HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード58

真紅の髪の少年に視界が入ると照れと羞恥で思わず視線を逸らして顔を背けるリース。

あの一件以来、自分の中での少年は大きくなり、恋する乙女となるのはあっという間だった。

復讐を誓い、闇に身を堕とし、人間を止めて―――一誠と空気と雰囲気に流され肌を重ねた。

リゼヴィムを倒す為に強くなるまではテロリストとして動き様々な経験と修羅場を潜る。

そして―――一誠からドラゴンの力を学ぶ。

 

リースは国を、家族を奪った悪魔に復讐の権化と化となって

今日も一誠に鍛えられるのだった。

 

「・・・・・ん」

 

英雄派の本部。人知れず立っている場所にある建造物のとある一室でリースは目覚まし時計も

鳥の囀りで起きたわけでも、降り注ぐ朝の陽ざしが眩しくて起きたわけでもなく体に

染みついた目覚めによって意識を覚醒した。

ぼんやりと目を開けると真紅の髪の少年の穏やかな寝顔が最初に映り込んだ。

 

「(あ―――)」

 

頭部に感じる柔らかい枕ではなく、無駄な脂肪や鍛え過ぎた硬い筋肉じゃない心地の良い

温もりを感じさせる男の腕。こうして異性の腕をまくら代わりにして寝ている

自分は―――一夜を過ごした事実を鮮明に思い出す。しかし、自分たちだけではない。

反対側に曹操が自分と同じように威勢の腕枕で心地良さそうに規則正しい寝息をする。

そして視線を違う方へ向ければキラキラと輝く翼の上で一誠に寄り添って寝ている呂綺や

セカンド・オーフィス、一誠を跨って寝ているモルドレッド―――。皆、共通点は夜遅くまで一誠と肌を重ねて裸のまま寝てしまったことだ。

 

健康的な肌を惜しみ無く晒し、起き上がると肩や背中に流れ落ちる綺麗な金色の髪。

腕で彫刻のように整った豊満の胸を片腕で隠して一誠の顔を見下ろすと視界に一誠の唇が

入り込む。自分の唇を貪るように吸い付き、口膣の中を蹂躙し、舌を執拗に絡め、

唾液を送り込み飲ませた唇を。

 

「・・・・・」

 

舌を触れあい、唾液を呑んだことで女の部分が最高潮に達した時、思考が蕩け・・・自らの

意志でリースは全てを晒して一誠を縋り求めた。そんな考えと記憶を思い浮かべると

ゆっくりと顔を落とし、熱い眼差しを一誠の唇に向け、寝込みを襲う形で唇を重ねようと

する―――。

 

「ほう、朝這いとはやるじゃないか」

 

ビクンッ!とジーと意味深な視線を向けていた曹操に意表を突かれ全身を跳ね上がらす。

恐る恐ると曹操へ緑の瞳を向けた。一誠の腕を枕にしたままの状態で顔をこちらに

向けている曹操と目線が合った。

 

「とても昨日まで処女だった女とは思えない行動だ。感服するよリース?」

 

「・・・・・」

 

曹操のいやらしい笑みを見て―――リースは気にせず一誠の唇に自分の唇と重ねた。

軽いキスで直ぐに一誠から顔を離す。

 

「私をこんな風に変えたのはイッセーのせいよ。イッセーには責任を取って貰わないと困るもの」

 

「それは同感だな。いつか一誠と静かなところで暮らすのも悪くない」

 

「あなたは捕まってしまうんじゃない?その間、私がイッセーと一緒に暮らして上げるわ」

 

不愉快にピクリと柳眉で反応した曹操が上半身を起こして挑発染みた言葉を発した。

自身の抜群のプロポーションを恥も無く、隠しもしないでリースと向き合う。

 

「・・・・・ほう?随分と面白い事を言うな。処女だったが故に途中で誰よりも

早く失神してリタイアした女が一誠を満足させることができるのか?」

 

「そういうあなたも、彼に責められて随分と辛そうだったじゃない」

 

「一誠から伝わる愛に幸せすぎて、そう言う風に見えただけじゃないか?」

 

「「・・・・・」」

 

 

ジリリリリリリッ!

