HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード23

夏休み前に運動会や会場体育祭が行われる手筈だったが、今回は夏休みごと言う事となり

見送られた。その理由は不明だが、川神学園から戻ってきた一誠は久し振りに

国立バーベナ駒王学園に帰ってきて数日後のことだった。終業式を終えて学校は

夏休みムードとなり、長期の夏季休暇に心躍る生徒たちは夏休みの課題と言う

面倒くさい勉強を抱えつつも後悔のない青春の謳歌をしようと意気揚々と学校からいなくなる。

 

「イッセーと別れだなんてイヤデース!」

 

「一生の別れじゃないんだから、そんな嫌がらなくても」

 

このように、別れを惜しむ生徒もいる。金剛四姉妹は外国にいる家族のもとへ顔を出す

予定で日本にはいなくなる。ネリネとリコリスはこの夏期休暇を利用し冥界に帰郷し、

シアも天界へ帰郷。護衛のイリナたちは教会に収集が掛かり、ルーラーが物凄く拒んでいたが

結局ゼノヴィアとリーズに引き摺られながらヨーロッパ行きの便の飛行機に乗って

行ってしまった。さて、残ったメンバーたちは。

 

「プライミッツ・マーダー、お手っ」

 

『・・・・・』

 

 

ザシュッ(一誠の顔を引っ掻く音)

 

 

のんびりと過ごしていた。

 

「くっ、絶対に俺の手に乗せてやりたい・・・・・!」

 

「あなた、なにを意地を張ってるのよ」

 

「アルトルージュ。お前は知らないだろうがな」

 

「何をよ?」

 

「―――俺は動物に嫌われるんだ」

 

そんなドヤ顔で言われてもどう反応をすればいいのか分からないアルトルージュがいたとさ。

 

「ううう・・・・・ドラゴンになってからちっちゃい犬や猫でも警戒されたり吠えられたりして、

兎でさえ俺の周りに集まっても来やしないんだ」

 

「サファリアンチ属性・・・・・」

 

現にプライミッツ・マーダーがポンポンと『ふっ、お前には絶対に靡かんよ』と憎たらしい

眼つきと笑みを浮かべて一誠の頭に手を置いていた。

 

「だから動物園に行ったことがないんだよ」

 

「いいじゃない、ドラゴンに好かれているんだから」

 

「ん、その通り」

 

オーフィスが肯定する。プライミッツ・マーダーの背に乗ったままで。

 

「それで一誠。私たちはどう過ごしましょうか?」

 

「んー、自由気ままでいいんじゃないか?他の皆は自分の趣味を没頭したり、

外に行っていたりしているし。アルトルージュはフィナとリィゾとプライミッツ・マーダーと

どこか出掛けないのか?」

 

「行く場所が分からないから行くにも行けないの」

 

「じゃあ、どんな場所が好きなの?」

 

「あなたの傍」

 

「それは空間ではないか」

 

椅子に座る一誠の膝の上にアルトルージュが座った。身長は幼児ぐらいしかないので

オーフィス同様に一誠に覆い被さられるほどチョコンと座れる。

 

「・・・・・アルト、そこは我の場所」

 

座った瞬間に不機嫌な面持ちとなりオーフィスは異議を唱えた。アルトルージュは

澄ました顔でオーフィスに返事した。

 

「たまにはいいじゃない。座りたければあなたには一誠の肩があるしそこに座りなさい」

 

「一誠の肩は外用。膝は家の中にいる時に座る我の特等席」

 

「俺は車か?」と漏らす一誠の呟きはオーフィスに届かず、アルトルージュを一誠から

退かせば膝の上に陣取り、ここは自分のものだと腕を組んで胸を張る。

 

「・・・・・やってくれたわねっ」

 

負けじとアルトルージュもオーフィスを突き飛ばし、また一誠の膝の上に乗っかったが、

再びオーフィスに突き飛ばされて座を奪われた。

 

「「・・・・・」」

 

そんな事を繰り返していくと二人は静かに睨みあい、取っ組み合いがしそうな

雰囲気を醸し出したところでひょいっと二人を抱きかかえる一誠が二人もいた。

 

「俺の分身で我慢してくれ」

 

計三人目の一誠が杖を持ってそう言う。

 

 

 

