HIGH SCHOOL D×D ―――(再)――― 作:ダーク・シリウス
兵藤一誠の鹵獲、抹殺の目的のテロ行動。アザゼルは驚いたものの直ぐに否定した。
「そいつは無理だな。なんせ、あいつは世界中に存在する神々から稽古をつけられたとんでもねぇイレギュラーな存在だ。その実力はお前ら如きがどうすることもできない強さを有している」
「愚かな。例えそうであっても強者には必ず弱点というものがある」
弱点・・・・・その言葉にどうも嫌な予感を覚えた。まさかとアザゼルはある予想が浮かんだ矢先。
クルゼレイの肩に並ぶように二つの魔方陣が出現して―――。
「うっひゃっひゃっひゃっ!こんちわー!久し振りだねーどのぐらいっかな?」
「んなっ!?」
二人の男性。一人の男性はともかく、もう一人の男性―――いや、聞くに堪えない笑い声をする銀髪の初老の男性に酷くアザゼルは狼狽した。フォーベシイもユーストマも目が飛び出んばかりに見開いて絶句した。
「何の冗談だい・・・・・」
絶対零度のような冷たい声音で初老の男性に問いを求めたフォーベシイ。初老の男性は嬉々とした態度を変えず、言った。
「んーと、最近とんでもなく面白い事が起きたってとある情報を提供してくれたからさ、今度はもう一度その間近で見てみたいんだよねー?だ・か・ら。またその現象を見たくてテロになってみたんですハイ!」
「バカな、どうしてキミがそれだけの理由で・・・・・っ」
「おいおいフォーベシイのおじさん。それだけの理由はないだろう?俺ってば、半永久的な生の中で退屈で退屈で生きた屍のように生きていたんだぜ?ただ生きるだけのつまらない人生より、刺激を与え、与えてくれる生き甲斐を求めたくなるもんだって」
呆れ顔で溜息を吐く初老にアザゼルが話しかけるのだった。
「てめぇが表に出てくるとロクでもないことだけしかならない。今すぐ冥界でもう一度隠居でもしていろ。そうすればなにもなかったことにだけはしてやる」
「えー!いやだねー!べーだ!」
「こんのぉっ・・・・・!」
子供のように反抗する初老の男性を歪んだ顔で睨むアザゼルとユーストマ。対して初老の男性はクルゼレイたちに促した。
「そんじゃ、やることはやったし俺たちもゲームの中にレッツゴー!」
「やることはやった?どういうことだ」
「んー?ああ、それはねー?」
ここで初老の男性は狂喜の笑みを浮かべた。
「坊ちゃんの大切で大事でだーい好きなメイドを拉致ったんだよねー」
「・・・・・おい、まさかっ」
「ふっふっふー。俺たちが何をしようとしているのか知りたいならゲームの中に来てみれば分かるぜい☆」
アザゼルが何かを察し、焦心に駆られた言葉が出たことに初老の男性は嬉しそうに笑みを浮かべて―――。
「それじゃ味方の皆さん!ここはもういいや、次はゲームの中に行きますよー!」
他のテロリストの集団に声を掛ければ一足早く三人が魔方陣の光に包まれて消えていく。
「待てっ!」
「・・・・・外に出られない?」
「ええ、何か強力な力で遮られているような・・・・・」
ディオドラを捕縛して人間界に戻ろうと転移を試みたリアスだったが、戻れない事実に困り果てていた。
顎に手をやって考える一誠。それから色々と考えた結果を漏らす。
「いっそのこと、次元の狭間に突っ込んでそこから人間界に戻るか?」
「多分、いえ、きっとそれしかないわね」
「一誠くんだからこそできる荒技ですね」
「では、そうしましょう。外がどうなっているのか心配です」
一誠の提案に賛同する。「それじゃ」と準備に取り掛かろうとしたその時。また一行を囲むようにして魔方陣が出現した。
「連戦?第二派?」
「今度は私たちも戦いましょう」
「あらあらうふふ。ええ、そうしないと強く成れませんものね」
テロリストたちが姿を現す。だが、今度はどこか違った。格上の者らしき者たちが真っ直ぐリアスたちを見詰めているのを理解し、警戒の色を濃くした。
「あれれ?先に入ってもらった味方が一人もいないじゃん」
