HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード35

のんびりと過ごしていた一誠の前に一つの魔方陣が出現した。玄関から入らない

無法者に成敗とばかりハリセンを持って―――。

 

「よーう、一誠。久し振り―――(スパンッ!)あだっ!?」

 

「久し振りアザゼルのおじさん。今度から玄関から入って来てね」

 

「・・・・・おう、分かった」

 

堕天使の総督ことアザゼルの頭を華麗に叩いたのだった。叩かれた箇所に手でさすりながら

口を開く。

 

「んー、一香からお前が復活したって聞いて来てみれば見た感じ前と変わってないな」

 

「三度目は無いってグレートレッドに言われたけどな」

 

「それでもお前を復活させた優しいところがいいじゃないか。よく復活したな一誠」

 

ポンポンと一誠の頭を叩いて笑みを浮かべるアザゼルは言い続ける。

 

「ヴァレリーはいるか?」

 

「ああ、丁度いるよ。ヴァレリー」

 

アザゼルはヴァレリーが一誠の肩と並ぶと同時に言い放った。

 

「ちょいっとお前さんの聖杯を調べさせてもらうがいいな?前から言っていたことだが

今の今まで調べることをしなかったから忘れかけていたところだった」

 

「はい」

 

小型の魔方陣を展開してヴァレリーの前で捜査していくにつれ「マジか」と漏らした。

 

「こいつは驚きだな。今回の宿主、ヴァレリーが持つ聖杯は亜種だ」

 

「亜種?」

 

「通常の神器(セイクリッド・ギア)と異なる能力を持っている意味だ。ヴァレリーの聖杯は三つあって、それが一つにセットしている」

 

「私の聖杯は三つあるんですか?それが一セット・・・・・?」

 

「ああ」と真っ直ぐヴァレリーを見ながら頷くアザゼル。

 

「二つ以上聖杯を引き抜かれたら確実に命の危険性が出る。周りに悟られずにこれからも生きていろ」

 

「わかりました」

 

「・・・・・」

 

二人の話を聞いてどう切り出して良いか悩んでいた一誠。だが、一誠は口を開いた。

 

「アザゼルのおじさん」

 

「どうした」

 

「んと、俺の神器(セイクリッド・ギア)だけど」

 

一誠を見詰めるアザゼルは絶句することになる。耳を傾け目を一誠に向けたアザゼルの前で

虚空から出てきた三つの聖杯を一誠が持った。

 

「は?」

 

「俺の四つ目の神器(セイクリッド・ギア)はどうも、相手に触れると複製した相手の能力を行使できるようになるみたいだ」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

アザゼルの思考が停止した。頭が真っ白になった。だが、我に返ってヴァレリーにしたように一誠の神器(セイクリッド・ギア)を調べた―――。

 

「亜種の『強奪』・・・・・」

 

「強奪?」

 

「ああ、本来の強奪は相手の身体能力や知識を奪って自分に上乗せする能力だったんだが・・・・・おい、その聖杯だけじゃなく他にも誰かの能力を使えるようになっているか?」

 

「え?ああ、そうだけど」

 

「となると・・・・・強奪の亜種は『複製』の能力があるようだな。所謂コピーだ」

 

本物ではない偽物の力。なのだが、偽物でも使いようがある。そこにアザゼルは考えついた。

 

「まさかだとは思うが、ヴァーリの白龍皇の力もか?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

その証拠とばかり一誠の背中には青い翼が生え出した。青い翼を見て頭をガリガリと掻くアザゼルは言った。

 

神滅具(ロンギヌス)も複製できるとなると・・・・・準神滅具(ロンギヌス)だなそりゃ」

 

「この力、父さんと母さんだけじゃなくリーラですら教えていないんだよね」

 

「なんでだ?別に教えてはいけない代物じゃないだろう」

 

「他人の力で強くなりたくなかったんだ。自分の力で強くなりたい。だから誰にも教えていなかったんだ。でも、アザゼルのおじさんに話して良かったかな。この力の在りようが分かったし」

 

「だが、コピーした力はお前のものだ。他人の力だって必要な時もあることを分かってないはずがないだろう。お前は自分の力でどうにかしたいと言う気持ちが強い。もうちょっと他の奴らに甘えろ」

 

三つの聖杯を仕舞いこむ一誠に指摘したが小首を傾げられた。

 

「甘え?していると思うけど」

 

「ならいい。それじゃ用も済んだから帰る。また学校でな」

 

