今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

4 / 17
第4話

 

アルファス王国城下町…。いくつもの商店が軒を連ねる。大通りを歩くフレンは洋服屋に向かう途中で道具屋に立ち寄り、革製の大きめリュックを購入。さらに、雑貨屋に立ち寄り、日用品を購入。そして、ようやく洋服屋に到着した。

 

 

 

(この店は男性客メインだから、気兼ねなく買い物ができるな…)

 

「「いらっしゃいませ!」」

 

店内に入ると一組の中年の男女に声を掛けられる。

 

 

 

(夫婦で経営してるのかな…?。…っと、それよりも…)

 

店内には、テーブルや棚が設置され、染色された衣類がサイズごとに重ね置きされている。

 

(普段着も欲しいなぁ…、一般人Aみたいな感じの地味なやつが…)

 

今、フレンが着ているのは旅人の服。行商人も好んで着たりする、丈夫で、雨風に強い機能面もある優れもの。

 

(街中をうろうろできる、ラフな服が……。おっ、これでいいな!。サイズは、これで…)

 

 

 

こうして普段着に下着、靴下やタオルなど数点を買い込みリュックにしまうと、笑顔で店を出る。

 

 

 

 

 

 

足取りも軽く、フレンは小休憩をとるため、露店が建ち並ぶ広場に来ていた。スパイシーな匂いの串焼きにヤられて果汁水と一緒に購入し、脇にあるベンチに腰をおろす。

 

 

(うーん、このあとは、どうするかなぁ……)

 

 

フレンは串焼きを食べながら、次の予定を考える。

 

(日常生活品は大抵、揃えられたな…、あとは日銭を稼ぐプランか?、それなら…)

 

木製コップを傾け果汁水を一口飲む。

 

(まずは今のレベルで、どんだけ魔法が使えんのか再度、試してみるか…)

 

(さすがに街中じゃ無理だな、城下町の外に出て、隠れて確認するか……)

 

飲んでた果汁水を一気に煽ると立ち上がり、木製コップを返却して歩き出す。

 

(丁度、昨日、くぐった北門がすぐそこだ…。あの街道を少し外れたトコにでも移動しよう!)

 

 

 

 

 

門へ着くと、昨日、フレンを呆れ怪しんだ門兵に声を掛けられた。

 

「なんだ…、昨日よりは、まともな装備になったな?」

 

フレンを覚えていたようだ。

 

「あれ?、俺を覚えてるんですか?」

 

門兵はフレンにむけて大きく溜め息を吐く。

 

「あんな不審なやつは、そんな簡単に忘れんわ!、しかも昨日のことだ!」

 

若干、キレているようだ…。

 

「不審だなんてヒドイですね、ちょっと自分に挑戦したんですよ」

 

イタズラをしたような顔でニヤつき、門兵をあしらう。

 

「フン、出るならさっさと出ろ!」

「ほい、んじゃ、どうも…」

 

絡まれても、悪い人じゃないんだろうな…、っと門兵に対してフレンは思いながらも、門をくぐり城下町の外に出た。

 

 

 

 

 

 

しばらくは真っ直ぐ街道を進み、後方の城下町が遠くに見える距離を見計らい街道を外れ、前方の森に向かうべく平原を歩く。

 

(森には魔物さんが生息して、危険なんだが、人目につくよりはいいだろ…)

 

「いざって時は全力逃走だ!、ビビるな、俺!」

 

自身に暗示という名の気合いをかけ、森の中へと入って行く。

 

(どっかに魔法の練習する、いい感じの場所はねぇかな…?)

 

周囲を確認しながらも鬱蒼とする森の中、木々の間をすり抜けて条件の良い場所を探す。

 

 

 

(おっ、良いじゃん!。ここにしよう!)

 

 

フレンが見つけたのは、少し拓けた場所。

 

(森の外にも近いし、警戒を怠らなけりゃ問題ねぇかな…)

 

 

周囲に気を配りながら拓けた場所の中心へ進む。歩を止め腕を組み思考する。

 

 

「まずは前回のおさらい…」

 

右腕を伸ばし前方に手のひらをむける。

 

(前は、そよ風が突風だったな…、とりあえず、今回も同じイメージで…)

 

 

(…オラッ!)

