HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード45

「・・・・・あれが、兵藤のやり方なのですか」

 

授業の様子を見守るリーラが軽蔑する冷たさが籠った瞳を2-Sの担当教師の兵藤に向ける。

映像では一誠は兵藤たちに寄って集られて数の暴力に振るわれ、とても目を向けられる、視界に入れることが堪え切れない光景を全校生徒の前で繰り広げられているのだった。

 

「最近の子供は少々ヤンチャのようですな」

 

「あなたの教えがアレだと言うのであれば現当主にご報告させてもらいます」

 

「当主がこの学園に一切の関与をしないのですよ?あなたが言ったところで当主は高が子供の喧嘩に口を挟むはずがない」

 

子供の喧嘩・・・・・。

 

「あなたの目にはあの光景は高が喧嘩に見えるのであれば目が腐っていますね」

 

「おやおや、メイドがそんな口が悪いと仕えている主に愛想が尽かれてしまいますよ?」

 

「ご心配無用です。私の全てを受け入れてくださいますので」

 

「それはそれは心が寛大な主ですなー。いま、その主は昔のように周りから相手をして貰っていますがねぇ」

 

ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべ、これは余興とばかり特上うな重を食べる。

 

 

―――1-C―――

 

 

「どうして、あんな酷いことをするの・・・・・?」

 

人質を取られ、無抵抗な一誠に暴力を振るうそのチンピラと不良と変わらない愚行の兵藤たち。

怒りを抑え、ジッと何かに堪えて真っ直ぐ映像を見詰めるユウキと肩を並ぶ黒髪の少女は泣きそうだった。

 

「大丈夫だよ。先輩は絶対に勝つよ」

 

「紺野ちゃん・・・・・」

 

「ボクは信じてる。だって、先輩は―――」

 

―――2-F―――

 

「何か考えがあるんだろう」

 

ゼノヴィアが開口一番に漏らした。

 

「考えってなによ?」

 

「分からん!」

 

「分からないなら知った風な口を利かないでくださいっ。寄って集って彼を虐めるなんて・・・・・ああ、主よ。あの愚か者どもにどうか天罰を与えてください」

 

イリナの問いに堂々と言うゼノヴィアに暴力を振るわれる一誠を見る度に苛立ちを募らせているルーラーが怒気が孕んだ声を発するのだった。

 

「大丈夫だよね・・・・・?イッセー、負けたりしないわよね?」

 

「とても見るに堪え切れないよアレは」

 

「「一誠さま・・・・・!」」

 

「一誠くん・・・・・!」

 

ヴァレリーたちも不安げに見守る。クラスメートたちも様々な思いを胸に抱き、ジッと見つめる。

 

「・・・・・」

 

オーフィスは黒い眼を瞬きもせずに一誠を見るだけで何も言葉を発しない。

 

―――2-C―――

 

「制裁しに行っていいか?」

 

ガタリとカリンは杖を手の中に収めて立ち上がった。人として恥を知れっ!と乗り込んで風魔法を放ちたい思いが抑えきれなくなった少女を焦心に駆られて慌てて押さえる清楚な少女。

 

「その許可が学園が下りたら僕も行きたいね」

 

「付き合いますよ和樹さん、カリンさん」

 

「ふ、二人とも!?」

 

「いいよ、私たちが許可する。―――というか、私も行きたいけど」

 

「同じく」

 

「ふ、二人も落ち着いて~!?」

 

和樹に同意する龍牙、禍々しいオーラを身体から滲ませる悠璃と楼羅に清楚な少女は必死で抑え込むのに気力を使い果たす。

 

―――3-S―――

 

サイラオーグは静かに見守っている。周りから攻撃されている一誠をどこか遠い目で見詰め、遠い遠い昔、過去を久しく思い出し始めた。

 

「ははははっ!おい、見ろよあの化け物、手も足も出せねぇでいやがる!俺たち兵藤に楯突くからあんな昔のようにやられるんだ!」

 

「ああ、確か周りから虐められていたんだよな。俺も強者として弱い奴はどうなるかいっぱい教え込んだぜ」

 

