食王ミドラ   作:黒ゴマ稲荷

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この作品の戦闘能力というか、まあクロス作品なので力関係は私の独断と偏見で決めさせてもらっています。
そこらへんは、どうぞご了承ください。

あと私はマジ恋Aは持っていません。
川上通信とか公式サイトとかはチェックしているのですが、やったことのある方で設定とかおかしかったりAで出てきたとかあったら教えていただけると助かります。


005

 

 

 

 

 川神百代が再び目を覚ましたときは、もう夜も遅い頃だった。

 午前三時頃だろうか。

 自室に布団が敷かれ、そこで眠らされていたのだろう。

 体が、疲労の影響からか、少し重い。

 しかし、幾分かの睡眠を得ることができたことからか、思考ははっきりとしていた。

 ――――私は…、

 おぼろげであった記憶を思い返す。

 確かサンドバックを叩いているうちに、じじいに攻撃されて―――

 意識をしだすと、痛みがくるもので、拳にピリっとした痛みが走った。

 視線を落とすと、手には包帯が巻かれている。

 誰かが治療してくれたのだろう。

 その痛みのおかげか、意識が落ちるまでのことをはっきりと思い出すことできた。

 

「――――お姉さま…」

 

 横で眠っている妹が、寝言で発した言葉だ。

 どうやら、みんなが帰ったあとでも、自分のことを看病してくれていたらしい。

 頬を撫でる。

 ――――心配をかけたな。

 明日、風間ファミリーのみんなにも、謝ろう。

 心配かけてごめん。

 そして、ありがとう。

 百代が布団から腰を上げて、台所の方へと向かう。

 喉が渇いていた。

 妹分が起きないように、静かに。

 廊下を通って行く間、さすがに夜は冷えるようで、ひんやりとした空気が今は心地よかった。

 ふと、百代が訝しげに顔をしかめる。

 台所のあたりで、明かりがついているのである。

 気を集中してみると、なにやら話し声や笑い声が聞こえてくる。

 鉄心、ルー師範代、それに釈迦堂。

 その他にも何人かの話し声がする。

 こんな夜更けに?

 百代が明かりの点いた部屋の襖を開けると、そこには酒を飲んでべろんべろんになっている大人たちの姿が。

 

「おーう、モモじゃねえか。久しぶりだな」

「百代、目覚めたか」

「体の方は、大丈夫カイ?」

 

 いえ、あなたたちのほうが大丈夫なのですか?

 

「ふん、川神百代か。稽古のしすぎで倒れるなどとは、自己管理が足りん証拠よ。まだ赤子か」

「ヒュームが言っていることは、お気になさらずに。お体にお気をつけください、百代様」

 

 執事服から、九鬼家従者部隊の者たちだろう。

 金髪の執事は、その0番、ヒューム・ヘルシング。

 バリバリ現役の武闘派と聞いている。

 隣で静かにグラスを傾けている銀髪の老人も、ただものではない雰囲気だ。

 

「…一体、なんの騒ぎですか?」

 

 机の上には、そこらのコンビニで買ってきたようなつまみが入った袋が何個か。

 川神院に置いてあった酒瓶が何本か、中身をなくして倒れている。

 

「モモや、こっちに来なさい」

 

 鉄心が手招きする。

 いつもは思わず姿勢を正したくなるよう威厳も、酒臭い部屋と酔ったとみられる赤ら顔で今は陰りも見れない。

 一同に一人分のスペースを空けられたので、百代は――本当は行きたくなかったが――そこに腰を下ろす。

 

「…で、何だよ。私に話か?」

()に会うてきた」

「…誰に?」

「お前がけちょんけちょんにされた相手じゃよ」

 

 その言葉を聞いて、血液が一瞬にして沸騰した。

 名前を明言されていないが、それでもわかる。

 

「…三島貴虎…」

「そうじゃ」

 

 会っていたのか。

 自分が疲労で倒れている間に…。

 

「モモや、これから三日間、武を禁止する。体の回復に努めよ」

「―――なッ!?」

「彼に、会いたくないかの?」

 

 百代の目が大きく見開かれる。 

 会いたい。

 もう一度、会って、きちんとした勝負を。

 そう思っている自分と、

 会いたくない。

 今会っても、この前の焼き回しだ。

 もう無様な姿は、晒したくない。

 そう思っている自分がいた。

 百代の心が、揺れていたのである。

 それを感じ取ってか、

 

「お主の思いもよくわかる」

 

 鉄心が続ける。

 

「三日後、あるお方が、説明してくれるじゃろう。()が何者なのか。モモが知らない、世界に潜む強者の話も。―――どうじゃ、聞きたくないかい?」

 

 聞きたい。

 そして知りたい。

 自分は、所詮川神院から出たことがなかった身だ。

 外部から次々とやってくる挑戦者たち。

 それでも、力を持て余していた自分。

 そこへ、ふらりとやってきた三島貴虎という男。

 ポキリとへし折られた。

 プライドだったのかなんだったのかはわからない。

 それは、サンドバックを叩いたり、走ったり、体を痛めつけることでは治らない。

 きっかけが必要だ。

 折れたものはもう、戻らない。

 新しく芯を打ち直すための、そのきっかけが。

 あの男の正体だって?

