HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード41

体育祭が頓挫してしまったものの国立バーベナ駒王学園は、まだ、体育祭は終わっていなかった。

カッ!と燦々と太陽の光がここ川神湾に降り注ぐ最中、水着姿の二つの学園の生徒たちが顔を突き合わせて

対峙していた。

 

『これより、第ン十回国立バーベナ駒王学園対川神学園の水上体育祭を行います!呼ばれればどこでも赴くアナウンスは毎度おなじみナウド・ガミジンでございます!』

 

 

ウオォオオオオオオオオオオオオッ!

 

ウワァアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

この時を待っていたかのように二つの学園を合わせて千人以上の少年少女たちが雄叫びをあげる。

アナウンスの隣には学園のトップがパラソルと設けられているテーブルと椅子に座ってこの状況を楽しんでいた。

 

『いやー、今年もこの体育祭がやってきました!駒王学園の方では災難な事が遭ったにも拘わらず、ほぼ全員が参加しているようですね!』

 

『本当は中止にでもしようかと思っていたのだがね。一応、参加するか否か自分たちの判断で任せるとプリントを全校生徒の家に送ったのだけれど』

 

『俺たちが思っている以上に肝が据わっているようだな』

 

『それだけではないかもしれない。なにせ生徒たちはイベントが大好物なのだからな。この機会を逃さないと来たのだろう』

 

YES!その通り!と駒王学園から聞こえてきた。

 

『ではそんな皆様の為に選手宣誓をパパッと行い、水上体育祭を始めましょう!』

 

ナウドの宣言により、歓声の声で砂浜は賑やかになる。選手宣誓は速やかに行われ水上体育祭は開催された。

 

『前回は駒王学園式の水上体育祭でしたので今回は川神学園式の水上体育祭が行われます。では、川神学園の学園長、川神鉄心殿。最初の種目をこの箱から選んでください』

 

『うむ、良かろう。さてさて、何から出てくるかのー?』

 

『因みに、「ポロリもあるよ?女だらけの水上相撲勝負!」は除外させてもらいました。個人的には面白そうだったんですけど』

 

『な、なんじゃとぉっ!?』

 

どこからか悔しそうな声と罵倒の声が聞こえてくる。それもそのはず。駒王学園の男子はともかく女子は学園から支給された水着ではなく、個人で用意した新しい水着をその華奢で瑞々しい身体の部位に身に付けているのだ。

その辺のフリーダムな規則は女子にとってプラスな為に人気だった。自分の好きな水着を学校の行事でも身につけて良いのはとても嬉しいことなのだから。対して川神学園はスクール水着。羨望の眼差しを向けられる華やかな(女子の水着)駒王学園とは比較的に地味である。が、それを身に包む女子の土台が良ければ気にしないのが男子の心情である。

 

『・・・・・わしの口で決めてはダメかの?』

 

『ダメです』

 

却下され渋々と箱の中に突っ込んでいた手を出して掴んでいた物をナウドに渡した。

 

『まず最初の競技は―――ビーチバレー!まず一年の部から始めますので参加する男子と女子は集まってくださぁい!』

 

 

「一年か、ユウキは出るかな?」

 

「ここからでも見れますから応援でも」

 

「ん、だな」

 

 

 

最初の競技が始まり、一年生から開始した。二つの学園の生徒がビーチバレーを競い合い五分五分の戦いを繰り広げた。その光景をユウキは見ていた。ユウキもこの競技に参加を臨んでいるので相手の実力を分析して待っていれば、C組の番となった。

 

「いこっか」

 

「うん」

 

黒髪の少女、一誠に恋している少女とタッグを組んで同じ一年C組の川神学園の二人の女子と戦いに。

二人の相手は。

 

「プレ~ミアムに倒すわよ!」

 

「は、はい」

 

『まゆっちの動きに注~目!』

 

一人は凹凸が少ない小柄で勝気な少女だった。そしてもう一人は長い黒髪をツインテールに結んだ歳不相応な豊満の胸の持ち主で見た目はおどおどしている内気そうな少女。―――何故か馬のマスコットで腹話術をしている。

 

「デ、デカい・・・・・」

 

同じ一年なのに身長とスタイルが自分と比べて違いの差が・・・・・。同じ年代でこの違いは何だろうか。

試合が始まる前に負けたこの敗北感を味わっているユウキを余所に少女がマスコットを持っている少女に質問した?

