HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード52

世界はテロリストの存在に震撼した。九鬼財閥の建物の破壊も全世界に報され、真紅の髪の少年がテロリストの首謀者ではないかと疑われ始める。三大勢力、他の神話体系の神々たちの間でもこの事実に様々な意味で盛り上がっていた。

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

「うひゃひゃひゃ!この城はこの魔王が攻略したぜ☆」

 

「魔王・・・・・っ!」

 

「さぁーて、この城の元王女さま?この弟くんの死を観覧しちゃってちょうだい!」

 

「ま、待って!その子だけは殺さないで!お願い!」

 

「んー?じゃあ、悪魔の俺に代価を払って弟くんを助けちゃうって感動的な展開をしちゃう?」

 

「・・・・・っ」

 

「なーんてね。そんなちっぽけな命なんか欲しくないってばよ!はい、さらば!」

 

ザンッ!

 

「―――――!?」

 

「うひょひょひょひょっ!これでこの国に残っているのは王女さまだけだねぇー?どうする?

その槍で俺と勝負する?のんのん、そんな武器じゃ僕ちゃんに届きません!

なんせ、俺は魔王だからねぇ?正義の味方はもっと強くなってから挑戦しないといけない王道的な

運命が待っているんです!だ・か・ら、王女さまよ?俺を憎いなら、復讐したいなぁーら、

お祖母ちゃんになるまで生きてみたらどぉー?そしたらもしかすると強くなる秘訣が見つかるかも!」

 

「よくも国を、よくも町の皆を、よくも弟をっ・・・・・!」

 

「おおう、良い目をしだしたねぇ?うんうん、そうじゃなきゃ!

それじゃ、またどこかで会おうぜ元王女さま!うひゃひゃのひゃー!」

 

「おのれ、おのれぇぇぇえええええええええええっ!」

全てを失い、奪われた少女の運命は他人から同情や憐みをされるものだった。魔王がいなくなって残ったのは壊滅した国。一人で復興など到底不可能だ。これからどうすればいい、あの魔王に復讐など力がないのでは夢のまた夢であると非力な自分に悔い、復讐できる力を欲した。

 

「欲しい・・・・・あの魔王に勝てる力を。くれるならこの命を引き換えにでも―――!」

 

しかし、突然の出会いもあった。

 

「・・・・・」

 

少女の背後に音も無く現れた真紅の髪の少年。感情の色が宿っていない金色の双眸は座り込む少女を見下ろしている。

 

「力が、欲しい・・・・・?」

 

「っ!?」

 

「俺も復讐したいやつがいる。もう逃げられたけれど」

 

話しかけられ、振り返り少年を見上げた時。風の噂で聞いたテロリストの少年であると理解した同時に憎悪の炎が滾って瞳に宿っていたことに気付く。もう逃げられたと言うのは魔王のことだろうか。淡々と少年は口を開いた。

 

「復讐したい理由が思い出せない。だけど、あいつを許すことができない事だけは心からハッキリと言える」

 

「あなたは・・・・・」

 

「俺もお前と同じ復讐したいと願っている」

 

少女の言葉の意図を、意味を理解して同じ志が一緒の者だと簡潔に述べた。

 

「だけど、お前は弱い。そのままじゃ復讐は無理」

 

しかし、少女に突き付けられた現実は過酷だった。少年に言われて唇を噛みしめる思いで悔しがる。

 

「復讐を果たせれば命はいらない?力を得る為なら命を引き換えにでもとお前は言ったな。ならば、人間を辞めて強い種族に転生してでも復讐をしたい気持ちがあるならば」

 

少年は少女に手を伸ばす。

 

「俺と一緒に来い。共に生きて復讐を果たそう」

 

それは誘いだった。手と掴めば自分は悪に身を堕とす。否定すれば正義を貫いて魔王を倒すことができる少女にとって今後の人生を左右する運命の選択肢。

 

「・・・・・私に魔王を倒せる力をくれるの?」

 

「倒せるかどうかはお前自身の心の強さによる」

 

「心の強さ・・・・・」

 

どちらにしろ強大な力をくれることに関しては間違いないようで後は自分次第ということ。

 

「・・・・・」

 

少女は真っ直ぐ目の前の少年を見詰めた。少年も答えを待って仁王立ちし続ける。

だからこそ真剣に考えた。国を壊滅にした魔王を、大切な家族を奪った魔王を何もせずにのうのうと元王女として生きることなんてできない。少女は答えを出すのに時間など掛からなかった。

 

