あたしの兄貴がこんなにモテるわけがない   作:powder snow

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第十二話

「お兄さん――たった今から、私の彼氏になってくれませんか?」

 

 その台詞を聞いた瞬間から、俺の中にある全ての思考がストップした。あまりの衝撃に、時間すら止まってしまったかのような錯覚さえ覚える。

 身体は指先まで動かないし、喉から声すら搾り出せない。

 脳内には、あやせの天使のような美声だけがリフレインしていた。

 

 ――大好きです、お兄さん。

 ――初めて会った時から、いいなって思ってたんです。

 ――ハンサムで優しくて頼りがいがあって……もう自分でも、この気持ちを抑えることができません。

 

『――“ですから、お兄さん。私の彼氏になって下さい”――』

 

 今あやせはそう言ったはずだ。

 幻聴なのだろうか?

 いや。俺は確かに聞いた気がするし、目の前で佇むあやせの頬は紅く上気している。照れているあやせの様子を見るに、きっと、今までの辛辣な態度は愛情の裏返しだったのだ。

 恥ずかしいからこその裏腹な態度。

 状況を理解するにつれて、身体の奥から熱い思いが溢れてくる。

 

 俺は……何て大馬鹿野郎なんだッ!

 

 あやせの気持ちに気付いてやれず、随分と寂しい思いをさせちまった。

 その事実に思い至った時、俺の中にあるスイッチが、撃鉄を起こすようにカチっと音を立ててONになった。

 

「――あやせ」

 

 思いの丈を込め、愛おしい天使の名前を呼ぶ。

 するとあやせは、恥ずかしがっているのか半歩だけ後方へと後ずさった。

 愛い奴だぜ。

 

「俺さ、大学卒業したら一生懸命働くよ。何処に就職出来るか分かんねーし、最初は苦労かけるかもしんねーけど……精一杯頑張るから」

「だ、大学って、お兄さん高校生じゃないですか?」

「ああ、そうだよ。けど来年には無事大学生になってるはずだ。んでよ、在学中は目一杯勉強して、良いトコ就職すっからな!」 

「…………あの、お兄さん。頭大丈夫ですか? いきなり何の話しをしてるんです……?」

「何って将来設計のことじゃねーか。やっぱ結婚前提で付き合うなら大事なことだろ?」

「…………………………は?」 

 

 心底驚いたという風にあやせが目を見開く。

 正に目が点。

 目の前の男が何を言っているのか理解出来ない。というか、信じられない。そんな風に顔面から血の気が引いているのがはっきりと伝わってきた。

 一般的に見ればドン引きのポーズである。

 しかし、俺とあやせは相思相愛。

 きっと俺が、先々を見据えた答えを返してきたので、まだ心が対応出来ていないだけだろう。

 ――フッ。

 まさか、夜な夜な寝る前に夢想していた『ラブリーマイエンジェルあやせたんと付き合えたなら、俺は今後どう行動すべきかプランA~Z』が、こうも早く役に立つ日がくるとは。

 備えあれば憂いなしとは、よく言ったものだぜ。

 俺はこれ見よがしに前髪を掻きあげると、あやせに向かって極上スマイルを浮かべた。

 

「驚いてんのか? まあ無理ねえか。実際、俺も同じくらいびっくりしたしよ。――まさか、お前が本当に俺のことを好きだったなんてな」  

「な……なな、何を……言って、お、お兄さん! 取り合えず落ち着いて下さい! とにかく、わたしの話しを最後まで聞いて――――」

「照れんなよ、マイハニー!」

「……ひっ!?」 

 

 腕を伸ばし、あやせの右手を掴み取る。

 それからゆっくりと胸の前まで引き寄せると、彼女の掌を慈しむように両手でやさしく包み込んであげた。

 まるで教会で祈りを捧げるようなポーズだが、俺のぬくもりを直に伝えることで、天使を安心させてあげたかったのだ。

 

「き、き……きき」 

「緊張してんのか? だが、全部俺に任せとけば安心だぜ! まずは式場の予約をしてだな――」

 

『きゃあああああああああああああああっっっっ──────!!!』

 

