HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード37

夏期休暇は終わり、学校生活が再び始まった。まだまだ残暑が残っている学園の生徒たちはこの夏休みの間に劇的な変化で性格や態度、姿も変わって登校する。

 

「ついに体育祭が始まろうとしてるのね・・・・・」

 

ブルーなパチュリーを見て「ああ、運動がダメなんだっけ」と他人事のように久しく再会したクラスメートの反応に納得した。

 

「体育祭なんてこの世から概念ごとなくなればいいのに」

 

「さらっととんでもないことを言うなこの魔法使いは」

 

「運動が苦手な人の気持ちは分からないでしょうね」

 

ふっ、とどこか悟った笑みを浮かべるパチュリーは一誠を憐れな眼差しを向けた。

 

「水上体育祭はともかく、この学校の運動会は警戒しないことに越したことではないわよ」

 

「何で警戒するんだ?」

 

「当日になれば嫌でも分かるわ」

 

意味深に述べるパチュリーに理解できないと首を傾げる。

 

 

 

 

「えっと、次は―――」

 

時間は過ぎて教卓の前に立ち、黒板に体育祭に向けてでの競技名と参加するクラスメートの名前が書かれていく。

一人一種目は出ないといけない。一誠は借り物&障害物競走に出ることになった。女子しかいないクラスでは荷が重いだろうと一人分の参加権利を得たのだった。オーフィスたちはそれぞれ自分の意思でいろんな競技に参加する。

 

「あー、今回の体育祭はレーティングゲームで使用される異空間で行われることになった。前回のようなハチャメチャな事態を警戒してでな―――」

 

教師がいきなりそんなことを言いだした。前回とは一体、何が遭ったのだろうと一誠は露にも知らないでいる。

なので―――。

 

 

 

「前回の体育祭のことが知りたいと?」

 

「ん、そうだ」

 

生徒会長のソーナ・シトリーがいる教室に赴いて直接ソーナに聞き込みをした。

眼鏡の縁を触れて一誠の質問の前にこう言った。

 

「あなたは復活したのですね」

 

「あー、おかげさまでな」

 

「前回の体育祭、そうですね。一番大変だったのは三つ巴の騎馬戦でしたね」

 

「三つ巴の騎馬戦?」と首を傾げた。その競技名は確かクラスでも書かれていたがどうしてなのだろうと思っていると、ソーナは淡々と説明をした。

 

「悪魔と天使、堕天使の騎馬戦に人間を含めての競技でしたが・・・・・そこに動く人体模型たちが突如現れて騎馬戦に乱入。ご丁寧に鉢巻きを巻いてです」

 

「・・・・・」

 

「しかも、打倒する方法は鉢巻きを取ることのみ。魔力での攻撃、打撃での攻撃が無効化されやむを得ず私たちは人体模型と騎馬戦をするせざるを得なかったのでした。・・・・・生きているかのように臓器が脈を打つ瞬間を間近で見ながら」

 

一種のホラーみたいな体験をしたソーナだった。どうしてそんな相手とすることになったのか、不思議過ぎてソーナに問うたところ。

 

「ええ、誰があのような事を仕出かしたのは把握しているのですが部員までは未だに不明です」

 

「部員?」

 

「非公式新聞部。去年から存在している非公式の部活です。先ほど言った人体模型に撒かれた鉢巻きに『非公式新聞部募集っ!』と忌々しく書かれていたので・・・・・」

 

「当時の私は非力でした。ですが、今回ばかりは好き勝手にはさせるつもりはありません!」と意気込みの言葉と共に燃えあがった。その様子を見守っているとソーナは一誠をジッと見つめた後に口を開いた。

 

「丁度良いです。兵藤くん、お願いがありますがよろしいでしょうか」

 

「一誠でいいよ。家名は嫌いなんだ先輩」

 

「そうですか・・・・・。では、私のことをリアス同様呼び捨てで『ソーナ』と呼んでください」

 

ソーナの言葉にキョトンとした後に視線で「いいのか?」と訴えたところソーナは短く頷いた。

 