 

 

結果は発動成功。前方を突風が駆け巡った。森の木々が、ギシギシと音を鳴らしている。

 

 

(やっぱり突風になっちゃうな、イメージは出来てんだよなぁ、この辺の調整が難しいな…)

 

 

「………?!!あッ、特典か!」

 

 

(そうだよ、ステータス画面?でも隠蔽してるから、すっかり忘れてた…。)

 

 

フレンの貰った特典は5つ。異世界の事前情報、風属性魔法の才、魔力消費量減少、魔法効果増加、ステータス隠蔽・偽造。

 

 

(今回はそよ風が魔法効果増加されて突風になったんだな…)

 

(なるほど、これを踏まえて練習すればいいわけだ!)

 

 

 

謎が解けたことで、俄然やる気が増したフレン。

 

 

「今度は範囲を絞ってやってみよう!」

 

 

(イメージしろ!、目の前の大木に野球ボールを打ち出す感じで…)

 

 

フレンは手のひらを一本の木にむける。

 

 

(……ハァッ!)

 

 

次の瞬間、バキ!っと木が音をたてた。よく見ると少しだけ抉れてる部分がある。

 

 

(うん、成功だ。魔法発動のイメージも慣れちまえば問題ない)

 

 

フレンは左手でも魔法を試したが、こちらも無事成功。

 

 

(そよ風が突風になるなら、突風をイメージしたらどうなるんだ?)

 

 

同じように左手で魔法を行使する。だが、結果は変わらず、表面を少し抉るだけとなった。

 

 

(多分、今のレベルじゃ、ここまでの威力しかでないんだろうな…)

 

 

(…?…それなら、ステータスを偽造したらどうなるんだ?、レベルを50にしてチャレンジ!!)

 

 

結果は惨敗。異世界だろうが、何だろうが、世の中そんなに甘くない…。

 

 

(そうだよなぁ、表面を偽造して中身も変わったら、隠蔽してる特典も消えて使えない。ってことなるもんな!。レベルも元に戻しとこう…)

 

 

一応、納得のいく答えがでたフレンは、それ以上の詮索はやめた。

 

 

 

(さて、広範囲突風と凝縮突風弾が行使出来んのはわかったから、次は、カマイタチ現象に挑戦してみよう!)

 

 

フレンは腰に下げてる小剣を鞘から抜く。右手に持った小剣を左右に振って、イメージを固める。

 

 

(小剣を触媒として突風を纏わり付かせる…。小剣を振るって風の刃を撃ち飛ばす…。イメージしろ…)

 

 

フレンは居合いの要領で小剣を一閃。斬撃が飛ばされ木に命中した。木には剣で斬られたようなアトが残り、魔法が成功したことを証明した。

 

 

(おぉぉ、一発成功!。威力は低いが、まぁ、いいだろ!。更には連続して撃ち飛ばせるか?、どれ……)

 

感覚を掴んだフレンは、早速、次のステップへ移行。小剣を構えて一閃、二閃、三閃、四閃までで、動きを止める。四閃目が不発。一息で撃ち飛ばせるのは三発までと確認できた。

 

 

 

(なかなかに良い結果じゃないのか…。レベルが上がれば、かなり便利になるな!)

 

 

ここまでの結果内容には、フレンも納得し、笑みを浮かべる。 だが、ここで周囲に異変が生じる。森の中での突風や打撃音に何かが感付き警戒しながらも、こちらに近づきつつあるようだ。

 

 

(えぇ~、ちょっと待ってよ!)

 

 

緊迫した状況下でも、努めて冷静であろうとするフレンは、周囲を見渡す。

 

(あっちに何かいる…。魔物…なのか?。わからん、まぁ、距離はまだあるからトンズラと行きますか!)

 

 

迷うことなく、即実行。フレンは森の外に向けて走り出す。しかし、すぐに立ち止まることになる。

 

 

(うぅ~わぁ、こっちも何かいるよ…。多分、魔物さんが来てるんだろうなぁ。面倒だな~…)

 

 

フレンに近付く気配は複数。その内の幾つかは進行方向上にいると思われる。森の外に出るだけなら、このまま直進が望ましい。

 

 

(こんなとこで距離を詰められて挟み撃ち、っとかシャレにならん!。行くしかねぇだろ!)