 一体何が起こったのか。耳を劈く天使の悲鳴が辺りに木霊する。

 

「ぐぅ――あや」 

 

 いきなり絶叫したあやせは、俺が握り込んでいる右手をぐいっと上に引き上げた。それに引っ張られ、図らずも子供がバンザイするような格好になってしまう俺。

 これで、完全に無防備な状態を、あやせの前に曝け出しちまうことになった。

 一瞬、生命の危機を知らせるシグナルが脳内に鳴り響くが────時、既に遅し。

 

「このッッッッッ変態ッッ!!!」 

 

 叫ぶと同時にあやせが動く。

 あやせは右手を振り上げた格好のまま左足から踏み込むと、そのまま流れるような動作で身体を沈み込ませた。そして、がら空きになっている俺の鳩尾に向かって

 

「ぐっ……はぁッッッ!?」

 

 ば、バカな――!? 肘撃……だと!?

 

 身体の中心からバラバラにされるような衝撃が俺を包み込む。

 信じられねぇことに、あやせは一切の躊躇なく、人体の急所に向かって肘打ちを突き入れやがったのだ。

 

「……ぅ。い、いきなり、なにを……あやせ……たん……?」

「うるさい黙れ変態ッ!」 

 

 必死に天使の名を呼ぶも、罵倒が返ってくるばかり。しかも、あまりの痛みに立ってられなくなった俺は、そのまま大地へと膝を付いてしまった。

 そこへ待ってましたとばかりに追撃がくる。

 程よい高さへと落ちた俺の顔面側頭部に向かって、旋風のような廻し蹴りが――

 

「死ねええぇぇぇッッッ――――!!」 

「ぶほああああああああああああああっっっ…………!!!」

 

 瞬時に視界が暗転し、鮮血が舞う。

 哀れ、高坂京介は、無慈悲な鬼女の一撃によって、空中へと吹っ飛ばされたのである。

 くるくると回転しながら空を舞う様は、まさに人間砲弾。

 しかも間の悪いことに、吹っ飛ばされた進行方向、俺の視界の先に、鞄を抱えて佇む黒猫の姿が映ったのだ。

 このままでは黒猫にブチ当たってしまう――そう懸念した矢先、再び顔面に鈍い衝撃が襲ってくる。

 

「ぐ…へ……」

 

 見事に鞄で迎撃された俺は、そのまま大地へと落下する。

 無様に大の字になって仰向けに倒れ込む俺。

 そんな俺を心配したのか、黒猫が俺の頭の上――俺を見下ろすような位置まで歩いてきた。

 

「……あ、あまりの展開に絶句して行動が遅れてしまったけれど……これで少しは目が覚めたかしら、先輩?」

「く、黒猫……?」

 

 やや興奮気味の黒猫の声が耳に飛び込んでくる。

 蹴られた衝撃の所為か、一瞬状況把握に時間がかかったが、俺を見下ろす黒猫の顔を見ていたら少し気分が落ち着いてきた。

 あやせの言葉を受けて妙に高揚していたテンションが、波が引くように沈静化していくのがはっきりと分かった。

 恐らくさっきまでの俺は、一種の暴走状態に陥っていたんだと思う。あやせに告られたことにより有頂天になって、普段は絶対入らない心の奥底に封印していたスイッチが入っちまったのだ。

 いわゆる、若さ故の過ちってやつだろう。

 黒猫の言葉じゃないが、確かに目が覚めた。

 今の俺はかなり冷静になっていて、物事を多角的に捉えられるくらいには回復していた。

 

「……なあ、黒猫」

「なにかしら?」 

 

【挿絵表示】

 

 ちなみに俺は、大地に寝そべった状態で黒猫を見上げている。んで、黒猫は制服姿であり、当然スカートを穿いているわけだ。

 何が言いたいかというとだな、もう少し黒猫が前にくりゃパンツが見える……じゃなく、見えそうなのだ。

 だから俺は、あやせに事情を問い詰めるよりも先に、そのことを指摘してやろうと思った。

 