「・・・・・私の全てをあなたに捧げる。だけど、その変わりに魔王を倒せる力を―――」

 

何時までも差し伸べてくる手を少女は言いながら手に取ったことで悪に堕ちながらも復讐を成し遂げようとする決意を抱いた。そして、どこかの国が一夜にして壊滅的な被害を受けたことで川神学園や九鬼財閥極東本部を襲撃したテロリストの仕業であると判断され、身に覚えのない破壊活動に知らぬところで完全に世界の敵として認識されたのだった。

 

「・・・・・酷い、違うのに」

 

と、真紅の髪の少年の傍迷惑な否定的の声が聞こえたのは別の話だった。

 

―――○●○―――

 

「―――やれやれ、彼らと私たちの価値観や考えがこうも違うなんて改めて知らされた感じだね神ちゃん」

 

「ああ・・・・・テロ対策本部なんてモンを構えるのは良いが、テロリストの拠点すら掴めていない状況下で日本中にいる神器(セイクリッド・ギア)の所有者を集わせてもな。いや、悪くはないんだぜ?」

 

「うん、分からなくはないけれど、どこに防衛を張ろうとも必ず穴がある。そこを突かれちゃ終わりだね」

 

冥界、天界の代表としてテロリスト対策本部局に赴いて参加していたフォーベシイとユーストマの顔に微妙な色を浮かべる。相手はただの武装したテロリストではない。危険分子、様々な勢力から集った種族、神器(セイクリッド・ギア)の所有者の一団と武装したテロリストより厄介極まりなく一枚岩ではない反勢力。

対策本部の方針は神器(セイクリッド・ギア)の所有者を集わせ、来るべき戦いに備え―――という形で終わった。

 

「神ちゃん、ヤハウェにはどう伝えるんだい?」

 

「ありのままを告げるつもりだが、どうしたもんかなぁ・・・・・」

 

『神のシステム』によって人間、人間の血を流している異種族にしか宿らない摩訶不思議な能力。

ならば、そのシステムを利用して『故意』で所有者を定めては宿し増やすことは可能ではないか?とユーストマに追究された。

 

「神は皆平等に見守る。誰かを特別扱いしたら人間からの信仰が減って俺たちの存在意義も危ぶまれるってのによ」

 

「人間の方がよっぽど業が深いってことかな」

 

目には目を神器(セイクリッド・ギア)には神器(セイクリッド・ギア)を、と結論に至ったのだろう。

だからこそユーストマは言い返した。

 

『お前らにだって神器(セイクリッド・ギア)は宿されているはずだ。それを発動していないのはお前たちに切っ掛けが無いだけ。何かの為、誰かの為、自分の為に心底からそう望んでなけりゃ神器(セイクリッド・ギア)は応えてくれやしねぇよ』

 

そう言い残してさっさとフォーベシイと共に本部から立ち去ったのである。

 

「誠ちゃんと一香ちゃん、今頃どうしているかな」

 

「あの二人の事だから・・・・・もしかしたらテロリストの拠点を見つけて乗り込んでいたりしてな」

 

「ハハハ、まさかそこまで・・・・・」

 

―――全力で否定できない自分がいるのはおかしいだろうかと内心フォーベシイは悩んだ。

 

「おい、まー坊?」

 

「ああ、なんだい」

 

「急に黙ってどうしたんだ。早く娘たちのところに帰ろうぜ」

 

「そうだね。私たち父親が励まず一体誰が励ますのだろうか!」

 

「良い事を言うじゃんぇかまー坊!ああ、その通りだ!シアー!いまお前のお父さんが帰っていくからなー!」

 

豪快に転移魔方陣でなく足で帰るユーストマに苦笑を浮かべるもその気持ちはよく分かると―――フォーベシイも

華奢な体で物凄い速さでユーストマの後を追いかけるのであった。

 

一方―――。

 

「八重垣殿、すまぬな」

 

「いえ、お気にせずに。そちらの学園とは長くない付き合いなのですからな」

 

「そう言ってくれると嬉しい限りじゃ」

 

川神院の縁に座る川神鉄心と八重垣正臣。同じ立場で同じテロリストに襲撃された者同士が揃ってこの場にいた。

 

「八重垣殿。わしは不甲斐なかった。守るべき生徒や学園をテロリスト共に襲撃を許してしまった。生徒も誘拐されてしまい、今でもその生徒の事を思うと心が痛む」

 

「こちらも・・・・・生徒が誘拐されました。よりにもよって彼、兵藤一誠くんです。ですが、誘拐されたあの子はテロリストになっていようとは思いもしませんでした」

 