 

「あ、あの、あなたは二年生ではないですか?」

 

「はうっ!?」

 

『何を言うんだこの娘はぁっ!まゆっちはれっきとした高校一年生だぜぃ!』

 

「・・・・・どうしてマスコットで腹話術を?」

 

黒髪の少女の質問にマスコットが説明した。

 

『オイラはまゆっちの最初の心の友と書いて親友、松風だぜお嬢ちゃん』

 

「「・・・・・」」

 

『こらぁー!その意味深な眼差しをオイラたちに向けるんじゃねーよ!』

 

松風が怒鳴るが、ユウキと少女は可哀想な子を見る目で視線を送る。取り敢えず試合は始まった。

マスコットで腹話術、内気そうな少女が―――。

 

「プレミアムに打ち上げたからには決めなさい黛さん!」

 

「はいっ!」

 

予想外も良いところ、黛という少女が無駄のない動きで強烈なスパイクを叩きこんで先制点を奪った。

 

「つ、強い・・・・・!?」

 

「・・・・・あの子、動きだけで分かっちゃったよ。―――戦いでも強いよきっと」

 

初めて会う人には黛の言動で惑わされる。内気な少女だと。だが、動かせば目覚める獅子の如く本領発揮する。

ユウキは真剣な眼差しで黛を見やる。

 

「プレミアムって言っている子も油断せずに勝ちに行くよ」

 

「うん、分かったけど私たちが勝てるかどうか・・・・・」

 

ユウキが認めるほどの相手に委縮しがちな少女。そんなクラスメートにユウキは魔法を使った。

 

「先輩が見ている手前、負けるにしても情けない負け方はできないよ?」

 

「っ!?」

 

少女は辺りを忙しなくキョロキョロと見渡す。と、とある一点に顔と視線が止まった。ユウキもその視線を辿っていくと真紅の髪を伸ばしている少年が発見した。いたいたとユウキも一誠を見詰めたら二人の後輩の視線に気付いた一誠が口を開いた。

 

「―――二人とも、頑張れ!」

 

「「―――――」」

 

羞恥を感じさせない激昂の言葉。自分たちの活躍を期待しているのだと分かってしまい、クラスメートに笑みを浮かべた。

 

「応援されちゃったよ?頑張らなくちゃいけなくなっちゃったね」

 

「・・・・・」

 

声を掛けられてもクラスメートは何時までも顔を赤くして一誠を見ていると審判から催促の声が掛かる。

ユウキたちは黛たちに振り向く。その際、自分のクラスメートに横目で見れば、黒い髪を手首に巻いていた紐で結び始めポニーテールに結び始めていた。少女はキュッと結い上げると真剣な眼差しで試合に臨んだ。

 

「プレミアムな私のボールを食らいなさい!」

 

ボールを打ってきた。自分たちのコートに飛来してくるボールをユウキがアンダーで宙に上げた。

 

「いけぇっ!」

 

高々にクラスメートを信じて声を出したユウキの気持ちを裏切らない、一誠の応援を無化にしない為に、

少女は常人を超える脚力でボールの真ん前に跳び、

 

「はぁあああああああっ!」

 

ドンッ!とボールが歪むほど手を振り下ろして黛たちのコートに叩きだす。驚異的な反射神経をする黛だったが、後一歩で届かずプレミアムと言う少女の前に着弾した直後、ボールが勢いが止まらず跳ね返り、