「あんま言いたくねえんだけどよ……」

「何を口篭っているの、先輩。そんなのあなたらしくないわね。それとも鞄でぶった事に対する恨み言を云うつもりなのかしら。だとしたらお門違いね。残念だけれど、あれは一種の自己防衛機構が働いた結果であり――」

「ちがう、ちがう。もっとシンプルな話しだよ」

「シンプル……というと、もっと単純な話しだということ?」

 

 柳眉を寄せて考え込む黒猫。その際に少しだけスカートが翻った。

 ………………。

 ……………………。

 …………………………。

 今の沈黙に特に意味はないので、深読みはしないように。 

 

「……あのな、黒猫。――おまえ、もう少し近づいたらパンツ見えんぞ」 

「な――ッッッ?」

 

 ぼっと、瞬間湯沸し機のように頬を真っ赤に染める黒猫。次いで彼女は、身の危険を感じたようにもの凄い勢いで後退りしていく。 

 まるで俺から、何かよからぬことをされたような反応である。

 このまま冤罪にされては困る。そう思った俺は大地から半身を起こしつつ、一応無実のアピールをしておいた。

  

「……あ、ああ、あなた……あなたには“恥”という概念はないのかしら……?」

「あ?」 

「わ、私のスカートの中を覗き見てましたなんて告白を……本人を前にして平然とするなんて……。もしかして、私まで毒牙にかけるつもりだったのではないでしょうね?」

 

 貞操を守らねばとばかりに、両肩を抱き防御のポーズを取る黒猫。

 つーか、毒牙って何だよ、毒牙って!?

 俺、めっちゃ紳士なのにっ!? 

 

「な、何言ってんだよ、黒猫! 俺はただ……見えそうだよって忠告しただけじゃねーかッ。つーか、毒牙にかけるとか妙な言い掛かりをつけてんじゃねーよ!」

「よく言うわ先輩。先程まで、不細工に顔を歪めてあのビッチに言い寄っていたのは誰だったのかしら? みっともなく発情して――本当に、いやらしい雄だわ」  

「あ、あれは、その……不可抗力つうか、一種の錯乱状態だったつーか、見えない力に支配されたつーか、兎に角、俺にもどうしようも無かったんだよ!」 

「ふんっ。少し誘惑されたくらいでホイホイ誘いに乗って。先輩は、本当に女なら誰でも良いの?」 

「んなワケねーって!! 普段俺をどういう目で見てんの!?」 

 

 事は俺の人格に関わることなので全力で否定する。

 しかし何と云うか、随分と黒猫の態度がトゲトゲしく、かつ氷のように冷たい気がするのは気のせいなのだろうか。普段のこいつも毒舌だけど、方向性が違う気がするぜ。

 

「……こんなことになるなら、私が……先にしておけば……」 

 

 何やらぶつぶつと呟いてるしよぉ。

 てか、そもそも何でこんな事態になってんだっけ? 

 その理由を考えようとした時、頭に鈍い痛みが走った。その痛みが、あやせにブッ飛ばされた事実を思い出させてくれる。

 

 ――そうだ。そもそもの原因はあやせじゃねーか。

 

 あいつが俺に彼氏になってくれって言って、それで俺がやさしく話しを聞こうとしたら、いきなり蹴りくれやがってよ。おかげで黒猫には罵られるし、妙に鼻がムズムズすると思ったら鼻血まで出てきやがるし……最悪だぜ。

 取り合えず、いつまでも地面に座っている訳にもいかないだろう。

 そう思った俺は、痛む顔面を押さえながら、身体を起こそうと腰に力を入れた。

 丁度、その時である。

 何かを警戒しながらも、黒猫がそそくさと俺の側まで近づいてきた。

  

「……先輩。鼻血が出ているわよ。みっともないから、これで栓でもしておきなさい」

「あ、ああ。……すまん」

 

