HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード15

翌日。何事もなく、嫉妬で襲いかかってくる男たちから転移魔方陣で学校に一直線登校した。

壁の至るところに新聞が張られ、一誠とライザーのレーティングゲームのことについて

書かれていた。周りから意味深な視線を感じつつ自分の教室に侵入した

一誠たちに出迎えたのは―――。

 

「HEY!兵藤、グットモーニング!」

 

金剛からの熱い抱擁だった。全身で使い一誠に飛び付きコアラのように両手両足で

抱き締めたのだった。

 

「い、いきなりどうした・・・・・?」

 

「兵藤のおかげで、兵藤のおかげで奇跡が起こったんデース!

だから、だからそれが嬉しくて仕方がないノー!」

 

「むぐっ」

 

顔が金剛の上半身、特に制服の上からでは分からない金剛の意外にある

胸に押し付けられ呼吸ができなくなりつつあった。

 

「あの、金剛?一誠が苦しそうだから放してあげない?」

 

「OH?あっ、本当ネ」

 

ヴァレリーの助け船によって三途の川を眺めていた一誠が意識を取り戻した。

 

「し、死ぬかと思った・・・・・奇跡のおかげってどういうことだ?」

 

「私の大切な人たちが目を覚ましたんデス!それは兵藤が起こした奇跡で目覚めたんだヨ!」

 

目を細め、喜びを体で表現する金剛。

 

「・・・・・そうか。そういう人たちもいるんだな」

 

「一誠さまのお力で人々が救われている事実が実証されましたね」

 

「イッセーは優しい」

 

「ええ、優しい子は大好きよ」

 

咲夜、オーフィス、ヴァレリーを始めイリナたちも同意の声を漏らす。

 

「目が覚めたってことは病院にいるんだよな?」

 

「YES、そうデスヨ?」

 

「その大切な人たちの親は入院費を払えているのか?」

 

・・・・・。

 

「ダ、ダイジョウブデス」

 

目を泳がせてカタコトで返事をする金剛。苦労しているんだなと悟り声を掛けた。

 

「金剛、ちょっと手を」

 

「うん?」

 

受け取る姿勢の金剛の手の上に発現し能力を発動した金色の杖。光る杖からポロポロと

冷たくそれでいて硬い感触が金剛の手に落ちて何度も伝わる。

なにを持たされているのか不思議でいる金剛を余所に一誠は杖を消失させ視線を落とす先には、

金剛の手に様々な宝石の塊が収まっていた。

 

「コ、コレって・・・・・!」

 

「これで金に換えれば入院費を払えるだろう」

 

「い、いいんデスカ・・・・・?」

 

恐る恐る尋ねた金剛の問いに頷いた。

 

「昨日の一件のお礼、として受け取ってくれ」

 

朗らかに笑う一誠に瞳を潤わせ感謝の気持ちで一杯になった金剛だった。

ここまでしてくれるとは思いもせず、一誠に対する金剛の中での好感度はMAXゲージを突破した。

 

「だ・・・・・・」

 

「ん?だ?」

 

「大好きデース!」

 

せっかくもらった宝石を放り投げて再び一誠に抱きついた。

 

「兵藤、ううん、イッセー!あなたのハートを絶対に手に入れマース!」

 

「なっ、一誠くんは誰にも渡しません!」

 

「ここで新たなライバルが出現だなんて!主よ、これも私に対する試練なのですか!?」

 

ルーラーとイリナが激しく反応し、金剛と恋のバトルをする日はそう遠くなかった。

 

「兵藤、一緒に図書室へきて」

 

「あいよ。分身でいいか?この状況から離れそうにない」

 

「仕方がないわね」

 

休憩時間になるや否や、金剛が一誠に抱きつき、それに負けじとイリナやルーラーも

ひっ付いた為、身動きが取れない。図書室で一人だけにさせるのは危険だと

分かっているパチュリーは一誠の分身と一緒に目的地へ向かった。

本物の一誠は教室に残り、次の授業に備えようと準備をしていたところで来訪客が現る。

 

「失礼する」

 

『―――っ』

 

男が入ってきた。女子たちは警戒心を抱くものの相手が誰なのか分かっているようで、

敵意や睨むことはしないと一誠の真逆の事をする。一誠より身長が高く鍛え抜かれた

その身体は制服越しでも伺え、ガタイのいい紫の瞳の黒髪の男子が威風堂々と

教室にいる一誠の元へと真っ直ぐ歩んだ。

 

「兵藤一誠だな?俺は3-Sのサイラオーグ・バアルだ」

 

「はぁ・・・・・」

 

「お前の戦いぶりを見させてもらった。何時かお前と戦ってみたいものだ」

 

と口元を緩ませ好戦的な発言をするサイラオーグに若干当惑気味の一誠。学園に通って

見たことがない男子に朗らかに接せられてとあることを口にした。

 

「普通の態度でいられるんだな」

 

「それはどういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。兵藤家を嫌っている奴は多いんだから先輩もそんなんじゃないか?