アザゼルは転移魔方陣を展開してこの場から消えた―――それと擦れ違うようにまたアザゼルとは違う魔方陣が出現して誰かが姿を現した。

 

「こんにちは兵藤一誠」

 

「ミカエルのお兄さんとヤハウェさん?」

 

「あなたが復活したと聞いて様子を窺いに来ました」

 

「以前とは変わらないようでなによりです」

 

天界のトップの聖書の神ヤハウェ、熾天使(セラフ)の大天使長ミカエル。

 

「今日はあなたにある物を私に来ました。きっと役に立つでしょう」

 

ミカエルが両手で持つように手を動かすと眩い閃光が迸った直後に一本の剣が光に包まれながら発現した。

 

「っ」

 

その剣から感じる一誠にとって脅威的な力の波動を敏感に察知し思わず警戒した一誠に「大丈夫です」とヤハウェが宥める。

 

「その剣は何?」

 

「これは聖剣アスカロン。ドラゴンスレイヤー(龍殺し)の聖剣です。あなたの復活のお祝いとしてこれを授けようと思いまして」

 

「受け取ってくれますか?」

 

二人からのプレゼント。無化にできず一誠はアスカロンを手にした。

 

「(そう言えば、エクスカリバー・・・・・)」

 

脳裏に浮かぶ金髪の少女が持っていてくれれば、まぁ、良しとしようと内心思った一誠にヤハウェが話しかけた。

 

「もうすぐ体育祭ですね。その際、見学をしに来ますので頑張ってください」

 

「ええ、彼女もあなたに会いたがっていますので」

 

「彼女?」

 

「いずれ分かります。それでは」

 

意味深な言葉を残して一瞬の光を発し、瞬く間に一誠の前から姿を消した二人。

手の中にある聖剣をどうしようかと悩んでいた時、黒と紫が入り乱れた籠手が一人で一誠の意思とは無関係に装着し出した。

 

『主、その聖剣の波動を合わせてくれれば収納できるぞ』

 

「そうなんだ?じゃ、よろしく」

 

早速その通りにした結果、アスカロンは融合の形で収納を可能にした。

 

「おお、刀身が生えたな。これができるならもっと早くやっておくべきだった」

 

『ならば他の武器もそうするか主よ?』

 

「エクスカリバーは無くしちゃったけどな」

 

内に宿るゾラードの提案は肯定として次々と融合の形で収納していくのだった。

 

「さて、オーフィス?外にでも行くか?」

 

「ん、行く」

 

ピョンと一誠の肩に乗り出すオーフィスと共に―――燦々と太陽鉱が降り注ぐ町を歩く。伝説の武器を収納し終えたら何もすることがなく、当たり前のように自分の肩に乗っかっているオーフィスの重みを感じながら足を動かし続ける。市街地にやってくると、何も宛てもない散歩をしていると、路地裏に目が入った。しばらくジーと見ていると何か興味を惹かれたのか、スッと足のつま先の方向を変えて路地裏に入った。あまり光が無い薄暗い場所でジメジメとした湿気を感じつつ特別意味のない探険をする一誠の視界に―――ポツンとどうしてこんな場所に建物があるのか不思議でならない物が映る。

 

「・・・・・」

 

ネームプレートも看板もない建物。永らく雨風によって建物は痛んでいる上に人の気配も感じない。

それでも一誠を惹きつける何かがあるのか、小型の通信式魔方陣を展開してナヴィに目の前の建物について調べてもらうと―――。

 

『そこ、前まではとある魔法使いが潜んでいた場所ね。とっくの昔に討伐されているけれどあのゼルレッチから盗んだと言われている品が未だ見つかって無いの』

 

「あのお爺ちゃんからよく盗めれたなと感心するけど、何でまだ残っているんだ?」

 

『さぁ?取り壊す意味もないし、放っていたんじゃないの?取り敢えずその家の所有者すらいないから不法侵入しても何の問題ないわよ』

 

それを聞いて安心したと一誠は堂々と扉を開けて中に侵入した。

 

『あ、気を付けて』

 

「ん?」

 

『そこ、デるから』

 

なにが―――と思った矢先、何とも言い難い気配を察知した瞬間に、

 

スパンッ!

 

ハリセンを反射的に何かを叩いた。

 

「ん?当たったな?―――と」

 

スパパアンッ!

