HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード34

『そうか、一誠は復活したんだな。あー・・・・・よかったぁ』

 

『それでいま、一誠はどうしているの?』

 

通信式魔方陣で誠と一香に定時連絡をしていたリーラ。「はい」と答え、大勢の少女や

女性たちが群がるように広い部屋に大きなベッドの上にいる少年に添い寝をしていた。

一番近く少年―――一誠の傍に報告をしているリーラの他にオーフィスが二度と放さないとばかり寝間着や首にしがみついている。腕や足にも似たようにそうしている少女や女性もいた。

その光景を一瞥して「健やかにお眠りになっております」と伝えた。

 

「お二人はどうなのですか?」

 

『取り敢えず久し振りの我が家で満喫はしているな』

 

『相変わらず口を開く度に喧嘩をして仲が悪くてしょうがないのよこの人』

 

実の父親のことだろう。リーラは相槌を打たず言い続ける。

 

「悠璃さまと楼羅さまに良い報告できますね」

 

『ああ、そのことなんだがな。まーた、そっちの学園に面倒事が起きそうだぞ』

 

「と、言うと」

 

『兵藤家の学校生活を知った当主が抑止力として誠輝を始めとする大会に出ていた

兵藤家の子供たちを編入させるそうだ。これで問題はなくなるとは思うが・・・・・別の問題が発生しそうでしょうがない』

 

溜息を吐く誠の言葉に同意だと「そうですか」と相槌を打った。

 

『一応、お前も気をつけろよ』

 

「肝に銘じておきます。何よりも私は一誠さまのメイドでございますから」

 

『あら、メイド=女でしょ?もう、リーラったら照れ屋さんなんだから♪』

 

指摘されてれも鋼の精神で動揺などせず一香の言葉を受け流した。

 

「兵藤家にお戻りになられたのであればもう神々の方とお会いにならないのですか?」

 

『なに言っているんだ?当然これからも世界中に飛び回るぜ!』

 

『ねぇ、知ってた?この家、私の家、式森の家よりも凄く窮屈なのよ?暇なのよ?

ただただ、家の中で何もせずにいるだけ。こんな家の中に残りの余生まで暮らすぐらい

なら外に出歩いて何か人の為にしていた方が有意義だと思うの』

 

―――まぁ、誠(一香)と場所を問わず愛し合うことができれば問題ないけどと異口同音で

最後に惚気られた。

 

『今もその最中だけど―――なっ』

 

『あんっ!もう、あなたったら・・・・・それじゃリーラ。一誠のことをよろしくね?』

 

「・・・・・はい」

 

さっさと魔方陣を消して息を零す。今頃、あっちでは熱い情愛を貪っているのだろうと

想像をしたところで愛おしい一誠の寝顔が視界に入った。

 

「・・・・・」

 

綺麗で細いリーラの指はほんのりと温かい温もりを感じさせる一誠の頬に触れた。

生きている―――一誠の生を感じ取り、未だに夢の中にいる面々の中で口元が綻ぶ。

 

「新しい肉体・・・・・」

 

と言うことは今現在の一誠の身体は新品同様・・・・・リーラが考えついた先には―――。

 

「また、あなたから貰えるのですね。ファースト(初めて)を」

 

熱い息を漏らし、今夜決行しようと決意した。

 

「起きなさい咲夜。朝食の準備を」

 

「ん、ああ・・・・・一誠さま・・・・・ダメ、そこは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

パシンッ!

 

 

 

 

「・・・・・咲夜、どうしたその頬は」

 

「寝ながら自分の手で頬を押し付けていたようで痕が付きました」

 

「誰かに叩かれたような感じなんだけど・・・・・」

 

朝食時に咲夜の頬を指摘するものの本人が頑になってそう言うものだから追究をしなくなった。

 

「一誠さま、これからどうお過ごしになられますか?」

 

「ん?取り敢えず皆と過ごそうかなって思っているけど」

 

「では、外には出歩かないのですね?」

 

「そうだなー。皆の都合が良ければ一緒に家の中で過ごすけどな」

 

