HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード40

「ああ・・・・・なんて・・・・・」

 

大勢の子供たちが、神と戦う姿を目に焼き付ける一人の女神がいた。愛を司る女神。

その女神はある特徴的な力があった。―――他者の魂の色を見えることである。

これまで女神は様々な魂の色を見てきた。これからも自分の下に来る魂の色を見て気に入った魂は可愛がるだろう。

 

―――そんな女神は初めて見る魂を見つけてしまった。魂は色で示すのではなく、景色で女神の目を留まらせた。

魂は触れていないのに穏やかにさせる温かさが伝わり、心が広いことを表すように広大な緑の草原、青い空、大海原。

しかしそれでいて、心に闇があるようにどこまでも深い海の底があった。

 

女神はその魂を見て、触れてしまい、感じてしまった。この魂を欲しい―――と。もしも死んでしまったら冥府よりも天界よりも早く掠め取って自分の胸の中で何時までも抱きしめたい。女神を魅了させる魂は戦うのに呼応して輝きが一層に鮮やかになる。

 

「この私を見初めた子がさらに輝きを増した。感じる、私だけしか伝わらないあの子の温もりを」

 

愛を司る女神である同時に美を司る女神でもある女神の微笑みはたまたま見てしまった一人の赤い悪魔を魅了させ、その傍にいた女性が絶対零度の如く睨み、頬を限りなくつねったのは女神は知る由もなかった。

 

 

「火竜の咆哮ぉっ!」

 

「アイスメイク―――」

 

「換装!」

 

桜髪の少年のナツの口から灼熱の炎を吐きだす、黒髪の少年グレイが氷を具現化して攻撃、赤髪の少女、エルザが着込んでいる鎧を別の武装へと変えて戦闘スタイルを変える。見たことない三人の言動を見て金剛、和樹、龍牙、カリンは驚き目を丸くした。ナツの放った火炎が一匹のドラゴンの顔に直撃し、ドラゴンが苦しむ様を窺わせた。

攻撃の効果は効いているのだと認知して和樹がナツに問うた。

 

「キミ、どこから炎を吐いているんだい?」

 

「あ?俺は滅竜魔導師だから普通にできんぞ」

 

滅竜・・・・・魔導師?訊いたことがないと胸の内に復唱する。ドラゴンを滅ぼす魔導師であると薄々理解したが、根本的には理解が追いつけないでいる。

 

「おいナツ。この国のやつらは俺たちの国の魔導師の事なんて知らねぇんだ。説明はこのドデカい蛇みてーなもんを倒してからにしろ」

 

いきなり上着を脱ぎだして上半身裸になるグレイに「何で服を脱ぐんだっ!?」と火が点いたように真っ赤な顔で驚くカリン。

 

「癖だ。気にするな」

 

「変態だ!変態がここにいる!」

 

「変態じゃねぇ。俺はグレイ・フルバスターって名前があるんだよ」

 

「とにかく服を着ろぉっ!戦いに集中ができない!」

 

「これが俺の戦闘スタイルなんだが」

 

うわぁ・・・・・変態だ・・・・・・。さり気なくグレイから―――数メートル離れた四人。

 

「おい、どーしてそんなに離れる」

 

「この国じゃその格好でいると猥褻行為って言ってね。―――犯罪になるんだよ。しかもその周囲にいる人たちまでも(嘘)」

 

「裸になった程度で捕まるのか!?」

 

「「「お前の国ではどんな概念と常識なんだ!?」」」

 

「そうデース!」

 

全員そっちの国では裸で生きているのかと声を揃えて絶句した和樹たち四人に対して、量産型のミドガルズオルムたちが襲いかかる。

 

「グレイ、この国にいる間は人前で服を脱ぐなな。私たちまで捕まってはお前のカバーはできない」

 

「だっはっはっ!グレイだっせー!」

 

「マジかよ・・・・・この国、厳しすぎるだろう」

 

片手に上着を掴んで突っ込んで来る量産型のミドガルズオルムから躱すグレイにナツ、エルザの三人。

気を取り直して戦い始めるのであった。

 

 

 

「悪神の手先!私たちの手で倒してあげるわアーメン!」

 

「一誠くんだけ戦わせはしない。今度は私たちも一誠くんと一緒に!」

 

「ああ、その通りだ!」

 

「絶対に勝つ!」

 

「奴らは素早い、動きを止めてから攻撃するのは妥当だ!」

 

教会組の、リーズをリーダーにしたメンバーは小さい一匹のフェンリル、ハティを取り囲む。

唸り声を上げ、目の前の敵に殺意が籠った眼で睨みつけるハティに攻撃態勢、臨戦態勢の構えになるリーズたち。

最初に動いたのはハティだった。親のフェンリルよりスペックは劣るものの神を噛み殺す牙は健在であり、

口を開けてユウキに迫って前足を振るった時、コントラバスの形をした大きな盾を片腕に装着しているリーズが

ハティの前に移動してユウキに振り下ろされる足を受け止め、防いだ。

その隙にユウキがリーズたちよりも小柄で背が低い身体を駆使してハティの懐に飛び込んでレイピアのように銀色の家に覆われている腹部に目掛けて突き刺していく。その数は十一。そしてユウキは血の滲むような修行をした末に編み出した連撃の技を魂込めて発した。

 

「マザーズ・ロザリオォッ!」

 

十字架を模して容赦のない怒涛の連続突きを果たした。ハティの腹部に深く刻まれ、聖痕のように光る痣ができた。直ぐに安全圏まで退いて真上に掲げた聖剣が光り輝きだす。その光に反応するハティの腹部に刻まれた聖痕。

 

「聖なる光に反応して魔に属する全ての種族にはダメージを与え続ける!」

 

これがマザーズ・ロザリオの真骨頂であった。

 

オオオオオオオォォォォォォォォォンッ!