 相変わらず視線は冷たいが、黒猫がポケットティッシュを差し出してくれた。

 俺はそれを受け取ってから数枚取り出し、鼻の周りを拭って血の跡を綺麗に拭き取る。幸い怪我は大したことは無かったようで、それで鼻血は止まったようだ。

 それから俺はゆっくりと立ち上がると、改めて自分の置かれた状況を確認すべく、辺りに視線を這わせてみる。

 まずここは、家の近所にある公園だ。

 少し離れた位置ではあやせが荒い息を吐いている。黒猫はと云えば、俺が視線を向けた途端ぷいっとそっぽを向いてしまった。どうやらまだ怒りは沈静化していないらしい。

 仕方ないので、騒ぎの元凶であるあやせに話しかけようとしたら――

 

「ち、近づかないで、変態ッ!」

 

 なんて風に、盛大に罵声を浴びせられてしまったのだ。

 

 

 

「な――何言ってんだ、あやせ? 確かさっき、俺に彼氏になってくれつったよな?」

「言ってませんっ!」

「は? いや、俺は確かに聞いたぞ。お前が俺に彼氏になってくれ――」 

「わ、わたしはお兄さんのことが大嫌いなんですよ? わたしがお兄さんの彼女になるなんて、そんなこと――現状では、ぜえっっっっったい、ありえませんから!」

「……(゜Д゜) ハア!?」

 

 今の言葉にはさすがの俺も目が点になった。

 こいつは一体何を言っているんだ? 元々おかしな女だったが、突発健忘症にでもなりやがったか?

 つーか、人に肘鉄から廻し蹴りのコンボを喰らわしといて、罪悪感のカケラも感じてねえようだなぁーオイ!

 これにはさすがの俺も頭にきたぜ。

 

「ふ、ふざけんじゃねーぞ、あやせ! 大切な話しがあるっつうからよ、こちとらわざわざ時間作って会いに来てやってんだ。冗談か? からかってんのか? まさかこんな仕打ちされるたぁ思わなかったよっ!」

「お兄さんがいけないんですよ! 最後まで話を聞かないからっ!」

「最後まで? あの話に続きがあるっつうのかよ?」

「ええ、そうですよっ。わたしはお兄さんに彼氏の“ふり”をお願いしたかっただけなのに……!」

 

 これまた妙な単語が聞こえてきやがった。

 彼氏になって欲しいじゃなく、彼氏のふり――だと!?

 それだと、全く話しが変わってくるじゃねーかっ!

 

「か、かか、彼氏のふりだぁ!? だったら最初っからそう言えやっ!!」

「言おうとしましたよ! なのにお兄さんがいきなり発情してぶち壊したんじゃないですか!?」

「発情なんか、し、してねーよ!」

「いいえ。みっともないくらいハッキリとしてましたっ!」 

 

 売り言葉に買い言葉。俺だけじゃなく、あやせのテンションもガンガンに上がっているようだ。

 その証拠に、あやせは顔を真っ赤に紅潮させながら、大声でまくし立ててくる。 

 

「将来設計とか、結婚とか――挙句の果てには式場の予約なんて口走って……この超ド級変態ッ! 通報しますよ……!」

「面と向かってあんなこと言われたら普通勘違いすんだろうーが。あやせ――てめえは男の純情を弄びやがったんだ」

「仮に勘違いしたとしても、いきなりあんな突拍子もない行動は取りませんよ普通。それにわたしに告白されたと思っていたなら、お兄さんは相当なチャラ男ってことになりますよねっ」

 

 そう言うや、あやせは“キッ”ときつい視線を黒猫の方へと投げかけた。

 

「だって、わたしと……こ、恋人同士になったと思っていたのに、その直後に黒猫さんとイチャイチャしてっ! 本当にいやらしい! 汚らわしい! この――浮気者っ!!」

「浮――ッッ!? い、イチャイチャなんかしてねーよ! 何処を見てたらそういう結論になんの!?」

「さっき、わたしの目の前でしてたじゃないですか! 直に見てたからそういう結論に帰結したんですよ! 不潔です、お兄さん!」 

「……言いたい放題、好き勝手言ってくれんじゃねーか、あやせ。もしかして何を言っても俺が怒らないとでも思ってんのか?」

「ふんっ! 凄んでも怖くありませんよー! お兄さんなんか大ッッッ嫌いッ! いーだ!」 

 

 白い歯を剥き出して、俺を威嚇して見せるあやせ。

 このアマァァ……人が大人しくしてたら調子に乗りやがって――キスしちまうぞ、コラぁ! 

