HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード55

不気味な鳴き声を唸らせて魔獣が大挙してこちらに向かってくる。

 

「エスデス、お前の氷は効かないらしいが?」

 

「抜かせ。私の氷はただ対象を凍らせるだけではないわ」

 

百代の挑発染みた言葉にパチンと指を弾いた瞬間に空気中の水分の一気に氷結さて巨大な氷塊を作り出した。

 

「潰れろ」

 

英雄派ごと氷塊は魔獣の上に落下して押しつぶした。

 

「おいおい・・・・・キャパシティ超えてんぞ。セラフォルーといい勝負できるんじゃないか?」

 

「誰の事を言っている?」

 

「そこにいる眼鏡を掛けた悪魔の姉の事だよ。セラフォルーも氷の使い手だからな」

 

セラフォルーに興味を抱いたエスデスを余所に氷塊が巨大な魔獣の手によって持ち上げられ、豪快にお返しとばかりエスデスの方へと投げられた。

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

力強く静かに漏らしたルーラー。漆黒の衣の上に鎧を部分的に装着し、剣と旗を携えた姿という出で立ちで氷塊に向かって燃え盛りだす炎の剣を上段から―――巨大化した

炎の刃が氷塊を、巨大魔獣を朱色の軌跡まで残して一刀両断。一拍遅れて氷塊は大爆発を起こし、魔獣は灼熱の炎に全身を焼かれながら倒れた。

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

「中々の剣技であるな」

 

ルーラーの実力に感嘆と称賛の声が漏れる最中、パチパチと拍手する音が聞こえてくる。

 

「―――いやー、いいね♪」

 

建物の屋上から英雄派がいるのを認知し、曹操が楽しげにルーラーを見詰める。

 

「レオナルドと一誠が合同で作り出した魔獣をたったの一撃で倒すとは流石だ」

 

「もう一度、今度はあなたたちに向けます。向けられたくなければ一誠くんを返してくれますか?」

 

「それは断らせてもらうよ。なんせ彼は私たちの給仕係を担当してもらっているのだから。彼の手作り料理、美味しいと評判だよ?」

 

「それは当然でしょう。一誠くんの料理は世界一なんですから」

 

「なんなら、キミもこちら側になるかい?その素質はあるしね」

 

曹操の勧誘に綺麗な顔を顰め「お断りします」と憎々しげに拒否した。さも、気に死していない様子の曹操は肩を竦める。

 

「それは残念だ。キミや葉桜清楚には興味があるのに」

 

「・・・・・それはどういうことですか」

 

自分だけじゃなく、もう一人この場にいる仲間を注目していた事実に警戒する。

曹操は路上に跳び下り、ルーラーに近づく。

 

「キミたち二人はとある英雄の魂を受け継いでいる人間だと既に知っているからだ」

 

聖槍の切っ先をルーラーに突き付けた。

 

「レティシア・J・D・ルーラー・・・・・。

キミのそのJ・Dの名前は―――ジャンヌ・ダルクという意味だ。聖処女ジャンヌ・ダルク」

 

「そして・・・・・」と、今度は清楚にも槍の切っ先を突き付けこう言った。

 

「葉桜清楚の名前を言い換えれば覇王西楚―――劉那との戦いに敗れた西楚の覇王項羽というわけだ」

 

『な・・・・・っ!?』

 

極一部の者たちを除いて驚きを隠せなかった。逆に当人の二人は驚いたり、正体を突き付けられたりしても動揺の色も浮かべなかった。ルーラーは炎が具現化した剣を曹操に突き付ける。

 

「私が聖人の魂を受け継いでいようが関係ありません。私は『ルーラー』と一誠くんに呼ばれている一人の女の子なのですから」

 

「ふ・・・・・そうか。その堂々とした立ち振る舞い。やはりキミも英雄の一人だよ」

 

朗らかに笑んだ曹操の後ろからモルドレッドが近付き声を掛けた。

 