玄関ホールに足を踏み入れたら、四肢を覗かせ、白い帽子や麦らわ帽子を被った耳が尖った

三人の少女たちとバッタリ出くわした。緑や白を基調とした薄地の服装で、三人の内の

二人の服を内側から大きく盛り上げるほどの豊かな胸を持つ少女たちや、

吊り目な双眸から強い意思が籠って背中に流す金髪がまた美しい。

三人の出で立ちに心中で称賛しつつ訊ねる。

 

「テファ、シャジャルさん、ルクシャナ、出掛けか?」

 

「ええ、最近知ったフローラって喫茶店に行こうと思っているの」

 

「そうか。だったらこれを持って行け」

 

ルクシャナたちに手渡したのはボタンがある腕輪だった。「なにこれ?」と首を傾げ

不思議そうに見ている三人に説明した。

 

「転移用魔方陣の術式を施した腕輪だ。厄介な奴に絡まれたり捕まえられたらボタンを

押してこの家に戻って来い。あと外には必ず警戒しろ」

 

「過保護で大げさねー。でも、あんな蛮人たちが闊歩していると思えば

必要なものかもしれないね。ありがたく受け取るわ」

 

兵藤家の男子たちを脳裏に浮かばせたルクシャナは腕に嵌めて一誠と別れ外出した。

 

 

 

「クロウ・クルワッハは冥界で修行か・・・・・」

 

最強の邪龍の部屋に訪れてみれば『冥界でしばらく修行してくる』と書き置きが残されていた。

ナヴィの部屋にも訪れてみれば、忙しなくキーボードを打っていてパソコンの画面と

睨めっこしていたのを思い出し、また後で声を掛けようと思った。アラクネーは既に

外出しており、タペストリーに必要な材料を切らして買出し。フィナは町に出かけ、

若い男を漁り、リィゾはそんなフィナのストッパーとして一緒に出かけ。

 

「今日に限ってリーラは父さんと母さんの手伝いか」

 

どこかの神さまと交流をしているのじゃないかと自慢の両親のところへ向かった愛しき彼女。

さて、この家にまだ一誠が背触していない人物と言えば―――。

 

バンッ!

 

「それはこの私、リアス・グレモリーよ!」

 

「勝手に入ってくるんじゃない!そして正解は咲夜だ!」

 

ハリセンで素早く威風堂々とドアを開け放った不法侵入者たる紅髪のお嬢さまの頭を

叩いてツッコンだ。

 

「い、痛い・・・・・っ」

 

「ああ、大丈夫?対して悪いとは思ってないけど」

 

「ひ、酷いわ。な、なんか私に対する扱い方が雑になってないじゃない?」

 

「いや、宝石のように大切にしているつもりだが」

 

「・・・・・にしたって、さっきのはないと思うのだけれど」

 

「不法侵入者がなにを言ってるのかなー?電話の一つぐらい寄こせ。で、どうしたんだよ一人で」

 

ポンポンとハリセンを肩に叩く一誠から問われ、リアスは答える。

 

「うん、イッセーを冥界に誘おうと思って」

 

「冥界に?もしかして帰郷?」

 

「そうなの。私はこの時期になれば冥界に戻って過ごすのよ。

だから私の眷属の他にもイッセーや他の皆も一緒にどうかしらと思って」

 

その誘いにどうしようかと悩んだ。行かない理由はなくはないが、

人間界でのんびりしたい自分もいる。

 

「それっていつからだ?」

 

「三日後よ。グレモリー領で夏休みの殆どはそこで過ごすつもりなの」

 

「夏休みの殆どか。途中で遊びに行く感じだったらいいか?

他の皆にも自分の時間が欲しいだろうし」

 

「そうね。あなただけでも構わないだけれど、無理強いはしないわ。

来る時は連絡してちょうだいね?迎えを出すから」

 

「あいよ。ああ、それとついでにリアスの眷属になっても良い奴がいたら連絡するからな」

 

付け加えられた発言に目を丸くしたリアスは「期待しているわ」と笑みを浮かべ

転移魔方陣で一誠の前から去った。

 

「さてと、俺は俺で外に出かけようかなっと」

 

―――○●○―――

 

