HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

69 / 109
エピソード28

「やぁ、一誠くん。キミに朗報だ。なんと、キミもゲームの参加を認められたよ」

 

「おお、そうなんだ。ダメかと思ったんだけど」

 

「オーディンさまのお言葉が強かったからね。だが、やはり案の定といったか

一誠くんだけ規制が掛かっている。シトリー眷属を倒してはならないルールが課せられた」

 

「予想していたことだね」

 

「今回のゲームはライザー・フェニックスと戦ったバトルフィールドではないはずだ。

頑張ってくれたまえ」

 

サーゼクスから告げられたゲームの参加。これを聞いたリアスは狂喜の乱舞を踊ったほど喜んだ。

 

「私とイッセーの『愛』の力を見せ付けてやるわよ!」

 

そして―――ゲーム当日となった。グレモリーの居城地下にゲーム場へ移動する専用の巨大な

魔方陣が存在する。リアスと死明日の眷属、そして一誠はその魔方陣に集まり、

もうすぐ始まるゲーム場への移動に備えていた。

一誠と新たに眷属となったレオーネ以外、駒王学園の夏の制服姿。

 

「レオーネ、露出が高いな」

 

「この方が涼しい上に動きやすいからな」

 

一言でいえば水着姿。しかし、首にマフラーを身に包み腕や腰に巻いたベルトから太股を

晒しつつ変わった服装を着込んでいる。そして、レオーネと共に活動していたアカメは応援。

その他にアルマス、ヴェネラナ、シルヴィア、グレイフィア、一誠の家族が魔方陣の外から

声を掛けてくれる。応援の言葉を受ける中、魔方陣は輝きだす。

 

「一誠さま、御武運を」

 

リーラの言葉を最後に訊いて、一行は光と共に弾けゲーム場へと跳んで行った。

 

 

 

さて、一行が魔方陣でジャンプして到着したのはテーブルだらけの場所、所謂フードコート。

バトルフィールドは次元の狭間で作られるレプリカの異空間なので人っ子一人もいない。

逆に本物とそっくりな物資がリアルに置かれていて手ごろな食べ物すら用意されている。

 

「学園近くのデパートが舞台とは、予想してなかったわ」

 

「サーゼクスの兄さんが言っていたのはこのことか」

 

「でも、戦場がどこであれ、私たちは負ける気しないわ!イッセーがいるんだから!」

 

「おーい、俺を頼るなよー?倒せないんだからさー」

 

勝利に燃えあがるグレモリー眷属の(キング)に声を掛けるが聞こえていない様子だった。

 

「だけど、心強いのは確かだよ」

 

「足止め程度しかできない俺がか?その気になれば俺は全員を足止めして奴さんの大将まで

一直線に導けるんだけどそれじゃダメだろう」

 

「キミがそこまでできるとは驚きだけど、強者がいることで余裕が生まれるんだ私たちの気持ちが」

 

「仲間と戦うのは片手で数えるぐらいしかないから足を引っ張りかねないな」

 

「そこは私たちがフォローするから安心してよ兵藤くん」

 

朗らかにイザイヤと話をする。周りにも目を配れば各々と頷いていた。

 

『両陣営、転移された先が「本陣」でごじあます。リアスさまの本陣が二階の東側、

ソーナさまの「本陣」は一階西側でございます。「兵士(ポーン)」の方は

 「プロモーション」をする際、相手「本陣」まで赴いてください』

 

リアスたちとソーナたちの陣地はデパートの端。リアスたちは二階の一番東側。

ソーナたちは一階の一番西側。リアスたちの陣地の周囲には様々なコーナーが存在している。

一階も同様に様々なコーナーもあるが戦いが始まればお互いデパートの端を目指せば

いいだけの単純明快な戦いとなるだろう主に『兵士(ポーン)』は。

 

『今回特別なルールが二つあります。一つは陣営に資料が送られていますので、ご確認ください。

回復薬である「フェニックスの涙」は今回両チームに一つずつ支給されます。

なお、作戦を練る時間は三十分です。この時間内での相手との接触は禁じられております。

もう一つは今回特別ゲストとして参加するリアスさまの陣営におられる兵藤一誠さまも

出場しておりますが正式な眷属出ない為、ソーナさま率いる眷属を倒してはならないルールが

課されております。倒した場合、リアスさまたちの敗北と見做されますのでご了承ください』

 