 

 

フレンは小剣を抜くと、構わず前方…森の外に向けて走り出す!木々の間をすり抜け、ひたすら前進。そして遂に気配の正体を知る。

 

 

威嚇するように唸り声をあげるソレは三匹の魔物。フレンが以前いた世界で狼と呼ばれる生き物と似ている。だが、ふた回り以上の体長は遠目でも威圧感がある。

 

構わず特攻するフレンに、警戒していた三匹の魔物もフレンに向かい同時に動き出す。するとフレンはこのタイミングで動きを止める。

 

 

「…オラッ!!」

 

 

正面から向かって来た魔物にピンポイントに範囲調整した突風をぶつける。

 

 

「イメージは大事だな~ホント!」

 

 

突然の突風をうけた三匹の魔物は、驚き、脚を止め警戒モードに入った。

 

 

「ビビったなぁ?、まだまだいくぞ、オラッ!」

 

 

さらにもう一発の突風。続けて二発、三発と放つ。これに驚いた魔物達は森の奥へと向きを変え逃げ出した。

 

 

「よし、進路クリア。俺も全力逃走!」

 

 

道が開けたのを確認し、フレンは急いで森の外へ出た。

 

そのまま街道まで走ると追っ手が来ないのを確認して、深く溜め息を吐く。

 

 

「ハァ~、怖かった!」

 

 

魔物との初実戦を終えたフレンは正直に感想を吐く。

 

 

(レベルが低い分、殺傷力がなかったからグロい光景にならなかったけど…)

 

「思ってた以上にキツいなぁ…」

 

 

命懸けの戦闘など、以前の世界でもないことだ。

 

「ふふふ、今頃になって足が震えてやがる…」

 

 

フレンは改めて理解する。この世界を…。

 

(この現実を受け入れて生きていかなきゃな…)

 

 

フレンは震える足をパンパンっと叩き、一呼吸。そして、アルファス王国に戻るため歩き出す。

 

 

 

 

 

命懸けの初戦闘から、ほどなく。アルファス王国、城下町の北門出入口まで到着したフレン。身分証明書でもあるギルドカードを提出して、難なく門をくぐり歩を進める。

 

(今回は何も言ってこなかったな、あの門兵さん…)

 

城下町に入り、大通りを歩く。門兵の対応に若干の不満を感じながらも、目的地へ向かう。

 

 

 

(実戦を体験した上で思ったけど、この服だけじゃ軽すぎる)

 

 

冒険者として日銭を稼ぐつもりのフレンだが、貴重な体験を元にプランを練る。

 

 

(魔法が使えるのは有り難いが、身を守る防具は必要だ!)

 

 

自身に今、足りないもの思う。

 

(今のレベルじゃ魔法殺傷力が低い。そうなると魔法で牽制して近づき、バランスを崩した時に剣でとどめだな…)

 

 

目的地である防具屋に向かいながら思考する。

 

(なるほど、門兵さんが呆れていたのは、こういうことか…)

 

手ぶらで街道を歩いて来た時を思い出す。

 

(確かに呆れるし不審だな、くくくっ!)

 

フレンは心の中で笑う。よく無事であったと。

 

(事前情報でざっくりと危険なのは分かっていたけど、細かいとこまではわからんからなぁ…)

 

(とにかく危険!ってのがこの世界の常識なんだろうな…)

 

 

 

 

 

思考しながら大通りを歩くフレンは、ようやく目的地の防具屋に到着する。

 

 

(んじゃ、お邪魔します)

 

 

「……いらっしゃい」

 

 

お店に入ると一言。カウンター席に座る店主らしき人は寡黙な方のようだ。店内には数人の客がいて陳列されてる防具を見て話し合ってる。

 

 

(やっぱり戦闘スタイルに合わせると、こっちだよなぁ…。専門家に話しを聞こう…)

 

 

フレンは購入する防具をある程度、絞り込んでいるためアドバイスが欲しいのだ。

 

「すいません、軽装備を一式、揃えたいんですけど、オススメはありますか?」

 

 