遠い目で青空を見上げる。あの純粋な子までもが敵の手中に落ちてしまったのであれば、一誠を助ける事が出来る者は限られてくる。

 

「八重垣殿、折り入ってお願いがある」

 

鉄心は紳士に懇願の声を発した。

 

「私のできる範囲であれば何でも申してください」

 

「いや、今回の一件でわしは理解した。―――だからこそ無理を承知でお願いしたい」

 

正臣に向かって土下座をし、深い念が籠った言葉を告げた。

 

「そちらの実力のある悪魔と天使、堕天使の生徒を川神学園に転属してもらえないだろうか」

 

「―――」

 

「武神と周りから畏怖の念や恐れ戦かれていた孫娘共々あのような方法で無力化されてしまい、力の無い生徒、圧倒的な力で強い生徒たちが倒されて学校もあの様。平和ボケをしていたと言われても否定できん。武術だけでは何かを守れないことをわしは分かってしまった」

 

「対抗できる力を欲している・・・・・そう言うことですな?」

 

土下座をしたまま見下ろす形で正臣の言葉に無言で肯定した。正臣は直ぐには答えない。自分一人で一存して決めていい鉄心の願いではないのだ。

 

「・・・・・共通の敵に対して共に協力し合うことは私も異論はございません。ですが、鉄心殿の願いは時間がかかるかもしれません。こちらもそちらと同じように色々と対処に追われていますので」

 

「構わぬ。事が済んだら改めて考えてくだされ」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

ようやく頭を上げた鉄心。一先ず願いは保留という形で収まったが気持ちを察してくれた事に心から感謝をした。

 

「ところであなたの孫娘は?」

 

「休校状態なことを良い事に、ここ最近どこかに出かけておる」

 

「もしかしたら、兵藤一誠くんの為に動いているのでは?」

 

「わからん、わしには何一つ教えてくれんからのぉ。ちょいっと寂しいわい」

 

「今もどこかに出かけておるし」とぼやく鉄心。

 

 

―――○●○―――

 

『日本政府は世界各国連合対テロ組織を結成することを表明しました。主な人員は天皇兵藤家と式森家を中心に神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)の所有者で他に特殊能力を持つ人間、戦闘経験がある者です』

 

『対テロ組織は年齢問わず、加わると保証金が―――これまで犯した罪歴など帳消しという事実に住民たちが非難の声も―――』

 

『テロリストに対する有力な情報提供を政府が求めているようです。テロリスト、「英雄派」の特徴は学生服の上に漢服を着込んでいます』

 

『首謀者―――兵藤一誠は兵藤家から追放された元兵藤家の者であるとの情報が届いています。心理学者や人間学者など人たちの間に飛び交う仮定や想像、予想の中で兵藤一誠の目的は私怨、逆恨みではないかと声も上がっております』

 

 

昼時でもニュースはテロリストに関する話題で盛り上がっていた。噂や話が飛び交うにつれ尾鰭が付く。

その手の番組を見る度に―――リーラたちは複雑極まりない表情を浮かべ、哀愁を漂わせたり、

本人の事を何も知らず知った風に言う人間に怒りを覚えながらも一誠に関する情報を聞き逃さない為に敢えて

聞く姿勢でいた。

 

「一誠くんがテロリストのリーダーじゃないのにっ」

 

「仕方がねぇさ。目の前で見た現実しか信じられないんだ人間は。それに加え、一誠は学園に来てから有名になって来たんだ。有名な奴がテロったら間違いなく『誤解』する」

 

「もう、人間界でイッセーは自由に歩くことができなくなったわね・・・・・」

 

「どうしてこうなったんだ・・・・・」

 

「全ての元凶は・・・・・」

 

 

前魔王ルシファーの息子、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 

誰もがあの銀髪の初老悪魔の名前を思い浮かべた。リーラに死を与え、一誠に絶望をもたらした最悪の悪魔。

 

「アザゼル、英雄派だけテロリストとして名が挙がっているけれどどういうことなの?」

 

「今有名なのが一誠だってことなのさ。ユーストマやフォーベシイは他にもテロリストの派閥があると人間のお偉いさんには忠言しているらしい。が、それも含めて一誠がテロリストの親玉として君臨しているんじゃないかって話だ」

 

「そんな・・・・・っ」

 

「それに悪魔がテロリストなんて言ったらこの異種族混合の共存を象徴する町の存在意義も危ぶまれる。実際、悪魔以外にも堕天使、天使もテロリストに加わっている奴もいるみたいだからな」

