HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード30

「うわー、あんなに兵藤一誠さんがいますね和樹さん」

 

「そうだね。彼のおかげで予選のルールも把握できたのだけど、

同じ顔が持つ人があそこまでいるとなるとちょっとした不気味さを感じるよ」

 

式森和樹も大会に参加していた。チームメンバーは神城龍牙、カリン、

数人の式森家の者たちと建物の屋上から地上を見下ろして眺めていた。

 

「僕たちはどうします?運よく『石板』を見つけたのは良いですが肝心の数字のボールは

見つかってませんよ?」

 

龍牙の視線の先には窪みが四つある無機質な石板。偶然にも空から見つけた和樹たちは

ボール探しよりも

石板を隠蔽工作してそれ以降はずっと静観の姿勢を貫いていた。

 

「うーん、探しに行ってもらっている仲間からの連絡もないってことは見つかってないんだよね。

ここで僕たちの技や力を披露したら後々大変だ」

 

「力を温存したいのだろう?分かっているが、私はあんまり納得できないぞ」

 

「カリンちゃんの性格から鑑みればそうだろうけどさ。ここは辛抱強く我慢しててくれ」

 

「だ・か・ら!『ちゃん』付けはするなって言ってるだろう!」

 

レイピアに風を纏わせ振りかざそうとするカリンを他のチームメンバーに取り押さえられ、

居場所が把握される危険から難を逃れた。カリンの様子を苦笑いを浮かべ、周囲を見渡す。

 

「しかし、邪龍や龍王が好き勝手に暴れて見ているこっちが冷や冷やします。

攻撃の矛先が、流れ弾が来ないことを願いますよ」

 

「頭が二つしかないアジ・ダハーカの生命力も凄いよ。誰かと戦っている様子だけど

きっと僕たちより強い参加者となんだろうね」

 

「できればそんな相手と戦いたくはないですが、世の中は甘くないのでそうはいかないでしょう」

 

「だねー」

 

相槌をする和樹。この大会に参加した理由は特にない。あるとすれば父、数馬からの指示だった。

 

―――兵藤・式森以外の者たちを勝たせるな。

 

それが今の和樹が戦う理由だった。だからこそ、石板を隠蔽工作をして成り行きを

見守っているのだった。屋上に認識障害の結界を張って、自分たちの様子を観戦している

現実世界のものたちから姿を隠してまでだ。

 

「和樹さま」

 

チームメンバーの一人が声を掛けてきた。前を向いたまま、

「なに?」と返事をしたら・・・・・。

 

「・・・・・この結界を難なく入り込んで普通にボールを石板に置いている者がいるんですが」

 

「・・・・・は?」

 

式森の結界を難なく入ってきた?嘘でしょ?信じられない思いを胸に抱きつつ石板の

方へ振り向けば―――。確かに普通に視線を自分たちへ向けている二人の男女がいた。

 

「・・・・・」

 

開いた口が塞がらなかった。一体いつの間にこの場所を突き止め障壁を突破したのか。

入り込んでくる際、侵入してくる者の探知だって施していた。

それをあっさり無視したかのように自分たちの背後に立っているのだから

有り得ないの一言で尽きてしまった。

 

「久し振りだなえっと、和樹くんだったな?」

 

「え、は、はい・・・・・」

 

「この結界、凄いけどちょっと複雑すぎて穴が一つか二つあったわよ?まぁ、この建物の

中から入り込んだ私たちに気付かなかったのも無理はないでしょうけどね」

 

―――建物の中から侵入した!?幻術、罠を至るところに仕掛けたはずだったんですけど!?

和樹の心情を察したのか、女性―――兵藤一香が微笑した。

 

「まだまだ若いわね。完璧だった仕掛けは更にその上の仕掛けができる者からすれば

子供の悪戯みたいなものよ?だから、あなたが気付かないぐらい

全ての魔法を解除させてもらったわ」

 

「んな・・・・・っ!?」

 

「さて、この結界も解かせてもらうわよ?」

 

小型の魔方陣を展開した一香は、軽くデコピンをして魔方陣を割った次の瞬間。

和樹が目が飛び出そうなぐらい

張った障壁が一瞬にして解除された。そして自分たちの姿が世間に再び晒される。

 

『おおっと!?これは何時の間にでしょうか!一番のボールを石板に置いたチームがいました!