カウンター席に座る店主らしき人に声を掛ける。

 

「……お前さんは冒険者か?、武器は弓か?」

 

「いぇ、魔法を少々。戦闘スタイルは中遠距離からの牽制と接近しての一撃離脱です」

 

 

フレンの、この戦闘スタイルだと動きが遅くなる重装備は合わない。

 

魔法殺傷力の低い今の段階では、手数と機動力で勝負しようと考え、軽装備を選んだのだ。

 

 

「……こちらへ、オススメがある」

 

 

そう言って寡黙な主人は店の奥へと入って行く。フレンもあわててあとを追う。

 

 

「……店番、変わってくれ」

 

「はい!」

 

寡黙な主人が話し掛けたのは店の奥にいた女性。

 

(奥さんかな?)

 

なんとなく察したフレンは、寡黙な主人と奥の部屋に入る。

 

 

「……コイツを見てくれ。丈夫な革素材を8枚重ねしてる」

 

「おぉ、すごい!、8枚重ねなんてよく出来ましたね?」

 

 

見せられた防具の革素材は、かなり上質で、それを複数枚も重ね合わせるのは至難の技。職人のウデの良さがわかる。

 

 

「すごく、いいですね。買わせて下さい!」

 

「……有難う、値段は20万ガルだが大丈夫か?」

 

「はい、問題ないです」

 

 

懐からお金を取り出し支払いを済ませる。

 

 

「……サイズ調整する、装備してくれ」

 

「この服の上からでもいいですか?」

 

「……かまわない」

 

 

フレンは着ている服の上から装備装着していく。

 

 

「……胸や腹は苦しくないか?、腕は回るか?」

 

「問題ありません、ピッタリですね!」

 

「……サイズ調整は無料でやる、いつでも来てくれ」

 

「はい、わかりました」

 

 

思わぬとこで掘り出し物をゲットしたフレンは、革鎧を装着し満足して店を出るのであった。

 

 

(良い買い物をしたなぁ、軽装備一式じゃなく革鎧だけになったけど、この、上質革素材の軽さと防御力はハンパねぇな!)

 

日も傾き始めた城下町を歩きながらフレンは物思いにふける。

 

(あらかじめ用意してもらったお金が有って良かった!)

 

フレンは、支度金の50万ガルに心から感謝した。

 

 

(結構お金使ったからな、明日にでも日銭を稼がなければ…)

 

明日の予定を思考する。もちろん冒険者として仕事をするつもりなのだが、問題がある。

 

 

(王道なら、冒険者ギルドで魔物討伐の依頼に手を出すんだが。レベルの低い、今の俺には無理。つーか、今後の俺でもムリ!)

 

 

日銭を稼ぐだけなら超弩級の危険に自分から突っ込む必要はないのだとフレンは思っている。

 

(……とりあえず、メシ食って、宿に戻ろう…)

 

 

 

 

 

 

すっかり辺りも暗くなる中、食事を済ませ宿へと戻ったフレン。風呂の用意が出来ていることを宿の主人に告げられ喜んだ。

 

一旦、部屋に行き、装備をハズシて今日、買った着替えを持つと風呂場へ向かう。

 

 

「はぁぁ~、生き返るねぇ~」

 

思わずコメントをこぼす。宿泊客共同の風呂場だけあって、そこそこ広い。銭湯のようなものだな!っとフレンは思い、1日の疲れを癒す。

 

 

 

風呂から上がり部屋に戻るとベッドに腰掛け明日の予定を思考する。

 

 

「やっぱり、あの洞窟に行くのが無難かなぁ…」

 

 

このアルファス王国、城下町の西には一般人の立ち入りが禁止された区域がある。そこに出入りするのは冒険者か、ギルド職員ぐらいだろう。

 

 

城下町の西端とはいえ、なぜ規制区域が城下町に在るのか?、当然、訳がある。ここにあるのは……、地下へと続く洞窟…。

 

 

 

「低レベルなのが不安だが、今の装備なら日銭を稼ぐ位は出来んだろ!」

 

 

若干の不安要素はあるが、明日の予定は決まった。

 

 

(さっ、今日はもう寝よ)

 

 

「明日は、目立たず地味に日銭を稼ごう…」        

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。