「ジャンヌ・ダルクの相手をしてもいいな?」

 

「構わないよ。さて、戦いを続きをしようか」

 

改めて戦いが始まった。ルーラーを指名した理由は定かではないがモルドレッドは剣を構えて突貫。

 

迫ってくる敵に上段から剣を降り下ろして先制を臨む。

 

「あなたとはこれで二度目ですが、今回は敵として会うとは」

 

「オレは一度も味方として会ったことはないがな」

 

鍔迫り合いの状態で語り合う。ルーラーはモルドレッドの剣を見て目を細める。

 

「何故、あなたがこの剣を、エクスカリバーを持っているんてすか」

 

「本人に聞け。無言で問答無用で貸されたんだからな」

 

「では、その本人をこの場に連れて来てください」

 

「無理だ。あいつは今、とある国を滅ぼされた生き残りの特訓に付き合っているからな」

 

滅ぼされた国、と聞いてルーラーは目を丸くした。何時だったかニュースで連日放送された出来事のことだ。

皆、一誠たち英雄派の仕業ではないかと一時期思っていた。だがしかし、モルドレッドが意味深なことを告げたことでルーラーの中で違和感が浮かんだ。

 

「―――一誠くんがやったのではなかったのですか?」

 

「―――何でもかんでも、アイツがしたと思うなよ。ついでにオレたちも・・・・・なっ!」

 

モルドレッドが押し返して刀身を光らせる。

 

「エクスカリバー、オレの思いを応えてくれ。アイツの為に―――!」

 

 

 

アカメとクロメは同時でジークフリートに斬り掛かった。どちらも修羅場をどれだけ潜って生き残ったのかその証明を示す動きをして敵の動きを警戒し、次の一手の為に―――。

 

「ああ、僕はね?」

 

悠然とした態度で自然に立つジークフリートは二人に話しかけ始めた。

 

「何度も兵藤一誠に本気でも負けているんだ。その結果、彼の動きを何とか捉えるぐらいの反応と反射のの速度を向上したんだ。―――だから、キミたちの動きも止まって見えるよ」

 

低い態勢で素早く飛び掛かり、上段と下段から振るわれる刀を見切って躱すジークフリート。

 

「クロメ!」

 

「うん!」

 

姉妹のコンビネーションの剣舞が繰り広げる。高速で怒涛の突き、フェイントも入れた神速の動き、相手の命を狩る必殺の一撃、剣だけじゃなく拳や蹴りも含まれた剣術―――。

 

「うん、全部体験したよ」

 

それらを嘲笑うようにジークフリートは未来を、先を読んでいるかと思う動きと剣さばきをしてアカメとクロメをはじき返した。

 

「―――強いっ」

 

「あの剣も危険だな」

 

姉妹は一度下がってジークフリートを見据える。

 

「ああ、この剣かい?これは―――魔帝剣グラム。魔剣最強の剣だよ」

 

「魔剣最強の剣・・・・・どおりで呪いのような力も感じるわけだ」

 

「へぇ、その口ぶりじゃあ・・・・・その刀も妖刀の類かな?」

 

呪いという言葉に反応し、アカメの刀を見て尋ねる。ジークフリートもアカメとの剣戟で感じ取っていた様子だった。隠すことも無いと己の刀の名を告げた。

 

「一斬必殺の妖刀村雨。これが私の神器(セイクリッド・ギア)だ」

 

「妖刀村雨・・・・・随分と有名な呪いの武器を保有していたんだね。聞いた限りじゃ、かすり傷でも致命傷で受けると傷口から呪毒が浸食し、それが心臓まで到達すると確実に相手を死に至らしめる。うーん、怖い怖い」

 

「ここまで私と、妹も同時に渡り合えた標的はお前が始めてだ。その最強の魔剣の使い手とならば実力も頷ける」

 

「それは光栄な褒め言葉だ。さて、その日本刀の正体も分かった事だし・・・・・掠り傷でも食らわないように真剣で剣士の戦いを臨もうかな」

 

