裕子「プロデューサーがホモだ!!」   作:ニコウミ

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生存報告でまた没ネタを投稿しましゅ。
ホモの方はまだしばらく待ってね。


蘭子(24歳)「闇に飲まれた」

「ぜっっっっったいに嫌ですッ!!」

「蘭子、口調口調」

「こ、これが普通なんですぅーっ!! 普通の熊本弁だぎゃっ!」

「お前それ名古屋弁だからな」

「兎に角、イヤったらイヤなのっ!!」

 

 突然だが、俺は困っている。理由は至極明快であり、何がと言われれば、目の前で火照る顔を掌で隠しながら異議を申し立てるアイドルに対してだ。名前を神崎蘭子。年齢二十四歳、アイドル歴十年の強者だ。十年前から厨二系アイドルとして活躍している蘭子ちゃんだが。

 

「そもそも何が嫌なの?」

「Pさんが持ってくる企画が嫌なんですよっ!? なんですか、これっ!? 大天使サチエルとの悪魔について対談ってっ!!」

 

 他にもルシファーの裏切りについてとか、エクソシストについてとか、G○IMMのブルクハルト刑事はそろそろ恋愛を辞めるべきかとか様々な有力者(厨二患者)と対談する企画も用意してある。

 

「お前の専門じゃん(真顔)」

「二十四歳のアイドルが悪魔について語るってッ……もうッ……もうッ……可笑しいでしょうッ!?」

「えぇ……お前が言っちゃうの……(戦慄)」

「厨二が何時までも続くと思ったら大間違いなんですよぉッ!! 私が親戚や親からどんな目で見られているか教えてあげましょうかッ!?」

「言われなくても優に想像出来るわ(苦笑)」

「うんもぉーーッ!!」

「はっはっは、どすこい、どすこい」

 

 蘭子の軽い連打を受け止めながら、俺は昔を想い出していた。リアル中二だった頃の蘭子ならこう言った企画は自らが計画するくらいやる気に満ち溢れていたのに、時とは残酷である(様々な意味で)

 

「私の昔がテレビに映る瞬間、私がどれだけ死にたくなるか分かってますかッ!?」

「俺がテレビで闇に飲まれろとか言ってる過去映像流されたら死ねるね」

「分かってんなら何とかしろやァッ!!」

「蘭子ちゃん、口調、口調」

「栄光なる救済を我が手に……(なんでもしますから、助けて……)」

「ンゥ拒否するぅ」

「にゃああああああーーッ!!」

「はっはっは、みくにゃん、みくにゃん」

 

 まぁね、ほら、分かりますよ。俺だって想い出したら死にたくなる過去は幾らでもある。中学の頃なんか「まずうちさぁ、霊感あんだけど見てかない?……(誘い目)」とか言って自称霊感ある振りをしながら、ある程度のにわか(李衣菜)知識で霊媒やってみたり。背中が筋肉痛になったら、「翼が生えてきそう……(堕天使感)」とか親に訴えたしね。なんか想い出すだけで死にたくなる過去(実話)だな。

 

「嫌だよぅ……もう自分が満面の笑みで厨二言葉話してる姿を全国放送で見たくないよぅ……」

 

 この子の場合、人気故に未だに過去の映像使われるから不憫でならない。もう一度言うが、俺なら死んでる。

 

「分かったよ、蘭子」

「P、Pさん……っ!!」

「これからは黒歴史恥ずかしがり系アイドルで攻めるか」

「んもぉぉぉぉ今と一緒ぉぉおぉおぉぉっ!!」

「はっはっは、どすこい、どすこい」

「嫌だよぅ……闇に飲まれよとか言ってる自分を全国放送で見たくないよぅ……街歩くだけで微笑まれるの嫌だよぅ……」

「…………」

「親に生き方を間違えるなって最近、真顔で言われるんですよぅ……どうしろって……どうしろって……」

 

 親にそれ言われるのキッツいなぁ(戦慄) 何が答えるってね、親からクスクス笑われてるまでは良いけど、笑わなくなって真顔になってきた辺りが一番、心に来る。

 

「じゃあ、そうだな……こう言う事柄に慣れている究極の猛者に相談すっか」

「猛者……ですか?」

「厨二とか黒歴史とか、もう全てを無に返してる究極の心臓を持つ先輩だよ」

「……ッ! まさか、あの人にっ!!」

「あぁ、俺も出来るなら弄りたくないレベルまで引き上げてしまった……キュート界を代表する、あの方に、お前の悩みを相談しよう」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「と、言う訳で、本日は宜しくお願い致します。菜々さん」

