魔法少女リリカルなのはF   作:ごんけ

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魔法少女リリカルなのはFはじまります




028話

 

 

 あたしたちの睡眠は唐突に破られた。

 いや、寝ていたのはあたしだけのようだけど。今はそんな話をしている場合じゃなかった。

 

『衛宮士郎が起きた』

 

『そうか』

 

 あたしの睡眠はこの念話によって中断せざるを得なかった。

 

「そんなことで起こすなよ」

 

 思わず呟いていた。

 

「ヴィータ、いくらなんでも気を抜きすぎだ」

 

 シグナムに嗜められてしまった。

 

「だって、しょうがないじゃん。

召喚直後は魔力が安定しないんだから。闇の書だって魔力スッカラカンじゃん」

 

「召喚直後は我らが一番脆弱となる瞬間だからな。

それでも魔力の安定に一晩はかからないだろう。直後に襲撃があったらどうするんだ」

 

「まあまあシグナムも。

ヴィータちゃんの言うことももっともだわ。しょうがないわよ」

 

 それとなくシャマルも自身が安定状態になかったことを暗に意味した。

 

「ごほん。

そんなわけだから、ね。シグナムも。

それに主、八神はやての周りには感知結界、周辺に物質の固定化を施しておいたから万が一もありえないわ」

 

 シャマルの笑顔って時々怖いんだよな。なんていうか、冷たいっていうか。

 

『それはいいんだが、衛宮士郎が出かけようとしている。どうやら走ることが日課になっているらしい。

俺はこのままついて行くが、どうする』

 

『あたしが行くよ。

主に何かあった時の最大戦力はシグナムで間違いないし、そうなった場合にシャマルは不可欠だからな』

 

 シグナムとシャマルを見る。

 

「それに、この中で一番魔力が安定しているのはあたしだ」

 

 

『それではな、あとは任せる』

 

『はい、行ってらっしゃーい』

 

 あたしは衛宮士郎とザフィーラが出て行って、暫く経ってから出た。

 出る前にはシャマルにこの周辺にある程度の魔力を有する生物の探査を行ってもらっていた。昨晩も行ったが、事ある毎にやっていてもいいと思う。

 結果は言うまでもなく、昨晩同様、この周辺に異常はなかった。

 

「それじゃぁあたしも行ってくる」

 

「ああ、きを」

「気をつけろ、なんていう言葉はいらない」

 

 シグナムはフッと息を漏らした。

 

「そうだな、したいようにやってこい」

 

「これが戦時ならいざ知らず、ただのストーキングっていうのがねぇ」

 

 シャマル、ちょっと黙ってようか。

 

 

 室内よりも幾分か湿った空気を肺に入れながらリンカーコアを呼び起こす。

 周囲から極微量の魔力を吸収し、全身を魔力が循環する。

 

 暗がりから明けつつある空を見る。

 同時に今また召喚されたことを実感する。

 

 何が闇の書の守護騎士だよ。適当に選ばれた主とやらの為、闇の書のページ集めのために戦うだけの存在。どうせ一生こうなんだろ、あたしたちは。

 

 脳裏を過ぎるのはこれまでの守護騎士としての扱い。しかし今代の主はちょっと違うように感じるけど。

 

『いつか壊れて果てるまでは、な

詮無きことだ。今は自分の役割に徹しろ』

 

 ザフィーラは念話が割り込んできた。声に出ていたのだろうか。

 独り言を聞かれるのはあまりいい気分じゃない。

 

 地を蹴ると同時に魔力障壁、推進、姿勢制御などを無意識下のうちに処理し、あたしは空へと浮かぶ。

 

「まぁ戦がなけりゃ、夜明け前の空っていうのはいいもんだな」

 

 そんな感傷に浸りそうになる。

 

「っとと、ザフィーラはどこだ?」

 

 あたしはリンカーコアの共鳴を頼りにその方角へと視線を向ける。

 

 魔力使ってない人間にしてはいい動きしてる。あたしの思った感想だ。

 でも、こうして見ると

 

「犬の散歩のように見えるな」

 

『ヴィータ、何か言ったか?』

 

『いや、何も言ってない。

衛宮士郎を補足した』

 

『……わかった』

 

 

 あたしは空を駆けながら追随する。と言っても、衛宮士郎と主のとの中点に位置するので移動する距離は少ない。

 本当に走っているだけだな。

 それが変化したのはぐるっと回って主の元へ帰ろうかという時だった。

 

 あたしは遠見の魔法を使っている。それにもかかわらず、衛宮士郎と目があった。

 こちらを指差してザフィーラに話しかけているのがわかる。

 

『ヴィータ、聞こえるか?』

 

『ああ、聞こえないわけがない』

 

『衛宮士郎がヴィータに伝えて欲しいことがあるらしい』

 

 こちらを指差してたもんな。

 

『空中にいると下着が丸見えだそうだ。服を着替えるか、もしくは見えないように配慮しろということを喚いている』

 

 って、下着……

 あたしたちは召喚時には黒の衣に包まれている。魔力で作られたものである。あたしは頭からすっぽりハマるようなひらひらした服装で下着は……

 

 はん、戦場で下着が見られたくらいで動揺するような真似はしない。

 

 あたしはスカートを股に挟んだ。

 

『こ、これでどうだ!』

 

『も、問題ない。

こちらからは見えない』

 

 そ、そうだろう!