 

目には見えない闇を叩き続ける。何気に聖なるオーラをハリセンに込めているせいか、小気味の良い音を鳴らすことができていると、

 

『『『非常識にもほどがあるじゃないかぁーっ!』』』

 

人の形や異形の姿をした透けている存在が現れながら頭に大きなタンコブを作って異議を唱えた。

 

「幽霊か。なるほど、ナヴィがデるって言ったのはお前らのことか」

 

『ちっとは驚け!?私たちはこれでも悪霊や怨霊でもあるんだぞ!』

 

「そう言う割には明るいような気がするけど」

 

『お前のそのハリセンで負のオーラが弾かれたんだい!あっ、ハリセンを持った腕を振ろうとするな!これ以上やったら死んじゃう!』

 

とっくの昔に死んでいるじゃないかとツッコミを入れつつ、あげた腕を下ろした。

 

「この家の住民って認識でいいか?」

 

『キャハハッ!そうねぇー?ここは幽霊の私たちみたいな奴にとっては良心地がいいからねぇー?』

 

『好奇心で入って来た人間共の生命エネルギーを喰ったりしたり、驚かしているけどなぁー』

 

『そう言えば一昔やってきた魔法使いも美味しく食らってやった。あれが最近の新しい記憶だ』

 

思い出しながら漏らす幽霊の言葉に反応してあることを訊ねた。

 

「その魔法使いは何か持っていなかった?」

 

と、聞けば幽霊たちは顔を見合わせた。

 

『あーへんてこな本ならあったけど?なに、あの本を探してるの?』

 

その言葉に真っ直ぐ幽霊を見詰めながら頷いた。

 

「そんなところかな。知り合いの持ち物だって聞いたからさ」

 

『ふーん。ま、関係ないから教える気はないけれどね。教えてほしいならお前の生命エネルギーを吸い尽くさせてくれ』

 

透明で生きている証拠である温もりを感じさせない手が一誠の顔に伸ばした時、真顔で一誠は言った。

 

「天使の軍勢をここに呼ぶぞ。それか堕天使だ。というか、俺がここで死んだら三大勢力が調査しにくるぞ」

 

脅迫ぅっー!?と幽霊たちは愕然とした。そして本気だと悟った。目の前の人間は天使のような翼を背中から生やしてこちらを見詰めてくる。さぁ、どうする?と。一人の幽霊は行動が早かった。消滅されたくないと

必死で一誠の前から消えたと思えば、一つの本を持ってきた。

 

『これですっ!どうぞ受け取ってください!』

 

すんなりと自分の親しい老人の品を取り戻すことができた。

 

「ん、ありがとう。ここの建物のこととお前らのことは内密にしておく。また聞きたいことがあったらまた来る。いいな」

 

『『『アザースッ!』』』

 

悪霊、怨霊であるはずの幽霊たちが一誠に敬礼する有り得ない光景の後、通信式魔方陣で一香にゼルレッチの盗まれた盗品を送って報告したことで魔方陣を消した。

 

―――○●○―――

 

「ここに来るのも久し振りだな」

 

見詰める目の前に人知れず鎮座する教会。以前、アーシア・アルジェントを送って以来顔を出してなかった場所。

彼女は元気にしているのだろうかと思い、赴いてみれば外見はあまり変わって無かった。

扉を開けつつ言葉を放った。

 

「失礼しまーすっと」

 

顔や上半身がない銅像が壁に点々と設けられていてこの教会に人っ子一人の姿も見えない。

何とも形容し難い雰囲気を醸し出し、無人の教会を見渡すことしばらくして一誠は最前列のそのさらに前にある教卓に近づきずらしたような跡があることを発見しては「よいしょっ」と軽く気合を入れて教卓をずらすと―――隠し階段を見つけた。

 

「ぶっ!?」

 

すると、隠し階段から強烈な臭いが。思わず頭が仰け反って鼻を腕で押さえ少しでもこの強烈な異臭を嗅がないようにする。些細な抵抗ですら一誠の鼻を熾烈に刺激を与える。

 

「変な臭いがする」

 

龍神さまはその程度しか感じないようだった。しかし、一誠にとっては強烈過ぎる。眼すら痒くなり、涙目になってくる。どうしよう・・・・・と隠し階段を降りるか否か躊躇すること一分間、金色の杖を具現化しては

外部から全てを守るように金色の楕円形の膜を一誠を中心に作り上げれば階段を降り始めた。

階段は数十秒ぐらいで降り切り、閉じられている扉を見つけた。―――扉の向こうは何があるのだろうか。

好奇心と不安が混ざった思いを抱くまだ十数年しか生きていない少年の両手がゆっくりと扉を開けた。

 