外出しているティファニアたちはそれはもう注目の的でいた。

美しい顔つきと豊満なプロモーション。光陽町に現れた三姉妹の妖精と

思われるのも時間の問題だった。特にティファニアとシャジャルが歩く度に揺れる胸。

カップルですらその胸に圧巻され、彼氏が鼻の下を伸ばしていると彼女にビンタされ、

どこぞのカメラを持った小柄で青い髪の寡黙な少年が「・・・・・究極の胸っ(ブシャァッ!)」

と出血多量で死ぬんじゃないかと言うほど鼻血を出しながらもシャッターを

押すことを止めない。

ルクシャナにも凹凸が少ない身体付きでもその悠然とした歩き方や太陽の光で反射する

綺麗な金の髪が整った容姿を更に美しく映えさせる。

 

「あー、何だか視線が鬱陶しいわね。こんなことならイッセーにも付き合ってもらえば良かったわ」

 

「私たちのどこかおかしいのかな。やっぱりエルフだから?(キョロキョロ)」

 

「ティファニア、あまり周囲の目を気にしていたらダメです。もっと楽しく歩かないと」

 

「はい、お母さま」

 

―――――お母さま!?

 

話を聞いていた住民たちの心が揃った瞬間だった。どう見たっても姉妹にしか見えない!と

愕然とした面持ちで過ぎていく三人のエルフを見送る面々。

しばらくして目的の喫茶店に辿り着きそこでしばらく過ごした。

その時応対した店員は後ほど三人について語った。

 

「世の中にはあんなすごい胸を持ったヒトがいると改めて知りました」

 

と、そんな感想を店員に語らせたなど二人は露にも思ってもいない、

スイーツを思う存分に堪能して店から出た三人はどこに行っても視線を集める。

 

「やっぱり、気にしない方が無理があるわよ」

 

「あらあら」

 

うんざりとしたルクシャナの反応に朗らかに手を頬に添えるシャジャル。

 

「絶対に二人の胸に意識を向けてるわ」

 

「ル、ルクシャナ?どうしてそんな親の仇のようなに私とお母さまの胸を見るの?」

 

「自分の胸に手を当てて見れば分かるわよ・・・・・」

 

実際にそうした二人。服の上からでも分かるほどの柔らかく弾力がある質量が

たっぷりある胸に手を置いた。ムニュっと擬音が聞こえそうなほど二人の手は胸に埋没していく。

 

「「?」」

 

分からないと首を捻った親子に恨めしいと睨んだ。あまり気にしないほうだが、こうも

あからさまな視線を向けられるとジェラシーを覚えてしまう。

 

「(そう言えば、イッセーの周りは巨乳ばかりだったわね。本人は自覚ないけど)」

 

女を引き寄せる魅力を持ち合せている。一誠にもようやく付き合う女ができて

「まぁ、よかったわね」

と程度に祝った。付き合う二人を目の当たりにしても大して変わらない生活だった。

 

「さ、次は夏用の服でも買いに行きましょう」

 

「はい」

 

「だったら、一誠が心から褒めるほどの服でも買っちゃいましょうよ」

 

それでリーラが嫉妬したらそれはそれで面白味があると思って笑みを浮かべる。

ティファニアは恥ずかしげな反応、シャジャルはニコニコと微笑み面白そうに肯定した。

ルクシャナたちは最近知ったデパートへと足を運ぶ。

 

『・・・・・』

 

怪しい影の存在に気付かずに。赴いた場所は国立バーベナ駒王学園から少し離れたデパート。

敷地が広く、品揃えも豊富、ここでも異種族が足を運び購入する消費者が多くいるので

エルフのルクシャナたちが買い物に来ても店員たちは不思議がらない。清楚な空間と心

地の良い室温の中で目的の場所の服コーナーへと向かう。

 

「ふふっ、まさか私たちが堂々とお買い物ができるなんていつ思っても夢みたいだわ」

 

「お母さま・・・・・」

 

「あの人は亡くなってしまいましたが、あなたという娘が唯一のあの人と残した結晶。

幸せになって貰いたい気持ちは母親として当然の思い。だから良き殿方を見つけるのですよ」

 

「イッセーだったらいいんじゃない?」

 

「そうですね、あの子だったら安心して任せれます」

 

「ふ、二人とも!?」

 

顔を紅潮して慌てふためくティファニアはなんともからかいがあるだろうか。

エスカレータを乗りながら笑ったルクシャナの脳裏にある言葉が過ぎった。

 

『必ず警戒しろ』

 

どうして今になって一誠の言葉が思い出すのか。こんなに楽しく買い物をしているのに。

溜息を吐き過保護な一誠に呆れていた時、嫌な視線を感じた。外に出歩いた時に感じる

色んな視線とは全く違う。誰かに視られているような感覚。

まるで物を値踏みするかのような、普通の人には真似できない、無遠慮過ぎる視線。

 