 

「よし、そのままだユウキ」

 

「今度は私たちも!」

 

「ええ」

 

苦しむゼノヴィア、イリナ、ルーラーも動きだす。全ては神の敵を倒す為、一誠と共に敵と戦う為に―――。

 

一方、リアスたちも奮闘していた。サイラオーグの眷属悪魔を除いて眷属が全員揃っているリアスとソーナ。

フェンリルのもう一匹の子、スコルとサイラオーグを中心に戦闘を臨んでいる。

 

「ふんっ!」

 

悪魔特有の魔力を使わないサイラオーグの拳による打撃は伝説の魔物の子を数メートル先まで吹っ飛ばした。それにはリアスとソーナに二人の『女王(クイーン)』は感嘆、二人の眷属悪魔は驚嘆と唖然となる。

 

「やっぱすげーなあのヒト」

 

「ああ、もしかすれば兵藤とタイマン張れるんじゃないか?」

 

「どの兵藤だ?赤龍帝か?兵藤一誠の方か?ハッキリ言ってくれよ紛らわしいんだから」

 

「両方だよ。てかっ、下の名前を呼ばせてもらえるほど仲が良いわけじゃないんだから仕方がないだろう」

 

「だよなー。俺もそうだけどよ」

 

一成と匙は揃って息を零すと声を掛けられた。

 

「一成、ボーっとしていないでフェンリルの子を倒すわよ」

 

「匙、あなたの力が必要な時なのです。ここで大いに他の眷属の子たちと活躍をして貰わないと困ります」

 

「「はっ、はいっ!」」と自分たちの主の少々厳しい声にそれぞれ力を具現化させた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)ッ!」

 

龍王変化(ヴリトラ・プロモーション)ッ!」

 

「・・・・・・え?」

 

片やドラゴンを模したマントが備えた全身鎧。片や漆黒の炎に包まれながら巨大なドラゴンへと変貌した匙元士郎だった。

 

「えええええええええ!?匙、お前っ」

 

『アザゼル総督にヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)を全部埋め込められた上に会長の指示で俺は兵藤一誠や邪龍にしごかれた上で至った俺の力だ。・・・・・・地獄を見たぜ』

 

驚く一成に匙は自分の変化を告げた。どこか、遠い目で哀愁を漂わせるのは人生の中で死を垣間見た経験をしたからだろう。

 

「ソーナ、あなたそんなこと何時の間に・・・・・」

 

「体育祭の準備期間、裏でイッセーくんに頼んでもらいました。匙の言う通りヴリトラの力を全部埋め込まれましたのでいい機会だと思いまして」

 

「この短期間で彼がここまでの成長を遂げたなんて・・・・・って、イッセーくん?」

 

唖然と親友の下僕悪魔の成長に感嘆を漏らす。が、聞き捨てできない言葉を聞いたリアスだった。

 

「匙!あなたの力を悪神に見せ付けるのです!」

 

『了解しました会長ぉっ!』

 

尊敬する悪魔の主の意図を察して、匙は新たな力をフェンリル、ハティ、スコル、量産型のミドガルズオルムだけじゃなく、ロキまでその猛威を振るった。

 

『なんだ!?』

 

それが戦う者に抱かせた思いだった。あの三匹のフェンリルの動きを完全に動きを封じていた。

 

「くっ!なんだ、この炎は!?動けん!・・・・・・ぬぅ!力が徐々に抜けていっている!?こ、これはあの黒いドラゴンの力か!?特異な炎を操る龍王がいると聞いたことがあるが、まさか、これがッ!」

 

ロキも狼狽している様子だった。

 

「―――おお、匙か。この原因は」

 

リアスとソーナの間に降り立った一誠が呟く。

 

「イッセー、あなた本当に匙くんを強くしたの?」

 

「ん、あいつの中に龍王がいるって言うから興味が湧いてさ。手伝ってやったんだが、ロキの兄さんには完全に封じられないだろう。その間にっと」

 

一つの巨大な魔方陣を展開した。それは発する魔方陣の光と共にアジ・ダハーカを召喚し。

 

「テロリストたちを倒してくれ」

 

『ああ、喜んで相手をして来よう』

 

嬉々としてアジ・ダハーカは翼を羽ばたかせて空へ飛んで行った。

 

「・・・・・テロリストたちの方が可哀想に思ってきたわ」

 

「無慈悲な相手ですからね」

 