 気になるに決まっている。

 それに、自分が知らない世界の話も。

 

「…俺たちは、おそらく動けん」

 

 重々しく、ヒュームが口を開く。

 

「被害を庭園内で収めるために、限界を超えて結界を張っていたため、俺たちの気も底がついている。今から回復に専念はするが、全快まではいかないだろう」

「そうなれば百代、お前が鍵になるやもしれん」

「万が一の時のために、今は体を休めるときダヨ」

「まあ、なんだ…。おとなしく待ってろってことだな」

 

 百代は深く、うなづいた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「どうしようどうしようどうしようどうしよう――――」

「おはようございます、ユキ。…今日は一段と輝いていますね」

「うーっす、どうした?お前がそんなに取り乱すなんて、珍しいじゃねえか」

「とうまー、じゅんー、聞いて!!あのね、お父さんが――――」

「貴虎さんが、どうかしましたか?」

「―――――準みたいになっちゃったのー!!!!」

「…ファッ!?」

「準みたいにですと、まさかロリコン――――」

「昨日の夜、帰りが遅いから、どうしたのかと思っていたら、可愛い女の子を連れて帰ってきたんだよー!!…どうしよう」

「落ち着いてください、ユキ。まだそうであると確かめたわけではないでしょう?」

「…てか、貴虎さん、この前の風呂では否定していたのに…。人は見かけにはよらんね」

「ハゲと一緒にすんなー!!」

「ハゲをいじめるの禁止!!」

「ああ、もう二人とも落ち着いて。…それで、連れてきたあとは?」

「…お父さん、服もボロボロで、血まみれだったからお風呂に入って―――それからみんなで光るお肉を食べて、食べ終わったらその女の人も帰っていたんだ」

「…お前の親父さんの仕事ってなんだっけ?」

「会社の上司に娘を預かってもらえないかと頼まれでもしたのではないですか?」

「だって、その女が『妾と貴虎とは、浅からぬ関係だ』なんてぬかしやがってあのメスガキー!!」

「ユキ!口調戻して!!」

「…ユキがそんなにムキになるなんて珍しいな。その女の子の写メとか、持ってる?」

「うん、あるよー。あのね、これなんだけど――――」

 

「女神キタ――――――――――――――!!!!!!」

 

「いけませんね、準まで暴走し始めてしまった…」

「何の騒ぎです、騒々しい…」

「マルギッテさん、実はですね―――」

 

「あなたに恋をした…」

 

「あなたに跪かせていただきたい、花よ」

 

「…なるほど、あの男がキモくなっている理由はそれですか…」

「できればマルギッテさんの力で、彼を元に戻してあげて欲しいのですが…」

「いいでしょう、私もあんなキモいのと一緒に授業を受ける気はもう頭もありません―――トンファー・キック!!」

 

 ドカッ

 

「ふふふ…効かん、効かんよ」

「何ッ!?まさか私のトンファー・キックをまともに受けて―――」

「今の私は阿修羅すら凌駕する存在だ!!」

「むう、なんという存在感…」

「ロリコンパワー、恐るべし…」

「ああ、待っていてください、女神よ。あなたの前で永遠の忠誠を誓わせてください。――――そしてできるならほっぺにチューをしてくださいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「キモい」

「キモイの」

「気持ち悪いですね」

「あそこまで行くと、むしろ尊敬するわ…」

「というか、もう帰ってしまってユキの家にはいないのでは?」

 

「待っていてくださいいいいいいいいい!!あなたの愛の奴隷が今、参りますうううううううううう!!!!」

 

「うーっす、ホームルームを―――なんだこの騒ぎは?」

 

