HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード39

『うふふ』

 

「・・・・・」

 

一誠の姿を記憶に残したいが為にガブリエルを筆頭に女性天使や女神たちが代わる代わるのツーショット写真を繰り広げていた。

 

「一誠、撮られる度に泣きそうな顔をしてるわね」

 

「姿が姿だからな。逆にあの者たちが面白がっているのも明白なのだが」

 

「一誠くん、ごめん、とても可愛いです」

 

「凄いギャップね・・・・・」

 

「あの光景も凄まじいのですが」

 

一誠と交流を持っている面々がグラウンドの一角に集って黄色い声が聞こえてくる場所へ目を向ける。

撮影会が始まってもう十分が経過しているのにまだ続いているのだ。撮影だけでは終わらないのか、人形のように抱き絞め、雑談も交わす。

 

「・・・・・そろそろ彼と話をしたいのだけれど、相手が相手だわ」

 

自分の立場の非力さに嘆息する。好意を抱いてるが格上の女性たちに啖呵を切るほど肝が据わってない。

勢力の悪化も避けたい故に手を拱いている。そんな時、リーラたちのもとに四人の男女が近づいてきた。

 

「やぁ、元気かな?」

 

「一誠のお父さまとお母さま!」

 

『っ!』

 

好意を抱く異性の両親に反射的な行動を示す少女たち。が、誠が手で制して動きを止めさせた。

 

「そのままでいいって。んで、俺の息子は既に牝の狼の群れに群がられているようだな・・・・・くくくっ」

 

「可愛い姿をちゃんと撮れて良かったわ♪」

 

自分の息子の現在の状態に面白がっている両親に何とも言い難い心情でいる。

 

 

『父さんと母さん?助けてー!』

 

『あら、もうちょっと私たちといましょうよ?』

 

『久し振りにお姉ちゃんとお風呂でも入りましょうか?』

 

『じゃ、私は一緒にお布団の中で・・・・・いやん♪』

 

 

食べられかけていますけど!?いいんですかご両親!?と誠と一香に目を向ければ、なんとでもなさそうにスルーする親子だった。そしてここに他の勢力の者たちがやってくる。

 

「おー、やってくれやがったなこの野郎」

 

「お久しぶりですねお二方」

 

「息災でなによりね」

 

「アザゼルにミカエルにルシファー」

 

友人に笑みを浮かべ手を上げて出迎えた誠に対しアザゼルは愚痴を漏らす。

 

「神話体系の神々を呼ぶなんてなんてことをしてくれやがった。こっちは対応と対策を考えるのに苦労するんだぞゴラ」

 

「ハッハッハッ、反省はしない!でもよ、自分の世界という殻から飛び出してがん首揃えてワイワイと楽しんでもらえれば協力の関係の姿勢だってできやすいんじゃねーの?」

 

「・・・・・お前、まさかそんなことを考えて・・・・・・」

 

ふざけた行動には真剣な考えがあったとは・・・・・アザゼルだけでなく、ミカエルやルシファーが感嘆した。

しかし、誠は首を横に振った。

 

「いんや、それはついでだな。本当の目的は一誠の成長した姿を見てもらいたいだけだ。まぁー?」

 

女性陣にもみくちゃされている一誠を見て笑う。

 

「あんな姿を見せられちゃ、格好良い姿を見せられないけどな」

 

「あの姿になるようにフォーベシイに頼んで正解だったわね」

 

とんでもない言葉が二人の口から出て「お前らが原因か!」とアザゼルがツッコンだ。

 

 

「・・・・・や、やっと解放された」

 

最終的にリーラの手で救われた。ゲッソリと疲れた表情を見せる一誠に憐れなと同情を抱かざるを得なかった。

 

「よっ、良い思いができたか?」

 

「逆に疲れたよ!呼んだのにどうして来てくれなかったのさ!」

 

「「楽しんでいたから」」

 

「うううっ、リーラっ」

 

涙目になってリーラに縋りつく。若干非難の視線を誠と一香に送りつつ慰める一誠のメイドに羨望の眼差しを向ける女性陣。

 

「いっくん、可愛い姿だね」

 

