HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード56

「さて、私の相手をしてくれるのは誰かな?」

 

セカンド・オーフィスとアジ・ダハーカが戦いを始めている最中。鎧を纏った曹操が不敵に発した。

 

「アザゼル先生。曹操の聖槍の能力は?」

 

和樹は神器(セイクリッド・ギア)に詳しいアザゼルにいち早く説明を求めた。

 

「今までの『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の所有者が発現した禁手(バランス・ブレイカー)は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった。だが、今の状態の曹操は何をしてくるのか分からない。鎧と化した一誠を考慮すれば他の神器(セイクリッド・ギア)を使えるかもしれんからな」

 

「彼の神滅具(ロンギヌス)は二つでしたよね?」

 

「・・・・・」

 

曹操はどう答えて良いか悩んだ。

 

「確かに俺の知る限りでは二つだ。しかし・・・・・理由は分からんが赤龍帝と白龍皇の

能力を振るえる。英雄派にも神滅具(ロンギヌス)の所有者がいるから・・・・・何とも言えん」

 

そう話している間に曹操は何故か瞑目していた。

 

「じゃあ、今の曹操は事実上・・・・・」

 

「奴は純粋な人間の中で一番強い存在となっているはずだ」

 

アザゼルの呟きは聞こえていたのか分からないが、曹操に向かって駆けだす一つの影―――百代。

 

「アイツから一誠を引っぺがして連れ戻すまでだ!」

 

戦う意欲は変わらず戦意の炎を燃やし、武術の達人が道の力を得た曹操に勝負を挑む。

豪快に拳を突き伸ばす百代を見ずにいる曹操は口ずさむように呟いていた。

 

「ふふ・・・・・ふふふ・・・・・」

 

不気味に笑みを漏らしていた。それでも百代の拳は曹操の顔に突き出され、反応しない限り避けられない一撃。

 

「あああ・・・・・ここまで心底愉快な気分なのは初めてだよ」

 

瞑目していた目をようやく開き、迫りくる百代の拳を視認すると―――軽く手の平で受け止めた。

 

「なるほど、彼の力はここまで凄まじいとは。武神の拳の威力と衝撃など一切感じないぞ」

 

刹那―――百代の腹部に曹操の手が添えられた。

 

「食らえ」

 

「―――っ!?」

 

雷が帯びた極太のレーザービームみたいに放った『魔力』が百代を呑みこんだ。 

アザゼルたちはそれを見て驚愕した。零距離から受けた百代は全身を黒く焦がし、黒い煙を立ち上らせる。             

「キミの弱点は既に把握している。気を消費し、細胞を活性化させて負ったダメージを瞬間的にも回復するその技は格下の者にとっては驚異的だろう。だが、その再生能力を雷で麻痺させて著しく低下させれば身体の回復機能は使えなくなる」

 

「こ、の・・・・・っ」

 

掠れた声だが、百代の赤い目は曹操を睨み、攻撃の意志を示すように腕を上げだした。

 

「ほう・・・まだ意識があったか。だが、もう詰みだ」

 

二度目の雷撃が百代を襲い、呑みこんだ。そして、武神・川神百代は・・・・・攻撃が止んだ瞬間にドサリと曹操の前に倒れた。

 

「曹操ぉっ!」

 

「・・・・・っ」

 

エスデスとシオリが百代を倒した曹操に飛び出していく。片や氷使い、片や魔人という真正面から勝つには難しい相手がやってくる。二人を見て両手を横に広げだす曹操。何をするのだろうかと思いきや―――。

 

「右手に魔力、左手に気」

 

二つの力を手の平に具現化させソレをあろうことか一誠のように合わせ、融合させて見せた。

曹操の両手は眩い閃光を発し未知のエネルギーに全身が包まれる。

 

フッ

 

と、虚空に消えた曹操に見失ったエスデスとシオリ。背中合わせで探しているとシオリが反射的に何かを察知して空へ見上げた。そこに―――両手の間に気と魔力を融合させ、集束していた。

 

「その攻撃、私には効かないわよ」

 

魔人の力を解放したシオリが紋様状の翼を羽ばたかせ空にいる曹操へ飛来した。

シオリが迫っていることに曹操はニヤリと口角を上げだした。

 

ジャラララッ!

