HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード43

体育祭が終わってから学園は日常の学校生活が送る―――。

しかし、国立バーベナ駒王学園に力が集った。

 

―――2-S―――

 

「皆さん、今日からこのクラスに配属となりました。兵藤家の中で選り抜きの兵藤くんたちです。

皆さんの監視をする為に来たようなものですが、お手本と成り正しい在り方を教え、

導いてくれるでしょう」

 

兵藤家しかいないクラスに数人の男子が紹介されていた。兵藤家を除く全校生徒が忌み嫌う編入してきた兵藤家の少年たち。

 

「皆さん、彼らの存在に感謝をするように。兵藤家が周囲に舐められてはダメなのですからね。兵藤家は日本を統治する式森家と並ぶ名家。―――あの半端な化け物に後れを取るようでは兵藤と名乗るに値しません」

 

このクラスを担当をしている肥満体に背中まで無造作に伸ばし、髭も生やしている中年の男性も兵藤家の一員。

担当の教師の話を真摯に聞く姿勢でいる生徒たちの心は余裕を得れた。

兵藤家の中で選り抜きされた実力者ならばあの目障りなヤツをどうにかしてくれると確信している。

 

―――そんな心情のクラスメートたちに編入してきた兵藤家たちの内心では、思いはそれぞれ共通していたのは呆れだった。

 

「今日は体育があります。何時も通りに兵藤家の力を示し、相手を倒すのです」

 

「今日は誰なんですか?」

 

二年と三年が主に交流戦と言う形で体育を行うが、対戦相手を知るのは授業が始まるまで知らされない。

本来ならばそうなのだがこの教師はさらりと述べた。

 

「あの化け物がいるクラスとです。この中であの化け物を倒し名を挙げたいと思う優秀な兵藤家の者はいますか?」

 

教師の訊ねに―――殆どのクラスメートが手を挙げた異例中の出来事を一誠たちは知らない。

 

―――2-C―――

 

 

「兵藤楼羅です。皆さんよろしくお願いします」

 

「楼羅の妹、兵藤悠璃。よろしく」

 

和樹たちのクラスでも兵藤家の生徒が編入していた。一誠に恋する現当主の娘であり誠の妹にあたる二人だった。

 

「意外、ですね」

 

「うん、このクラスに入ってくるなんてね」

 

「他の兵藤とは違う奴で安心した」

 

「それに顔合わせたことがある娘たちだしね」

 

それなりに交流がある和樹たちにとっては安心できる兵藤家の者であり、一誠のことで会話の花を咲かせることができる。四人の話を聞いたクラスメートたちも「なら、安心か」と雰囲気を醸し出す。

 

「・・・・・やっぱり、いっくんがいない」

 

「休みの時間になれば会いに行けばいいだけです」

 

「うん、そうだね」

 

ほらね、と和樹は危害を加えるような、気分を害する兵藤家の者ではないと改めて理解した。

 

「それじゃHRの間は二人の質問攻めの時間としよう!遠慮はいらん!」

 

『サーイエッサー!』

 

「「・・・・・えっ?」」

 

教師の言葉に殆どの生徒は反応して困惑する二人に質問攻めをした。

 

 

―――2-F―――

 

「エルザもクラスに編入した・・・・・悠璃と楼羅、他の奴らも来たか」

 

瞑目のまま口を動かして一誠は悟ったように言葉を発した。その表情はとても晴れやかではなく、難しい顔で―――。

 

「イッセー?難しい顔をしてるデスネ?」

 

横から顔を近づけてくる金剛が一誠の顔を緩ませようと手で挟んでグニグニと揉み始める。

 

「・・・・・顔が歪むんだけど」

 

「アハッ☆」

 

向日葵のように笑い、金剛は一誠の膝の上に跨って対面座位の形で顔を近づけ一誠の額とコツと額をくっつけた。

 

「難しい顔をするイッセーは似合わないデース。もっと楽しそうな笑顔でなきゃ」

 

「そうもいかないんだよ。また兵藤の奴らが増えた」

 

「OH、そうなんデスカ」

 

少年の心情を察し、両腕を一誠の首に回して抱きついた。

 

「イッセーは温かいネー」

 

「金剛もな」

 

少女の背に腕を回してしばらく人目を気にせず一誠の温もりを感じ、金剛の仄かな甘い香りを体温と共に感じつつ―――比叡の嫉妬と羨ましさの声を耳にしながら少しの間だけ抱き合う。