「なんでしょうか。この胸の奥から湧き上がる何とも言えない気持ちは」

 

目を輝かせる一誠の幼馴染、悠璃と楼羅。

 

「それは萌えね!」

 

「萌え・・・・・ああ、萌えですか・・・・・」

 

「楼羅?そっちの道に歩んじゃいけないと思うんだけど!?」

 

危惧する一誠の声が聞こえていないのか、恍惚と一誠を見詰めるばかりの楼羅だった。

 

「さて、俺たちも飯にしようぜ」

 

「そうね。すでに宴会気分で盛り上がっているところもあるし」

 

近所迷惑もいいところな程、盛り上がっている一角が。二人の催促に一誠たちもようやく盛り上がりながら昼食を始めた。その最中、神や女神、妖怪、同級生など話しかけられる。

それが主に一誠な為、笑い、呆れ、驚きの感情をコロコロと浮かべ対応する。

 

 

『お腹一杯食べて元気も出てきたところで午後の部を始めたいと思いますナウド・ガミジンでございます!』

 

アナウンスの放送に耳を傾け、午後の部の競技を始めようとする。

 

『最初の競技は―――玉入れです!では皆さん。それぞれのポジションについてください!』

 

悪魔、天使、堕天使、無所属の陣営は背の高い棒の先端に籠が設置されている周囲に置かれている大量のカラーの玉の前に立ったところでスタートを待つ。

 

『それでは天使、堕天使、悪魔、無所属、全員参加の玉入れ競技のスタートです!』

 

アナウンスの掛け声と共に地面の玉を大量に広い、かごに向けて放っていく。―――のはずだが、

 

「兵藤家どもに光を投げろォォッ!」

 

チュドォォォンッ!

 

「今までの恨みっ!」

 

ドォォォォォォォンッ!」

 

「今年こそは勝つぞ、こんちくしょうがぁぁぁっ!」

 

「「「兵藤家の奴らに集中攻撃じゃあああああああっ!」」」

 

ドドドドォォォォォォオオオオオオンッ!

 

「玉入れなんてやってられるかァッ!」

 

「兵藤家に攻撃しやがったことを後悔させてやる!」

 

「迎え討てぇっー!」

 

各所で炸裂音が鳴り響き、玉入れそっちのけでバトルが始まってしまった。

会場は呆然としているのかと思えば、逆に煽ぎの声が聞こえてくる。

この状況を心から見て楽しんでいる様子だった。

 

『コラーッ!人間相手に攻撃するんじゃない!今までどれだけ鬱憤や恨みを抱いているんだお前たち!兵藤家のキミたちも堂々と攻撃しない!』

 

この状況と状態を見て、現兵藤家当主の男は物凄く嘆息したのは別の話であった。

 

「パチュリー、お前の気持ちが良く分かったよ」

 

「そう、それはよかったわ」

 

攻撃に参加していない数少ない味方の一人と話し合って白い玉を籠の中に放っていく。

 

 

玉入れは当然と言うべきか中止となった。乱闘なんて競技は体育祭には無く、敵意が帯びた疑似空間の中でさっさと次の競技に事を進めるアナウンサー。

 

『次は障害物競走です!』

 

障害物競走、参加する予定だった競技に動き出す。どんな障害物が自分たちを阻むのか緊張の色を浮かべる他の参加者たちの顔色を一瞥して最初に走る一誠はスタートの合図を待った。

 

『位置について、よーいハルマゲドーンッ!!!』

 

ここにきて変わった合図が発せられた。グランドを駆ける一誠たちに様々な障害物が阻むものの、軽やかに苦もなく越えていく一誠に続く三人の選手。そんな四人の前に新たな障害物が阻む。歪む空間からヌッと顔を出したのは

 

―――幻想的なほど、銀色の毛並みが綺麗な巨大な狼。

 

一誠たちはその巨大な狼の姿に唖然と見惚れ―――

 

 

「一誠!その狼に近寄るな!」

 

 

アザゼルの必死な制止の呼び掛けと同時に狼の前足が薙ぎ払われた。その刹那の間、一誠は選択を迫られた。自分だけ逃げるか、自分を犠牲にして他者を守るかを。巨大で鋭利な爪が迫る。万物をも引き裂くことができそうな爪。改めて狼を見ればプライミッツ・マーダーよりプレッシャーを静かに滲み出している。感情の色が見えない眼と爪と同じ鋭利な牙。