ってだけ」

 

「確かに俺と同じ学年のクラスにも兵藤はいるが―――関係ない。問題を起こす者は誰で

あろうと警告する。それでもなおも止めないのであれば俺の拳で粛清するだけだ」

 

「―――――」

 

ここまで真っ直ぐ言い切る男は、兵藤家に対して恐れない男を見たのは初めてであった。

和樹も龍牙もそうだろうが直接聞いたことがないから一誠の目の前にいるサイラオーグが

初めてである。

 

「兵藤家を敵に回してもいいのか?」

 

「ここは学生が通う学び舎だ。大人が介入するのは自分の子供に対することだけで一勢力が

戦争を起こす程でもなくても動くと思うか?兵藤家も問題は起こそうともそこまで

過保護とは思えんがな」

 

「・・・・・」

 

話を聞き、サイラオーグの強い光が宿る瞳を覗きこみ、一誠は―――。

 

「クッ」

 

口から零れたものは哄笑だった。

 

「ハッハッハッハッハッ!」

 

笑い始める一誠を周囲の反応は唖然だった。それでも一誠は身体を震わせて笑い続ける。

程なくして笑うのを止める一誠は立ち上がった。

 

「はー、笑ったよ先輩。うん、こうして対峙するだけでも先輩は強いってことぐらいは分かる。

先輩となら楽しくなりそうだ戦いが」

 

「体育の授業で戦えると良いな」

 

「その時は時間が許されるその間まで戦おうな」

 

「そうしよう。では、時間を取らせた。また会おう」

 

踵返してこの教室から去ったサイラオーグを見送り再び椅子に座った。

 

「一誠くん・・・・・?」

 

ルーラーが一誠を視界に色んな気持ちを胸に抱きながら訊ねた。一誠がルーラに顔を

向けて真摯に言った。

 

「あの男は強いよ。特に心がな。それになんとなく俺と似ているところがある」

 

「それってどの辺り?」

 

「まだ分からない。でも、きっと近いうちに分かるだろうさ」

 

綺麗に笑みを浮かべる一誠の顔を身惚れたのは必然的だった。

 

―――○●○―――

 

「リアス」

 

「あら、短い休憩の一時に声を掛けくれるなんてどうしたの?」

 

「彼は、兵藤一誠くんは素敵な殿方ですね。リアスが執着するのも納得がいきます」

 

「うふふっ、ソーナもイッセーの魅力を知ったらすぐに虜になると思うわ。―――渡さないけど」

 

「あらあらうふふ。リアス、それは私も同じよ?」

 

「味方の女王(クイーン)まで言われては大変ですね」

 

「もう慣れているわよ。幼い頃からずっとイッセーを巡った仲ですもの」

 

三階の廊下で会話の花を咲かせる。廊下に立ち話をする者たちも少なからずいて、

昨日のレーティングゲームの話がちらほらと耳に入る。

 

「彼―――サイラオーグが興味を抱くのでは?」

 

「もう彼のところに行ったらしいわよ」

 

「そうですか。男の子同士しか分からないことでしょうが昨日の一件で注目されるように

なったはずですね」

 

「あら、何か言いたげね?」

 

眼鏡をクイと動かしたソーナに視線を向けると、小さくリアスの目の前で頷いた。

 

「彼が赤龍帝であるということを認識してしまった者たちもいるはず。

ですが、そうであろうがなかろうが、兵藤一誠くんの実力は上級悪魔に匹敵していると

思った方が良さそうでしょう。あのライザー・フェニックスを倒したのですからね」

 

「私じゃ倒せなかったでしょう相手を倒したのだから当然でしょう」

 

自分のことみたいに

 

たゆん×2

 

と、制服の上からでもわかる肉感的なプロモーションを誇る胸が、そう擬音が聞こえる

ぐらいに自然と揺らしてリアスは胸を張った。

 

「あなたは彼の元へ行かないのですか?」

 

「色々と忙しいから会いに行けないのが現状なのよ。それに」

 

「リアス、俺と付き合おうぜ」

 

「こういったプロポーズを断っている最中だったの」

 