 今日も二年S組は平和だった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 無職である。

 小雪が学校へと登校した後で、コンビニで買ってきた新聞をちゃぶ台の上に広げて読む。

 もう、この生活が3日も続いている。

 非正規雇用の派遣であった貴虎の契約は、一週間ほど前に切れていたのである。

 再契約は、していない。

 もともと、長く同じ仕事を続けるつもりもなかった。

 正社員として雇用されないかとの勧誘もされたが、断った。

 今からどうしようか。

 傍らに無造作に置かれた白い袋に手を突っ込み、そこから食料を取り出す。

 ガリボリと、咀嚼音が狭い部屋の中で反響している。

 まつろわぬ神とカンピオーネと戦いの場となった、浜離宮恩賜庭園は、ガス爆破事故として処理されることとなっていた。

 それまで目の前にそびえていた広大な緑の塊が、ある日朝になったら瓦礫の山に変わっていたことを見たら、近隣住人はどう思うだろうか。

 アテナの石化の邪眼に加え、貴虎の攻撃の余波で壊滅状態と化した庭園は、まだ復興の目処がつかない。

 今もどこからかやってきた職員たちが、修復作業の真っ最中である。

 むしろ、庭園内だけで被害が収まったことを、安堵するべきだろう。

 一通り新聞を読み終えると、部屋の端の方へと放り投げる。

 アテナから受けた傷は、一通り癒えた。

 一番深かった死の槍で貫かれた脇腹も、ほとんど完治へと向かっている。

 まだあの激突から三日ほどしかたってはいない。

 驚異的な回復力だった。

 アテナも、あれから貴虎たちとともに飯を食ったら自分の居場所、ギリシアへと帰っていった。

 また来る、と不吉な言葉を残して。

 食べている間、小雪の機嫌が悪かったのはどうしてだろう。

 『宝石の肉(ジュエルミート)』は、美味しそうに食べていたのだが…。

 女神アテナですら、うならせるほどの旨さを持った、古代の食宝。

 

 コンコン

 

 貴虎の家には、インターホンなんて洒落たものはない。

 はい、と返事をし、扉を開けると、そこには黒いスーツの男たちが。

 後ろには、リムジンかベンツか―――とにかく高級そうな車の姿があった。

 

「三島貴虎…様ですね?」

 

 そう言うと、男は丁寧に腰を折って、頭を下げた。

 

「どうか我々とご一緒に来てもらえないでしょうか、王よ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 東京の外れに存在する人工浮島。

 川神の地にも、九鬼の支部が存在する。

 今や世界的な大企業となり、あらゆる産業の手を伸ばしている九鬼の極東支部が、この川神の地にもあるのだ。

 今だ学生の身分で、川神学園に通っている九鬼英雄や、姉の揚羽など、学生の身分ながら世界を飛び回る九鬼一族である彼らが、普段の住まいにしている場所である。

 現在、そのビルの周囲5キロに人払いがかけられていた。

 10メートルおきに直立する、九鬼の従者たち。

 類を見ないほどの、厳重体制であった。

 それほどの、非常事態。

 巨大なビルの中には無数の部屋が存在しており、九鬼一族の部屋の他にも、九鬼所属の従者部隊ひとりひとりにあてがわれた部屋も存在していた。

 その無数に存在する部屋の一つ。

 普段、九鬼家家族が食事をしたり、従者部隊のトップクラスが会議に使ったりする大広間。

 中央には、派手な装飾の施された、高級そうな長机が鎮座している。

 部屋の周りには、いずれも有名な巨匠の絵画や彫刻などが。

 その机を挟んで、向かい合う者たち。

 いずれも劣らぬ、著名人たちである。

 九鬼からは、九鬼帝、局、揚羽、英雄、紋白と、九鬼家勢ぞろい。

 滅多に見られない光景であった。

 世界中を飛び回る九鬼家家族が、一同に顔を合わせ、同じテーブルについている。

 それほどの非常事態。

 ビルの周りにも、部屋の近くにも従者部隊は潜んではいるが、この部屋の中に入れたのは、いずれもトップ中のトップのみ。

 九鬼家従者部隊第0番、ヒューム・ヘルシング。

 同じく1番、英雄の付き人でもあり、従者部隊若手の代表者、忍足あずみ。

 第2番、マープル。

 第3番、クラウディオ・ネエロ。

 揚羽の付き人の武田小十郎は、参加させてもらえなかった。

 戦力外と通告され、比較的部屋から近い位置で、警護を行っている。

 小十郎の血液は、比較的珍しい型で、揚羽と同じなのである。

 そのため、緊急時の輸血対象として、揚羽の付き人として付き従っているのだ。

 しかし、今は傍らには居させてもらえない。

 本来なら、あずみも戦力外として扱われるところなのだが、そこは英雄の従者としての役割と、若手をまとめる采配を認められたのか、この場にいることを許されている。

 数多くいる九鬼家従者たちの中で、序列をもらうことができる精鋭中の精鋭1000人。

 その中でも、トップ中のトップのみが、この場にいることを許されている。

 ただ、席には座らず、従者らしくそれぞれの主の横に侍っている。

 川神院からは、トップの川神鉄心。

 娘の川神百代。

 師範代のルー・イー。

 そして、数日前にともに苦労を分かち合った、釈迦堂の姿もあった。

 鉄心の横には、これまた有名な人物。

 この国の内閣総理大臣が、席についていた。

 対面して着席しているのは、()の人々。

 正史編纂委員会東京支部の長である、沙耶宮馨。

 その付き人である、甘粕冬馬。

 武蔵の姫巫女、万里谷祐理。

 イタリアの魔術結社『赤銅黒十字』の長で、『紅き悪魔(ディアボロ・ロッソ)』の異名を持つ大騎士、パオロ・ブランデッリ。

 その父から異名を継承した、エリカ・ブランデッリの姿が見える。

 同じく『赤銅黒十字』のメンバーのひとり、ジェンナーロ・ガンツ。

 そして、二方とは別に、腰を下ろしている()()