「なんてルールなんだ!倒さないけどさ!」

 

『開始は三十分後に予定しております。それでは、作戦時間です』

 

アナウンス後、直ぐに皆で集まる。時間は一分も無駄にできないだろう。

 

「バトルフィールドは学園近くのデパートを模したもの。屋内戦ね。そして今回のルール、

『バトルフィールドとなるデパートを破壊し尽くさないこと』―――つまり。

ド派手な戦闘は行うなって意味ね」

 

「見た感じ、ド派手な戦闘ができそうなメンバーはその気になれば俺ぐらいじゃないか?」

 

「いいえ、一誠。部長もそうですわ。消滅の魔力が全てを削り消してしまうですもの。

知ってた?部長の二つ名『紅髪の滅殺姫(べにがみのルイン・プリンセス)』って言われてるの」

 

「あー知ってた。その理由がそれだったなんてな。なんか納得」

 

意中の異性に言われてなんだか複雑そうなリアス。ここで一誠に褒められるような

戦果をあげて、もっと好感度をUPする企みもあったようななかったような。

 

「レオーネはどんな戦い方だ?」

 

「肉弾戦!白音と戦って見たけど私より白音の方がよっぽど強かったぞ。仙術ってチートだろ」

 

「いえ、仙術を行使してなければ私はレオーネさんに手も足も出ません。実力は五分五分でしょう」

 

「なるほど、今回の戦いにピッタリだな」

 

「まっ、屋内戦なんて傭兵時代にしょっちゅうやってたから慣れっこだけどね」

 

「それは頼もしいわ。なら、あなたは私と、白音は一成と一緒に行動してもらいましょう」

 

「OK」と了承したレオーネ、白音を皮切りに、話は続く。

 

「剣術のイザイヤと格闘術、体術の白音とレオーネ、あと俺ぐらいが今回のルールに適している。

えっと成神だったな。お前はどんな戦い方をする?」

 

「イザイヤと同じ剣術だ。でも、俺は剣なんて今まで触ったことがない」

 

神器(セイクリッド・ギア)はあるか?」

 

「剣自体が神器(セイクリッド・ギア)だ。名前は『悪鬼纏身(インクルシオ)』。

アザゼル先生が言うにはドラゴン系統の神器(セイクリッド・ギア)らしいけど、まだ

禁手(バランス・ブレイカー)に至ってないんだ」

 

一成の腰に差している剣を見ては興味深そうに凝視する。

 

「アザゼルのおじさんが知っているなら至る方法も分かっているはずだよなー。多分、

お前の気持ち、感情次第で至るよ。俺もそうだったし」

 

「え、やっぱりそうなのか?」

 

「ああ、最初に至ったのは・・・・・朱乃を守ったあの時だったな。必死だったぞ。命を

狙われた女の子を守るのに無我夢中で自分より強い相手に守るたびに傷付いたんだからな。

負けたくない、助けたいという思いが俺の中にいるドラゴンが応えてくれて

禁手(バランス・ブレイカー)に至った」

 

懐かしげに語る一誠は笑みを浮かべていると朱乃に背後から抱き絞められ

「あの時は本当にありがとう」と耳元だ囁かれた。

 

「お前も誰か大切な人の為に戦うことができればきっと至るさ。俺の経験上から言わせてもらうけど」

 

芯がある言葉に耳を傾ける。目の前にいる真紅の髪の男は一体どんな人生を歩んできたのか

分からない。しかし、自分の主であるリアスとは全く異なる強さを有しているのは確か。

兵士(ポーン)』の駒4つ消費した自分とは比べもない次元を超えた強さを・・・・・。

 

「ま、パワーを上げる以前に色んな戦い方を学んで強くなるのも強さの秘訣だ。

今回は戦い辛い戦場だが、せまい場所でも戦えるようになれば苦にもならない。

俺に言われなくても分かってるだろうがな」

 

「ええ、こんな戦い方もあるのだと改めて思い知らされた。あなたの言う通り、

このゲームを勝って他のゲームにも勝つわよ皆」

 

『はい、部長』

 

 

 

 

―――一階西側―――

 

「会長。俺たちはあの兵藤に勝てますか?」

 