 

「―――っ!?」

 

曹操の周囲の空間が歪みだし、歪んだ空間から数多の鎖が飛び出して意志を持っているかのようにシオリへ襲いかかるも曹操への突貫を止めず迫る鎖を避けながら飛行する。しかし、一本の鎖がシオリの足に絡みついた結果、魔人の力が封じられ一人の少女にされた。

 

「これなら効くだろう?」

 

「―――最悪」

 

相反する力の砲撃。魔人の力を封じられてシオリは成す術も無く曹操の一撃に食らって呑みこまれ、地上にいるエスデスが作った氷の壁まで貫き、川神学園組の三人を一人で倒した曹操。

 

「―――強いっ!」

 

アザゼルが唸る。一誠に次ぐ実力者たちが鎧と化した一誠を纏ったことで飛躍的に力を増した曹操によって倒された。アザゼルたちは曹操に警戒せざるを得なかった。

 

「今度は俺が行こう」

 

ズイっとサイラオーグが勝って出た。リアスが期待の眼差しで見送った数分後。

―――魔人の力を解放、仙術を行使した曹操によって気を乱され闘気を奪い尽くされ、鎖で縛られて敗北したサイラオーグが出来上がった。

 

「サ、サイラオーグ・・・・・」

 

「くそったれがっ!チート過ぎるだろう!」

 

まだ、倒れていないメンバーはいるが曹操の強さの前に敵わないと理解された。それでも、戦意は失っておらず臨戦態勢の構えをする。

 

「次は誰―――」

 

と曹操が言いかけた瞬間。鎧が光り輝きだすと弾け、曹操の隣に一誠が跪いて肩で息をする姿で現した。

 

「一誠・・・・・?」

 

「・・・・・疲れた」

 

「そうか、ぶっつけ本番だからまだ安定しきれていなかったか」

 

一誠の疲弊っぷりに曹操は直ぐに理解できた。一誠に肩を貸して立ち上がらせる。

 

「今日はここまでにしよう。今回は挨拶として姿を現したようなものだからね」

 

この場から離れ逃げようとする雰囲気を醸し出す曹操。ゲオルクも曹操の言葉の意図を汲んで転移用魔方陣を展開した。

 

「逃がすかっ!―――っ!?」

 

アザゼルが阻もうと動いた矢先に虚空から鎖がアザゼルの首と両の手首、足首に巻き付いて能力と動きを封じた。

それは戦闘不能と戦闘続行できる対テロ組織混成チーム全員にも同じだった。この場から逃げる為の時間稼ぎ。

しかし、例外はいた。

 

「イッセーを返す」

 

「させない」

 

オーフィスには効かずセカンド・オーフィスと周囲に破壊の影響を与えながら魔力を放っている。

クロウ・クルワッハもアジ・ダハーカと戦闘中だ。

 

「後であの二人を連れて帰るとして先に私たちは戻ろう」

 

「分かった・・・・・」

 

ゆっくりとゲオルクたちに近づく。曹操にとって今日は面白いことで一日は尽きた。後に一誠と調整をしながら更なる高みへと目指す。英雄の凱旋を現実にする為に―――。

 

キラッ

 

国会議事堂から一筋の光が一誠の視界に入り、黒い長髪に褐色肌の女が細長い黒い物を持ってレンズ越しに覗きこんでいることに気付いた。殆ど一誠はそれを見た瞬間、動物の本能的な何かによって反射的に曹操をゲオルクたちの方へ強く突き飛ばした瞬間。一筋の光が大気を貫き、金色の杖を具現化してゲオルクたちに結界を張り、黒と紫が入り乱れた籠手を装着して前方へ突き出した一誠を嘲笑うかのように軌道を変え―――顔面を捉えた。そして倒れる一誠のその光景を全員が目を丸くした。何者かによって狙撃されたと理解したのは少しだけ時間が掛かった。セカンド・オーフィスとアジ・ダハーカと戦っていたオーフィスとクロウ・クルワッハですら戦闘を止めて唖然と見詰める。

 

「イッセー!?」

 

「一体誰が・・・・・っ!」

 

その答えは再び国会議事堂から伸びる光の一筋。真っ直ぐ倒れる一誠に向かっていた。

 

「させませんっ!」

 

一人の金髪の少女が―――背中にドラゴンの翼を生やし、魔力を一誠の所有物であるブリューナクへ流し込みつつ構え、五つの光線を放って凶弾を弾き飛ばした。

 

「―――ヘラクレス、レオナルドォッ!」

 

曹操の激昂に呼ばれた二人は大型の魔獣を創造し、身体中にミサイルのような突起物を生やし、国会議事堂へと攻撃を仕掛けた。日本の象徴とも言える政府が集う建造物が破壊されていく。魔獣の口から放たれる極太の魔力砲撃によって崩壊した。

 

「曹操っ!早く彼を連れていきますよ!」

 

「―――分かっている」

 

少女が一誠を抱えてゲオルクたちの方へ駆けだす。同時に後方から鎖が解けたことで自由の身となったアザゼルたちが追いかけてくる―――。

 

ゴガァァアアアアアアアアアアッ!