「ええ、親友のリアスを助けてくれましたしね。私ではできもしなかったことを成し遂げたあなたにはこれでも評価をしているのですよ?」

 

綺麗に微笑するソーナ。会長としてではなく一人の女、そしてリアスの親友としてでの顔が一誠の前で浮かばせた。

そう言うことならと納得し、改めてソーナと呼び捨てした一誠。

 

「で、俺に頼みたい事とって?」

 

「生徒会の仕事絡みなのですがいいでしょうか。体育祭に向けて生徒会は色々と忙しくなるので男手も必要になります。匙元士郎という男子が一人だけですので・・・・・」

 

「んー、個人的には手伝っても良いけどいいのか?他の生徒会メンバーの意見も聞かないでさ」

 

「構いませんよ。寧ろ助かる方です。無論、タダとは言いません。生徒会の権限で可能な事であれば一つだけ了承が得れる権利を与えます」

 

職権乱用ではないかと思えるが、生徒会と言う後ろ盾ができるとなれば部活の部長として、一人の生徒として色々と利用ができるかもしれない。ならば、断わるわけがないだろう。そんな思いを胸の内に抱き肯定と頷いた。

 

「了解、手伝うよ」

 

「ありがとうございます。では、早速放課後に生徒会室へ来てください。体育祭は五日後ですので急ピッチに準備を進めないといけませんから」

 

「わかった。んじゃ、また放課後に」

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

一誠はソーナと別れ、悠々と教室を後にした。

 

―――○●○―――

 

そして昼食時。一誠は教室に集まってきた家族たちに生徒会からの依頼を包み隠さず告げた。

教室の奥に休憩スペースとして設けられた相対できるようにソファが四つ。長さは人が四人ぐらい座れるほどで

一誠たちはソファと同じ大きなテーブルを挟んで昼食の時間を有意義に過ごしている。

 

「それって私たちもしなくちゃいけないことですか?でも、私は一誠くんと一緒ならば構いませんけど」

 

「そうね!生徒会の仕事を手伝うという機会はあんまりないからちょっといいかも。悪魔だけどヒト助けとあらば主もお認めになってくれるはず!」

 

「ああ、体力や力なら自信があるぞ」

 

夏期休暇の間、ヨーロッパに戻っていた久しく見ていなかったルーラー、イリナ、ゼノヴィアたち教会組は手伝ってもいいと意思表示をする。

 

「ところで一誠、お前は何に出るんだ?」

 

「借り物&障害物競走だけど」

 

クロウ・クルワッハから質問され当然のように言い返した。お前は?と視線で訴えると、

「私もそうだ」と答えられた。

 

「一緒に競い合うことがあれば負けはしないぞ」

 

「それはこっちの台詞だよ」

 

小さい頃からの打倒の目標を掲げている相手との勝負。戦を司る最強の邪龍も楽しげに口角を上げた。

尖った耳が若干萎れるように表情も憂鬱そうにネリネが漏らした。

 

「私はあまり運動ができないですので、皆さんの足手まといになるかもしれません」

 

「大丈夫だよネリネ。皆で頑張れば絶対に勝てるんだから」

 

「そうっす!」

 

姉のリコリスと親友のリシアンサスことシアが励ましている間に、雑談をしつつ料理を食べる一誠たち。

クラスメートから見ればいつもの光景と思い、教室から出ることもなく弁当を食べ続ける。

一人しかいない男子の教室、麗しい花園。その男子に羨望と嫉妬が主に向けられるが一人しかいない男子にとってはクラスメートの女子に話しかけることもできない事情がある為、嫉妬はともかく羨ましがられるのは遺憾なのだ。男に警戒、敵意、苦手意識を向けられ居たたまれないのだ。

 

「金剛たちはまだ帰ってこないんだな」

 

『イッセーのハートを掴むのは私デース!』と恋愛に情熱を燃やしている帰国子女の少女やその姉妹たちは学校に顔を出していなかった。日本に帰国していないということは出発に遅れているからだろうかと面々は予想や想像をした。

 

