HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード32

三日後、本選が始まる当日となった。本選に出場するチームは四チーム。

この四チームの中でたったの一チームが優勝者として一人だけ次期兵藤家当主になれる。

身分も種族も関係ない。勝ち残った者は勝者なのだから。

 

『さぁ、次期兵藤家当主選抜大会も大詰めだぁ!皆さま、長らくお待たせしました!

いよいよ本選が始まります!』

 

観客たちは大盛り上がり。待望の瞬間が待ち遠しいと歓声や怒号を発する。大気が震え、

ドームの外まで轟き、全世界がこの瞬間をラジオやテレビ、インターネットの生放送で

見聞しようとしている。

 

『遠回しな発言はこの際なしとします!私としても早くどのチームが優勝するのか

楽しみで仕方がありません!それではこの本選に出場するチームの名を

もう一度お知らせしましょう!まずはこのチーム!』

 

ドームの中央に設けてある四方のリング場の上に巨大な魔方陣から立体映像が映し出される。

 

『参加者はたったの二人!しかもなんと夫婦です!夫婦愛は最強ということなのでしょうか

ラブ&ピースチームです!続いては十人中八人がドラゴンと言うイレギュラーなチームの

名前はドラゴンチーム!今大会を当然のように勝ち残った参加者は十二人の

兵藤家チーム!そして最後のチームは出場権をもぎ取った参加者は三人の川神チームです!』

 

各チームの名前と参加者の人数を告げ、進行を続ける。

 

『では、トーナメントの発表です!既に運営側が決めたトーナメントをご覧ください!』

 

シード ドラゴンチーム 

 

一回戦 川神チーム VS ラブ&ピースチーム

 

二回戦 ???チーム VS 兵藤家チーム

 

『なお、ドラゴンチームはシードという配置になっておりますその理由はですね、

運営側が分かり切った勝敗は見ても観客の皆さまには満足してもらうことはできないと

判断し、逆にドラゴンを勝ってこそ次期兵藤家当主になる者が相応しいとお考えになられた

結果なのです。無論、勝敗の条件はこの四方のリングの外に出たら即敗北!

またギブアップ宣言しても即敗北!勝利者は相手を敗者にすることこそが

絶対の勝利条件でございます!』

 

司会はそこまで言い終えると決めポーズを取って言い放った。

 

『それでは本選を本当に始めたいと思います!一回戦の出場チームはリングに集まってください!』

 

 

 

「ですって・・・・・誠」

 

「ああ・・・・・もう正直この大会はどうでもよくなっているがな」

 

「・・・・・そうね」

 

 

 

「一誠の両親と勝負か・・・・・」

 

「・・・・・落ち込んでいる暇はない、ここは全力で挑むべきだ」

 

「・・・・・死ぬなら、私の手で殺したかった」

 

「「お前は何を言っているんだ!?」」

 

 

 

「アイツが見掛けない?おい、見失ったんじゃないだろうな!?(携帯で連絡中)」

 

「ねぇ、またアイツなんか悪だくみをしてますわよ?」

 

「・・・・・放っておけ、俺たちの中で誰が当主になれるのかこの大会で決まるんだ」

 

「無理でしょ。当主、お冠だったもの。どこかの誰かさんたちのせいでね」

 

「本当だぜ、俺たちもあんな連中と一緒にされちゃ遺憾極まりない」

 

「ああ、その通りだ。俺たちは他の奴らと違うことを当主に証明してやらないとダメだ」

 

「その為には勝たないといけない。相手が誰であってもな」

 

 

 

リング場に誠たちが姿を現す。勝利条件はリング外に追い出すか相手を戦闘不能状態にする。

それまでは試合は続行。観客たちに被害が及ばないよう強固な結界を張って安全を確保。

―――その中で、大勢の観客たちに見守られる中で己の力を見せ付ける戦いが始まろうとしている。

 

「一誠の友達か・・・・・やるからには手加減はしないぞ」

 

「恐縮です。私たちはあなたたちを殺す気でいきます」

 

「いい覚悟ね。そうじゃないとあっという間に倒しちゃうわよ」

 

「簡単には負けはしない」

 

「あいつの最後の手向けとして・・・・・!」

 

そんなこんなで誠たちの戦いの火蓋は切って落とされた。一言で言おう。

その戦いはハリケーンのようだった。己の肉体で戦う誠と百代、揚羽の攻防の隣で

氷を操るエスデスに対し魔法で駆逐せんと放つ一香。もうこれが決勝戦でいいんじゃね?