 

 

「ハッハーッ!行くぜぇー!」

 

巨躯の男、ヘラクレスが拳を地面に突き刺した瞬間。地面が扇状に爆発して百代とエスデス、シオリを巻き込もうとするが軽やかに三人は避けた。

 

「地面が爆発するなんて凄いなー」

 

「武神・川神百代だったよな?俺たちと同じ人間で世界一強いと思っているようだなぁ?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「そんな奴をこれから戦って倒すと思うと楽しみで仕方ないぜ」

 

嬉々として笑みを浮かべながら百代と肉弾戦をするヘラクレスの真横から魔人の力を解放したシオリが肉薄するのだった。

 

「その前に、私に力を奪われてKOよ?」

 

「ぬおぉっ!?」

 

あぶねーっ!とかろうじて身体を捻ってシオリの手から避けた。

 

「魔人は反則だろう!んだがよ。お前の対処方法はアイツとの模擬戦で教わったぜ!触れなければ力は奪われない。放出系の魔力と気が奪われるなら物理的な武器や兵器で倒せばいいだけの事ってな!」

 

「あら、魔人のこと研究されちゃってるみたいだわね」

 

それでも余裕の笑みを浮かべ、自分に有利であると確信しているシオリに

 

「当然だ。だからこそお前の相手も俺になったほどだからな。その理由はコレだ!おりゃあああああッ!禁手化(バランス・ブレイク)ゥゥゥッ!」

 

ヘラクレスが叫び、その巨体が光り輝きだした。光がヘラクレスの腕、足、背中で何かゴツゴツとした肉厚の物に形成されていく。光が止んだ時、ヘラクレスは全身から無数の突起物を生やしていた。それはミサイルのような―――。

 

「これが俺の神器(セイクリッド・ギア)の『巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)』の禁手(バランス・ブレイカー)ッ!『超人による悪意の波動(デトネイションマイティ・コメット)』だァァァァァァアアッ!」

 

高々に自分の力の情報を口にし、ヘラクレスの攻撃の照準がシオリに。

 

「・・・・・うわぁ」

 

余裕の笑みが消え思わずドン引きするシオリ。ヘラクレスの攻撃を否が応でも理解されたのだ。確かにソレなら魔人に有効的だろう。

 

「いくぜ、魔人?」

 

どこまでも愉快そうに口角を上げ―――身体中に生やす突起物を飛ばしてシオリに狙いを定めて飛来する。

 

「百代、エスデス。パス」

 

「「しょうがない奴だな!」」

 

拳であらぬ方向へ弾き飛ばし、氷の槍で打ち抜いてヘラクレスの攻撃を無力化した。それでもミサイル攻撃は止まず、億劫そうにエスデスは氷の氷塊を壁のように作り上げて防いだ。

 

「あの男とシオリの相性は良くないな」

 

「そうね。それは素直に認めるわ。私は他のと相手をしてくるからお願いできる?」

 

「武器を持っているテロリストには気をつけろよ」

 

「いや、相手は殆ど武器を持っているんだが?」

 

この場から離れるシオリに掛けるエスデスの言葉を百代が突っ込んだ矢先、氷の壁が轟音と共に粉砕した。

 

「魔人がいなくなりやがったか。まあいい。お前らだけでも倒してやんよ!」

 

 

 

「せ、聖剣が・・・・・」

 

ルーラーを除いた教会組、ゼノヴィア、イリナ、ユウキ、リーズが呂綺と戦っていた。

呂綺との攻防は激しくなると思いきや、最初の一合で聖剣・・・・・イリナの『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』が粉砕された。

 

「イリナ、下がっていろ!ここは私たちが―――!」

 

「恋は負けない。一誠のご飯をいっぱい食べたから力は全快」

 

驚異的な脚力で跳躍し、落下する際の速度と思いっきり振り下ろされる武器の相乗の威力がゼノヴィアで発揮しようとしたところ、リーズがパイルバンカー付きの盾で受け止めた。