「サジ。彼は私たちを倒すことはできないルールです。ですので取り敢えず無視しても

構わないのですから目の前の本当の相手と戦って倒してください」

 

「ライザー・フェニックスを倒した赤龍帝・・・・・倒せずともグレモリー眷属より厄介な相手です」

 

「ええ、倒せないのであれば味方の為に足止めをしてくるでしょう。一人や二人、動かせなくなる覚悟を決めて事を進めます。ですので皆さん。相手の常識を覆す戦法で臨みたいと思います。いいですか?」

 

「どんな戦法なのですか?」

 

「一言でいえば、フィールド上を海のようにした彼のようなやり方に似た戦法ですね。皆さん説明した後は準備に取り掛かってください」

 

―――二階東側―――

 

「そう言えば、リアスたちはゲームの経験は?」

 

「無いわ。ゲームは成熟した悪魔しかできないものだから。今回は魔王さまが

若手悪魔同士のゲームをする予定だったみたいだからその白羽の矢が立ったのは

私とソーナってことなの」

 

「ソーナもゲームの経験がないんだな?」

 

「ええ、だからお互いフェアな戦いができるわ。眷属も一人(二人)増えたし、前より

余裕に物事を取り組めれるわ」

 

二人にとって初めてのゲーム。一誠は倒してはならない規制が掛かっているので、

足止め程度しかできない。ここで大いに役に立とうと思っていると、

リアスが手を動かし一誠の手を触れてきた。

 

「初めてのゲームだからこのゲームはなにがなんでも勝ちたい。

イッセー、私に勇気と力をちょうだい」

 

「その言葉に応えるぐらいの働きをさせてもらうさ」

 

リアスの紅髪に触れ梳かすように撫で続けると一誠にしな垂れかかり、

恋人のように身体を寄せ合った。

 

「あなたとこんな風にするのは初めてだわ」

 

「俺は慣れているけどな。主にオーフィス」

 

「子供の時はよく分からなかったけどあのオーフィスがイッセーといるなんて後になって

驚いたわ。どうやって出会ったの?」

 

「また今度教える。今は目の前の現実に集中しないと」

 

自分を上目遣いで見詰めてくるリアスの頭を優しくポンポンと叩く。「そうね」と頷く

一誠に好意を抱いているリアスは甘えるように一誠とくっつき続けていると反対側に

朱乃が座って来て自分と同じように寄り掛かって一誠は両手の花の状態となった。

 

「部長だけ勇気と力を与えるのは不公平だわ一誠。私にもちょうだい?」

 

「なっ、朱乃・・・・・!」と嫉妬で抗議しようとするが

 

「最近の年上のお姉さんは年下の男に甘えるのがブームなのか?」

 

「私が男の子に甘えるのは一誠だけよ?ところで一誠、女性の胸は好きかしら?」

 

「ん?人並みに好きだけど」

 

「うふふ、じゃあ、私の胸も好きなのね?」

 

たぷんと擬音が聞こえそうなほどの重量感がある朱乃の胸を押し付けられる。

すると負けじとリアスも自分の胸に一誠の腕を抱き寄せる。主の行動を見て微笑む

朱乃は一誠の耳元で囁く。

 

「私の胸、リアスより大きいのよ?バスト102」

 

「ぐっ!」

 

やや劣るリアス(バストサイズ99)に勝る武器の一つを誇らしげに艶のある声で告げる。

悔しげに顔を歪めるリアスが食って掛かる。

 

「大きさが胸の良さじゃないわ朱乃?触り心地だって必要だもの」

 

「あら、それじゃ一誠に確認してもらいましょうかこの場で。それも直で」

 

「こ、この場所で!?直で!?」

 

破廉恥きわまりない朱乃の言動に戦慄するリアス。しかし、二人の耳にある言葉が届く。

 

「あー、俺は胸よりも好きなことがあるんだけど」

 

「「え?」」

 

予想外な言葉が一誠の口から発せられた。男の子は胸が好きなんじゃ・・・・・と

信じがたい思いで心中そう漏らしていた朱乃や胸以外に何が好きなの・・・・・と

視線で訴えるリアスたちの様子に気付かない一誠は、

 

「白音ー」

 

透き通るほどの声が波紋のようにフードコートへ響く。すると、白い頭から白い猫耳を

生やしてピクピクと声に呼応して可愛く動かす小柄の少女が一誠の足の間からヌッと現れた。

口にホワイトソース味のフランクフルトを頬張っている。モグモグと全部食べ終えてから訊ねた。

 

「兄さま、なんですか?」

 

「膝の上に乗ってくれるか?」

 

「―――にゃんw」

 

嬉しそうにピョンと一誠の膝の上に乗っかって白音は全身を一誠の胸板にすり寄せる。

自分の華奢な身体に腕を回され、さらに密着度が増す。二人の様子を見ていたリアスと朱乃。

 

 

まさか、一誠はロリコン・・・・・?