今しがた飛んで行った邪龍を見送り、成す術もなく倒されるテロリストに同情すら抱きそうになるリアスにソーナ。だが、相手が相手な為、許すつもりはない。なんせ、ここにもテロリストの魔の手が及んでいるからだ。封殺された魔物たちと変わるようにテロリストと成り下がった悪魔たちが現れているのだ。

 

「匙、お前はフェンリルたちの足止めを専念してくれるか」

 

『言われなくても!でも、大丈夫かよこの数を相手にできるのか?』

 

「お前のおかげで他の皆はフェンリルたちからテロリストに攻撃の対象を向けれるから大丈夫だ。今勝利の鍵はお前が握っているようなもんだぜ?しっかり気張ってくれよ」

 

「・・・・・」

 

自分の下僕悪魔にそこまで言ってくれるドラゴンに転生した少年に感謝の言葉を胸の内で発した。

 

「匙、彼の言う通りです。あなたはあなたしかできないことをやり通しなさい。私の眷属悪魔は目的をやり遂げることができない者などいないのですから」

 

『会長・・・・・っ』

 

激励に感動で浸る匙だった。それが匙のやる気を向上させたのか、フェンリルたちを抑えている炎が一段と増した。

 

『おっしゃー!やぁーってやるぜぇっー!』

 

「・・・・・分かりやすい反応だな」

 

「あなたももう少し分かりやすい子だったら可愛いのだけれどね」

 

「リアス、可愛いな」

 

「っ!?」

 

「ははっ、お前の方が分かりやすくて可愛いじゃないか」

 

戦いの最中にからかい合う二人。戦場で好意を寄せている異性からの褒められる心構えなんてしていないので、

思わず顔を赤くして息を呑んだリアスと言う少女。

 

「匙が魔物たちを抑えている間、俺たちはテロリストを倒しつつロキも相手をしないといけないが、二人は大丈夫か?」

 

「ええ、大丈夫よ」

 

「まだまだ行けます。あなたばかりに任せられませんよ」

 

不敵に戦意を滾らせ、自らテロリストの集団へ赴いた二人の少女を見送り、戦場の戦況を確認する。

―――今しがた、腐っても神の力は匙の力を突破して自由の身となった。他は魔物たちが未だに動きを封じられている。魔物たちと戦っていた少年と少女たちはテロリストへ攻撃の矛先を変えていた。

 

「さて、俺も頑張るとしますか」

 

せっかく封殺しているフェンリルを解放されては元も子もないと思いながらロキに突貫した。

その時、背後から物凄い速さで迫ってくる魔力を感じて振り返った途端、眉間に皺を寄せた。

 

「なんであいつまで・・・・・」

 

敢えて道を譲ればロキに向かって飛行する―――赤龍帝を捉える。

 

「お前の相手は俺だぁっ!」

 

「ふん、赤龍帝か。我は忙しいのだ」

 

マントを広げ自身の影を広大させた。そこから―――また量産型のミドガルズオルムの一団が出現した。

 

「こいつらの相手でもしているがいい」

 

「ふざけんなぁっ!」

 

火炎を吐く、口を大きく開けて迫る量産型ミドガルズオルムの一団を無視してロキに攻撃を仕掛けた。

無視されても量産型ミドガルズオルムたちは執拗に赤龍帝を追い詰めた。

 

「―――邪魔だ、この蛇どもがぁっ!」

 

両手に発現した赤い魔力弾を散弾丸の如くミドガルズオルムたちに向けて放った。応戦する量産型のドラゴンたちの火炎球。魔力弾と火炎球の激しい攻防と衝突、爆発が繰り広げた。性格と態度、素行が悪く、世の中は力が全てだと思っている典型的なアレだった。それでも一誠が誠輝に対する思いと感情を抜きで実力を認めている。

だが―――二つほどの赤い魔力弾が外れてあらぬ方へ飛んで行った。なんとなく目で追っていくとその先にテロリストと戦っているロスヴァイセとセルベリアが映り込んだ。

 

「あんのバカがっ」

 

翼を羽ばたかせて光の速さで魔力弾に追いかけ、二人のヴァルキリーの元に近づきパンッ!と

誠輝の魔力弾を打ち消した。

 

「ひょ、兵藤一誠くん?」

 

「あっ、気にしないで続けて」

 

「え、ええ・・・・・?」

 

呆気に取られるロスヴァイセに未だ戦い続けるセルベリア。

 

「あの、ロキさまの方は・・・・・」

 

「赤龍帝が相手をしている。不本意だけど、一時任せる」

 

「では、共に戦いましょう。フェンリルの方はまだ大丈夫のようですし」

 

「分かった。それじゃ―――」

 

ロスヴァイセの共闘の誘いに肯定しかけた矢先、上空から豪雨のように敵味方関係なく降り注ぐ魔力が。

二人を引き寄せて翼で防いでいく。

 

「これは、ロキさまのっ」

 

「うわ、テロリストたちが次々と勝手に倒れて良い意味で誤算だな」

 

「待て、フェンリルたちを抑えている者もこの攻撃を受けているということは」

 

セルベリアの発言で一誠とロスヴァイセが「はっ」と何かに気付き、衝動的に駆られある場所へ視線を向けた。

 

『ぐっ、ぐぅうううっ・・・・・!』

 