 

「・・・・っ!?」

 

その威力はリーズを跪かせ、路面にクレーターを作るほど。右腕から全身に伝わる衝撃は計りしれず、

険しい表情となった味方にユウキが横から呂綺に斬り掛かった。

 

「リーズさん、大丈夫ですか」

 

「助かった。だが気をつけろ。呂綺の力は凄まじい。イリナのように聖剣を折られるぞ」

 

「こんなすごい人がテロリストに加わっているなんて・・・・・」

 

ゼノヴィアのデュランダルでも以ってしても呂綺の得物を破壊できないでいる。一見、特に特別な武器でも無いように見えるが使い手次第で伝説の聖剣と渡り合えているのかもしれない。

 

ガキンッ!

 

難なくゼノヴィアのパワーよりの剣術に対応し、軽くいなして戦う呂綺。ゼノヴィアは強い。心からそう思える呂綺は強者として認めると同時に自分を倒せない相手だと把握していた。

 

「お前、弱い。その剣に振り回されている」

 

「・・・・・敵にそう言われるとショックだな。だが、それは言われなくても自覚して―――!?」

 

鍔迫り合いの最中で鋭く重い蹴りの一撃を食らった。その衝撃でデュランダルを手放し、建物へ吹っ飛んだ。

そして、デュランダルは呂綺の手中に収まった。

 

「デュランダルを奪われた!?」

 

「いや、適正者で無い限り聖剣を扱うことは・・・・・」

 

教会の戦士でもない限り扱えない代物だとリーズは言いたかった。呂綺がデュランダルの刀身に聖なるオーラを纏わせ、ソレを飛ばす光景を見るまでは。

 

「「「なっ!?」」」

 

聖盾で聖なる飛ぶ斬撃を防いでリーズすら驚きを隠せなかった。聖剣はある意味選ばれし者しか扱えない代物。

デュランダルを使役するゼノヴィアは数少ない天然の聖剣使いである。だと言うのにその数少ない枠に収まっている呂綺もまた天然の聖剣使いだというのかとリーズたちは動揺の色を隠しきれなかった。

 

「恋は魔剣と聖剣、武器なら何でも使える神器(セイクリッド・ギア)を持ってる」

 

淡々と述べる呂綺はデュランダルと方天戟の二刀流でリーズとユウキに飛び掛かる―――。

 

 

 

霧は和樹の魔法攻撃を難なく弾いて、逆に炎、雷、氷、風と属性の魔法や北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術などの術式魔法を披露するゲオルク。ゲオルクの傍にレオナルドがいて魔力を無効化するアンチマジックモンスターを創造してゲオルクのサポートを徹していた。

 

「相当な魔法使いだね。一度に豊富な術式を展開するんだから敵ながら感嘆の一言だよ」

 

「かの式森家次期当主に言われると光栄極まりないな」

 

「だけど、やり辛くてしょうがないなーその魔獣。魔力を吸いこむんだもん」

 

「―――だからって私一人でやらせるかぁっ!?」

 

怒声と悲鳴が混じった声を荒げて和樹に非難するカリン。レイピアに纏わせた風魔法を横薙ぎに振るうと魔獣たちは嵐と化となった風魔法に閉じ込められ、ミンチのように切り裂かれていく。

 

「適材適所だよカリンちゃん。凄いねー」

 

「嘘つけ!お前が広域空間攻撃や広範囲魔法攻撃ができることを知っているぞ私は!」

 

「・・・・・なるほど、それは心して掛からないと」

 

カリンの話を聞いてゲオルクは口の端を吊り上げながら更に魔方陣を展開した。

相手は式森なのだからできて当然かと心中で悟り、魔方陣を和樹の魔方陣に向かって放った。

 

「何を・・・・・?」

 

「これでも俺は兵藤一誠と魔力の弾幕勝負もしたぐらいでね。かのゼルレッチの魔法の本も読破させてもらった」

 