 

今の現状を認めたくないってやつらがよ―――。アザゼルの言葉は続く。

 

「長年、敵対していた者同士が直ぐに仲直りなんてできないのと同じだ。世界の覇権を巡っていた他勢力同士が突然、不完全燃焼の形で人間―――兵藤家と式森家に横やりを入れられてあろうことか戦争を止めたんだからな」

 

「どうしてそんなことをしたんですか?教科書でもその話は書かれていますけど」

 

白音は真っ直ぐ目をアザゼルに向ける。いや、ほぼ全員が兵藤家と式森家は三大勢力戦争を止めたのか

知りたがっていた。もしかしたら知っているのではないかと当時の戦争以前から生きていたアザゼルに答えを求めた。

 

「さあ、な。俺にも分からん。あん時止めた当時の兵藤家と式森家の当主から聞こうにもとっくの昔に死んでいる。他の奴らも同様にな」

 

「・・・・・そうですか」

 

「ああ、しかもだ。そん時の二大家は神器(セイクリッドギア)神滅具(ロンギヌス)の所有者ばっかりでよ。殆どの神滅具(ロンギヌス)の所有者は兵藤家と式森家の人間だった」

 

「じゃあ、聖槍も?」

 

「そうだ。まだ二天龍が神器(セイクリッド・ギア)として魂を封印される前で神滅具(ロンギヌス)の数も今ほどなかったな」

 

「そんで、俺たちと一緒に二天龍を倒したし」と付け加えた。

 

「やっぱり・・・・・あの二つの一族は凄いわね。冥界の雑誌じゃ眷属にしたいランキングでは何時も上位だったし」

 

「ブランドが高いからな。当然だろう。実際に何人か転生悪魔として生きている兵藤と式森がいて、そいつらを眷属にした悪魔がレーティングゲームのランキング上位に君臨している」

 

「いるんすか!?兵藤と式森を眷属悪魔にした悪魔が!」

 

素っ頓狂な声を上げる一成だった。自分と同じ眷属悪魔やリアスに目を向ければ知っている雰囲気を醸し出している。

 

「いるぞ?変異の駒(ミューテーション・ピース)だったり、駒を全部消費して眷属にしたらしい」

 

「あっ、そいつらって確か三大勢力戦争の時に介入したやつらの一人だったなそういや」と後になって思い出したアザゼルにリアスは言った。

 

「じゃあ、聞けれるじゃない。過去の戦争に介入した動機を」

 

リアスの言葉にうんうんと頷くグレモリー眷属たち。転生悪魔として生きている兵藤と式森は一誠や和樹にとって大先輩にあたる人物。

 

「アザゼルさま。お聞きしたい事が」

 

リーラに振り返り、なんだ?と視線を送ると「その者たちは誠さまと一香さまと面識がございますか?」と尋ねられた。

 

「知らん。当の本人に聞け」

 

「(ヒョコッ)HYE!その当の本人の登場だ!」

 

「どわっ!?」

 

逆さまになって空間から現れた誠の顔を目の当たりにして仰け反り過ぎて尻もちをついたアザゼル。

肝が据わっている者以外は目を丸くして開いた口が塞がらなかった。

 

「お、お前ッ!急に出てくるんじゃねぇ!?」

 

「はっはっはっ。人を驚かすってのはやっぱり面白いもんだ!」

 

姿を現す誠に続き一香もこの場に顕現した。

 

「えーと、その兵藤と式森の転生悪魔のことだっけ?なら勿論知っているぞ」

 

「しかも私たちと同じ結婚して子供も産んでいるわよ」

 

何時から聞いていたのか分からないが当の二人はアッサリと驚愕的な事実を言いのけた。リーラですら知らなかったようで目を大きく見張った。

 

「・・・・・そのような事実を私は知りませんでした。アザゼルさまは知っておりましたか?」

 

「いや、まさか子までいるとは俺も知らなかった。だとすると、そいつらも魔人の力は得ているのか?」

 

アザゼルの発した疑問は一香が首を横に振って否定した。

 

「魔人の力を得てないわよ。片方の力を封印したまま、悪魔として今じゃこの世界の社会に紛れて孫に囲まれながら生きているもの。だから多騒ぎもしなかった。懐かしいわね。あの人たちの話をするなんて」

 

「そうだな。最近は顔を出してないが今でも元気にしているだろう」

 

二人の会話のやり取りからして、今でも生存していると言う事実が確認できた。

 