 

「(やるしか、ないっ)」

 

今さら退避は難しい。考えれる限りの防御をした。歪ませた空間から数多の鎖で、腰から生やす九本の狐の尾で、背中から金色の十二枚の翼で他の三人も加えて狼の爪を防いだ。が―――。嘲笑うかのようにまるで、一誠の防御を、真龍の肉体を紙のように引き裂いてみせた。

 

「・・・・・やっぱり、だめか。でも」

 

目の前で自分の鮮血が宙に走る様を目にしながら一矢報いたいと数多の鎖を狼の全身に縛り付けた。しかし、狼が強引に拘束を破って生え揃う凶悪な鋭い牙を一誠に覗かせた。そして―――。

 

バグンッ!!!!!

 

肉に牙が突き刺さる鈍い音を他人事のように聞き、全身に一拍遅れて激痛を感じた。

 

「ぐはっ!」

 

未だ幼女の姿でいる一誠の身体を完全に貫いている。一誠の鮮血がフェンリルの口元を赤く濡らす。

 

「いっせえええええええええええええええええええっ!」

 

悲鳴が疑似空間に響き渡る。

 

 

 

予想だにしない『敵襲』にアザゼルたちは動揺を隠せなかった。不意を突かれ、攻撃を受けた一誠が敵の牙に掛かってしまった。

 

「あれは、フェンリルッ!?なぜこの場に!?」

 

「それ以前にあいつを、一誠を―――!」

 

あのままでは死んでしまうと誰かが発した時、―――神々が動いた。

 

「孫を放さんか」

 

「神の雷を食らうがいいぞ」

 

「その子を放しなさい!」

 

「HAHAHA、流れ的にやったほうが面白いか?」

 

「おんどりゃあああああっ!」

 

理不尽な神々の一撃が一匹の狼に振るわれた。女神ですら便乗してフェンリルに直接攻撃をしていたほど、一誠は神々に愛されているのだと明らかにされた。

 

 

ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!?

 

 

フェンリル、神喰いの狼と称されている伝説の魔物。神をその牙で噛み砕くことができる有名な狼。それが今、逆に屠られようとしていた。フェンリルが一誠を解放すると何かに弾かれたように後退した直後、宙に歪みが生じて一人の黒いローブを身に包んでいる男性が現れたことで一斉に警戒する三大勢力のトップたち。

 

「はっじめまして、諸君!我こそは北欧の悪神!ロキだ!」

 

マントをバッ広げ口の端を吊り上げて高らかに自己紹介を述べた。解放され、地面に血の海を作る一誠に駆け寄る面々を余所でグラウンドにいる全校生徒、教師、親御、三大勢力、神話体系の神々の視線を一身に浴びるロキは紳士のような立ち振る舞いで喋り出す。

 

「楽しい催しの最中、我と我の子の突然の来訪に許しを乞いたい。だが、我には成すべきことがある故、目的を果たせば直ぐ去ることを誓おうではないか」

 

ロキの言い分を聞き、アザゼルが口を開いた。

 

「これはロキ殿。確かあなたは兵藤誠と兵藤一香に誘われていたとは思っていたのですがな?遅れてやってきたのであればまだ―――弁解の余地は効きますが?」

 

アザゼルが冷静に問いかける。ロキは腕を組みながら口を開いた。

 

「確かに我も誘われた記憶はある。だがしかし、この催しよりも我は我が主神殿が、我らが神話体系を抜け出て、我ら以外の神話体系に接触するのが耐え難い苦痛でね。我慢できずに楽しい催しごと邪魔をしに来たのだ」

 

悪意前回の宣言。グラウンド中にざわめきとどよめきが生じ始めた。フェンリルを前にしても他の神話体系の神々は冷静に、平然とした態度でロキを見上げている。

 

「HAHAHA!こいつはとんでもねぇー見世物が見れそうだZE!なぁ、猿」

 