 

「・・・・・相変わらず、仲が良いわね」

 

声を殺して発する一誠から借りた魔法の本に目を落とすパチュリーだった。

 

「パチュリーもイッセーと仲が良いデスヨー?」

 

「否定はしないわ」

 

「じゃあ、好きデスカー?」

 

「ノーコメントよ」

 

つれないなー、と苦笑いを浮かべる一誠だった。それでもパチュリーと仲が良いことは認められ苦笑いから笑みと変わる。視線を変えると、教科書とにらめっこしている眼鏡を掛けた緋色の髪の少女がいた。

その傍には咲夜が付き添ってあれこれと口に出して説明をしていた。

ヴァレリーやオーフィスは紅茶や菓子を美味しそうに飲食していた。

 

―――そんな一誠たちに、いやクラスメートの携帯が一斉に受信の合図が鳴った。

 

誰もが自分の携帯を手にして操作すると見覚えのないメールアドレスに非公式新聞部という名の宛先が。

メールを開くとその内容はこうだった。

 

『2-S組が総出で2-F組と勝負を挑む!』

 

教室の空気が一気に重くなり、静寂に包まれた。目が丸くなり、空いた口が塞がらない面々。

そして―――少女たちの驚愕の叫びが廊下まで轟いた。

 

「―――へぇ、上等じゃん」

 

ただ一人、その事実を受け入れ不敵に漏らす。その瞳の奥では戦意の炎が滾って燃え盛っている。

あの時できなかったことを今ここで果たす時が来たんだと無意識に口を上げた。

金剛は一誠の笑みを見て珍しく真剣な顔を浮かべ懇願した。

 

「イッセー、私も戦いたい。いい?」

 

「前みたいに戦いやすくするが、それ以上のことはしない。それでいいか?」

 

「いいよ。寧ろ、私は妹たちを酷い目に遭わした兵藤家を倒して妹たちに安心させたい」

 

一誠の視界に映る金剛の口から固い決意を感じた。目の前の少女もまた兵藤家を許さない一人。

気持ちを汲んで了承した。

 

「勝つぞ。あの傍若無人な奴らに俺たちの力を見せ付けてやるんだ」

 

「YES!」

 

対面座位のまま、二人は手を取り合って硬く握りしめ目標を立てた。

 

―――○●○―――

 

二階の上階、三年生が集う教室がある階では、異例の体育の授業に話題で盛り上がっていた。

圧倒的に2-Fが負けるだろうという声が多々聞こえるが口に出さず一誠を知っている上級生たちは勝つと信じていた。

 

「皆、一誠くんたち2-Fと兵藤家2-Sの話で盛り上がっていますわね」

 

「そうね。でも、私は信じているわ」

 

期待に満ちた目を瞑って朱乃と会話をするのはリアス。廊下で立ち話をし、壁に背を預ける格好で休憩時間を利用して色んなところから聞こえる話に耳を傾けている。リアスと朱乃に左右から友人がやってくる。

 

「話が盛り上がってますねリアス」

 

「その威風堂々とした態度からして見れば、兵藤一誠に不安なんてしてなさそうだな」

 

「ええ、そうねソーナ。それと当然じゃないサイラオーグ。―――一誠なのよ?」

 

意味深に返事をしたリアスをソーナとサイラオーグはそれぞれ肯定の言葉を漏らした。

 

「赤龍帝がこの学園に編入されたようです。また、騒々しい事にならなければいいのですが」

 

「この学園の警備員がそれを許すはずがない。あの吸血鬼たちのおかげで生徒会も風紀員も助かってるのではないのか?」

 

「そうですね。ですが、安心はできません」

 

Sクラスがある方へソーナは視線を向けた。同じ兵藤家として後輩の兵藤たちに有利な状況をと企んでいる可能性は無いわけではない。

 

「授業が始まれれば彼らは異空間に閉じ込められているのと道理です」

 

「ソーナ?」

 

「考えすぎかもしれませんが、念には念を・・・・・」

 

携帯を取り出して誰かにメールを送信した同時刻。一階の一年生の間でも話題となっていた。

 

―――1-C―――

 

「絶対に兵藤一誠先輩が勝つよね!何たって神さまを最後に凄い技で倒したもん!」

 

「その時の映像、親にしっかり録画してもらっているから何時でも見れるよ」

 