「あの賑やかな声が聞けずにいると少しさびしいわね」

 

「私たちの中でルーラーの次にハッキリと一誠に対して好意的な意志表示をする女だからな」

 

そう言うアラクネーが一誠の隣に陣取って「私もそうだがな?」と一誠の耳元に囁く。

言い方がとても艶めかしく、囁かれた少年は嬉しそうにアラクネーへ微笑んだ。

 

「私も一誠くんのことが好きですからね?ずっと傍にいます」

 

アラクネーに対して反対側に座るルーラーも愛おしい異性に目を向けつつ告白した。

 

「我も、イッセーの傍にいる」

 

ちょこんと一誠の膝の上で座って食べるオーフィスも顔を見上げて発した。

そんなオーフィスの黒髪に手を置いて撫でてやればポケットの中に仕舞っている携帯の着信メロディが流れだした。誰だと思いつつ携帯を取り出して画面を見れば『川神百代』と表示していて通信状態にした。

 

「ああ、百代―――」

 

『復活したんなら一言私に言えよこのバカ!』

 

突風に吹かれ、その激しい風圧で顔や髪がぶつかって仰け反りそうな感じで絶叫に似た大きな叫びが一誠の耳を襲った。一誠の復活は川神市までも知れ渡っているようだ。

 

「悪い、言いそびれた」

 

『嘘だ!どうせお前は家族とイチャコラしていただろう!』

 

「一緒に過ごしていたのは間違ってないな」

 

『開き直るな!私がどれだけ―――』

 

「ああ、心配するほど泣いてくれたのか?」

 

もしも違って、それでも似た風な言葉が出てきたら嬉しいなぁと思った矢先。百代から帰ってきた言葉は・・・・・。

 

『私がどれだけ金を貸してくれる奴が減って苦労していると―――(ピッ)』

 

―――しばらく百代との通信を拒否しようと心から誓った。有言実行―――携帯を操作して川神百代との通信拒否を設定しながら清々しい笑みを浮かべて告げた。

 

「うん、ちょっと、付き合い方を考えないといけないかな」

 

「ええ、そうした方がいいです一誠さま。リーラさんもきっとそう思いを抱くでしょう」

 

重々しく好意を抱いているとは思えない発言をした百代の印象と好感度が変わった咲夜が頷く。

金だけ目当てで付き合っているのであればリーラ(先輩)と相談して川神百代(武神)と話し合いをする必要があると胸の内で思った。

 

 

『あいつ、通話を拒否している!?なんで!?』

 

『あのね、照れ隠しにもさっきの言葉は無いと思うわよ。あなたが一誠の傍にいる理由はお金目当てと言っているようなものだって』

 

『言葉を選んで言うべきだったな百代。これでライバルは一人減ったな(笑)』

 

『ち、違うんだ一誠!私は、私はお前のことを・・・・・っ!』

 

 

空耳かな、どこか遠くから一人の少女の悲鳴の声が聞こえてきた。

 

 

そして放課後―――。先に帰るオーフィスたちと別れて真っ直ぐ一階の生徒会室に訪れ、真羅椿姫に招かれてシトリー眷属と軽く挨拶をすませ体育祭に向けての会議や準備を始めた。

 

「まずは体育祭の日程の制作とイラストを書かなくてはいけません。日程の方はほぼ前回と同じなのでそこまで書くのに時間は掛からないでしょう」

 

そう言われながらソーナから前回の体育祭のスケジュール表を渡された。イラストを見れば可愛い悪魔と天使と堕天使のキャラクターが下から上から翼を広げて戦いをしようとしている感じだった。

 

「今回の体育祭の日程は前回と同じように書いて良いのか?」

 

「はい、構いません。イラストの方は一誠くんが考えて書いてくれますか?」

 

ソーナからの頼みを受け入れ、数枚の白紙に前回のスケジュール表と手書きでコピーしながら隅っこに悪魔と天使、堕天使のキャラクターを描く。日程を書き終えれば最後にデカデカと三大勢力のキャラクターに学園の紋章を描いて完成した。その時間はたったの十分。