「・・・・・ナニコレ」

 

「不思議」

 

扉の向こうは―――白いシーツが敷かれている横長のテーブルに赤い料理の食べ掛けのまま黒いローブを着た人たちがテーブルに突っ伏す感じで上半身を折ってる状態でピクリとも動かない。気は感じられる。気絶、昏睡状態なのか定かではないが、一応無事であることを察知して自分が求むアーシアを探すと、視界の端にキラキラと綺麗な金の髪が一点だけ見つけた。目的の人物を見つけたものの、心から喜べない自分がいる。金髪の人物に近づけば、

 

「・・・・・南無」

 

―――片手に白いレンゲを持って食べかけの赤い麻婆豆腐を前に頭を突っ伏している姿を見れば、

料理に毒を盛られたような雰囲気を醸し出す光景を目の当たりにして合掌。

 

「おい、大丈夫か?」

 

改めて安否の声を掛けてみたものの返事はない。ちらりと麻婆豆腐を見た。既に冷え切っている中国料理、これを食べて一人残らず気絶させるほどの何かが混ざっているのだろうか?

少女の手からレンゲを取って麻婆豆腐を掬って最初は匂いを嗅いだ。

 

「ぶはっ!?」

 

思わず噎せた。未だに金色の膜を張っているおかげでこの空間の漂う臭いを遮断していて鼻に直接嗅ぐまでは気付かなかったからだ。地上にまで漂ってきた苛烈で熾烈な臭いを発する料理であることを。

 

「こ、これを喰って気絶するんじゃ仕方がないかも・・・・・」

 

辛い、どころではない。簡単に麻婆豆腐の常識を覆しているだろう『辛さ』を醸し出す臭いが凄まじすぎる。

これを食べたらこの場にいる全員みたいになるかもしれない。そっとレンゲを置いて携帯を取り出した。

 

「あー救急車の手配をお願いします。全員、食中毒で倒れています。ええ、場所は―――」

 

奇妙なアーシア・アルジェントの再会となってしまった。―――後に教会の地下から大勢の神父たちが防護服を着込んだ特殊自衛隊たちによって病院に運ばれた事実は日本中に震撼させたほどになった。お茶の間にもニュースが報道され、その原因が麻婆豆腐であることを知って

 

『どうやったら病院に搬送されるほどの麻婆豆腐ができるんだろう』

 

と思わずにはいられなかった。

 

 

その頃、一誠がいない家では―――。

 

「あれ、彼がいないんですか?」

 

式森和樹、神城龍牙、葉桜清楚、カリンの四人が遊びにやって来ていた。四人に応じるのは咲夜。

 

「はい、外出なされました。一誠さまにご用で来ていただいたのに誠に申し訳ございません」

 

「大丈夫ですよ。事前に話し合いもせずに突然来てしまった僕たちが悪いんですから」

 

龍牙が朗らかにそう言う。今回の訪問の事の発端は龍牙だ。龍牙の家から連絡があり、一誠が復活したと聞いて友人である和樹や清楚、カリンに声を掛けて一誠の様子を見に行こうと提案したのだ。結果は外出して目的が果たせなかったが町に出ているならそれはそれでいいと結論に至った。

 

「もうしばらくすれば戻ってきますでしょうから中にお入りください」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

清楚が恭しくお辞儀をしてから中に入った。中に入ればレッドカーペットが敷かれた上階に登る階段まで伸びていて左右に視線を向ければ和風と洋風の扉があった。この家の敷地に入る際、和風と洋風の家があったことを思い出し、くっついているんだと察した。天井を見上げれば二階や三階とぐるりと繋がっている廊下が吊り下げられている豪華絢爛なシャンデリアを囲むように設けられている。相変わらず大きい家だなーと和樹は胸の内で漏らし、

咲夜が案内するリビングキッチンに足を運んだ時、クロウ・クルワッハが和樹たちと出くわした。最強の邪龍が目の前に現れ、和樹たちの間に緊張が走る。

 

「咲夜、一誠の友人たちか」

 

「はい、取り敢えずこの家の中に待たせようかと」

 

同じ家族同士だから緊張感を感じさせない会話のやり取りをする二人に視線を向けると龍牙に目を向けたクロウ・クルワッハ。

 

「そうか。なら私と勝負してもらえるかな。特にファーブニルを宿すお前と魔法使いの式森」

 

「「え、遠慮します」」

 