和樹の魔方陣とピッタリくっつき合わさったと思えば二つの魔法が砕け散った。

 

「こんな風に相手の魔方陣を消すことも可能になったのさ」

 

「うわぁ・・・・・あの本を読んだなんて厄介過ぎる。で、これは一人の魔法使いとして聞くんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

「どうだった?あの本の読破した者としての感想を聞かせて欲しい」

 

純粋に魔法使いとして同じ魔法使いに聞く。和樹の気持ちを汲んで「ふむ」と顎に手をやったゲオルクは

魔方陣を展開して一誠の所有物であるゼルレッチの直筆の本を取り出した。

 

「中々興味深く、参考になった。魔法使いとして一歩先の魔法の真理という道に進めた気がする」

 

「―――正直、羨ましいね」

 

「なら、この場から退く代わりにコレを渡しても良いがどうする?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。

「うーん・・・・・・」と漏らした和樹に次の瞬間。

 

 

『悩むなぁーっ!?』

 

 

周りから脳内で本気で天秤に掛けて顎に手をやり悩んでいる和樹に信じられないと怒声が向けられた。

 

 

「ははは、彼の―――いや、駒王学園の者たちは愉快そうなメンバーが多いようだね」

 

聖槍の柄をトントンと肩に叩きながら笑む曹操の周囲にはリアスたち悪魔が全身に煙を立たせながらひれ伏していた。聖槍の光を浴びて身を焦がし、体力・精神を減らされ満身創痍の状態だ。

 

「しかし、そこにいるオーフィスとクロウ・クルワッハを私に差し向けないのはどうしてなのかな?流石の私も最強のドラゴンたちに攻撃されると手も足も出せないというのに」

 

素朴な疑問をジッと佇んでいるオーフィスとクロウ・クルワッハにぶつける。

 

「私たちは兵藤一誠を待っているのさ。彼に対抗できるとすれば私たちぐらいだからね」

 

「イッセーを出す」

 

と、返されて納得した曹操。

 

「生憎、彼には英雄の凱旋を祝う為のパーティの準備をして貰っている。この場には現れないよ」

 

そこで曹操は腕に装着している時計に視線を落とした。

 

「だが、そろそろ帰らないと彼が迎えに来そうだな」

 

「ほう、つまり。お前たちを一定時間ここに留まらせれば来ると言うことか」

 

クロウ・クルワッハが体勢を低くして攻撃の構えをする。

 

「オーフィス、アイツを捕まえよう。そうすれば来るらしいぞ?」

 

「分かった。曹操、捕まえる」

 

「おやおや・・・・・」

 

意欲を燃やしてしまったと苦笑いを浮かべた。小さな最強と大きな最強が真っ直ぐ自分に向かって飛び出している。かわすことはできようがそれは何時まで続けられるかが問題点だ。聖槍の真の強さを解放しようが、すでに懐に飛び込んできた相手にできるはずもなく曹操はピンチに。英雄派の誰もが曹操に加勢できる状態ではなかった。二人の最強のドラゴン相手に英雄の子孫とはいえ高々人間がどうこうできるわけがない。

後方へ跳躍して距離を離そうとするが、ザブンッ!と何時の間にか具現化していた水の塊に飛び込んでしまった。

 

「なにっ?」

 

曹操はリアスたちの方へ振り向く。ソーナが倒れたまま曹操に向かって腕を伸ばした状態で水の魔力を操っていた。

 

「―――今ですっ!」

 

ソーナのチャンスを無駄にしなかった。朱乃が指先から放つ雷光に水の中の曹操へ命中し感電。そんな中でも曹操は聖槍を輝かせて脱出を図ろうとしている。

 

「百代!」

 

「文句は言うなよ!」

 