「(・・・・・まさかね)」

 

誰だか分からないが警戒しないといけない買い物なんて面倒臭い。

腕に嵌めた腕輪を撫でるように触れ、ティファニアとシャジャルの会話に交じった。

階上のフロアに辿り着き様々な服を売っているコーナーへと足を運ぶ。

警戒しつつ楽しげに年相応の女の子らしい服を手にしては決め合い、

試着室へ直行して試着することもした。

 

「どう、かしら」

 

試着室から出てきたティファニア。黄緑の短衣にミニスカート。ルクシャナが半ば

強引に着させた服であって単純な服装の組み合わせだが、着こなしている素材が素材だ、

美しい金の長髪とも相まってこれ以上なくよく映えている。

そして、絶対的な主張を変わらずしている胸は男たちを煽情させること間違いなしだろう。

 

「なんか、負けた気分だわ」

 

「ルクシャナもティファニアみたいな可愛い服を着れば褒められるわよ」

 

「どうしてそこでイッセーが出てくるのよ」

 

「あら、誰もイッセーくんとは言っていないわよ?」

 

―――墓穴を掘った。いやいや、一誠に対する感情にソレはない。当然な疑問のはずだ、

ルクシャナは自己完結して笑い返した。

 

「だったらシャジャルもイッセーに褒められるような服を着ればきっと言ってくれるわよ」

 

「そうね。そろそろ何かあの子にお礼も兼ねて喜ばせるようなことでもしようかしら」

 

大人の対応力は凄かった。二人が話している間に元の服に着替え直した

ティファニアが試着室から出てきた。その後、ルクシャナもシャジャルも試着しては

感想を述べ合い、決まった服を購入してデパートを後にする。

寄り道せず、真っ直ぐ戻る最中でも三人は雑談をする。

 

「今日は楽しかったわね」

 

「ええ、またお買い物をしましょう」

 

「今度は他の皆とね」

 

結局、ルクシャナが思ったようなことは起こらず、心配して損したと内心で溜息を吐いた。

人々と擦れ違う中、歩き続けると悪魔や堕天使、人間が割と多く見受けれる。

一般人と枠に入る悪魔や堕天使が人間界に闊歩するなど何とも言えない気持ちとなる。

まるで人間扱いだ。人間界で異種族が事件を起こせば例外なく捕まる。

裁く者に対する為の法律だって存在する。他だって結婚制度もそうだ。

異種族同士の結婚は認められ、ハーフの子供が主に人間界で暮らしている。

一見、この町、この世界は幸せに満ち溢れているのだと思うが、

 

「(それは世界を自分の目で見ていない奴らにとってはそう思うわよね。でも、世界は

幸せに満ち溢れているわけじゃない)」

 

理不尽な目に遭っている。貧困の差。格差社会。環境汚染。不況。

様々な不という概念が世界中に蔓延っている。

逆に裕福な一部の人間がそうさせている。人間が人間を陥れ、時には騙し、裏切り、

見捨てられ、見捨てることなど極当たり前のように行われている。

ルクシャナは蛮人の世界で一誠たちと共に旅をして見聞してきた。

 

「(悪魔ってある意味では蛮人の方が悪魔らしいわね)」

 

戦争している国も見てきた。互いの主張が噛み合わず、結果、自分の主張を押し付ける

戦いは無関係な者たちまで巻き込む。人間は欲望の塊でできているんじゃないかと

思ったこともある。

 

「(あー、やだやだ。これ以上考えると蛮人を嫌う面倒くさいエルフと同じになりそうだわ)」

 

頭を軽く振って考えを止めた。知らないより知っていたほうが認識は違ってくる。

今は楽しくこの町で生きていればいい。それで充分じゃないか、そう思った矢先。

 

「ねぇ、良い仕事があるんだけど働いてみる気ない?」

 

「うわ、面倒くさい」

 

「え?」

 

思わず本音が漏れた。金髪で容姿が整って故意で焼いたのか褐色肌の男が声を掛けてきた。

 

「あ、ごめんなさい。思った事を口に出ちゃうから。それで、仕事ってなんなのよ?」

 

「テレビ出演だよ」

 

「あー、ごめんなさい。そういう目立つのは好きじゃないの」

 