 

 

目覚まし時計が鳴りだした。けたたましくなる音に呼応して瞼を重たげにゆっくりと開ける一誠。

 

「あふぅ・・・・・」

 

大きく欠伸をして―――

 

「・・・・・ご飯、作らないと・・・・・皆、起きる」

 

一誠の背中から映えている翼からバチッ!と放電がした。

―――まさか、曹操とリースは嫌な予感をした瞬間。

既に起きていた二人諸共、夢の中にいる三人に対して電気ショックを与えた。

 

「ん・・・・・」

 

「うっ」

 

「・・・・・」

 

なんともまぁ荒技の起こし方に普通に起きる三人に対して、痺れてベッドにひれ伏す曹操とリース。

 

「あれ・・・・・二人とも起きてたんだ・・・・・?」

 

今更な反応に曹操とリースは始めて一誠に恨めしいと想いを抱いて答えるのだった。

 

「ああ、さっきな・・・・・っ」

 

「今度は、周りを見てから優しく起こして・・・・・っ。

ええ、今度は手で揺すって・・・・・」

 

「ん・・・・・わかった」

 

すると、身体を起こしてリース、曹操の順に唇を重ねた。

 

「「―――っ」」

 

「おはよう、二人とも・・・・・」

 

ふにゃり、と満面の笑みを浮かべる。朝からなんて可愛い笑みを浮かべて

挨拶をするのだろうか・・・・・。

もしも曹操は一人だったら一誠に身体を押し付けて濃厚なキスをし喜びを表現するだろう。

もしもリースは一人だったら一誠の胸の中に飛び込んで「おはようイッセー」と

気持ちの良い朝を迎えただろう。

起こし方はアレだが、一誠の笑顔を見ながらの起床は最高だった。

 

「くはっ・・・・・ああ、一誠・・・・・」

 

「おはよう、モルドレッド。朝食を作りに行くからどいてくれる・・・・・?」

 

「んっ・・・・・まだ元気のままだ。・・・・・時間もあるし・・・・・もう一回、

いいか・・・・・?」

 

「「―――ダメに決まってるっ!」」

 

―――○●○―――

 

アザゼルたちはルーマニアにいる吸血鬼たちの世界に赴く方針が定まり、その為の下準備やルーマニアへ行くメンバーを選抜など考慮する為の時間が費やしている間、誘拐された義経たちの復帰で川神学園側の生徒は励まして喜びの声で歓迎した。しかし、当の三人は暗い顔のまま学友たちに声を掛けられても気の無い返事をするばかりだった。那須与一は億劫そうに誰とも目を合わそうとせず、授業の殆どをボイコットする。

 

「義経たち、どうしたのかしら・・・・・?」

 

「捕まっている間に怖い思いをしたんじゃないのか?」

 

「そんな風には見えないんだけど」

 

「だな。なーんか思いつめた感じだぜ」

 

直江大和たちは義経たちの様子に不思議がり、心配な気持ちで話し合う。

 

「直接聞いてみるのはどうだろうか」

 

「聞けるような雰囲気じゃないよ」

 

「じゃあ、英雄くんに聞いたらどうかな?」

 

「うん、そっちの方が話しやすいし聞きやすいね」

 

義経たちの心情を知る為、大和たちは2-Sにいる九鬼英雄を尋ねに行った。

 

「よし、ワン子。英雄を連れ来い」

 

「ねー、いっつもアタシが英雄くんを呼ばされるんだけどたまには大和たちが行きなさいよ」

 

「いーや。こう言う時はお前の方が効果的なんだ。キャップの命令は絶対だ。連れてきたらケンタッキーを奢ってやる」

 

「もう、しょうがないわね」

 

エサに釣られた犬は大和たちを廊下に残してSクラスに入った。しばらくして犬は主人の言う通りに従い九鬼英雄を引っ張ってきた。

 