「赤龍帝もあんな化け物の弟を持って苦労するよなぁ。俺、一人っ子で良かった」

 

そんな話が不愉快にも聞こえてくる。

 

「(なるほど、そうか・・・・・お前もだったとはな)」

 

同情はしない。憐れみも抱かない。弱いなら強くなる努力をすればいい。強くなって見返―――。

 

『兵藤家の奴らに見返したい』

 

「・・・・・ああ、そういうことだったのか」

 

合点した。サイラオーグは静かに立ち上がり、

 

ドゴンッ!バキッ!ゴンッ!

 

一誠を侮蔑した者たちを問答無用に殴り飛ばした。

 

「俺の耳に兵藤一誠に対する悪意ある言葉を訊いたら問答無用に黙らす。無粋な事をするなよ」

 

『・・・・・っ』

 

―――唯一兵藤しかいないクラスに所属しているサイラオーグの威圧に恐れ戦き、戦慄を抱く兵藤たち。

何度も体験し、経験もしたサイラオーグの純粋でグラフに表せば天井知らずのパワー。

そんな相手の拳を食らえば一撃で倒され沈黙する。骨の髄まで分からされた圧倒的な力を逆らえるわけがないと生物の本能が強く働き、誰もが反論や異論などせず、ただただ黙って視線を下に向けることしか恐怖から逃れる術である。

 

「(見せてみろ。お前の力を)」

 

―――○●○―――

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・」

 

「ど、どうだ化け物・・・・・っ」

 

「これで懲りたら俺たちに二度とデカイ口で叩くんじゃねぇぞ」

 

息が切れるほど、殴る蹴るの暴行を加えた兵藤たち。足元にひれ伏している一誠に発する。

 

「お前ら・・・・・っ」

 

歯を強く噛みしめ、睨みで殺せそうなほど兵藤たちに怒りの形相を浮かべるエルザは未だに人質を取られている金剛たちの存在に手も足も出せないでいる。

 

「おい、持ってきたか」

 

誠輝が一人の兵藤に話しかける。声を掛けられた兵藤の手には一誠の剣が握られていて、誠輝はその剣を手にする。

 

「化け物が、こんなモンを持っていやがって。これも俺の物にしてやるぜ」

 

金剛たちから離れ、エルザの視界では真っ直ぐ一誠に歩み寄る赤龍帝。誠輝は一誠を立ち上がらせるように指示を下す。強引に立ち上がらせ見るも無残にボロ雑巾のようになっている男を見て口元を歪ませた。

 

「どうだ、昔を思い出したか?もしかしてトラウマでも起きたか?」

 

「・・・・・トラウマ、か。はっ・・・・・」

 

卑劣な行動で一方的な暴力を浴びても一誠の瞳に強い意思は残っている。

それはとても面白くなく。徐に剣を太股に突き刺した。

 

「っ・・・・・!?」

 

「へぇ、ドラゴンでも剣は突き刺させるんだな。良い剣だ。さすがは俺の剣だ」

 

「ふざけるな・・・・・そいつはお前じゃ扱えない」

 

「はっ!お前ができて俺ができないわけがないだろう」

 

引き抜いて血で汚れた剣を真っ直ぐ一誠の胸に突き付ける。抑えている兵藤たちはその血とこれからしようとしている誠輝に息を飲む余所に二人の会話を聞く。

 

「言え、『俺たちの負けです』って。言わなければこの剣をお前の心臓に突き刺してやる」

 

「・・・・・」

 

「死にたくないだろう?だったら言えるよな」

 

思いっきり悪役の誠輝。正義のヒーローのピンチに・・・・・。

 

「イッセー!私たちのことなんて気にせず、ソイツを倒して!」

 

金剛が悲鳴が入り混じった叫びを上げた。比叡たちも悲痛な表情を浮かべ、一誠に何か言いたげな視線を送る。

 

「・・・・・言っただろう」

 

対して一誠はハッキリと言った。

 