「ふん、無様な姿だなディオドラ・アスタロト」
「だが、作戦に支障はない」
誰・・・・・?リアスたちは警戒しつつ現れた三人に疑問を抱いた。一誠を除いて。
「なんで・・・・・」
「イッセー?」
「うわ・・・・・マジかよ」
残念そうに漏らす一誠に視線が集まる。
「イッセー、あの三人は誰だか知ってるの?」
「一人だけなら知ってる。あの初老の男性は特に」
一誠の声が聞こえたようで、笑みを浮かべながら降りてくる初老の男性。
「うひゃひゃひゃっ!おっひさー坊ちゃん。十年振り?それとも数年振りだっけ?」
「久し振りなのは変わらないよ。だけど、まさかお爺ちゃんまで敵になるなんてどうして?」
「へへっ!俺、もう一度坊ちゃんを介して見てみたいんだよねぇ?それと欲しい物も!」
何を?怪訝になったが直ぐに理解した。
「この世界に存在しない異世界の神と接触する瞬間!異世界は存在していると言う証をだよ!」
子供のようにもう一度見たいとはしゃぐ初老の男性。一誠だけじゃなくリアスたちも気付いた。
身に覚えのない神格を一誠に与えた神の事を。一誠自身も一方的ながら異世界の神と接触を果たした。
「お爺ちゃん、それをもう一度見たいにも俺が自由にできるわけじゃないんだけど」
一誠の困った顔と発する言葉にウンウンと頷く初老の男性。
「そうだよねー?そうだよねー?俺も分かっているよ坊ちゃん。―――だからさ、なにがなんでも見せてもらおうっと寸法なのさ」
二人の間に一つの魔方陣が現れる。魔方陣を見詰める一誠の視界に弾く光と同時に現れた銀髪のメイドに動揺する。
「リ、リーラ・・・・・?」
銀の十字架に張り付けられたリーラ・シャルンホルスト。本物かどうかなど、一誠は疑う前にどうしてこの場に現れ縛られているのかという戸惑いが強く、目を疑った。
「そう!坊ちゃんの大好きなメイドちゃんでーす!あれから随分と会ってもいないのに全然変わってないよねー?うひゃひゃひゃっ!」
「・・・・・お爺ちゃん、リーラをどうする気」
声に感情が無くなった。冷静であろうとする一誠の雰囲気を感じ取り、初老の男性はにんまりと口を歪めた。
「坊ちゃん。大切なものを目の前で失った経験はある?」
「―――まさか」
声を失う。初老の男性がしようとしていることを、一誠は明確に悟った。初老の男性は手元に魔方陣を展開してリーラの背中に向けて腕を伸ばした。
「ごめんねー?ボクちん、大切なものを失った経験は無くてさ。寧ろ奪う方なら何度もあっちゃったりするんだよね!」
「お、お爺ちゃん!や、やめ―――!」
「止めて欲しい?」
口角をどこまでも吊り上げて歪んだ笑みを浮かべる。魔方陣を展開したまま初老の男性はこう言う。
「んじゃぁさ?坊ちゃんが持っている聖杯をおじいちゃんにプレゼントして欲しいなぁー?」
「聖杯・・・・・?」
「そ、聖杯。坊ちゃんが持っているってのはもう分かっちゃっているんだぜぃ?だから、聖杯をくださいな。そーすれば坊ちゃんの大切なメイドを―――」
「持ってけドロボー!」
ブンッ!と初老の男性の言葉を遮って聖杯を投げ放った。真っ直ぐ聖杯は初老の男性にぶつかる前に男性の手の中に収まった。
「はやっ!?最後まで話を聞くもんだぜ坊ちゃん。でも、ありがとう!おじいちゃんは嬉しいです!それじゃ、ほれ」
リーラのメイド服の襟を掴んで一誠のところに放り投げる。向かってくるリーラを両腕を
広げて胸の中に収めようとする―――。その時、リーラがうっすらと目を開けた。
今の状況に気付いているのか、判断できているのかわからない。が、これだけ言えた。
「一誠さま・・・・・」
「リ―――」
カッ!と光に包まれリーラだった。その光景に思考と視界が一瞬だけ真っ白になり壮大な爆発音が弾けたような音を轟かせ―――リーラ・シャルンホルストは肉片と化となった。
「 」
目の前が真っ白になった。思考が停止し、石のように身体が動かなくなった。
いま、何が起きた・・・・・?