黒い炎のドラゴンが全身にロキの攻撃を食らっていた。更に他の味方へ視野を入れると味方や自分自身を守るのに精一杯でいる。神の威力は疑似空間の風景や地形を変えてしまうほどだった。

 

「匙!」

 

ついに、一誠の目の前で黒い炎のドラゴンは倒れ―――最悪の事態、封殺していた魔物が解放してしまい自由の身と成った。

 

「さぁ、我が子らよ!まずはお前たちを封じ込めていたドラゴンを噛み砕け!」

 

三匹のフェンリル、量産型のミドガルズオルムたちが一斉に匙へ襲いかかった。ロキの考えは理解できる。

再び封じられる前に倒しておこうという魂胆だろうと一誠はロキの攻撃が止んだ瞬間に

匙へと転移式魔方陣で移動し襲いかかる魔物に迎撃態勢と入る。

 

『ひょ、兵藤・・・・・!』

 

またフェンリルにやれるぞ!っと込めて目で訴える。青白い十二枚の翼を生やす少年の背中を見るだけしかできないでいる匙に「頑張ったな」と称賛した。

 

「ソーナ、これを匙にやってくれ」

 

亜空間から取り出した高級そうな瓶。ソレを魔方陣で介して直接ソーナに渡した。

渡された物を理解し、一誠と匙から離れているソーナは直ぐに行動を開始した。

迫りくる伝説の魔物に対して同じ轍は踏まないと気持ちでいた一誠は―――。

 

「ナツゥッ!」

 

「おうよぉっ!」

 

誰よりも早く動き、あの攻撃の雨の中をここまでは知ってきた驚異的な行動力を示した一人の友人に呼びながら

一誠はフェンリル、ナツは量産型ミドガルズオルムに攻撃を仕掛けた。ハティとスコルを止める者はいない。

このままでは匙が神を噛み砕く牙の餌食となってしまう―――とその思いが覆らす出来事が起きた。

 

約束された(エクス)―――」

 

どこからか声が聞こえてきた。さらにこの疑似空間に光の一筋が現れ、

 

勝利の剣(カリバー)ァッ!」

 

膨大な極光の斬撃がスコルを呑みこみ、『Divid!』と音声と共にハティは光に弾かれた直後、

 

「にゃん♪」

 

「デカくなれ、如意棒ッ!」

 

「取り敢えず凶悪な爪と牙を斬っておきましょうか」

 

体勢を立て直したハティの足元が底なし沼と成り、身動きが取れずにいた矢先、目や爪、牙を抉り、削ぎ落された。

 

「はいっ!?」

 

ハティとスコルに攻撃した光景はとても見覚えがあった。フェンリルを殴り飛ばした後にとある方へ顔を向けた。

 

「久し振りだね一誠。その姿はなんだ?いや、とても格好良いからいいけど」

 

「復活したんだねぃイッセー!さっすがオレっちが認めている男だぜぇいっ!」

 

「お久しぶりー♪今度こそは逃がさないわよ?」

 

「息災でなによりですね兵藤一誠」

 

白い龍を模した全身鎧を装着している少女を含め四人の男女が朗らかに一誠へ話しかける。そしてもう一方に視線を向けると。

 

「・・・・・」

 

今手元にない聖剣を持っている金髪の少女がいた。スコルは先ほどの極光の斬撃で影も形もなく屠られたようだった。

 

「ヴァーリ、銀華、美猴、アーサー・・・・・モルドレッドまで・・・・・」

 

ヴァーリチームと英雄派!?と驚きの声が聞こえてくるが当の本人たちはさも気にせず、声を掛けてきた。

 

「突然割って入るような真似をして済まない。フェンリルは私たちに任せて良いか?」

 

「というかヴァーリはフェンリルを欲しがっているにゃん。ここは共闘ということで一緒に戦いましょう?」

 

「そーそー。困惑しているだろうけどさ。ここは素直に柔軟な考えで行こうぜぃ?」

 

「よろしいですね?」

 

いきなり現れて突拍子的な展開となった。ヴァーリがフェンリルを欲しがっている。その理由は分からないがもう一人の幼馴染とその仲間まで加わるということはとても心強い。

 

「ロキと戦わないのか?」

 

「一誠が一緒に戦って欲しいというなら喜んでやろう。フェンリルはアーサーたちだけでも十分だしな。こちらも色々と用意してきた。勿論助っ人もだ」

 

「助っ人?って、話している場合じゃないそうだ」

 

フェンリルが牙を剥いて一誠たちに襲いかかった。だが、銀華が魔方陣を展開して、地面から巨大で太い鎖が出現してくるのと同時に三つの影が現る。

 

「―――あの鎖は、あいつらは・・・・・」

 

「魔法の鎖、グレイプニル。フェンリルを捕縛する為の魔法の鎖だ。そして『彼女』たちは一誠が良く知っている人物だと思うけど?」

 

笑みを浮かべるヴァーリや銀華たちを始め、三人の女性たちが掴み、フェンリルの方へ投げつけた。

 

「ふはははははっ!無駄だ!グレイプニルの対策など、とうの昔に―――」

 

バヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

ロキの哄笑空しく、魔法の鎖は意志を持つかのようにフェンリルの身体に巻き付いていく。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオンッ・・・・・・!

