HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード22

「まったく、あのスケベジジイだけじゃなく師匠まで覗きなんてするとは思わなかったぞっ」

 

「一子もどうして参加していたんだ?」

 

「釈迦堂師範代に強引で・・・・・」

 

晴天の下で登校する一誠と百代、一子の三人組。それだけじゃなく、

 

「百代が暴れるから寝れなかったんじゃんか!」

 

「ZZZ・・・・・一誠くんの背中、温かぁい・・・・・」

 

「天の言う通りだぜ」

 

川神院に養子として引き取った天、辰子、竜兵も共に登校している(亜巳は仕事)。

 

「ていうか、お前がウチに居候なんてまた川神院で修行するのかよ?」

 

「や、一時的だ。数日ぐらいすれば通っていた学校に戻る」

 

「あっち行ったりこっちに行ったりしてお前は風か」

 

「風は風でも嵐だったりして」

 

「いや、暴風だ」

 

多馬川が見える。のどかに川が流れ魚たちも悠々と泳いでいるだろう。

大きな橋、多馬大橋も肉眼で捉え、一行は橋に直行していたのだが橋の上に道着を

身に包んだ男性がいた。話を聞けば川神百代の挑戦者らしく百代は嬉々として挑戦を受けた。

 

 

バキッ!

 

 

0.1秒と一蹴して終わらした。

 

「つまらない」

 

「ただの人間じゃ百代に触れることもできないって」

 

倒された挑戦者を一瞥し、川神学園へと足を運ぶ。

 

「辰子はともかく天と竜兵が大人しく学校に行っているなんてな」

 

「最初は物凄く反抗して嫌がってたわよ。でも、じいちゃんが奥義を発動してでも

行かせる気だったから」

 

「・・・・・ほぼ脅しじゃん」

 

「だろう!?社会に馴染めないウチらが学校に行ってもしょうがないじゃん!」

 

「あのジジイはいつか絶対に張り倒すっ」

 

いや、それは無理だろう。百代は当然のように思った。現役を引退したと言っても

実力はあまり衰えていない。体力は落ちただろうがそれでも強さの壁を越えた一人だ。

百代が認めるほどの実力者でもある。

 

「オメーからもなんか言ってくれよ」

 

「そうだぜ。お前なら言うことを訊いてくれるじゃねぇか」

 

「多分、お前らの二の舞になる」

 

「「使えねぇ!あっ、悪い!だからアイアンクローはやめてくれェええええええええっ!?」」

 

―――2-S―――

 

そんなこんなで強化合宿はあっという間に最終日を迎えた。その間の放課後は弓道部に顔だし、

時間が許される限り稽古をつけてやったり、他はシオリという女子が度々会いに来たり、

百代とエスデスが一誠争奪戦を勃発したり、学食でサイラオーグと食べたりして時間が

過ぎたのだが、結局のところ。一誠の強化合宿は何の変化もなく終わろうとしていた。

 

「先輩、俺って来た意味あった?」

 

「俺に求める事ではないと思うが?」

 

「いや、思った以上どころかそれ以下だったし。や、友達や恋人もできたし

別に悪いわけじゃなかったし」

 

「ほう、恋人ができたのか?ならばリアスには告白しないのか?」

 

「え、リアス?好きだと言われないからただの友達だと思っていたんだけど」

 

「・・・・・リアスに問題があったか」

 

何やら意味深なことを呟くサイラオーグだった。最終日には何があるのかと訊ねると、

特にないと言われてしまい、このまま平穏に何事もなく終わるのかとちょっとつまらなく思った。

 

「そういえば、寮にいるんだよな?どう、寮生活は」

 

「個性的な人間がいて暇ではないな。寮にいる一人の男子生徒はヤドカリを飼育していて、

訊ねると数時間語られた」

 

「・・・・・それ、愛着以上の何かを感じるのは気のせいか?」

 

「並々ならぬ何かを感じたのは確かだったな。だが、人間とは面白い」

 

サイラオーグは口の端を吊り上げた。対して頭の上に?と疑問符を浮かべる一誠。

 

