「言峰綺礼、あんたはどうするつもりっすか?」
俺は拠点のビジネスホテルにて言峰綺礼に尋ねるっす。
「時臣師が亡くなった以上、私がこの聖杯戦争に参加する意味もなくなったわけだが」
「やめる気はない、そういうことっすね?」
「ああ」
ふむ、ここでいきなり『自害せよ!』ってならないのはありがたいことっす。
「あと少し……あと少しで私は長年の答えを得る。それは確かだ。しかし、その答えにたどり着くための『何か』が足りない」
「なら聖杯を得ることっすね。それが万能の願望器ならあんたに『何か』を与えることができるはずっす」
「ああ、理解している。だが、アサシン。貴様たちにこの聖杯戦争を勝ち抜けるのか?」
最弱のサーヴァント、アサシン。そんなサーヴァントで自分は勝ちぬけるのかと思っているんすね。
「舐めてもらっては困るっすね。勘違いしているマスターも多いみたいっすけど、この聖杯戦争は殺し合いっすよ?」
言峰綺礼が聖杯戦争で勝利しようとしている以上、俺らがマスターに黙って、細々と活動する必要もないっす。
「純粋な殺し合いで
夜。
ランサー陣営の拠点である廃工場は険悪な雰囲気に満ちていた。
ケイネスはアインツベルンの城に攻め込んだ時に交戦した『魔術師殺し』衛宮切嗣の『起源弾』により魔術回路がほぼ全滅、四肢が動かず起き上がって行動することもできないという事態に陥っていた。
意識を失う寸前に発動した令呪によってランサーに助け出されたケイネスはこの拠点に運び込まれ、ケイネスの許婚であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの治療により一命こそ取り留めたのだが……
「女一人守れんとは騎士道が聞いてあきれるな、ランサー」
車いすに乗ったまま、静かな怒りをこめてランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは言う。
ケイネスの治療を終えた直後、ソラウは二体のアサシンによって誘拐されてしまったのだ。
おそらくアサシンはケイネスが結界を張るよりも前にこの廃工場に忍び込んでいたのだろう。
無論、アサシンではランサーに勝利することはできない。しかし、誘拐された時にランサーはソラウに命じられ結界の外で外からの襲撃を警戒していた。故に内部にいたアサシンにソラウの誘拐と結界の破壊を許してしまったのである。
「ああ、ソラウ……やはり、時計塔で待っていてもらうべきだったのだ……」
「さらわれたソラウ殿の魔力供給はいまだ健在です。少なくとも生存はしてます」
「無論だ!ランサー、なぜそれがわかっていながらソラウを探しに行かない!?」
「この場の結界が失われケイネス殿の身を守る手段がなく危険です」
「いざとなれば令呪で呼び出す!貴様も口だけではなく少しは役に立って見せろ!」
「ケイネス殿……了解しました」
一瞬、傷ついたような表情を浮かべたランサーだったが、すぐさま霊体化しその場を離れる。
魔術回路が破壊されたといってもランサーとの契約が破棄されたわけではない。令呪を使えばいかなる場所からでもランサーを呼び出せるだろう。
(何が騎士道だ)
ケイネスは始めからランサーを信用してはいなかった。
契約した時、「聖杯に何を願うのか?」というケイネスの問いに「聖杯に対しての願いはなく、新たな主に忠義を尽くすことが願いであるである」と否定した、サーヴァント。
聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは皆、聖杯に託す願いがある。それに例外はない。少なくともケイネスはそう考えている。
故にケイネスはランサーがいつか裏切るつもりであると疑いをかけている。
それに加え、ランサーの正体はディルムッド・オディナ。
ランサーの『愛の黒子』によってソラウを奪われる可能性すらある。
その予感は的中しソラウはランサーに対し誰の目にも明白なほどおかしな態度をとり始めた。
これではケイネスがランサーへ向ける疑念は増すばかりである。
(ソラウ……君さえ無事なら……)
もはやケイネスの頭の中には聖杯戦争での勝利は含まれていない。
ソラウが無事帰ってきたならランサーを令呪で自害させ、ソラウとともに時計塔に帰る。という選択肢をケイネスは視野に入れ始めている。
そんな時、
「ランサーのマスターだな」
廃工場に声が響いた。
言峰綺礼がケイネス・エルメロイ・アーチボルトに話しかけたっす。
自分で動かすことができない車いすに座っているケイネス・エルメロイ・アーチボルトは首だけでこっちを確認して驚いたような表情をするっす。
まあ、当然っすよね。言峰綺礼が左腕で抱えていたのは、昨日俺たちアサシンズにさらわれたソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだったんすから。
なお、言峰綺礼の右手には黒鍵が握られており、その刃はソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの首筋にあててあるっす。
「やめておけ、令呪でランサーを呼ぶよりも先に私はこの女を殺せる」
言峰綺礼はケイネス・エルメロイ・アーチボルトを言葉で牽制するっす。
これでランサーを呼ばれるのは防げるっすかね?