 

が、レオナルドが機転を利かせ魔獣を差し向けた。その間に曹操はアジ・ダハーカとセカンド・オーフィスと共にゲオルクが展開している魔方陣に踏み入った。

 

「一誠・・・・・」

 

右半分だけ鮮血で顔を汚す一誠。意識はありジークフリートが高級そうな瓶を一誠の顔に掛けている最中だった。

その瓶は『フェニックスの涙』。独自のルートで入手した回復アイテム。一生の傷も残らないだろうと安堵の気持ちと成り転移用の魔方陣の光は一層輝きを強まっていく。

 

「キミは・・・・・私の英雄だよ」

 

―――○●○―――

 

対テロ組織チームは惨敗の結果で戦いは終わった。戦後処理として大勢の人間たちが忙しなく壊れた建物、負傷した人間を対処に当たっている。戦って得た収穫があるとすれば一誠の状態と安否、そして―――。

 

「あいつの神滅具(ロンギヌス)、『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』を手に入った・・・・・か」

 

『お疲れ様です皆さん』

 

金色の杖からメリアの声が聞こえてくる。

 

「メリア、一誠は本当に自分から望んで?」

 

『事実です。あの悪魔を復讐する為に自ら彼女たちと共に歩む事を決めました。彼女の言葉は嘘などありません』

 

改められて突き付けられた現実と事実にショックを隠しきれなかった。

 

『ですが、救いはあります。主は記憶を封印されているだけで消されたわけではありません』

 

「本当か?」

 

『何かの切っ掛けで主は記憶を取り戻せます。その為にはリーラ、あなたの存在が必要不可欠です』

 

一誠を取り戻す鍵となるリーラ。

 

『あなたの主に対する絶大な想いを主にぶつけてください。そうすればきっと主は元に戻ります』

 

「想いをぶつける・・・・・」

 

金色の杖をアザゼルから受け取り、ギュッと胸に抱える。

 

「まだ、希望はある・・・・・か」

 

正直喜びたいとアザゼルは思うが建物の被害と敗北は無視できない。兵藤家と式森家が束になっても勝てなかったテロリストの存在は世界にとって脅威的になった。これからも英雄派は増強し、力も増していくだろう。

それは―――かなりとんでもなく危険なことだ。何か手を打たなければならない。

 

「リーラ。お前さんが今まで出会った人物の中で師に適している者はいるか」

 

「師・・・・・ですか」

 

「英雄派は一誠を通じて強さを得ている。こちらも修行や特訓、経験をしない限りこのままじゃ一誠を取り戻すどころか英雄派とリゼヴィムに太刀打ちなんてできない」

 

「・・・・・」

 

真剣な表情で現在のリアスたちでは太刀打ちできないとハッキリ告げる。事実、魔人や接近戦の達人、最強のドラゴンがいたにも拘らず破られたり足止めされた。さらに一誠自身が鎧と化し対象を纏う現象。

 

「対テロ組織混成チームと結成してもこんな結果じゃ結成した意味が無い」

 

「そうですね・・・・・」

 

アザゼルの言うことも道理だと頷く。聖槍にイレギュラーなドラゴン。この組み合わせは凶悪だ。

 

「今後の課題になりますね」

 

「ああ、そうだな」

 

するとアザゼルたちの耳元に小型の魔方陣が出現した。『お疲れさま』と労いの声を発するナヴィが。

 

「英雄派の情報収集は取れたか?」

 

『ええ、あなたたちの頑張りのおかげでね。怪我の功名ってところかしら』

 

「そうか。後でそのデーターを回してくれ。これからそっちに帰るからよ」

 

『わかったわ。できれば早く帰って来てくれる?あなたたちに客が来てるわよ』

 

―――客?誰の事だと怪訝になるアザゼルとリーラ。しかし、ナヴィが言うのだからいち早く家に戻ったアザゼルたち。転移用魔方陣で家の玄関の前に現れて今日の出来事を糧にし次の機会に活かそうと心から望み抱く一行はリビングキッチンに赴いた。ガチャリと扉を開け放ち、中に入ると―――。

 

「おっ、お帰り。やっと帰ってきたな」

 

朗らかにリーラたちに出迎え声を掛ける人物がいて銀髪のメイドが用意しただろう茶をずずずっと飲んだ。

帰ってきたリーラたちは豆鉄砲を食らった鳩のように目の前の神部たちの存在に受け入れ難くいた。

周囲を見渡せばアレイン、ユーミル、エイリン、ナヴィ、フレイヤといった居残り、留守番組が壁際に立っていた。

 