 

「書いたぞ」

 

「早いですね・・・・・」

 

受け取った今回のスケジュール表をパラパラと軽く開いて内容を確認すれば問題無しとソーナは一誠に頷いた。

 

「上出来です。このイラストも採用しましょう。男の子なのに可愛く書けましたね」

 

「・・・・・変か?」

 

「ふふふっ、意外な一面、才能を知れて良かったです」

 

ソーナが小さく口元を緩ました途端に「会長が微笑んだ・・・・・!?」という驚きの声が聞こえた。

 

「ああ、そう言えば」

 

「なんでしょう」

 

「もしももっと手が欲しかったら冒険部の部員たちも手伝うってさ。どうする?」

 

「助かります。では、明日からお願い致します。やることが山積みなので正直助かります」

 

あっさりと一誠の提案を了承した。その後は細かい作業をするばかりで、ソーナが予想していた作業の段階は一誠と言う存在のおかげで殆ど終えてしまった。

 

―――○●○―――

 

『一誠の体育祭は絶対に見に行くかんなリーラ!』

 

『また思い出の写真が増えると思うと楽しみで仕方ないわね!』

 

弾んだ声が小型魔方陣から聞こえてくることをリーラは心を穏やかにして相槌を打っていた。

 

「羽目を外さなければ一誠さまもお喜びになるでしょう」

 

『はしゃがないようにだけはするさ。そうそう、一誠の友達やオーディンたちも誘ったからな!絶対に盛り上がるぞー』

 

『あの神たちも盛大に応援してくれるそうだから一誠も喜んでくれるわね』

 

―――さっそく仕出かしたかこの夫婦は。単独で神々を呼び集めることができるのは後にも先にもこの二人しかいないだろう。勝手な行動をする息子と嫁に兵藤源氏が頭を抱える姿は安易に思い浮かべれる。

 

「当主も来るのですね?」

 

『今回ばかりは来るだろう。というか、俺が来させてやる』

 

喧嘩ばかりしている誠がやる気の声を発した。自分も陰から応援するつもりでいる。愛おしい主、異性の初めての体育祭の晴れ舞台。特注のカメラを再び使う時が来たのだ―――。

 

 

 

 

学校に登校中。一誠は金髪の少女と再会を果たした。

 

「一誠、誰?」

 

「ああ、堕天使側のシスター、アーシア・アルジェントだ」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

ペコリと頭を下げる金髪の少女を見て、教会組のルーラーたちが反応した。

 

「もしかして、『魔女』のアーシア・アルジェントか?」

 

「まさか、この地で会うなんて驚きです」

 

ビクっとアーシアは身体を震わせた。その言葉はアーシアにとって辛いものらしい。

 

「あなたが一時期内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん?悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね?追放され、どこかに流れたと聞いたけれどここにいた何で思わなかったわ」

 

「・・・・・あ、あの・・・・・私は・・・・・」

 

三人に言い寄られ、対応に困ったア―シア。一誠の傍にかつて同じ教会に属していたものがここにいたとは知りもしなかった。そこに一誠が助け船を出した。

 

「んー、もう昔のことなんだろう?アーシアの性格上からして困っていたのは例え敵だったとしても放っておけなかったじゃないか?多分、俺もそうしていた」

 

「ボクも噂程度で聞いていたけれど、とても魔女だなんて言われる人とは思えないなー」

 

ユウキも感想を述べた。見た目はとても穢れを知らない純粋無垢な少女。そんな人が魔女と非難されるなんて考えにくい、それがユウキの考えであった。

 

「だが一誠、倒すべき相手を癒やすなど本末転倒だぞ?また敵として現れたらどうする」

 

「そん時はそん時、倒せばいいだけだろう?恩を仇で返す奴はルーラーたちの手で天罰を与えればいい」

 

「矛盾、と聞こえるが柔軟な考えだな。私は嫌いじゃない」

 

一誠の話を聞いてゼノヴィアは不敵に笑った。一誠はアーシアに訊ねた。

 