「十年前まで悪魔であることを隠して人間界に存在したいた。なのに今では当たり前のように

人間界を闊歩し、人間は悪魔だけではなく天使、堕天使も受け入れてくれる。

以前は悪魔として人間相手に契約し、それを糧に生きていた。

眷属として交渉し、共に強くなる。または悪魔であることを隠し人間の仕事をしたりと

陰ながら生きていたのにな」

 

「・・・・・」

 

「どうした黙って」

 

「んや、悪魔の世界も実力主義の社会なのは分かっているけど、アンタは冥界と人間界、

どっちを住んで幸せだと思うんだ?」

 

何となく聞いた質問をサイラオーグはこう答えた。

 

「俺の場合は幸せではなく、より強くしてくれる世界だな」

 

真っ直ぐサイラオーグは一誠と対峙した。何時になく真剣な面持ちでこれから語られる

サイラオーグの口から出る言葉に耳を傾けた一誠の耳にある決意の言葉が入ってきた。

 

「兵藤一誠、俺は魔王になることが目標としている」

 

「―――――」

 

「能力があれば誰でも有能として扱い、たとえ生まれがどうであろうと誰でも相応の

位置につける実力評価の世界を作りたいと思っている」

 

胸に強く握った手を当てるサイラオーグ。

 

「そう、力と志がある者に相応しい世界を俺は作る。

兵藤一誠、お前みたいな者の世界の為の世界だ」

 

力と志がある者に相応しい世界・・・・・。心の中で復唱し、一誠は何とも言えない表情となった。

 

「・・・・・今の人間界じゃそんな人間は少ないかもな」

 

「何故そう言い切れる?」

 

「言い切っていない。そんな感じがするだけだ。―――主に兵藤家が原因だけ」

 

「ならば、お前は人間界の王となればいい」

 

意外な言葉がサイラオーグから出た。自分が人間界の王?

 

「冥界は悪魔を束ねる魔王。天界は神をサポートし、天使を束ねる神王、

ならばこの国の天皇の兵藤家の当主よりも全ての人間の代表として人間界の王となればいい」

 

「・・・・・からかっているのか?俺は知っての通り人間じゃないんだぞ。

人間からしてみれば怪物だ。俺はそこまで高望みはしない」

 

「だったら聞こうか。お前は何の為に強くなった。何の為に生きている?」

 

「・・・・・」

 

理由を問われても一誠は言えなかった。理由がなくても人は生きていけれる。

 

―――兵藤家に見返す。

 

一誠は子供のような理由で強くなり、生きた。だが、逆に言えばたったのそれだけで

他はなにもない。

 

「・・・・・兵藤家を見返す。それだけだ」

 

「なるほど、認めてくれなかった者たちに見返す為か」

 

「―――っ」

 

いきなり核心を突いてくれた。サイラオーグは自分のことみたいに一誠を見詰める。

 

「お前はどこか俺と似ている」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「お前の瞳を見れば俺とどこか似ている光を宿している。

出生、育った周囲の環境・・・・・そんなところか?」

 

「・・・・・」

 

「お前の身に何が起きて、真龍と龍神の力を有したのかは俺には分からない。

だが、その力を誤ったことに振るうなよ?もしもそんな事をすれば俺は全身全霊を

以ってお前を倒す」

 

釘を刺された。俺がそんなことするはずがないと言い切れない自分がいる。無言で頷くと、

サイラオーグは一誠の肩にポンと軽く叩き、去って行った。眼だけ去るサイラオーグを見送り、

 

「どこが似ているのか少しぐらいは教えて欲しいもんだ先輩よ」

 

息を一つ零した。

 

―――○●○―――

 

「おはよう、兵藤くん」

 

「おはよう、先輩。また来たんだ」

 

「あなたは有名人の以前に色々と気になるからね」

 

妖艶に微笑むシオリ。今日で最後の強化合宿である一誠がいなくなる前日でもあり、

シオリは最後に顔を出す為に姿を現した。―――屋上に。

 

「あなた、今は授業中よね?」

 