本人たちの気持ち次第で一誠といられる。相手の意思や気持ちを尊重する一誠を知っている

リーラたちにとっては躊躇もせず、悪びれもなくハッキリと自分の言動を言える為、

自分の心情を打ち明けれることができる。

 

「我、イッセーの傍にいる」

 

「久々にタペストリーを一緒に織りたいかな?」

 

「私は勝負の相手が欲しいな」

 

オーフィス、アラクネー、クロウ・クルワッハみたいな素直に自分の気持ちを打ち明け

 

「「「・・・・・」」」

 

どうしようかなと悩むルクシャナ、ティファニア、シャジャル、アルトルージュがいれば

 

「私は何時も通り部屋に籠って仕事するだけだから一緒にいてもつまらないと思うわよ?」

 

「ごめんなさい、今日はギャスパーとお出かけをする約束なの」

 

「リーラとメイドの仕事があるので」

 

予定があるとナヴィ、ヴァレリー、咲夜がいた。結果、一誠は―――。

 

「そう言えば一誠さま」

 

「?」

 

「―――ん」

 

不意を突かれリーラにファーストキスを奪われてから朝が始まったのだった。

 

 

オーフィス編

 

 

我、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。我、イッセーの指定席(膝)に座っている。

 

「・・・・・」

 

イッセーが髪を撫でてくれる。でも、この姿は仮の姿。本当はもっと大きい。

でも、人間界に追いやられ過ごす為にも姿を変えていくうちに今はこの姿で定着した。

この姿ならイッセーに構ってもらえる。―――役得。

 

「ん・・・・・」

 

背中に感じさせる温かさを与えるイッセーの顔が見たい。身体を反転させ、顔を見上げれば

グレートレッドと同じ色の髪と瞳・・・・・。

 

「む・・・・・」

 

我、不満。我の力、無限があるはずなのに身体に表れていない。

肉体はグレートレッドだから当然。イッセーが我を見て不思議そうに首を傾げる。

「どうした」と聞かれたけど、何でもないと答えた。

身体全体でこの温もりを感じていると我は思い付いた。驚くイッセーを気にせず服を

全て脱ぎ終えると

我は裸のままイッセーの服の中に潜り込み、顔だけ出して両手を二つの指だけ立てると。

 

「我、ヤドカリ」

 

面白い、イッセーが顔を真っ赤にした。ちょっと窮屈だけどイッセーの胸やお腹と

ぴったりとくっついていられる上にさっきよりも暖かさを感じる。うん、これはいい。

リーラでさえできないことを我はできた。そんなこと思っているとイッセーは寝転がり

初めて我を見詰めてくる。我も真似してジーと見ていると、

金色の瞳に我の顔が映っていることに気付き覗いた。

そして、マシュマロみたいに柔らかそうな唇。リーラがよくイッセーと口と口を合わす。

 

「イッセー、リーラと口を合わすのはなぜ?」

 

「それは好きな人がすることだからだ」

 

好き・・・・・我には分からない。

 

「好きとはどんな感じになる?」

 

「心が温かくなったり、幸せを感じることがそうかな。この人と何時までも一緒にいたいと言う気持ちも感じることもそうだ」

 

「我、イッセーの傍にいたいと思っている。これ、好き?」

 

「んー、ちょっと違うかな?主に意味が」

 

違うと言われた。なら何?イッセーを見ていると我の気持ちを気付いたのかこう言った。

 

「でも、いつか必ず分かる時が来るさ」

 

「絶対?」

 

「絶対だ」

 

なら、その時が来るまで待つ。我は無限。無限の間まで必ず来るだろうから。

でも、これは我もしてみたい。

 

「ん」

 

イッセーの口と我の口を合わせてみた。そしたら急に胸が熱くなった。

 

これ・・・・・なに?