「それで、どうしてここにいるんだ?俺たち学校に行く所なんだけど」

 

「あ、あの、お礼とお願いがあって来ました」

 

「お願いはともかくお礼?」

 

「はい、私たちを病院に連絡してくれたのは一誠さんですよね?あの教会の場所を知っているのは同じ堕天使か一誠さんしかいないので」

 

アーシアは深々と感謝の言葉を述べながら腰を折りながら頭も垂らした。

 

「あの時か、あの料理、危険過ぎるだろう。他に食べる物は無かったのか?」

 

「調理する人が一人しかいませんので・・・・・殆ど毎日あの料理しか出ません」

 

うわぁ・・・・・。思わず頬を引き攣ってしまった。あの料理しか出ないということは食べる度に気絶しているのかもしれない。

 

「・・・・・話が見えませんがどんな料理を食べているのですか?」

 

リーラの問いにアーシアは「麻婆豆腐です」と答えた。

 

「しかも凄いぞ。隠し階段、地下から物凄い激臭が漂ってきたんだ。食べはしなかったけど臭いを嗅いだだけで昏倒しそうだった」

 

「そ、そんな料理がこの世に存在するんっすか!?」

 

シアは驚きのあまり叫んだ。一誠とアーシアは同時に頷く。

 

「食べ慣れてもあの料理だけは全部食べ切れません。味覚が全滅して味が分からなくなるほどなので・・・・・」

 

「なんだか、魔女なんて呼ばれるよりも物凄く辛い生活を送っているんだな」

 

最初にアーシアに対して魔女と言ったゼノヴィアが憐みの眼差しを向けるほど同情した。

 

「お礼は分かった。お願い事ってなんだ?」

 

「はい、アザゼルさまとお話がしたいのです。レイナーレさまから聞けば、この町の学園に通っていると仰っていました。一誠さんもあの学校に通っていることを知り、住んでいる場所を知らないので彷徨う感じに探していました。もう、あの料理を食べる度に苦しんでいる先輩を見るに堪えません・・・・・」

 

アーシアの懇願に誰もが納得した。そして一誠に視線を向けてどうする?と無言で訴えた時、一誠は頷く。

 

「わかった。アザゼルのおじさんとは友達だから話しはできる。リーラ、頼めれるか?」

 

「かしこまりました。ですがその間彼女はどこにいさせますか?」

 

「んー、リアスの部室でいいんじゃないか?俺からお事情を説明すれば一時的に貸してくれるだろう」

 

話は決まり、アーシアを引き連れて止めていた足を動かし学園に向かった。

 

―――職員室―――

 

「事情は分かった。というか、そんな危険な麻婆豆腐を作る神父がいたことを俺は全然知らなかったがな」

 

「あなたの監督の不行き届きでは?」

 

「わーってる。シスターと会うのは放課後でいいか?」

 

同僚と言う形で職員室にいる堕天使の総督アザゼルに話しかけているリーラ。

その提案に肯定と頷いたリーラ。アザゼルはリーラから視線を外し、顎に手をやってあることを口にした。

 

「悪魔や堕天使を癒やす力を持ったシスターか。それは間違いなく回復系統の神器(セイクリッド・ギア)を持っているな」

 

「そうでしたか。見掛けで判断できませんね」

 

「ああ、そうだな。・・・・・しかしそのシスターの力、有効に活用できるなあいつらと組ませたら」

 

アザゼルの最後の呟きを拾い、何か企んでいると胸の内で息を零したリーラはあることを教えた。

 

「体育祭の当日、異空間で行うようですね」

 

「そうだな。それがどうかしたか?」

 

「誠さまと一香さまが神話体系の神々を誘ったということですので、万が一に備えて襲撃など起こらない場所で体育祭が行われるのは幸いですねと思ったまでです」

 

ヒクっ、とアザゼルの頬が引き攣った。そして―――。

 

「あ、あいつらはああああああああっ!?」

 

あの二人、余計な仕事を増やしやがって!と勢いよく立ち上がって天に向かって魂から叫んだ堕天使の総督。

同じ職員室にいた教師たちは、なんたなんだ?と奇異な視線を向け始める。

 

