『しあわせ。日銭で薔薇色生活計画』
それは1人の男が掲げた、壮大な人生サクセスストーリー。
……だったが。
僅か1日、いや半日で頓挫した……。
挑戦初日の好スタートに味をしめ、それがこれからも続くのだと勝手に思い込み。勢いで迎えた挑戦2日目………。
…撃沈。
そして。
翌日……。
男は早朝から大通りを歩く……。その顔つきは真剣さの中に決意を秘めているようだ。
(やってやんよぉ…。朝イチ・夕方オワリで結果、出しちゃるわ!)
変なスイッチが入ったフレン。気負いすぎて、ちょーハイテンションになってしまった。
自身の計画に甘さがあったことを認め、それならば、っと新たな決意を持って挑戦する。の、だけれど…。
(目標は魔石を3つじゃぁ~。狩りまくってやるわ~!)
この世界に1人でも……。
フレンに…友達や仲間がいたのなら、きっと、こう、言葉にするだろう。
『アイツは、もう、ダメだ…』
しかし…彼には友達や仲間は……いない。
「やかましいわぁ!!」
突然、空に向かって吠えた男に近くにいた方々が距離を開けて離れ出す。ここは、まだ大通りです。
またもや見せる自身の奇態に、『スイマセン、何でもないです』。などと、弁解をしながら走り去る。
目立たず地味に過ごすハズなのに、段々、素が出始めている。
(エライ恥をかいた…。気を付けなければ…)
職場(地下洞窟)に向かいながら反省…。
(だが、あの時は、何故か叫ばなければ!っと思ったんだけど……。何故だろう…?)
最終的には『まぁ、いっか…』で片付けたフレン。地下洞窟の入口で常駐スタッフに軽く挨拶して、地下、奥深くへと進んで行った。
周囲を警戒しながらも非常食の干し肉を食べながら歩く。
朝食と昼食を犠牲にしてまでも、今日は結果にこだわるつもりでいる。
進む通路は初日、2日目と同じルート。これは、なんとなくのようだ。
しばらく経って、先日よりも奥まで来ると、幾つもの分かれ道がある場所に出た。
「ん?。こんな場所あったかなぁ…?」
背負ってたリュックから地図を取り出し、現在地を割り出す。
(あっ!、なるほど、ここで隣の通過と合流するのか…)
この場所は、いわゆる交差点のようなものだった。
「んじゃ、こっちの左端の通過で…」
サクサク決めてズンズン進む。魔石獣に遭遇さえすれば、その付近にまとまって徘徊してる可能性がある。いつもより出発が早いため、時間的にも余裕がある。
(さぁ~、こいや!魔石獣!)
気合いと共に進むと、遂にヤツラが現れる。
正面から2体の魔石獣。フレンは集中すると無言で左手を、迫る相手に向けて伸ばし、歩みを止めずに魔法を放つ。
フレンの魔法…。突風を集積・凝縮した塊の弾丸が一息に3連発、左手の掌から撃ち出される。
フレンは歩みは止めない。さらに集中からの3連発。魔石獣はまだ倒れてない。
魔石獣に、かなり近付いたが歩みは止めず、フレンは小剣を鞘から抜くと、魔力を込めて3連閃。剣を触媒とし、剣に魔力を込め、剣を振るう。
フレンの右手にある剣が振るわれる度に、突風を集積・凝縮した刃が撃ち飛ばされ相手を襲う。
フレンはここで歩みを止める。魔石獣が霧散し消滅を確認できたからだ。
「魔石は落ちてないな……。だが、やはり、この付近を徘徊してるようだ…」
早速、次の獲物が来てくれた。今度は4体同時のようだ。フレンの集中は、まだ切れてない。
「1体、見付けたら10体はいると思え!。って感じかな。クククッ」
まるで『台所に潜む黒い彗星のG』だな…っと苦笑しながらも、遠距離からの魔法攻撃を開始するのだった。
倒しては現れる魔石獣をボコりまくる…。その数も11体で出現が止まった。
戦利品となる魔石も1つ獲得できた。フレンも安堵の顔を見せた。
(ふぅ~、まだ昼前だな…。うまく別通路の魔石獣に遭遇すれば、もう1団体の相手ができるな…)
時間を逆算し、夕方には地上に出るつもりで調整する。
新たな狩り場を求めて地図で確認する。現在地から、さらに先へと進むと分かれ道がある。つまり、他の通路を徘徊してる魔石獣がいるかもしれない。
「前進あるのみ!」
迷うことなく通路を進む。分かれ道は左に向かい、さらに奥へと移動する。
どうやら、『当たり』を引いたようだ…。こちらに向かって1体の魔石獣。その奥には3体の魔石獣が見える。この付近には、まだまだ徘徊していそうだ。
時間短縮のためにも、歩みを止めず遠距離から拳ぐらいの大きさがあると思われる突風の弾丸を撃ちまくる。
手前の1体は、すんなりと倒せた。次は、奥にいる3体。
突風の弾丸を撃ち、剣を使って突風の衝撃刃を飛ばし、撃ちまくって、飛ばしまくる。魔石獣が相手なら、この攻撃スタイルで確実に倒しきれる。