 

巨大な狼が苦しそうに悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「―――フェンリル、捕縛完了だ。アーサー」

 

「ええ、先に戻っていますよ?」

 

事を早く終わらせようという雰囲気を醸し出せるヴァーリ。アーサーが最後の折れたエクスカリバーを手にして

フェンリルの額に躊躇もなく突き刺したと同時に転移式魔方陣でこの場からどこかへ離れ行ってしまった。

 

「おのれ、白龍皇っ!」

 

横やりを食らい尚且つフェンリルを奪われた事実に怒りを抱いた悪神。

 

「悪神とはいえ神の一柱。相手にとって不足はでない」

 

「我が子を返すがいい!」

 

ハティと量産型ミドガルズオルムを嗾ける。だが、横から三つの影が飛び出してハティを吹っ飛ばした。

 

「・・・・・なんだか、今日は久し振りに顔を見る人が多いな」

 

「お前のことを話したらついてきてくれたぞ。愛されているな一誠。私も愛しているがな」

 

「ありがとう。やっぱり持つべきものは幼馴染や家族だな」

 

三人の女性が一誠の前に近寄った。

 

「おお、髪の色が違うがイッセーじゃ!久し振りじゃの!」

 

「わちらのこと覚えておるか?」

 

「覚えていないのであれば減点だ」

 

幼女と女性が親しげに一誠と言葉を放った。幼女の二人は双子のように顔が似ている。

そして女性の方は特徴を強いて言えば耳が人間より長細い。彼女はエルフである。

 

「ユーミル、エイリン、アレインのお姉さん。久し振り」

 

「「うむ!」」や「百点だ一誠」と三人は嬉しそうに再会の喜びを感じた。

 

「でも、どうしてここに?秘境の地で暮らしていたはずなのに」

 

「お主の幼馴染―――恋人と言う白龍皇が『一誠の為にグレイプニルを作って欲しい』と懇願されての」

 

「父上は白龍皇の事情と気持ちを汲んで作ってやったのじゃ」

 

「私は森の無法者を制裁しに襲ったらお前の幼馴染の証拠を突き付けられ、それから流れ的にここまでついてきた」

 

なるほど、わかった。でも―――俺はヴァーリと恋人同士ではないんだが?ジトーとヴァーリに見詰める一誠に対し、鎧で表情が見えないヴァーリは一誠に表情を見れないことをいいことにドヤ顔を浮かべていた。

 

「・・・・・兵藤一誠」

 

モルドレッドがズイっと剣を突き出した。

 

「預かっていたこれを返す」

 

「いいのか?このままお前の物しても奪い返す予定だったんだが」

 

「話が違うだろう。オレがお前を倒した暁に奪うと」

 

「お前を倒してもいないのにこの剣を持つオレは不相応」だと律儀な性格であるモルドレッド。

モルドレッドと剣を交互に見た後、受け取った。

 

「ありがとう。お前はいい女だな」

 

「オレを女と言うな!」

 

「その女の証であるメロンを備えて良く否定できるわねぇー?」

 

銀華がツンツンとモルドレッドの胸を突いた。「あんっ」と艶のある声を発した。

 

「あら、胸が弱いの?可愛いにゃん」

 

「う、うるさいこのセクハラ猫女!」と自身の胸を両腕で庇うように押さえるモルドレッドに「それ、悪口言っているつもり?」と呆れ気味な銀華の様子を視界に入る。

 

「久し振りに戻ってきたな」

 

コツと自分の額に剣の腹を当てて家族のように声を掛ける。それからしばらくそうしたままでいる一誠は剣を構えた。

 

「さて、そろそろ終わりにしようか」

 

身構える。両足を力強く地を踏みしめ、剣を上に掲げ―――。

 

「一世一代の大技を放つとしようか!もう二度と振るえないだろう神の力を!」

 

全身に闘気、魔力、神力を迸らせ充電するかのように力を刀身に溜め続ける。

 

ビリッと肌に突き刺さる刺激を感じたロキ。見下ろせば、見覚えのない神格の波動を放っている一誠が視界に映り込み、巨大な力を放とうと力んでいるのが窺えた。既に量産型のミドガルズオルムは殆ど倒され尽くし、ハティも

追い詰められ今しがた倒されていた。優勢だと思っていた、有利だと思っていた。なのに、あの兵藤一誠と言うドラゴンの存在で次から次へと力が集い、ロキの戦力が削がれた。これではオーディンを殺めることができない。

ロキは空中高く浮かび上がった。退却をする為に。

 

「ちょいと待てや!」

 

赤龍帝が追いかけてくるのを察知し、魔方陣を展開して最大火力の一撃を極限まで圧縮し、矢のように放てば

あっさりと赤い鎧を貫き、爆発に巻き込まれた。

 

「赤龍帝か。だが、無駄だな。我は一時退却する。ふははははは!しかし、再び我は訪れて混沌を―――」

 

邪魔者を倒した後、空間を歪ませて撤退を目論んだロキの頭上から轟音と共に雷光が煌めき、特大の一発がロキを包みこんだ。

 

「逃がしませんわ」

 

大和撫子風なポニーテールの少女が堕天使の翼を出してバチバチと手の平には漏電がしていた。

大したダメージではなかったが身体の機能が麻痺したかのように魔力ですら思うように扱えなくなった。

 

「な・・・・・何をした!」

 

煙をあげ、落下するロキに

 

ゴオオオオオオオオオオオオゥッ!