「ふふん、私なんて待ち受け画面にしてるもんね!」

 

黄色い声が絶えない教室にますます人気となっている一誠の話で盛り上がっていた。この教室だけじゃ限らず他のクラスの女子も一誠のファンが増え続けている。ファンだけなら何も問題は無いだろう。

 

「(うーん、先輩のこと良く思ってくれているのは嬉しいんだけど)」

 

その反面もあるというわけで、女子たちがそうしていれば何人かの男子たちがつまらなさそうに顔を顰めているのをチラリと一瞥した。

 

「(そう言う話しを学校では控えて欲しいかなー)」

 

本人たちは悪気がないのだろうが、嫌悪なムードにして欲しくないと切に思うユウキだった。

 

―――そして昼食―――。

 

教室の扉が開くと二つの影が席から立ち上がったばかりの一誠の胸に跳び込んだ。その勢いは凄まじく、体勢を崩さずにはできないまま、ゴロゴロとどこまでも転がってやがて壁と激突したことで止まり、自分の胸に身を寄せ背中に腕を回して抱き止めている二人の少女に言葉を飛ばした。

 

「久し振りだな。悠璃、楼羅」

 

「やっと会えたよー!」

 

「はい、お久しぶりです」

 

一誠に恋する幼馴染である兵藤悠璃と兵藤楼羅。嬉しそうに口元を緩ませ駒王学園の制服で包んでいる豊満な体をこれでもかと押し付け、一誠にひっつくのだった。

 

「あら、あの娘たちは・・・・・」

 

「なるほど、彼女たちもそういうことですか」

 

ヴァレリーと咲夜は察し、軽く出迎えた。

 

「むむむっ!私のお株を取られた気分デース!」

 

「そう言うことでしたらお姉さま、この比叡に跳びついてくださいっ!」

 

「意味が違いますよ比叡」

 

「親しそうですね・・・・・誰でしょうか?」

 

金剛姉妹のやりとりが賑やかで榛名の疑問にパチュリーが答えた。

 

「兵藤家の人らしいわよ。ほら」

 

ピンクの携帯の画面を見せ付ければ、当事者たちの画面とプロフィールが表示されていた。

それを見て「兵藤」と榛名は呟く。

 

「男より女の方が接しやすいのは確かね。男の兵藤の中じゃ、あっちの兵藤が好ましいけれど」

 

「好きなんですねパチュリー」

 

「マシってことよ」

 

パラッと本のページを捲るパチュリーを余所に、負けじと金剛も一誠に抱きつき、悠璃と張り合っている光景を繰り広げられている。

 

「イッセーのハートは私が掴みマース!」

 

「いっくんは楼羅と一緒に結婚するの!」

 

「・・・・・昼ご飯食べたいんだけど、言い合いしてないで一緒に食べようよ」

 

「「わかった」」

 

鶴の一声の如く一誠の言うことを効く恋する乙女たちだった時に数人の男女がやってきた。

 

「やぁ、失礼するよー」

 

「失礼します」

 

ギロッ

 

「・・・・・大勢の女子から睨まれる状況ってなんなのさ」

 

「身に覚えのないこの理不尽は一体・・・・・」

 

心から歓迎されてないことに和樹と龍牙は何とも形容し難い気分となる。二人の背後に苦笑を浮かべる清楚と呆れるカリン。

 

「だから言っただろう。私たちだけで良いって」

 

「あはは・・・・・」

 

四人は真っ直ぐ一誠に近づく。

 

「やっぱりここにいたか」

 

「ん?」

 

「ああ、二人は僕たちのクラスに配属されたんだよ。この時間になるや否や姿を暗ましてさ。一応と思って探しに来たんだ。予想通りというか案の定、キミの元にいた」

 

そう言うことかと納得し、立ち上がった。金剛たちも一緒に立ち上がれば和樹と龍牙は、

 

「知ったよ。兵藤家と勝負するらしいね。頑張って」

 

「目に見えた戦いですが、油断せずに」

 

一誠にエールを送る。一誠の実力を知っている者として勝敗は分かり切っているとばかり軽く言葉を発したのだ。

応援された一誠も軽く返事をしてクロウ・クルワッハたちが教室に入ってくるのを見て言った。

 

「お前らも一緒に飯を食べるか?」

 

「いいのかい?」

 

「ロキの兄さんと一緒に戦った戦友だし、いいだろう」

 

