HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード47

圧倒されていた。並々ならぬ者の食事を。目の前に平らげられた空の食器が山積みになっていく様を。

生まれて十数年間、兵藤一誠は美味しそうに―――。

 

「おかわりいいでしょうか?」

 

「もう勘弁してくださぁーい!?」

 

早食い競争のイベントに参加している大和撫子風な少女とその少女の食いっぷりに店員はもう情けなく嘆いた姿を見て。

 

「・・・・・どうしてこうなった」

 

唖然と見ていた。

 

 

 

オーフィスを肩に乗せて町に出向いていた。何か面白いものは無いかという探検気分で散歩をしていた。

しばらく歩いていても特に変化や面白そうな事は見つからない。あるとすれば、自分に向けられる視線だけだった。一誠に気付けば「あ、兵藤一誠だ」と有名人、芸能人を見つけた反応を示す。

既にこの町では少なからず自分の存在を認知されていることに何とも形容し難い気分となる。

それでも、時間が許される限りオーフィスと一緒に歩いていれば―――。

 

「綺麗なお姉さん。俺たちとどこかに―――」

 

「はいはい、下手なナンパは古臭いからなー?」

 

「「「ああ?誰だ―――げぇっ!?兵藤一誠!」」」

 

どこぞの有名武将と出くわしたような反応をしだすナンパたちが恐れ戦いた表情を浮かべて脱兎の如く逃げてしまった。そんなナンパたちに

 

「・・・・・何もそこまで怖がること無いじゃん」

 

「イッセー、どんまい」

 

落胆する一誠を慰めるオーフィスという構図に救われた少女は戸惑った。

 

「えっと、助けてくれてありがとう・・・・・」

 

「ああ、どういたしまして。んじゃ」

 

「・・・・・あの、兵藤くん」

 

初めて会う少女に呼び止められ、その少女に振り返ると頭を下げられた。

 

「金剛さんたちと仲良くしてくれてありがとう」

 

金剛たちの事を言われるとは思いもしなかった。あの四姉妹の友達なのだろうかと「友達なのか?」と質問すれば肯定した。

 

「はい、とても仲のいいお友達です。あ、申し遅れました。私は日之丸大和と申します」

 

「ああ、これはどうも、兵藤一誠です。んで、肩にいる少女はオーフィス」

 

「我、オーフィス」

 

焦げ茶色の髪をポニーテールに茶色の瞳の少女と挨拶を果たす。

 

「金剛たちが他にも友達がいたなんてな。そう言う話しは訊いてなかったから知らなかった」

 

「交友はありますよ?ただ・・・・・」

 

「兵藤家の存在か」

 

「はい」と複雑そうに首を縦に振った。しかし、大和は言い続けた。

 

「ですが、あなたのおかげで学校は少しだけ良くなりました。これで不安も抱かずプライベートでも外に笑って歩けれます」

 

契約書の内容の事を言っているようで直ぐに大和の言葉の意図を察した。

 

「だけど、兵藤家じゃなくてもナンパされたな」

 

「あはは、そうですね。困っちゃいました」

 

どちらにしろ大和は災難な目に遭う。一誠はふとある事を訊いた。金剛たちの存在を知っているというのならば、

同じ学園に通っている生徒ではないかと。初めて大和と会う一誠にとって気になる対象だった。

 

「ところで金剛を知っているということは駒王の?」

 

「ええ、3-Aに所属しています。あなたの先輩ということになりますね」

 

「先輩か。んじゃ、日之丸先輩」

 

「大和、と呼んでください。金剛さんたち、特に金剛さんがあなたの事をよく話をするので色々と聞いています。

 とても格好良く、頼りがあり、可愛い男の子だと」

 

最後の可愛いは余計だと金剛に対して不満げに胸の内で漏らす一誠だった。

 

「俺のことは一誠って呼んでくれ。正直、兵藤って呼ばれるのは嫌いなんだ」

 

「わかりました。では一誠くん、もし時間があれば私と付き合ってくれませんか?これから昼食の時間ですし」

 