とほどの凄まじい戦いぶりを見せ付けられては興奮しないはずがないのだ。

 

『壮絶!激しい!怒涛!何と目が離せない戦いを繰り広げるのでしょうか!

堕天使の総督アザゼルさん!?』

 

『いやー、人間の身であれほどの戦いを見せる奴は滅多にいないからな。見ていて壮観だぜ』

 

『人数は川神チームの方が一人多いですが、そんな物は些細だとばかりの戦いですね

ユーストマさん!』

 

『愚直なまでの戦闘経験がものを言うんだ。あの兵藤誠と兵藤一香はな、

冥界や神話体系の者たちと関わりを持ったり、時には神と戦ったりしているそうだからな』

 

『ほ、本当にそうなのですか?とても信じられません』

 

『彼らの友達は神話体系の神々や私たち五大魔王といった者たちが主なんだよ。

ほら、あそこで応援しているオリュンポスのゼウスとポセイドン、

アースガルズの北欧の主神、オーディンもそうなのだよ』

 

『・・・・・(唖然)』

 

司会のその反応に面白そうに微笑む。そして、誠たちの戦いも終わりを迎える。

 

ドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

空中からの爆撃でリングがほぼ吹っ飛び、百代たちはリング外に吹き飛ばされ結果は

誠と一香のチームの勝利となった。

 

「うん、一部だけリングを残して後はふっ飛ばせば必然的に俺たちの勝利だ。せこい勝利だけどよ」

 

「制空権を得た者ができる特権ね」

 

何気にその一部のリング場はハートマークだったりする。

新たなリング場が設置されるまで時間との間が空く。選手控室に赴く二人の背後では

リングの撤去作業に取り掛かっているスタッフがワラワラと集まる。

その頃外では大勢のヒトでごった返ししている。

ドームの外からでも巨大なプラズマテレビが備えられて人の歩む道を阻まないように

その場で腰を下ろして座っている面々がいる。その中、顔を晒し身体はすっぽりと覆う

黒いローブを身に包んでいる少女が意味深にテレビへ視線を向けている。

 

「あなたの予想通り、あの二人が勝ったそうね」

 

一人で誰かと話しているように呟く少女。すると、急に笑みを浮かべた。

 

「そうね。行きましょうか」

 

フードを頭に被るとフッと少女の姿が透明になったように消えた。

 

そして、リングの換えが終わると試合は始まる。

ラブ&ピースチーム VS 兵藤家チームの戦いが。

 

「よー、誠輝。見ない間に随分と成長したみたいだな」

 

「でも、親に勝てるとは思ってないわよね?」

 

「いや、俺は強くなったんだ。二人に勝ってあいつにも勝って俺が強いんだって証明してやるんだ!」

 

数は六倍の差。一見、誠と一香が不利な試合になるだろうと思う者もいるだろうが

二人にとっては些細なこと。

 

「父さん、母さん。俺は赤龍帝だ!」

 

試合開始宣言と同時に誠輝は赤いオーラに包まれてドラゴンを模した赤い全身鎧の

出で立ちとなった。

 

『あーっと!兵藤家チームの兵藤誠輝が赤い鎧を纏ったー!』

 

『二天龍の「赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)」ドライグを宿している現赤龍帝だな』

 

『な、なんとそうでしたか!では、白龍皇は?』

 

『予選で敗退している。あいつはただ強者と戦いたかっただけのようだったな。

現在の赤龍帝と白龍皇の強さはほぼ互角だろう』

 

そう説明したアザゼルの顔はどこかつまらなさそうだった。司会は源氏にも話を振る。

 

『彼が兵藤家の次期当主となれば兵藤家は安泰ですね。現当主の兵藤源氏さん』

 

『いや、戦いとは最後まで見ないと分からないものだ。結果は終わってからではないと

決めつけることはできない』

 

リングでは二人に飛び掛かる兵藤家チーム。

 

「一香」

 

「わかったわ」

 

誠の意図を察しリングの縁まで後退した一香。そして一人で戦う意思の誠に兵藤家チームは

怪訝な顔となって口を開いた。

 

「一人で?おい、おっさん!一人で俺たちに敵うと思うなよ!」

 

「俺たち全員は神器(セイクリッド・ギア)の所有者だからな!」

 

「お覚悟を!」

 

勝利に確信、警戒して仲間とコンビネーション。そんな思いを胸に抱いて誠に攻撃を仕掛けた。

 

「はぁ・・・・・」

 

誠はポケットに手を突っこんだまま、自ら十二人の相手に向かう。

 

「お前ら、調子に乗り過ぎだ」

 