百代と共にヘラクレスと戦っていたエスデスは百代の手を掴めば豪快に曹操の方へ思いっきり振り投げられた。水の塊に触れれば一瞬で氷の塊と化する。そのビジョン通りにしようと少しでも早く水の塊に触れる為に氷の剣を作って刀身を如意棒の如く長く伸ばす。曹操はようやく水の塊を弾き飛ばして脱出した。が、迫りくる氷の刀身と捕まえようとするオーフィスとクロウ・クルワッハによってピンチは脱していなかった。

 

「曹操―――ッ!」

 

味方が曹操に駆け寄ろうとするも、相手がそうはさせまいと阻む。

 

「こう言う時、ヒーローが助けに来てくれるのが相場なのだがな」

 

英雄(ヒーロー)は自分たち。英雄(ヒーロー)英雄(ヒーロー)を助けるなんて話は聞いたことも無い。

それでも、それでも曹操は願った。今の自分がいるのは全て真紅の髪の少年の願いを聞いたからだ。

だから、その見返りに―――。

 

「この窮地に立たされている私に救いを・・・・・」

 

天に仰ぐ。その間に迫る脅威。一方の脅威を排除してももう一方の脅威が曹操を襲う。

敵味方関係なく、頭を潰されたと思った―――次の瞬間。曹操を囲むように歪みだす空間が穴を開き、三つの影が飛び出るとオーフィスとクロウ・クルワッハが弾き飛ばされ、氷の刀身は砕け散られた。

 

「・・・・・時間になっても戻ってこないから来てみれば」

 

曹操の耳に入る聞き慣れた言葉、曹操の目に入る見慣れた少年の背中。

 

「曹操・・・・・まだ終わって無かったの?」

 

振り返る少年は「せっかく作った料理が冷めちゃうだろう」と文句を言った。真紅の髪を腰まで伸ばし、金色の瞳は曹操しか映っていない。すると、びしょ濡れた曹操の姿に亜空間からタオルを取り出すとワシャワシャと無言で「わぷっ」と曹操の言葉を無視し揉みくちゃにしながら拭き始めた。

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

感謝の意味など分からないが少年は素直に受け止めた。

 

「―――一誠っ!」

 

アザゼルが少年をそう呼んだ。少年、一誠は金色の双眸を自分の名を言ったアザゼルに向ける。

一誠の登場で戦いは中断。敵味方と別れ、対テロ組織混成チームであるアザゼルたちは一誠の姿を見て心中では安堵の気持ちになった。

 

「一誠さまっ!私です、リーラ・シャルンホルストです!」

 

必死の叫び、曹操たちから離れて欲しいという思いも込めて一誠に言葉を投げた。

リーラが一誠を呼び戻す唯一の鍵。それは一誠の正気を戻す手段でもある。

他の誰よりも、オーフィスよりも一誠の傍に寄り添っていたリーラだからこそ絶対的な効果を発揮する。

 

「・・・・・」

 

金色の瞳には生気の光が宿っている。操られているようには見られず、皆が知っている兵藤一誠はそこに―――。

 

「誰・・・・?」

 

『―――っ!?』

 

「・・・・・え?」

 

いなかった。ふざけているにも、冗談で言っているようにも見えない一誠の純粋な疑問。

それがアザゼルたちから声を失わせるのに十分過ぎる衝撃的なものであった。

 

「おい・・・・・お前、何を言っているんだ?」

 

「・・・・・何を言っている?・・・・・知らない・・・・・お前ら皆、知らない」

 

そ、んなっ・・・・・。と、誰かが自分しか聞こえないほどの声を発し、一誠の言葉に愕然としたら

オーフィスが自分で自分を指した。

 

「我、オーフィス。覚えてない?」

 

「・・・・・オーフィス?こっちもオーフィスって名前だけどお前は知らない」

 

「・・・・・」

 

一誠の隣に立っている黒のロングストレートに真紅のポニーテールの少女へ視線を向けながら発する一誠に―――オーフィスが石のように固まった。

 

「・・・・・堕天使の総督」

 

クロウ・クルワッハがようやく口を開いた。

 

「あいつは嘘を言っていない。だとすればあいつの記憶を、今までの記憶が何らかの理由で今の兵藤一誠として存在している可能性は大きいと言えよう」

 