「それではお言葉に甘えて」

 

自分たちの弁当を見せ付ける。最初からそのつもりだったんじゃないかと用意が万全だった。

後にリーラも交じり、楽しい昼食となるかと思ったら―――。

 

「おい化け物ぉっ!」

 

数人の兵藤たちがゲスな笑みを浮かべて教室にやってきた。女子たちは自分の弁当を持って非難するその速さの早業に感嘆を抱き、懲りない奴らだと思っている兵藤たちに呆れながら応対する。

 

「なんだ、暇人ども」

 

「へっ、授業をやる前に言いに来たんだよ。どうせお前は俺たちに負けるんだからな。恥を掻く前に降参しろってな」

 

「こっちは全員でこのクラスと勝負するんだからな。大方、お前しか出ないんだろう?」

 

「数の暴力に勝てないんだよ」

 

「へへへっ、そうそう、昔お前を皆で苛めていた時のようになぁ?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

「悠璃、楼羅。こいつらは何時もこんな感じなんだけどどう思うよ同じ兵藤として」

 

と、幼馴染に訊ねたら侮蔑、軽蔑と兵藤たちにそんな視線を送りだした。

 

「同じ兵藤としてあるあるまじき言動です。―――現当主に報告をしましょう」

 

「めんどくさいから退学にして貰おうよ。この学校にいる兵藤を全員さ」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

当主に報告する。この一言で兵藤たちは愕然とする。

 

「うわ・・・・・容赦ない」

 

式森家次期当主でもある和樹からすれば、悠璃と楼羅しかできない権限であり権利を振るう二人に思わず漏らした言葉には同じ一族なのに酌量の余地、同情の欠片もすら感じさせないほど躊躇が無いと籠っていた。

 

「夏休みの時、あれだけ当主に怒られて自分たちの言動を直してないとは愚かですね。言っておきますが、私たちがこの学園にいる理由はただ通うだけではございません。あなたたちの監視役的な意味でもあるんです」

 

「私と楼羅はそんなお前たちを退学にできる権限を持っているんだよ。学園側もそれを了承している」

 

「うわ・・・・・容赦ない」

 

一誠も和樹と同じ心情で漏らした。

 

「旅は道連れ、あなたたちのその行いのせいでこの学園にいる『全員』の兵藤は学校から離れなくなるとは当主もさぞかし嘆かわしい思いでしょう」

 

「ま、待て!」

 

「―――待て?当主の実の娘に対してなんですか?」

 

すわった目で兵藤たちに向ける。

 

「私たちとあなたたちと一緒にしないでください。これでも少なからず兵藤の者としてプライドがあるのですからね。相手を蔑み、罵倒、見下す言動とその態度、あなたたちと一緒にされては遺憾な思いです」

 

どこかで聞いたことのある言葉。パチュリーや金剛だけでなく、クラスメートの女子たちですらそう思わずにはいられなかった。それは後からこの学園にやってきた一誠と同じくやってきた悠璃と楼羅と―――酷似した発言だった。

当の一誠は深々とうんうんと首を縦に振って頷いていたほどだった。

 

「っ・・・・・。ま、待って下さい・・・・・」

 

「何を待てと言うのです?」

 

「ど、どうか、退学だけは・・・・・」

 

急に百八十度態度を変えた兵藤。全員が全員、顔を青ざめて必死そうな懇願を楼羅に求めた。

 

「どうして退学が嫌なのですか?寧ろあなたたちの存在自体なくなって欲しい人たちはこの学園に大勢いると思いますよ?兵藤家の威光、権力を嵩にして好き放題やりたい放題、警察には絶対捕まらないと高を括って甚だしいほど迷惑をさせてきたあなたたちをね」

 

「楼羅、退学したら今までみたいに好き放題もやりたい放題ができなくなるから嫌なだけなんじゃない?」

 

「ああ、そう言うことでしたか」

 

「ち、ちが―――っ!?」

 

「「何が違う?」」

 

逃げ道を塞ぎ、窮地に追い込ませる。そんなやり取りを見ていた和樹は一誠に意味深な視線を送りだした。

その視線に気付き和樹の目と合わせる一誠はアイコンタクトをする。

 

―――なんだ

 

―――いいの?