トン、と軽くジャンプをして―――足を横薙ぎに振るった瞬間だった。風が吹き上がり、

激しい竜巻が発生した。

 

「なっ―――!?」

 

竜巻に巻き込まれ、兵藤家チームは絶句する。足を薙ぎ払っただけで

ここまでの規模の竜巻を起こせるなんて信じがたい気持だった。

しかし突然、竜巻が治まったと思えば、数多の光の弾丸が迫っていた。

空中では身動きが取れない。

防御の構えをするが、気の弾丸の一つ一つは鋭く、そして重く兵藤家チームに何度も

直撃してリングの外へと叩きだした。

 

「俺や一香、一誠と違って殻に閉じ籠っている兵藤とは違うんだ。覚えておけ」

 

残りは一人とリングに戻っていた誠輝の前に飛び降りた。

 

「どうだ、父さんは強いだろー?これでもまだ本気すら出していないんだぜ?」

 

「・・・・・」

 

「さて、お前もあっさり負かして次のステージに行かせてもらおう。ドラゴンと戦いたいからな」

 

朗らかに誠は言う。アッサリと自分を残して負けた味方よりも赤龍帝であるのに

この敗北感は何だという思いが誠輝の思考を鈍らせる。次の瞬間。

 

ドサッ

 

「・・・・・あ?」

 

自分は空を見上げていた格好になっていた。どうして自分がこんなことしているのかと

疑問を抱いた時には―――。

 

「勝者!ラブ&ピース!」

 

誠と一香の勝利宣言が下されていた。後に、『赤龍帝が一蹴され敗北』という新聞の

記事が載せられるのは遠くない未来だった。

 

―――○●○―――

 

兵藤家チームは落ち込んだまま会場からいなくなった。その様子を見送る誠と一香の耳に

司会の声が届く。会場を盛り上がらせ、いよいよ決勝戦が始まる。

今まで戦ってきたチームより次元が違うというほど次の相手はドラゴン。

観客たちは押さえきれない興奮を胸に抱いて次の試合を待ち遠しい気持ちで一杯だった。

 

『さぁ!ドラゴンチームとラブ&ピースの試合を始めます!ドラゴンチームの皆さん

おいでなさってください!』

 

歓声が湧き、選手入場の催促をする。入場口の向こうからぞろぞろとオーフィス、

クロウ・クルワッハ、ティアマット、タンニーン、玉龍(ウーロン)が姿を現す。が―――。

 

『おや?他の選手が・・・・・』

 

数が足りない。いるはずの選手がいない。そう認識した司会は首を捻った。

会場も不思議そうにざわめき始める。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

一誠のいないドラゴンチーム。士気は全くない。ただただ無言で誠と一香に見詰めるばかりだった。

誠はドラゴンチームを棄権させるが為、司会に声を掛けようと口を開いた。

 

「司会の人、ドラゴンチームの兵藤一誠は―――」

 

その時だった。虚空から黒と紫が入り乱れたロングストレートの少女がフードを

外しながら姿を現した。

 

「こんにちは、元兵藤家当主の兵藤誠と元式森家当主の兵藤一香」

 

「女の子?あなた、誰かしら?」

 

「お気にせず、この場にいたはずのとある子の代わりにあなたたちと戦う為に馳せ参じてまいりにきただけなので」

 

意味深に発する少女だった。会場は突然現れた少女に怪訝な気持ちを抱いている。

 

「この大会はあなたたちの勝利となっても構わないわ。

そうね、エキビションマッチの形でどうかしら?三つ巴の戦いをしてね」

 

不敵に笑む少女の提案に司会は源氏に求める視線を向けると、

 

『いいだろう。俺が許す』

 

『よ、よろしいのですか?』

 

『あの乱入者の登場でドラゴンチームは試合の参加権利はなくなったのだからな。

最後の余興として楽しませてもらおう』

 

大胆不敵な物言いを発する源氏に決勝戦は急遽エキビションマッチを行うことに決定した。

 

「だ、そうよ?」

 

「・・・・・お前は何者なんだ?テロリストか?」

 

可笑しな質問だと少女は口元を緩ます。

 

「テロリストだったらこの場所に堂々と現れないでしょ?私がこの場に来た理由は、

あなたたち二人と戦うこと」

 

「・・・・・その理由は?」

 

「戦えば分かるわ」と不敵に告げた時、

 

『始めろ』

 

『え、は、はいっ。では、急遽エキビションマッチを始めます。試合、開始っ!』

 

源氏に催促される形で試合開始宣言を告げたと同時にオーフィス以外の面々が動き出す。

 

「うふふ、楽しくなりそうだわ」

 