「んー、最後ぐらいはのんびりしたいから抜けた。というか人のこと言えないよな?」

 

「そうね。あなたと二人きりになる機会を狙っていたから丁度良かった」

 

「あっそう。それで、俺とどんな話をしたいんだ?これだけは分かるけど先輩は人間じゃないよな」

 

青い空の下で胡坐を掻いて屋上に座っている一誠の背後に佇むシオリ。

二人を邪魔するものは誰一人として存在しない。シオリにとっては絶好の好機。

 

「最初から分かっていた?」

 

「確証は今だってない。だけど、なんて言うんだろうな」

 

ガリガリと頭を掻き首を捻って尻目でシオリに向かって言った。

 

「俺の中で先輩は他人じゃないって言うんだ。初対面のはずだがなんでだろうな」

 

「それは私も同じよ兵藤一誠くん。いえ、兵藤家と式森家の人間の間に生まれた

中途半端な人型ドラゴンくん」

 

クスリと小さく口角を上げたシオリをジッと見つめる。

中途半端―――。そして自分を見抜いている彼女は何者なのか、未だに分からない。

 

「どうして中途半端と言う?俺は兵藤家の人間だぞ」

 

「姓をどう名乗ろうが、もう一つの血を流しているなら中途半端と呼ばれてもおかしくはないわ。

それにドラゴンの血だって流してる」

 

「ほんと、先輩は何者なのか気になる一方だ」

 

「なら、一つだけ教えましょうか」

 

「っ!」

 

闇が広がった。シオリの意味深な言葉と同時に闇が生まれ形になっていく。

そう、ソレは一誠が目を張って驚愕の色を浮かべるほどの―――。

 

「・・・・・なんで、その姿になれる」

 

「あなたと同じ存在、だからと言っておきましょうか」

 

黒い籠手が両腕に包み、顔に入れ墨のようなものが浮かび、

一対の黒い紋様状の翼が背中から生え出し、龍のような黒い尾も腰から伸びている。

―――自分だけしかなれない姿を目の前の女子の先輩が同じ姿になっている事実に

信じがたい気持ちで一杯になる。

 

「同じ存在って・・・・・先輩も兵藤家と式森家の・・・・・?」

 

「ちょっと違うわね。私はとある一族の末裔。兵藤と式森と関係があるのは確かなのだけれど」

 

「・・・・・関係?」

 

「あなた、魔人って知っている?」

 

魔人と言う単語に怪訝そうな面持ちで首を傾げる。知らないという意思表示をする一誠に

大した反応をせず説明口調で語り始めた。

 

「魔人は冥界に住んでいる一族。冥界ってこの人間界の地球みたく広いでしょ?

流石の現魔王や悪魔たちは冥界の裏まで知るわけがないわ」

 

「その一族がどうして人間界にいる?」

 

「血を絶やさない為よ。悪魔や天使、堕天使が世界の覇権を巡って戦い始めた頃から

魔人は存在していた。勿論その戦争に悪魔側の味方として参戦していたわ。

でも、知っての通りあなたたち兵藤家と式森家の人間が介入して戦争を終幕させた。でもね、

その戦争を終わらせた兵藤家と式森家は魔人と根深い関係があるのよ」

 

「どんな?」と話を催促させるとシオリは口元を緩ませて言った。

 

「兵藤と式森は元々一人の魔人と一人の人間から生まれた一族。

―――そう、魔人が人間と契りを結び、気が長けた子供と魔力が長けた子供の双子の誕生から

全てが始まった」

 

信じられない事実を語るシオリ。一誠の心情を知ってか古の歴史を語り始めた。

三大勢力戦争が勃発して間もない頃、魔人は戦争に疲れ果てていた。幾度も幾度も戦争。

どれだけ相手を倒しても戦争は終わらない。一族も数を減らしてゆき、

何時しか魔人という種が絶滅してしまう。魔人は悪魔より数が少なかった。

代わりに現在で言う最上級悪魔を凌駕する魔力や特殊な力を有していた。

 