 

「ふぎゃっ!?」

 

顎に直撃をしてぶっ倒れた。

 

「「「あっ」」」

 

敵も味方も関係なく生徒が倒れる様を見て漏らした。ワザとやったわけでないことは周囲も承知のはずだろう。

審判が安否を確かめると首を横に振った。

 

「試合は中止、ドローとします。いいですね」

 

ある意味痛み分けな結果で一年C組のビーチバレーは終了した。

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

「大丈夫だよ。ボクは気にしないって。寧ろあんな凄いスパイクが撃てれるなんて驚いたよ」

 

「う、うん・・・・・ちょっとセーブしていたから」

 

「セーブ?」

 

もしかして―――とユウキが言葉を言い続けようとした時、肩にオーフィスを乗せた一誠が近づいてきた。

 

「残念だったな」

 

「先輩」

 

「ま、まだまだ体育祭は始まったばかりだから楽しく頑張ろう」

 

朗らかに述べる先輩である一誠に「うん!」とユウキは頷き、黒髪の少女はコクリと小さく頷いた。

 

「そんじゃ、次は二年生のFクラスの番だから俺行くわ」

 

「先輩も参加するんですか?」

 

「全部参加したいところだが、午前と午後の部の競技を合わせてたったの二つしか競技に出られない。残念だけど早目に終わらせてのんびりと応援に徹するつもりだ」

 

ポンとユウキと少女の頭に触れてからコートへ赴く。

 

「応援よろしくな」

 

それだけ言い残し、オーフィスとタッグを組む一誠は―――。

 

 

『ああ、一誠!私と熱い運動をしてくれるんだね!』

 

『待て!お前は男じゃないから向こうだろう!おい、一子でもクリスでも良いからこいつを俺から離させろ!』

 

『あわわわっ!ごめーん!』

 

『こら京!相手に迷惑を掛けるなっ!』

 

『ああーん!一誠愛してるー!』

 

 

大勢の前で一誠に愛の告白をする京を見てしまい

 

「あれだけは絶対に応援はできない」

 

「アハハ・・・・・先輩って違う学校でもモテるんだねぇ・・・・・」

 

不機嫌な顔と成るクラスメートの気持ちを察して苦笑いを浮かべるユウキであった。

 

 

『さて、次の競技を決めるぞい』

 

ビーチバレーの競技が終われば次の種目が決められる。鉄心が引いた競技の書かれた紙をナウドが読み上げる。

 

『読み上げます。次の競技は―――男女混合水上リレー!』

 

水上リレー。海に浮かべた揺れる足場でリレーをするだけの競技。足場の横幅はわずか一メートル。

走れるだけの幅はあるが、思うように揺れる足場では全力の走りはできない団体戦。

 

『なお、海に落ちても失格となりませんので頑張ってバトンを渡してください。相手に妨害してもありなので川神学園流で言うと皆さん、頑張ってゴールまで切磋琢磨をしてください』

 

アナウンスの言葉を聞いてガッツポーズをした帰国子女がいた。リレーに出る選手は事前に決めた順番、自分のコースへ赴く。海に浮かべられた三つの大きな円形の足場の周囲にはスタッフが万が一に備えての配置で待機していた。

リレーに参加する者たち、一年、二年、三年生の配置が完了すれば声を高らかにマイク越しで張り叫んだ。

 

『それではレディーゴーッ!』

 

リレーは約七人で走り切りるルール。第一走者がスタート地点から駆けだす。波で少しでも揺れる足場に意識や神経を使っていると視野が狭くなりがちでつい足が滑ってしまうこともある。

 

「あっ」

 

一人の女子が海に落ちた。―――思いっきりワザとで。すると女子の身体が光に包まれたかと思えば―――。

 

「金剛行きマース!」

 

海を走るように第二走者まで足場で走るよりも速く突き進んだ。

 