「誠さま、一香さま。そのことはやはり、源氏さまたちには・・・・・」

 

「当然知らない。というか、大先輩たちは名前を変えていないが、息子たちは婿入りしていることで違う名前で生きているから親父たちは気付かないでいる。ああ、リーラや一誠にも会わした人間の中にいるぞ?そいつらが大先輩たちの子や子孫だ。今頃驚いているだろうな」

 

所謂隠れ兵藤と式森の力のどちらかを封印した一誠(魔人の力は無)同様悪魔バージョンのハイブリッド。

 

「あの・・・・・」

 

「なんだいリアスちゃん」

 

「私、その人たちとお会いしたいです」

 

社会に紛れて生きている悪魔と知れば、同じ悪魔として顔を見たい気持ちが湧きあがった。

リアスは誠に懇願した。

 

「会ってどうするつもりだい?」

 

「同じ悪魔として、話をしてみたいです」

 

「眷属悪魔にしたいとは思わないのかな?」

 

「会ってみない事には・・・・・でも、それよりも前に私は会ってみたい、話してみたい気持ちの方が大きいんです」

 

真摯なリアスの願いに、顎に手をやって考える仕草をする誠。しばらくして口を開いた。

 

「まぁ、いいか」

 

「いいの?」

 

「ただし、向こうがOKを出せばの話しだ」

 

と、話は決まって早速誠たちは確認しに行ったのだった。後日―――。リアスたちは兵藤と式森の血を受け継ぐ悪魔との会談が決定した。

 

―――○●○―――

 

一誠がいない家のリビングキッチンにはグレモリー眷属、シトリー眷属、サイラオーグをはじめ、和樹と龍牙、カリン、清楚、悠璃、楼羅が集っていた。勿論リーラたちもこの場にくる来訪者を見る為集まっている。

 

「まー坊は知っていたんだろ?」

 

「流石に子孫までは知らないよ。どんな子が来るのか楽しみだ」

 

「一誠の悪魔バージョンか。とても興味深い」

 

三大勢力のトップたちも来訪者を待ちつつ茶菓子を飲食していた。

 

「リアス、どんな子でしょうね」

 

「実際に会ってみないと分からないものだわ。ちょっと緊張しちゃう」

 

「兵藤一誠みたいな男だったら是非とも拳で語ってみたいものだ」

 

「和樹さん和樹さん。彼みたいな人が悪魔として生きていたことどう思いです?」

 

「興味深いよ。お父さんや源氏さんですら認知していない、彼と似た人がいるなんてさ」

 

一誠と交流している面々も待ち遠しそうに誠と一香が迎えに行ってから数分が経過していた。

 

そして、その時が来た。

 

床に走る魔方陣の光は転移式で、光と共に三人がこの場に現れる。

 

「待たせたな」

 

「大先輩たちの子孫の中で代表としてこの子を連れてきたわ」

 

誠と一香の間にいる小さな、紺野木綿季と同じぐらいの身長の少女。

 

「えっ?」

 

その少女を見たユウキは信じられないと目を丸くする。連れて来られた少女もユウキを見て目をパチクリ。

 

「紺野・・・・・さん?」

 

「ど、どうしてキミがここに?」

 

その少女はユウキと同じクラスメイトだった。ユウキにとって予想外な人物の来訪で固まった。

誠はユウキと少女を身比べ「知り合いだったとはね」と感心した。

 

「あなたが兵藤と式森の血を受け継いでいる悪魔?」

 

「え、えっとリアス先輩?どうして私、ここに連れて来られたのですか?」

 

「先の三大勢力戦争に兵藤家と式森家が介入して戦争を終結させた歴史は知ってるでしょ?その当時から転生悪魔として生きていた兵藤と式森の子孫を会いたかったの。それがあなたよ?」

 

「そ、そうでしたか・・・・・」

 

どうやらある程度自分の立場を把握しているようで、納得した様子で少し委縮気味に立っていればユウキが近づく。

 

「驚いたなー。まさかキミが先輩みたいな人だなんて知らなかったよ。悪魔なのは知っていたけどさ」

 

「えっと、私の両親は兵藤と式森の人だったから私も天皇兵藤家と式森家の血を受け継いでいることは知っていたけれど、学園に入学する前に『兵藤家と式森家の人間にはお前の素性を教えてはならない。勿論強さも隠すこと』と言われてずっと隠していたの」

 

「良いご判断です。一誠さまに対して『化け物』など言われておりますからあなたも兵藤家の者から酷い罵声を浴びたいたでしょう」

 