 

―――・・・・・お前があいつらに肩を持つとは意外だな

 

―――・・・・・そう言うわけじゃないけど

 

同情がないとは嘘になる。ただ、せめてちょっとぐらいチャンスを与えても良いんじゃないかと思った。

和樹の心境を察したのかカリンは口を開いた。

 

「和樹、お前はお人好しだ。私は賛成だぞ。風紀員の副部長としてあいつらの行いは許されるものじゃない。行いを改めることをしようとしないならこの学園からいなくなればいいと思っている」

 

「手厳しいですねカリンさん」

 

「仮にお前の大切な人が傷付いたらお前は怒りも悲しみも感じない無情な男でいられるか?もしそうだったら薄情な奴だな」

 

「・・・・・」

 

口を閉じてカリンの言い分に龍牙は無言になる。清楚はこの場の雰囲気と光景に不安そうな面持ちで見守っている。

 

「風紀員の先輩は言っていたぞ。『兵藤が学園に来てから風紀が乱れていて無法地帯になっている』と。だからこそこの女子しかいない教室が生まれてしまったんだ。少なからずこの学園と兵藤家には責任があると私は思う」

 

「・・・・・耳の痛い話しです」

 

「うん・・・・・」

 

悠璃と楼羅がバツ悪そうにカリンの話を聞いていた。―――だからこそ、と二人は言い放った。

 

「「退学、当主に報告」」

 

携帯を取り出してプッシュした。当主と連絡が繋がる前にと、兵藤が衝動的に駆られて飛び掛かる―――雰囲気を感じ取った一誠が虚空から鎖を放って縛り上げた。そして、楼羅から携帯を取り上げたと同時に。

 

「―――あ、お爺ちゃん?一誠だけどちょっとお願いが・・・・・うん、ちょっと許して欲しいことがあるんだ。まだこれからすることなんだけど・・・・・んと、これから兵藤と体育の授業で戦うんだよ。それでもしも勝ったら―――」

 

意味深な視線を兵藤たちに向けた。

 

「勝った方が負けた奴に何でも一度だけ言うことを聞かせる権利を」

 

『っ!?』

 

「悠璃と楼羅?一緒にいるよ。ちょっと兵藤を全員退学する気でいるんだけど、流石にそれはお爺ちゃんにとっても困るでしょ?・・・・・だよね?・・・・・ん、ありがとう。大好きだよお爺ちゃん」

 

話は終えたと通話を切って楼羅に返した。

 

「い、いっくん?」

 

「二人には悪いが、これはこのクラスとあいつら2-Sの問題なんだわ。だからこそ、俺からの提案だ」

 

人差し指を立てて一誠は告げた。

 

「俺が勝てばお前らクラス全員に一度だけ言うことを聞かせる権利を貰う。もしも俺たちが負ければ俺からお前らの退学の取り消しをなかったことにしてやる」

 

「なんだとっ・・・・・!」

 

「当主も了承した。お前らがどう足掻こうが覆すことができない状況だ。この提案を呑まなければお前らは確実にこの二人の権利で退学させられるが―――さぁ・・・・・?」

 

八方塞、崖っぷちに立たされた気分で苦虫を噛み潰したような表情と成り、奥歯を噛みしめている兵藤たちに一誠は突然虚空に目を向けた。何かを一点に見詰めると急に目を細めては、

 

「―――姿を隠してこの状況を盗み見とはな」

 

誰もがソレに反応する前から一誠の姿が消えたと思うと、少女の悲鳴が上がった。

そして、いなくなっていた一誠が廊下から教室に入ってきた。一人の少女を脇で抱えて。

 

「・・・・・誰ですか?」

 

「知らん。だけど、姿を隠してこの教室にいたことだけは確かだ」

 

黒髪で揉み上げが長い紫と黒のオッドアイの少女が床に放り投げられた。

 

「あれ?麻弓さん?」

 

「知ってんのか?」

 

「麻弓=タイム。同じクラスで写真部の子だよ」

 

あっそ、と対して関心がない態度で―――タヌキ寝入りしている麻弓に対して鼻に胡椒を振りかけた。

 

「―――ぶはっ!な、何を―――へっくしゅん!?くしゅん!」

 

「気絶したフリをする暇があるぐらいなら答えてもらおうか」

 

「な、何を・・・・・って、それは!」

 

「どうして姿を隠してコレにメモっていたのかなー?」

 

麻弓の持ち物らしく一誠の手の中にはメモ帳があった。その一ページには今までのやり取りをしていた一誠たちの言動をそのままに書き留めていたばかりだという内容が記されていた。