 3ヶ月近く前に、イタリアにてみごとまつろわぬウルスラグナを弑逆し、その体に権能を納めた、若きカンピオーネ。 

 草薙護堂の姿があった。

 その対面の席は、まだ空席である。

 もう一人の羅刹王が来るのを、待っているのである。

 

「――――今日忙しい中、お集まりいただき、最上級の感謝を申し上げます」

 

 声を発したのは沙耶宮馨だった。

 彼女は立ち上がり、その場で一礼してみせる。

 

「まずは此度、東京都内で起こった()()について―――」

「あー、すまんのぅ…」

 

 話を遮ったのは鉄心だった。

 

「この場には()()をよく知らぬ者たちもいる。できれば最初から説明してやってくれんか?」

「事情というと?」

「呪術や魔術などといった、()の話じゃよ」

 

 反応は二つに分かれた。

 正史編纂委員会側と知っている者たち、それに百代や揚羽などに代表される、知らない者たちだ。

 なるほどと趣向し、

 

「わかりました。では最初から――――」

 

 そう言って彼女は話し始めた。

 呪術のこと。

 正史編纂委員会のこと。

 この世で起こっている怪異のこと。

 姫巫女のこと。

 そして、まつろわぬ神のことを。

 そしてそれらの超越的な存在をみごと弑逆せしめた、勝利者、カンピオーネのことを。

 

「―――現在、現存しているカンピオーネは()()

 

 非凡な剣の才をにて、神を打倒した、イタリアの『剣王』、サルバトーレ・ドニ。

 バルカン半島を拠点とする、最古参の魔王、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

 中国の魔術結社『五嶽聖教』の教主にして、武林の子孫として崇められている、羅濠教主。

 アレキサンドリアを拠点としている、妖しき洞窟の女王、アイーシャ夫人。

 イギリスのコーンウォールに設立された、魔術結社『王立工廠』を率いる王、アレクサンドル・ガスコイン。

 アメリカのロサンゼルスの守護者、ジョン・プルートー・スミス。

 そして、イタリアにて誕生した新しい神殺し。

 草薙護堂が名を連ねている。

 そこに、先日ふってわいたように現れた、もう一人の王。

 三島貴虎という男である。

 

「三島王に関しては、我々正史編纂委員会に代表されるように、呪術界でも何も知りませんでした」

 

 そこに突如煙のように現れた神殺し。

 今も、日本の呪術界は大混乱である。

 歴史上でも稀にも稀――――もしかすると、神代から続く歴史の中でも偉業なのかもしれない。

 同じ日本という土地で、神殺しが二人も誕生するということ。

 護堂が神殺しをなしたのは、イタリアでのことだが、二人とも日本人である。

 同時代、同時期に二人のカンピオーネがこの極東の地に集うことなど、歴史上初めてのことだろう。

 だからこその、今日のこの場に一同が集まったのである。

 日本という狭い島国に、自然災害にも匹敵するような爆弾が二つも揃っている。

 しかも、近い場所で。

 二人共東京都に住んでいるのだ。

 川神と根津とで距離はあるといっても、それはもはやないに等しい。

 特急の爆弾が、二つ揃っているのである。

 しかも、もう一つの懸念事項としては、三島貴虎という神殺しのことを全く知らないということだ。

 草薙護堂の方は、イギリスの『賢人議会』からの報告書の方に、神々より簒奪した権能の情報が載っていたり、ここにいる祐理や甘粕などは、まだ少しではあるが、接触したことによってその人となりはなんとなくだが掴んでいる。

 問題は、もう一人の方である。

 その存在自体が先日確認されたばかりで、先日アテナというギリシアでのビックネームを撤退まで追い込んだという、その力はまさにカンピオーネということを、周囲に知らしめた。