「捕まえられたら助けてやると。待ってろ、今―――お前らを助けてやる」

 

ニッと安心させる笑みを浮かべた一誠の腹部に凶刃が突き刺さった。

 

「正義のヒーロー気取りか?ばっかじゃねーの。俺よりも弱いお前は、誰一人も守れることはできねーよ」

 

実の弟の腹に突き刺した誠輝に違和感が襲った。

 

「(なんだ・・・・・?この歯ごたえの無さは)」

 

剣は深く背中にまで貫通している。なのに水の中に手を入れた感覚が伝わって衝撃も負担も一切無いまま一誠の身体に突き刺さった。怪訝に眉根を寄せ、一誠の顔を見詰める誠輝は目を丸くするほど驚いた。

 

ポンッ

 

一誠が煙と化した。狐につつまれたようにぽかんと開いた口が塞がらなかった。そんな誠輝たちの耳に聞こえてきた。

 

「誰が誰一人守れないんだって?」

 

ドサッ!と金剛たちを人質にしていた兵藤たちが誠輝たちの足元にまで放り投げられた。

 

「お前らの目が節穴で良かったよ。散々甚振っていた兵藤一誠は分身体なんだからな」

 

逆に理不尽なまでの暴力を振るわれていたはずの一誠は無傷で金剛たちの前に佇んでいるのを誠輝たちは信じられないと目を疑う。

 

「なんだとっ!?」

 

「くそっ!俺たちを騙しやがって!」

 

「人間は人を騙すことぐらいするもんだけどな?というか、計ったと言え計ったと。まぁ、そんなお前たちに面白い体験をさせてやろう。これでな」

 

空間を歪ませ穴を作り上げる一誠の手の平に杯が収まった。

 

「その杯が俺たちに何をさせるってんだ」

 

「まーまー、焦るなって。いま、やるからよ」

 

一誠の意志に反応する杯は光り輝き、誠輝たちを照らす。特別何らかの異常は無いと高を括る兵藤たち。

痛みも無ければ何ともないことに嘲笑する。

 

「どうしたどうした!俺たちは何ともないぞー!」

 

「不発ですかぁー!?」

 

兵藤たちの罵声にただただ笑みを浮かべる一誠だった。

 

「そう言っていられるのは今の内だ。さて、ここで一つ主に祈りを捧げようか」

 

「何が主に祈りだ!そんなもん何の役にも立ちやしねぇーよ!」

 

現実世界で『神を冒涜したわ!絶対に許さないんだから!』と栗毛のツインテールの少女が怒髪天を衝く。

無防備に立ち、ゆっくりと胸に十字架を切る一誠に飛び掛かる兵藤たち。

 

「アーメン」

 

―――刹那。例えのようない激痛、苦痛が兵藤たちに襲いだした。頭を抱えてその場で跪き悶絶する兵藤たち。

 

「どうした、祈りなんて何の役にも立たないんじゃなかったっけ?」

 

「いだだだだだぁぁあああああああああああああああああっ!?」

 

「って、聞いてないか」

 

祈りを止めると全身で息をする兵藤たち。―――また祈りを捧げると激しい激痛に襲われてまたしても頭を抑えて悶絶する。

 

『や、やめろぉおおおおおおっ!やめてくれぇっ!?』

 

 

―――職員室―――

 

「アザゼルさま、一誠さまは何をしたのですか?」

 

「俺にも分からん。見た感じ、聖杯で何かをして兵藤たちは『ああ』なったことぐらしか」

 

リーラの問いかけにアザゼルは興味深そうに一誠の様子を見ていた。聖杯の力を知っているアザゼルからすれば未知の能力。本来同じ神器(セイクリッド・ギア)は二つも存在しないはずのものであるのに、一誠はある方法でそれを可能にした。所有している者によって能力も違いがあるのかと、

 

「あの痛がる様子。まるで神の祝福を受けている悪魔みたいだな」

 

そう無意識に漏らした。―――悪魔?聖杯?