理解できない、どうなったのかもさっぱりわからない・・・・・・
顔に掛かるこの生温かく口の中に広がる鉄の味はいったい・・・・・
「そん、な・・・・・っ」
「ああ、あああ・・・・・っ」
「酷い・・・・・っ」
リアス、朱乃、白音が悲痛な面持ちで目の前の現実に受け入れ難くいた。こんなことがあって良いはずがない。
これからもあの人は愛しい人の傍で支えて生きて、幸せになるべきだった自分たちよりも深く一誠を知り、愛情を注いでいた女性が―――死を見せ付けられた。
「あの野郎っ・・・・・!」
「外道・・・・・っ!」
「ああ、絶対に許しちゃダメな類だ」
「・・・・・っ」
成神、イザイヤ、レオーネ、アーシアも同じ心境だった。目の前で殺すことを愉快に楽しんだ初老の男性に殺意さえ覚えた。アーシアは静かに涙を流し、悲しみにくれた。
「あれ~?」
不思議そうに初老の男性が首を捻った。
「坊ちゃん、なんか反応をしてよ。じゃなきゃ、俺がつまらないじゃん!」
「いや、今がチャンスだと思いますぞ」
「今すぐ兵藤一誠を捕えてから続きをするのも一興だと」
「んー、そうするとしてもまだ足りないのかなー。あ、そうだ。今度は坊ちゃんのおばちゃんとおっちゃんにもメイドちゃんみたくすれば―――今度こそ反応するよね?」
ピクッ。
僅かに反応した。それを良くした初老の男性だった。
「うひゃひゃひゃっ!うん、やっぱそうしよっと!そんじゃ、坊ちゃんを捕まえてくれるかなー?今なら、無抵抗でしょ」
「わかりました」
クルゼレイが合図を出せば、数人のテロリストが一誠の回りに降り立って具現化させた魔力の拘束具を施した。
「呆気ないものだな。たかが一人の人間の死だけでこうも無力となるものか」
「そりゃ、しょうがないっしょ?大切なものが目の前で無くなったんだからさー」
そう言うが、表情は明らかに嘲笑っていた。リアスたちの怒りは最高潮に達した矢先、
また新たな多くの魔方陣が出現した。
「お前ら!―――くそ、既に遅かったか!?」
「アザゼルっ!」
「え、これ・・・どういう状況?」
味方がやって来てくれたことに嬉しく思い、余裕ができた。事情を知る者や知らない者が周囲を見渡す。
魂がない、生きた屍のような一誠を見れば事情を知った者は酷く悲痛な面持ちとなる。知らない者は何か遭ったのかという疑問を抱く。
「一誠くん!」
ルーラーが声を掛けても無反応。
「リアス先輩、ここで一体何が起きたんですか?」
和樹はリアスに説明を求めた。
「・・・・・っ」
咲夜はボロボロに四散したメイド服の切れ端と一本の銀の糸で把握し、この状況に理解したようで目を丸くして涙を流した。
「・・・・・イッセー?」
オーフィスは周りにいたテロリストを無視して近づき一誠を揺らす。
「・・・・・」
クロウ・クルワッハは静かにこの状況を観察する。
「あーあー、アザゼルのおじさん。来るのが遅かったじゃん。もう終わっちゃったよ?」
呆れ顔で発する初老の男性の言葉にユーストマが怒りを露わにして殴りかかろうとした。しかし、アザゼルとフォーベシイに抑えられてしまった。迂闊に近づくなと思いを込めて。
「やめろ!」
「このくそアザゼル!坊主の気持ちが分からないってわけじゃないだろうがぁっ!まー坊も放しやがれぇっ!」
「アザゼルちゃんの言う通りだよ!まだ、何が起きるのか分からないんだから!」
三人の様子を見て状況を把握できない面々は怪訝になる。
「・・・・・アザゼル、彼らは一体誰なのか教えてちょうだい」
リアスが求める。この騒動の元凶であることは十中八九間違いない。暴れるユーストマを必死に抑えつつ、
答えた。
「現魔王の親類どもだ」
「まさかっ!?」
「一人はクルゼレイ・アスモデウス。もう一人は大方ベルゼブブの親類だろうよ。そしてあの銀髪の男は―――」