『おおっと!駒王学園の第一走者が海の上で走りだしたぞー!ルール上、失格とはなりませんが神器(セイクリッド・ギア)を使用することに関してはどうでしょうか!?』

 

『んーいいんじゃね?それもルールに書かなかった俺たちが悪かったことで』

 

神器(セイクリッド・ギア)で邪魔するなら流石にダメだけどね?』

 

『と、言うことで認められました!ハイッ!』

 

アナウンスと理事長たちの会話を余所に一走者が次の二走者にバトンを渡す頃に差しかかる。

第二走者の中にはイザイヤがいた。現在二番目に遅れている同級生を見据えて先にバトンをした他のクラスや川神学園を余所に、

 

「ハイっ!」

 

「任せて」

 

バトンを受け取った瞬間。走りにくい足場を容易く走りぬき、一気に一番目の走者を追い抜いて二番目の走者よりも早く第三走者の清楚にバトンを渡す。

 

「落ちないように」

 

「うん、分かってる」

 

清楚が走る。少々危うい走り方であるものの、次に待っている第四走者の元へと駆ける―――。

 

『速い!これは速いぞ葉桜選手!揺れる足場を無視した清楚な走りを見せるぅっ!』

 

二番目の走者との距離をぐんぐん引き離して第四走者にバトンを手渡す。そして―――。

 

『一位、国立バーベナ駒王学園!』

 

二年生の男女混合水上リレーは駒王学園側の勝ちで幕を閉じた。

 

『続いての競技の発表をします。―――二年生限定益荒男決定戦・・・・・なんですか、この変なネーミングの競技の名前は』

 

訝しい視線を送るアナウンスのナウドに愉快そうに笑う鉄心。

 

『これぞワシが50年かかって考え出した決闘法。益荒男に必要なのは不動の精神力!これを競うのじゃ!では、ルールを説明するぞい』

 

 

    各クラスから一人ずつ選出された男は磔された状態で他の学園のクラスの女子の前に連行される。

 

ルール 他の学園のクラスの女子はその男子にどんな手を使ってでも誘惑をする。

    

    その際、身体には判定装置を取り付け血流の流れで女子に誘惑されたと判断すれば身体に電流が流れる。

 

 

『以上じゃ。益荒男である者はいかなる誘惑にも屈さない不動の精神力でなければならぬ』

 

『くぅっ!まさに男らしい競技じゃねぇーか気に入ったぜ!シアと言う婚約者がいる一誠に他の女に誘惑される男ではないと証明できるわけだしな!』

 

『ふむ、その点を考えれば一誠ちゃんにはネリネちゃん、リコリスちゃんと言う可愛い女の子がいるから他の美しい女性に誘惑、浮気はしないということを証明できるわけだね?』

 

―――名を挙げられた張本人は砂浜に穴を掘って中に入って蹲って耳を塞いでいた。

 

『では、各クラスから代表の益荒男を一名選出するんじゃ』

 

男一人しかいないクラスでは必然的にその男が選出する羽目となる。周りから意味深な視線を浴びつつ磔されていく各クラスの男子たちは川神学園のゾーンに連行された。

 

 

駒王学園In2-F

 

一誠のクラスの前に連行された川神学園の男子、その名も井上準であった。

しかし、井上は知らなかった。駒王学園の女子しかいないクラスは男を毛嫌い、警戒、、恐れを抱いている女子だらけなのだ。なので―――。

 

「あらら・・・・・女子たちが俺に見向きもしないなんてどういうことよ?」

 

不思議そうに磔された状態で首を傾げた井上だった。だが、このまま時間が過ぎていけば終われば容易く勝てると踏んだ。

 

「フハハハっ!元より俺は未成熟な幼女じゃなければ成熟した女なんて興味ないからな!どんな誘惑だろうと俺は耐えてみせる!」

 

うわー、キモー、ますます男なんて、とそんな声がちらほら聞こえてくる。軽蔑、侮蔑の視線を向けられても井上は平然として受け流していた。

 