 あたしの葛藤を他所に衛宮士郎は走ることを再開して走り出したのだった。

 

 

 

 

「……」

 

「被害はなかったんだ、落ち込むことはない」

 

 当事者じゃないからそんなことが言えるんだ。

 あたしは衛宮士郎が家に入るのを確認して、後から入っていった。

 

「……それで、今あいつは?」

 

「料理を作っている。

我々の料理も含まれているらしい」

 

「主は相変わらず?」

 

「ああ、眠られておられる。

それにシャマルがそばについている」

 

 部屋に入ると何とも言えない美味しそうな匂いがしていた。

 あたしたち守護騎士は食事をする必要がない。

 それを衛宮士郎は知っているとシグナムからは聞いた。

 

「なんでそんな無駄なことするんだ?」

 

「わからん。が、食物を摂取し、分解、魔力化ということであれば意味のない行為ではない。

歴代の主の中にも我らに食事を摂らせる者もいた」

 

 それはそうだけど。

 あたしたちに味覚がないわけじゃない。できるなら美味い料理のほうがいい。

 

 

「っと、だれかはやてを起こしてきてくれないか?」

 

 衛宮士郎は言った。

 

 守護騎士が主の睡眠を妨げて良いのだろうか。

 あたしは一瞬迷ったが、机の上に置かれる料理を見て返事をしていた。

 

 

「シャマル、主を起こそう。

早く!」

 

「ちょ、ちょっとヴィータちゃん!? どうしたの?」

 

「主には朝食をとってもらう。主の健康のためだから起こすのは当然だ!」

「わ、わかったから。グラーフアイゼンはしまって頂戴」

 

 あたしはアイゼンを握っていたことに驚いたが、素直に言葉にしたがった。

 

 

「「いただきます」」

 

 主と衛宮士郎は手を合わせて言った。

 

「これはな、まぁ食事前の礼儀みたいなもんや。ほら、みんなも」

 

「いただきます……」

 

 あたしはなんとなく、小声で言った。

 

 あたしは、中央のお皿に並べてある料理を手にとって口へ運んだ。

 ……美味しい。

 

 手と口を動かして食べていたら、あたしに視線が集まっているのを感じた。

 シグナムなんかはやれやれ、といった表情だし、主と衛宮士郎はなんか温かい目で見てるし、顔が紅潮するのを感じた。

 

「まあまあ!」

 

 そういうと何故か笑いが起きた。

 

 

「せなあかんことはたくさんあるけど、まずはお洋服やな」

 

 そういって主が取り出したのは目盛のついた紐。

 それであたしたちの体のサイズを測って回っていた。場所は主の部屋だ。

 

「うん、これでよし。じゃ、士郎さんと買い物に行ってくるから」

 

「お待ちください。主と衛宮士郎だけでは我々が不安です」

 

「そりゃそうかもしれんけど、シグナムとかシャマルがそんな格好で外に出たら警察に職務質問されるやろ、わたしが不安や。

ヴィータなら、わたしの服が着れるから付いてきてもいいかな」

 

「ならば、ヴィータ。主のことは頼んだぞ」

 

「ええぇー」

 

 思わず不満を声に表した。

 主と行くのはいいんだけど、あいつも一緒かぁ。でもしょうがないか。

 

 主の服を着せてもらって出かける準備をした。

 

「おーい、はやてー。まだかー?」

 

 主を呼ぶ声がする。

 

「もうちょいー。女の子の準備は大変なんやでー」

 

 主はそう返していた。

 主のお古という服を着させてもらった。

 

 ひらひらしたスカートではなかったので一先ず安心できた。

 

「待った?」

 

 という主の問いに衛宮士郎はまあな、と答えた。そしてあたしを見た。

 

「なんだよ」

 

「ヴィータぁ。うちではいいけどあんまり外でそんな口きいたらあかんよー」

 

 主に言われてしまった。

 

「だって。こいつが、衛宮士郎が」

「いちいち名前全部言わなくても。俺のことなら士郎でいいぞ」

 

「わたしもはやてでええよ。主とか言われるのは何かこそばゆいわ」

 

「じゃ、じゃあ。

はやて!」

 

「うん、なんやヴィータ」

 

 なんだか主、はやてと近くなった気がして嬉しかった。

 

「さぁ玄関で何時までも時間潰してはいられないからな。

出かけるぞ」

 

「はぁーい」

 

 なんで衛宮士郎はこんな時に口挟むかな。

 言わないけど!