悔しげに奥歯を噛みしめ、告げた。
「前魔王のルシファーの長男であり現魔王ルシファーの弟。ヴァーリの祖父にあたるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ」
『ルシファー!?』
「ちゃお~♪そーです、俺っちの名前はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーです!たまにリリンなんて呼ばれているけどねー。そこんとこ夜・露・死・苦!うっひゃっひゃっひゃっ!」
少年少女たちが驚くもう一人のルシファーの存在。それがテロリストとして姿を現し、一誠に深いダメージを与えた。状況に察知できず、理解に追いつかないでいる。また謎が一つ増えたのだから。
「なんで、現魔王の弟がここにいるんですか・・・・・」
「それは勿論、坊ちゃんを介して異世界のことを知りたいからだぜ!」
「坊ちゃん・・・・・?」
龍牙が怪訝に皺を寄せたことでアザゼルが補足する。
「一誠のことだよ。あの野郎もまた、誠と一香と交流しているんだから一誠の事を知ってもおかしくは無い」
「そーいうこと!んで、今そのまっ最中なんだよねー。邪魔、しないでね?」
「邪魔って・・・・・」
「坊ちゃんにしかできないことだからさ。目の前で大切なものを失わせればもしかしたらって思って実行したんだけどさぁー?見ての通り、うんともすんともしなくなっちゃって困っているんだよ。早く異世界のこと知りたいのにさ」
大切なものを目の前で失わせる。事情を知っている者とリアスたち以外の面々は何の事だかわからない。
そんなことしてもどうにかなるもんじゃないことをわかっているはずだ。
「あなたは、彼の何を目の前で失わせたんですか?」
それは禁句だった。
「当然、坊ちゃんの大切なメイドに決まってるっしょ?」
『―――っ!?』
ハッキリと理解した。一誠が魂の無い抜け殻のようになっていることを。そして、リアスたちやアザゼルたちの反応も頷ける。
「殺した、の?リーラさんを」
震える声を発するイリナ。もしもそうだったら、一誠の精神はどうなるか分かり切っている。
「殺したというよりこうボンッ!って爆発してみました!いやー、爆発すると血が花火を見ているようで周囲に飛び散ったぜ!ほら、点々と赤くなってるでしょ?あれ、坊ちゃんのメイドの血だぜ?肉体なんて木端微塵だからなくなっちゃった。てへっ♪」
―――っ。
許せない―――。それがこの場にいる全員の気持ちだった。
「・・・・・アザゼル先生」
和樹が一歩、また一歩と前に進みだす。
「相手はテロリスト。生死は問いませんよね」
全身から滲みだす魔力が徐々に溢れる。
「彼の気持ち、兵藤一誠の気持ちはよく分かりますよ」
手に魔力を圧縮、集束させる。
「僕にも大切なメイドがいます。彼と同じ事が起きたらきっと僕もショックを受けるだろうから」
極限まで米粒ほどの魔力にすればリゼヴィムたちに向けた。
「彼がしたかった事を、彼が望む事を僕が代わりに果たしてみます」
「・・・・・それであいつの気が済んでもらえるなら構わない。やれ」
「ありがとうございます」
刹那。解放された米粒ほどの魔力は大気を震わせ、地面を深く抉り、レプリカのフィールドに亀裂を生じさせるほどの砲撃がリゼヴィムたちに襲いかかった。誰もが見えを見張るほどの極太の魔力の砲撃。
「流石は次期式森家当主と肩書を持っているだけのことがある。・・・・・だがな」
「はーっはっはっはっ!」
黒い十二の柱が笑い声と共に現れた。和樹の魔力は黒い柱に防がれ始め、あろうことか受け流したのだった。
「なんだとっ!?」