軽くあしらって否定する。ティファニアとシャジャルも乗り気ではないようで二人にも

声を掛ける男に断わっている。

それでも男は執拗に「三人の容姿ならアイドルやモデルになれるのは間違いなし」

「給料もかなり高い」「一緒にお茶でも飲まないか」と話しかけてくる。

困り果てる親子を引き連れるように完全に無視するルクシャナ。大通りの信号を渡って

真っ直ぐ歩けば家が肉眼でも捉える。

 

「ねぇ、ちょっとでもいいから俺の話を聞いてくれない?」

 

「・・・・・はぁ」

 

もうウンザリだと呆れと共に零す息。話しかけてくる男に指した。

 

「あのね、さっきからこっちはウザったいほどあなたの話を聞いているの。

それを『俺の話を聞いてくれない?』なんてなによ。私たちは断わっているんだから

諦めが肝心だなんて思わないわけ?これ以上、何かの勧誘の話をしてくるなら大声で叫ぶわよ」

 

それからも鬱憤を晴らすかのようにクドクドと男に言い続ける。

周囲から奇異な視線を感じるがそれよりも目の前の男を追い払うのが先決。

 

「・・・・・」

 

ルクシャナの話を聞いて黙り込む男。これで諦めてくれたかと男に背を向け、

さっさと帰ろうと横断歩道を渡った。

 

「ル、ルクシャナ。あんなに言わなくても・・・・・」

 

「テファ。ああいう男と絡まれるとロクでもないって認識しなさいよ。

あなたのその優しい性格を突け込んで、とんでもない事とさせる人間がいるって

イッセーが口酸っぱくして言うほどなんだから」

 

「でも、そんな人には・・・・・」

 

純粋すぎる。ティファニアは穢れさえ知らない純粋なハーフエルフ。

外の世界に連れだされても誰かれ構わず優しく接する性格は美学だとも言えるが、

警戒することもしてほしいものだ。一誠のように相手の善し悪しを分かるぐらいは。

歩道を渡り切った三人はそのまま真っ直ぐ進んだ。車が何度も通り過ぎていく光景を

見つつ、左右に洋風と和風の大きな家に挟まれている豪華で大きな家を囲む壁には

天使と悪魔を象った意匠が施されているそんな家から

100メートルぐらいの距離まで歩いていた三人の横に甲高くブレーキしたワゴンの車の

扉が開いた。車から数人の男たちが出て来てルクシャナたちに掴みかかった。

 

「っ!」

 

ルクシャナは直ぐにティファニアとシャジャルの手を引いて掛け始める。

相手は自分たちを誘拐しようとしているのは明らかだった。

もう目の前なのだ一誠たちがいる家は。しかし、荷物を持っている上に女子の走る

スピードでは呆気なく男たちに捕まってしまった。

 

「ちょっ、私たちに触れないでよ!」

 

「黙れ!黙らないと痛い目に遭わせるぞ!」

 

「いやっ!放して!」

 

「私たちを捕まえて何をっ!」

 

ルクシャナたちは精一杯の抵抗をしたにも拘らず、腕を掴まれ強引に車の中へ

引きずり込まれた。

運転している男に催促し車を走らせた。あっという間に家を通り越してどこかへと

連れて行かれる。

 

「アイツが失敗したから俺たちが出しゃばらないといけなくなっちまうとはな」

 

「だが、見ろよ。結構極上な身体付きをしているじゃねぇか」

 

「巨乳と貧乳の・・・・・天使か?にしても耳が尖ってるな」

 

興味身心に男がティファニアの耳を触った。

 

「やっ!」

 

「うはっ、こいつ耳が弱点みたいだぜ。舐めまわしてぇ・・・・・!」

 

情欲が宿る目の男。不気味な笑みを漏らし、男たちはルクシャナたちを見詰める。

 

「(ボタンが押せない・・・・・っ)」

 

腕を掴まれている。ティファニアと一緒に座らされ、背後にシャジャルが座っている。

 

「いやっ、んんっ、さ、触らないで、あっ!」

 

「いいじゃねぇか。これからもっと気持ちのいいことをさせてやるんだからよォ」

 

シャジャルの悩ましい声が聞こえてくる。身体を触られているのだろう。

こんなゲスな蛮人たちにと苦虫を噛み潰したような表情で自分の腕を掴む男に睨む。

しかし、それは逆に相手を昂らせるだけだった。

気の強い女を屈服させることを快感に覚えている男はルクシャナの頬を舐め上げた。

 