「なにが目的だ?」
「取引だ」
実体化した俺が言峰綺礼から一枚の紙を受け取ってケイネス・エルメロイ・アーチボルトに近づき、紙に書かれた内容を見せるっす。
「!?」
「どうする?」
二十秒ほどの間。
ふむ、決断したようっすね。
「令呪を持って命ずる、ランサー、ここまで戻れ。重ねて命ずる」
ケイネスの令呪が輝き、ランサーがこの場に現れる前に次の言葉が放たれたっす。
「自害せよランサー!」
令呪の効果が発動し現れたと同時にランサーが二槍を自らの心臓に突き立てたっす。
「な!?……ケイネス殿?」
ケイネスのことを信じられないというような目で見るランサー。
周囲を見回したランサーは事態を理解したのか目から血涙が流れるっす。
「またか……また俺は主君の手によって……」
ランサーが第五次ランサーのように襲いかかってきてもいいように、俺を含めたアサシン5人で言峰綺礼を守るっす。
……襲い掛かってくる様子はないっすね。
「貴様ら……そこまでして勝ちたいか!?この俺の抱いたたった一つの願いすら踏みにじって……何一つ恥じ入ることもないのか!?……赦さん……いつか地獄の釜に落ちながら、このディルムッドの怒りを思いだせ!!」
声を廃工場中に響かせながらランサーが消えていくっす。
「これで貴様にはギアスが?」
「ああ、これで私は貴様たちに手を出すことはできないな」
ケイネスがランサーを自害させた理由は俺が見せた紙、
今回の内容は
『ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪一画を持ってランサーをこの廃工場に呼び出す』
『残り全ての令呪でランサーを自害させる』
『前記二つを満たしている場合、言峰綺礼の手による、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトとソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの二名に対しての殺害および傷害行動をとれなくなる』
というものっす。
結果この契約は成立。ランサーは消え、言峰綺礼は二人を殺害できなくなったっす。
俺は言峰綺礼からソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを受け取りケイネスのもとへと運んで、膝の上に乗せるっす。
体にところどころ傷を負った状態で気絶している許婚の顔を見て、それでも彼女が生きていることを確認したケイネスは微笑み。
俺はソラウの心臓に
「は?」
一拍おいて状況を理解したケイネスは鬼のような形相を浮かべて俺に叫ぶっす。
「貴様!!私とソラウを助けてくれるのではなかったのか!?」
「誰がそんなこと言ったんすか?アレに書いてあったのは『
「!?貴様らは初めから私たちを殺すつもりで……?」
「もちろんっす」
「……殺せ……私を……ソラウのいる場所へ……」
「言われなくってもそうするっす」
そして俺はケイネスの心臓に
先程の暗殺劇はランサー陣営を殺害する、という目的の他にも言峰綺礼を完全に愉悦に目覚めさせるという目的を持っていたっす。
言峰綺礼はもうほとんど愉悦を知りかけているっす。でも、それを無意識に否定しようとしてるっすから、最後に何か一押ししなければならないんすよね。
まあ、先程も苦しむランサーやケイネス・エルメロイ・アーチボルトの顔を見て笑みを浮かべていたっすからもうほとんどこの目的を達成したも当然なんすけど。
そんな俺たちアサシンズと言峰綺礼は遠坂邸にまで来ていたっす。
それは遠坂邸に隠しておいた聖杯の器、アイリスフィール・フォン・アインツベルンを見張っていた二人のうちの一人、小男アサシンさんが小聖杯が出現したことを報告してきたからっす。
そういえば、原作でもサーヴァント4人の魂で小聖杯が出現していたっすね。
聖杯の器がある遠坂邸の地下室に入るっす。
「これが聖杯……」
そこの部屋の中央の台座の上にあるのはまさに聖杯。聖杯の器であるホムンクルスが消失しその中から現れた代物っす。
そしてその周囲には……泥?