 

ぽかぽか・・・・・ふわふわもする。これ、心地が良い。

 

「イッセー、もう一度する」

 

言うが否や、我はまた唇を押し付けた。今度はイッセーの首に腕を回して

ずっとそのまましたら我の背中にギュッと腕が回された。

 

「んっ」

 

よりイッセーの心臓の鼓動を感じるようになって何だか嬉しくなって身体の奥から温かくなる。

 

「イッセー、またする」

 

「キスが好きになったか?」

 

「心地の良い。胸が熱く、ぽかぽかする」

 

「俺とキスをして幸せを感じているんだな」

 

微笑みながらイッセーは言った。

幸せ・・・・・この気分が幸せと言うらしい・・・・・。

でも、納得できる。我、このぽかぽかは何度も感じてきた。これが幸せ・・・・・。

これをもっと感じたい。だから我はまたシた。そしたら「口を開けて」と言われ、

その通りにしたら、イッセーの舌が我の口の中に入ってきてゆっくりと動かし始めた。

歯を舐められ、頬の裏側も舐められる。我もイッセーの口の中に入れようと動かしたら

舌がイッセーの舌と接触して・・・・・。

 

「んっ・・・ちゅっ・・・れろっ・・・ぺろっ・・・ふっ・・・んふっ・・・・・」

 

蛇のように絡め合うのに戸惑いも躊躇もなかった。コレ・・・・・もっと胸だけじゃなく

頭の中までもぽかぽかやふわふわする・・・・・。

 

「ちゅるっ・・・はむ・・・んぅ・・・・んん・・・・・」

 

もっと感じたい、もっとこの気分を知りたい、

もっとイッセーとキスをしたい・・・・・。

その想いが我を突き動かし、身体が熱くなるのを感じながらイッセーとキスをし続ける。

我・・・・・コレ、気に入った・・・・・。

 

クロウ・クルワッハ編

 

地下のトレーニングルームにて私は久方ぶりに兵藤一誠と模擬戦以上のことをしていた。

新調したグレートレッドとオーフィスの力を有する身体は前と変わらないみたいだ。

まだまだ私に傷を付けるほどの強さであるが倒す程の強さは無い。

それでも楽しませている。何割か本気を出せ、兵藤一誠を圧倒する。

 

「ま、まだ勝てそうにないな・・・・・」

 

「肉弾戦ではまだまだだな。しかし、神器(セイクリッド・ギア)を使えば―――」

 

「それを頼ってばかりじゃ、俺は強くなんてなれないよ。できる限りこの体で戦いたい」

 

私の話を遮って真っ直ぐそう言い切った。

 

「なら、お前を圧倒したサマエルとやらにもそうだったのか?」

 

「・・・・・っ」

 

ゾクっと兵藤一誠は身体を震わせた。恐怖・・・・・覚えていたのか。

ドラゴンを魅了させる兵藤一誠にここまで恐怖させるほどのものだったか

ドラゴン・イーターという者は。しかしイレギュラーなドラゴンとはいえ、

まだまだ未熟なドラゴンだ。人間でいえば子供。何かに怯えるのも仕方がないだろう。

 

「大丈夫だ」

 

リーラのように兵藤一誠を抱きしめた。互いの温もりを感じるほどに。

 

「恐怖を覚えるのは悪くない。恐怖を覚えず強くなろうなど傲慢なのだ」

 

耳元で囁きつつ真紅の髪を梳かすように撫でると私に体重を掛けて頭を胸に押し付けてきた。

 

「・・・・・分かってる」

 

それだけ呟いて、

 

「だけど、俺はまた死んだんだ。もうこれでリーラたちと会えなくなると思ったら怖くて堪らないっ」

 

「兵藤一誠・・・・・」

 

「俺はまだ・・・・・弱いっ!」

 

自分の力の無さに嘆く兵藤一誠。自分の強さに過信していないが、過小評価をしている。

弱い、力がないと・・・・・自分をどこまでも責めて強くなろうとする。

 

『一誠さまは自分の弱さで周囲の者から暴力を振るわれ、

実の兄でさせ認めてもらえずにいました。だからあのお方は理不尽な事、

自分の弱さに罵倒する者に対して許せず、それ以上に自分の弱さに怒りを覚えているのです』

 

・・・・・なるほどな。リーラ、兵藤一誠は子供だ。

自分の思い通りにならず直ぐに泣きわめくほどではないが、

意地になって自分の弱さを否定して強くなりたいと言う願望を胸に抱いている。

周囲に認めさせ自己満足するだろう、圧倒的な強さで優越感を浸るだろうそんな子供だが

中々どうして・・・・・。

 