 

「―――――」

 

突き出されるメモ帳と一誠から冷や汗を浮かべ目を逸らす。そこで一誠は合点した。携帯を取り出してどこかに連絡を取ろうとする。

 

「カリン、こいつを生徒会室に連行だ」

 

「何でだ?」

 

「んー、こいつ非公式新聞部と関わりがあるからと言えば納得するか?」

 

「ちょっと待つのですよー!?何を根拠に―――!」

 

「根拠なら、どうしてお前のメモ帳に俺たちのやりとりをそのまんまに書いた理由を教えてもらおうじゃないか写真部の生徒さんよ」

 

一誠からの追究、周りからの「どうなんだ?」という視線。麻弓=タイムは居たたまれなくなり、居心地も悪くなる一方。一誠の携帯から少女の声が聞こえた。

 

『イッセーくん、その子をそのままに。今すぐ行きますので』

 

生徒会会長であるソーナ・シトリーの感情が籠っていない声が。有言実行、わざわざ階段を降りる時間すら惜しいとばかりに転移魔方陣で2-Fの教室に現れたソーナと椿姫。

 

「とても感謝します。非公式新聞部と思しき人物を捕まえてくれて」

 

「偶然だったけどな。まぁ、虎穴に入らずんば虎子を得ずだったんだろうが・・・・・」

 

麻弓に目を向けこう言った。

 

「こいつにとっては龍穴(教室)に入らずんば面白記事を得ずってやつか?生憎だが穴の中にいた龍は侵入者を見逃さないんだ。残念だったなぁ?」

 

「・・・・・ううう」

 

観念したように首を前に折って肩も落とす麻弓を一瞥しソーナは問うた。

 

「それで・・・・・この状況は何ですか?」

 

「んと、兵藤たちの退学を賭けた一勝負を決めていたところ」

 

「・・・・・詳しく説明を」

 

と、その瞬間。瞬く間に教室が煙幕だらけとなった。誰彼もが突如発生した煙幕に動揺し、慌てていると。

 

「ふはははっ!我が同志の存在を見抜けたことには褒めてやろう。だが、非公式新聞部は永久に不滅である!」

 

聞き覚えのない声と同時に煙幕が張れると捕まえていた麻弓の姿がいなくなっていた。

 

「今の声は・・・・・。・・・・・っ」

 

悔しそうに硬く手を握り締めるソーナに声を掛ける一誠。

 

「だが、麻弓の存在は大きかったんじゃないか?この学校の生徒である限り、クラスとか家の住所とか分かるだろう?」

 

「・・・・・そうですね。冷静に考えればそうです。ええ、絶対に主犯格も捕まえましょう」

 

「会長、私も手伝います」

 

生徒会と風紀員のタッグ。非公式新聞部はどう対応、対処するのか楽しみだと思いつつも。

 

「話が反れたが、お前たちに拒否権なんてないからな?」

 

兵藤たちに釘を差すのだった。これで話しが終わりかと思った時、一誠にとって忌々しい過去を思い出させる元凶が現れる。

 

「よぉ、久し振りじゃねぇか。―――化け物よぉ」

 

兵藤誠輝。嘲笑う顔で堂々と教室に入ってきた。

 

「っ!?」

 

金剛が誠輝を見た途端。神器(セイクリッド・ギア)を発動し、臨戦態勢の構えになってその行動に誰もが目を丸くするのだった。

 

「お前えぇっ!」

 

「金剛・・・・・っ?」

 

いきなり誠輝に攻撃を仕掛けようとする金剛に焦り、黒と紫が入り乱れた籠手を装着しては怒り狂う少女の肩を掴んで能力を発動する。金剛の神器(セイクリッド・ギア)が停止して、光と化と成って消失した。

 

「イッセー・・・・・!?」

 

恨めしいと初めてそんな顔を浮かべる金剛に驚きを隠せない。

 

「私の邪魔をするナ」

 

天真爛漫で活発な少女とは一変して、怒りと憎しみで満ちた顔と瞳に孕む冷たさ。

声も低く一誠に発した。金剛の姉妹にも目を向けると・・・・・。

顔を青ざめ、自分で自分を抱きしめて身体を震わしていた。

発作でも起こしたように断続的に息を荒く吐き続ける。

 

「・・・・・こいつと何が遭った」

 