そのチームの名は、ラブ&ピースチーム!兵藤誠選手と兵藤一香選手が先に本選出場の

権利を得ましたぁっ!』

 

アナウンスがバトルフィールド中に流れる。

 

「・・・・・式森家元当主・・・・・式森家の歴代当主の中でも逸脱した魔法の才能が

あったあなたがどうしてそこまでできるのですか・・・・・?」

 

「世界にはいろんな魔法の法則があるの。式森家の魔法だけじゃない。世界中に様々な

魔法の文明や知識、力が溢れかえっている。私はその全ての魔法を勉強して

本当の意味で私は一流の魔法使いになった。まだまだゼルレッチさんからしてみれば

赤子当然だろうけどね」

 

光に包まれる二人を見詰めていれば、真紅の長髪の少年が和樹の背後に現れた。

そして、擦れ違うように消え去る誠と一香を見ては声を掛けようとしたものの叶わなかった。

 

「まさか、父さんと母さんまで参加していたなんてな。こりゃハードな戦いになりそうだ」

 

「・・・・・頑張りなよ?」

 

「ああ」と相槌を打つ少年は手に持っている三番のボールを石板の窪みに収めれば、

アナウンスが流れ、ドラゴンチームの本選出場の権利を得たと知らされる。

光に包まれ始める少年は和樹に手を振って消え去った。

 

「運命って、わからないものだねぇ・・・・・」

 

―――○●○―――

 

「はっはっはっ、よー一誠。お前もやっぱり参加していやがったな」

 

「それはこっちの台詞だよ。父さんと母さんが参加するなんてどういうこと?」

 

「なーに。あのクソ親父が面白い催しをするもんだから参加しないわけにはいかないだろう?」

 

「なんか納得したよ」

 

「それよりも一誠。あなたのチームメンバーは全員ドラゴンだなんて非常識も良いところよ?良い意味で」

 

「それでも家族を傷つけるほどの実力者がいたよ。アジ・ダハーカの首を斬り飛ばすほどだったし」

 

今は自分の中で回復している最中だけどと漏らす。

 

「見てたぜ。あの爺さんはまだまだ実力は劣っちゃいない。今のお前じゃまだ勝てないよ」

 

「デスヨネ・・・・・・」

 

「あなたの人生はまだまだこれからだからその内にストラーダさんを倒せるわ」

 

「その間にもっと歳を取っているから勝っても勝った気がしないから」

 

誠と一香と会話する一誠。VIPルームにて予選が終わるまでここで待機中。オーフィスとクロウ・クルワッハ、人型の姿でいるティアマットや玉龍(ウーロン)、タンニーンも一緒だ。五人は何やら話しこんでいるが、あの光景は中々見られないだろう。

 

「さーて、俺たちは必ずお前たちと当たるだろう。その時は手加減なしで掛かって来い。あ、オーフィスはダメだからな?絶対に勝てないから」

 

「オーフィスは戦わせないよ。俺も気が引くし」

 

「すっかりマスコットの位置に定着してるわね。可愛いから許す!」

 

何に対して許すのかはこの際気にしない方面でいこう。予選はまだまだ終わってない様子。この部屋からでも予選の様子は見られる。一誠と関わりのある者同士の奮戦がしばしば見れる。

 

「残りのチーム、一体誰が勝ち残るか見物だ」

 

「一番有力なのはあの五人の覆面とストラーダさんが率いる教会チーム、それと―――」

 

指を折りつつ候補の名を挙げる一香を余所に扉からノック音が聞こえる。

一誠が対応すると扉の向こうから一人の巫女装飾を身に包んだ九本の狐の尾や獣耳を生やす少女とその付き人である雰囲気を醸し出す山伏姿で鼻の長い老人が入ってきた。

 

「あら、もしかして八坂さんのお子さんかしら?」

 

「はい、初めまして私は九尾の御大将の娘、九重と申します」

 

「へぇ、最後に会ったのはキミがまだまだ赤ちゃんの時だったから俺たちのことは覚えてないだろうに」

 

「母上からお二人の事を教えて下さいました。面白い人間たちであると笑って・・・・・」

 

九重はそう言うが、どこか暗い顔をしている。落ち込んでいるようでも見える。

 

「どうした?」

 

「・・・・・」

 

返事をせずダンマリと何かと葛藤しているようにも窺える。そんな九重に付き添っている男性が重々しく口を開いた。

 

「実はお願いがありまする」

 

「ん?お願い?天狗の長のあなたが私たちに?」

 