「一子殿が呼んでいると言うのだから来てやったぞ。で、話とはなんだ」

 

「義経たちの事だ。どうして何時まで立っても暗い顔をするんだ?それを知りたくてな」

 

「・・・・・」

 

用件を聞いた途端に苦い顔を浮かべる英雄は初めてだと思わずにはいられなかった大和は言い続ける。

何か知っているのだと察して―――。だがしかし、英雄が大和より早く言葉を発した。

 

「我にも分からん」

 

「分からない?」

 

「当然、我ら九鬼家も義経たちの気管には驚いたと同時に喜んだ。だが、今の義経たちは戻って来てからずっとあの調子なのだ。テロリストに捕まっている間。何をされていたのか、どこに幽閉されていたのか知っている限りの情報を知りたく三人に問うたのだが・・・・・返事はこうだった」

 

『義経たちは何の為に生まれた?』

 

「「「「「「・・・・・?」」」」」」」

 

何の為に生まれた。英雄から出た義経たちの質問に思わず首を傾げた。

 

「質問を質問で答えられたのだ。お前たちのその顔を我らもしたほどにな。義経たちの質問には疑念を抱いたがこう答えた。現在の人材不足に悩む九鬼家に対して起こした政策。過去の英雄を、偉人たちをクローンとして復活させて競い合わせ、現代の人材不足を解消させる事が計画の目的。さらに義経たちは英雄のクローンとして他の者たちに刺激を与え、競争相手として、学校生活を賑やかにさせる為に生まれたのだと」

 

「うん、そんな感じで学園に来たもんね。その時の義経たちの反応は?」

 

「我らの答えに何がいけなかったのか。与一は怒りを覚えた顔で我らを睨み、弁慶は嘆息、義経は無言であった」

 

「テロリストに何か囁かれたんじゃ・・・・・?」

 

「多分、そうだろうな。我もそう思っているのだがあの三人がそうさせる理由は今でも分からんのだ。

だが・・・・・姉上は何かを察したように申し訳なさそうな顔をしておった」

 

「揚羽さんが?」

 

九鬼揚羽、英雄の姉である女性が知っている?大和はそう言った時、視界の端で義経と弁慶が廊下に出てどこかへ行ってしまった。二人は向かった先に職員室、中に入りまっ直ぐ―――アザゼルの傍で佇んだ。

 

「ん?何だお前ら」

 

「アザゼル先生。義経は質問したい。義経たちは英雄派にとって英雄のコピー、偽物なのだろうか」

 

「・・・・・」

 

「義経たちは英雄のクローンとして生まれた人間なのは分かってる。だけど、義経たちのようなクローンじゃなく本物の過去の偉人達、英雄から受け継いでいる者たちがいる。義経たちはそんな人たちを目の当たりにして義経たちの存在意義は何だろうと悩んでいる」

 

義経の独白にアザゼルは神妙な顔つきで耳を傾ける。義経の質問に応えるならばYESだろう。英雄のDNEで復活したとはいえクローン。本物の本人ではないのだ。

 

「・・・・・お前たちの存在意義ねぇ・・・・・」

 

「「・・・・・」」

 

「この世界に存在する為の理由なんて必要か?」

 

「え・・・・・」

 

「人間は人間らしく自由に、好き勝手に生きていればそれでいいんじゃねーかって俺は思うぜ?お前たちを生んだ財閥に何かしらの思惑はあるだろうが何も人生まで縛っているわけじゃないだろう?」

 

アザゼルの指摘に「そうだね」と弁慶が相槌を打って応える。

 

「なら、お前たちの意志で生きてみろ。今いる家から飛び出して自由にしたいことをすればいい。お前らが英雄のクローンだから本物の英雄の子孫や末裔、魂を受け継いだ者たちからすれば偽物だーって言うだろうが、偽物は偽物らしく本物の英雄の奴らにギャフンと言わせてみやがれよ。悔しかったらな」

 

まっ、テロリストになってやがる兵藤一誠も似たようなことを言いそうだがなってアザゼルが付け加えた時だった。

 