カリンが驚愕した。あんな膨大な魔力の砲撃を受け流したリゼヴィムは殆ど無傷でその場に立って、クルゼレイたちまで守り切ったのだった。
「うーん、さっすがは魔法使いの代名詞と称されたこともある式森くんだねー。うんうん、お爺ちゃん、っびっくらこいた!」
「・・・・・本気だったんだけど、酷くプライドを傷つけられちゃったよ」
チッチッチッ、「甘い甘い」と人差し指を左右に動かすリゼヴィム。
「これでも俺は前魔王の息子だぜぃ?実力も魔王並みなのさー!」
「だったら―――!」
ルーラーが
「聖なる炎で焼失してしまえ!」
「待て!」
アザゼルの制止は既に遅く、リゼヴィムに炎の剣の刀身が届いた。のに、リゼヴィムは何事も無かったようにその場に立っていた。
「避けられた?」
「いや、間違いなく直撃していた」
「でも、じゃあなんで・・・・・」
ゼノヴィアやユウキからも直撃したと認知していた。しかしそれが疑問だった。
「お前ら良く聞け。あいつには、リゼヴィムの野郎には
「効かないってどういう・・・・・」
そのまんまの意味だと全員に聞こえるように説明し出す。
「あいつは悪魔の中で特別な力を有している超越者の一人だ。『
「じゃあ・・・・・イッセーの
「そうだ。だが、一誠の無効化の力も無効化されるかどうかは分からない。それでもあいつには
リゼヴィムの超越者としての能力にルーラーは歯を食いしばる。自分の力が討伐すべき相手にあっさりと無効化されるなんて屈辱ものだろう。
「そうそう。だから無駄な事は止めましょうねー」
「だったら、魔力でならどう!?」
「おっと、坊ちゃんまで当たるけどいいのかなー?」
「なっ・・・・・」
愛しい異性が盾にされては手も足も出せない。それはこの場にいる一誠の味方がそうだった。
「悪魔らしいやり方だわ!」
「褒め言葉として受けとくぜい!」
ゲラゲラと笑うリゼヴィムが真紅の頭にポンポンと調子よく叩き始める。
「さてと、坊ちゃんは捕まえたことだし俺たちも帰ろうぜ」
「我、させない」
「ぬぉうっ!?」
龍神としての力を発揮するオーフィス。リゼヴィムに向けて魔力を放って一誠から遠ざけた。
「お前ら、リーラを殺した。我、許さない」
「うっひゃっひゃっ!オリジナルの龍神ちゃんのお怒りだねー」
「オリジナル?」
「そ、なんだか英雄派の奴らが第二のオーフィスを作ったって言うんじゃん?実際に見に行ったら本当にいたんだよねー。いやー、凄い凄い」
パチパチと軽く拍手をするリゼヴィムに対してもう一人の自分がいることを知って「そう」と言うだけで大した関心を持たなかった。
「我は我。イッセーを守る。リーラの仇を取る」
それだけが今のオーフィスを突き動かす原動力だった。
「 」
「?」
オーフィスが何かに反応を示した。一誠の唇を凝視すると微かに動いているのが分かった。
「・・・・・リーラ」
ポツリと漏らした一誠の声を今度はハッキリと聞こえたと思えば、
『リアス・グレモリーたち。今すぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去したほうがいい』
ゾラードの声。周囲にも聞こえるように発声した。敵味方関係なく足を停めた。どういうことだとリアスたちは怪訝な表情をした。
『そこの悪魔。リゼヴィムと言いましたね』
今度はメリアの声が聞こえる。
『―――愚かな事をしてくれた』
今度はアジ・ダハーカが。
『何よりもやってはいけないことをしたな』
ネメシスが何かを悟ったように発声し。
『『『『―――お前は選択を間違えた』』』』
一誠の内にいるドラゴンたちが心身を底冷えさせるほど、無感情の一声を発したのだった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!