 

 

と疑念を抱く二人に白音の頭を撫でながら一誠は言った。

 

「俺、胸よりもこうして抱き締める感じが好きなんだ。抱き心地の良いのが」

 

「「―――っ!」」

 

「二人の胸は嫌いじゃないけど、大き過ぎると白音みたいに胸のない女だとここまで

密着できないだろう?大きな胸が抱き合う二人を邪魔してしまうしさ。

それがちょっと嫌なんだよね」

 

巨乳に対する宣戦布告!リアスと朱乃に千のダメージがくらう!

 

「・・・・・」

 

石のように固まるリアスと朱乃の様子を交互に見た。白音の純粋無垢な眼差しは

ニヤリと優越感、挑発、嘲笑うように細め、口角も釣り上がって―――。

 

「部長、副部長・・・・・貧乳も捨てたものではありませんね?お二人ができないことを

僭越ながら私が代わりに堪能させてもらいますにゃん。(ボソッ)―――巨乳死に腐れ」

 

「「~~~~~っ!!!!!!!!!!」」

 

一誠が見たことがないほどリアスと朱乃が凄い顔になっていた。震える全身、引き攣った

笑みとなり、爛々とした目が白音に対する様々な負の色がハッキリと浮かんでいる。

 

 

 

「イザイヤ・・・・・」

 

「関わらない方が賢明だよ」

 

「こ、怖いですゥゥゥゥッ!」

 

「うはー。これ以上のない修羅場だなありゃー」

 

 

『イッセー!無乳よりも巨乳の方がいいってことを今ここで教えてあげるわっ!』

 

『何も無いよりはあった方が抱き心地も良いに決まっているっ!』

 

『ちょっ、二人とも!?ここで服を脱ぐ―――下着も取ろうとするな!サーゼクスのお兄さんたちが見ているんだぞ!』

 

『そうですお二人とも。無駄な抵抗は無意味です。無駄な脂肪の塊を晒して醜態と羞恥を味わうだけです』

 

『『上等っっっ!!!!!』』

 

『白音、お前も煽るなぁっ!』

 

―――○●○―――

 

何とか精神と体力を削いで二人を落ち着かせていれば―――定刻。

開始の時間を待っていると店内アナウンスが流れる。

 

『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は三時間の短期決戦(ブリッツ)

形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』

 

ゲームスタート。リアスが椅子から立ち上がり、気合の入った表情で言う。

 

「指示はさっきの作戦通りよ。一成と白音、イザイヤとイッセーで二手に分かれるわ。

一成たちが店内からの進行。イザイヤたちは立体駐車場を経由しての進行。ギャスパーは

複数のコウモリに変化しての店内の監視と報告。進行具合によって、

私と朱乃とレオーネが一成側のルートを通って進むわ」

 

リアスの指示を聞き、全員耳に通信用のイヤホンマイクを取りつける。

 

「さて、今回は私たちの初陣。いきなり戦い辛い場所でのゲームとなったけれどそれこそ勝ち甲斐があるってもの。皆、勝ちに行くわよ!」

 

「白音ちゃん、行こうか」

 

「はい」

 

先に動いたのは成神一成と白音。フロアから飛び出し、その場を後にして進みだす。

走るわけでもなく、歩くわけでもない、微妙な歩幅で進んでいた。相手に悟られないための

配慮で慎重と緊張で進む。二人が歩く場所、店内は横に長い一直線のショッピングモール。

相手に発見されないようにするためには物影に隠れながら進むしかない。

なのであるところまで進んで、自動販売機の影に隠れて二人は前方の様子を窺う。

 

「・・・・・変な臭いがします」

 

「変な臭い?」

 

―――ガタッ、ゴトッ

 