「随分と余裕だな?」

 

ティアマットが口先に魔方陣を展開すると、無数の青白い魔力弾を放った。

少女は避ける素振りもせず、敢えてその攻撃を受けた。が、信じがたいことに

ぶつかる前に吸い込まれるようにティアマットの魔力弾は消失した。

 

「なんだ?」

 

「どけティアマット!ヤッハー!」

 

大はしゃぎな玉龍(ウーロン)。クロウ・クルワッハは一香、タンニーンは誠に攻撃を仕掛けている中で

少女に飛び膝蹴りを放った。

 

「五大龍王の一角のドラゴン、若手の龍王だったわね」

 

身体を横にずらし躱しながら確認するように発した少女の横からティアマットが

また魔力弾を放った。しかし、またしても吸い込まれるように消失した。

 

「魔力を吸い取る力か。厄介な能力を持っている」

 

「先祖代々から受け継いでいる自慢の能力よ。ドラゴンだって相手にできる」

 

「だったら相手になってもらおうじゃん!」

 

両腕を構えて低い態勢で肉薄する。玉龍(ウーロン)に手を突き出すと魔力弾を放ったものの

容易く弾かれて勢いよく両腕を前に突き出された。少女は笑みを浮かべ、

人差し指をスッと玉龍(ウーロン)の額に差した。

 

「・・・・・あ、れ」

 

次の瞬間、ティアマットは目を丸くした。若手とはいえ五大龍王の一角を担うドラゴン、

西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)が少女の前に倒れたのだから。

 

「お前・・・・・なにをした」

 

「別に大したことじゃないわ。ただ、力を全て奪って同時に眠らせたわ。

相手が五大龍王だから少し緊張するわ」

 

肩を竦め、倒れた人型ドラゴンをリングの外に放り投げた。

 

「ただの人間が、龍王クラスのドラゴンをこうもあっさり破ることはできない。

ただの人間ではないな」

 

ティアマットは警戒した。下手すれば自分も二の舞になると。だからこそ、

背中に翼を生やして宙に浮き、上空からの魔力弾を敵味方関係なく放った。

 

「魔力弾合戦をしましょうか」

 

少女も魔力弾を放った。一つ一つがティアマットの魔力弾と相殺し、観客の目をくぎ付けにする。

 

「手強いな・・・・・」

 

「そう?なら、もっと―――放ちましょうか」

 

いきなり少女が放つ魔力弾が極太のビームと変わってティアマットを肉薄する。

それにはもっと上昇して回避せざるを得なかった。少女は不敵に口の端を吊り上げて―――、

 

「やるやる♪じゃあ、これはどうかしら」

 

空で警戒するティアマットは拳を構えた。

どんな事でも対応する自信があると身体から醸し出し、

身構えていると少女が亜空間から取り出したとある五つの切っ先がある槍。

それを目にした誠は焦心に駆られてティアマットに叫んだ。

 

「その槍は・・・・・まずい、ティアマット!彼女の槍を投げさせるな!」

 

「なに?」

 

「―――ブリューナク!」

 

投げ放たれた槍が稲妻の如く、避けようとする最強の五大龍王のドラゴンの身体を貫いた。

 

「・・・・・っ!?」

 

腹にポッカリと開いた穴。目を最大に見開いて、そのままリング外に落ちた。

 

「ティアマットが、負けただと?」

 

「次はあなたたちよ」

 

槍は意志を持っているかのように今度はクロウ・クルワッハへ襲いかかった。

稲妻のように飛来してくる槍から避け続ける最強の邪龍を余所に誠は叫ぶ。

 

「その槍をどこで手に入れた!」

 

「借りたのよ」

 

「誰にだ!」

 

少女に飛び出す。その勢いは留まらずあっという間に懐に潜り込んで

華奢な体の少女の首を掴んでリングに叩きつける感じで押し倒した。

 

「答えろ、あの槍はどこでどうやって借りたというんだ」

 

鬼気迫る誠に少女は自分の首を掴んでいる手を力強く握りしめて言った。

 

「私と同じ同族の血を流す子からよ」

 

少女の全身が闇に包まれだす。闇は形となり両腕に黒い籠手と装着、

顔に入れ墨のようなものが浮かび、

三対の黒い紋様状の翼が背中から生え出し、龍のような黒い尾も腰から伸びだした。

 

「っ!?」

 

誠は大きく目を張った。身体から力が奪われる感覚に襲われ、

何時しか立つことがままらず、立ち上がった少女の前で跪いた。

 

「誠!?」

 

「なんだ、あの姿は・・・・・っ」

 