 そして、その破壊の影響も。

 護堂が以前、ローマのコロッセオに『猪』をぶつけ、倒壊させたように、カンピオーネの権能というのは、強大無比な代物である。

 それは、浜離宮恩賜庭園の惨状を見て、ひと目で理解できるだろう。

 アテナの石化の邪眼に加え、カンピオーネ三島貴虎の攻撃後でがれきの山と化した、かつて庭園()()()もの。

 森を思わせるような木々の群れは根こそぎ倒れ、魚たちも生息していた池はその形を無くし、建築物は瓦礫と化した。

 正直、よく庭園内で被害が収まったなと感心するくらいである。

 鉄心たち壁を超えた実力者5人がかりでの結界が効いたのか…。

 はたまた、運がよかったと見るべきなのか…。

 とにかく、今日この場に集まった者たちは、新しく日本で確認された王を見定めるために集まったのである。

 ヴォバン公爵のように破壊の限りを尽くし、魔王と恐れられる存在なのか…。

 中国の羅濠教主のように、人間よりも地球の自然を優先させるような、常識知らずな王なのか…。

 アイーシャ夫人のように、天然で災害を振りまく者なのか…。

 サルバトーレ・ドニのように、思いつきだけで行動し、周りを振り回す者なのか…。

 ジョン・プルートー・スミスのように、民衆を守るヒーローを自称するのか…。

 アレクサンドル・ガスコインのように、思いついた行動が、皆を振り回すことになるのか…。

 草薙護堂のように、一般人を自称していても、その行動の突飛さで周りを振り回す王なのか…。

 一番まずいのは、草薙護堂と三島貴虎、両カンピオーネの衝突である。

 この狭い島国に二人を押し込めたようなこの構図では、いつ何度でも衝突が起きてもおかしくはないのだ。

 できれば、和平を選択し、仲良くしてほしい。

 そうでないなら、一緒には行動しないでくれ。

 日本の呪術界からの、切実な願いだった。

 また、川神に住まう者たちからも異なる反応があった。

 彼らは長く秘匿とされてきた、まつろわぬ神とカンピオーネ。

 それに、呪術なるものの存在を知ったのである。

 ゲームの世界に存在するような用語が、まさか現代で本当に存在していたとは…。

 無知であるがゆえに好奇心を持ってしまう。

 現在自分たちとは違う席についている、一人の王に。

 そしてもう一つ、空いた席に座るはずの王に。

 

「…一つ、よろしいですか?」

 

 話が一通りなされたあとで、クラウディオが疑問の声を上げる。

 

「なんでしょう」

「まつろわぬ神と、カンピオーネの存在については、理解することができました。…しかし、疑問ですな。アテナとは古代ギリシアでの女神として崇拝されていたはず。なぜ、日本にやってきたのでしょうか?」

「それは―――――」

「それについては、私から説明させていただきます」

 

 馨の返答を遮って、席を立ったのはパオロ。

 大騎士の称号を持つ、イタリアの魔術結社『赤銅黒十字』の長である。

 

「…すべては北アフリカより出土し、カラブリア海岸に打ち上げられた、『ゴルゴネイオン』という神具をどう扱うかということから始まりました―――――」

 

 神の力を内包した神具は、不朽不滅の存在であり、人間の力では壊すことはできない。

 そのゴルゴネイオンも、半身であるアテナの存在を呼んでいた。

 扱いに困ったイタリアの魔術結社たちに、名乗りを上げたのが、『赤銅黒十字』の若き才媛、エリカ・ブランデッリだった。

 彼女からゴルゴネイオンを託された護堂が、神具を持って帰国。

 そのまま神具の行方を追って、まつろわぬアテナが来日したということである。

 

「…はて、妙ですな。イタリアにもそのカンピオーネが一人、存在していたはずですが…」

「サルバトーレ卿は2ヶ月前に草薙王との戦闘によって負傷され、治癒のためイタリアから離れていたのです」

「そこで、白羽の矢がたったのが、そこの赤子だったというわけだ…」

 

 ヒュームの鋭い視線が、護堂に突き刺さる。

 肩身が狭い思いだった。

 ただでさえ、一人だけ特別待遇なのである。

 いつも傍らに侍っているエリカも、今回ばかりは一緒にはいられない。

 赤子と揶揄されて何か言いたい気分だったが、それよりも金髪執事の鋭い目線が突き刺さる。

 それに、口を開いていない他の者たちも、何か探るような目つきで自分のことを見定めてくる。

 正直、居心地がわるい。

 

「ヘルシング殿、口の利き方には気をつけてもらいたい!ここにおわしますのは、神から権能をみごと簒奪した、カンピオーネなのですから!!」

「失礼、ついうっかり口が滑ってしまいましたかな…」

「ヒューム」

 

 主である帝にたしなめられ、飄々と下がる執事。

 勿論、ここにいる全員がイタリアの魔術結社の面々に関して、良い顔をしていない。

 確かに、選択としては最善であったかもしれないが、結果として日本にアテナを招いたのは、エリカの選択だ。

 トラブルを持ち込まれて、いい顔をするものなどいない。

 それをわかっているのだろう。

 エリカも表面上は平常心を装ってはいるが、内心かなり動揺していた。

 表情も固い。

 対面に座っている何人かは、自分よりも数段、下手をしたら十段は上かも知れないほどの、特A級の達人たち。

 特に川神院の総大将など、その名を世界に轟かせているほどの猛者である。

 娘の川神百代も、若くして祖父より『武神』の名を承っている才媛。

 こうまで敵視されては、完全にアウェイだった。

 ジェンナーロもパオロも、浮かべている表情は固い。

 被害が庭園内で収まっていたとはいえ、実質自分たちの選択で日本にまつろわぬアテナを招き入れたようなものなのである。

 しかも、護堂が打倒するはずだったアテナは、ふらりと現れたもうひとりの神殺しがみごと撤退させたのだ。

 しかし、彼らの懸念はもうひとつあった。

 すなわち、あの三島貴虎という魔王が、今回の件で怒りを覚えているかもしれないということである。

 三島王が怒りを持って、イタリアに攻め込んできたのなら、主要都市は間違いなく壊滅するだろう。

 そこにイタリアの剣王まで出張られたのなら、もう終わりである。

 イタリアという国が、まるまる消滅する危険性さえあるのだ。

 かつてその怒りによっていくつかの都市を消滅させた、ヴォバン公爵のように。

 