すると、音が聞こえる。白音の獣耳がピコピコと動く。鼻につく嫌な臭いに険しく、訝しい顔で

原因を探ろうとしているのが一成の視界に入る。

 

「動いてます。三人です」

 

「わかるのかい?」

 

「はい。現在、仙術で把握しています。気の流れで把握できます。

流石に詳細までは分かりませんが・・・・・」

 

そこで白音の言葉が止まった。自動販売機の影に隠れている二人のところに液体が

ゆっくりと流れてきた。その液体から変な臭いがすると一成が思っていると。

 

「―――ッ!」

 

白音が突然、前方の天井を見上げた。

 

「上っ!」

 

なんなんだ?驚愕する白音の視線を追う一成の視界にフッと赤い物体が落ちてきた。

いきなりの平井物に思考が一瞬停止してその物体を凝視。数センチという近さまで

振ってきた物体はドゴンッ!と白音の回し蹴りにより吹っ飛んで間一髪免れた。

 

「あ、ありがとう白音ちゃん」

 

「いえ、ですが―――」

 

「へ?」

 

「まだ、来ます」

 

次の瞬間、天井から振って湧いたように何かが落ちてきた。思わず、腰に差した剣を

抜刀しかけたが数が数なだけに埒が明かないと悟り、一成は白音を催促して前方へ駆けだす。

 

「なんなんだよこれはー!?」

 

RPGでよくあるダンジョンで巨大な岩が迫るトラップみたいにタンスや椅子、テーブル、

様々な家具が二人の真上から落下する。

 

バシャンッ!

 

「ぶはっ!?」

 

「・・・・・」

 

走っている最中に大量の液体が被った。思わず立ち止まり、うわぁーと嘆かわしい反応をする。

 

「臭っ!ベトベトするし!」

 

「・・・・・とても不愉快です」

 

濡れ鼠のように全身はずぶ濡れの状態。だが、ようやく理解した瞬間でもあった。

 

「これ、油か?」

 

「灯油でもありますね」

 

「―――ええ、その通りです」

 

第三者の声が凛として聞こえた。声が聞こえた方へ振り向くと、

そこには―――ソーナ・シトリーが手を後ろに組んで一人だけ二人の前に現れていた。

 

「なっ、会長ぉっ!?」

 

「そんな、どうして・・・・・」

 

冷静沈着に佇むソーナ。眼鏡の縁を動かし、静かに発した。

 

「あなたたちを倒す為ですが?」

 

「『(キング)』が護衛、それも『女王(クイーン)』すら

引き連れてないなんて・・・・・理解し難いです」

 

「私の事より、お二人は自分の心配をした方が賢明です」

 

後ろに回していた手を動かし、持っている物を見せ付けた。

 

「・・・・・マッチ?」

 

火を起こす道具の一つ。ソーナが持つには少し意外な物だった。

 

「私たちが今どこに立っているのかお気づきになられませんか?」

 

ソーナのその一言で白音は目を大きく見張った。

 

「まさか・・・・・生徒会長とあろう人がこんな作戦をするなんて・・・・・!」

 

「え、白音ちゃん?」

 

「成神一成君、この辺り一帯に撒き散らした物は全て火に引火する液体ばかりです。この

マッチ一本でも引火する液体に付けるとどうなるかあなたでもお分かりになるはずです」

 

淡々と述べるソーナ。そこまで言われてようやく意図に気付き、白音と同じ反応をする。

 

「ちょ、待って下さい。そんなことしたらこの建物は火災で建物が燃えて評価が

下がるじゃないですか!?」

 

「そうでしょう。ですが、それ以上に初めてのゲームに勝つことがなによりも優先です。

落ちた評価はお二人を燃やし尽くした後でも取り戻せばいいだけです」

 

冷徹な作戦を口にするソーナだった。そして、自分は本当にやるのだとマッチに火を付けた。

 

「―――先輩、ここは危険です!逃げます!」

 

「マ、マジかよ!?てか、俺たちにも油とか灯油とか浴びているから火達磨になっちまう!」

 

「その通りです。ではまず、お二人から退場してもらいましょう」

 

踵返してこの場から離れようとする二人の背後から声を掛けるソーナは火が付いた

マッチを下に落とした。―――そして、引火する液体に火が燃え盛って横に長い

一直線のショッピングモールに駆ける一成と白音を迫るように炎が燃え広がる。

 