首を傾げ「天狗?」と疑問を浮かべる一誠を誠は説明口調で語る。

 

「あー一誠は知らなかったな。この老人は烏天狗という妖怪の一族なんだ。九尾一族と古くから親交が深い。神話体系の神々より接しやすかったよ。物腰が柔らかくて何時も歓迎してくれるし。お前のことも知ってるぞ?赤ちゃんの時の話だがな」

 

「では、そこの少年はお二人の・・・・・おお、ご立派になられましたな」

 

「あ、どうも。兵藤一誠です。人間のように見えるけど一応ドラゴンです」

 

「ドラゴン?いえ、並々ならぬ力を感じるのでまさしくその証拠でしょう。私は黒雨と申します。以後お見知りおきを」

 

ペコリとお辞儀をして挨拶を交わすと本題とばかり黒雨はその場で土下座をして必死に懇願した。

 

「お願いがございます!どうか、八坂姫を救ってくだされ!」

 

「・・・・・八坂さんに何か遭ったの?」

 

真剣な面持ちとなる一香。黒雨は深々と土下座をしたまま頭を動かす。肯定と。

 

「此度の大会は私たち妖怪も協力しております。代々兵藤家や式森家とは古くから親交があり次期当主を決める際には支援をしておりました。今回も支援をと動いていたところ、突然八坂姫がお姿を消したのです」

 

「姿を消した・・・・・自分の娘を残すようなヒトじゃないから・・・・・何者かに誘拐された?」

 

「はい、仰る通りです。姿をお見せにならない八坂姫を捜索していたところ同行していた警護の烏天狗を保護しました。発見した時は瀕死の状態で『何者かに襲撃され、攫われた』と死の間際に告げて」

 

「・・・・・ただの人間が烏天狗を破って尚且つ八坂さんを攫うなんて無理だ。彼女自身も強いからな。

だとすれば―――」

 

思い当たることは一つだけ。―――テロリスト。

 

「このことは他の勢力には?」

 

「・・・・・いえ、告げていません」

 

「まだ、協力態勢を敷いていないからか?」

 

黒雨は首を横に振って懐から紙を取り出した。その紙を受け取った誠の視界にはある文字が書かれていた。

 

『八坂姫を無事に返してもらいたくば他の勢力に告げるな。こちらの要求に応じれば八坂姫を返す』

 

「・・・・・なるほど、これじゃ言えないわな。しかし何を要求しようとしているんだ?」

 

顎に手をやって考える。その紙は一香と一誠の手にも渡り、同じように考え込む。

 

「それも警護の烏天狗の傍にありました。ですが、それ以上のことはまだ不明のまま・・・・・」

 

「打つ手もない上に手をこまねいているというわけか」

 

「お二人の参加を知った時は最後の希望と思いました。私たちはお二人のお力をお借りしたいのです。

 兵藤家と式森家には伝えれませぬ。大事な時期にこのような騒ぎをお伝えしたら大変な迷惑をおかけします」

 

「「いや、迷惑掛けて良いけど?」」

 

「えー・・・・・」

 

自分の家をなんだと思っているんだこの二人はと内心呆れる。

 

「アザゼルのおじさんたちには言えない事なんだよね?」

 

「そうだな。後手の俺たちが打って出るには先に手を出す相手の動きを知ってからじゃないと何もできない。その時を待つしか方法がないな」

 

「それに、彼女はこの地に流れる様々な気を総括してバランスを保つ重要な役目を背負っている。京都全域の気が乱れてないからまだ身柄は無事ってことぐらいしか分からないけど」

 

「・・・・・」

 

誰が八坂を攫ったのか一誠は検討がついている。いまでもあのバトルフィールドにいるであろう自分の剣を狙っている一人の少女を思い浮かべる。

 

「黒雨のお爺さん。予選で敗退した人が現実世界に戻ってくる専用の場所があるよね?」

 

「はい、もちろんありますがそれがなにか?」

 

「うん、その場所を案内してくれない?」

 

一誠のお願いに怪訝な顔つきとなるが、黒雨は一誠が求める場所へと案内した。

 

 

敗退した選手。それは怪我をしている者たちも含まれ、目的地に辿り着いた頃には

多くの医師が怪我人の治療を施す為、その場所で待機をしていた。治療室は割と直ぐ近くにあり、

邪魔にならないところで一誠はずっと待ち人が現れるのを静かに佇んで待っている。

と―――。一誠の目にとある少女を見つけた。深い傷を負って立つのもやっとだとばかりのその少女に懐から取り出した高級そうな瓶の蓋を開けて突き付けた。

 