「―――っ」

 

義経が目を丸くして、何かに耐えるように身体を震わす。

 

「・・・・・似ている」

 

「何がだ?」

 

「義経たちを逃がしてくれた彼、兵藤一誠くんが同じ質問をした答えと・・・・・」

 

アザゼルは怪訝な顔で「アイツがお前らを逃がした?」と聞くと弁慶が義経の代わりに答えた。

 

「なんか聖杯で私たちを実験して来てね。実験の代わりに私たちを逃がして欲しいと断われる前提で言ってみたらあっさり呑んでくれたんだ。一誠、本当にテロリスト?」

 

「・・・・・今のところ自分の意志でテロリストになっていると聞いているが・・・・・で、あいつはなんて答えた?」

 

―――お前たちはお前たちだ。悔しかったら俺たちを勝って傲慢に自分たちが英雄だと言い張ればいい。そうすればいつか認めてくれるよ。

 

弁慶は自分たちを解放する前に発した一誠の言葉をそのままアザゼルに教えた。聞いたアザゼルは愉快そうに笑みを浮かべ始める。

 

「ハハハ!」

 

そして盛大に笑った。義経と弁慶、他の職員たちがアザゼルに視線を浴びせるほどに。

 

「悪い悪い。あーそうか。一誠の奴、そんな事を言っていたのか」

 

「・・・・・先生?」

 

「良しお前ら。対テロ組織に参加する気は無いか?英雄のクローンとして英雄の真似事をして見ろよ。そうすれば英雄派の連中が面白くないと向こうからやってきそうだ」

 

「でも、義経たちは・・・・・」

 

「力が無いなら俺なりに力になって与えてやる。丁度人工の神器(セイクリッド・ギア)をいくつか作ってあるからよ。もしそれで良かったら一緒に戦ってくれる代わりに与えてやる」

 

アザゼルからの提案に義経は弁慶に振り返る。弁慶は笑みを零して義経の頭を撫で始める。

 

「私は義経の、主の意に従うまでだよ。勿論与一にも無理矢理従わせるけどね」

 

「そ、それはダメだぞ弁慶。与一には自分の意志で義経の言う事を聞いてもらいたいんだ」

 

「どちらにしろ。決めるのは義経だよ。どうする?平和にのんびりと暮したいなら今のままでいいよ?個人的にそれが良いんだけどねー」

 

弁慶の言葉に悩むものの、義経は答えた。

 

「アザゼル先生。義経たちも一緒に戦いたい」

 

「くくく。部下の意志を反しているぜ?」

 

「弁慶は優しいから義経の言う事を聞いてくれるんだ」

 

「おやおや・・・・・嬉しい事を言われちゃったね」

 

片腕で義経の頭を回して胸にポフッと寄せたまま、頭を撫でる。その時、義経は弁慶の胸は肉まんだと思ったのは別の話である。

 

「よし、ならお前らに合う力を用意しないとな。今持ってる武器じゃ話にならん」

 

「よろしく願う」

 

「さて、どこかでボイコットしてる与一を探してこの事を伝えないとね主?」

 

「うん!そうだな弁慶!」

 

最初に尋ねてきた二人の態度と雰囲気は一変して明るく元気になり職員室を後にした。

 

「―――意外でした。きちんと教師らしい事をして励ますとは」

 

「うるせっ。俺だってやるときはやるんだよ」

 

リーラからのからかいが含んだ言葉に言い返すアザゼルも言い返した。

 

「一誠の奴、敵となっても優しいまんまのようだぜ?」

 

「どうやらそのようで」

 

「なんだ、嬉しくないのか?」

 

「はい、一誠さまはお優しいお方なのはこのリーラが熟知しておりますので」

 

『このリーラが』という部分に強調されていたようにも聞こえたが、アザゼルは敢えて触れず、突っ込まず

「そうか」と話を一度打ち切った。

 

「それで、お決まりになりましたか?ルーマニアに行くメンバーを」

 