「ああ、そういうことっすか」
「何のことだ?ザイード」
「ただの独り言っすから気にしないでもいいっすよ」
小男アサシンさんをあしらい、聖杯を見るっす。
そういえば聖杯は汚染されていたんすよね。
「これは?」
言峰綺礼が聖杯の泥に触れるっす。すると言峰綺礼は気絶したのか泥に倒れ込んでしまったっす。
「綺礼様!?」
アサシンの一人が言峰綺礼を助け起こそうとして泥に踏み込み……そのアサシンの体が泥に埋まっていってしまうっす。いや、これは溶けてるんすかね?
至高性を持たない聖杯の泥によって魔力に分解されていく一人のアサシンはこっちをみて助けを求め、手を伸ばす。
「助け……」
数秒とかからずアサシンの一体は消失したっす。
「何だこれは?」
「さあ?マスターは泥に飲まれていないようっすから何とかなると思うっすけど、少なくとも俺らに触れられる代物ではなさそうっすよ。とにかくあんたたちは外に出ておくっす。」
聖杯からは少しずつどろがあふれ出しているっす。この部屋の地面を埋め尽くすのも時間の問題っすね。
「マスターは任せたぞ。ザイード」
「了解っす」
霊体化した他のアサシンは外に出ていくっす。俺は近くにあった机に上りじわじわと広がる泥を見るっす。
しかし困ったっすね。
聖杯の汚染。つまり聖杯が完成した時に正解が滅ぶことを意味するっす。
となると、目的のために一か八かの方法をとるしかないっすね。
幸い言峰綺礼が泥に触れてくれたおかげで、。
さて、言峰綺礼が起きるのを待つっすかね。
言峰綺礼は泥に囲まれた状態でで目覚めた。
「起きたっすか?」
少し高い位置から聞こえるその声に目を向けると、そこには自らのサーヴァントであるアサシンの人格の一人が机の上から自分を見おろしていた。
「あれが、私の本性……」
脳裏によぎるのは聖杯の意志との対話。
聖杯の意志は言峰綺礼が看取った妻の姿をしていた。聞くところによるとその姿と人間性は言峰綺礼の意識からくみ取ったものらしく、その仕草や表情、口調は二年を過ごした妻の姿そのものだった。
その姿で告げられたのは彼自信の本性。
彼が妻を看取った時に思ったのは『こんなことになるのなら、私が殺したかった』であったということ。
彼の父、言峰璃正の死に対し感じたのは『私の手で殺しておけばよかった』であるということ。
結果、言峰綺礼は自信がどうしようもなく破綻していること知った。
そして理解した。この聖杯を完成させた時、自分の答えは形として現れると。
「なにがあったかは聞かないっすよ。でも、これから聖杯戦争で勝ち残る上で一つだけ聞かせてほしいっす」
自らのサーヴァントの声を聞き言峰綺礼は我に返る。
「答えは得られたっすか?」
おそらく聖杯の泥に触れた自分が何を知ったのか、目の前のサーヴァントは知っているのだろう。
そんなサーヴァントに自分がどうしようもなく破綻していることを知った男は言葉を返す。
「半分といったところだ。まだ私は真の意味で答えを得ていない。アサシン。それに協力してくれるな?」
「無論っす」
たくヲです。
愉悦覚醒。
ちなみに
アサシンズ被害、『ギルガメッシュにやられたやつ』『バーサーカーにやられたやつ』『聖杯の泥に分解されたやつ』。合計三名。
これからも『ザイードに憑依して暗殺王を目指す!?』をよろしくお願いします。