「喧嘩売ってますか?」

「菜々さん……私、もうどうしたら良いか……」

「え、えぇ……菜々に言われても……」

 

 キュート界の女帝・安部菜々さん(17歳)。

 最近は喉の調子が悪くてキャハとか言えなくなってきたらしい。五年前のVTRでも自信満々に十七歳を自称している彼女。現状、ファンからもそろそろカミングアウトすべきと言う助言を蹴っ飛ばしている猛者だ。安部菜々さんなら、菜々さんならきっと蘭子の悩みを解決してくれる。

 

「菜々さん、ラブリー十七歳ってやってみて下さい」

「こ、この流れでそれを迫るんですか……」

「お願いしますよぉ、菜々しゃん……」

「蘭子ちゃん、口調が、口調が変ですよ」

「コレが普通だって言ってんだろッ!! ぶっ殺すぞッ!!」

「ヒッ……ご、ごめん、なさい……」

 

 大分病んでんな、此奴(他人事)

 

「落ち着け、蘭子。お前より十三年も先輩の方だぞ。歌手で言う槙原 敬之さんと同い年なんだからな」

「……ごめんなさい、菜々さん。私、私、如何したら良いか分からなくて」

「い、いや、菜々はれっきとした十七歳なんですからねっ!? 槙原 敬之と同い年とかそう言うの辞めてくれますっ!?」

「オールナイトニッポンとかリアルJK時代くらいでしょ?」

「あれは大学…じゃなくてぇえぇぇっ!! プロデューサーさんがそうやって菜々の年齢引き上げるから周りの目がおかしくなるんでしょうがっ!? 私の実年齢三十から五十ってファンの中で噂されてるんですからっ!?」

「お前だって俺と同い…」

「やめろ、ぶっ殺すぞッ!!」

「え、プロデューサーさんって三十……あっ(察し)」

 

 自分を偽ってる系アイドルは怖い(確信)

 心理に気付いた蘭子が気まずそうな顔で菜々さんを見ている。まぁ、菜々さんと俺は同級生なんだけどね。空軍の道を歩んだ俺と中学校で別れ。

 

「まぁさ、十年越しに出会った同級生が十七歳を名乗ってアイドル活動してたんよ。そらもうね。笑うしかないよな」

「で、でも菜々さんは未だに十七歳を名乗ってるじゃないですか。誕生日ケーキだって蝋燭は十七本だし……あの、どうしたら菜々さんみたいに芸風だって割り切れますか?」

「……しだって……」

 

 蘭子の問いに顔を俯かせ、振るえ出す。それはまるで、今まで抑えてきた波が乱れたように。堪え、耐えてきた防波堤が崩れ去ったように。何かを覚悟した菜々は真っ赤に染まる涙目の顔を俺に向け、

 

「私だってこのキャラ辞めたいんですよぉおぉぉおおぉおぉぉぉッ!!」

 

 叫んだ。それはもう、心から。

 

「えぇ……」

 

 蘭子が引いてる。俺も若干引いてる。

 

「私が親とか親戚とか友達からどんな目で見られてるか知ってますかッ!?」

「知らなくても想像出来るわ(苦笑)」

「んもぉおぉぉおーッ!!」

「はっはっは、みくにゃん、みくにゃん」

 

 菜々さんの拳を華麗に受けつつ、俺は確かにデジャビュを感じていた。

 まぁ、確かに。自分の娘(三十代後半)が自信満々に十七歳と言い切る姿をテレビで見た親の気持ちを考えると。居たたまれない想いはある。

 

「私の昔がテレビに映る瞬間、私がどれだけ死にたくなるか分かってますかッ!?」

「もし俺がテレビで十七歳キャハとか言ってる姿を見たら死ねるね(半笑い)」

「分かってるなら助けて下さいよぉおぉぉおおぉおぉぉぉッ!!」

「はっはっは、ウサミン、ウサミン」

 

 ん? なんかこのやりとりは十分前にやったな。デジャビュでもなんでもないわ。

 女性が年齢の鯖読みなんて昔は良くあったが、アレって今でもあるのかね。流石に三十代後半の十代に見える容姿の女性が、十七歳を名乗ってるのはちょっとキツい。いや、大分キツい。

 

「分かったよ、なっちゃん」

「P、Pさん……昔の呼び方で……っ」

「これからは自称十八歳系アイドルで攻めようぜ」

「んもぉおぉぉお今と一緒おぉぉぉおぉおぉぉぉッ!!」

「はっはっは、しきにゃん、しきにゃん」

「嫌ですよぉ……親にっ……親に将来考えろって真顔で言われるの嫌ですよぉっ……私がっ……私がどんな想いでっ……もう婚期ワードなんか見たくないよぅ……」

「わ、私は理解出来ますよ、菜々さんっ!! 泣かないでっ!!」

「ら、蘭子ちゃん……っ」

 