「嬉しい誘いだ。俺たちも暇だったから大和先輩の護衛役としても付き合おう」

 

「ふふっ、頼りにしますよ?」

 

こうして大和を加えて朝食に向かったのが最近オープンしたばかりの料理店に足を運んだ。

 

「あ、これは面白そうですね」

 

店の壁に貼り付けられているポスターを見て、大和は興味を示した。

 

『三十分以内に三キロ分の料理を完食すれば賞金三万円!』

 

「三キロ・・・・・結構な量だけどこれ一人で食べないとダメみたいだぞ?」

 

「大丈夫です。お金はありますので」

 

そう言う問題か?と首を捻る一誠を余所に大和は意気揚々と店に入った。一誠も続いて入ると、

オープン仕立ての店は大勢の客たちが賑やかに料理を食べていて一目で繁盛していると分かった。

 

「いらっしゃい―――って、兵藤一誠!?」

 

「うわ、ここでも俺は知られているのね」

 

これじゃどこの店に訪れても同じ反応をされるんじゃないかって思っていれば、どこからともなく取り出した物を店員は一誠に突き出した。―――サイン色紙である。

 

「サイン下さい!」

 

「サインを要求された!?」

 

驚く一誠だが、サイン色紙に自分の顔と名前に参上!と書いて渡せばようやく開いている席に案内され、座席に座った。そして直ぐに大和は注文した。

 

「早食い競争をします」

 

店員は驚愕して厨房の奥へと姿を暗ました。それから少しして・・・・・三キロ分の肉じゃがを持って現れた店員が戻ってきた。周りから奇異の視線を感じ始める中、大和の早食い大会が始まったのだった。

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろうと一誠は悟った。たくさんの肉じゃがをひょいひょいと小さくて可愛い口の中に吸い込まれてゆき、少しずつだが量が減っていく。それから制限時間三十分以内に大和は

 

「ごちそうさまでした」

 

全て平らげたのだった。少女のお腹にあの量の料理はどこに入ってしまったんだと膨れている気配を感じさせないほどに―――。そう思っていた矢先、

 

「あのすいません。もう一度、早食い競争をします」

 

「「え”」」

 

大和の口から跳んでもない言葉が出てきたのだった。そして―――二度目の早食い競争が勃発したのだった。

 

 

「・・・・・あの店員、泣いていたぞ」

 

「どうして泣いていたんでしょうか?」

 

言っていいのか分からない。オープンしたての店はこの日、割り合わな過ぎる赤字という結果と成り、

『もう二度と大食いだなんて―――』と呪詛を漏らしていたのを。あれから片手で数え切れそうにないぐらいの早食いをしたら店側がもう降参だと白旗を振って、大量の賞金を貰った大和と店から出た。

 

「私が大食い大会や早食い大会をすると店員の皆さんはいつもあんな感じで」

 

ハングリーモンスター!?

 

「もう一度同じ店でそうしようと思っていたら何故かやって無くてとても残念です」

 

その理由を分かれば大和は抑えるのだろうか・・・・・。咽喉につっかえた言葉は口から出さず、敢えて何も言わないことにした。

 

「失礼だけど、大和先輩の家は金持なのか?」

 

「お金持ちかどうかわかりませんが、私の両親は代々とあるホテルを受け継いで運営しています」

 

「知ってますか?日之丸ホテルって」と訊かれる一誠は首を横に振った。

 

「それってどこに?」

 

「某県にホテルというより実家があります。私は女子寮で暮らしていますので」

 

そこで大和は思い付いたように手を合わせた。

 

「そうだ、一誠くん。女子寮に来ませんか?」

 

「まず第一前提に男が女子寮に入って良いのかと疑問をぶつけたい」

 

「女子寮に金剛さんたちも一緒に暮らしているので会いにいらっしゃっては?」

 

「む・・・・・」

 

金剛たちに会えるのならば吝かではないと思ってしまった。それに女子寮に金剛たちがいるとは初耳。

 

「兵藤たちは女子寮に入らなかったのか?」

 