リーラも話に加わると少女がペコリとお辞儀をした。

 

「織斑恋姫ですっ。リーラ先生」

 

「今は教師ではなく、一人のメイドとしていますのでリーラさんとお呼びください」

 

柔和に笑み、朗らかに織斑恋姫に声を掛ける。

 

「残念ねサイラオーグ?拳で語ることができなくて」

 

「ふふっ、彼みたいな男の子ではありませんでしたからね」

 

「ええっ!?」

 

自分の知らないところで自分はどんな評価と想像されていたのか何も知らない恋姫。上級生でSクラスの先輩を見れば少し、恥ずかしそうにリアスとソーナから顔を逸らしていた。

 

「あっ、もしかしてセーブをしていたのって悪魔の力ってこと?」

 

水上体育祭時に言っていた言葉を思い出し、恋姫に尋ねるとコクリと頷いた。

 

「お父さんとお母さんが転生悪魔でゲームの現役の人だから私を含んだ孫や子孫の皆は直々に鍛えられているの。その中で私は一番の実力者だって言われて・・・・・」

 

「ほほう、あの二人が称賛するほどか。で、自分の力はどれぐらいなのか試した事があるのか?」

 

アザゼルの指摘に恋姫は困った顔で悩み、けれど、遠慮気味に答えた。

 

「お父さんとお母さんの主より一つランク上の最上級悪魔の主を一対一で倒しました」

 

「・・・・・マジかよ」

 

どの悪魔だか知らないが、若い少女が最上級悪魔を倒したその実力は凄い事であった。

フェニックス家のライザーより強いのだ。

 

「え、あなた・・・・・レーティングゲームに参加したことあるの?」

 

「いえいえ!?ただの力試しとお父さんとお母さんが誘ってくれて主の悪魔が稽古試合として特別に参加させてもらっただけです!」

 

「・・・・・その最上級悪魔は手加減していた可能性もあるが、それでも倒したとなると凄い事だ。リアス、ソーナ。もしかしたらこの嬢ちゃんはお前ら二人より強いかもしれないぞ?」

 

アザゼルは二人に対してそう言うと―――サイラオーグが恋姫の前に立った。

 

「いきなりだが、お前の強さを試したくなった」

 

「え?」

 

「すまない。行くぞ?」

 

サイラオーグにとっては軽く拳を突き出した。しかし、その拳は軽くでも相手を吹き飛ばし、下手な悪魔や人間の戦意を折る拳圧=威力が込められていた。

 

「っ!?」

 

鳩が豆鉄砲を食らったように恋姫は突然の攻撃に驚いて身体が反射的に動いた。接近する拳を左手で添えつつ逸らし、片手をサイラオーグに向けると空気の塊が集束したと思えば一気に弾ける。

何かの攻撃の予兆だと察知し、丸太のように野太い腕でガードの構えをした途端に

壁まで吹っ飛んだサイラオーグをリアスたちは愕然として目の当たりにするのだった。

 

「嘘・・・・・」

 

「ほう・・・・・」

 

吹っ飛ばされたサイラオーグはガードした腕に痺れを感じつつ恋姫を見据えた。

 

「弾かれたような衝撃が伝わったな。神器(セイクリッド・ギア)か?」

 

「は、はい。どうやら空気を司る神器(セイクリッド・ギア)みたいで最上級悪魔の人の周囲の空気、酸素を奪って倒しました」

 

それはゾッと戦慄する戦い方だった。悪魔でも人間のように酸素が無ければ生きていけない。

いくら最上級悪魔といえども酸素を奪われたら一溜まりもないだろう。

 

「嬢ちゃん。禁手(バランス・ブレイカー)に至っているか?」

 

「はい。でも、危険過ぎて至ってから封印の形で使っていません」

 

「今のご時世に戦いなんて頻繁に起こらないもんだから当然だ。だが、お前さんの力は今必要になる。一誠の事だが知っているな?」

 

恋姫は無言で頷いた。

 

「どうして先輩はテロリストになってしまったのですか?優しい先輩が・・・・・」

 

「今のあいつは正気じゃない。俺たちの予想だが、洗脳されているんじゃないかって思っている」

 

「洗脳・・・・・じゃあ、先輩は自分の意志でテロリストになったのではないのですね?」

 

「断定はできないが俺たちはそう信じている。嬢ちゃん、お前さんの力を一誠の奪還のために貸してくれないか」

 