 

「・・・・・あいつ、まさか」

 

アザゼルはとある仮説に至った。聖杯は生命を司る能力を有している。もしも自分の考えが正しければ―――。

 

「(あいつ、悪魔に転生させる力を・・・・・?)」

 

 

 

額に脂汗を浮かばせ、肩で断続的に激しく息をする兵藤たち。ただの祈りでこんな激痛と苦痛を感じるなんておかし過ぎると一誠を睨み、自分たちの身に何が起きたのか問い質す。

 

「な、なにをしやがった!」

 

「知らない方がいいと思うぞ?」

 

「ふざけるなっ。その杯で何かしたってのは明白なんだよ!」

 

「あれ?なんともない、不発なんじゃないかって言われたのにおっかしぃなー?元々お前らの持病が発生したんじゃないのか?」

 

飄々と接する一誠に苛立ちが募り、今なら大丈夫だと自分に言い聞かせて駆けだした直後、また一誠は祈りを捧げることで激痛と苦痛が兵藤たちを抑える。

 

「いででででででっ!?」

 

「はっはっはっ、天罰でも下ったんじゃないか?」

 

「こ、このや―――『アーメン』あああああああああっ!?」

 

壮絶な痛みに耐えかね叫ぶ。いっそのこと倒して欲しいと願いたくなる思いだった。

 

「化け物、お前・・・・・俺たちに何をしやがったんだっ」

 

ユラリと立ち上がる誠輝。一誠に向ける敵意と殺意の視線に―――「アーメン」と祈りを捧げたことで誠輝にもダメージを与える。

 

「ぐおおおおおおおおおおっ!?」

 

「そんなに知りたいのならばこのまま教えてやるよ」

 

兵藤たちに祈りを捧げながら説明する。

 

「―――お前らを悪魔に転生させた」

 

『・・・・・っ!?』

 

一誠の言葉にい誰もが目を疑い、耳も疑った。

 

「悪魔は光や聖書、祈りでも効果抜群だ」

 

徐に誠輝へ近づき、自分の剣を奪い取っては

 

「勿論、悪魔は聖剣にもダメージが通り、悪魔にとって聖なるものは毒だ」

 

剣を肩に突き刺せば、誠輝が獣染みた叫びを上げる。

 

「見たか?聞いたか?ただ剣を刺しただけでこいつはこんなに悲鳴を上げた。これが悪魔にしか感じることができない現実だ」

 

―――天使の姿と成り、聖なる光を放てば一誠の祈りより更なるダメージを与えられ、悶絶する。もう立場が逆転し、兵藤たちは壮絶な拷問をされていると過言ではなかった。

 

「もう一度言う。お前らは人間じゃない。悪魔に転生した元人間だ」

 

「て、てめぇぇええええええええええっ!」

 

「これで俺のこと化け物なんて言えなくなったなぁ赤龍帝?」

 

翼が刃物と化と成り、大きく広がって兵藤たちの腹に突き刺さっては戦闘不能と判断されバトルフィールドから一斉に光と化と成って消失した。誠輝を残して。

 

「新米の悪魔くん。悪魔になった気分はどうだ?ああ、元の種族、人間に戻せることはできるぞ?ただし、この世でそれを可能にするのは俺だけだがな」

 

「っ・・・・・」

 

「そうだな、一部を除いた兵藤を全員悪魔にしてやるか。そうすればお前たちは兵藤として居られなくなる。今後の良い罰になりそうだ」

 

それを聞いて痛みに耐えながらも拳を突き出した。が、あっさりと受け止められ、思いっきり後ろへ殴り飛ばされた。戦いはこれからだと鎧を瞬時で装着して一誠に突貫する。

 

「俺はお前なんかに負けられるかよぉっ!」

 

「奇遇だな。そろそろお前と決着をつけようと思った。今日、この場所でな」

 

龍化―――。一誠の全身から神々しい光が迸り、天まで伸びる柱となる。光が膨れ上がるのと呼応して光に包まれる一誠は体の構造を激しく変え、巨大化していく。誠輝が魔力を放つと同時に金色のドラゴンが光柱から姿を露わして容易く明後日の方へ弾いた。