「一度だけ、入ってきました。その時は丁度金剛さんの妹たち以外誰もいない時で・・・・・」

 

訊いた途端に顔を暗くする先輩に失言したと気付き、直ぐに謝罪した。

大和はその謝罪を受け入れ、一誠とオーフィスを女子寮へと連れて行った。

 

 

金剛は比叡、榛名、霧島と優雅にティータイムを有意義に過ごしていた。この部屋は辛い思い出があり、周囲の者たちから部屋を変えた方がいいと進言するが、辛さから逃げるのはよくないと四人の意思が強く、現状維持で過ごしている。

 

「んー、榛名と霧島の茶菓子は美味しいデース」

 

「そう言ってくれると嬉しいです」

 

「流石に彼には及びませんが口に合って何よりです」

 

敬愛する姉の褒め言葉に柔和な笑みを浮かべる。穏やかに姉妹だけの時間を過ごすこの瞬間は金剛たちがなによりも大切にしていた。そんな時間を申し訳なくノックをしてから入る大和が現れた。

 

「こんにちは」

 

「OH!大和、どうかしまシター?」

 

「うん、金剛さんに会わせたい人がいるんだけど」

 

「私に?」

 

誰だろうと大和が廊下に声を掛ける姿に首を傾げていると、ひょこっと見慣れた髪と顔の容姿の子供が扉に顔を出した。その子供を見た途端に金剛は目を輝かせて

 

「イッセー!」

 

黄色い声を上げて子供に抱きついた。比叡たちも驚き、近づいた。

 

「大和さん。どうして彼と一緒に?」

 

「ナンパされていたところを助けてくれたんです。それから一緒に昼食を食べて、話をしているうちに金剛さんたちと会わせたくなって」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

一誠だけじゃなく、オーフィスもいることに気付き、この二人も外に出かけていたという認識をした霧島。

大和が一誠を誘うのは理解できるし、一誠の事はよく自分の姉に訊かされている。直接目と耳で一誠を知って他の兵藤とは違うことを分かっただろう。

 

「大和さん、彼はどうでしたか?」

 

「優しいですね。それにこうして金剛さんと一誠くんの姿を見れば他の皆も納得してくれるでしょう」

 

「おや、名前で呼び合う仲まで進展したのですか」

 

自分が知る限り名前を呼び合う仲まで進展した異性はいなかった。胸に抱きかかえ、頬をすり合わせる金剛と一誠を見て大和と微笑む。

 

「彼は姓で呼ばれるのは嫌みたいですし、私も彼ならいいと思って」

 

呼ばれる抵抗感は全くないと雰囲気を醸し出す大和。一誠にじゃれている金剛は満足して大和、一誠とオーフィスを加えて、金剛たちのティータイムと過ごすことになったのだった。

 

「む、美味しい紅茶だ」

 

「この紅茶は霧島が用意してくれるのデース。私の一番好きな紅茶でもあるんデスヨー?」

 

「そっか、ならいつか俺も紅茶を用意して霧島に打ち勝つとしようか」

 

「ふふっ、負けませんよ?」

 

自分が一番であろうとする負けん気が発揮する一誠と霧島。それから霧島が思い出したように言う。

 

「そう言えば兵藤・・・・・いえ、一誠くん」

 

「呼び直してくれて素直に嬉しいな。で、なんだ?」

 

「携帯で非公式新聞部の情報で知ったのですがリアス先輩が率いる眷属と一緒に若手悪魔のゲームに参加するそうですね?」

 

金剛たちも霧島の問いにウンウンと頷き、興味津々で目を一誠へ向ける。

 

「一誠くんなら勝ちますでしょう。頑張ってください」

 

「私たちも応援してますからイッセーはガンガンFIGHTしてくだサーイ!」

 

「榛名、全力で応援します!」

 

「お姉さまの応援を無駄にするなよ!私も応援するけど」

 

「大和も応援しています。頑張ってくださいね?」

 

金剛四姉妹、大和たちからのエールを送られてしまい「負けられなくなったな」と笑みを浮かべる。

 