「さーて、アイツ(一誠)はどうなっているかな?」

 

一時期同じクラスメートとなった少年のことを思い浮かべたところで井上準はある少女を視界に入れた。

 

 

「ちゅぱっ、ちゅぷっ、れろ、じゅるっ、んふっ、んっ、んっ、んっ、じゅずずずずっ」

 

 

無表情で両手で太めの棒状のアイスを口に深く頬張って食べているオーフィスを。

 

 

「し、しまったぁあああああああああああああァァァァァッ!!!!!」

 

 

幻覚とリアルに電気が発生した。井上準はロリコンである。オーフィスがアイスを食べている姿はロリコン者にとって興奮せずにいられないシュチュエーションだった。いきなり身体に流れる電流で人が焦げる匂いを放つロリコンに女子たちはギョッと目を丸くした。―――井上準、失格。

 

川神学園In2-S

 

 

「お前がここに来るとはな」

 

「しょうがないじゃん。俺一人しかいなかったんだからクラスの男子って」

 

「・・・・・悲しい状況だな。せめて磔されたお前を見ぬことが情けか」

 

九鬼英雄は席を外してしまった。

 

「よし、やり易くなったな。おいお前ら」

 

忍足あずみがクラスメートの女子たちに人の壁となって貰い、他の視界から遮らせた。

 

「ユキ取り敢えず十字架を倒せ」

 

「ほほい。倒れるよ!ズッシーン!」

 

一誠は十字架にくくりつけられたまま横にされた。そして複数の女子たちから視線を一身に浴びる。

 

「で、俺をどう料理しちゃう気なの?」

 

「では、まず私から」

 

「ちょっと待てぇえええええええええええッ!?」

 

いきなり覆い被さってくる褐色肌のイケメン、葵冬馬に叫ぶ。興奮するどころか恐れ戦く。

男に興奮を覚えたら自分は正常ではいられなくなると胸の内で絶叫する。

 

「大丈夫です。きっとあなたは気持ちよくなってこの後、数奇な運命を辿ることでしょうね」

 

「小雪!葵を俺から遠ざけたら俺ができる範囲ならば一つだけ何だってしてやる!」

 

「トーマ、ごめんねー?」

 

「む、その機転やりますね。残念です」

 

自分から遠ざかる男を見送って九死に一生を得た気分な一誠。

 

「ヤサ男がいなくなった今が本番だ」

 

不敵に言う忍足あずみ。だが、相手は手強い。

 

「言っておくけど、俺に身体を押し付けたりしても興奮しないからな」

 

「ちっ、可愛げのないガキだな。いや、ドラゴンか」

 

実際、小雪に抱きつかれてもなんとでもなさそうな顔をこちらに向けてくる。

チェリーではないか、それとも女に興味がないだけなのか判断はできかねる。

このまま無意味に時間を過ぎるだけならば―――。

 

「ユキ」

 

「んー?」

 

「お前、こいつのことが好きか?」

 

「うん!大好きー!」

 

純粋に答える小雪は忍足あずみに振り向く。その答えを聞いて黒い笑みを浮かべ出した。

 

「なら、兵藤一誠とキスはできるな?」

 

忍足あずみの会話を聞いて「え”」と何を考えているのか悟った。

小雪は嬉しそうに「勿論!」とそう言う。一誠に恋している乙女は恥じらいを見せない。

そんな純粋な小雪に悪魔の囁きが―――。

 

「だったら兵藤一誠とキスしろ。周りの視線を気にせずにな」

 

だから女子に人の壁となってもらったのかとようやく気付いた時には既に遅かった。

顔を近づける少女を目が合う。小雪は若干恥ずかしそうに頬を染める。でも、はにかみの表情を見せる。

 

「一誠、僕、一誠のことが好き・・・・・大好き」

 