「―――で、戻って来ちゃったわけね」

 

「「はい・・・・・」」

 

異臭を漂わせる二人に何とも言い難い気持ちになる。朱乃の魔力によって浄化中で、

燃え盛る炎の前では成す術がない。

 

「・・・・・」

 

報告を聞いてからリアスは考える仕草をする。あの、『ソーナ』が建物の崩壊を

しかねない火災を行うなんてらしくない。ソーナの性格は熟知していると言っても

過言ではない為、灯油やガソリンをバラまいて引火する作戦を考えるとは思いもしない。

何が狙いなのか―――。

 

『リアスさまの「僧侶(ビショップ)」一名、リタイアです』

 

リアスの眷属悪魔が一人倒された。そのアナウンスにリアスたちは驚きを隠せない。

 

「ギャスパー・・・・・?」

 

「早っ!?あいつ、どうしてやられたんだ!」

 

「これじゃ、監視も報告もできなくなったな。おい、どうする?」

 

「どうするも何も、まだゲームは始まったばっかり。一成、白音。

ショッピングモールから行けれないなら他のルートで行ってちょうだい」

 

指示を下すリアス。移動方法はまだ残されている。階上や階下に行き来できる階段や

エレベーターなのもあるのだから敵と鉢合わせになっても避けられない戦いなのだから

同じこと、そう思った矢先にリアスの耳が一誠の声を拾う。

 

『おい、どうしてそっちは動いてないんだ』

 

「イッセー、そっちはどんな状況?」

 

『今絶賛、「女王(クイーン)」と「戦車(ルーク)」の二人と交戦中だ。倒せない分、

面倒だよ。イザイヤに倒させる役目なんだからな」

 

立体駐車場では戦闘が始まっている。リアスはソーナの火計でショッピングモールに

進むことができなくなっていると報告した。

 

『火計?火災防犯システムは?』

 

「なんですって?」

 

『火災が発生しているなら防犯システムが作動しているはずだと思うが?

いや、レプリカのバトルフィールドだからそんなシステムまで起きないか』

 

一誠の疑問は面々の耳にも届く。リアスは朱乃に頷くと意図に気付き、フードコートの

火災防犯システムの機器に向かって火を放った朱乃。―――結果、機能はしなかった。

 

「イッセー、しないわ」

 

『そうか―――いや、油断するなよ』

 

「分かってるわ」

 

『いや、油断しているぞお前ら』

 

どういうこと・・・・・?そんな疑問がリアスたちに抱かせる。だが、次の一言で面々は

 

『お前らの近くに奴さんが揃って近づいているからな』

 

迫りくる魔力で変化させたのであろう様々な生物がフードコートに押し寄せてやってきた。

その中にはシトリー眷属悪魔も全員が交じって迫っている。

 

「なっ!?」

 

「本陣に乗り込んできただと!?」

 

「そう言うことだ成神ぃ!」

 

シトリー眷属の『兵士(ポーン)』二名が敵本陣にやってきた。その意味するものとは―――。

 

「まずい・・・・・っ!」

 

「「プロモーション、『女王(クイーン)』!」」

 

違う駒にプロモーションをすることができる絶対的な条件を満たしたことだ。

攻防、速度が数倍にも増し、

現在のグレモリー眷属では厳しい戦いに強いられるのは必然だった。水の生物たちは

意志を持っているかのようにリアスたちへ襲い、シトリー眷属も続いて襲いかかる。

 

「多少の破壊は止むを得ないわ!皆、打って出るわよ!」

 

『はいっ!』

 

―――立体駐車場―――

 

「どうやら、会長の作戦が成功したそうです」

 

シトリー眷属『女王(クイーン)』の眷属悪魔、真羅椿姫が不敵に漏らした。

武器は破壊され、目の前にいる一誠にエクスカリバーを突き付けられている状態で身動きが

取れない状態でいるが、倒したらグレモリー眷属の敗北という規制で倒せずにいる敵に

向かって発した。一誠はそのことを重々承知して返事をした。

 

「ショッピングモールの火災ってのは嘘だろう」

 

「ええ、『僧侶(ビショップ)』二人の幻術です。よく分かりましたね」

 