アザゼルの真剣な言葉を聞き、周りにも視線を向ける。皆、アザゼルのように真剣な面持ちで立っていた。

 

「・・・・・今度は私が先輩を助ける番ですね」

 

ポツリと漏らした恋姫。その言葉はリーラが疑問を抱かせた。

 

「どこかで一誠さまに助けられた事がおありなのですか?」

 

「はい、まだ小さかった頃・・・・・先輩が金色のドラゴンになって崩れた建物から他の子と一緒に助けてくれました」

 

それは―――リーラ、誠、一香が今でも覚えているあの大事件の事だった。

 

「まさか・・・・・」

 

リーラは思い出した。当時、まだ小さかった一誠の他にも九鬼家の子息や息女、名も知らない小さな黒髪の少女がいた。気を掛ける事も無くその黒髪少女のその後はどうなったのか分からないままリーラたちは今の今まで生きていた。

 

「あなたは、あの時の子供だったとは・・・・・」

 

「今でも覚えています。瓦礫の下敷きになっていた赤い髪に綺麗な金の瞳の男の子のことを。紺野さんが呼んでくれた先輩はあの時の男の子によく似ていました。そして、先輩が兵藤家の人たちとのゲームの最中でなった金色のドラゴン・・・・・確信しました。先輩があの時の子供だって」

 

その事を家族に告げると「そうか」と笑って聞いてくれた―――。また今度、お礼を言いに行こうとも言ってくれた。

 

「あの時の子供がこの学校にいて直ぐに会えたことに心から嬉しかった。先輩は気付いていなかったけれどそれはしょうがないと思った。私もようやく気付いたから先輩もいつか気付いてくれると思って待っていました」

 

しかし―――一誠はテロリストとなってしまった。

 

「先輩の身に何が起きたのか私には分かりません。だけど、今日ここに来てよかったです。先輩はテロリストに洗脳されている可能性があると聞けて安心しました。だって、先輩は自分の意志でテロリストになったのではありませんよね?」

 

「はい、あの方は洗脳されている可能性があります」

 

その言葉は自分に言い聞かせるようなものでもあった。もしも、仮にも、万が一にも一誠が望んでテロリストになったとしたら自分たちはそれでも一誠を止める他手段は無い。

 

「―――私も先輩を助けたいです」

 

その言葉で十分だった。リアスたちは織斑恋姫という少女を向かい入れ歓迎した。

 

「それで、私も対テロ組織に入ればよろしいでしょうか?」

 

と、恋姫の尋ねは誠が答えた。

 

「いや、ここはこの場にいる全員が対テロ組織にした方がいいと俺は思うよ」

 

「誠・・・・・また突然凄い事を言うな」

 

唖然と呆れが混ざった声で会話を繋げるアザゼルに誠は呆れ顔で口から言葉を発した。

 

「だってな。あの組織に入ると自由に動けなくなるぜ?それに多くの兵藤や式森も対テロ組織のメンバーとなれば下手な警察なんかよりずっと良い動きをする。俺たちは民間警察―――混成チームを組むべきだと俺は考えている。何より相手は一誠だ。一誠を知っているお前らなら他の奴らなんかより戦いやすいはず」

 

「たしかに・・・・・でも、そんな勝手に決めちゃっていいのですか?」

 

「だったら俺たちがバックについてやんよ」

 

ユーストマが威風堂々と腕を組んで告げた。

 

「俺とまー坊、アザゼル坊の三大勢力が全力でお前ら若い連中をサポートしてやる。めんどくさい人間のお偉い共が何を言って来ようがやることは同じだ。ただし、あっちの連中より早く―――」

 

「一誠ちゃんをキミたちの手で倒し、捕縛しないと彼は最悪死刑として処刑されてしまう」

 

ユーストマに続いてフォーベシイもリアスたちに語りかける。

 

「そして何よりも一誠ちゃんの力は今後必要になる。―――リゼヴィムが異世界に興味を持つことはそれだけでも危うい。彼の危うさは他の神話体系にも知っているし、世界に混沌を陥れるようなことがあれば全力で阻止しないといけない」

 

展開した魔方陣から束ねられた一つの書類が。

 

「魔王さま、それは・・・・・?」

 

「これはね?異世界の一誠ちゃんが帰る前にくれた資料だよ」

 

異世界の兵藤一誠・・・・・。リアスたちは驚きの色を顔に浮かべた。

 

「この資料の中にはブラックリスト=危険人物の名前まで記されていたんだ。彼、リゼヴィムの名前があった」

 

「まさか、異世界でもリゼヴィムは・・・・・」

 