 

黒い炎が再びロキを包み込んだ。それは黒い龍王の炎であることを認知し、驚きの言葉を出した。

 

「バカなっ!一度は解いた炎の結界のはずだ!」

 

『神さまに集中できるようになったからな!さっきよりもそう簡単に解かされてたまるかってんだっ!』

 

傷が癒えた匙が吠えた。

 

『・・・・・やれ、一誠っ!』

 

最後はお前がトドメをさせとばかり促した。ロキは見た。全身が黄金に包まれ、更にそれ以上の輝きが一点に集中しているのを。そこに神の力が全て注ぎ込まれていることを。一誠が真っ直ぐロキを見据えていることを。

 

カッ!

 

一誠の姿が見えなくなるほど輝きが増し腕を下に振り下ろしたと思えば、

 

「シン・エクス―――カリバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

大気を震わせ、周囲に放電しながら巨大な顎を大きく開きロキに迫る巨大な雷の龍が出現した。

 

「見覚えのない神の力が宿った雷の龍・・・・・っ!!!!!」

 

赤い目が意志を持つかのようにロキを睨み、開けた顎を覗かせた。黒い炎をあっさり吹き飛ばし、自由の身となってもロキは身体が石化しているかのように動かず、さっきの仕返しとばかり雷龍の牙に噛まれ、噛み砕かれる。

 

「世界は、あのようなイレギュラーな存在を許すというのか・・・・・?あの者がいるだけで・・・・・力は集う・・・・・。今後もそうなるのならばアレは世界にとって・・・・・・」

 

それだけ言い残して、ロキは完全に意識を失った。

 

―――○●○―――

 

体育祭は中止となってしまい、普段よりも早く全校生徒は親御と共に帰宅をした。

ヴァーリたちやモルドレッドは戦いが終わるや否や、さっさと姿を消した。

その後。協力して戦いを臨んだ面々に神々を代表してオーディンが自ら勲章を与えていた。

この中で一番功績を残した―――匙に他の誰よりも高い勲章を与えられた。

 

「な、なんで俺なんすか?」

 

「お前さんは二度もロキのバカ者を封じたんじゃ。倒すことよりもとても大変なことをしたその働きを称えるのに何を戸惑う」

 

「い、いや、最後に倒したのは兵藤一誠なんだし。寧ろあいつにそれを・・・・・」

 

「お前が止めてなければロキの兄さんには逃げられていた。最後はお前のおかげなんだよ。というか、俺はあんまり戦ってないから勲章なんて貰える立場じゃないはずなんだけどな」

 

苦笑いを浮かべ、そう言うがオーディンに「孫も十分頑張ったじゃろうが」と一蹴された。

気を取り直し匙に話しかける。

 

「と言うわけじゃ。受けとれぃ。それとも神々の前でわしに恥を掛かす気かのぅ?」

 

「い、いえ!?よ、喜んで承ります」

 

「始めからそうしてればよいんじゃよ。欲深くない青い悪魔じゃて」

 

呆れつつ焦る匙の胸に位の高い勲章を与え付けた。

 

 

 

「よかったじゃないか匙」

 

「あ、ああ・・・・・今でもこれを貰っていいのか戸惑っているんだか」

 

「貰えるもんは貰っておけ。奪われない物なら尚更だ」

 

「兵藤、お前・・・・・」

 

「おい、フルネームはともかく家名で呼ばれるのは嫌いだ。あん時のように一誠って呼んでいいんだぞ?」

 

匙に笑い掛ける一誠がそう言う。まるで自分を友人のように接してくる有り得ない存在にやはり動揺する匙だった。

 

「て言うか呼べ。いいな。ソーナだってそう言っているんだし」

 

「命令口調か!・・・・・ソーナ?」

 

「呼び捨てで呼んでくれって言われているからな。ああ―――恋愛感情は無いから大丈夫だからな」

 

さらっと最後に声を殺してとんでもないことを口にする匙の肩に手を置いた。そして次の発言。

 

「―――まぁ、頑張りたまえさっちゃん」

 

「誰がさっちゃんだぁっ!?」

 

「可愛いじゃないですか。これからそう呼びましょうか?さっちゃん」

 

「か、会長までェッ!?」

 

『さっちゃん・・・・・。くっ・・・・・!』

 

「うおぉーい!?副会長とお前らまで!て言うか、今笑っただろう絶対に!?」

 

匙が叫び喚く。それが笑いの種となり、周囲から苦笑や笑いの声が聞こえてくる。

それから神々は一人一人、一誠たちに別れの挨拶をして自分の世界、領域に帰っていくのを一誠と誠、一香が見送る。

 

「驚いたなぁ。一誠お前、何時の間にい世界の神と交流していたんだ?」

 