「フェニックスの涙だ、飲め」

 

「・・・・・」

 

少女は怪訝な面持ちで一誠を見るが、フェニックスの涙を最終的に飲んで傷を癒やした。

 

「さて、お前に聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

「オレに何の用だ?」

 

声を殺して言った。

 

「モルドレッド。九尾の御大将の八坂さんを知ってるな?」

 

その質問にモルドレッドは無言で一誠を見詰める。その状態はしばらく続くかと思いきや、口に出さず首を縦に振って肯定した。

 

「なら、要求ってなんだ?」

 

その問いかけにモルドレッドは指を一誠に突き立てた。

 

「お前だ」

 

「・・・・・?」

 

その指をマジマジと見詰め、自分の背後に目を向けるとそこには誰もいない。そしてまたモルドレッドの指を見詰めて―――。

 

「俺?」

 

自分で自分を指す一誠だった。

 

―――○●○―――

 

その日の夜。予選は無事に終わり、本選は三日後と持ち越す。京都のとあるホテル、サーゼクスホテルにて本選進出を決めた一誠たちを祝うパーティが開催されていた。

 

「ユーストマ!秘蔵の酒、あのソーマの神酒を飲むぞー!」

 

「あの酒か!?くぅっ!気前のいいやつだぁ!」

 

「一誠くんはわらしのものなんれすー!」

 

「違うわ!一誠くんはわらしのー!」

 

「この二人、酔っ払っているな」

 

パーティは大盛り上がり、面々は楽しげに料理の味を堪能したり、一誠を巡る言い争いをしたり、

久し振りに再会する者同士が会話の花を咲かせる。

 

「・・・・・(さて、どうしたものか)」

 

その中で一誠だけは思案顔で壁に背を預けていた。テロリストの狙いは一誠であること。

理由は不明だが、八坂を取り戻さなければこの京都に異変が生じ、娘の九重は悲しみ続ける。

しかし、自分が姿を暗ませば家族たちも悲しむ。むぅ・・・・・と難しい顔をしているとリーラが声を掛けてきた。

 

「悩み事ですか?」

 

「うん、そんなところ」

 

「お話はお伺いしております。八坂さまが攫われたと」

 

誠と一香から聞いたのだろうか、リーラは一誠の肩に並んで声を殺して言葉を発する。

 

「一誠さま、必ず帰ってきてください」

 

「・・・・・っ!?」

 

「帰ってきて下されば、私は何も言いません」

 

今自分が悩んでいることを知っているかのようなリーラの言葉に目を丸くする。

実際に本当に知っているのか分からないが、隠し事できる相手ではない事を昔から知っている。

愛しいメイドを見詰めていると、耳元で囁かれた。

 

「私の元に帰ってきてください。でないと私は使える主がいないと生き甲斐がない女になり果ててしまいます」

 

そう言われては帰らないわけにはいかなくなった。一誠は無言で頷き、リーラの唇に自分の唇を重ねるとパーティ会場から姿を消した。ホテルから飛び出し、京都の夜を駆ける。市街地は賑やかに人々が笑みを浮かべ、文化の町を闊歩している。その様子を見ながらとある場所に立ち止まった。人気のない場所。別に指定された場所でもないが、ここなら誰かと出会うのには最適の場所だと思って一誠は静かに待った。

 

「・・・・・?」

 

しばらく待つとぬるりとした生温かい感触が感じた一誠は視線を下に落とせば霧が発生していた。

 

「(霧・・・・・?)」

 

こんな場所で霧など発生できる現象はない。故意的でもしないと霧は生まれない。

訝しい顔で霧を見ていると気配が次から次へと探知した。

目の前から足音が聞こえ、警戒して目を向けていれば霧の中から複数の人影が現れた。

 

「来ると信じていたよ。キミはそういう男だとは昔から知っていたからね」

 

語りかける声の主の女。一誠とは知り合いのように話しかけてくるその女の姿がハッキリした時は一誠の目が大きく見開いた。

 

「お前は・・・・・」

 

「こうして会うのは久し振りだね。だが、今の私の立場からすれば初対面だ。自己紹介をしよう」

 

そう言う女は学生服を着た黒髪の女性。学生服の上から漢服を羽織っていて肩にトントンと金色の槍を動かしながら口を開いた。

 

「私は英雄派の頭をやってる―――曹操だ」


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