一香とタンニーンが思わず戦いを止めて少女の姿を見詰める。

会場からの意味深な視線を一身に浴びて、

ブリューナクを手元に戻した少女は両腕を広げてこう言った。

 

「さぁ、全力でかかってきなさい。それがこの子の願いなのだから」

 

「・・・・・誰の事を言ってるの?」

 

「あら、まだ気付かない?オーフィスとかクロウ・クルワッハ辺りなら気付いているのかと思ったけど・・・・・」

 

龍神と最強の邪龍に意味深な視線をくるが、当の二人は首を傾げるだけだった。

 

「そう・・・・・本当に察しないのね。いえ、私が故意で気配を隠しているからわからないのかしらね」

 

「あなた、なにを言いたいの。そして何者なのか教えてもらえないかしら?」

 

説明を乞われて少女は頃合いかしらと内心思い、ブリューナクを亜空間に仕舞ってから発した。

 

「・・・・・遥か昔、とある魔人が一人の人間と結ばれ生まれたその双子が後に兵藤、式森と名乗るようになったあなたたちの遠い親戚ってところかしら」

 

「魔人・・・・・?」

 

「あら、知らなかったの?意外ね、当主だったら知っているのかと思ったのだけれど。ああ、もしかして闇に葬られた事実なのかしら?」

 

ザワッ・・・・・!

 

会場が一気にざわめき始めた。そんな事実は聞いたことがないと兵藤家と式森家の事に関する知識を得ている者からすれば、信じられない話だった。

 

「・・・・・私たちの血にその魔人の血が流れていると言うの?」

 

「血と言うより力ね。血の方は殆ど無くなっているはずよ。人間と魔人のハーフがまた人間と結ばれ続ければ段々と血が薄くなって最後はなくなるもの」

 

「その姿は魔人の姿だって言うの・・・・・」

 

「これは力を解放した姿よ。魔人は人みたいな姿で私みたいに生きているわ」

 

そう、笑みを浮かべた少女の前に源氏が観客席から跳んで現れた。

 

「口を閉ざせ。それ以上は兵藤家と式森家にとって禁忌に触れる」

 

「・・・・・なるほど、あなたは知っているのね。でも、もう遅いわ。今の会話、世界中に知れ渡ったもの」

 

「貴様・・・・・っ」

 

源氏から異様なプレッシャーを感じ始め、少女は浮かべていた笑みを消して凜とした声で語った。

 

「とある幼い子供が同族の者に暴力を振るわれ続けました」

 

「っ!」

 

「子供は泣きました。何度も何度も、実の兄ですら暴力を振るわれ、外でも家でも子供にとっては嫌な場所でしかありませんでした」

 

おとぎ話を口にして読むように少女は口を動かし続ける

 

「それでも、子供には救いがありました。お友達、メイド、お父さんとお母さんの愛情。それを縋るように子供は毎日毎日生きてきました。ですがとある日のこと。子供は実の兄にお腹をメイドが愛用していた包丁で刺されて一人寂しく死んでしまいました」

 

「あなた、どうして、それを・・・・・っ!」

 

一香が声を震わせ動揺する。一部の者しか知らない嫌な事実を始めで出会った少女が知ったかぶりではなく、本当にその場にいたかのような口調で言うのだから。

 

「子供は最強のドラゴンと不動のドラゴンの力によってイレギュラーなドラゴンとして甦り、

そして子供は自分を苛めた同族に復讐を誓って世界中で修行をすることになりました。

これが子供の英雄譚。いえ冒険譚と言った方がピッタリかしら?―――兵藤家は嫌な一族ね。弱いと言うだけ大人も子供も関係なくその弱かった子供を虐めていたのだから。知っていたのに手を差し伸べようともしなかった現当主の兵藤源氏さん?」

 

「・・・・・」

 

源氏は無言で少女が言い続けるのを見守るだけだった。肯定も否定もしない。

 

「そして可哀想に。子供はテロリストによって殺された。九尾の御大将を救う為に自分の命を引き換えに、ね」

 

「・・・・・っ」

 

改めて言われると心に凄まじい痛みを覚える。息子が死んで悲しまない親はいないのだ。少女は跪いている誠にも一瞥して一香に視線を戻した。

 

「お話はここまでにして戦いましょうか。今度は私のとっておきの力を使ってね」

 

少女はそう言った直後、膨大な真紅色の魔力のオーラに包まれだし

 

「―――禁手化(バランス・ブレイク)!」

 

力強く発した途端に魔力は鎧へと造形していき、一香たちを驚かせる。

 

「その鎧は・・・・・っ」

 