「(今の兵藤一誠を見ていると・・・・・何とも言い難い気分になる。

  可愛がりたいではないか)」

 

 

人はそれを母性本能をくすぐられると言うがクロウ・クルワッハは知らないでいる。

 

 

「分かってるだろうが、弱いなら強くなればいい。ただそれだけでお前は強くなる」

 

「・・・・・」

 

「模擬戦の続きをしよう兵藤一誠」

 

促せば、私から離れて拳を構えた。それでいい、それでこそお前なのだ兵藤一誠。

そうでなければつまらない。私はお前の傍で強くなっていくさまを見届けてやる。

 

 

アラクネー編

 

 

私の仕事場であり自室でタペストリーを織っている。私と肩を並んで隣に座っている

兵藤一誠も目の前に設置されている織機と対峙して素人ではない手さばきで織っていく

様子を見て織機の扱い方を直々に教えた甲斐があったと口元を緩ませて作業に没頭する。

リズム感のある音に呼応して少しずつ形になっていくタペストリー、このペースで行けば

今月中には完成するだろう。緑の草原に咲たった一本の巨大な桜の木を囲む

人々の様子をテーマにしたタペストリーを。

 

「・・・・・」

 

横にいる少年に視線を向ける。真剣な眼差しを織っていくタペストリーに向けているが

どこか楽しげに手を動かして完成へ近づけていく。私の視線に気付いたのかこちらに

顔を向けてどうしたと聞かれる。

 

「そっちも形になってきたなと思っていた」

 

「かなり時間が掛かったけどもう少しで完成だ」

 

改めて見れば赤い龍の姿が織られている。

 

「その龍は?」

 

「グレートレッド。完成したらお礼としてあげたいんだ。

気に入ってくれるかどうか分からないけど」

 

迫力あるタペストリーの完成は楽しみだ。私もこのタペストリーを完成して更なる―――。

 

『認めるわ、あなたの実力を。だけど、これほどの出来栄えのタペストリーを織った

あなたが私のプライドに傷を付けた事だけは許さないっ!こんなもの―――っ!』

 

「っ・・・・・」

 

脳裏にあの時の記憶が過ぎった。酷く歪んだ顔で何度も私の頭を打ち据える

あの女神の顔が鮮明に・・・・・。

 

「アラクネー?」

 

いつの間にか私の顔を覗きこんでいた一誠。

―――その顔を見た途端、衝動的に駆られて一誠に抱き付いた。

私が蜘蛛に転生した切っ掛けになったあの時の記憶を少しでも今の幸せで上書きするために。

私を人並みの生活と温もりを与えてくれた少年に縋る。小さかった子供が今では大きくなった。

頼られる側が今では頼ってしまう側になった私は、安心させようと背中を擦る一誠の手と

その温もりを感じて心が落ち着いていく。

 

「どうした?」

 

「昔のことを思い出してな・・・・・」

 

「そうか」

 

それ以上深く聞いてこなかったが、私の気持ちを察してくれたのだろうか。

撫でる私の背中に回された手は止まって、ただただ一誠に抱きしめられる状態になった。

 

「・・・・・私は幸せ者だ。お前と言う少年と出会えて私は幸せを手に入れたのだから」

 

耳元で囁き、発した言葉に感謝の念を籠めた。一誠、ありがとうと。

 

「一誠」

 

「なんだ?」

 

「私とキスしよう」

 

きょとんと私の言葉を聞いた一誠は次に微笑みを浮かべながら頷き、

私の頬を添えるように触れて目を瞑った私に顔を近づけ唇を重ねた―――。

 

 

その日の夜。兵藤家の風呂は巨大な空間で浴槽は一つだけではなく片手では

数えきれないほどある。それが男湯と女湯と別れている為、

兵藤家唯一の男である一誠とリィゾ、フィナしか使用されていない。

リィゾとフィナは夜の町に(主にフィナの趣味の監視)出向いているので殆ど一誠しか

入っていないことが多い。今夜も一誠だけしかいない浴場の空間は静寂で包まれる―――かと思ったが、男湯に侵入する家族がいた。

 