「おいお前ら、勝手に盛ってんじゃねぇよ。手を出したらボスに殺されるぞ」

 

「うへぇ、それだけは勘弁だぜ」

 

「だが、前払い金を大量に払ってくれるなんて最近のガキは太っ腹だよなぁ」

 

「あいつらは女だったら誰だって良いんだよ。ただし美女、美少女限定だけどな」

 

「男としては当然だろって」

 

下品な笑い声が車の中で轟く。誘拐された三人は揺れる車の中で捕まることしばらくして、

停車した車から強引に下ろされた。レンガ造りの建物で建物の中に入り、廊下を歩かされると

艶めかしい声や悲鳴、絶叫がどこからともなく聞こえてくる。

 

「な、なによここ・・・・・」

 

「へへ、ここはお遊戯をする場所。男と女が気持よくなる為の極楽園ってな」

 

「・・・・・最低ねっ」

 

「そんな口はいつまでも言えるのか楽しみだぜ」

 

一番奥の部屋に連れられ、男が扉にノックをすれば扉が開き、ルクシャナたちを先に入れさせた。

そして、三人の目はとんでもない光景が飛び込んできた。

口から語れない、語りたくないほどの酷い光景だった。

―――強いて言えば大勢の全裸の女性が床にひれ伏していたり、

自我が崩壊している女性、嗚咽を漏らしている女性、男たちに媚びている女性もいれば、

痣や傷だらけの女性もいた。そして何よりもこの部屋に漂う居るに堪えない異臭だ。

 

「おーい、新しい玩具を見つけたぜ」

 

男の声に反応して数人の男が振りむいた。よく見れば一誠と歳は変わらないであろう

年頃の男もいた。

 

「ああ、ご苦労。今回は結構極上なメスを連れてきたな」

 

「へへ、だろう?後でいいから俺たちにもさせてくれよ」

 

「おいおい、お前たちにやったメスどもはどうしたんだよ?」

 

「あーダメだって。直ぐに壊れちまってよ」

 

「もう少し女の扱いを考えろって。ほら、残りの金だ」

 

複数の封筒に包まれた物が投げられた。床に落ちたそれを男たちは取って中身を

確認すると満足気に頷いた。

 

「んじゃ、お前たちは出て行ってくれ」

 

「へいへい、飽きたら俺たちにもくれよ?」

 

男たちは部屋から出て行った。今出て行ってもさっきの男たちに捕まるだけ。

今ならボタンを押せる機会―――!とルクシャナは二人の腕輪に触れようとしたが、

その腕を掴まれた。

 

「悪魔でも天使でも堕天使でもなさそうだな?

ま、お前らもこれから俺たちの奴隷となって貰うから関係ないがな」

 

「・・・・・あなたたちは何者よ」

 

「知りたいならそれ相応の行動をしてもらないとなぁ?」

 

嫌な笑みを浮かべ、ルクシャナの顎に手をやった男は顔を近づけてくる。

唇を合わそうとしているのが明白で、悔しさのあまり涙を溜めた。好きでもない

男に強引で身体を奪われる想像をし、

 

「(こんな蛮人に奪われるぐらいならあいつに奪って欲しかったわ・・・・・っ!)」

 

警戒しろと警告されていたにも結局こうなってしまった。

もっと真剣に警戒していればこんなことにはならなかったはず。後悔しても後の祭り―――。

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

突如、轟音が聞こえてきた。この場にいる全員が驚き、目を丸くして疑問を抱いたと

同時に扉が凄まじい勢いで開け放たれた。

 

「た、大変だ!」

 

「うるさいな。何事だよ」

 

ルクシャナたちを拉致した一人の男だった。顔中に冷や汗を浮かばせ、焦心に駆られているのが明白だった。

 

「し、侵入者だ!仲間がやられた!それに表には数えきれないほどの悪魔と堕天使、

天使の警備隊がここを囲んでいる!どうにかしてくれよ!」

 

「・・・・・なんだと?」

 

信じがたい気持な男が眉根を上げた。情けなく懇願する男を見ていると―――。

 

「あー、そこどいてくれるか?」

 

軽い口調で訊ねてくる男の声が聞こえた直後、

 

「あ?」

 

男の全身が燃えあがった。自分が火に包まれるなんて露にも思わず間抜けな声を漏らしたが、

自分の身に何が起きているのか認識し、理解すると表情が驚愕、恐怖、絶望へと変わる。

灼熱の業火に肌や肉が燃え、その激痛に耐えかねない男が床に転げ回る。

 