「火災の防犯システム以外にも疑問があった。有機物が燃える際の臭いや煙のことすら

口にしなかったんだからな。あいつらは逃げることに集中してそこまで気を回せなかった。

まだまだだよリアスも他の奴らも」

 

「ならば、直ぐに助けに向かわないのですか?」

 

リアスたちのピンチに駆けつけるべきではとそう促す。「確かにな」と一誠も肯定するが

首を横に振った。

 

「俺に依存されちゃ困る。ピンチは自分の手で乗り越えなきゃ成長なんてしないもんさ」

 

「厳しいですね」

 

「じゃなきゃ・・・・・強くはなれないだろう?」

 

「兵藤くん、待たせたね」

 

イザイヤが『戦車(ルーク)』を撃破した。残りは真羅椿姫ただ一人。

 

「さっさと倒して本陣に戻るぞ。本陣が奇襲に遭っている」

 

「っ!そうか、だったら尚更早く倒さないとね」

 

衝撃の事実に目を丸くするイザイヤが躊躇もなく、椿姫を撃破した。

 

「そんじゃ、行くとしますか」

 

「うん」

 

二人は本陣にいる味方の救助のため、フードコートへと戻るのだった。一方、リアスたちは

悪戦苦闘だった。敵の数は数人、自分たちと同じ数なのに様々な水の生物たちが

牙を剥いてくるので意識を避けざるを得なかった。

宙を浮く鷹、地を這う大蛇、勇ましい獅子、群れをなす狼、

そして凄まじい水圧を放つ巨大なドラゴン。

水の生物たちを撃破してもどこからともなく水が集まって再生するため限りがない。

 

「成神ぃっ!」

 

「匙!」

 

女王(クイーン)』へと昇華した相手との一対一の勝負。実力は火を見るよりも明らかだった。

黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている右腕を振るうと、テーブルや椅子、

他に天井のライトなどに触手みたいなもので張りつけると

グイッ!と引っ張り、一成へ向かって引き寄せつつ自身も飛び出して二方向からの接近を

対処する羽目になった一成。剣でテーブルと椅子を斬り、そして匙に向かって飛び出した時、

何時の間にか匙の手には照明道具が持っていて―――。

 

カッ!

 

突然の光に視界が真っ白となり成神の視力は一時的に奪われた。その一瞬を匙は見逃さず、

まずは鳩尾に深く拳を抉り込み、続いて顎に鋭いアッパー、止めとばかり

 

「食らいやがれ!」

 

魔力弾を放っての一撃だった。「ぐはっ!」とモロに食らって床にひれ伏す成神。

 

「どーだ、成神。『兵士(ポーン)』と『女王(クイーン)』の差は痛いほど痛感しただろう。

だけどな」

 

匙は言葉を噤まず言い続ける。

 

「これでもまだあの兵藤に届いた気分がしない。でも、それでも俺は夢の為に戦うんだよ!」

 

吠える。一人の男が夢の為に戦うと吠えた。全身の痛みを感じながらも自分も

まだ負けられないという思いが成神を突き動かし、剣に握る力を込める。

 

「俺だって負けられねェ!」

 

「来い!成神!」

 

障害物が多い場所での剣術は少々不向き。しかも剣道で学んでもなければ剣を握った

こともない一成ではさらに厳しい。イザイヤという剣士の存在もあるのでそこそこ動ける。

剣を振るられる匙はその剣に向かって触手を伸ばして張りつけると、

逆に利用して引っ張り、放さない一成を巨大な柱や床、テーブルなどに叩きつける。

それだけの力があるのは『女王(クイーン)』の特性のおかげだろう。

 

「はぁ・・・・・!はぁ・・・・・!はぁ・・・・・!」

 

味方の救援は望めない。屋内戦が得意とするレオーネですら水の生物と『僧侶(ビショップ)』の

連係プレーに足止めを食らっている。水の生物が身体で防御し、『僧侶(ビショップ)』が魔力弾で

味方の水の生物ごと売ってレオーネに放つという荒技によってだ。

白音は大蛇に巻きつけられ、水の中に浮いているかのような状態でどれだけもがこうとも

脱出ができないでいる。グレモリー眷属の中でトップクラスのリアスと朱乃も、

 

「リアス、ここであなたを倒します!」

 

「ソーナ、今回の戦い方はあなたの性格を鑑みてもらしくない戦いだわ!」

 