「イッセー、一緒に入る(オーフィス)」

 

「相変わらず一人で入っているのだな。いっそのこと女湯に入ってくるか?(クロウ・クルワッハ)」

 

「クロウ、他の皆が驚くからダメだろう(アラクネー)」

 

「失礼いたします(リーラ)」

 

「は、恥ずかしいわね。でも、皆と入るとなんだか楽しい気分だわ(ナヴィー)」

 

「そうね、それにイッセーと一緒に入るなんて何年振りかしら(ルクシャナ)」

 

「だけど、やっぱり恥ずかしいわルクシャナ。母さまもそうでしょ?(ティファニア)」

 

「そうでもないのだけれど、ティファニアも耐性を付けないといけませんわよ?殿方と一緒に入浴をするのは当然なのですから(シャジャル)」

 

「まさか、皆も同じ考えだなんて・・・・・愛されているわね一誠?(アルトルージュ)」

 

「一誠さまの魅力がそうさせるのですよアルトルージュさま(咲夜)」

 

「私たちも一誠に魅了しているものね(ヴァレリー)」

 

―――っ!?

 

堂々と裸を晒す、豊満な体やスレンダーな体、小柄な体にタオルを巻く女性陣が

男湯に入ってきたことで一誠は大きく目を張って愕然としていた。

 

「ここ男湯なんですけど!?」

 

『知ってる』

 

あっさりと言われた。リーラたちはさも当然のように、当たり前のように一誠の傍に

よっては湯の中に腰を落とし、体を沈めた。

 

「ふふっ、久し振りに入るわね一誠くん」

 

「何で急に皆して入りに来たんだ・・・・・?」

 

「あなたと一緒に入りたいから、よ?」

 

微笑むシャジャルは一誠の胸に触れつつ視界にティファニアとルクシャナが一誠の隣に居座り、

アルトルージュとヴァレリーが一誠の背後から抱き絞める光景が入る。

 

「私たちはあなたと言う大切な家族を一度失った。あの時の痛みはもう感じたくない。一誠くんの姿を見ないとまたどこかで無茶しそうで不安。

ここにいる皆が違う考えだけれど思いは同じだってことです」

 

シャジャルやティファニアも自分の家族を守ろうとした夫や父親を失った。

 

一誠が死んだ今回もそれに似た喪失感ももう一度覚えた。

 

自分たちを救った家族が自分を賭して他人の家族を救おうと死んだ。

 

「だから、もう私たちを置いて死なないでください」

 

切なる想いを籠めて口から出した。一誠は周囲に目を向けるとシャジャルの気持ちと

同じようで向けてくる視線の意図を察した。

 

「・・・・・分かってる。三度目は無い。皆を置いてもう死なないから」

 

「約束ですよ?破ったら怒ります」

 

見た目は十代の少女。しかし中身は立派な女性。一人の女性として、

一誠の家族として釘を差す。無言で一誠はコクリと頷いてシャジャルと約束を交わす。

―――途端に一誠がシャジャルから目を逸らした。

 

「どうしました?」

 

「・・・・・色々と見えているから目のやり場が」

 

「?」

 

キョトンと小首を傾げる。綺麗な金髪は下に流れるように伸びていくうちに重量感と

肌の感触と弾力がいい脂肪がたっぷりと詰まって湯に浮かんでいる二つの双丘。

更に一誠たちが入っている浴槽は無色。

一誠の視界にはシャジャルの全てが飛びこんでいるのだ。家族として好意を抱いているが

異性として好意を抱いていない女性の身体を見てはご法度だろうとお湯とは別の意味で

顔を赤らめる。

 

―――一誠の心情を察したリーラはここぞとばかりシャジャルに耳打ちをした。

 

「っ・・・・・」

 

急にシャジャルが一誠に背を向けた。何を言われたのか想像がつくだろう。

尖った耳の先端まで真っ赤になっていて、白磁のような身体はほんのりと桜色みたいに染まった。

 

「どうしたの?顔が赤いわ」

 

「一誠?」

 