そんなことした人物は、ルクシャナたちが知っている人物だった。

 

「・・・・・てめぇ、誰だ」

 

男性が睨み問うた。現れた男はルクシャナたちに一瞥してから答える。

 

「この三人のエルフの身内だ。世話になったようだし、お礼を兼ねてこうして来たんだよ」

 

「・・・・・表に警備隊がいるらしいな」

 

「ああ、そうみたいだな?いやー、びっくりだったぜ。あんなに大勢の警備隊の

目を盗んで入るのも大変だった。どこかの情報収集が長けた悪魔が

この場所を知らせたんじゃないか?犯罪者を捕まえさせるためによ」

 

勿論、お前らもその一人だと長い真紅の髪を持つ金色の目の男、兵藤一誠が敵意や

殺意が籠った双眸を輝かせる。放たれるプレッシャーに内心気後れるものの男は

一誠に向かってとある提案を述べた。

 

「取引をしよう。俺たちを逃せば後で金を払ってやる」

 

「ふーん、金額ってどのぐらいだ?」

 

「百万でどうだ」

 

鞄から札束を取り出しては一誠に向かって放り投げた―――最中で突然、ソレが燃えだし灰となった。

 

「くだらない。俺はそんな物より欲しいものがある」

 

「なん―――」

 

発しかけた言葉が咽喉につっかえてでなくなった。理由は至極簡単―――一誠が人の形を崩して、

人型の三つ首龍へと変貌したからだ。

 

『俺の家族に手を出したお前らの命だ』

 

 

ギェエエエエエヤアアアアアアアアアアアアエエエエエエエエヤアアアアアアアアアッ!

 

 

三つの猛禽類と同じ双眸と六つの眼球は敵を恐れ戦かせ、畏怖の念を抱かせ、委縮させるだろう。

人でもなければ動物でもないその姿はまさしくモンスターとしか思えない。

天井に届きそうな三つの頭と首はそれぞれ複数の男に向け、六つの眼で見据え

この世のものとは思えぬ絶叫を上げた。

 

「だ、だめ・・・・・っ!」

 

ティファニアが制止しようと足を動かそうとしたが、シャジャルに止められた。

巻き込まれると訴えられて。

 

「な、何だこの化け物はぁっ!?」

 

「い、いやあああああああああっ!」

 

「に、逃げるんだっ!!!!」

 

男だけじゃなく、女たちも逃走をしようと足を動かし始めた。ギョロリと赤い眼が男だけを捉え、

空気を叩いたような音を発したと同時に一人の男の頭えと手を伸ばし、

凄まじい勢いと力で壁に押し付けた。

グシャァッ!とトマトが潰れたように壁一面は赤く染まった。

 

窓から逃げようとする二人の男がいた。両腕をクロスの形で顔を守るように構えて

窓ガラスを破ってレンガの壁と挟まれた建物の外へと脱出を果たし、逃走を計った。

だがしかし、男を追うように妖怪ろくろく首のようにドラゴンの顔が首を伸ばし、

逃走する男の足をすくい上げる感じで噛みついた。悲鳴を上げ助けを請う声を

叫ぶものの部屋に引きずり込まれてしまい、最後に発した男たちの声は絶叫だった。

 

少年は全身を震わせ、巨大な手の中に掴まれて全身の骨という骨を握り潰され、

砕かれた大の二人の大人たちの末路を見てしまった。

二人の大人はゴミ当然のように壁へ叩きつける感じで放り投げられた。

そして残っているのは自分一人だけ。大人たちとは家族関係で毎日のように

女遊びをしているんだ、これが当たり前のことなんだと教えられて自分もそうするように

なってもう長い。女を思い通りにさせたり、甘美な快楽をもっと味わいたいと嫌がり、

泣き叫ぶ女たちを蹂躙していった。だというのに、なんで、どうして自分はこんなに

恐怖を覚えるような目に遭っているのだろうか?