「神々専用のスペースを用意しなくてはなりませんね」

 

「さらっとさも他人事のように言うな!国のトップよりも立場が高い奴らを簡単に呼ぶんじゃねぇ!」

 

「私ではなくあの二人に申してください。私もあの二人の行動力に呆れかえっているのですから」

 

「お前も何気なく苦労しているんだな」

 

げんなりとした顔でリーラに同情の言葉を発したが疲れた顔を一切出さないメイドは、

 

「身を固めないあなたよりはまだ楽です」

 

「おい、それはどういうことだ」

 

「自分の胸に手を当てれば直ぐにお答えが出るかと」

 

アザゼルは思った。―――やっぱりこいつ、嫌いだ!

 

 

 

その頃、クロウ・クルワッハ、ルクシャナ、シャジャル、ティファニア、アラクネーのクラスに編入生がやって来ていた。

 

「アカメだ。よろしくお願いします」

 

長い艶のある黒髪に血のように真っ赤な瞳の少女が淡々と自己紹介をした。

一目でアカメは強者であることをクロウ・クルワッハは悟り、薄く笑った。

この少女もきっとドラゴンの強い力に引き寄せられた一人だろうと一誠の姿を思い浮かべ、アカメを受け入れたクラスメートと、違うクラスにいる一誠と共にこれから卒業するまで過ごそうと胸の内で考えていた。

HRが終えると、さっそくクロウ・クルワッハは一誠の教室にアカメを引き連れた。久しく見たアカメに驚きつつも笑顔で向かい入れて話しかけた一誠。

 

「クロメに会えたか?」

 

「うん、会えた。妹と一緒に暮らしている。お前のおかげだ」

 

「それはなにより姉妹仲良くするんだぞ」

 

「分かっている。それよりもお前は死んでいたのではなかったのか?」

 

「復活した」と胸張って言いきったところで横から強い衝撃が襲った。

 

「イッセー、久し振りデース!」

 

キャー!と嬉しそうに今日のHRすら姿を現さなかった少女―――金剛が一誠に抱き付いた。

周りは驚く中、金剛に続いて比叡、霧島、榛名が教室に現れた。

 

「お久しぶりです」

 

「久し振りだな四人とも、昨日はどうしたんだ?」

 

「はい、夏休みは両親がドイツにいたので私たちもその国へ必然的に赴くことになったのですが」

 

霧島の話によれば、金剛の神器(セイクリッド・ギア)に注目したドイツの政府が軍事力に加えたいと勧誘をしてきた。当然、勧誘を断わったが神器(セイクリッド・ギア)の所有者は能力によって軍隊並の力を有する。

金剛の能力は戦艦並の砲撃。海上での戦闘に向いている為、政府は海軍として金剛を引き入れたかったらしい。

 

「偶然、私たちと同じように政府から勧誘されていた友達もいてですね。一緒に政府の目を盗んでなんとかこの国に戻って来たんですよ」

 

「そうなんだ。そっちもそっちで大変だったらしいな」

 

榛名からの説明を聞き労う。神器(セイクリッド・ギア)の所有者を血眼になって草根を分けてでも探しだし、自国の力としたい人間の欲望が理不尽に人の人権を蔑ろにするのだろう。

他国より優れているという見せしめや力の誇示が為に。眉間に皺を寄せて国の政府に対する不快感に若干険しい顔つきでいると頬を伸ばされた。金剛に。

 

「OH、イッセー?難しいことを考えちゃったらダメデース」

 

「金剛?」

 

「私たちはこうして日本に戻ってこれたのだから良いじゃないデスカ」

 

向日葵のように笑みを浮かべた金剛に同意と比叡たちはうんうんと頷いた。

玩具のように一誠の柔らかい頬を引っ張っている手は優しく添える感じで今度は包みこんだ。

元気溌剌、天真爛漫と言葉が似合う金剛を見て一誠はクスリと笑みを零した。

 

「そうだな。金剛、お帰り」

 