存在し、危険極まりない事をしていた?と言おうとしたリアスだが、フォーベシイの首は横に振った。

 

「名前だけ記されていて、異世界で何が起きたのかまでは書かれていなかった。まるで、警戒しろとばかりにね」

 

「実際、あの野郎はテロリストとなって俺たちの敵となった。この資料のおかげで色々と心構えぐらいはできたがな」

 

「しかも、リゼヴィムだけじゃない。他にも危険人物として書かれた名前があってその中に―――ルキフグスの名前があった」

 

「ルキフグスって・・・・・まさかっ!?」

 

グレイフィアかシルヴィアが・・・・・と思いきやその考えは否定された。

 

「ユーグリット・ルキフグス。グレイフィアとシルヴィアの実弟だ。行方不明とされているルキフグス家の悪魔なんだが・・・・・」

 

この資料で知る限り、どうやら生存しているらしいとアザゼルは言った後に

 

「俺たちはこの資料を元に動かざるを得ない」

 

と発した。

 

「でも、その曖昧な資料だけじゃ不安ですね」

 

イザイヤの言葉に誰もがその通りだと雰囲気を醸し出す。人物の名前だけ書かれてもこれから起きる騒動の詳細も記されていれば事前に対処できるんじゃないかと思いを抱く面々もいた。

 

「いや、あっちの世界で起きた騒動とこの世界で起きる騒動が全く同じとは限らない。実際異世界の兵藤一誠はこう言っていた。―――知らない奴がいるなって」

 

「それは単に出会っていなかったからじゃない?」

 

「その可能性はあるかもしれない。だが、明らかに違いはある事を俺は分かった事がある」

 

それは?アザゼルに疑念の視線を向け、一身に浴びるアザゼルは答えた。

 

「異世界の一誠はオーフィスとグレートレッドの力を一つにし鎧として纏った。対してこの世界の一誠は真龍と龍神の力を借りず戦っている。これが異世界の一誠との違いだ」

 

『・・・・・』

 

「この違いは些細でも大きいことには変わりない。異世界は異世界、この世界はこの世界と時は進んでいるはずだ。異世界の一誠がくれた異世界で起きた事件が書かれた資料を参考にしていたら俺たちは対処の為、最善の策と行動をしていたら―――それがもしも全て間違いだったらこれ以上の無い愚かさと恐ろしさを俺たちは味わう」

 

それを分かってて異世界の一誠は敢えて危険人物の名前だけを記したんじゃないか。アザゼルはリアスたちにそう言う。

 

「異世界のイッセー・・・・・あっちのイッセーも私たちも大変な思いをしていたのかもしれないのね」

 

「だろうな。あー、異世界に行ってみたいなー」

 

呑気に言うアザゼルに苦笑を浮かべる。そして後日。一誠を知る者たちだけが結成した対テロ組織が誕生した。

世界からすれば非公式で非公認の対テロ組織。一歩間違えればテロリストとして認識されてしまう危うさがあるがバックには三大勢力、そして後にこの対テロ組織を支援する各勢力からのおかげでリアスたちは異種族混成の対テロ組織チームとして活動する事となった。―――その事実は世界に報じられるのも時間の問題だった。

 

 

hero×hero

 

 

「面白い事になってきた。これは私たちの挑戦状と受け取ってもいいのかな?」

 

「リアス・グレモリーたちもようやく動きを見せたか。ああ、このチームは俺たち英雄派にとって無くてはならない存在だ」

 

「ふふっ、ふふふ・・・・・っ!きっと一誠を奪還しようと躍起になるだろう。彼女たちとはどんなバトルができるのか楽しみだ」

 

「だが―――まだ動くつもりは無いのだろう?」

 

「ああ。今は一誠というイレギュラーな存在が神器(セイクリッド・ギア)の所有者をイレギュラーな覚醒に導かせている。もう少し懐を温めてからかな」

 

「世界中を旅し、神話体系の神々を相手に修行してきた存在は物凄く大きいな」

 

「キミもあの魔導元帥ゼルレッチの自筆の本を一誠から借りているそうじゃないか。何か得れたかい?」

 

「そうだな。大変参考にさせてもらっている。まさか、いきなり突き出された本が有名な魔法使いが書いた直筆の本だと見るまでは訝しんだものだ」

 

「最近、姿を見せず籠って読書に没頭していた時期にはどうしたのかと思ったよ」

 

「ふっ。魔法使いは新しい知識を目にすると欲望的なまでに貪りたくなるものさ」


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