「うん、絶対にリアスたちと勝つよ」

 

「我も」

 

「オーフィスは無理だろう」

 

周りからクスクスと微笑ましい笑みが零れるそんな時、

 

「金剛、ここに大和はいるか―――?」

 

ノックをしてから扉が開く時間は数秒。開かれた扉の向こうから腰まで伸びたロングストレートの黒髪に真紅の瞳。どことなく久しく会っていない川神百代を彷彿させる女性だった。

 

「・・・・・」

 

真紅の瞳は一誠をロックオン。ツカツカと近づいたかと思えば、

 

「この女子寮に男子の出入りは禁止だ。例え子供でもな」

 

一誠の襟を掴んでどこかへ連れて行かれてしまった。後に「ああっ!イッセー!?」と金剛の絶叫で我に返った面々は慌てて連れて行った女性の後を追うのだった。

 

―――○●○―――

 

『―――アザゼル、例の件だがどうだ?』

 

「お前の情報を全て鵜呑みにはできないが、お前の情報の下で対処する予定だ」

 

『一誠なら私の事を全面的に信用してくれるのだがな』

 

「あいつの立場がそんなことできるんだ。俺とお前の立場は相手の情報を容易く信用しちゃならねぇ」

 

『だが、ディオドラの件に関しては信憑性が増してきただろう?』

 

「・・・・・ああ、そうだな。あいつらには悪い事をする」

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

「・・・・・こんな真っ昼間から若手悪魔同士のゲームをするなんてな。しかも授業ときたか」

 

リアスがそう言い、一誠は微妙な気分で発する。決戦日。グレモリー眷属+αとしてオカルト研究部の部室に集まっていた一誠。

 

「丁度、私のクラスはディオドラのクラスと戦う予定だったみたいなの。だから若手悪魔同士のレーティングゲームをするなら授業に則ってすれば一石二鳥だって言われたわ」

 

悪魔もぶっちゃけたな。一誠はこの学園にはいないはずの一人の眷属であるレオーネに話しかけた。

 

「レオーネは普段どこで何をしてるんだ?」

 

「自由気ままに生活してるぜ?勿論、家の仕事をこなしてるし」

 

「んじゃ、黒歌とは?」

 

「すっかり仲良しだ!」

 

仲がいいらしく、なるほどと納得する。中央の魔方陣に集まり、転送の瞬間を待つ。

 

「ああ、そうだ。リアス」

 

「なにかしら」

 

「ディオドラの事だが、色々と分かったことがある」

 

その一言でリアスの顔に真剣味が帯びた。

 

「言ってちょうだい」

 

「一言でいえばゲスなやつだ。あいつの眷属、元聖職者で構成されたメンバーしかいない」

 

「―――っ」

 

全て理解した訳ではないが、リアスは何かに気付き、怒気が孕んだ瞳に怒りの炎が。

 

「他に分かったことは?」

 

「元聖職者がどう言った事情で転生悪魔になったかは不明だけど、ディオドラの言動からすればオトしたんじゃないか?巧みな言葉でだったり、女性にとって嬉しいプレゼントを送ったりしてさ」

 

アーシアには聞こえない程の声でリアスの耳に囁く。

 

「聖職者をオトすことが生き甲斐、もしくは趣味。どっちにしろ、アーシアの敵に何ら変わりは無いってことだ」

 

「もしもそれが本当だったとしたら、ますますアーシアを渡す訳にはいかない。イッセー、遠慮はいらないわ。私たちの為なんて思いを捨てて思う存分に蹴散らしてちょうだい」

 

「前回のソーナ先輩みたいな規制がなければ、な?」

 

どちらにしろ、暴れさせてもらうと付け加えた。そんな頼もしい異性に心底信頼するリアス。

そして、魔方陣に光が走り、転送の時を迎えようとしていた―――。

 

 

 

「あっちはおっぱじめたようだよ」

 

「こちらも動くとしよう。私たちにとって強大な敵を足止めの形にしてくれるのだからね」

 

「だが、これは何の意味がある?」

 