「この姿の名前は・・・・・『真なる赤魔龍神帝(アポカリュプス・グレートカオス・ドラゴン)』ってちょっとの間だけそう呼んでくれるかしら?意味は・・・・・分かるわよね?」

 

頭部に鋭利な真紅の角を生やす身体の各部分に金色の宝玉がある龍を模した真紅の全身鎧。

 

『―――っ!?』

 

その鎧はこの世界で唯一纏える者がいた。しかし、その者は少女の言った通り亡くなっている。

 

なのになぜ、どうして、有り得ない、信じられない、理解できないと疑問や疑念が湧きあがるばかりだった。

 

何かの見間違いだと思いたい。しかし、自分が知っている真紅の鎧に黒い刺青のような紋様が全身に浮かんでいる似て非なるものであることを認識できるものの―――。

 

「あなた、その力をどこで手に入れた・・・・・ッ」

 

怒気が孕んだ声、一香から迸る魔力で風が吹き上がる。

 

「それは、私の息子の力。なのにどうしてあなたがその力を振るえるのっ」

 

「知りたいなら力づくで―――」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

クロウ・クルワッハが少女の言葉を遮ってまで迫った。突き出される拳は

真紅の鎧に衝撃を与えた。

 

「イッセーを返せ」

 

「っ、反則でしょ」

 

最強の龍神も動きだした。少女の目の前に小さな手を開いたオーフィスがいて魔力の波動を放って少女に攻撃した。

 

「でも、グレートレッドに破れたあなたの攻撃をなんとか耐えるぐらいの強度はあるみたいね。冷や冷やするわ」

 

吹っ飛ばされながらも鎧は無傷であることを確認し、体勢を立て直して三人から距離を置いた。

 

「それ、どうした」

 

「返答次第ではタダじゃ済まさない」

 

「・・・・・でも、危険なのは変わりないみたいね」

 

鎧の中でうっすらと冷や汗を浮かばせる少女。すると、リングに続々と少年少女、大人までもが現れた。

 

「悪いけど、この大会は中止にさせてもらうよ源氏殿?」

 

「魔人・・・・・あの厄介な一族の生き残りが真龍の力を持っているからな」

 

「私たちの手で鎮圧させます」

 

「三大勢力のトップがたかが魔人の一人相手に警戒し過ぎでしょ!?」

 

神、魔王、堕天使の総督が誰よりも前に立ち、少女と対峙する。

 

「私の邪魔をしないでくれる?兵藤一香と兵藤誠と戦う為に来たんだから」

 

「何故彼女たちと戦う?今世代の魔人のキミは彼女たちと接点があるようには思えないね」

 

魔王フォーベシイが真っ直ぐ少女の姿を捉えて訊ねた。

 

「・・・・・」

 

少女はスッと自分の胸に手を当てて言った。

 

「私は代わりに戦う。意志を受け継いでいるだけに過ぎない」

 

「・・・・・誰のだい?」

 

「―――兵藤一誠、彼のよ」

 

度肝を抜かされた。兵藤一誠の意思を継ぐ者が一誠の代わりに戦いに来たなどと

関係者で無い限り実行などしない。

 

「キミは、彼の何だい」

 

「同じ力を受け継いでいる者、そして互いの魂を半分に分けあった一心同体」

 

「魂を分けた?」誰もがその意味が分からないでいると少女は肯定した。

 

「そうよ、だから私は彼しか持っていない力だって振るえる」

 

「・・・・・んなら、その魂を取り出して再び復活させることもできるんだな?」

 

「可能じゃない?だけど、真龍と龍神の力で創り上げられた肉体がない今、私から彼の魂を奪わせはしないわ」

 

少女は空高く跳躍して魔人の翼を生やしだすと手に強大な太陽と思わせる火炎球を作り出した。

 

「なにを―――!」

 

「兵藤一香の戦い他にも私は受け継いでいることがある。そっちも果たさないといけないから―――邪魔よ」

 

リングの中央にソレを砲撃として放った。迫りくる巨大な魔力にオーフィスがあっさりと小さな片手で明後日の方向へ受け流し―――宇宙にどこまでも伸びて行った。

 

「・・・・・オーフィス」

 

やはり一番厄介な存在と少女は思った。戦えば確実にこっちが不利。ならば―――少女は動く。真っ直ぐリングに向かって落下する。

 

「くるぞ!捕まえろ!」

 

アザゼルが叫びだすと同時に少年少女たちが一誠の力を受け継いでいる少女に飛び掛かった。

 

「邪魔よ」

 

周囲の空間が歪みだし、そこから数多の鎖が飛び出しては少女にとって邪魔者の身体を拘束して動きを封じた。

 