「YES!タダイマデース!」

 

真正面から一誠に抱き付き、一誠も金剛を抱きしめ返して二人は抱擁を交わす。

微笑ましい光景、大好きな姉に抱きしめられて一誠を羨ましがる妹や自分もと羨望の眼差しを向ける幼馴染等々に見守られる最中、廊下から騒ぎ声が聞こえてきた。不思議に思っていた面々も意識を廊下に向けると。

この教室に大勢の男子たちが卑劣な笑みを浮かべて入ってきた。

 

「ああ、兵藤家の野郎どもか」

 

クラスメートは一斉に一誠の背後まで避難した。その動きは熟練したもので、男が距離を詰めてきた瞬間に離れる業を身に付けた皮肉な本能による行動だった。

 

「よぉ、化け物。久し振りだな。復活したところでご愁傷様で可哀想だなぁ?あのまま死んでいたほうが良かったものの」

 

「全然成長してないようでこちらとて躊躇もなく屠ることができるが、なにか用か?」

 

「これ以上良い気になるんじゃねーぞってただの警告さ。なんたってこっちには赤龍帝がいるんだからな!」

 

―――――。

 

散々、一誠にやられていた兵藤家の少年たちが威張れる、強がれる理由はそういうことかと、目を細めた一誠や一誠と誠輝の間の事情を知るクロウ・クルワッハたちは納得した。

 

「だから?」

 

「あ?」

 

「赤龍帝だろうが白龍皇だろうが、俺には関係ない。そっちにどれだけ強い奴がいようが俺は負けるつもりはない。親の七光りのお前らには絶対によ。なんなら、今すぐ赤龍帝をここに呼んで俺と戦わせてみるか?いいぞ、俺は受けて立つ」

 

魔人化(カオス・ブレイク)と化し、一歩、また一歩と動揺する兵藤家の少年たちに近づく。

 

「て、てめぇ!本気で言ってるのか!?こっちにはあの赤龍帝がいるんだぞ!神滅具(ロンギヌス)の所有者だぞ!?」

 

「だからなんだ。そんな神の恩恵を得た奴よりも俺は色んな神さまと対峙してきた。赤龍帝何かよりよっぽど強い神さまとな」

 

「後悔しても知らねぇぞ化け物が!兵藤家を敵に回して―――!」

 

「一部の人を除いてなら構わないぜ。だったら最初はお前らから俺と戦うか?いま、ここで。兵藤家と化け物の戦いをおっぱじめるか」

 

『ぐぅっ・・・・・!』

 

揃って呻く兵藤家の少年たちは完全に圧倒されている。

 

「何の覚悟すらねぇお前らが俺の足元すら及ばねぇ。俺の家族に手を出してみろ。―――化け物としてお前らを泣き叫びながら懇願しても蹂躙し尽くしてやる。現世に生まれたことを後悔するほどにな」

 

敵意と殺意、威圧を放つ。目の前の一誠(化け物)は本気であることを悟り、心底身体を震わせ、顔を青ざめて弾かれるように一誠から離れ教室からいなくなった。

 

「あんな奴らに俺は虐められていたのかと思うとムカついてしょうがない」

 

舌打ちしそうなほど苛立って魔人化(カオス・ブレイク)を解きつつ背後に振り返ったところ、

 

「格好良いデース!」

 

歓喜極まった金剛が一誠に抱き付いた。クラスメートたちは良い気味だと何度も頷いていた。

 

―――○●○―――

 

放課後、一誠たち冒険部が生徒会と体育祭に向けての準備を進めている頃、就職も就かず部室に籠っているレオーネとオカルト研究部に取り残されている形で今まで待っていたアーシア・アルジェントはアザゼルを交えてリアスたちグレモリー眷属と会合を果たす。アーシアは今所属している教会の事情をアザゼルに説明し、助けを懇願した。

 

「分かった。俺からその神父をなんとかしてやる」

 

「あ、ありがとうございます!これで先輩たちや上司の皆さんも喜びます!」

 

「教会も教会で苦労していることが遭ったのね」

 