しかし、堕天使と言う天敵もいる為に冥界で生きる為にも悪魔と協力して戦争に身を

投じざるを得なかった。一人、また一人と一族の者が倒れていく。

ついにはどの種族よりも数が減ってしまい、これを危機に感じた魔人たちは悪魔と

協力することを拒み、戦線離脱、純血でもハーフでも関係なく種の存続のために

子孫を増やし始めた。が、悪魔たちは数を増やす魔人たちを見つけては戦争の為、

悪魔の勝利の為、世界の覇権を手に入れる為と強引に戦争へ投じさせた。

 

そんな種族に魔人たちは思った。

 

『自分たちは悪魔の為に戦っているのではない。魔人という種の存続と繁栄のために

戦っているんだ!』

 

「魔人は完全に悪魔を敵とみなし、人間界へ姿を暗ました。まだ冥界にも戦争が終わってから

生き残ってる同胞がいるかもしれないけれど、表に出ないということは隠居みたいな

暮らしをしている可能性があるわね。もう、悪魔に従わない為に」

 

「・・・・・」

 

「人間界に移り住んだ魔人たちはハーフの魔人を増やした。

でもね、ハーフの魔人はまた人間と契りを結び、子供を作っているうちに魔人の血が

段々と薄れてしまい、ついには魔人の血は絶えてしまった」

 

息を吐いてはまた語り始める。

 

「さっきも言ったように気が長けた子供と魔力が長けた子供の双子が生まれたわ。

だけどお互いが魔人としての力は受け継いでいたけど持っていない力があり、

双子は羨望と嫉妬、ついにはどちらが強いのか双子は争い始めた。

それから双子はそれぞれ兵藤と式森という人間と結び、

体術や魔術を極め、どちらがより優れているのか度々衝突した」

 

「今は良好のようだけどな」

 

「それはそうよ。そんな関係を良しとしない両家の一部の人間が秘密裏で出会い、

裏で工作していたもの。それが誰だか分かるかしら?」

 

分かるわけがないと首を横に振った。昔の話を聞かされる自分に問われても

チンプンカンプンで、意味深に質問をしてくるシオリに目で訴えれば、

 

「現在の当主たちより前の四代目の当主たちよ。ああ、式森家の方は式森数馬の父親から数えてね」

 

「大分前の人物だな」

 

「まーね。まぁ、その人たちが裏で工作したおかげでお互いいがみ合うのを止めさせ、

日本を同等の立場で収めようと決め合った。天皇兵藤家と周りから呼ばれて兵藤家が

一番偉いだなんて思われてるけど、式森家が抗議の意を唱えちゃったら衝突は免れない。

最悪この国が真っ二つになるわよ」

 

「両家の歴史を見た瞬間だな」

 

「元を辿れば魔人と言う存在がいたからこそ今の兵藤と式森がいるようなものね。

別に自慢じゃないけど」

 

「でも、何気にドヤ顔だな」と指摘した一誠に「うっさい」と恥ずかしげに言い返したシオリ。

 

「俺は魔人だと言いたいのか?」

 

「まさか、今のあなたはドラゴンでしょう?でも、魔人の力を覚醒した

あなたは間違いなく私と同じ魔人の力を受け継いだ者として枠に入る」

 

「俺が魔人の力を受け継いだ・・・・・。なら質問だ。どうして俺だけが魔人の力を覚醒できた?」

 

真剣な面持ちでの質問。シオリは顎に手をやって何か考える仕草をする。

 

「これは私の予想だけど、気が長けている兵藤と魔力が長けた式森の力は元々一つ。

いえ、当時の魔人と人間の間に誕生したその双子にも魔人の血が流れていたけれど

魔人としての力も段々と子孫を残すにつれ薄れた。

だけど、相反する力が一つになった瞬間に遺伝子が強く反応して覚醒するんじゃないかしら?

まるで対立した双子のように―――あ、もしかして相反する理由は対立した双子の思い、

『こいつには負けない!』って意思が血や力となってまで子孫に受け継いだんじゃないかな?