「アレの相手をして来いなんて、言うんじゃねーぜ。若い頃ならともかく、老いたわしじゃあっという間に食べられちまうってもんだぜぃ」

 

「オーディン、お前んとこの悪ガキがちょっかいだしてきた。どうする?」

 

「ここで俺たち神の力を振るったらこの空間なんぞ保つわけがない」

 

話しかけられる北欧の主神はやれやれと嘆息し、長い白ひげを擦りながらロキに問う。

 

「お前さん、この場にいるのは己の意思じゃな?」

 

「その通りだ。少々手伝ってもらったが、この場にいるのは我の意志だ」

 

「協力者がいたとはな。さしずめ―――テロリストかのぉ?」

 

意味深な発言に緊張が走りだした。

 

「我と向こうは同じ目的だが、一緒にされては困るというものだ。主神オーディン自ら他の神々に易々と接触されては問題だ。これでは我らが迎えるべき『神々の黄昏(ラグナロク)』が成就できないではないか」

 

「ロキさま!これは越権行為です!主神に牙を剥くなどと!許されることではありません!しかるべき公正な場で唱えるべきです!」

 

「今ならまだ間に合います。どうか考えを改めてください」

 

ロスヴァイセとセルベリアが瞬時にスーツから鎧に変わり、ロキに物申していた。しかし、相手は聞く耳を持たない。

 

「一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。オーディンと話をしているのだ」

 

そう言った直後。ロキに赤い閃光が走って直撃したのだった。何事かと目を配れば―――赤い龍を模した全身鎧を装着していた者が手を突き出した状態で構えていた。

 

「神だか何だかしらねぇーがよ。要は敵なんだろう?だったらさっさと倒しちまえってんだ。何のん気に話をしてるんだよ。お気楽だなぁ神さまってのは」

 

「赤龍帝・・・・・っ」

 

赤龍帝の兵藤誠輝。平然とそう言った誠輝は次に手をフェンリルに向けた。

 

「次はあの畜生だ」

 

極太の赤い魔力の砲撃を放つ。その威力は素人の目から見ても凄まじさが誇っている。フェンリルでも直撃すればタダでは済まさない、誰もがそう思った。―――フェンリルの前に北欧式の魔方陣が展開して完全に防がれるまでは。

 

「我が子をその辺の畜生と一緒にされても困るな。同時に我を倒した気でいることをもだ」

 

―――何事もなかったように空に浮くロキが誠輝を見下ろしていた。

 

「しかし赤龍帝か。こんなところで相見えるとは。だが、まだまだ神を相手にするには不足している」

 

「あ?俺がお前に勝てないって?」

 

「その言葉は我が子を倒してから言ってもらおうか赤龍帝よ」

 

ロキの意図を察してフェンリルが動く。神々の攻撃を食らって満身創痍なのだが、上等だと誠輝は声を高らかに上げた。

 

「おいお前ら!あの狼と神をぶっ倒すんぞ!俺たち兵藤家の力を見せ付けてやるんだ!」

 

味方である兵藤家の少年少女たちに呼び掛けた。全員で掛かれば神だろうが何だろうが赤龍帝の力も以ってすれば勝てる相手だと確信している。ここで神に勝てば自分の強さをこの場にいる全員に知らしめることができる。

 

だが―――。

 

シーン・・・・・・。

 

「・・・・・はっ?」

 

誰一人、いや、数人を除いて兵藤家の少年少女は返事どころか戦う意思すら無いでいる。

 

「おい・・・・・何だその無反応は」

 

信じ難いと問う。誰もが誠輝から視線を外し、ロキとフェンリルに戦意を失っている。委縮すらしている。

 

「お前ら、兵藤の人間のくせに何をビビってやがる」

 

『・・・・・』

 

誰一人として、誠輝に答えない。それどころか、

 

「お前、赤龍帝だからそんなに強がれるから良いよな」

 

「あ?」

 

だからなんだ、と口を開く少年を見詰める。

 

「神とあんな化け物に敵うわけ無いだろう」

 

神器(セイクリッド・ギア)の能力を使って戦っても勝てっこないって」

 

「しかもあいつを、化け物をあっさり倒した狼だぞ。俺たちが戦っても結果は火を見るより明らかだ」

 

「そうよ。私、死にたくない」

 

「俺もだ。死にたくねェよ」

 

口から出てくる言葉は―――負ける。戦いたくない。死にたくないと言う弱気な事ばかり。

 

「―――ふふっ、くはははっ、はーっはっはっはっ!こいつは傑作だ!いや、その反応と感情が正しいのだ!」

 

腹を抱え嘲笑う哄笑を上げるロキ。

 

「神である我と神を神殺す我が子に戦いを挑み、勝利を掴み取ろうと思う者など高が人間の中でいるわけがない!