(弾丸よりも衝撃刃の方が、威力が上なんだな…)
剣を触媒に用いてる為なのかは判らないが、衝撃刃のダメージの方が確かにデカイようだ。
ぞろぞろと現れてくれる団体様の魔石獣を次々と倒していく。
終わってみれば、14体の魔石獣を倒し、2つの魔石を手に入れた。
目標を達成したフレン。これ以上は必要ないと判断して、帰還モードへと移行する。
(地上に出るまでの移動時間を考慮しても、夜までには出れる。…っと思う)
「つまり…、俺の勝ちだ!」
なんの勝負だか解らないが、とりあえずフレンは勝ったみたいだ。地上までは遠いが、ルンルンでスキップまでカマしてるフレンには些細な事なんだろう。
無事に地上に戻れたフレン。帰路では特に問題もなく、順調に来た道を戻ってこれた。
(そして極めつけは、この時間帯。完璧だよ)
今まさに夕暮れ時。シナリオ通りの展開だ。
常駐スタッフに片手を挙げて挨拶。今日は、このまま魔石を買い取ってもらおうと思い、その足で専門店を目指した。
「いらっしゃいませ。魔石の買い取りですか?」
「はい、この3個です。お願いします」
ズボンのポケットから戦利品の魔石を取り出してカウンターの上に置く。
「お預かりします。少々お待ち下さい」
早速、目の前で鑑定を始める店主。魔石が内包する魔力量によっては買い取り価格が変わってくる。
「お待たせしました。3つとも下位の魔石でしたので、買い取り額は2万1000ガルになります。ご確認ください」
「はい、確かに。では、また」
(フッ、本気になればこんなもんよ…)
専門店を出て食堂に向かう、ドヤ顔のフレン。
途中、冒険者ギルドの前で軽装備の若い女性戦士が、ガラの悪い数人の冒険者に絡まれていた……が、フツーにスルーした。
(なんと言われようと、面倒事はイヤです)
こういう時は助けに入って、なんだかんだで解決して、なんだかんだで感謝されて、なんだかんだで問題が発生したりする。っと、フレンは思っている。
実は、こういった(女性が絡まれる的な)イベントは、この世界に……、このアルファス王国・城下町に来てから、1日1回はあったのだ。
(『美少女イベント』とか、『仲間になってパーティー組もうぜ!イベント』とか、マジで起きそうだよな…。この世界は…)
異世界転生者のフレンには、このようなイベントは付きまとう可能性がある。
だが、面倒事を嫌うフレンは、人との関わりを極力、避けてきた。必要以上のコミュニケーションは、しないように心掛けているのだ。
(異世界転生者イベントとか、マジでいらねぇ…。シカトしても問題ないなら、自分から巻き込まれる必要はないだろ…)
結論としては、こういったイベントは序盤をスルーしまくれば、その後、一切、関わらないだろうと考え、今後の行動も慎重にいく方針とした。
食堂で夕食を済ませたフレン。明日用に弁当(干し肉)と果汁水を持ち帰り、宿へ戻って来た。風呂で癒されてからは、ベッドの上で胡座を組んで思考タイムに突入する。
「んじゃ、恒例の1人反省会とイキますか………。……寂しくないからな…」
何かを呟いたフレン。色々と、気にしたら負けだと思っている。
(とにかく、今日の稼ぎは問題ない。1番のネックは魔石獣に遭遇するまでの時間)
今日は、日の出からの出勤、そして夕方に退勤。フレンにとっては理想的とも思える。
(朝イチで出勤すりゃ、ある程度のメドはつく。あとは、朝昼の弁当(干し肉)をなんとかしてぇなぁ…)
歩きながらでも手軽に食べられるが、味気無い…っと思っている。だが、頼みの食堂や露店は早朝ではオープンしてない。
「あとで宿の店主にでも聞いておくか……」
弁当問題は地道な聞き込みをするとして、ひとまず保留にしたようだ。
(次の問題は、連日発生するイベントだが…)
正直メンドーだとフレンは思った…。基本的には関わらなければいいのだが、それでも巻き込まれる場合もでてくるだろう。
(スルーしまくってやり過ごすしか対処法が思いつかねぇ…)
どうしたもんか…っと悩むが、具体案が出ない…。当面は、このままでいくしかないと考えることにした。
本日の1人会議は終了。まとめると…
出勤時間を繰り上げることで、労働(戦闘)に幅(時間的な余裕)が出来た。これは評価できる。明日以降も、これでいく。
弁当問題は聞き込みを決行し、改善の方向とする。
各種イベント問題は、その場での適切な判断でかわしていく。良案が生まれ次第、即、変更とする。
(こんなとこかな…。一難去って、また一難な状況が続くが、これもまた人生なのだろう…)
明日も、いい結果に恵まれるといいな、っと思いながらフレンは就寝するのだった…。