「こ、これは・・・・・!?」

 

見覚えのある能力を前にして少女は楽々と通り過ぎていく。

 

「お前、ただ能力を受け継いでいるわけじゃないな!」

 

自分に向けられる発言に無視して少女は―――無機物のリングを水の中に潜るようにして沈んだ。

 

「くっ、逃がしたか!」

 

苦々しい顔で唸るアザゼル。一方どこまでも深く常闇の中を潜り続けることしばらくして、ようやく地面から空洞の空間に抜け出て少女は着地した。

 

「ここね」

 

ドクン。

 

「分かってるわよ。そう急かさないで」

 

周囲に魔力を火炎球に換えて明かりを灯す。ぼんやりと数メートル先まで見えるようになり、

何かに導かれていくように進む。空気はひんやりと冷たく、少女の肌に冷気が感じさせる。

歩いていくにつれ、異様な力を感じ始める。結界の類なのだろう、と感じつつ歩みの速度を変えず歩き続けると、

そして―――目的地に辿り着いた。周囲の壁に掛け立てられている蝋燭に火を付けると何十ものの古い札が古い棺桶にビッシリと張られていた。

 

「これかしら、でも随分と古いわね。中身はミイラになってなければいいけど」

 

右手に黒と紫が入り乱れた赤い宝玉がある籠手を装着すれば、札に触れた途端に封印の力が四散した。

 

「さぁ・・・・・あなたのやり遂げたかった一つを果たして上げるわ」

 

―――○●○―――

 

地上では未だに観客が腰を座って見守っていた。ブーイングもしばしば飛び交っているが、当の本人たちはそれどころではなかった。

 

「魔人と一誠ちゃんが通じていた?」

 

「ああ、問題視するほどの危険性はないから野放しにしていたがな。

まさか、あいつの魂を半分とはいえ宿していたなんてな」

 

「直ぐに捜索隊を派遣しよう。害意はないとはいえ、見過ごすことはできない」

 

「一誠が甦らすことができる唯一の鍵」

 

「でも、逃げられた。探すのは困難では?」

 

「いや、あの女は知ってる。私が通っている川神学園の同級生だ」

 

「意外とすんなり素性が知れたな」

 

百代の情報で先手を手取れることができた。

 

「しかし、あの戦争から随分と時が経っているのに人間界に魔人の力を受け継いでいる子がいたなんてね」

 

「悪いな、アイツが問題ないって言うから敢えて言わなかったんだよ」

 

「私も話程度なら聞いたことがあるわ。悪魔より数は少ないけれど強力な能力を持っているって。もしかして魔力を消すことがそうなの?」

 

「いやリアス。それだけじゃない。消すんじゃなくて奪うんだ。その気になれば触れるだけで魔力を枯渇、または悪魔一人の魔力を全部奪って殺すことだってできる」

 

それはとても強い能力だとリアスは顔を強張らせた。魔力で戦う種族にとってはまさしく天敵な種族だろう。それが、一誠の魂を宿し意志を受け継いでいる謎の少女がそうなのだ。

 

「だが、誠の奴が倒されたとなると闘気をも奪うようだな。こいつは厄介だ。アイツが倒される所なんて初めて見たぞ」

 

「私もそうなるでしょうね。でも、兵藤と式森が魔人の血と力を・・・・・」

 

「色々と複雑なことになりそうですね」

 

ヤハウェが一香にそう言った時、オーフィスが口を動かした。

 

「ここから離れる」

 

「え?」

 

刹那―――リングだけでなくドーム全体に強い揺れが起こり、地面から眩い真紅の閃光が迸り始めた。

 

「こいつは―――!?」

 

「皆、リングから離れて!」

 

全員が危険を察知し、リングから離れた途端に真紅の壁が地面から生え出したように見えたが、それは膨大な魔力がリングを呑みこんで天まで昇った光景であることを一香たちが悟るのに数秒が掛かった。

 

「デ、デカい・・・・・っ!」

 

「あいつ、まだ逃げていなかったのか!」

 

次第に真紅の魔力は小さくなりやがて消失した時にはリングの影も形も残さないほどドームの中央はポッカリと大きな穴が残っていた。

 

「まさか・・・・・」

 

源氏が嫌な予感を覚えた。当主でも知らないはずのある物の封印が施された場所がここであることを知っていたからだ。奈落の底みたいに常闇しか見えない大きな穴。

―――その穴から翼を生やして昇ってきた少女が現れた。真紅の全身鎧は纏っていなかったが再び纏い、戦闘態勢に入った。

 