自問自答し、下半身が素っ裸のまま失禁し、恐怖の色で染まった酷く歪んだ顔に

ガチガチと止まらない歯、全身で目の前の化け物から放たれるプレッシャーに

身体の震えが止まらない。

 

そして、ついに自分の番がやってきた。太い尾がしなり、鞭のように壁へ叩きつけられた。

それだけでは終わらず、何度も何度も激しく素早く尾で叩かれて、痣ができ、骨に嫌な

音が絶え間なく身体から聞こえてくる上に激痛が感じて止まない。

このまま死んでしまうのか、そう遠退く意識の中で思っていた―――。

 

―――身体に衝撃がこなくなった。遠心力がついた力強く振られる尻尾が自身の身体に来なくなった。

身体中から発する激痛に苦しみつつ不思議に思い、眼前に目を向けていると、

ティファニアが両腕を広げて自分を庇っていた。

 

『どけ』

 

どこまでも低い声音。殺気立っているのが赤い眼から窺える。自分の家族にこうして

止められたのは二度目だ。一度ならず二度までも、相手を庇う理由が理解に苦しむ。

 

「もう止めて。これ以上やったら本当に死んじゃうっ」

 

『そのつもりでやっているんだ。俺の家族に手を出した奴は万死に値する。

敢えてまだ生かしてある他の奴らも同様にな』

 

「私の知っているイッセーはこんなことしない!」

 

『今の俺は怒っているんだ。知らないのは当然だ。それともなにか?

お前は好きでもない男に無理やり襲われても平気だって言うのか?』

 

怒りに満ちた双眸を向けられるティファニアは恐怖で顔を強張らせる。

でも、真っ直ぐ眼だけは一誠に向けている。気丈に振る舞うその態度にますます一誠は

目を細める。

 

「違う、そうじゃない。例え許されないことをした人でも殺しちゃいけないの」

 

『この国に他の外国の法律には死罪と言う罰がある。

お前はその法律を許されないって言うんだな?』

 

「それ、は・・・・・」

 

『死んで当たり前だと思う人間は星の数ほどいる。そう言う奴らの考えは間違っているの

だとお前はそう言っているのは分かっていないのか?

いや、分かっているはずだ聡明なお前ならば』

 

ティファニアに語り続ける。

 

『こいつらは許されないことをした』

 

自我を失っている女性が数人ほどまだこの場にひれ伏している。

その内の一人の女性を掴んで、ティファニアに見せ付ける。

 

『この女性の友人、家族、もしかすれば恋人がいるだろう。

そんな人たちからしてみればこの女性は被害者であり、不幸な目に遭った人間だ。

―――そんな目に遭わせた人間をお前は許せと言いたいのか!』

 

「っ!」

 

ビクリと身体を跳ね上がらす。ここまで怒った一誠を見たことがないティファニアにとって、

今の姿も含めてまるで別人のように見える。

 

『俺は理不尽なことが家族に手を出す奴らの次に嫌いだ。そんな奴らを俺は絶対に

許すつもりはないぞテファ』

 

すると、この場に一つの魔方陣が発現した。

一誠たちの前に魔方陣から現れたのは・・・・・。

 

「そこまでだ、一誠」

 

兵藤誠と兵藤一香、一誠の両親だった。どちらも真剣な面持ちで一誠を見詰めている。

 

「ナヴィちゃんから連絡が来てな。お前が暴れているというから来てみれば・・・・・」

 

『・・・・・』

 

「お前はこんなことをする為に修行をしたわけじゃないだろう」

 

周囲を見渡し、悲惨な状況を目の当たりにして誠は溜息を零す。

 

『・・・・・家族を守っただけだ』

 

「限度と言うものがあるでしょう一誠。流石にやりすぎよ」

 

『・・・・・』

 

無言で沈黙を貫く。しばらくして、元の姿に戻っては自我を失った女性たちを魔力で浮かせ、

ティファニア、誠、一香、ルクシャナ、シャジャルの横を通り過ぎて扉に近づく。

 

「俺みたいな人間をこれからも増え続けていいの?」

 

『・・・・・』

 

「実の兄に殺された俺みたいな人がこれからも増え続けるんだね。

この世界は・・・・・残酷だよ」

 

それだけ嘆かわしいとばかり呟き、肩を落として扉の奥へと進んでこの場からいなくなった。

 

「一誠・・・・・お前はどれだけ何かに対して絶望しているんだ・・・・・?」

 

「違うの、違うのよ一誠・・・・・私たちは・・・・・」

 

「お母さま・・・・・私、間違っていたの・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

「イッセー・・・・・」

 

 

 

―――後に日本だけでなく世界まで震撼させる出来事が起こったのはそう遠くない未来だった―――

 

 

 


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