「・・・・・これはどういうことだ?」

 

「まぁ、座れ。ここはお前たちの家だがな」

 

と―――本来誠か一香なら疑問を抱かず歓迎していただろうが生憎、本当の意味でこの場に、この世界にはいないはずの存在が悠然とした態度で茶を飲んでいるのだから心底理解し難い。

 

「ナヴィさま。彼らは何時頃から・・・・・?」

 

「あなたたちが英雄派と接触した頃に突然現れたわよ。目的を聞いてもあなたたちが帰ってくるまで教えないの一点張り」

 

肩を竦めるナヴィ。リーラとアザゼルは―――異世界の兵藤一誠の前に腰を下ろした。

 

「お前たちの戦いを見ていたぞ。不謹慎だがこの世界の兵藤一誠は面白いものを見せてくれたな。まさか自分が鎧と化となって曹操に纏うなんて俺ですら思い付かなかったぞ」

 

「来ていたんなら俺たちの加勢とかしようとは思わないのか?」

 

「あの時はミカルの願いを聞いたからしただけだ。今回はプライベートでこの世界に来た。あれからどうなっているのかと思えば・・・・・まだこの世界の兵藤一誠は捕まったままか」

 

嘲笑でも侮蔑でもない純粋な気持ちで言う異世界の兵藤一誠。

 

「しかも、俺が知っている英雄派はあそこまで強くは無かったな。やはりどの世界のドラゴンは力を引き寄せ、イレギュラーな方へと成長するもんだな」

 

「お前の世界の英雄派は弱かったと言うのか」

 

「人と能力は同じだ。だが、一人の存在がいるのといないのとの差で強さは違う。まさか、百代やシオリ、サイラオーグが負けるとは思いもしなかったよ」

 

苦笑を浮かべて次の一言をアザゼルたちに氷らせた。

 

「今のままじゃ絶対に兵藤一誠を倒すことはできないなお前たちじゃ」

 

『―――っ!?』

 

「兵藤誠と兵藤一香も魔人の力の前じゃ攻め倦む。じゃあ、武器で臨む?それも無理だ。ゾラードの消滅の力を具現化した鎧の前じゃ消滅させられるのがオチだ」

 

現実を突き付けられ、唇を噛みしめ異世界の兵藤一誠に睨む。「じゃあ、お前なら勝てるのかと」。

 

「言ってくれるじゃねーか。こっちはそんなことぐらい分かってるんだよ」

 

「あいつは俺だ。アイツが持っている能力は俺も有しているからな」

 

「じゃあ、アイツの弱点も知っているんだな?」

 

話の流れ的にアザゼルはそう言う。対して異世界の兵藤一誠は当然だと首を縦に振った。

 

「想いの力で打ち勝てばいい」

 

「想い・・・・・」

 

「特にこの世界のリーラ。お前がこの世界の兵藤一誠に打ち勝つしか手が無いだろう」

 

メリアと同じ事を言う。一誠に対しての攻撃は『想い』。それをどうやってすればいいのか今でも分からない。

 

「アザゼル。ヴァーリはいる?」

 

「あいつはテロリストでスパイ活動をしているぞ」

 

「んじゃ、ヴァーリを呼び戻して一緒に戦って貰うようにしろ。さっきの戦い、ヴァーリがいたら状況は違っていただろうに。それとテファ」

 

「は、はい?」

 

「忘却の魔法。ハルケギニアの魔法を使えるか?」

 

「え・・・・・?」と異世界の兵藤一誠の言葉に疑問を抱く。その反応に異世界の兵藤一誠も不思議そうに首を傾げる。

 

「あれ、知らない?」

 

「は、はい。忘却の魔法ってなんですか・・・・・?」

 

「風のルビー、始祖のオルゴールがあれば習得可能の魔法だ。効果は相手の記憶を消去、奪う」

 

「記憶を消去、奪う・・・・・」

 

「うん、きっとこの世界の兵藤一誠に対して有効的かつ効果的な魔法だろう。リーラの死を忘れさせることもできるからな。魔術的な力でもできるだろうけどよ」

 

その話を聞いた面々は目を丸くする。そんな魔法がハルケギニアにあるとは誰も知りもしなかった。

 

「・・・・・やっぱり、この世界と俺たちの世界とは違うなリーラ」

 

「はい。そうですね一誠さま」

 

リーラと呼ばれた異世界のメイド。リーラは写し鏡のように自分の目の前にいるもう一人のリーラを見詰める。

顔の容姿と美貌は殆ど自分と変わらない。メイド服も全く同じ。しかし、左薬指に嵌めている指環を見れば

結婚している者のとしての証であることがこの世界と異世界のリーラの違いがわかる。

 