「お待たせ。それじゃ、もう一度始めましょうか?」

 

「魔人・・・・・!」

 

「・・・・・と、そうしたいけどもう大会どころじゃないから止めるわ」

 

急に戦意が感じなくなり面々は呆けた。

 

「言ったでしょ。私は大会で兵藤誠と兵藤一香と戦う兵藤一誠の意思を受け継いでいるって。なのに余計な人たちまでしゃしゃり出て来るし、しかも戦うなんて私自身も望んでいないの。わかる?それと真龍と龍神の肉体が用意できたら素直に彼の魂を返すわよ。それだけは約束する」

 

「・・・・・本当?」

 

「嘘は吐かないわ。私だって彼との間に子供、魔人の力を残したい思いもあるし」

 

『・・・・・は?』

 

「っと、口が滑った。まぁ、そんなわけで身体が出来上がるまで一誠の魂は預かっているわ。それじゃーね」

 

翼を羽ばたかせ空の彼方へと消えていく少女。後に残された面々は―――。

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

と、絶叫したのだった。その後、大会はラブ&ピースの勝利と終わらせ、

誠は次期当主として再び当主に返り咲くを得なくなった。

 

 

 

 

「和樹さん、今の心境は?」

 

「わけが分からない、って気持ちが大きいね。もう、色々と衝撃がありすぎて当惑している」

 

「兵藤くん、死んでいたんだね・・・・・」

 

「それに同じ一族に虐められていたなんて」

 

「でも、これで納得できたよ。彼、兵藤一誠の強さの秘訣を」

 

 

 

 

「ヴァーリヴァーリ!イッセーが甦るってよ!よかったな!」

 

「・・・・・ああ、そうだな」

 

「ですので、その殺気を抑えてもらえませんか?それと英雄派に攻撃を仕掛けないでください」

 

「にゃはは、乙女な白龍皇だねー」

 

 

 

 

「曹操、これは驚いたんじゃないか?」

 

「ああ、まさか死んでいて魂の状態で魔人の中に宿っていたとはな」

 

「肉体は滅んでいると断言しても良いようだな。サマエルに食われる直前に全ての力を放ってその隙に脱出したというのか」

 

「・・・・・取り敢えず、しぶとく生きていると言うことだな(・・・・・よかった)」

 

 

 

 

「あの弱虫がドラゴンだったなんて俺は知らねぇぞ!」

 

「それを言うなら俺たちもそうだ。真龍と龍神の力で甦ったドラゴンだってな」

 

「ぼ、僕たちを復讐って本当なのかな・・・・・っ」

 

「まぁ、そう思いを抱くだけ他の奴らはあいつを虐めていたからな。俺たちも別に助けようなんてあの時は思ってもなかったし」

 

「それよりもあなたが実の弟を殺したという事実は本当なの?もしもそうなら軽蔑するわ」

 

「知らねぇよ!俺は女を思うがままに食ってきたとしても殺した覚えはねぇっ!」

 

「・・・・・どちらにしてもあなたは女の敵ね。私たちに近づかないでくれる?孕んじゃうわ」

 

「て、てめぇ・・・・・っ!」

 

「おい、当主がお呼びだ。行くぞ」

 

 

 

「ソーナ、私、彼の事全然知らなかったわ」

 

「リアスが気を病むことでもありません。誰でも言いたくない秘密だってあるものですから」

 

「その通りだリアス。俺たちは兵藤一誠の復活を待つだけだろう?」

 

「サイラオーグ・・・・・ええ、そうね・・・・・」

 

 

 

「んで、魔人の存在が浮いたがお前さんらはどうするよ?」

 

「どうするもなにも、放っておくわけにはいかないだろうよ」

 

「テロリストと接触する恐れがある。彼女は手を貸すとは思えませんが」

 

「あの子自身も魔人だなんて知らなかったわ・・・・・」

 

「魔人の力を受け継いでいる、ってのが正解だろうな」

 

「取り敢えず、しばらくの間彼女を監視しましょう。念には念を・・・・・」

 

 

 

―――シオリ

 

「なに?」

 

―――悪い、迷惑を掛ける。

 

「私とあなたは一心同体、気にしていないわ。それにこの機会で魔人たちが動いてくれるなら私は会ってみたい」

 

―――俺もだ。どんな奴らが現れるのか楽しみだ。

 

「それが敵だったら仕方ないわね」

 

―――その時は守ってやるよ。復活した次第に。

 

「今は私があなたを守っている形なのだけれどね。でも、ええ、期待してるわ私の旦那さま」

 

―――だ、旦那?


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