「いや、一方的に話しかけられただけでなんかおかしなことを言っていたんだ」

 

「何を言われたの?」

 

二人に告げた。自分が異世界の神々に物語を観させる義務があるのだと。

 

「・・・・・一誠の物語、一誠のこれからの人生を娯楽の感じで見る為か?」

 

「助けてくれたことに関しては感謝するけれど、人の息子の人生を何だと思っているのかしら」

 

「「ちょっと、その神と話をしなくては・・・・・ふふふっ」」

 

転生を司る神ミカル。とんでもない二人に目を付けられてご愁傷様と念を抱かざるを得なかった。

黒い笑みを浮かべる自分の両親を見ていると背後から華奢な腕が回されたと同時に背中が柔らかい感触が伝わる。

 

「あら、フレイヤ・・・・・どうしたの?」

 

警戒心を剥き出しにする一香。隣にいる誠も不思議そうに声を掛けた。

 

「フレイヤさま・・・・・?―――イデデデッ!?み、耳を引っ張るな一香。魅了されてないから安心してくれっ!」

 

「フレイヤさま―――?既に魅了されているじゃない!誠のバカぁッ!」

 

いきなりこの二人は何をし出すのか怪訝な目で自分を抱きしめている女神に振り返った。

目が合うと途端に恍惚とした顔で自分を見詰め、熱い息を零した。

 

「はぁ・・・・・」

 

何かを達成したかのような吐息ではなく艶めかしい吐息だった。一誠の顎や頬、頭など優しく撫でて

愛おしく、子供を可愛がるような手つきで触れ続けるフレイヤ。

 

「フレイヤお姉ちゃん・・・・・?」

 

「成長したわね。ええ、ますます・・・・・」

 

慈愛に満ちた表情で一誠の頬を添える。フレイヤは一誠を、一誠の魂を見て感じている。直で伝わる体温よりも一誠の魂が放つ温もりと景色をだ。ロキの一戦以降、ますますフレイヤを魅了させるほど魂は成長したのだ。

機を見て直で触れたい渇望を果たした美の女神はジーッと目の前の少年を見詰める。

 

「―――可愛いくなっちゃって」

 

「そっち!?もうあの恰好じゃないんだけど!」

 

フレイヤの言葉で仰天し、あの時の格好を思い出したのか顔を紅潮させた。すると、魂が見せる景色が秋の季節のように紅葉だらけになった。山が朱に染まり、照れているかのような感じが今の一誠に呼応しているようだ。

ますます面白く、もっとこの魂を自分の近くで見てみたいという思いが強まった。視線を変え、誠に微笑みを浮かべ問うた。

 

「兵藤誠殿?」

 

「うぐっ、な、なんだ?」

 

美の女神の微笑みを間近で見て顔を赤らめる誠は必死に魅了されないと堪えつつ返事をした。

隣で殺気立つ一香にこれ以上怒られない為にフレイヤの顔を見詰めながら言葉を待った。

 

「私のお願いを聞いてくれたらとても嬉しいのだけれど。心の広いあなたなら受け入れてくれるわね?」

 

「な、内容次第では・・・・・」

 

「本当?」

 

向日葵のように顔を明るくして誠に笑みを向けたら「本当です!」と元気よく変じた矢先、殺気が濃くなった。

顔を若干青ざめ、震えだす一誠を安心させる口実を得て胸の中に抱き寄せるフレイヤは懇願した。

 

「それじゃ、私の願いを言うわね?」

 

 

 

 

 

「おい、本当にお前はここに残るつもりか?」

 

「ああ、前からマスターには伝えていた」

 

「お前がいなくなるとギルドが盛り上がらなくなるなー」

 

「私の姉がいるから問題ないだろう?なに、私の力が必要になったらコレで連絡してくればいい」

 

「そうか、まっ、どこにいようが俺たちの関係は何も変わらない」

 

「そうだな!お前がいない間に俺たちはもっと強くなってやるぜ!」

 

「それは私も同じだ。私がいなくなった穴はお前たちで塞いでくれ」

 

「「ああ、分かった」」

 

 

 

「返して良かったのかい?」

 

「オレなりのやり方で手に入れるんだ」

 

「キミがそう言うならもう何も言わないが、あんまり彼らと独断で接触し続けると危ないから気をつけなよ」

 

「分かってる。裏切るつもりはない」

 

「ならいい(だが、キミの本家は裏切る。さて、どうなることやら)」

 

 

 

「異世界の神を呼び寄せるたぁ恐れ入れるぜ。なぁ、ヤハウェ?」

 

「彼の何かがそうさせたのでしょう。ですが、それが分からない。それにまだ動きを見せない他の派閥のテロリストも気になります。アザゼル、こちらも動かないとダメかもしれません」

 

「わーってるよ。しかし、ガブリエルはよく暴走しなかったな。一香とてっきりヤリ合うのかと冷や冷やしていたんだが」

 

「彼の写真を大量に得たからではないのでしょうか?」

 

「・・・・・堕天仕掛けやしないか?」

 

「愛情ですので問題ありません・・・・・失礼。・・・・・なんですって?」

 

「どうした?」

 

「・・・・・ガブリエルが彼に会いに行くと下界に行きました」

 

