犬吠埼樹 1
私が彼と出会ったのは人気のない病院の裏にある公園だった。
その日は何となく外で歌って見たくて人気のないところで歌っていた時の事だった。
「素敵な歌声だね」
そう言って彼は現れた。
それが、犬吠埼樹と出雲暁人との邂逅であった。
「えっ、あ、ありがとうございます」
私は突然現れた男性に頭を下げてお礼をした。
「感謝をするのは僕の方だよ犬吠埼樹ちゃん」
その男性は私の名前を知っている、怖いと思いながら私は顔を上げて男性の顔見る。
「あぁ、僕が君の名前を知っているのは僕が君のお姉さんと少しばかり知り合いで君の名前を聞いているからだよ。それと自己紹介が遅れたね、僕は出雲暁人この裏にある病院で入院している病人さ」
そう言われて彼、出雲さんの服装を見ると病院で入院している人と同じ服装をしていた。
「あ、あの、抜け出していいんですか?」
私はさっきまでの恐怖を忘れて彼に話しかけていた。
「いや、駄目だけど病室の中に閉じ込められているのに飽きていたんだよ」
この人、見た目以上に悪い人なんだと思った。
「それにあんなにも綺麗な歌声が聞こえてきたら尚更ね」
そう言ってほほ笑む出雲さんに私は顔を赤くしてしまった。
「君はいつもここで歌っているのかい?」
私は顔を横に振った。
「そうなのか、残念だな」
そう言って出雲さんは少し寂しそうな表情をしているのを見て私は咄嗟に声が出てしまった。
「あ、あの、またここで歌ってもいいですか?」
そういうと出雲さんは一瞬目を見開いたが次の瞬間にはくすりと笑った。
「ここで歌うのに僕の了承はいらないよ、君が歌いたいかどうかの問題だから」
そう言われて私は恥ずかしくなり顔を赤くしてしまった。
「でも、君がここで歌ってくれるなら僕は聞きに来るよ」
微笑みながら出雲さんは言ってくれた。
「さて、僕は病室に戻るよ。怖い人が来るからね」
と言って出雲さんは病院の方に向かって歩き出した瞬間に突風が吹き思わず目を閉じて風がやんでから目を開けると出雲さんの姿はなかった。
「思わずあんな約束したけど……どうしよぉー」
人前で歌うのが苦手な私にとってはすごい約束をしてしまった。
出雲は病室に戻り同室の少女に話しかけた。
「呼び出してどうしたんだい? 乃木園子」
そう言って出雲はベットに視線を移すと顔は殆ど包帯が巻かれており見えている片目で出雲をにらんでいた。
「あれほど勇者候補にあったら駄目って言わなかったけ」
「僕自身は勇者候補には出会っていないじゃないか? ここから動けないのだから」
そう言って彼女の目の前にあるベットに指をさすとそこには全身が包帯で巻かれており死んでいるのか生きているのかわからない状態になっている。
「それはいいわけだよいずさん」
「まぁ、僕が誰に会おうが僕の勝手であり神樹様の意志と考えてもらったほうがいいよ、なんせ僕は体のすべてを供物として捧げてここに居るのだからね」