 ヒシッと菜々さんに抱き付く蘭子。

 

「そりゃ私だってアイドルですから、中学時代はモテましたよっ!! でも、その、アイドル始めた時から、す…好きな人いるし……告白は断ってきましたけどっ!! 最近、私に告白してきた中学の同級生に出会った時、なんて言われたと想います!?」

「蘭子ちゃんっ……!」

「お前ヤバいな、の一言ですよッ!? うっせぇんだよボケがッ!! 私だって自分のヤバさくらい分かってるわッ!! 分かってるからやってられないんだよッ!!」

「ら、蘭子ちゃんっ! 口調が、口調がヤバくなってますよっ!!」

「我が過去の同胞は永久の彼方にッ!!(私の同級生、みんな死ねッ!!)」

「蘭子ちゃん、余計にヤバくなってますよッ!?」

 

 此奴ら面白いな(他人事)

 この痛々コンビで番組やったら面白くなりそう。後でチッヒーに相談してみようかな。

 

「助けて、プロデューサーさん………っ(懇願)」

「ぷ、プロデューサーさん。蘭子ちゃん、かなりヤバいですよ。ちょっと真剣に助けてあげましょうよ。情緒不安定過ぎて危ないですよ、色んな意味で」

「助けてって言われてもなぁ……そもそも、蘭子は如何したいんだ? キャラ辞めて、普通のアイドルとしてやっていきたいの?」

「もう引退したいです」

「んじゃ引退すっか!」

「はいっ!!」

「いや、ええぇえぇぇええぇええぇえぇぇええぇッ!? 軽っ、軽過ぎィっ!! 引退って、迷いは無いの!?」

「私のアイドル時代は消し去ります」

「真顔っ!? イヤイヤイヤイヤイヤ、だって、そんな、えぇッ!? 駄目でしょう、カナくんっ!?」

 

 俺の本名は立浪 要。菜々さんは高校時代当初の呼び名で呼んでくる。

 

「良いんじゃない? アイドルの引退って大体は二十五とかそんなモンよ。結婚してないアイドルの引退は遅いけどさ」

「ぐっふっ……ッ」

「あ、ごめん」

 

 菜々さんの心に魔法効果でダイレクトアタックしちゃった。

 

「ぐっ……そ、そもそもォっ!! 蘭子ちゃんっ!?」

「なんですか?」

「引退してどうするんですか!? やりたい事があるんですか?」

「お嫁さん」

「小学生かッ!! 二十五の女が語る将来にしては重すぎますよッ!!」

「私、プロデューサーさんと結婚します」

「「ファッ!?」」

 

 蘭子ちゃんの訳が分からない宣言に二人で反応してしまう。俺と結婚って、お前。

 

「いやいや、待て。俺と結婚ってお前……なっちゃんとハゲのキュートPさんが結婚するくらい有り得ないだろ」

「なんですかっ!? じ、十分にあり得ますよっ!? と言うかキュートPさんのハゲはファッションハゲだから大丈夫ですしっ!?」

「結局はハゲだろ、なんだよファッションハゲって。初めて聞いたわ。誰もファッションでハゲないからな」

「兎に角、私はPさんと結婚するのっ!! 親にもPさんと付き合ってる体で十年前から嘘ついてるもんっ!!」

「十年前ってお前十四歳じゃねぇかっ!? どんなロリコン野郎だ俺はっ!? つうか何嘘ついてんのお前!?」

「こんな私にも彼氏がいるって言わなきゃとんだ親不孝娘じゃないですかッ!? 私が厨二キャラでアイドルやるって自白した時の親の顔が分かりますかッ!?」

 

 確かに、俺が蘭子の親なら真剣に止める。そんで普通のアイドルとして頑張れって言うな。多分。

 

「いや、でもな…」

「私はPさんの事が好きだったんですよッ!(迫真)」

「ら、蘭子ちゃん、大丈夫? 多分、後で思い返したら死にたくなる告白の黒歴史になりますよ……っ?」

「んじゃ結婚すっか」

「はいっ」

「ファッ!?」

 

 

 こうして俺は蘭子と結婚した。

 この時、俺は知らなかった―――

 

 同期である渋谷凜のプロデューサーが佐久間まゆの策略により、あんな事件に巻き込まれているなんて――

 

 

 

 ~続かない~

 

 

 

 

 


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