「おい、お前が言った物はどこにある」

 

「ハルケギニアのアルビオンに聳え立っている白い塔の中だ。指環の方はアルビオン王国の王家が持っているはずだがこの世界じゃハッキリと断言できないな」

 

世界の違いがあるしと付け加える異世界の兵藤一誠。

 

「だが、気をつけろよ。塔の中はダンジョンだ。俺はハルケギニア中の塔を攻略した身でな。中には一万のドラゴンが待ち構えていた塔もチャレンジした」

 

「い、一万・・・・・」

 

「―――いや、そんな苦労をせず直接教えればいいか?」

 

意味深なことを言いだす異世界の兵藤一誠。雰囲気的にどういうこと?と醸し出していると金色の杖―――『無限創造龍の錫杖(インフィニティ・クリエイション・メーカー)』を具現化し出した。

 

「―――同じ神滅具(ロンギヌス)・・・・・っ!」

 

形は違えど、似ている部分がある。異世界の兵藤一誠は立ち上がりだして壁に向かって聞き覚えのない呪文を呟き始め、杖を壁に向かって突き出した次の瞬間だった。壁一面に光る窓が発現して、窓の向こうを覗けばどこかの部屋の中の光景、食事中のようで大勢の男性と女性、子供が席に座っている様子を窺えた。

 

「おーい」

 

異世界の兵藤一誠が声を掛けると一斉にこちら側に振り向いて―――驚きのあまり目を丸くした面々。

 

「あれ・・・・・まさかじゃないけど私・・・・・?」

 

「嘘・・・・・」

 

この世界の面々は信じ難いと目の前の面々に瞬きする事も忘れて漏らす。

向こうから大挙して近づいてくる大勢の者たちの一人が異世界の兵藤一誠に尋ねた。

 

「イッセー・・・・・彼女たちってまさか・・・・・」

 

「ああ、俺たちからすれば異世界でまだ学生時代の俺たちだ。―――ティファニア」

 

異世界の兵藤一誠の呼び掛けに一人の金髪で耳が尖った巨乳の女性が応じて現れた。

テファはまさしく自分である女性に驚いていた。

 

「はい、あなた」

 

「お前の忘却の魔法。風のルビーと始祖のオルゴールを異世界のティファニアに貸してやってくれないか?」

 

「異世界の私・・・・・」

 

改めて自分を見詰める異世界のティファニア。驚きはしたものの懐かしみが籠った眼差しを向ける。

すると、テファの隣に立つ少女たちにも目を向けた。その少女たちはエルフだと分かり、自ら近づいた。

 

「異世界の私、こんにちは」

 

「こ、こんにちは・・・・・」

 

「ふふっ。懐かしい姿だわ。始めてイッセーと出会った時の自分を思い出す」

 

「そうなんですか・・・・・?」

 

「ええ、半ば強引にルクシャナが手を引っ張って私をイッセーたちと一緒にハルケギニアのダンジョンを巡ってそれから一緒に生きるようになったのよ?」

 

テファは気付いた。一誠との出会いが違う事を。目の前の異世界のティファニアは自分とは違う生き方をしている。だからこそ聞きたかった。

 

「あの、母は生きていますか・・・・・?」

 

「・・・・・残念だけど、私を庇って死んでしまったわ」

 

「―――っ!?」

 

異世界のティファニアの発言にシャジャルは目を張る。それは―――あの時、自分が身を呈してテファを守ろうとした時のことではないかと思わずにはいられなかった。

 

「あなたは?この世界のあなたの母は生きている?」

 

「・・・・・はい、この人が私の母です」

 

「え?」

 

異世界のティファニアはテファの隣に立つ少女、シャジャルに目を丸くした。どう見ても十代後半の少女にしか見えない。だが・・・・・異世界のティファニアは亡くなった自分の母親、シャジャルと被る事に実感し。

 

「そう・・・・・この世界じゃ母は生きているのね・・・・・若いけど、母だとわかるわ」

 

尻目に涙を溜め、自分の事のように嬉しそうな微笑みを浮かべた。シャジャルはスッと異世界のティファニアに腕を伸ばした。

 

「あなたの世界の私もあなたを守ろうとして死んだのですね。私と同じ優しいエルフであった事を私は嬉しく思います」

 

「おか―――シャジャルさん」

 

「私を母と呼んでも良いのですよ。私のもう一人の娘。よく彼と出会うまで強く生きましたね」

 

「―――っ」

 