「ええ、何度も見て来ましたし戦いもしました。常識を覆す戦いを。私はその真似ごとを

しているだけに過ぎません。リアス、あなたにとって私が有り得ないようなことをです」

 

「イッセーに影響されたってこと!?もう、イッセーのバカ!これ以上他の女の子に

影響を及ぼさないで欲しいものだわ!」

 

「あなたもその一人なのでは?」

 

(キング)』同士の戦いを繰り広げていたり、他のシトリー眷属と朱乃が戦ってもいたりしている。

 

「兵藤たちが足止めをされている間に俺たちは本陣に奇襲。

シンプルだろう?だが、そうしないと勝てない相手なんだよお前たちは」

 

匙は再び魔力弾を放とうとする。

 

「これで終わりだ!」

 

全身全霊の魔力弾。最初に打った魔力弾よりも大きいソレは真っ直ぐ一成に向かう。

 

―――避け―――っ!?

 

と、思ったが自分の背後には白音がいた。もしも目の前の魔力弾を避けたら間違いなく

白音に直撃してリタイアするだろう。自分の身の可愛さに味方を犠牲にするそんな考えを

持ち合せていない一成は決断する。

 

「(これ以上、仲間を傷付けさせはしないしさせねぇっ!部長にこのゲームを

  勝たせてやるんだ!)」

 

目に強い光が宿り、魂が熱く燃えあがる。

 

『感情次第でお前は至る』

 

アザゼルも一誠も似たようなことを自分に聞かせて言った。一成はこの思いを口にしようと

匙に向かって発した。

 

「俺は負けない!今は弱いだろうがこれからもっと修行して強くなるんだ!仲間と共に

部長にゲームを勝たせてやりたい!だから応えろ俺の神器(セイクリッド・ギア)ァッ!

お前の力を俺の思いに応えてくれぇっ!」

 

なりふり構わず床に剣を突き刺したその瞬間。

一成の足元に魔方陣が出現して背後から覆い被さるように何かが召喚した。

 

「なっ・・・・・!?」

 

驚愕する匙。魔力弾は召喚された人型のドラゴンみたいな生物によって弾かれた。

それだけではない、召喚した余波で水の生物たちが瞬く間に弾け飛んで

シトリー眷属とグレモリー眷属とだけとなった。

 

「オオオオオッ!インクルシオォオオオオオオオオオッ!」

 

ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

ドラゴンが一成に覆うと全身を鎧へとなり、成神と一体になるように装着していく。

 

「一成が、禁手(バランス・ブレイカー)に至った・・・・・!?」

 

「―――そーみたいだなー」

 

「っ!イッセー!」

 

リアスの絶句の言葉をフードコートに現れた一誠が拾った。

イザイヤも目の前の光景に目を丸くしていた。

 

「昂った感情が所有者の思いに応えた。ただそれだけだ。おめでとう、お前も晴れて力を

持つ者となったな」

 

マントがあるドラゴンのような全身鎧を纏う一成。自分の置かれた状況を把握し、

拳を力強く握った。

 

「これなら、いける!」

 

「土壇場で至るなんて・・・・・!くそ、だけどまだ戦いは終わっちゃいない!」

 

触手を複数のテーブルに張り付け、挟むように一成へ勢いよく引き寄せた。

そのテーブルを発現した槍で一閃、粉砕した。

 

「ンだとっ!?」

 

「この一撃に全てを籠める!目の前の敵を倒せ鎧が言うからな!」

 

槍を構えて飛び出す。姿が代わった敵に愕然と立ち竦む匙は肉薄する一成に反応する前に

気合の入った高々な声と共に振るられた槍に叩きつけられて壁まで吹っ飛んだ。

凹ませるほどに壁と激突した匙はぐったりと横たわり、戦闘不能だと判断されたのか、

全身が光だしバトルフィールドからいなくなった。

 

「お疲れさん。まー最後は神器(セイクリッド・ギア)に助けられた感じが多いけど

結果が良ければすべてが良しだな」

 

「お前、上から目線で言ってないか?」

 

「気のせいだ。ほら、戦いは終わっちゃいないんだ。戦うぞ、主にお前らが」

 

「お前も戦え!」

 

と、そんなこんなだがこの日のゲームはリアス・グレモリーとグレモリー眷属の勝利と

幕を閉じた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。