絶対に痛い目に遭う。勝つ負けるよりも邪龍とは戦いたくない気持ちで勝った。怖いわけではない。

一誠を会いに来ただけなのに邪龍と戦う羽目になるのはごめんなのだ。

断わられたクロウ・クルワッハは「そうか」と漏らしてどこかに行ってしまった。

 

「賢明なご判断かと。相手をすれば疲弊し切るのはまず間違いないので」

 

「そんな相手を彼はしていたんだね」

 

咲夜は「それでも勝てていませんが」と付け加えた。リビングキッチンの中に入り、ソファに座るように促されて腰を落とす四人。

 

「うん?」

 

和樹が元々テーブルに置かれていた本を目にした。年季が入った本らしく表紙が少し薄汚れている。

その表紙に銀の十字架が薄汚れた本とは思えないほどきれいに輝いている。

 

「咲夜さん、この本はなんですか?」

 

飲み物を持ってきた咲夜に質問したところ、和樹たちの前に茶菓子を置きつつ説明した。

 

「ええ、先ほど送り返されたものです」

 

「送り返された、誰にです?」

 

「一誠さまの母、一香さまからです。知り合いの盗まれた盗品でして一誠さまが見つけて一香さまに頼んで送ってもらったのですが、苦笑いで『坊主にくれてやる』と知り合いの方からの伝言を一香さまから承りました」

 

どうやら知り合いに送り返させられたらしい。

 

「これは何のか分かりますか?」

 

「魔法の本らしいです」と本を手にして咲夜は壁に向かって歩き出すと棚の上に置いた。

魔法の本と聞いて興味を持った和樹とカリンだったが、あそこに置いたということは自分たちには見せないということなのだろう。ちょっと残念がっていたところで清楚が口を開けた。

 

「他の皆さんはどうしているんですか?」

 

「自室にいたり一誠さまのように外出なさっておいでです」

 

「そうなんですか。それにしても不思議ですね」

 

話を聞いて小首を傾げる咲夜に清楚は告げた。

 

「兵藤くんの周りに色んな種族の人たちがいる。兵藤くんは色んな人に恵まれていますね」

 

「・・・・・ええ、一誠さまの傍にいると退屈な時間は無くなり、心が穏やかになります。強いて言えば心地がいいでしょうか」

 

綺麗に微笑む咲夜。自分だけではない。有り得ない存在すら一誠の傍にいるのだ。リーラ同様に慈しむ相手、一誠の魅力は種族無関係に心を和ます。咲夜もその一人だ。

 

「殆どあいつの周囲には女しかいないけどな」

 

「いやいやカリンちゃん。警備員の吸血鬼もいるじゃないか」

 

「僕、危うくその吸血鬼に血を吸われそうでしたよ。『美少年をはっけーん!』と言いながら襲われて・・・・・っ」

 

「大きい犬ともう一人の吸血鬼の人が止めに入らなかったら大変だったね」

 

和気藹々と喋り出す四人を咲夜は一瞥して仕事に取り掛かろうとしたその時、

大型のテレビが勝手に点いてはガーゴイルと人間のハーフのナヴィの顔が映りだした。

 

『ここから失礼、聞いて欲しいことがあるから』

 

「どうかしましたか?」

 

『ええ、面倒な客がもうすぐ来るから気を付けて』

 

真面目な声音で警告するナヴィは言い続けた。

 

『今さっき一誠を呼び戻したから直ぐに帰ってくるけれど・・・・・なんであいつがここにくるんだろう』

 

「ナヴィさま。誰ですか?ここに赴いてくる者は」

 

咲夜の質問に和樹たちですら目を張ったほどの返事が返ってきた。

 

『一誠の両親と他十数人の兵藤家の少年少女、中には―――赤龍帝、一誠の兄貴がやってくるわよ』

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

判明した来訪者と同時に一つの魔方陣が咲夜の背後に発現して魔方陣が発する光と共に一誠とオーフィスが現れた。

 

「ん?式森たちがいるなんてな。久し振りだ」

 

「う、うん久し振りだね。復活したと聞いて様子を見に来たんだけど・・・・・」

 

「ああ、ナヴィから聞いた。―――あいつがここに来るんだってな」

 

一誠の態度がガラリと変わる。どこまでも冷たい雰囲気を醸し出し、金色の瞳の奥から憤怒の色が窺える。

そしてナヴィから言われたのかこの場にいなかった一誠の家族が顔を出した。

 


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