「待て小雪。キスをするならせめてここじゃなくて―――」

 

一誠の制止を空しくも小雪の口で遮られた。目の前の少女のファーストキスを貰い複雑な心境でいっぱいになった。

 

「ん・・・・・これでいい?」

 

問われた忍足あずみは額に手を当ててそうじゃないと雰囲気を醸し出した。一誠は忍足あずみに不敵の笑みを浮かべた。

 

「純粋な小雪にはまだ早いんだよ。違うなら大人の女性の魅力を持っているお前が手本を見せたりしないのか?男を誘惑する方法なんて他にもあるだろう」

 

自分が思っていたのと違うことに内心は安堵した一誠が忍足あずみに挑発した。

 

「ぐっ・・・・・!?」

 

と、喉の奥に言葉を詰まらせたように呻く忍足あずみにキョトンと不思議そうな顔となる一誠は漏らす。

 

「その反応・・・・・ああ、男と付き合ったことがないんだ?」

 

彼女の反応は無言でそれは肯定と意味でもあり、へー?と底意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「よく何も知らない、経験もない小雪に偉そうにさせたな?自分のことを棚に上げて嫌な女だ」

 

「っ・・・・・!」

 

反論はできない。事実男と付き合ったことは皆無な彼女は歳では一日の長であるといいことに、ここぞとばかりまだ大人になっていない少女たちに命令していた。

 

「一誠、もう一度キスしよ?」

 

「って、小雪―――」

 

再びキスをし始めた。ただ触れるだけのキスだったが、横に近づいてきた弁慶がフォローの言葉を掛けた。

 

「小雪、舌も使うんだよ?兵藤一誠の舌と絡ませて」

 

「弁慶さんっ!?」

 

「おー、そうなんだー」

 

そんなキスもあるんだと小雪は早速シた。舌を使って一誠の口をこじ開けると舌を入れ込ませ、絡め始める。

 

「んっ・・・・・んんっ、んっ、んっ・・・・・んんぅっ、じゅるっ、ちゅっ、ちゅぱっ、れろれろ・・・・」

 

砂浜に波とは違う水音が聞こえる。キスをしている小雪とキスを受けている一誠。恨めしい視線を送ってキスの仕方を教えた飲兵衛から一瞥をして―――自分からも積極的に舌を使いだした。

 

「んんんっ」

 

ビクリと身体を震わした。おおっ?と小雪の反応に興味を示す弁慶は見聞した。

最初と打って変わって頬が桜色に染まり、目が蕩け、一誠に熱い視線を送っている小雪は女の顔となっていた。

じゅるじゅるっと吸い込む音も聞こえる。顔を交互に動かして熱いディープキスをし続ける二人を見て弁慶も

顔が火照り始めた。間近でカップルではない男女のキスを見て艶めかしいと思った。

激しくて熱いキスをしても一誠が誘惑されていないことにも驚きだが、それ以上に二人のキスから目が離せない自分がいることに分からされた。

 

『・・・・・っ』

 

人の壁となってもらっている女子たちがモジモジとして顔を赤らめていた。ああ、この女子たちも尻目で見ていたんだと悟る。現にチラチラと一誠と小雪に視線を送っている女子もいたから直ぐに理解できた弁慶はクスリと無自覚に妖艶な笑みを浮かべた。すると・・・・・鼻にツンと刺激する香りが漂い始め―――弁慶の女の部分を刺激した。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

鏡で見れば恍惚とした表情で熱い吐息を漏らす自分に他人事のように受け止めてしまうかもしれない弁慶が

唾液で濡れた舌を限界まで伸ばしながら一誠に顔を近づける。接近してくるウェーブが掛かった黒髪の少女に気付き、小雪から顔を逸らすと同時に弁慶の唇と重なった。

 

「ああー、ずるーい・・・・・」

 

「んっ、ちゅっ、ごめんね・・・・・んぁっ、私もしたくなっちゃった・・・・・」

 