赤龍帝、お前も赤龍帝の力を使わず我らと戦い、『人』としての戦いぶりを見せ付けなければお前の言葉は何の意味も価値もないも当然だぞ?」

 

「―――っ!?」

 

「古の英雄や勇者たちは皆、剣や盾、魔法を使って偉業を成し遂げている。お前も人間であれば古の者たちのように戦え!我らはそれを受け入れてやろうではないか!」

 

堂々と宣言したロキ―――。鎧の中で奥歯を噛み砕かんばかり噛みしめ、ロキの言葉に屈辱とプライドを傷つけられたことに対して怒りを覚えていた。

 

 

その頃―――。一誠は面々に囲まれながら治癒を施されていた。

 

「心臓が突き破られているっ」

 

その意味は死を示していた。また一誠は、この少年は死んでしまったのかと誰もが絶望を抱いていた。

怒り、悲しみが一誠と交流を持っている面々の胸の内に抱く。しかし、少年を囲む面々は気付いていなかった。

 

―――あなたはまだ死ぬべき者ではない。

 

呼吸が止まって、意識もない一誠に呼び掛ける謎の声に。それは一誠しか聞こえていなかった。

 

―――本来、干渉してはいけないのですが、この先遠くない未来で私たちにあなたの物語を観させる義務があります。勝手であり申し訳ございませんがあなたを死なせるわけにはいきません。あなたに餞別と加護を与えましょう。

籠の力はたった一度きりしか使えませんので使い道を誤らないように。

 

だ・・・・・れ・・・・・。

 

―――違う世界に存在する転生を司る神ミカルです。また会いましょう私にこの名を与えてくれた兵藤一誠。

 

最後にその言葉を残した神は一誠に神の加護を施した。

 

 

 

「なんだ・・・・・これは」

 

前触れもなく繭みたく光に包まれる少年。アザゼルもルシファーもヤハウェも他の神々ですら覚えのない神格の波動を覚えさせる。

 

「なんだ、この波動は・・・・・」

 

「私たちと同じ神格を感じます。が、感じたことのない力です」

 

「何が起きているというんだ・・・・・?」

 

この誰からも愛されている少年に摩訶不思議な現象が起きている。神々の目に留まらせる神格の波動はロキですら奇異な視線を送らすほどだった。すると一香が、神々がとある方へ視線を向けた。

 

「誠」

 

「なんだ」

 

「どうやらのんびりしている場合じゃなくなったみたい」

 

「・・・・・そう言うことか。流石と言うべきか」

 

出るタイミングを分かっている奴らだと漏らした誠と同時に数多の魔方陣がレプリカの学園の上空に発現して続々とテロリストたちが現れた。

 

「次から次へと息子の晴れ舞台を滅茶苦茶にしやがって。そんなに相手になってもらいたいなら喜んでなってやるぞ」

 

苛立ちを覚える誠。戦える面々が身構えた。攻守、攻防―――。敵を攻めて一誠を守り、敵を攻撃して一誠に被る攻撃を防ぐ。戦える女神たちは一誠を守るように固まり、男神は臨戦態勢の構えになった。

 

「招かざる客が来たようだな。我には関係のないことだがこの機に乗じてオーディンを殺してくれる」

 

フェンリルに指示を下そうと腕を振り上げた次の瞬間だった。繭の表面にピシッとひび割れが生じた女神たちに見守られる中、繭に入る亀裂は徐々に大きくなり、

バキパキバキと卵の殻を破る音を立てて何かが孵化しようとしていた直後。突き破るように繭から飛び出した青白い光の中で繭とはまた別の青白い繭みたいなものが宙に浮いた。唖然、呆然と目を向けざるを得ない状況で