 コンコン

 

 外側から扉にノックがなされた。

 

「なんだ?」

「三島貴虎様が着きました」

 

 その言葉で部屋の中にいるもの全員が気を引き締めた。

 

「もうすぐ、この部屋までやってきます」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 貴虎が執事の一人に連れられて、部屋の前まで歩いてきた。

 前もって聞かされている内容は、それほど多くはない。

 ただ、どうか自分たちについてきてほしい。

 十中八九カンピオーネに関することであろう。

 部屋の中にも、それらしい影が見える。

 以前アテナとの一戦の際にであった、少年だった。

 部屋の中には、いずれも実力者が数人。

 それを、()()()()()前から確認していた。

 

「こちらです」

 

 執事によって開けられた扉の向こうで、長机を囲っている一同。

 一方は知っている顔が並んでいた。

 川神の面々だ。

 釈迦堂の姿も見える。

 あとは知らない。

 九鬼帝の写真は新聞で見たことがあったので、その存在は確認した。

 そのほかの面々も、額に傷を持っていることや、服装から九鬼の関係者であると推測される。

 そしてなんといっても、この国の最高責任者である、内閣総理大臣の姿があった。

 もう一方は、知らない顔が並んでいた。

 そういえば、アテナとの一戦の時に、もうひとりの神殺しとともにいた少女の姿があったのではないか…。

 あとは新顔だ。

 見たことさえない。

 そして、双方からの視線が集まる場所に腰を下ろしている少年。

 もうひとりのカンピオーネ。

 彼もこちらの方へと視線を送っている。

 部屋の中にいる人々の視線を浴びながらも、貴虎は歩みを進める。

 座る席は、カンピオーネである少年の対面。

 そこに腰を下ろす。

 

「…この場に来てくださったことに、誠の感謝の意を表明します――――三島王よ」

 

 貴虎は知らない女性――――沙耶宮馨から感謝が告げられる。

 

「此度ここに来てもらったのは、ここにいる皆があなたの人となりを知りたいからです」

 

 双方から浴びせられる、探るような目線。

 見極めているのである。

 もう一人の神殺しが、どんな人物であるかを。

 

「――――その前に、私からよろしいですか」

 

 そう手を挙げたのはパオロだった。

 

「三島王よ、此度のまつろわぬアテナの日本襲来を招いたのは、全て私の責任です。―――どうかちっぽけなものではありますが、私一人の命で、荒ぶる怒りを鎮めてはもらえないでしょうか」

「お父様、何を!?」

「―――エリカ、三島王の領域(テリトリー)へと騒動を持ち込んだこと。これは償わなければならないことだ」

「ですが、それは私の選択で―――」

「『赤銅黒十字』の長として、ゴルゴネイオンをお前に託したのは、私の選択だ。それが今回の騒動につながったのならば、その償いは組織の長である私がするべきなのだよ。―――ジェンナーロ、あとは頼む」

「…わかった、ボス」

 

 エリカが詰め寄っても、パオロは取り合わない。

 そのまま深々と頭を下げた。

 

「どうか私一人の命で、何卒ご容赦願いたい」

 

 部屋の中に静寂が満ちている。

 待っているのだ。

 王の判決を。

 それで決まる。

 このカンピオーネが、どういった人物なのか。

 ごくりと、誰かが喉を鳴らした。

 貴虎は無言だ。

 どこか遠いところを見ているようである。

 そしてそれは、護堂のちょうど頭の上の方に、視線が向いている。

 

「――――三島王?」

 

 そこで始めて、貴虎はパオロのことを()()

 一人の人間としての三島貴虎ではない。

 カンピオーネ、三島貴虎としてである。

 瞬間、部屋の中に出現する、巨大な気配。

 その眼光だけで、彼らは威圧されていた。

 ここに座っているいずれもが感じていた。

 その肌を突き刺すような、ピリピリとした気配から。

 獲物を狙う肉食獣のような、鋭い眼光から。

 ――――この男は王であると。

 しかし、さすがは大騎士パオロ・ブランデッリ。

 さすがの胆力で、その威圧感に耐え切り、今かと判決を待っている。

 緊張した気配が充満している。

 

 その時、彼らは見た。

 巨大な口が、パオロの頭からかじりつき、上半身をまるっと食べてしまうところを。

 残った下半身が、大量の血を噴き出しながら力なく倒れていくところを。 

 そして、赤い雫を滴らせながら、肉を、骨を咀嚼する神殺しの姿を。

 

 荒い呼吸をしている。

 背中に冷たく、寒いものが走り、顔にはいくつもの冷や汗ができている。

 ()()()()()()()()()が自身の顔を、胸を両の手で触り、感触を確かめる。

 ――――無事だ…。

 先程、食べられたと思った。

 頭からのひと噛み。

 即死である。

 そして、現実はここに五体満足で立っている。

 