ギリッ・・・・・!皮膚を突き破って血を流す程に固く握り拳を作って全身を震わせ怒りを示す。

最強の邪龍の言葉にアザゼルは―――吠えた。

 

「やってくれるじゃねぇかっ・・・・・英雄派ぁあああああああああああっ!」

 

一瞬で極太の光の槍を具現化させ、それを投げ放った。衝撃と突風を纏う光の槍は曹操には届かず、一誠の手で上に弾き返された結果に涼しい顔でアザゼルの叫びを受け流した。

 

「彼から絶望と辛さを取り除いただけだ」

 

「なんだとっ・・・・・!」

 

「まだリーラさんが死んでいたと思っている頃の一誠はお前たちのもとに戻る事を拒んでいた。その理由は戻って家族と一緒に暮らすことで死んだ愛した女の事を思い出し、思い出させて心底負ったトラウマが一誠に悲しみと怒り、苦しみやショックを何時までも苛ませるからだ」

 

「だが!現にメイドはこうして甦っている!」

 

「今日まで私たちが知らなかったのに一誠も知るはずが無い。そして、彼は願った。悲しみと辛さと絶望から逃げて愛おしい女を殺した悪魔に復讐をしたいと。私たちと一緒に歩むことで彼の復讐は達成できる。そう言ったら彼は私を抱きしめて提案を受け入れてくれた」

 

その結果、彼の記憶からは―――と言い続けた曹操に光の槍が飛んできたが一誠の手で防がれた。

 

「テロリストらしいな。弱った相手の心を付けこんで、囁いて自分の道具として利用しようなんてなぁ」

 

怒気が孕んで、悲哀に青筋を浮かべるほどにアザゼルは厳しい目つきで曹操を睨む。

心外とばかり、曹操は言った。

 

「道具として彼の記憶を弄んだわけじゃない。彼の気持ちと意志を尊重しつつ私たちの仲間として受け入れた。

そして・・・・・」

 

私も彼に好意を抱いている一人の女でもあるのだが・・・・・?曹操は艶美な不敵の笑みで言い切った。

 

「よくもいっくんを・・・・・記憶を奪ったな・・・・・」

 

「許しません・・・・・ええ、深淵の闇に葬るまでは絶対に・・・・・」

 

大鎌を構える悠璃や闇を纏う楼羅が妖しく瞳を煌めかせる。

 

「・・・・・曹操、一つになる」

 

唐突に曹操に対して真摯な顔で言った。意図を分からず、

不思議そうな顔を浮かべて一誠へ振り返る。

 

「・・・・・一誠?」

 

「俺が曹操の鎧となる。そうすれば勝てる」

 

―――一誠を中心に真紅の魔力が迸り、光の奔流と化となって曹操を包みこんだ。

 

「曹操と一緒ならばリゼヴィムを殺せる。ここで曹操が倒されては困る」

 

「一誠・・・・・」

 

一誠を見詰めると、自分の方へ振り返り腕を伸ばし頬に添えられた。添えられる手の感触と体温を感じ思わず目を細め、心地の良い体温を与えてくれる一誠に抱き締められ身を預けると

 

 

―――我、復讐を誓うドラゴンなり

 

 

一誠が呪文を口にしていく。それは誰もが初めて聞くものだった。

 

「まさか・・・・・覇龍(ジャガノート・ドライブ)かっ!?」

 

 

―――我は英雄の旗を天に掲げ、蒼天に覇を唱え、王道を駆ける汝を我、英雄の譚を記す者に凱旋を与えん

 

 

―――無限の野望と挑戦を求める汝を真なる真紅に光り輝く覇の王道へと導こう

 

 

真なる英雄王の凱旋(アポカリュプス・ヒーロー・フルドライブ)ッッッ!!!!!