だから気と魔力が一つになると相反しちゃう。ある意味納得できるわねもしもそうだったら」

 

面白可笑しそうに笑うシオリ。一誠もそれが理由だったら力って不思議だなと思う。

 

「だったら俺みたいにもう片方の血を体内に流せば魔人の力が覚醒できるわけか」

 

「だけど、それは諸刃の剣に過ぎないわよ。凄まじい力は得るだろうけれど相反する力が

体内で主張し合い、肉体に激しい痛みを起こし最悪暴発する」

 

「俺は平気だけど?」

 

ケロッとシオリに告げた一誠を指摘した。「あなたはドラゴンだからだ」と。

 

「人間よりドラゴンの方が頑丈だもの。相反する力を完全に抑え込んでいる。

同じこと言うけど人間だったら間違いなく凄まじい激痛によって苦しんでいたに違いないわ。

最悪死んでいるかも」

 

そう言う事なら自分は別に特別でもないかと他人事のように心中で述べた。相反する力を

ドラゴンの身体で宿すなんて危険極まりないことだが、グレートレッドとオーフィスに

感謝せねばと溜息を零す。

 

「兵藤一誠くん、あなたも同じ姿になってくれないかしら?」

 

「なんでだ?」

 

「いいじゃない、私は両親以外知らないもの。それにあなたが知らなかっただろう

この力を教えた代価だと思ってくれれば安いものでしょう?

それとも私から無理矢理喋らされたって言っても良いかしら?」

 

お、脅し・・・・・。なんて方法で促すシオリなのか、頬が引き攣った苦笑を浮かべるが

黒い眼から感じる「私はそれでもいいわよ?」と挑発的な視線。

渋々とシオリ命名『魔人化(カオス・ブレイク)』となった一誠。

 

「・・・・・改めてみると、他の魔人はこんな感じなのね。しかも男の子は」

 

頬を触れた瞬間、一誠は目を丸くした。

 

「平気なのか?」

 

「ああ、相手の力を奪っちゃうことかしら?私も初めてだけど聞いた限りじゃ、同族が

触れ合っても魔力は奪われないらしいの。どうやらそのようだけどね」

 

「気もそうみたいね」と付け加えた。ならば自分もとシオリが触れてくる手を添えてみれば、

確かに奪う感覚がない。自分の意思に否応なく相手の魔力や気を奪う

この力は魔人だけ効かないことを認知し、感嘆な心情でいる自分がいた―――。

 

「ちゅ・・・・・」

 

「ん!?」

 

いきなりシオリに唇を奪われた。またこの展開か!と首に腕を回されガッチリと顔を

動かせないことをしてくるシオリに対して目を丸くしていた時、足元に魔方陣が。

禍々しさを醸し出す常闇の魔方陣、紋様状の翼が魔方陣に描かれ、黒い光は二人を包みこむ。

 

ドクンッ!

 

全身が心臓の鼓動のように跳ね上がった。それでもシオリは口付けを止めないどころか

さらに熱く情熱的なキスを続ける。

 

「ちゅる・・・・・じゅる・・・・・んン・・・・・れろ・・・・・・はっ・・・・・んふ」

 

黒い光の中で二人は濃厚(一方的)なキスをする。自分の何かがシオリに、何かが自分の

中に入れ替わるそんな感覚を覚える。一誠はこの状況から逃れようとするも、

何かに縛られているみたいに身体が動かすことができない。

ならば、どうすればいい?自問自答し、自己完結した一誠は―――。

 

「んふっ!?」

 

一方的に舌を絡めてくるシオリに逆襲の形で自らも舌を相手を蹂躙せんと絡め始める。

 

 

魔方陣が程なくしてなくなると腰の骨が抜けたようにシオリは紅潮した顔で荒く呼吸を繰り返す。

一誠もまた絶え絶えに真っ赤な顔でシオリを見下ろしていた。

 

「な、なんてテクニックなの・・・・・。ファーストキスがこんな激しく情熱的なんて

思ってもみなかったわよ・・・・・っ」

 

「始めてだったのかよ。それで・・・・・今のは何なんだ」

 

落ち着きを取り戻すシオリは頷いてこう答えた。

 