「全員は無理だから慎重に決めている。大体は決まっているが残りはどうしようかと悩んでいるな。クロウ・クルワッハとオーフィスも加わって欲しいところだが、この町に残って貰う予定だ。また襲撃されたら堪ったもんじゃない」

 

と、色々と考えてメンバーを決めるアザゼルがルーマニアへ行くのは誰にしようかそれは直ぐには決められそうになかった。

 

「ああ、そうだ。お前に言い忘れていたことがあった」

 

「忘れるほどのことですからそれほど重要でも無い話しなのでしょうね」

 

「いや、それなりに重要だ。フェニックス家の令嬢、レイヴェル・フェニックスがこの学校に編入してくる事になった」

 

「それをどうして忘れるのですかあなたは・・・・・」

 

呆れ、溜息を吐いたリーラは続きを目で催促する。その雰囲気を察して言い続ける。

 

「この話はリアスたちにも伝わっていてな。フェニックス家の御令嬢はお前らの家に住みたいと希望だそうだ」

 

「そうですか。彼女は何時この学園に?」

 

「ああ、今日だ(ガチャッ)―――待て、その同じ某天才盗人の銃を俺のこめかみに突き付けるな。銃刀法違反だ」

 

「国から許可を得ているので問題ございません」

 

そういう問題じゃねー!グリグリと押し付けられる硬く冷たい銃口に冷や汗を流すアザゼルだった。

 

「あなたにとって大して重要でも無い話しなのはよくお分かりになりました」

 

「いえ、本当にとても重要な事でした。マジで悪いと思っているからグリップに掛けている指を外してくれマジで」

 

「アザゼルさま。私は常日頃から気になることがあるのです」

 

リーラはどこまでも綺麗な笑みを浮かべた。

 

「悪魔と天使、堕天使の頭蓋骨に包まれている脳は人間と同じなのかを。骨は人間より頑丈なのかを。この銃の弾丸でどこまで神器(セイクリッド・ギア)に関する知識と女性しか考えていない脳に穴を開けるのかを」

 

「ちょっ!?さらっととんでもない事を言うな!ええい!同僚のお前らもこの危なっかしいメイドを窘めるとかしないのかよ!?」」

 

周囲にいる職員まで巻き込むアザゼルに対して―――。

 

 

『さーて、今日も頑張るかー』

 

『先生、帰りに一杯どうですか?』

 

『おーいいね。俺、いい店を知ってんだわ』

 

 

無情にも堕天使の勢力の頭に救いの手すら出さず、すたこらさっさと巻き込まれたく無い気持ちが態度で現し、殆どの職員たちは職員室からいなくなった。その行動をする職員たちに「ふっ」と含みのある笑みを零したリーラ。

 

「―――人望ないですねアザゼルさま。さぁ、実験に付き合って貰いますよ?」

 

「う、裏切り者共がぁああああああああああっ!?」

 

パンッ!

 

―――○●○―――

 

「・・・・・?」

 

「どうした?」

 

「・・・・・誰かが悲しい出来事を起こした」

 

『何を言っているんだ?』

 

意味不明な事を突然言う一誠を怪訝に発する曹操たち。食事中で明後日の方向に向かって言う一誠に疑問を抱いた。

一心不乱に美味しそうに食べる呂綺を見て和み、癒され、ついつい「あーん」と食べさせると

呂綺は応じてパクリと食べるその可愛さに―――。

 

「・・・・・呂綺、可愛い」

 

一誠が慈愛に満ちた瞳で呂綺を見詰め続けるのだった。それにはズッキューンッと曹操たちはハートを撃ち抜かれた。

 

「くっ・・・・・一誠が子供だったら威力は計りしれないぞ・・・・・」

 

「なんだ、この気持ちは・・・・・無性に可愛がりたくなったぞ」

 

「ああ、母性をくすぐられるっ」

 

曹操、モルドレッド、リース順に発する。そんな三人に対して首を傾げるセカンド・オーフィス。

 

ワイワイガヤガヤ・・・・・

 