「一香に見つかる前に急いで連れ戻せ!?」

 

―――○●○―――

 

「オー爺ちゃん、話って何?」

 

「孫と話をするのに理由は必要かの?」

 

「俺を誘ったのはオー爺ちゃんでしょ」

 

「そうじゃ。じゃからこそお主と話をしたかったのじゃ」

 

巨大な馬と繋がれている馬車の中にオーディン、大好きな老人と馬車の中で言葉を交わす一誠の前で

白い髪に覆われた頭が垂れた。

 

「すまんかった。孫の初めての運動会であっただろうにロキのバカ者に滅茶苦茶されてしまっての」

 

「謝らないでよ。それにまだ海で運動会をするイベントがあるんだ。そっちを楽しむよ」

 

「ほほう。面白そうじゃのー」とオーディンは髭を擦りながら相槌を打った。

 

「・・・・・修行をしにユグドラシルの場所で最後に会ってから見ない間に大きくなったもんじゃ」

 

「ドラゴンでも成長するんだよ。俺も未だに不思議でいるけど」

 

「ミドガルズオルムのように寝てばかりではいかんぞ?楽しいことが世界中で起きておるのじゃからな」

 

優しげに話してくるオーディンにコクリと口元を緩まして頷いた一誠。

 

「さて、わしを守ってくれた孫に良い物を授けよう」

 

「勲章だけじゃなかったの?」

 

「ふふふっ。まだ孫が小さい時、ワシの敵を倒してくれると言ってくれたのを覚えておるか?それを現実にしたのじゃからワシのささやかなプレゼントじゃ」

 

オーディンの手が広げると一瞬の閃光が迸り、複数の羊皮紙が一誠の前に発現した。

 

「巻物?」

 

「北欧の主神たるワシ直々の直筆で書いた―――兵藤一誠の勇者公認記録とロスヴァイセ、セルベリア・ブレスに渡して欲しい羊皮紙じゃ」

 

ソレを受け取って一つの巻物状に巻かれた羊皮紙を広げると一誠の顔と北欧の文字、判子が押された痕が記されていた。

 

「俺が勇者・・・・・?人間じゃない、ドラゴンなのに?」

 

「異例中の異例じゃが、今回の活躍と孫と交流を持っている他の神話体系の神々からも既に了承を得ておるわい。

それどころかお主の戦いぶりを見ていた女神たちから強い希望だったことが大きい」

 

「よかったのー」と何故かいやらしい目つきで言われると次は一誠に質問をした。

 

「孫よ。勇者とはなんだと思う?」

 

「勇気がある者、って感じだけど」

 

「では英雄とは?」

 

「才知・武勇が優れた常人にできないことを成し遂げた人のことを差している言葉、概念だよね?」

 

そうじゃな、と何度も首を振るオーディンの意図を理解できない一誠は首を傾げる。

 

「じゃがな、勇者や英雄などこの地球上に生きている人間たちが戦いでもなくとも誰でもなれる可能性が秘めておる」

 

「うん、そうだね」

 

「ならば、人間と異なる身体能力が高いであろう異種族でも勇者や英雄になれるのはずじゃろ?勇者と英雄と言う概念は主に全て人間という生き物が過去、古に自分より格上の相手に自分を賭して、命を懸けて挑み、人々を救ったりした結果で生まれた。

それは時々ワシら神々もその功績と戦績、評価を称えていて、陰ながら力を、手を貸したりもしたからでもある」

 

過去を懐かしみ、現在を楽しんでいる北欧の主神だけでなく神話体系の神々自身も様々な経験をして生存している。

 

「今まで生きてきた中で神に挑んで勝利した者たちは孫たちが初めてじゃ。この先ももしかすればどこかの神とも戦うかもしれない。用心するんじゃぞ」

 

「また神と・・・・・?」

 

「世界の覇権を狙っているのは三大勢力だけでないということじゃ。いや、もしかすれば今でも人間共は・・・」

 

言いかけた言葉を「何でもない」と横に首を振ってはぐらかした。

 

「それじゃ、ワシは帰るとするわぃ」

 

「え、帰るの?」

 

「うむ、先に帰った北欧の者たちを待たせておる。さっさと帰らんとうるさくて敵わん。『何時まで孫と一緒に!ズルい!』とかな」

 

苦笑を浮かべる。口では絶対に言わないが爺バカなのだこの北欧の主神は。一誠はふと気付いた。

 

「ロスヴァイセとセルベリアは?」

 

「置いておく。なに、その理由はその羊皮紙に記してあるから心配せんで良いからの」

 

「なら、フレイヤお姉ちゃんも連れて来ようか?」

 

「いや、あの自由奔放は勝手に帰ってくるじゃろう」

 

それから一言二言三言と話を交わした後、オーディンを乗せた馬車は空に向かって駆けて行った。

 

「また会いたいなー」

 

「きっともう一度会えますよ」

 

そう答えたリーラ。ずっと場所の外で待機していた一誠の愛おしいメイドであり女性。

羊皮紙を持つ一誠に訊ねると、嬉しそうに一誠は言った。

 

「リーラ、俺、勇者になったよ!」


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