「意味はあるさ。―――英雄のクローンなんて、そんなの英雄ではないただの模造品、私たちの偽物でしかない」

 

 

 

魔方陣の眩い輝きから視力が回復し、目を開けて見ると―――。そこはだだっ広い場所だった。一定間隔で太い柱が立って並んでいる。床は石造りだ。

周囲を見渡すと、後方に巨大な神殿の入口。ギリシャ辺りにありそうな神殿風景。

 

「授業の一環だから学校だと思ったけど、若手悪魔のゲームを優先にした違うフィールドにしたってところか?」

 

「私も詳しくは訊いてないのだけれど・・・・・」

 

一誠の訊ねにリアス自身は答えに困っていた。どんなフィールドでするのかは運営側が決定する手筈。

選手たるリアスたちからすれば現地に訪れるまでは何も知らされず転送される。

よって今回のようなフィールドであることも知らない。

 

「・・・・・おかしいわね」

 

リアスが言う。他のメンバーも怪訝そうにしていた。何時まで待っても、経っても審判役のアナウンスなど聞こえてこない。

 

「今までとは様子が明らかに違うな」

 

一誠も何かに察して身構えた時だった。神殿と逆方向に魔方陣が出現する。しかし、その魔方陣はリアス、一誠たちが驚かせるのだった。

 

「・・・・・アスタロトの紋様じゃない!」

 

イザイヤが叫び剣を構えた。一誠にとって見たことのない魔方陣が、数えきれない数の魔方陣が辺り一面、一行を囲むように出現していく。

 

「やられたな」

 

「イッセー、まさか知ってたって言うの?」

 

「知ってたら、とっくの昔に対処に動いていたさ。というか、俺だって驚いている。またこんな形でテロリストに襲撃されるんだからな」

 

となれば―――。

 

「あくまで予想だがもしかすると。現実世界=学校にも襲撃が遭っているのかもしれないな」

 

『―――っ!?』

 

 

 

一誠の予想はまさしく的を得ていた。平和的な学校生活は今日も変わらず過ごすと誰も当然のように思っていた。

だが、リアスたちがいなくなったと同時に―――白昼堂々と学園を囲むようにして数多の魔方陣が出現し、ローブを深く被る魔法使いのような一団、戦意と敵意の雰囲気を醸し出す悪魔の一団が一斉に現れては躊躇もなく攻撃を仕掛けた。

 

 

「まさかっ!」

 

「あくまで予想だ。そうでないかもしれない。しかし、目の前の現実を受け入れないとな」

 

「・・・・・そうね。ここから切り抜けないと次が進めないわ」

 

臨戦態勢の構えをするリアス。軽く周囲に視線を向けて確認するように告げた。

 

「大雑把で数えると千単位ぐらいだが、体力と魔力は保つか?」

 

「あなたという心強い味方がいるから大丈夫よ!」

 

と、リアスは力強く言った。そうか、と内心呟き口角を上げる。

 

「そう言ってもらえると、俺も頑張らなくちゃいけなくなるよ―――なっ!」

 

「―――」

 

アーシアの頬を掠りそうになるほど、振り向いた瞬間に正拳突きをした一誠の拳は

 

「ぶへらぁっ!?」

 

純粋無垢な少女に魔の手を伸ばしていたディオドラの顔面に突き刺さった。

ディオドラの気配を察知できていなかった面々は驚きで目を丸くし、唖然と一誠に視線を送った。

 

「よぉ、ドラゴンから簡単に奪えるなんて思ったら大間違いだぞディオドラ?」

 

顔を抑えて屈辱で塗れた歪んだ表情を一誠に睨みつけるディオドラ・アスタロトだった。

 

「さて、お前がアーシアを狙った時点でテロリストに加担しているという事は明白となったわけだが、何か弁解でもあるかな?」

 

「弁解・・・・・?ふふっ・・・・・バカだね」

 

「あ?」

 

ディオドラは両腕を横に広げて高らかに言い放った。

 

「キミが相手をしていた兵藤の奴ら以上の数とその実力以上を持っているエージェントに魔力が増大したこの僕に勝てると思っているのかい?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・・。