「同じ魔人がする儀式みたいなものよ。互いの魂を半分だけ互いに分け与えて

一心同体になるの。ようは繋がりを持つの。儀式を終えた魔人は相手の魂から記憶だって

見ることだってできるんだから」

 

「シオリの記憶・・・・・」

 

「そして、人間と結ぶ魔人とは違い、魔人同士が今のように魔方陣を媒介して儀式を

行えばさらに魔人としての力が増大する。互いの力の半分も受け継ぐから後世まで

魔人の力は残せる」

 

話を聞いていた一誠はとある予感した。

 

「・・・・・なぁ、その儀式ってまるで結婚みたいな感じなんだが?」

 

「あら、そんな例えが真っ先に浮かべるなんてね。あながち間違ってないわよ」

 

「え”」

 

「ある意味は魔人同士の結婚よこの儀式は。でも、それは後世まで魔人の力を残す為の

儀式だから実際は違うの。だから安心してちょうだい。だけど・・・・・」

 

ほんのりとシオリは顔を赤らめて上目遣いで一誠を見る。

 

「あなたとのキス・・・・・癖になりそう。またしちゃってもいい?」

 

「先輩・・・・・」

 

「シオリって呼んで?この世界で唯一の魔人は私とあなただけなのだから・・・・・」

 

腕を伸ばしてくるシオリの手を掴み、引き寄せる。

 

「・・・・・っ」

 

シオリの視界に一誠の顔が険しくなったのが映り込んだ。どうしたのだろうと首を傾げ

たが、自分を立たせた一誠は険しい表情のまま屋上の鉄柵へと足を運びグラウンドへ

見下ろした。何があるのか?一誠の肩に並んで

下へ視線を下ろせば、一人の男が屋上にいる一誠とシオリに目を向けていた。

 

「あいつ・・・・・」

 

「知っているの?」

 

「ああ」

 

躊躇もなく屋上から飛び降りて金髪の少年の前に着地した。

 

「あの時以来か。今度は何だ」

 

穏やかな雰囲気を纏わず、冷たく声を掛ける一誠に開口一番相手が発した。

 

「てめぇだけは俺の手で倒さないと気がすまねぇっ」

 

「随分と俺に御熱心だなぁ?あんだけ俺を蔑んでいたのに。なんだ、お前はブラコンだったのか?」

 

「ふざけたことを言うな!お前の方が強いなんて有り得ねぇんだよ!兵藤の出来損ないがぁっ!」

 

怒りに満ちた瞳と顔を一誠に窺わせる。一誠の眼前にいる金髪と赤い双眸の男―――兵藤誠輝。

赤龍帝でもあり一誠の兄でもある誠輝は声を荒げながら全身から赤い閃光を迸らせ、龍を

模した赤い全身鎧を装着した。

 

「今度は油断しない!俺の方が強いとてめぇを倒して証明してやる!」

 

「・・・・・」

 

一方的な言動。自分の力を相手に誇示をする自己誇示欲に傲慢の誠輝に目が

どこまでも据わった。

意気揚々と自分の力を弟に示しつけるが為に背中のブーストを噴出させ凄まじい

勢いで肉薄する。

 

「・・・・・はぁ」

 

呆れ顔で溜息を一つ零す。誠輝の拳は間違いなく一誠の顔面に突き刺さった―――!

 

スカッ。

 

「あ?」

 

顔どころか、身体まで一誠の身体にぶつからず過ぎた。まるで幻を見ているかのような。

 

「(俺の目が見えないぐらい避けたってのか!)」

 

ならば掴むまでと真紅の髪に手を伸ばし、掴みかからんと五指に力を籠めて

触れようとしたものの、一誠の背中から胸まで誠輝の手が抜けた。

 

「なんだよ・・・・・これはっ!」

 

「・・・・・」

 

拳を突き出しても、足を振っても一誠は雲のように空ぶるばかり。一切の打撃が通じない、

 

「だったら魔力での攻撃だ!」

 

赤い魔力弾をマシンガンのように放つ。狙いを違わず一誠に直撃するが、

やはり身体に当たらずグラウンドの地面に穿つばかりだった。

 