シャジャルは異世界のティファニアを抱き絞めて優しく語りかけた時、シャジャルを抱きしめ返して嗚咽を漏らす異世界の自分にテファは静かに見守った。その後、異世界同士と自分同士の出会いを経て、テファは異世界のティファニアから指環とオルゴールを受け取った。

 

「兵藤一誠さま・・・・・」

 

「ん?」

 

「あの時、私を復活させていただいて誠にありがとうございました」

 

深々とリーラは異世界の兵藤一誠に頭を下げたまま言葉を言い続ける。

 

「お願いがございます。私たちを強くして貰えないでしょうか」

 

「鍛えて欲しいってことか。この世界の俺を取り戻す為に」

 

「はい」

 

「そうだな。お前ならリアスたちはイレギュラーな成長をするだろう」

 

リーラに同意するアザゼルも「頼めるか」と懇願する。しかし、難しい顔で異世界の兵藤一誠はこう答えた。

 

「俺も人王としての立場があるからな。これでも多忙な身で付き合うことはできないぞ」

 

「そこをなんとか頼めないか?」

 

それでも異世界の兵藤一誠は良い返事をしてくれなかった。しかし、異世界のリーラが見兼ねてある事を告げる。

 

「一誠さま。一時だけでも彼女たちにあの中で経験を積ませればよろしいではないでしょうか」

 

「あの中・・・・・?・・・・・ああ、アレか。確かにあれなら時間は確保できるがそれでも一朝一夕だぞ?」

 

「彼女たちに課題を伝え、書き残せば後は自ずと成長するかと」

 

「それだと、お前にも手伝ってもらわないといけなくなるぞ?」

 

「愚問を。私は夫であるあなたの力に成れるのであれば喜んでご協力を惜しまず致します」

 

絶対的な忠誠心を窺わせる異世界のリーラにやはり自分自身だと改めて認知したリーラであった。

 

「・・・・・ふぅ、そこまでいわれるとやらないわけにはいかないな」

 

魔方陣を展開してスノーグローブみたいに球形の透明なガラスの中に海と砂浜、大きな崖の上に石造りの建物が入っている物を取り出した。

 

「ただし、子供たちが学校に送ってからだ。それでいいな?」

 

「勿論でございます。―――ほら、あなたたち。早く食事を済ませて学校に行きなさい」

 

えーっ!と不満げに文句を発する子供たち。―――異世界のリーラは微笑んだ。

 

「お仕置きされたいのですか?」

 

『いえ、喜んで行ってきますっ!』

 

ハキハキと子供たちはそう言うと急いで食事を済ませ、近くに置いてあった鞄を手にして『行ってきまーす!』と

逃げるようにいなくなった。

 

「・・・・・お前、どんな教育をしているんだ?」

 

「アザゼルさま。あなたさまも体験してみますか?」

 

「いや、結構だ」

 

リーラはやっぱりリーラだと悟ったアザゼルだった。

 

「あー、せっかくの休日がこんな展開になるなんてな」

 

「いいじゃない!異世界の自分と出会えるなんて私は楽しいわよ?」

 

「そうだねー。僕も自分の学生時代の僕を見れて懐かしい気分だよ」

 

「うん、楽しくなってくるね」

 

ぼやく異世界の兵藤一誠は異世界の面々が笑みを浮かべ楽しげに漏らすのを耳にしながらスノーグローブをテーブルの上に置き魔方陣を展開した。

 

「一週間程度でいいか。この世界の俺たちは初めてだからな」

 

「一週間?おいおい、俺たちにも都合があるんだぞ」

 

ガラス玉を用いて一週間も修行をする気なのかと考えるアザゼルを言い返した異世界の兵藤一誠。

 

「百聞は一見に如かず、だ。アザゼル。俺たちはこれを愛用にしているんだぜ?主に鍛練や修行、仕事用に―――妻たちと愛し合う為にな」

 

「これが一体何だと言うんだ・・・・・?」

 

「これからわかるさ。さてと」

 

異世界の兵藤一誠はもう一人の自分を作り出しては異世界を繋げる窓の維持を任せて自分たちは―――ガラス玉から発する光に包まれた。

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「ここは・・・・・」

 

周囲を見渡すアザゼル。バカンスに来ているかのような暑さを感じ、石で設けられた大きな球状の足場に伸びる巨大な石造の建物。下を見下ろせば大海原と砂浜、森に囲まれた崖の上にいる事を知る。

 

「俺たちはガラス玉の中―――『自由で有意義な時間の空間(フリーダムタイム・バカンス・ルーム)』にいる」

 

「お前、こんな物を作れるのか?」

 

「メリアと兵藤誠の神滅具(ロンギヌス)の能力を使えば可能さ。ここで俺たちは有意義に過ごす。一週間もな」

 