 

「傲慢になりたくないが。うん、勝てると普通に思ってるけど」

 

リアスと朱乃ですら、ウンウンと一誠に同意していた。

 

「というか、数で勝てる相手だと俺は思われているのか?だとしたらそれは大間違いだ」

 

「素直にアーシアを渡せばリアス・グレモリーたちを無事に現実世界へ戻せるのに愚かな奴だ」

 

「悪魔のお前がそんな口だけの事を信用できるか」

 

「そうかい。なら・・・・・ここで散ればいいさ!」

 

ディオドラの言葉が合図と判断し、テロリストたちが魔力弾を放った。

リアスたちは反応するが、一誠に制された。「俺がやる」と言って片腕を掲げて何をするのか様子を見ていた。

数多の魔力弾が何かに引き寄せられ一誠の手に集束し始めた。一つになり次第に大きく膨張していく光景に誰もが目を張った。

 

「返すぞ」

 

全ての攻撃を集めたソレを周囲へ乱れ撃ちを始めた。魔方陣で防御する悪魔もいたが、魔方陣ごと貫かれ消滅する事実に相殺し始める者には、魔力を打ち消されて貫かれてしまう運命を辿る。結果、返された攻撃で半数も減ったテロリストたち。

 

「んで」

 

チャクラムを模した聖なる光を投げ放った。それに付け加えるように極光の魔力の砲撃を当てれば一気に多く分離して縦横無尽に宙を駆けては残りのテロリストたちを切り裂き、チャクラムの真ん中の空間から形を崩して砲撃という遠距離攻撃を行って屠っていく。

 

「す、すげぇ・・・・・」

 

「私たちの出る幕がないわね」

 

「どんだけ強いんだよお前って」

 

リアスたちからの驚嘆に不敵に笑む。

 

「世界中に旅をして修行もすれば否が応でも強くなれるものさ。思いもしない攻撃の仕方やその方法、色んなバリエーションを試しては思考錯誤する。子供の頃からずっとしてきたことだぞ」

 

「兵藤家たちにこの技をしなかったのは?」

 

「別にする必要は無かったから―――だ」

 

地面に強く手を叩きつけた刹那。リアスたちやディオドラの周囲の地面から光の壁が出現した。

一拍して光の壁がなくなれば、テロリストたちの姿はどこにも見当たらなくなっていた。

 

「こんな広範囲の攻撃だってできるわけだしな」

 

圧巻と開いた口が塞がらなかった一行。もしかすれば、自分たちが思っていた以上の力を有しているのではないかと思わずにはいられなかった。

 

「と、こんな感じで俺は強さを見せつけたがディオドラ。まだ、戦う意思は残っているか?」

 

「っ」

 

ジリ、と足を後ろへ動かした。ここまでとは予想外も良いところだ。兵藤一誠の実力は計り知れないと悟るディオドラは冷や汗を浮かべながら不敵に笑みを浮かべた。

 

「大した強さだね。だけど、僕を倒すのにまだまだだよ」

 

「・・・・・」

 

「なんたって僕はアガレスを倒した。今度はサイラオーグにも勝つ予定だ。情愛深いだけが取り柄のグレモリーなんかに負けるはずがない。この、最強のドラゴンの力を得た僕にはね!」

 

手の平に浮かべる互いの尾を噛みつく二匹の蛇の紋様の魔方陣。

怪訝な顔つきとなる一誠はどういうことだと説明を求めた。

 

「いまのテロリストには二匹のドラゴンがトップに君臨している。その内の一匹が最強のドラゴン、第二のオーフィスがいるんだよ!」

 

―――っ!?