 

「はぁっ!?」

 

『ちっちぇな』

 

聖なる力が帯びた拳が誠輝に直撃する。それでも果敢に体勢を立て直してバカの一つ覚えのように一誠に猪突猛進をする。

 

『パワーにはテクニックだな』

 

金色のドラゴンと化となった一誠の口から極光のレーザーが放たれる。それを嘲笑うように避けた誠輝に

極光の魔力が軌道を変えて誘導弾の如く誠輝を追尾する。迫りくる光の魔力に何度も倍加した魔力で相殺しようと放った魔力と直撃する瞬間、一誠の魔力が分裂して四方八方から誠輝に襲いかかる。

 

「ふっざけんなぁっ!」

 

両手を横に広げて四方八方から来る魔力弾と相殺。だが、その態勢のまま虚空から飛び出してきた鎖に全身が絞め付けられて鎧が解かれ、生身が晒された。

 

『チェックメイトだ、兵藤誠輝!』

 

ドンッ!

 

真上、真下、真横から十字架のような光の柱に呑みこまれて一誠の完全勝利という形でバトルフィールドから姿を消した兵藤誠輝。

 

 

―――職員室―――

 

「ば、ばかな・・・・っ」

 

唖然と兵藤が声を漏らす。アザゼルは合点したと頷いて一誠に聖杯を貸してもらおうと考えている余所に

 

「お見事です。ようやく、ようやくあなたさまの願いが叶いましたね」

 

リーラは潤った瞳で金剛たちに抱きつかれる一誠を何時までも見守ったのだった。

 

―――1-C―――

 

『きゃあああああああっ!』

 

『やったーっ!』

 

一誠のファンたちが黄色い声を上げる。ユウキも黒髪の少女も抱き合って感動と歓喜を分けあった。

 

「・・・・・やっぱり、間違ってなかった」

 

「え?」

 

「・・・・・先輩」

 

―――2-F―――

 

「完・全・大・勝・利ぃっ!」

 

イリナが大はしゃぎをしてバンザーイ!と身体で喜びを表現する。ゼノヴィアとルーラーもガッツポーズをして

嬉しさの雰囲気を醸し出す。咲夜たちも安堵で息を漏らして一誠に祝福の言葉を漏らして笑みを浮かべる。

 

―――2-C―――

 

「勝っちゃったね。やっぱり」

 

「ええ、しかし金色のドラゴンって彼なのでしょうか?」

 

「見た感じだけど、うん、間違いないよ。ドラゴンになれるんだねー」

 

「何を言ってる。あいつは元々ドラゴンだから―――って、あの二人がいない!?」

 

―――3-S―――

 

「そ、そんな・・・・・赤龍帝がいるにも拘らず負けるなんて・・・・・」

 

愕然とショックで落ち込む兵藤たちクラスメートを見ながらサイラオーグは静かに笑みを浮かべる。

 

「今度は俺と勝負をしよう。兵藤一誠」

 

熱い戦いではなかったが、それでも得るものはあった。今後の期待と楽しみを胸の内に抱く。

 

 

―――2-S―――

 

「さてと、兵藤ども。心の準備は良いかなー?」

 

睨むことしかできない、敵意の視線を放ち、怒りと屈辱で顔を歪める兵藤たちに一誠と生徒会会長のソーナが2-Sの教卓の前に佇んでいる。その隣には悠璃と楼羅も。

悪魔に転生させた兵藤たちは屈辱を味わいつつも土下座で人間に戻してもらった。

 

「本来ならこのクラス全員が退学になるはずだったんだが、悠璃と楼羅、兵藤家当主の寛大な心で勝者は敗者に何でも一つだけ言うことを利かせる程度で退学は免れたわけだが・・・・・お前らはたったの六人に負けた弱者どもだ。どっちが雑魚何だか分からなくなったなぁ?」

 

ギリギリ・・・・・ッ

 

「さて、皮肉を言うのもここまでにして早速お前ら全員に告げる。今日編入してきた兵藤もいるが連帯責任ってことでよろしく」

 