好きでも嫌いでもない男にファーストを捧げた。なのに、不愉快を感じない。不思議でいっぱいだが、この瞬間を楽しみたいと弁慶は終了の宣言が終わるまでちょくちょく小雪と入れ代ってキスを没頭したのだった。

それから午前の部の競技は終われば昼食の時間となる。日差しが強い砂浜で食事をするのはケアを怠らない女子にとって紫外線は敵だろう。巨大な木を彷彿させる百メートルほどの『女子専用』パラソルをいくつか設置していた一誠だった。D・E・Fの女子たちは怪訝な面持ちで一誠に視線を向けるが、日焼けを望まない、日差しから避けたい女子はパラソルの下に集う。

 

「ご苦労さまです」

 

一誠の家族たちもパラソルの下でのびのびと休憩の時間を満喫していた。咲夜が労いの声をと共に冷たい水を渡す。

 

「水上体育祭どうですか?」

 

「楽しんでいるつもりだ。午後の部も楽しみたいな」

 

ポツンと駒王学園側と川神学園側の間に設置したパラソルの下で過ごす面々。仲間外れ、はぶられた雰囲気が醸し出すものの―――。

 

駒王学園側からは―――

 

「一誠、どうしてあなたたちはこんな所で過ごすの?」

 

「もしよければ一緒に良いですか?」

 

川神学園からは―――

 

「デッカいパラソルだなー。私たちも入って良いか?というか入らせてもらうぞ」

 

「一誠!一つパラソルの下で私と熱い愛をぶつけ合おう!」

 

両学園から一誠と交流を持っている面々がやってくる。

 

「流石は一誠さま。思った通りになりましたね」

 

「なんとなくこういう奴らだと分かっているからな」

 

孤独感を感じさせないほど賑やかになるのだった(主に女子)。

 

賑やかな昼食は終わり、午後の部に突入した。

 

『対校!百メートルリレー水泳競争ぉっ!』

 

アナウンスが高らかに発表した。参加者と泳ぎは自由。先着十人とルール。

意気揚々と一誠が参加し、隣に立ち並ぶ対する川神学園の生徒を見れば見知った人物がいた。

 

「あ、弁慶」

 

「おや、この競技に参加していたなんてね」

 

「意外だな。だらけ弁慶がこの競技に参加するなんて。泳ぐんだぞ?」

 

「ふふっ、実はお前が参加するところを見てね。私も参加したんだー」

 

弁慶の考えに首を傾げたところで競技は始まった。二人は三番目に並んでおり、五十メートルを泳ぎって戻ってくる味方を見続けているとあっという間に一誠と弁慶の番となった。二番目の競泳者が戻って来て先に一誠は海へ入って泳ぎ始めた時―――。バシャッと背中に抱きつく弁慶。その弾みで一誠は海の中に沈みかけた。

 

「飲兵衛、何のマネだ?」

 

「どうせ同じことをするんなら一緒に行こう?」

 

「別々でも行けれると思うんだけど?」

 

「流石に百メートルも泳ぐのはしんどい、だるい、だから抱き心地が良いお前の背中に抱き付くことにしたんだ」

 

ええい、この妖怪だらけめ!しっかりと首に両腕を回して背中に密着していることで離れる気は無いと意思表示する弁慶に呆れと嘆息、愚痴を漏らすし、バシャバシャと海を泳ぐことに。

 

「おー、楽ちん楽ちんー」

 

「乗り心地はどうだよ」

 

「んー最高ー♪思いっきりのんびりできるからいいよ」

 

「働いている俺にとっちゃ割り合わねぇ労働だ」

 

デメリットしかない等とUターンする印として海に浮かべている浮輪に沿ってUターンする一誠の耳に囁いた。

 

「後で良いことしてあげるから我慢して?」

 

「川神水全部くれるなら良いぞ?」

 

「それだけはダメ」

 