ヤハウェとガブリエルが何かに駆られて宙に浮いて青白い繭の傍に近づいた。

 

「これは・・・・・翼?」

 

二人の目からよく見ると繭だと持っていたソレは翼みたいなものだった。

 

「聖書の神とセラフのガブリエルだ!討ち取れば名が挙がるぞ!」

 

テロリストたちが寄ってたかって襲いかかる。そんな暴挙に一香と誠が許すまじと動こうとした瞬間。

青白い繭が凄まじい衝撃と共に波動を放ってテロリストたちを灰に変えた。

 

「んなっ!?」

 

「今ので二人を守ったのか・・・・・」

 

地上に影響は無い。上空でしか効果がないようだ。ヤハウェとガブリエルが繭の傍にいるものの影響は受けていない。迫ってきたテロリストを灰に変えた繭にも動きを見せた。ゆっくりと青白い繭だと思っていた翼が開いていくのを間近でヤハウェとガブリエルが見詰めていれば、翼が包んでいた中身が窺えるようになった。―――瞑目して元の大きさに戻っていた一誠を。だが、少し様子が違っていた。真紅色だった髪が、眉毛が翼の色と同じ青白くなっていた。全て開き切った六対十二枚の翼が横に大きく広がると頭上にも青白い輪っかが発現した。

そして―――瞼が開いた。

 

「「―――――」」

 

息を呑んだ神とセラフの天使。何時もの一誠とは違うことをハッキリと肌で感じ取った。

何よりも違いさを感じさせる要因は、

 

「・・・・・神化している・・・・・?」

 

オーフィスとグレートレッドの力を有するイレギュラーなドラゴンに転生したはずの存在から神の力を感じさせているということだった。どういうことだと、思って手を伸ばして頬を触れた。

 

「ん?」

 

ヤハウェに顔を向けた一誠。どうしたの?と視線で問う一誠の顔を凝視してはペタペタと身体や翼まで触れだした。

 

「何ともないんですか?」

 

「うん、半分死んだけど助けられた」

 

「誰にですか?」と訊ねられて「うーん」とどう答えれば良いか悩んだ末、きっぱりと答えた。

 

「転生を司る神ミカルって存在に」

 

「転生を司る神・・・・・?」

 

自分の知る限りでは聞いたことのない神の名前。覚えのない神格の波動がその証拠なのだろうが、

一誠自身に何が起きたのか理解に追いつけずにいると手の甲に宝玉が浮かび、ヤハウェに声を掛けた。

 

『我らにも転生の神の声が聞こえました。我らの知らない世界の力も感じました。主の言葉に嘘偽りはございません。主は異世界の神に助けられたのです』

 

メリアがこの空間にいる全員に聞こえる声で一誠の弁明をしてくれた。コクコクと一誠が首を縦に振ると、

 

「バカな!」

 

「そんな!」

 

その声は主に神々から聞こえてきた。異世界の神が異世界に干渉し、一誠を救ったと現実的にも有り得ない現象。

 

「覚えのない神格の波動を感じさせてくれるな。異世界の・・・・・転生の司る神?」

 

ロキがそう言うと、一誠は悪神と対峙した。

 

「俺と相手になって貰うぞロキの兄さん」

 

「我が子の牙を食らって恐れずにいるとは大した精神だ」

 

「ああ、助けてもらったからな。そのお返しにアンタを倒さないとあの神に顔向けができないってもんだ」

 

「ならば!もう一度我が子の牙に噛み砕かれろ!」

 

ロキの指示にフェンリルは牙を剥き、一誠に飛び掛かった。迎撃しようと構え出す一誠の前に、

 

「はぁっ!」

 

「てやぁっ!」

 

「ふんっ!」

 

三つの剣がフェンリルを退けたと同時に「魔剣創造(ソード・バース)ッ!」と強く発した少女の声に呼応して地面から大きな数多の剣が剣山のように飛び出してフェンリルにダメージを与え、

 

「雷光よっ!」

 

「滅びなさいっ!」

 

「やぁっ!」

 