地面が大きく揺れ、一誠が真紅のオーラを発していく。そのオーラは次第に高まり、大きくなっていって、周囲を赤い輝きで照らし始めた。
「あのオーラは・・・・・っ!」
「拙い、皆、一旦ここから退去するんだ!」
「全速力でだ!」
アザゼルたちが叱咤しつつ催促した。衝動的に駆られてその通りにする者もいれば。
「いっくん・・・・・?」
「一誠くん・・・・・」
「イッセー・・・・・」
唖然と一誠の異変に目を向けたまま動こうとしない面々もいた。そんな面々の視線の先に―――。
「リーラ・・・・・」
人の形を崩し、巨大化していく。
「リーラ・・・・・ッ」
人で無くなり極太で長い鎌首にトカゲのフォルムの頭部、
「あああ・・・・・・っ」
巨大な真紅の身体に巨大なニ対の翼が生え出し、岩をも切り裂くことができそうな巨大で鋭利な爪を大きくなって手と共に伸び、大地を踏みしめる巨大な足、全てを薙ぎ払う長大な尾。
『あああああああああああああああああああああああああっ!』
全長百メートルはあろう巨大な真紅へと変貌した一誠が天に向かって吠えた。
『リーラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッッッ!』
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
獣の叫びにも似た声を発し、周囲に破壊を齎した。
世界と世界の狭間に存在する次元の狭間。無の世界とも言われているその場所にヴァーリたちが何かを探し求めて移動していた。
「なぁ、ヴァーリ。本当にここにいるのかよ。こんな次元の狭間に」
「いつかは見つかるさ。なにせ、オーフィスが見つけたんだからな」
「いや、オーフィスと同じようにそんなあっさりと」
美猴が話しかけてくる声から耳を逸らして何かを察した。
「(一誠・・・・・?これは・・・・・)」
ヴァーリは結界を張っているアーサーにつまらなさそうにしている美猴に告げた。
「予定変更だ。冥界に行く」
「あ?なんだよ急に」
「一誠の様子がおかしい。一応、見に行く」
「そう言う事なら大歓迎だぜ!」
先ほどの態度とは打って変わって嬉しそうにはしゃぐ美猴だった。そんな二人を余所にアーサーは何かを見つけた。
「ヴァーリ、どうやら向こうから見つけさせてもらったようですよ」
「なに?」
三人の目の前に迫る巨大な影が。ヴァーリは深い笑みを浮かべ、嬉しそうに声を弾ませた。
ゴオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!
「グレートレッド・・・・・っ!?」
変貌した一誠に戦慄する。壮大で畏怖の念を抱かせるのに十分な迫力とプレッシャー。
空中へ避難するリアスたちから見ても百メートルを超えているかもしれないその巨大さに
息をも呑む。
「あれが・・・・・イッセーの本当の姿・・・・・」
「そうだ。俺も実際に見るのは初めてだが・・・・・」
目を細めて「あれはヤバいな・・・・・」と警戒の色を含んだ声を漏らす。
「メイドを失ったショックと虚無感。そして怒りと悲しみと殺意と絶望が今のあいつの中でごっちゃ混ぜになって我を忘れている可能性が大きい。今の一誠は本能を赴くままに暴れ回るだろう正真正銘のドラゴンだ」
「オーフィスは、オーフィスはどこに?彼女ならイッセーを」
リアスの懇願の声にとある方へ指を差すアザゼルに顔を向けると、一誠の巨大な頭部の上にちょこんとオーフィスが座っていた。一誠を止めようとする気配がない。
「頼みの綱のオーフィスもイッセーと同じ気持ちのはずだ」
「そんな・・・・・」
絶望するリアス。そして一誠が動き始めた。巨大な手を振りかざし、勢いよく振るえば魔力が帯びた嵐が発生してテロリストたちを紙のように吹き飛ばし、屠る。
「あ、あれだけで・・・・・」
「本来の力をセーブしていたはずだ。ドラゴンとしての力を」
一誠の戦いぶりは壮絶だった。全身に魔力弾を受けても平然として立ち振る舞い、尾で薙ぎ払い、爪で切り裂き、
地面に向けて魔力を放てば一誠の周囲の地面から真紅の光がカッ!と迸り、無数の極太の柱がテロリストたちを呑みこんだ。
「あれが、イッセー・・・・・」
本来の姿、本来の力を振るう一誠の姿はまさしくドラゴンであり化け物。大切なものを失ったその衝撃は計りしれない。