リアスは何とも言い難い心情でアーシアの気持ちを察した。

 

「ところで悪魔と堕天使を癒やす力があるんだってな。そいつは『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』っていう神器(セイクリッド・ギア)なんだが、もっとその力を振るえる環境が欲しいとは思わないか?」

 

アザゼルの意味深な提案に悩み顔でおずおずと言葉を放った。

 

「私の力がお役に立てるならば頑張りたいのは確かなんですが・・・・・」

 

「んじゃ、決まりだな。お前をここに連れてきた兵藤一誠の恩を報いる為にもその力を存分に振るえ。それ以外でもその力を極限まで能力を高めれば傷どころか不治の病すら治してしまう回復系統の神器(セイクリッド・ギア)なんだからな。俺が直々に鍛えてやる。まだ未熟なグレモリー眷属と一緒にな」

 

不敵にグレモリー眷属にも目を向ける。リアスは(キング)としての成長を、朱乃はバラキエルを通して堕天使の力を、白音は黒歌に更なる仙術の特訓、イザイヤは『魔剣創造(ソード・バース)』の禁手(バランス・ブレイカー)に至らせる、一成は体力の消耗が激しい神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせる為にも体力向上、ギャスパーは人見知りを直すだけ。

 

「(後半の奴らは一誠を交えて特訓でもさせれば自ずと成長するか?)」

 

ただ、一誠が指導が長けているかは別の話。今までの経験を生かしてグレモリー眷属を強くさせることができれば万々歳なところだ。

 

「アーシア・アルジェント。堕天使の総督として命令を下す。お前さんもこの学園の生徒と成って様々な事を学び、成長するんだ」

 

案の定、予想した、想像した通りにアーシアは緑の眼を大きく丸くして驚いた。

 

「住む場所はそうだな、リアスんとこの家でいいか?」

 

「ちょっと、勝手に話を進めないでくれる?」

 

腰に両手をやって不満げな顔で漏らす。自分だけの家ではなく、一成とギャスパーを除く女性陣が住んでいる家なのだ。今日初めて出会った堕天使側の少女を家に衣食住提供するなど直ぐには受け入れ難い、と心情でアザゼルに視線で訴えると、アザゼルは言い返してきた。

 

「いいだろう?心が広い女は男に好かれる。一誠もそのはずだぜ?」

 

「・・・・・そうなのかしら」

 

ちょろ過ぎる。好意を抱いている一誠を絡ませれば悪魔のお株を奪うような形で誘惑の囁きで堕ちるリアス。

悪魔とはいえども所詮は女。女の悦びを、欲望を満たす為には充実にならなければならないのだ。

ほら、案の定とアザゼルは一緒に住んでいる朱乃たちと相談し始めている。

 

「(今度から一誠の名前を出して話を、事を進めてみるか)」

 

だが、アザゼルは気付いていない。やりすぎると龍の逆鱗に触れてしまうことを。

 

 

 

―――???―――

 

「ねぇ、私たちの主神が他の神と交えて極東の国に行くらしいわね。私も行くけど」

 

「だからなんだ」

 

「あなた、他の神話体系と交流しようとしている主神に良い感情を抱いていないのでしょう?なら、好機じゃないかしらあなたにとって。一堂に集まる神々をあなたの子で噛み砕けるじゃない」

 

「・・・・・」

 

「それに知ってるわよ?あなた、テロリストに協力を求めているってことを。頑張りなさい?」

 

「知っていて尚、我を野放しにするとは何を考えている」

 

「ふふふっ、負けたらあなたに貸しているマントを返してもらいたいだけよ。もう返す期間は過ぎているのだしね」

 

「美の女神と思えない発言だ。我が負けるとでも?」

 

「直接神々は手を出さないでしょうけれど、他の者たちはどうでしょうね?愉しく見物させてもらうわよ」

 

「ふん。見ていろ。我と我が子たちのラグナロクをな」

 

「(ええ、見させてもらうわ。この私を魅了させた、どんな成長を遂げただろう久しく見ないあの子の魂を)」


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