 

「そう、無様に負けた兵藤一誠。キミから奪ったオーフィスの力を具現化にしたもう一匹の龍神がから直々に最強の魔力を得たんだ!」

 

高らかに威勢よく告げられた新事実。リアスたちは絶句した。もう一匹の最強のドラゴン。オーフィスと遜色のない魔力とその実力であれば、今のテロリストは驚異的な存在と力を有している事になる。

ディオドラから増大する魔力を肌で感じ、嘘ではないという証明も明らかになった―――。

 

「だが、その使い方がなっちゃいなければ宝の持ち腐れだ」

 

何時の間にかディオドラの背後にいて、肩に手を置いた一誠。

 

「最強は最強だ。最強でも倒せれる。そんだけだ」

 

「なに―――っ!」

 

ゴッッッ!

 

顎に打撃を与えて脳震盪を起こさせた。

 

「がっ!?」

 

「眠れ」

 

胸倉を掴んで勢いよく地面に叩きつけてディオドラの顔を沈めた。

 

 

 

同時刻、現実世界では―――。

 

「ヴァーリの言った通りになってしまいやがったな」

 

「そのおかげで対処が整っていなければもっと被害が甚大だったはずだよアザゼルちゃん」

 

「娘っこには感謝しねぇとなっ!」

 

拳で殴り飛ばし、敵数人も巻き込ませるユーストマの打撃はハンパではなかった。

 

「しかも、妙に魔力が高い奴らばっかりだし、魔力を吸収する可笑しな力を使いやがるな」

 

「ソレは報告で聞いていないのかい?」

 

「残念ながらそこまでは聞いてねぇーよ。ヴァーリもどこまでも調べられるわけじゃないみたいだしよ」

 

数多の光の槍を豪雨の如く放ってテロリストの数を減らす。

 

「で、避難の方はどうだ?」

 

「大方順調だ。生徒たちは皆地下に向かってる」

 

「戦える生徒は自主的に前線に立ってもらい、後衛組は生徒の避難の誘導と護衛」

 

「殆ど前線に式森のガキどもしかいないってのがおかしな話だよな」

 

アザゼルが視線を見上げれば、空中に浮遊して迎撃に臨んでいる和樹たちの姿がいた。

他にもサイラオーグ、ソーナ、イリナたち教会組、クロウ・クルワッハと戦える一誠の家族たちも学園の防衛や迎撃していた。その中には兵藤家もいるが数少なかった。主に神器(セイクリッド・ギア)を有している兵藤しか前線にいない。

 

「あれだけ偉そうに踏ん踏ん反り返っていたガキ共は怯えて避難しているのかよ。男じゃねぇなおい」

 

「まーまー神ちゃん。戦える意志がある者だけが自分の意思で行動してくれたほうがこちらも大助かりだよ」

 

「邪魔にならないだけマシってことだな」

 

そんな三人の前に一人の男性が現れた。

 

「俺は真の魔王となる者、クルゼレイ・アスモデウス」

 

「今回の首謀者の一人が現れたか。こいつは好都合だ」

 

真の魔王となると言う悪魔に対して微妙な気分となる。

 

「お前、現魔王に対して何が不満だって言うんだ?」

 

「全てが不満なのだ!たかが人間たちに横やりを入れては本来勝てるはずだった戦争を終わらされた!しかもあの者は、あの現魔王たちは敵と手を組んでこのおかしな町を作り上げたのだぞ!なにが共存だ、何が平和だ!そして全ての元凶である兵藤家と式森家の一族!許し難い!」

 

全身から発する怒気のオーラ。アザゼルたちは一度だけ顔を見合わせる。

 

「もしかすっと、今回の襲撃は兵藤と式森を狙った?」

 

「だとすれば、いま前線にいる彼らは狙われているはずだね」

 

「だが、その割には普通だよな」

 

テロリストたちよりも実力が上回っている前線にいる和樹たち式森と赤龍帝である誠輝を筆頭に戦っている兵藤。

もしも狙われているのであれば執拗に襲われている。であるはずなのに、そんな雰囲気は感じないどころか戦いなんてしていない。

 

「ふん、俺たちの目的はこの目障りな学び舎の徹底的な破壊、そして―――」

 

クルゼレイはハッキリと言った。

 

「兵藤、式森の血を受け継いでいるグレートレッドとオーフィスの力を有するドラゴンの鹵獲、もしくは抹消だ」

 

「「「―――っ!」」」


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