このガラス玉の中で一週間・・・・・。やはり異世界の兵藤一誠の意図が読めない。

 

「本当にこの中で一週間もか?」

 

「そうだ。だが、ここは特殊な結界の中にいるようなもんでもある。この中で一週間も過ごせば外の世界の時間はたったの七分としか経過していない設定をしている」

 

「―――なんだ、その好都合過ぎる王道的な展開はっ!?」

 

便利すぎるだろコンチクショーッ!と興奮のあまり叫びだすアザゼル。

 

「永遠に近く生きる異種族にとっては不要かもしれないが、仕事や趣味、愛しい者と過ごしたい時間を欲しい人間からすれば喉から手を出すほど欲しい代物だろう?しかもここならどんな攻撃をしても外に影響は一切無いし持ち運びも可能だ」

 

「すげー欲しいんだけど!?コレ、俺にくれ!」

 

子供のように顔を輝かせて強請るアザゼルに苦笑を浮かべる異世界の兵藤一誠。

 

「作り方を教える。後はこの世界の兵藤一誠に作って貰え。―――さて」

 

足元に転移用魔方陣を展開し、あっという間に砂浜に移動した面々。

 

「最初はお前らの力を見せてもらおうか。ああ、この世界のオーフィスとクロウ・クルワッハ、リーラー、アザゼルと神フレイヤを除いたお前らだけで」

 

「力を計る為か?まぁ、妥当な修行だと・・・・・」

 

「―――言っておくが、俺は生易しい修行をさせるつもりもするつもりもないからな?」

 

砂浜に幾つものの巨大で様々な色の魔方陣が出現した。魔方陣が輝きを一層深くして、ついに弾けた時―――。

空間全て振るわせるほどの声量―――鳴き声が、そのものの大きな口から発した巨大なドラゴンたちが姿を続々と姿を現したのだった。

 

「ほう・・・・・これは・・・・・」

 

「懐かしい」

 

クロウ・クルワッハとオーフィスが興味津々に現れたドラゴンたちを見詰める。

 

「―――こいつらはっ!」

 

アザゼルが絶句し、リーラたちは驚愕の色を浮かべる。

 

「これが俺とこの世界の兵藤一誠の違いの差だな」

 

愉快そうに言う異世界の兵藤一誠の周囲には見慣れたドラゴンや始めてみるドラゴンたちが勢揃いしていた。

 

『グハハハハッ!まーた異世界に来たのかこいつはと思ったら俺たちを出しやがって。なんだ、遊んでいいのか?』

 

『私もお呼びとは何をすればいいのでしょうかねぇ』

 

『どうせならこの世界の私と会ってみたかったがな』

 

『だったらオレはこの世界の最強の五大龍王と、オレとロックな勝負をしたいな!』

 

『オーフィスとクロウ・クルワッハが二人もいるなんてねー』

 

『主はやはり主ということか』

 

『落ち着いたと思えばそうでもなかったですね』

 

『『・・・・・』』

 

数匹のドラゴンたちが好き勝手に喋り出す。リアスたちは目の前のドラゴンに驚きっぱなしでいた。

しかもどうして召喚したのか―――。

 

「―――グレンデル。取り敢えずこいつらを全力で攻撃していいぞ」

 

『おほっ!いいんだな!?』

 

『ちょっ―――!?』

 

「お前を満足させることはできないだろうが、それでも楽しめ」

 

嬉しそうに肌黒く背中に大きな翼を生やす人型ドラゴンに、グレンデルにリアスたちにとって死の宣告が告げられた。

 

『グハハハハッ!この場にドライグやアルビオンがいないのは確かに物足りねーが、それでも暴れられるからにはお前らで楽しませてもらうぜぇっ!』

 

哄笑を上げ、銀色に輝く双眸は鋭く、ギラギラと戦意と殺気に満ちていたグレンデルが巨大な拳をリアスたちに向かって豪快に振り下ろした。リアスたちは避けると砂浜の砂を撒き散らし、クレーターを作った。

 

「なんなの、このドラゴンは!?」

 

「『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル。滅んだ邪龍の中でも最硬クラスの鱗を誇っていた―――滅んだはずの邪龍だ」

 

『邪龍!?』とリアスたちはクロウ・クルワッハの説明に驚愕した。

 

「そうだ。その上、こいつは食らったダメージを嬉々として受け入れる。戦闘凶を超えた死闘凶のドラゴンだ。生半可な攻撃はグレンデルの鱗には効かないぞ」

 

『グハハハハハハァッ!そういうことだぜぇっ!』

 