全裸のままティファニアとルクシャナに問われますます顔を赤くなった一誠。

ナヴィは面白可笑しそうに口角を上げて一言。

 

「普通の男なら喜びそうなシュチュエーションなのに、一緒に入る女の子がいると照れる

なんて可愛いところあるじゃない♪」

 

その言葉を聞いてティファニアとルクシャナは「?」とどうして照れるのか不思議でいた。

アルトルージュは積極的に小柄な体を押し付けて「私の身体、興奮しちゃう?」と囁く。

 

「テファ、一誠の腕を胸に挟んでみたら?」

 

「こ、こう?」

 

純粋なティファニアが一誠の腕を自分の胸の間に挟みこんだ。お湯とは別の腕の温もりが

主張してティファニアの胸に感じさせる。すると一誠は恨めしいとばかりナヴィを見詰めた。

 

「お前、楽しんでいるな」

 

「ふふっ、分かっちゃう?」

 

一誠の反応を楽しげに見守っているナヴィにアラクネーは「後で仕返しされても知らないぞ」

と心中呟いた。

 

「それでは」

 

リーラが短く言った。

 

「皆さんで一誠さまの身体を洗いましょう」

 

「え?」

 

 

―――兵藤家―――

 

 

「うふふ」

 

「あはは」

 

とある部屋で家族団欒を過ごす四人の男女と二人の少女。

 

「「・・・・・」」

 

黙々と無言で話しも交わさず料理を口に入れる誠と源氏。

 

「楼羅、重たくてしょうがないね」

 

「ここまでハッキリ仲が悪い人たちを見るのは初めてです」

 

溜息を同時に漏らす姉妹。何時もの食卓とは異なり、源氏と羅輝の息子とその嫁が共に

テーブルを囲んでの食事なのだが―――一香と羅輝はともかく、誠と源氏が目も合わさず

食事に没頭する。

 

「孫が復活したのね」

 

「ええ、きっと息子はリーラたちに囲まれているわ」

 

「愛されているわね」

 

ほのぼのと言葉を交わす母親組の会話に悠璃と楼羅が反応した。

一誠のことで盛り上がっていくと誠も話に参加し、さり気なく源氏も相槌をする。

 

「ねぇ、一誠もこの家に呼べないかしら?久々に顔を見たいわ」

 

「呼べなくはないけれど、あの子が嫌がるかも」

 

「大丈夫よ。この二人も会いたがっているし」

 

「「・・・・・(コクコク)」」

 

直ぐに頷く姉妹を見てそりゃそうでしょうねと一香は思った。最期に会ったのは魂の無い亡骸。

甦って復活したとならばもう一度会いたがる気持ちも十分理解できる。が、

 

「知っての通り、一誠は人間じゃないドラゴンよ。彼女たちとお二人が受け入れても

兵藤家が受け入れてくれないでしょう。それを分かってて言っているの?」

 

「もうあの子は弱くない。昔と比べてあの子は大丈夫よ。あなたの言う通りの結果になろうともね」

 

「・・・・・」

 

「それにできたら私はあの子が次期当主となって欲しかった。そうすれば他の誰よりも

強いと証明され、認めさせることができたのだから」

 

それについては同感だ。同意もする。しかし、世の中は思い通りにならないのだ。

誠はあることを告げる。

 

「あの大会の一件、俺たちに魔人の力が秘めていると知ってどんな反応だった?」

 

「最初は驚き、混乱、動揺したわ。でも、信じないものが多くていまでは

何時も通り過ごしているわ」

 

「前向きだな。まぁ、変な気を起こさないよりはマシか」

 

息を一つ零せば羅輝は誠と一香に問うた。

 

「あなたたちの息子、特に一誠はどうしてあの力を覚醒できたの?」

 

「あの子、小さい時に吸血鬼に攫われて血の殆どを吸われたの。

そして怒りと憎しみによる暴走。その後、偶然あの子と再会して施していた封印が

不安定な状態だったことに気付き、ドラゴンに転生したあの子の身体に掛けて封印を解いた。

結果は言わなくても分かるわよね?」

 

「吸血鬼か・・・・・人間の敵の種族に襲われるとは孫も災難だったな」

 