ソーナに視線を向けると彼女は一枚の紙を兵藤たちに突き付けた。

 

「この契約書に書かれていることをして貰います」

 

その内容は―――。

 

① 兵藤家は卒業するまで朝早く登校して校内の掃除、登校してくる生徒に生徒会の指導の下、最後の一人まで挨拶を行うこと

 

② 兵藤家は卒業するまで生徒会の協力要請に全面的な協力をすること

 

③ 秘密or隠し事を一切禁じ暴露する

 

④ ③の項目にもしも人に害を及ぼしたものであれば、誠心誠意の謝罪をする

 

⑤ 二度と周囲に危害や迷惑をかけないことを誓う

 

⑥ 周りからどんな罵声を浴びても全て受け入れ、猛省すること。逆に周囲に対する罵声や暴力を禁ずる

 

⑦ 国立バーベナ駒王学園にいる間は兵藤家の威厳と権威、権力と威光は全て無効にし、周囲の学生と同じ立場でいること

 

⑧ ⑦の項目は学校外でも適用する(プライベート時でも可)

 

⑨ プライベートでも悪魔、堕天使、天使、人間に害する者は即退学、兵藤家から追放

 

⑩ 兵藤家(男子)は必要な時以外女性との接触を頑なに禁ずる(オカマは可)

 

⑪ 以下の項目に一つでも一人でも卒業するまで破ったら国立バーベナ駒王学園所属する兵藤家は全員退学とする

 

⑫ この契約書に書かれた項目全て兵藤と名乗る兵藤一誠、兵藤悠璃、兵藤楼羅の以下三名は対象外とする。

 

 

この契約書を了承とする判子が複数押されていた。生徒会会長 ソーナ・シトリーやまだ会ったことがない風紀員長の神埼長門。そして堕天使の代表としてアザゼル、この学園の理事長であるユーストマ、フォーベシイ、八重垣正臣のサインまでもが書かれていて事実上、この契約書は正式なものとなっていた。

 

「この契約書に書かれているあなたたちに対する指示は今日から発動します」

 

今の今まで契約書を読み上げていたソーナが淡々と兵藤たちに言葉を投げかける。

 

「私が在籍していたこの三年間。あなたたち兵藤家の行いや態度、立ち振る舞いを毎日見ていてとても目に余るものばかりでした。兵藤家はこの学校と関与しないので学園と共々とても歯痒い思いで一杯でした。

ですが、兵藤一誠くんのおかげでこの学園は変われそうです」

 

ここぞとばかりソーナは言い続けた。

 

「この契約書はこの学園が存続する限り学校の規則とします。日本を治める兵藤家が、あなたたち二年生が後輩に対して正しい指導と態度をするのは当然の義務のはずです。傍若無人な立ち振る舞い方が当然だと間違った教えをされては四大勢力の間に亀裂が生じます。それだけではない、あなたたちの言動は和平を結んだ四大勢力に対する勢力損害行為に値して悪魔、堕天使、天使にどれだけ迷惑を掛けてきたか考えたこともないでしょう。―――私はあなたたちのことを決して許すことはできません」

 

苦虫を噛み潰したような顔となる兵藤たち。今日編入した兵藤たちはとばっちりを受けて肩を落としたり嘆息を漏らしたりしていた。

 

「学校を辞めたいならどうぞご自由に。あなたたちみたいな生徒がいなくなれば喜ぶ生徒もいるでしょうから。それとも何か異論がありますか?」

 

どこまでも冷たく接する生徒会長に一つの手が挙がった。

 

「ソーナさん。これはあまりにも横暴ですぞ。一部、人権を奪っているではありませんか」

 

このクラスの担任の教師が異議を唱えた。しかし、ソーナは別の紙を教師に突き付けた。

 

「人権のことを持ち掛けるあなたはこのクラスの教師として、人としての自覚が全くありません。教師が教え子の間違った過ちを正すのは当然の義務ですのにそれを放し飼いのように今まで何もしませんでしたね」