金剛の反応と異変を察して一誠は訊ねた。誠輝に向かって鋭く指を突き刺して

怒気が孕んだ声で語った。

 

「あいつが私の妹たちを滅茶苦茶にした元凶!どうしてこいつが、ノコノコとここにいるの!?また私の妹を滅茶苦茶になるじゃない!」

 

その叫び声に悲しみが滲み出ていて、比叡たちはその場に膝を折って耳を塞いだ。

誠輝の声を聞く度に鮮明に思い浮かぶあの忌まわしき記憶が。

 

『・・・・・っ』

 

女子たちは誠輝に敵意の視線を向けた。―――やっぱり、兵藤という男は女の敵だと心から刻んだ。悠璃や楼羅ですらゴミを見るような目で誠輝を睨むほどに。

 

「・・・・・兵藤の誰かだとは知っていたが」

 

「まさか、あなたがそんな事をしていたとは・・・・・心底あなたには軽蔑させられます」

 

一誠とリーラが絶対零度の視線を向ける。だが、誠輝は億劫そうに向けられる視線を跳ね除けるように嘲笑いの声を発する。

 

「おいおい、俺はそんなことした覚えは無いんだが?今日初めてこの学校に来たってのに初対面の俺に対して適当なことを言ってんじゃねぇ。それとも、そんなことした証拠はあるってのか?」

 

「っっっ・・・・・!」

 

ますます顔を歪める。いけしゃあしゃあと、もっと誠輝に対して罵声を浴びさせたい気持ちがとうとう爆発しそうになった時。

 

「にしても、化け物がいるクラスってどんな所なのか見物をしに来てみれば何だこの教室。俺がいる教室より豪華じゃん。結構広いし、過ごしやすい環境だなええおい?」

 

品定めするような視線を周囲に向けつつ一誠に挑発的な態度で言う。

一誠も言い返す。

 

「どこぞのバカの一族がそうさせたんだよ。俺も驚いたぜ。ここが学校の教室なのかってな」

 

「お前みたいな弱虫で化け物に成り下がった奴には勿体ない場所だ。変われよ今すぐ」

 

「お前は何様だ?学園長でも理事長でもないただの未成年がそんなことできると思う傲慢な考えが口に出せるんだ」

 

「俺はいずれ兵藤家の次期当主から当主の座を譲ってもらう赤龍帝だが?家族のいないお前なんて直ぐに存在を消せるほどの権力だって得れるんだ」

 

「へぇー?それは何時の話になるんだかなー?それ以前にお前が当主の器か?」

 

「兵藤家の強さは人間の頂点だ。なら、神をも倒すことが可能な力を持っている赤龍帝の力を宿している俺が現時点で最強だとわからないのかなぁー?」

 

「可能性があるだけで、絶対じゃないからな?所有者がそれを左右する。そんなこともわからないのかなぁー?」

 

不毛な会話の平行線が繰り広げられる。

 

「ていうか、帰れ。こっちは飯を食ってるまっ最中なんだ」

 

「誰がお前の言うことなんて聞くか」

 

「じゃあ、私たちの言う事を聞いてね」

 

ここぞとばかり悠璃が話に加わった。

 

「現当主の娘の方がまだお前より権限はあるよ」

 

「ええ、あなた。よく私たちの前でそんなこと言えますね。あなたと同類されては堪ったものじゃありません」

 

「んだと・・・・・」

 

苛立ちを覚える誠輝にトドメの一言。

 

「次期当主の息子だから何?今一番偉いのは私と楼羅の父親だよ」

 

「あなたがしたいこと、私たちが実際にしてみましょうか?兵藤の者の一人や二人、存在が抹消されても皆、自分の身が可愛さに目を逸らすでしょうからね」

 

一誠は心強い幼馴染を得て頼もしいと感謝した。

 

「いっくん、やっぱり全員退学させた方がいいよ。こんなクズが学校にいちゃダメだよ」

 

「お父さまには私たちが説得します。いなくなったほうが学園は平和になるはずです」

 

二人の言い分に同意、肯定の雰囲気が醸し出す。一誠もそれには心から賛同する。

が―――。

 

「いや、それはそれでこいつらは自由になったらもっと被害者が続出する。親は自分の子供が可愛いから注意をするどころか暗黙して自由にさせるに違いない」

 

だからこそ、ソーナに意味深な視線を送ってまた誠輝たちに目を向ける。

 