 

『それにしてもよ、士郎の目の良さって異常じゃないか?』

 

『リンカーコアはあるみたいだからな、漏れ出した魔力が身体機能もしくは身体そのものを強化するということは聞いたことがある』

 

『それを含めても、ってこと。あたしの遠視と同じくらいは見えるってことだろ。

普通じゃない』

 

『それもそうだけど、ヴィータちゃん。士郎って随分と仲良くなったようね』

 

『うっさい。自分でそう呼べって行ったんだよ。

主もはやてでいいってさ』

 

『ほう。だがな、礼節は忘れるなよ。我らの主だ』

 

 シグナムはいつも堅い。

 

「ヴィータ、ちゃんと前見て歩いてないと危ないよ」

 

 ハヤテの言葉に一旦念話を打ち切る。

 

「まぁその心配はいらんだろうさ。

見た目に反してなかなかしっかりしているし」

 

「見た目に反してってのは余計だな。

いつでも完璧だぜ。あたしは」

 

「それではやてに心配かけさせなければ言うことなしなんだけどなぁ」

 

 ぐっ。

 

 そんなやりとりをしているうちに巨大な建造物群が見えるようになってきた。

 魔法文化のない世界ではこのような巨大建造物をみることは少ない。

 

 魔法文化がないというだけで、他の技術体系が進歩してきたのだろう。

 得てしてロストロギアというものはこのような文化の終末期に現れることがある。魔法文化の発達している世界の方が少ないのだ。最も、そのロストロギアを残してその世界は消滅してしまっているとうことも当然ありうるから一概には言えない。

 

「それじゃはやて、ヴィータ。一時間後にここで。

俺は食材を買ってくるから。時間がかかるようなら電話してくれ」

 

「ちょいまち、女の子の服選びが1時間程度で終わると思ったら大間違いやで!」

 

「帰ったら作ってあるケーキを食べようと思ったんだが、それなら仕方がな」

「ヴィータ、行くで! 時間は一時間しかないんや!

この緊張感、切羽詰った感はRPGやってるみたいやな。まずはヴィータの洋服からや。ぼさっとせんと付いてき!」

 

 と主は言うとあたしに車椅子を押すように支持して進路を示した。

 

 結果を言うならば、非常に疲れた。

 ここの人と思われる――はやては店員さんと呼んでいた――女性を呼び止めて大量の服を運ばせてあたしに着せていった。

 

 これはあかん、これかー、うーん。でも。

 なんてあれこれ言われてもわからないし。あたしは言われるままに服を着替えて回った。

 その半分以下の時間でシグナムとシャマルの服をはやてが選んでいった。

 

 非常に疲れた。

 待ち合わせた場所には、すでに士郎がいた。

 

「待った?」

 

「いや。それにしてもすごい荷物だな」

 

「いやいや、これでも少ない方やで。女ちゅー生き物はな、たくさんの服を所持せにゃあかんもんなんや。

ま、徐々に買い足して言ったらええやろ」

 

 はやてが言っていたが士郎は呆れているようだった。

 多少重さがあったとしても、あたしにはほとんど関係ない。

 

 荷物のほとんどを士郎が持ってあたしは申し訳程度に荷物を持って帰った。

 

「ただいまー」

 

 とハヤテの声が響く。

 あたしが事前に伝えておいたから、玄関にはシグナム、シャマル、ザフィーラが待機していた。

 

「お帰りなさいませ」

 

 あたし以外が膝をつきシグナムが代表して言葉を言う。

 

「そんな堅っ苦しいのはなしや。

おかえり、それだけでええよ」

 

 はやてはそう言って士郎の方を見た。もしくはお帰りなさい、だな。と士郎も続けた。

 

 あたしは持っていた袋をシャマルに預けた。

 帰ったらまず手洗いとうがい。

 そう教わったからな。

 

 あたしたちは部屋で着替えることになった。

 シャマルもシグナムも満更ではない様子で、はやても笑顔だった。

 

 士郎はお茶の準備をすると言ってキッチンへ行っている。

 

 あたしはこの数時間で認識を改めた。

 

 この優しい世界と主とともに静かに暮らせていけばいいと思った。

 もちろん口には出さないけどな!

 

 





更新遅くなりました。

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