 けど、そう思うと同時に、全く違う感情が心の奥底で芽生えかけるのを俺は感じていた。

 確かにあやせの態度には滅茶苦茶腹が立っている。けどその姿を見ていたら、怒っているというよりも、拗ねているという風に感じちまったのだ。

 まるで、癇癪を起こして唇を尖らせている時の桐乃に似ているような……。

 

「…………」 

 

 あやせは俺の事を近親相姦上等の“変態鬼畜兄”という色眼鏡で見ている。

 それについては、ある事情から否定することが出来ないので、俺の行動の端々を害意あるものとして受け取っちまうのは、ある意味仕方ない部分ではある。

 言うなれば、あやせなりの自己防衛なのだ。

 やりすぎだとか、いきすぎだとか、人を殺すつもりかとか思わないでもないが、納得しないでもない。

 今回の件に関しては、勘違いして暴走した俺にも非はあるし、何より相手は妹と同い年の女の子だ。ここで喧嘩してても仕方ないだろう。そう思ったのだ。

 

「……あやせ」

 

 あやせは俺の妹じゃない。

 けど、妹の大事な友達なのだ。ならここは“兄貴”である俺から折れるのが筋というものだろう。

 

「その、勘違いして……悪かったよ」

「……え?」

「まさかお前から彼氏になってくれなんて言われると思って無かったしよ、素直に嬉しかったんだ。だから柄にも無く舞い上がっちまったんだ」

「お兄さん……?」

「だ、だから、アレだろ? 俺に頼みがあるんだろ? 彼氏のふりだっけ? とりあえす理由を聞いてやるから……話せよ」

 

 あれだけ言いあいしておいて、こっちから謝るのはかなり気恥ずかしいもんがある。

 それでも勇気を振り絞って言ったのに、なんとあやせの奴は――あははと笑い出しやがったのだ。楽しそうに、何か吹っ切れたかのように。そして何故か、黒猫も一緒になって笑い声をあげてるじゃねーか。

 息がぴったりとはこのことか。

 こいつら、めっちゃ仲悪いはずなのによ……。

 

「……ふふっ。先輩にも随分と可愛いところがあるのね。もしかして、日々妹に調教されている成果が出ているのかしら?」

「調教って、勘弁してくれ、黒猫……」

 

 俺が桐乃に調教されてるなんて恐ろしいことを思いつくんじゃありません。

 なのに、あやせには大変受けがよろしかったらしく

 

「桐乃の調教成果かどうか分かりませんが、まさかこうも素直に頭を下げられるとは思っていませんでした。そうですか。お兄さんって“そういう”人なんですね」

 

 うんうんと、満足そうに頷くのだった。

 

「分かりました。理由をお話しましょう。……というか、わたしからお願いするんですから、是非、聞いてください」

 

 実は……そう言ってあやせが語った真相は、驚くべきものだった。

 

 

 

 

 あやせから真相を聞いた次の週末である。

 休日である本日、俺は駅前にある某コーヒーショップの片隅に陣取っていた。

 テーブルを囲んでいる人数は四人。

 まず俺の対面にいる女の人が、にこやかに笑顔を浮かべながら自己紹介してくれた。

 

「始めまして。藤真美咲です」

 

 カジュアルなレディーススーツ姿。見るからに出来るキャリアウーマンといった感じの美咲さんは、そう言ってからテーブル上に自身の名刺を差し出してくれた。

 そこには『株式会社エターナルブルー代表取締役』との肩書きが記されている。

 

「へえ。あなたが“赤城京介”くん? あやせちゃんから話しは聞いているけれど……」

 

 美咲さんが俺とその右隣に座っているあやせを交互に見つめた。

 それから一呼吸置き、ゆっくりと俺の左隣へと視線を移す。

 

「こちらの方は?」

「私は……こちらにいる京介兄さんの妹の――黒猫です」

 

 口調を擬態したゴスロリ姿の黒猫が、控えめにそう囁くのだった。

 

 

 


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