「さっきの話を戻す。俺たちが負けたらお前らの退学は無かった事にする。俺たちが勝ったらお前らに一つだけ絶対権利の下で従わせる」

 

「ああ?なに勝手に俺の了承なしに決めちゃってんの?」

 

「誰もお前の了承を得ようなんて思っちゃいない。というか、もう俺たちはそうせざるを得ない状況になったかもしれないぜ?なんせ―――」

 

教室中に携帯のメロディが流れ始めた。一誠自身の携帯にも着信メールの知らせの音楽が流れ、メールを読み上げる。

 

『退学を賭けた2-S VS 2-Fの絶対命令を賭けたゲームが勃発!』

 

「とまぁ、勝手に全校生徒にこんな知らせが広まるんだよこの学校って」

 

「ふざけんなっ!お前のルールに誰が従うか!」

 

「じゃあ、お前ら退学だな。俺がお願いすれば今すぐにでも悠璃や楼羅が兵藤家現当主にお願いして学園にいる兵藤家を全員この学園から退学させることができるんだけど?」

 

「俺の知ったことじゃねぇよ!そんなゲームをしたければ勝手にすればいいだろうが!」

 

「兵藤家の当主になる男が、何の実績も戦果もなしでなれると思っているのか?それにこれはお前の意思とは無関係に決まっている。そこにいる兵藤たちと賭けをした時点でお前の意志なんて無化されるんだよ。兵藤家現当主も俺たちとお前たちの授業後の賭けを認めてくれた。もう成立してるんだよ。嫌なら当主に直接言って来い」

 

まぁ、そんな時間があればの話だがな?と挑発をするのだった。

既に下準備は整っているのだと、誠輝に向かって言い放つ。

自分の知らないところで勝手に決められた賭けに八つ当たり気味にクラスメートの机や椅子を無造作に蹴って、

 

「だったら、俺が勝ったらこの教室と女共―――リーラを俺の物にしてやる!」

 

それだけ言い残し、教室からいなくなった誠輝を追うように出ていく兵藤たち。

 

「くくくっ!徹底的に潰す。もう兵藤家の好きなようにはさせないぞ。―――ソーナ先輩、さっそくだが」

 

「ええ、兵藤家の首に首輪を付ける時です。風紀員部長と相談しましょう」

 

ソーナもノリノリで一誠の考えの意図を汲んだ。ソーナ自身もこの好機を逃す手は無いと、一誠の勝利を信じて兵藤家に対する賭けを考えるのである。

 

 

 

「「「お姉さま・・・・・」」」

 

不安、心配そうに比叡、榛名、霧島の三人は姉の金剛に話しかけたら安心させる笑みを浮かべた金剛。

 

「妹たちよ。姉の私の勇士をしかと見届けて欲しい。いいね?」

 

「「「・・・・・」」」

 

しかし、返事は無かった。不思議そうな顔で妹たちを見据えると、比叡たちが互いに顔を見合わせて霧島が二人の代表として口を開いた。

 

「お姉さま、私たちも一緒に戦場に立ちたいです」

 

「WHAT!?なんデ!」

 

意外な発言に金剛は素っ頓狂に声を荒げた。その理由は比叡と榛名が語った。

 

「何時もお姉さまに守られているけれど、私たちは何時もお姉さまの傍にいて一緒にいたいと思っていたんです」

 

「あの時の出来事は絶対に忘れられない。あの時の恐怖もまだ残っています」

 

「でも、何時までも今のままではいけないと分かっているつもりです。ならばどうすればいいかと言うと」

 

三人は揃って言い放った。

 

「「「皆で兵藤を倒して恐怖に打ち勝つことですお姉さま!」」」

 

「――――っ」

 

姉として妹たちを守ると当たり前のように思っていた。なのに、妹たちはあの時遭った出来事を前向きになって克服したいという気持ちを打ち明けた。驚き、妹たちの気持ちを尊重したい思いがあるがやはり金剛は賛成できなかった。

 

「金剛。お前が思っている以上にこの三人は強いようだぞ?」

 

「イ、イッセー・・・・・」

 

「俺がカバーをする。それなら問題は無いだろう」

 

だから一緒に戦わせてやれと一誠からの助け船も甲斐があって比叡たちは金剛と一緒に授業を受けれるようになった。

そしてその日、2-Sと2-Fの体育の授業は学園全体に知れ渡り、注目の的となった。

 


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