光が帯びる雷に滅びの魔力、仙術が放たれる。

 

「―――川神流」

 

「九鬼家決戦奥義」

 

「無双正拳突きぃっ!」

 

「古龍昇天破っ!」

 

二人の女性と少女による凄まじい打撃の威力がフェンリルの身体に貫いた。

 

「―――氷れ」

 

フェンリルの足元が凍りつき、瞬く間に全身まで氷が包んでいった。

 

「なっ・・・・・!」

 

ロキは目を張った。一誠も果敢にフェンリルを攻撃した少女たちに驚きを隠せないでいた。

 

「今度は私たちも参加させてもらうわ」

 

「うふふっ。私たちも戦うことはできますわよ?」

 

「神を相手に一人で戦うな」

 

「今度は皆でだ」

 

「そうそう、一緒に戦えば相手が神さまだって倒せちゃうわ!」

 

「・・・・・私の氷を以ってしても倒せないでいるがな」

 

「ならば倒すまでよ。物理的にな」

 

「皆で倒しましょう」

 

殆ど、一誠と交流を持ち、異性として好意を抱いている少女たちばかりだった。

そしてさらに、自分たちもだとばかり一誠の真後ろから続々と戦意の炎を瞳の奥に宿している少年少女たちがやってくる。

 

「私もイッセーの力になりマース!」

 

「相手が神とフェンリルなんてね・・・・・式森の魔法を披露する甲斐があるってもんだよね」

 

「牙はくださいね?兄の手土産にしたいので」

 

「お母さま、見ていてください。カリンは正義の風を纏って悪を吹き飛ばします!」

 

 

「イッセー、俺たちも戦わせてもらうぜ?」

 

「燃えてきたぁーっ!」

 

「昔の家族の力となろう」

 

 

「椿姫、サジ。私たちも」

 

「「はい、会長」」

 

 

「俺の力も振るえる機会があるかな兵藤一誠」

 

 

「怪我をした方は私のところまで!頑張って癒やします!」

 

 

―――かつて、一人の少年は理不尽な暴力と罵倒を浴びて生きていた。兄弟の絆すら絶たれ、友人は片手で数えるぐらいしかいませんでした。だが、周囲を見返す為に世界中を旅して修業に明け暮れる長い時間と年月の末、少年は多くの友を得ました。そして今、その友人たちは一人の少年の為にあらん限りの力を貸し、共に勝利の光を浴びようとしている。

 

「お前ら・・・・・」

 

『行こう!()も一緒に戦うから!』

 

「・・・・・っ」

 

これほど嬉しいことはない。もう知っていた。自分は一人ではないことを。

 

「一誠・・・・・お前は良い友達が恵まれている」

 

「行きなさい。私たちはずっと見守ってあげるから」

 

「神に挑む者たち・・・・・か」

 

「どうやら、私たちの出番はなさそうですね」

 

「見守ってやろうじゃねぇーか!次世代の力をよぉっ!」

 

「ああ、そうしよう。頑張りたまえ、一誠ちゃんたち」

 

たくさんの面々に見守られる中。氷の牢獄から抜け出たフェンリルと並ぶロキ。

 

「そっちがその気ならばこちらも本気と成らざるを得ないな」

 

ロキが両腕を広げると両サイドの空間が激しく歪み、足元の影が広大になる。

空間の歪みから、何かが新たに出てくる。銀色の毛並み。鋭い爪。感情が籠らない双眸。そして、大きく裂けた口。足元の影からは大量の長い胴体のドラゴンが現れる。

 

「スコルッ!ハティッ!そして、量産型の五大龍王の一角ミドガルズオルムだ!」

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

『っ―――――』

 

フェンリルがもう二匹。そして、五大龍王の模造品が大量に加わって戦況が一気に変わった。

 

「フェンリルの爪と牙は気をつけろよ。それだけ言っておく」

 

『了解っ!』

 

要注意と共に戦う仲間たちに告げ、

 

「行くぞ!」

 

『おおおおおっ!』

 

 

「行け!我が子たちよ!」

 

神に挑戦する少年と少女たちに対して神は魔物を使役し、両者の戦いの火蓋が切って落とされた。

 


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