「もうイッセーは誰にも止められないの・・・・・?」
力無く漏れる言葉は絶望の色がハッキリと籠っていた。一誠が天に向かって悲哀に包まれた咆哮をし始める。
「リゼヴィムたちは・・・・・っ」
「とっくの昔に逃げたようだ。今この場にいるのは俺たちしかいない」
「どうすれば元に戻るのですか?」
『・・・・・』
一誠が元に戻る―――。今のアザゼルたちにその方法と手段は無い。それどころか今の一誠に近づけば自分たちも敵と判断され攻撃をされかねない。
「困っているようだな?」
第三者の声。その時、空間に避け目が生まれる。人が潜れるだけの裂け目から現れたのは―――白龍皇ヴァーリ。そして、美猴とアーサー。
「ヴァーリ!?」
イリナが酷く驚いた。この場にもう一人の幼馴染が現れるとは思いもしなかったからだ。
ヴァーリが一誠を見詰める。
「あれが一誠か・・・・・何が遭った?」
「リーラが死んだ」
アザゼルが短く説明した。ヴァーリはリーラの死に目を丸くし驚いた。
「彼女が死んだ?」
「ああ、ついさっきリゼヴィムの野郎の手でな」
「―――リゼヴィム、だと」
その名を聞いた瞬間。ヴァーリの顔が怒りで歪み始め、アザゼルに「あいつはどこだ」と詰め寄った。
「もう逃げた。あいつ、異世界に興味を持ちやがって唯一異世界の神と接触した一誠を利用しようと試んだが、結果はああなった」
一誠の暴走。
「赤龍帝と白龍皇と違って
『リーラァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!』
「今のあいつは危険極まりない」
「・・・・・」
アザゼルから背を向け、『
「この場になんとかできそうなのは私しかいないだろう。一誠の力を半減させ、その後は全員で攻めかかるしかない」
「・・・・・頼む」
申し訳ないとアザゼルの心情を理解し、
『Divide!』
白龍皇の力が発揮した。連続で半減の音声が場に響き渡る。そして―――!
『Boost!』
「なに・・・・・?」
ヴァーリは耳を疑った。目の前の真紅のドラゴンから聞こえた有り得ない音声を。
本来有していないはずの力を発動した瞬間を目も疑った。白龍皇の半減の力が―――。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!』
赤龍帝の力、倍加の力が一誠の力を戻すだけじゃなく何倍にも倍加した。
『バカな。あれは間違いなくドライグの力っ!なぜ、あの者がドライグの力を振るえるのだ!?』
アルビオンが信じられないと声を荒げた。ヴァーリ自身も驚きを隠せず、一誠から距離を置いた。
『・・・・・』
金色の目がヴァーリを射抜く。敵として認知したのだろう。頭部にいるオーフィスにヴァーリは気付く。
「オーフィス。なぜ一誠を止めない」
「イッセーの気持ちは我の気持ち。我、イッセーの気持ち分かる。リーラ、死んだ。我も悲しい」
「私も知った。確かに一誠にとって深い心の傷を負った。だが、このままでは一誠は危ない」
「止まらない。止められない。イッセーの心は固く閉じてしまった」
『Divide!』
オーフィスとの会話中にまた、ヴァーリとアルビオンにとって信じ難い音声が聞こえた。
『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!』
『私の力まで振るえるだと・・・・・っ!』
「くっ・・・・・!」
ヴァーリも半減の力を振るい、一誠から力を奪うが、一誠もヴァーリの力を半減するので結果はイタチごっこ。
自分の力に追い詰められる経験は皆無だったヴァーリにとって脅威的な力。
まるでもう一人の自分と戦っている気分になる。
「ヴァーリ、ここからいなくなる」
「それで一誠はどうなる」
「どうにもならない。イッセーは止まれない」
一誠が翼を羽ばたかせ、宙に浮いた。この場からいなくなろうとしている雰囲気と気配を察知し、アザゼルたちが慌てて近づいてきた。
「オーフィス!そいつを現世に行かせるな!」
「無理」
金色の目が煌めき、バトルフィールドの空間が歪みだし、巨大な穴が開きだすとその穴へ向かって飛ぶ一誠。
「ま、待てイッセェッ!」
アザゼルの必死の制止の呼び掛けは空しくも穴の中に潜ってしまった。