 

「生徒たちの行いが陰でしていたので私は気付けませんでした」

 

いけしゃあしゃあと言ってのける教師にソーナの目がすわった。

 

「―――その程度で、あなたに課する罰が軽いと思わないでください」

 

ソーナのてにもつもう一枚の紙には

 

 

           『以下の者を清掃員に降格する』

 

 

と、教師の名前も書かれていた紙だった。

 

「生徒会の権限であなたは教師から清掃員に降格します」

 

「はっ?」

 

思わぬ出来事に教師は目を丸くした。自分が清掃員としてこの学校に働く?疑問が疑問を生み、尽きない謎に唖然、愕然としていればソーナは留めの言葉を言った。

 

「今までこんなことできなかったのは学園側が許可を下さなかったからでした。が、このクラスと2-Fの賭けに対する勝負で負けたクラスは教師にも責任があると判断され、2-Sの担当教師でもあるあなたにも責任が負います。言わば連帯責任です」

 

―――っ。兵藤たちは自分の担任が息を呑んだ雰囲気を感じ取った。ソーナからの無情な宣言で石のように固まり、空いた口が塞がらない担当教師は―――。

 

ガラッ!

 

「失礼しまーす!新しい清掃員となる子を迎えに来ましたわーん☆」

 

「どこの誰ですかな?」

 

「あそこで固まっている人です。手取り足取り零から十まで清掃の仕方を教え込んでください」

 

「あら、子豚ちゃんみたいにお肉がたっぷりと付いた可愛い男性ですねぇん。清掃を教える前にお髭を剃って可愛い身だしなみにしちゃおっと♪」

 

「もしも間違ったらちょっとしたお仕置きも・・・・・」

 

「「ぐふふふっ・・・・・」」

 

形容し難い中年の男性たちに連行された。一拍して担当教師の甲高い悲鳴が響き渡ってくる。

 

「・・・・・あの人たち、誰?」

 

「清掃委員の人たちです。他にも大勢いますが大半な『あんな』感じです」

 

「・・・・・そう」

 

全員はあの教師の末路を悟った。同情と憐れが雰囲気に醸し出すが、

 

「では、明日の朝八時に学園の校門前で一人も欠けずに集合していてください。遅刻した者にはあの清掃員たちと放課後マンツーマンで一時間ほど掃除をして貰います。これは規則ですので」

 

自分たちにも同じ末路を辿ってしまう恐れがあったのを改められて思い知らされた。

 

「よぉ、雑魚共」

 

一誠は最後に言った。

 

「お前らがずっとバカにしていた男はこんなにも強くなった。今度は俺がお前らをバカにできるなぁ?この雑魚共が」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、挑発した途端。

 

―――カチンッ!

 

『『『『『ふっざけんなぁあああああああああああっ!』』』』』

 

「もう一回勝負しろゴラァッ!」

 

「今度は絶対に負けないからなぁっ!」

 

「俺たちの力はこんなもんじゃねぇっ!」

 

「いや、今からでも勝負しろてめぇっ!」

 

「そうだこの化け―――」

 

一人の兵藤が化け物と呼ぼうとした瞬間に周りからフルボッコされた。肉体的に強制的に禁じられた罵倒を発せない為に。言ったら最後、全員が退学となるからだ。

 

「はははっ、良い感じになってきたなぁー」

 

「楽しそうですね」

 

「俺の目標はある意味達成したようなもんだ。今度はこいつらを弄ることに楽しむ」

 

「そう言ってあんまり刺激を与えないでくださいよ」

 

「ほどほどにした方がいいよいっくん」

 

「わーってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「おい、一誠。お前の聖杯を一つだけ貸してくれ、すげー調べてぇ!」

 

「やっぱり?」

 

「当たり前だ!簡単に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)も無しに人間を悪魔に転生させるなんて俺は知らなかったぞ!」

 

「だって言ってないんだもん」

 

「・・・・・まさかだと思うが、他にも異種族に転生させることができるか?」

 

「うん(ドヤァ)」

 


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