこと他のサーヴァントと同士討ちをしてもらわないと困るっす。

 

 

「ライダーのマスターは……間桐桜だったんすけどねえ」

「まあ、今は私のサーヴァントとして働いてもらっているがな」

 

 ライダーは聖堂教会が保護している間桐桜が海外で何の手違いか召喚してしまったっす。その時に、間桐桜は聖杯戦争に乗り気でなかったっすから、彼女の令呪を譲渡し言峰綺礼のサーヴァントとして活動してもらっているっす。教会で保護しているという立場上あまり魔術とかにかわらせるわけにはいかないっすからねえ。

 

 正直、俺の存在がばれると面倒っすから、早めに自害してもらいたいっす。でも、他の参加者の厄介なサーヴァント脱落させてもらうためには、その手段は温存しないといけないんすよね。

 

 それに、最悪の場合は聖杯の破壊を頼まないといけないっすからね。

 

「ライダーのサーヴァントはメデューサ。まあ、この冬木でも細部はともかく大まかな情報を知らない人なんてほとんどいないと思うっすよ? 知名度による戦闘力の上昇は相当な物っす」

「聖遺物もなしに随分と強力な英霊を召喚したものだ」

 

 たしか、間桐桜との相性が良かったから召喚されたんすよね。……召喚されたのは外国っすからそこまで強化されてない可能性ももちろんあるっす。まあ海外というのもヨーロッパの方っすから、どちらにせよかなりの強化がされてるはずっすけどね。

 

「気をつけた方がいいっすよ。メデューサといえば石化の魔眼。そんなものを使って裏切られたら令呪の使用が追いつくかどうかわからないっすよ」

「奴が気に入ってる間桐桜は教会の保護下。それならば問題はあるまい……だが、念には念を入れておく必要があるな」

「そのあたりはしっかり頼むっすよ。メデューサの相手をするのは俺じゃ無理っす」

「いいだろう」

 

 英霊である以上、背後から気配を消して首を狙っても躱される可能性大っす。

 

 というよりも、普通の状態のサーヴァントを相手にするのは俺じゃ荷が重いと言う他ないっす。『気配遮断』も攻撃時にほぼ解けてしまう以上、英霊に通用するようなものじゃないっすからね。唯一可能性があるのは油断して陣地から出てきたキャスターっすかね。

 

 

「バーサーカーのマスターはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。衛宮切嗣の実の娘で、アインツベルンのマスター。そして今回の聖杯の器っすね。こいつはアインツベルンの城を拠点にしているっす」

 

 こいつが曲者っすね。あの時、アインツベルンを滅ぼしていればこの聖杯戦争に参加する必要もなくなったんすけどねえ。

 

「この衛宮士郎、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンあたりとの対話はきっとあんたにとっても有益だと思うんすけどね。ま、しばらくやめておいた方がいいと思うっすよ? 少なくとも他のサーヴァントとサーヴァントと別行動をとっている間に頼むっす」

「わかっている。が、その二人、衛宮切嗣の関係者との対話で私の生まれた理を見つけることができるならば、させてもらうがな」

「残念っすけど、それは無理っすね。十年前も言ったっすけどあんたと俺は一蓮托生。あんたが死ねば俺は死に、俺が死ねばあんたも死ぬっす」

 

 まあ、死ぬっていうのは可能性の話なんすけどね。

 

「それじゃあ、困るんすよ。それに、生きていれば自らの生まれた理を知る機会なんてものはいくつもあるっす。あまり急ぐ必要もないっすよ?」

「だが……」

「生きていれば、大抵のことができるっすからね。だから、あまり命を投げ捨てるようなことはお勧めしないっすよ。聖杯戦争にあんたの人生と俺の人生をかけるのはあまりに割に合わないっす」

「……はぁ。仕方あるまい」

 

 それでいいんすよ。

 

 しかし、バーサーカーをどうするのかは問題っすね。バーサーカーはおそらくヘラクレス。最強クラスの英霊のはずっす。

 

 バーサーカーとして召喚されたせいで逆に弱体化したといっても、俺のような一アサシンに勝てるような相手ではないっす。

 

 つまり倒すためにはマスターのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを狙うしかないっす。普段はバーサーカーに守られてるっすから、アーチャーやセイバーあたりが戦っている間に狙うしかないのは困るっすけどね。

 

「キャスターのマスターは柳洞寺に居候している教師っすね」

「教師、だと?」

「そうっす。見た所、魔術師ではないようっす。柳洞寺は優秀な霊地だったはずっすし、先日から報道されている冬木市の住民を殺して魂喰いで魔力を補給しているようっすね」

「ふむ。だが、どうやって魔力のないマスターがキャスターを召喚したというのだ?」

「キャスターは本来のマスターを裏切って逃げた、という見方でいいと思うっすけどね」

 

 その様子をずっと見てたから間違いないっすね。裏切りの魔女メディアの手腕は暗殺者としては参考になったと言えるっす。

 

 キャスターは裏切りの魔女メディアで確定でいいはずっす。

 

 ろくに魔力のない人間をマスターとしてこの世に留まり現界を維持する、なんて普通のキャスターにできるはずがないっすからね。

 

 会話もしたから間違いはないっす。

 

「次にアサシンなんすけど、こいつがちょっと問題なんすよね」

「問題だと?」

「それがっすね。キャスターがどんな方法を用いたのかは知らないっすけど召喚してしまったようっす」

「なに? ……ふむ、なるほど」

「キャスターとして召喚される英霊は大半が現代の魔術師とはけた違いの力を持っているらしいっすからね。他のサーヴァントを召喚するぐらい驚くことじゃないっすかね?」

 

 まあ、実際は神代の魔術師であるメディアの力あってのサーヴァント召喚らしいっすけどね。

 

 今の俺でも、聖杯にさえ選ばれていればサーヴァント召喚できたんすかね?

 

「報告は以上っす。これからも適当に監視を続けていくっすよ」

「参考になった感謝する。だが、ザイードよ。ランサーはどうした?」

「ああ、ランサーっすか」

「なにがあった?」

「まず、ランサーのマスターはバゼット・フラガ・マクレミッツ。あんたも知ってるっすよね」

 

 以前、教会の仕事でなぜか共闘することになった相手っすからね。

 

「知っての通り現代まで伝わる何らかの宝具を所持している、魔術協会所属の封印指定の執行者っす。なかなかに厄介な魔術師だと言えるっす」

「それで、奴がどうかしたか?」

「どうやら奴はランサーと別行動をしていたようで、ランサーを冬木市の他の魔術師の拠点を探させている間に自分の拠点の強化を行うという算段だったみたいっすね」

 

 そして、拠点の強化が終わり次第、外の聖杯戦争に直接参加するつもりだったっぽいっす。バゼット・フラガ・マクレミッツの性格を考えるとランサーだけに戦わせるとは思えないっすからね。

 

「あまりに隙だらけだったんで、厄介なマスターを排除する意味も込めて殺っちゃったんすよね」




 たくヲです。

 エイプリルフールネタ、Ifストーリー。

 1『第四次聖杯戦争で衛宮切嗣が生存』
 2『第四次聖杯戦争終了後に衛宮士郎が衛宮切嗣に命を救われている』
 3『ザイードが第四次聖杯戦争終結後にアインツベルンを滅ぼしていない』

 この三つを達成していると今回のストーリーに分岐します。

 ありがとうございました

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