真顔で拒否された。結局、弁慶を背負ったまま百メートルを泳ぎきって砂浜に辿り着いた。

四番目の競泳者が海へ駆け、泳ぎ切った生徒は自分の学園側に戻るのだが一誠は弁慶にひっつかれている。

 

「って、何時までくっつく」

 

「んー、もう少しこのまま」

 

と言って今度は落ちないように腰まで胴に巻きつかせる弁慶。溜息を吐き「コロコロと変わるな。今度は甘えん坊か」とそうは言うものの、弁慶の好きなようにさせる一誠が駒王学園側に戻っても、弁慶は義経たちが連れ戻しに来るまで一誠の膝に頭を乗せてのんびりと川神学園が勝利するまで寛いだ。

 

『いよいよ水上体育祭は大詰めとなりました!最後は学年交流水上綱引きー!文字通り、言葉通り海に浮かばせている足場に置かれている綱を引き寄せて相手を海に突き落とす!ローションをたっぷりと足場も滑り易くしているので直ぐに引っ張られないように心掛けてください!』

 

アナウンスの話を聞き、まず最初に駒王学園は三年S組、川神学園は二年A組と決まって海に浮かばれた足場まで続く道に歩いて移動する。遠目から見ている両学園の面々に見守られる中、準備が整った次第で競技が始まった。

 

『うわっ!す、滑るっ!』

 

『きゃあっ!』

 

統べる足場で足腰を力むことがままならない。だからあっさりと川神学園側の生徒たちが体勢を崩し、悲鳴を上げ足を滑らせ海に引きずられた。その様子を駒王、川神学園の生徒たちは負ければ自分たちもああなるのかと見聞する。

 

「うわー。やりにくそう」

 

「足場が引き寄せられていないのは固定されているからか」

 

「やり方を見ると、瞬発力がものを言いそうだ」

 

腕を組んで分析するクロウ・クルワッハに「そうみたいだな」と相槌を打つ一誠はうーんと悩ましげに漏らす。

 

「厳しいかな。踏ん張りが効かない足場じゃ女子しかいないクラスだとあっという間に引き摺られる」

 

「そうか?相手より先に綱を持って引けばいいだけじゃないか」

 

何を言っているんだと当然のように発する同僚ことゼノヴィアに対してイリナが半分呆れながら口にした。

 

「ゼノヴィアらしい考え方だけど実際その通りね」

 

「頑張るッす!」

 

「うん、あっという間に負けることだけは避けたいね」

 

「微力ながら私も・・・・・」

 

天界と冥界の二大姫の三人も頑張る意欲を示す。

 

「では、いかがでしょうか」

 

「リーラ?」

 

何時の間にかいたリーラが提案の言葉を発した。何を言うのか耳を傾けると。

 

「状況と状態は五分五分、ならばもしも勝利することがあれば一誠さまと邪魔されず二人きり過ごせる時間を得れるという権利を与えられるというのは?どのようにお過ごすかは自由です。ただし、人数が多い為に三十分間だけですが」

 

どうでしょうかとリーラが女子陣に訊ねると異様の空気が漂い始めた。

 

「「一誠くんと二人きり・・・・・」」

 

「師匠と・・・・・」

 

乙女心を煽ったリーラの巧みな話術は効果抜群。一誠と二人だけの時間と空間が得られるのであれば、何が何でも勝ちに行くという気迫も感じられる。

 

そして、一誠たち2-Fの番が来れば、

 

『引っ張れぇえええええええええっ!』

 

川神側の3-Sを相手に圧勝したのだった。恋する乙女の力は無限―――。

 

「それじゃ、休みの日に!」

 

「一誠くんと何をしようかなー」

 

「やりたいこと、したいことがいっぱいあって悩みます」

 

一誠と言う餌に群がる生物。意味深な視線をリーラに向けても無言のお辞儀をするだけで状況を覆すことはできなかった。


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