 

 

曹操と一誠が眩い真紅の光に包まれ―――一つとなった。荒れ狂う魔力に吹き飛ばされそうになり、防御魔方陣を展開して風圧を防ぎ、治まるのを待ったリアスたち。しばらくして暴風と眩い閃光が止んだ時、誰もが曹操に向かって目を向けた。そこにいたはずの一誠の姿は無く―――。金と蒼、真紅の鎧を纏った曹操がいた。

マントを羽織っていて顔の半分は龍を模した兜を装着し、鎧の胸部にはドラゴンを象った顔と意志が宿っているかのように金色の瞳が煌めいていた。

 

「一誠が曹操と・・・・・一つになった」

 

「何時の間にそんなことできるようになっていたの・・・・・」

 

信じられないとそんな顔で曹操の出で立ちを目に焼き付けつつ漏らす。一誠が曹操の鎧と化となった事実に誰もが愕然、絶句したのだった。

 

「・・・・・ふふっ」

 

曹操が小さく笑みを浮かべだした。

 

「一誠・・・・・ああ・・・・・身も心も一つになったのだな私たちは。それに英雄の凱旋とは面白い趣向だよ」

 

足を前へ動かす度にマントが揺らぎ動き始める。

 

「お前の望みを叶えて帰ろう。だからお前の力、思う存分に振るわせてもらうよ?セカンド・オーフィス」

 

「ん・・・?」

 

「あそこにいるオーフィスと相手をして貰いたい。できるね?」

 

「わかった」

 

セカンド・オーフィスはオーフィスと対峙し合う。

 

「さて、クロウ・クルワッハの相手は・・・・・やはり同じ邪龍が良いだろう」

 

曹操の横に魔方陣が出現し、魔方陣が放つ光と共に時折紫色の発光現象を起こす黒髪の男が出てきた。

 

「・・・・・アジ・ダハーカか」

 

「よう、久し振りだなクロウ」

 

「お前は曹操の言う事を聞くのか?」

 

「そう思うのはお前の勝手だが、強いて言えば俺は兵藤一誠の為に敢えているようなもんだ。もう少しそこのメイドの存在の情報を知っていれば違った運命と道を辿っていただろう」

 

二匹の邪龍が臨戦態勢の構えになる。

 

「兵藤一誠は洗脳されているのだな」

 

「半分は正解。兵藤一誠は自分の意志で今の立場にいる。あの悪魔を復讐する為に。まっ、曹操の言っていることは大体本当だぜ?」

 

「お前は、お前たちは何もせずただ見ていたのか」

 

「あの時の兵藤一誠の意志を逆らうことは容易かった。だが、アイツの気持ちを汲んで俺たちは力を貸すことにしている。それにテロリスト共も中々面白いぞ?兵藤一誠を大事にしているんだからまるでお前らといる時の雰囲気と同じだ」

 

ああ、そうそう―――アジ・ダハーカはここで爆弾発言をした。

 

「兵藤一誠。四人の女に襲われたぞ。肉体的な意味で。あっ、訂正。五人目がいるかもな。ソイツ、人間からドラゴンに転生したやつでよ。ああ、そこにいる女の事だ。兵藤一誠に熱い眼差しをたまに向けるから多分そろそろじゃね?」

 

何を言っているんですかー!?顔を真っ赤にしたとある少女がアジ・ダハーカに食って掛かる。

 

「アジ・ダハーカ」

 

「あん?」

 

「この場でその事実を言うべきではなかった」

 

 

ゴゴゴゴゴ・・・・・ッ

 

 

「・・・ああ、そーみたいだな」

 

凄まじいプレッシャーが地鳴りを起こすその現象にアジ・ダハーカは愉快そうに笑むだけだった。

 

「さてと、久し振りにガチで戦おうじゃねーか」

 

「そうしよう。正直、お前とも戦いたかった」

 

「ハハハッ。お前を打ち負かせば俺が邪龍最強だ」

 

口の端を吊り上げ、邪龍の筆頭格である邪龍最強の『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハと『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)』アジ・ダハーカが激突。


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