源氏がその言葉を漏らし、「そうね」と羅輝も頷いた。

 

「兵藤と式森の者の身体に宿る血ではなく、力で魔人の力が覚醒か。ならば、お前らの

もう一人の息子の封印も解けば魔人の力は覚醒できるのかもしれんな」

 

「おい親父。相反する力がどれだけ危険なのか知ってるだろう。

一誠がドラゴンだったから賭けは成功したが、誠輝は人間だ。人間の器で収まるほど

相反する力はできちゃいないんだ。というか、誠輝は兵藤家の血の方が濃かったから

封印するほどの危険性は無かっただけだ。あいつには式森の力なんて親父たちみたいにないんだよ」

 

「唯一、兵藤と式森の力と魔人の力を有するイレギュラーな兵藤のドラゴン、か」

 

腕を組み誠と一香を見詰める。すると、首を横に振った。

 

「なんだよ」

 

「いや、あの孫が本選で活躍しないで良かったかもしれないと思ってな。政府の者共の

目に留まらず幸いした」

 

「あー、確かにそうかもな」

 

「世界中の国のトップが黙っているわけ無いでしょうね。

自国に属させようとありとあらゆる手で勧誘してくるはずだから」

 

意味深な言葉を発する源氏に理解した。となれば今頃あの少女は―――。

 

 

 

 

 

「魔人シオリ。私たちと一緒に来てくれませんか」

 

ビシッと黒いスーツを黒いサングラスを身に付けた大勢の男性たちにシオリは囲まれていた。

 

「私、知らない人にはついて行くなって言われ育てられているのだけれど」

 

「・・・・・」

 

「それに私を魔人の名前を付けて言うほどだから私の力を欲している輩だってことかしらねー?」

 

相手は何も語らない。ただ使命を果たすだけ。

 

「やれやれ、分かりやすい反応ね。私、この国の生まれであるけれどあなたたちの為に

力を振るう気はないの。私の人生を変えるほどあなたたたちのトップは偉いのかしら?」

 

返事は返ってこない。ただし懐から何かを取り出そうとするのを見て―――。

 

「武力で制したいのならばご自由に。ただし、それは死を覚悟している者だと認識するわよ」

 

シオリの指摘を受け流す男性は懐に入れていた手には一枚の紙を持っていてそれを真っ

直ぐシオリに差し出した。

 

「我々は政府の者です。あなたを武力で制する指令は下りていません」

 

下りたならするつもりなのね、内心シオリはそう思い、指をパチンと鳴らしたら紙が

燃えだした。

 

「催眠術式の魔方陣が施された紙を手にするほど私はバカじゃないわよ」

 

「・・・・・っ」

 

「それと、この辺に施された人払いの結界と私を閉じ込める結界で―――」

 

刹那。硝子細工が割れたような甲高い音が周囲に響き渡る。そしてシオリの前に空から

落ちてきた一人の真紅の紙の少年が姿を現す。

 

「私を閉じ込めれると思ったら大間違いよ」

 

男たちは浮き足が立った。目の前に現れた少年の存在でだ。

 

「それじゃ、迎えが来てくれたから帰らせてもらうわ」

 

シオリは少年の首に腕を絡めて体を寄せたら、自分の腰に腕を回して引き寄せ背中に

翼を生やした少年によって空の彼方へと男たちから離れた。

 

「ありがとう、一誠」

 

「呼ばれて来てみればナンパされていたのかシオリ」

 

大勢の黒尽くめの男たちに囲まれてのナンパなんてそんなわけがないと思うものだが

シオリは敢えて笑みを浮かべて口を開いた。

 

「そんな感じね。でも、私はあなたにしか靡かないから安心してちょうだい」

 

「それを聞いたら逆に不安しそうだ」

 

どうして?とシオリは問うたら、

 

「俺に変装した奴らと間違えそうだからだ」

 

聞いた途端、シオリは笑った。大丈夫、例え姿形があなたと同じだろうと

これから再び魂を分け与える者同士の魂まで間違えるほど愚かではないと―――一誠の唇に

自分の唇を重ねながら魔人の力を有する者同士の儀式を空中で行った。


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