あの日から毎日ではなく月に一度のペースであの場所を訪れると出雲さんは何時もいる。
「やぁ、久しぶりだね」
出雲さんはそう言ってほほ笑んでくれる。
「お、お久しぶりです」
私はまだ出雲さんと話すのは苦手です。
「今日は少し疲れているのかな、元気がないように見えるよ」
出雲さんは空を見ながら知っているような口ぶりで聞いてくるが今の私は色んな意味で毎日が大変です。
大赦の勇者に選ばれたりバーテックスと戦ったりと今日もお役目を果たしてきたので少しだけ疲れています。
「冗談だよ」
出雲さんはそう言って微笑むが少しだけ影がある。
「出雲さんもなんだか調子が悪そうですよ」
「むっ、僕の体調は問題ないのだがな」
そう言って出雲さんは自分の体を触る。
「でも、入院してるのはどこか悪いんですよね?」
「いや、検査入院が長いだけでどこも悪くないさ」
「それにあそこに居てもつまらないからね」
そう言って出雲さんはそう言って歌を口ずさむ。
私はその歌を聞いていたら今日の事を忘れそうになるぐらいにリラックスしてしまった。
「いかがかな僕の歌は?」
そう言って出雲さんは私に感想を求めてきた。
「凄く上手でした」
私は思ったことをそのまま言ったが出雲さんは木にもたれ掛かり喉を触りながら言う。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが僕の喉では一曲も歌えない」
そう言った出雲さんの声は少しだけ掠れていた。
「それに君の歌声の方が僕より魅力的だよ」
その言葉は素直に嬉しいが出雲さんは自分に自信がないように思える。
少し昔の私を見ているような気分になってしまった。
「そんなことないですよ出雲さんの歌も魅力的ですよ」
そう言ったら出雲さんは少しだけ微笑みを見せた。
「感謝するよ。さて、そろそろ戻らないと怖い看護師が見に来るから僕は戻るよ」
そう言って出雲さんが去っていくときに強風が吹き目を閉じて風が止むと出雲さんの姿はなくなっていた。
出雲さんはいったい何者だろうといつも思ってしまう。
お姉ちゃんに出雲さんの事を聞こうと自宅に戻ることにする。
出雲さんは私の事を見透かしているような私は出雲さんの事を何も知らない。
少しでも出雲さんの事を知りたいと思う気持ちが日に日に膨れていく。
この気持ちは何だろう。
「本当になんで彼女が選ばれたのだろう」
病室に戻り園子に話しかける。
「あれ~いずさんあの子の事が気になるの~」
「いや、僕にも分からないことがあるから聞いただけだよ」
体を全て神樹様に捧げても僕には勇者の事には全く関係ないからね。
「いずさんでも知らないこともあるんだね」
「僕は何でも知っているわけじゃないよ」
「勇者に関しては大赦の奴らが勝手にピックアップしているだけだからね」
「今夜大赦にでも忍び込んで資料でも見てみるよ」
僕はそう言って姿を消す。
次に彼女に出会うときに絶望を見ることになるとは思わなかった。