「ンだよそれはぁっ!てめぇ、なんのトリックを使ってやがるんだよぉっ!!!!!」

 

「透過だ」

 

透過、その言葉が誠輝の耳に届いた。

 

「所謂透明人間だな。今の俺は」

 

「透明、人間だと・・・・・」

 

「そ、だからお前の攻撃なんて一切通用しないさ。ご自慢の赤龍帝の力はな」

 

言った直後に一誠は誠輝の背後に回っていた。背後から感じる気配を察知し、

腕を横薙ぎるが言葉通り身体が透明となっている一誠には当たらず空ぶり隙を作ってしまった。

 

「ん」

 

軽く誠輝の腹部に手を触れた時、ドンッ!と何度もグラウンドにバウンドしながら

吹っ飛び、立て直し一誠に目を向けていた時は、

 

「―――――」

 

真上に黒と紫が入り混じった籠手を装着している一誠が腕を突き出していた。

拳を叩きつけられ、地面にひれ伏す誠輝の身体に衝撃が伝わる。

 

「~~~っ!?」

 

生身の身体を守るように覆っていた鎧が解除され、一誠の拳をモロに直撃した。

一体いつの間に移動して攻撃をしたのか誠輝は気付かないでいた。

 

「これが俺とお前の力の差だ。殻に閉じ籠ってばかりのお前らと世界に羽ばたいていた俺とは」

 

自分の真下に展開した魔方陣で浮かされた誠輝の尻目に飛び込んできた光景。

赤龍帝としての鎧とは違う鮮やかな赤い全身鎧を纏っている一誠がいて―――。

 

「体験してきた修羅場と経験が違うんだよ!」

 

赤い塊が誠輝の顔面に突き刺さり、殴り飛ばした。

 

「・・・・・クソ、がっ」

 

フラフラと立ち上がる誠輝。自分の顔に殴り飛ばす一誠に何とも言い難い黒い感情が

一気に湧きあがる。

 

「ふっざっけんなぁああああああああっ!」

 

獣のように咆哮を上げる。目の前の強者を認めない、認めるわけにはいかない。自分が

最強なのだ、兵藤家の中で大人も含め倒した自分は―――誰よりも強いのだと信じて止まない。

 

「まだ、来るか」

 

拳を構える一誠。臨戦態勢になって今度こそ誠輝を無力にしてやろうと『魔人化(カオス・ブレイク)』の状態に

なった時、二人の間に陰が割り込み、あろうことか誠輝に向かって行き―――エルボーをかました。

 

「・・・・・え?」

 

たったの一撃のエルボーで誠輝はダウン、気絶した。

ポカーンと開いた口が塞がらない一誠の目は有り得ない人物が映り込む。

 

「おじいちゃん?」

 

「・・・・・久しいな、一誠」

 

意匠が凝った着物を着込んで顔が厳つい中年の男性、

現兵藤家当主の兵藤源氏が一誠の前に姿を現して誠輝を沈めた。

 

「えっと、なんでここに?」

 

「どこぞのバカが二度も無断で兵藤家からいなくなったと報告を訊いてな」

 

ノビている誠輝に向かって嘆息し一誠に視線を向ける。

 

「お前、その姿は何なのだ」

 

「へ?あ、ああこれ?」

 

「・・・・・まぁいい。取り敢えずこいつを連れて帰ろう」

 

誠輝の襟を掴み、とある方へ目を向けた。

 

「数馬殿、また頼まれてくれるかな?」

 

源氏が向ける視線の先に式森数馬、和樹の父親にして現式森家当主の男がいた。

 

「・・・・・」

 

一誠に一瞥した後、数馬の足元と源氏の足元に魔方陣が出現した。

 

「すまなかったな」

 

それだけ言い残して魔方陣の光が弾けたと同時にこの場から姿を消した。

 

「・・・・・なんだったんだ?」

 

一誠の疑問の呟きは吹く風によって掻き消され誰も答えることはなかった。

そして、一誠の強化合宿は終了した―――――。一誠にとって意味はあったのか定かではない。


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