腹を何度も膨張させ、口から巨大な火炎球を何度も吐きだす。

 

「―――大きいっ!」

 

迫りくる火炎球に和樹は海の海水を魔力で操ってグレンデルの火炎球を打ち消そうとする。

 

『おっそいぜ、式森ちゃんよぉっ!』

 

「なっ―――!?」

 

巨体に見合わぬ俊敏な動きで和樹の背後に回ったグレンデルが拳を正拳突きにして突き出した。和樹に迫る巨大な拳は展開された幾重の防御魔方陣をものともせず硝子細工のように打ち砕き、ついに和樹の身体に直撃して海まで殴り飛ばした。

 

「和樹さん!?」

 

「和樹の魔方陣があんなあっさりと・・・・・!」

 

「雷光よっ!」

 

ビガッ!ガガガガガガガガッ!

 

朱乃の雷光の一撃は容赦なくグレンデルに直撃した―――!

 

『この程度の雷なんざ効かねぇよぉっ!』

 

が、翼を大きく広げ羽ばたかせて空を飛んだグレンデルが火炎球を乱れ撃ちに砂浜へ放った。

砂浜に直撃した際の熱風と衝撃は凄まじく、火炎球に当たらずともリアスたちが展開した防御魔方陣にも影響を与えボロボロになる。

 

『てめぇの雷より、こっちはもっと痺れるほど何度も浴びているんだ。お前よりももっと強力な雷をよぉっ!』

 

「なら、俺の拳はどうだ?」

 

サイラオーグが勇ましく果敢にグレンデルの顔に目掛けて跳び、頬に拳を轟音を鳴らしながら突き出した。

一瞬よろけるが、体勢を立ち直して殴られた箇所を指でこすって嬉しそうに狂気の笑みを浮かべた。

 

『グハハハハッ!グハハハハハハッ!最高だなぁっ!久々に痛快な痛みを感じたぜぇおいっ!』

 

それが引き金になりテンションはさらに高くなったグレンデルは文字通り容赦のない攻撃を繰り出す。

剣で斬ろうにも硬い鱗に阻まれ傷一つも付けれない。魔法で攻撃しても逆に自分から食らいに来るドラゴンに驚く。策を講じようと作戦を伝え、その通りに動いても強大で凶悪な力の前に通じず突破される。

 

その結果―――。

 

「グレンデル。ストップだ。もうそいつらは戦えない」

 

異世界の兵藤一誠がグレンデルを止めた。リアスたちは満身創痍。英雄派との戦いで消費した体力と魔力が全快してでも邪龍のグレンデルに勝てはしなかっただろう。

 

『ちっ、こっちはまだまだ戦えるってのにもうへばりやがったか』

 

「そういうな。寧ろお前と戦って死ななかった方が凄い事だ」

 

『不完全燃焼だ。おい、今度はお前らが俺と殺し合いをしろや』

 

「後でならいいぞ」と答え、砂浜にひれ伏すリアスたちに告げた。

 

「三日間、最初はグレンデルと全力で戦って貰う。それからアジ・ダハーカの放つ魔力弾の中でランニング。その後は各自異世界の自分たちとマンツーマンで特訓。この場にいない他の奴は俺たちが直々に相手をする。四日目からは他のドラゴンたちと全力で勝負。精根尽き果てるまでな。そして最終日の七日は俺たち異世界の者がお前たちと勝負する」

 

「・・・・・流石に死ぬんじゃないか?」

 

異世界の兵藤一誠の修行メニューを聞いて冷や汗を流すアザゼル。殆どドラゴンが関わっている修行で命がいくつあっても足りないと思うほどの過酷さだった。異世界の兵藤一誠は呆れ顔で言い返した。

 

「俺もこの世界の兵藤一誠もそのぐらいのことをしていた。していたはずだ。こいつらもそれに似たレベルの修行をしなくちゃこの先、やっていけれないぞ。それに敵対する相手に容赦はしないという心構えも必要になる」

 

「むぅ・・・・・」

 

「そう言えばアザゼル。ファーブニルとはまだ契約しているのか?俺の世界のアザゼルはアーシアに契約をさせていたんだ」

 

「ほう?」

 

興味深い話しだと異世界の兵藤一誠に耳を傾ける。ふと、物足りなさを感じ辺りを見渡すと疑問をぶつけた。

 

「そういや、異世界のアーシアは見当たらないな?」

 

「彼女は成神一成と結婚しているからいないぞ」

 

「おおう・・・・・本当に違うな」

 

「面白いだろう?だから俺はプライベートでこの世界にやって来たんだ」

 

そう言う異世界の兵藤一誠は朗らかに笑みを浮かべたのだった。


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