食堂は賑やかに包まれ、テロリストたちは今日も一誠の手料理で活力を、英気を養う。

英雄派はしばらく動くつもりはないが吸血鬼と一戦交える方針でいる。

故に、それまでは一時の休息と言えよう。

 

「おい兵藤一誠。曹操にしてみせたアレ、俺にもできるのか?」

 

「できる。けど、禁手(バランス・ブレイカー)ができなくなる。するならした後の方がいい」

 

「へぇ、なるほど。そんなデメリットがあるのか。グラムを扱う僕とは相性が悪そうだ」

 

「逆に使わなければいいだろう?六刀流の他に魔力での攻撃ができるなら攻撃のバリエーションが増えるじゃないか。それに曹操がしてみせた魔と気の融合で飛躍的に身体能力が上昇するあの妙技。兵藤一誠の魔法で作る分身体でも可能であれば俺たちは更なる強さを得れるだろう」

 

「そいつは面白そうじゃねぇーか!食い終ったら早速そうしてみようぜ!」

 

「英雄がドラゴンの力を得る、か」

 

そんなこんなで自分たちの時間をどう過ごすか決めていく。

 

 

『そう言えば、はぐれ魔法使いたちがこっちの術者たちと何やら手を組んで企んでいるって聞いたぞ』

 

『教会を追放された術者たちが?』

 

『でも、私たちには関係ないじゃない?』

 

 

「ふむ・・・・・」

 

同じ術者として気になる話題だったゲオルクはその話を詳しく聞きたいと思い、数人の構成員の方へと足を運んだ。

 

「その話を詳しく教えてくれないか?」

 

「えっと、詳しくと言っても子耳を挟んだ程度ですよ。フェニックス家を~涙の~とか変な事を言ってたぐらいで」

 

「フェニックス家と涙?」

 

フェニックスの涙の事だろうと推測する。だが、術者同士がなぜフェニックスの涙に拘るようになったのか。

そして一誠には知らせていないが、リゼヴィムが率いる悪魔たちが姿を消している報告も既に届いている。

 

「少し・・・・・探ってみるか」

 

「なにを・・・・・?」

 

何時の間にか一誠がゲオルクの背後に立っていた。気になったのか気配を殺して近づいていたらしいようで、ゲオルクを含む数人の構成員たちも目を丸くしていた。ジーと無言で視線を送ってくる一誠に一人の構成員が事情を説明したら「ふーん」と興味なさげに相槌を打った。

 

「フェニックスの製造方法を知ろうとしてるんじゃない?」

 

って、あっさりとどうしてそんな事をする必要があると苦笑を浮かべた構成員たち。しかし、ゲオルクは

一誠の言葉に興味深く再度尋ねた。

 

「それはどうしてだと思う?」

 

「・・・・・」

 

わからないと無言で答えられてしまった。過去、一誠はライザー・フェニックスとその眷属たちと接触した機会があった。それは曹操たちも知っていて、大して気に留めるようなことでも無かった。しかし、テロリストの術者とはぐれ術者が手を汲んでフェニックス家の涙に関わる企みをしている。あまり無視できないものではない。

 

「・・・・・売る?」

 

「莫大な資金を集める為か。テロリストらしい考えだ」

 

―――いや、俺たちもテロリストなんですが?突っ込みたいが幹部クラスの相手にそんなこと言えるはずもなく心の中で想い止めた構成員。

 

「となると・・・・・」

 

フェニックス家を利用して涙の製造方法を知り、莫大な資金を得るという単純明快な企みを看破したゲオルク。

 

「しかし、よりにもよってフェニックス家を狙うとはな。それとも他に何か狙いがあるのか?」

 

「フェニックス家を見張る?」

 

「お前の分身でやってくれるか?」

 

「ん、わかった」

 

分身であれば問題が起きようが問題ない。そう―――問題は―――

 

 

 

 

 

「で」

 

「・・・・・?」

 

「よくとまぁ・・・・・堂々と、お前から現れたもんだなぁ一誠」

 

対テロ組織混成チームに囲まれた分身体の一誠がいたとさ。


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