「…幻覚?」

 

 誰かの口から漏れ出たものだ。

 ここにいる全員が、その光景を共有していたようである。

 今さっき、パオロがひとかじりされた光景。

 それを部屋の中の人々は、確かに見た。

 しかし、実際にはこうして五体満足で生きている。

 その結果から、幻覚を魅せられたのではないかと推察したのである。

 

「…み、三島王?」

 

 貴虎は椅子の上から動いてはいない。

 全員が彼の動向を注視している。

 彼の視線は、対面に座っているもうひとりの神殺しの方へと向いていた。

 護堂も視線を交わす。

 

「…猪、駱駝、牛、鳥、馬、風、山羊、―――それから剣を持った男の姿か」

 

 ふと貴虎の漏らした言葉に、二色の反応があった。

 川神に住まうものたちは、その言葉が何を示しているのかわからなかった。

 しかし、呪術関係者たちは違う。

 事実、草薙護堂は目を見開いて驚きを示している。

 

「―――幾人かの神から奪ったものか。――いや、中央に一つ。そこからいくつかに派生している様子から、ひとつの権能が何種類もの効果を持っているのか。…便利だな、少年」

 

 相変わらず貴虎の視線は護堂の頭上に向いている。

 そこにどんな光景が見えているのか、それは彼にしか分からないが、その内容ならわかる。

 

「――――俺の権能を…」

 

 草薙護堂がウルスラグナより簒奪した権能、その存在を表しているのである。

 

「…だがいくつか穴があるな。これらはまだ掌握できていていないからか…」

 

 現在、護堂が使うことができる権能は風、牡牛、白馬、駱駝、山羊、鳳、猪、それから戦士の化身。

 ウルスラグナの10の化身すべてを掌握したわけではない。

 それを、目の前の男は見抜いたのである。

 一体、彼の目にはどのような光景が見えているのだろうか。

 再び、視線がパオロに戻る。

 それに一同が体を固くする。

 

「不問だ」

「―――はっ!?」

「私にとっては、お前たちがアテナを招いたことなど、どうでもいい。好きにしろ」

「…と言いますと?」

「私からは、何も言うことはない。政治にしろ外交にしろ、そういったものはお前たちの仕事だ―――違うか?」

「…いえ、わかりました」

「―――寛大な慈悲を、ありがとうございます」

 

 何人かが、ホッと息を吐いた。

 そして何人かが思った。

 コイツは、話が通じるやつじゃないのかと。

 

「王よ、お聞かせください」

 

 声を発したのは、姫巫女である万里谷祐理。

 

「貴方は、その強大な力を振るう目的を。その神より簒奪した権能をもって、この地で何を為すおつもりなのですか?」

 

 この疑問こそが、この場にいる人々が一番知りたい懸案事項。

 カンピオーネの影響力は、歩く災害にも例えられるほど大きなものである。

 アイーシャ夫人のように、本人が意図していなくても、世界に影響を与えてしまうのだ。

 

「それを聞いてどうする」

「…私たちがこの日本という土地で生きていく上で、三島王と草薙王の影響力は絶大です。この地で生きていくためにも、是非とも知っておきたいんです!!」

「わしも聞きたいのう。お前さんはその力を使って、どんなことを為すのじゃ?」

 

 祐理に便乗して、鉄心も訪ねてくる。

 何もかも見透かすような眼で、貴虎のことを見据える。

 その態度に心底めんどくさそうにため息を吐き、自身の目的を口より放った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 夕方、小雪がいつもより憂鬱な気分で帰宅すると、なにやら家の様子がおかしいことに気づいた。

 家の中では、貴虎が荷物をダンボールの中にまとめ入れている。

 すでにいくつものダンボールが部屋に積み重なっていた。

 

「―――お父さん、どうしたの?」

「小雪か、おかえり」

「うん、ただいま。――ってそれより、このダンボールは何?」

「小雪」

「うん」

「引っ越すぞ」

「うん。――――え”!?」

「お前の荷物はすでにまとめてある。あとちょっとで、出発できるようになるだろう」

「…え、え、え―――?ち、ちょっと、お父さん!意味がわかんないんだけど!?」

「心配するな。引っ越すといっても川神市内だ。川神から出て行くわけではない」

「そうなんだ。なーんだ――――じゃないよ!いきなり引越しってどういうこと!?僕にもわかるように説明してよ!!」

「父さん、料理屋をすることにした」

「…それで?」

「川神の街中に店を建てた。2階が私たちの家になっている」

「…ふんふん」

「だから引っ越すぞ」

「―――え、早くない?」

「『思い立ったが吉日』、それ以外は全て凶日だ。―――ほら、いくぞ」

「うわっ、待ってよー」

 

 小雪が貴虎に急かされながらも、どこからか借りてきたであろうワゴンの助手席に乗る。

 エンジンがかかり、薄暗い夕暮れの中を進んでいく。

 

「…お父さん、前の会社は?」

「やめた」

「…これで何社目?」

「数えてない」

「…それで今度は料理店なのかー」

「休みの日には、小雪も手伝ってくれよ」

「うん。それで、何の料理店なの?」

「まだ明確には決めていない。―――決まっているのは、店の名前だけ」

「へー、なになに?」

 

「食堂『三虎』」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 川神院の百代の自室。

 布団に寝転んで天井を見つめていた彼女の口元には、笑みが浮かんでいた。

 ―――世界は広い。

 今日、それを実感することができた。

 呪術や魔術という、武術とは違う戦闘法。

 それに、まつろわぬ神やカンピオーネという、世界最強の強者たち。

 あの三島貴虎という男も、その領域にいるのである。

 まだまだ上があるということ。

 その事実だけで、百代は嬉しかった。

 ―――自分は、まだまだ伸びる。

 技も、力も、戦い方も。

 中国には、鍛え上げた拳のみで神を倒したカンピオーネもいるという。

 いつか、いつの日か、その領域まで行くことができるだろうか…。

 わからない。

 できるかもしれない…。

 できないかもしれない…。

 それでも、新しい目標ができたことで、百代の気は今、静かに、しかし猛々しく燃え上がっていた。

 

「何か嬉しそうね、お姉さま」

 

 学校を休んでいたことを心配してやってきた一子が、百代のとなりで寝そべってこちらを見ている。

 

「…そうかな?」

「そうよ。今だって笑ってるわ」

 

 そうか、今私は笑っているか。

 

「…いいもんだな、ワンコ」

「…何が?」

「目標があるって、いいもんだなぁ」

「―――そうね。明確な目標に向かって努力するのは、楽しいわよ!!」

 

 妹分の言葉を受け止めながら、百代は今日の出来事を反芻して、天井を見つめている。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「――――食べることだ。それ以外どうでもいい」

「…は?」

「…いや、そうだな。まつろわぬ神との戦いがあったか…」

「いえ、三島王。食べるとは、どういったことで…」

「私の目的は美味いものを食べることだ。…何かおかしいか?」

「…いえ、そうではありませんが」

「ならいい。―――少年」

「は、はい」

「君とも、別にことを構える予定もない。しかし、できるなら会わないほうがいいだろう」

「どうしてです?」

「特に意図をしていなくても、災害を撒き散らすのがカンピオーネだ。君も、私もその例に漏れない」

「俺は普通の高校生活を送りたいだけなんですが…」

「そうか。まあ、君がそう言うならそれでもいいだろう。――――話は変わるが、鉄心さん、川神の街中に、あなたが所有していて、余らせている土地はないか?」

「う、うむ。まあないことはないが…」

「――――これで買いたい」

 

 そう言って虚空より取り出した、白い麻の袋。

 結構な重量があるようで、机の上に置かれた際に大きい音が鳴った。

 ジャラジャラと音を立てながら、中身が取り出される。

 

「――――へっ?」

「――――なんと…」

 

 取り出したのは、無数の宝石だった。

 ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト、ダイヤモンド。

 そのほかにも何種類もの宝石が、白い麻の袋から出てきたのである。

 大きいのだ。

 形はまちまちではあるものの、人の拳二つ分はあるかという宝石が、麻の袋から次々と取り出されたのである。

 驚いたことはもう一つあった。

 

「――――呪力を内包している」

 

 長い年月をかけて、地中に生成された宝石類は、自然の力を凝縮し、結晶化したものである。

 そのため、呪術や魔術の触媒として、良く用いられるのだ。

 いま貴虎より出された無数の宝石は、いずれも呪力を内包していた。

 これは呪術師や魔術師にとっては、のどから手が出るほどほしい代物である。

 自分の体内に存在する呪力量だけでは、限界がある。

 しかし、宝石を触媒に術を使えば、自分の呪術量にあったものよりもより高度な術を施すことができるのだ。

 山のように積み上がった、色とりどりの宝石の山。

 

「…これはどうしたんじゃ?」

「―――鉱山地帯に存在する、体が宝石でできた蟹。その外殻だ。これで土地を買いたい」

「…こんなに積まれても、売れるところなぞ、ほとんどないぞ」

「二回か三階建ての建物が建つくらいでいい。―――頼めるか?」

「それなら大丈夫だがの…。お主、何をするんじゃ?」

「店が欲しい。自分の店だ。飯屋がいい。―――ああ、少年。神殺しとしてではなく、客としてくるのであれば、歓迎するぞ」

「はあ…」

「店の名前は決まっている」

 

「食堂『三虎』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は情報量が多すぎて、収集がつかなくなっている気がしますね。
ほとんど会話も入れられなかったし。
また、納得のいく書き方が見つかったら、書き直します。


とりあえずここまでで一応のプロローグとなります。
更新は不定期なので、気長に待ってもらえると助かります。
読んでくれた方々、本当にありがとうございました。

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