一人の男子からのプロポーズに苦笑を浮かべる。その様子に「一難去ってはまた一難、

どこまでも苦労しますね」と心中察した。せっかく一誠に婚約を破棄してもらったのに、

フリーとなったリアスを狙ってここぞとばかりプロポーズしてくる男子たちが後を絶たない。

 

「ごめんなさい。好きな人がいるから」

 

「いいだろう?俺なら幸せにできるぜ。俺はひょ―――」

 

「私、この髪の色と同じで強い人が好きなの。

だからあなたは私の好みの男性じゃないから付き合えないわ」

 

相手の話を遮ってできる限り丁寧に断った。

 

「ハッキリと仰ればいいじゃないですか。

あなたの好みの男性はこの学校に唯一一人だけしかいないでしょう」

 

「あら、変わらないじゃない?」

 

クスクスと親友ソーナに微笑むリアス。相手はリアスの返答に険しい表情となり口を開けた。

 

「俺と付き合えばお前の望むものをなんだって手にはいるぞ。それでもか」

 

「あら、面白そうな話ね。本当に何でも?」

 

リアスの反応に男子は内心脈ありと歪んだ心情で肯定した。

 

「本当だぜ。なんならお前の願いを叶えてやる」

 

「じゃあ、私にプロポーズしないでくれるかしら?」

 

「・・・・・は?」

 

「私の望みを叶えてくれるのでしょう?なら、私にプロポーズをしないでちょうだい。

それができたら考えても良いわ一秒だけ」

 

意味深に笑みを浮かべるリアスに心の中で溜め息を吐くソーナ。

なんて身も蓋もない望みを要求するのだろうか。

 

「それに私の名前を軽々しく呼び捨てて接しないでくれるかしら。

加えて私は同じ悪魔ならともかく、礼儀のなっていない人が嫌いなの」

 

「それについては私も同感ですね」

 

頷いて肯定するソーナもリアスの気持ちを理解している。

この男子はリアスに執着して声を掛けてくることも知っているからだ。

 

「・・・・・お前っ」

 

声音を低くリアスに睨み付ける。自分の容姿と出生に自信があり、時には暴力で従わせてきた。

今回もリアス・グレモリーという肉感的で魅惑、艶美―――と男を魅了させるその容姿と身体に

目を付け、自分の物にしようと何度も接し、直球ストレートな告白をしてきたが、

こうもあっさり拒まれてはプライドに傷付く。なにがなんでも目の前の『肉』を手に入れようと、

 

「黙って俺の言うことを聞け。酷い目に遭いたくなかったらな。兵藤家を敵に回して

お前の家がどうなるか考えたくないだろう」

 

声を殺し、リアスに脅しを掛けた。これで大体の女は身体を震わせ、委縮し、

相手を恐れて順従する。今回は人間ではないがきっとこの女もその一人だろうと高をくくった。

しかし―――。

 

「同じ兵藤でも、私が知っている兵藤とは大違いね。

そうやって脅さないと女を手に入れないなんてあなたは小さいわ」

 

リアス・グレモリーという女は、真っ向から脅しを撥ね退け逆に侮蔑が孕んだ言葉を突き付けた。

侮辱され一気に真っ赤になった男子は頭まで沸騰する勢いで怒り、素早くリアスの腕を掴んだ。

 

「こっちに来い!誰が強いか徹底的に分からせてやる!」

 

「・・・・・誰が強いか、ね」

 

男子に冷たく睨みつけるリアス。女の扱いがなってはいない男子に心から嘆息した。

 

「この学年の中で一番強いヒトをもう忘れたのかしら」

 

「っ・・・・・!」

 

「さっきからあなたの後ろにいる男に気付かないなんてね」

 

意味深なことを言うリアスだった。だが、本当に男子の背後には一誠と会ってきた

サイラオーグ・バアルが堂々と立っていた。

 

「俺のいとこをどうしようとしているのか、聞かせてもらおうか」

 

「サ、サイラオーグ・・・・・ッ」

 

「最後通告だ。リアスを掴むその手を放せ。三秒以内にだ」

 

指の関節を鳴らし、警告を聞かなかったら即粛清する気満々のサイラオーグ。

男子は苦虫を噛み潰したような顔となって、

 

「誰が従うか、兵藤を舐めるんじゃねぇっ!」

 

サイラオーグに向かって拳を突き付けた。避ける素振りもしないサイラオーグの顔面に

拳が突き刺さっても怯むどころか、苦痛の色すら浮かばないでいる。

 

「・・・・・」

 

首をコキコキと左右に動かしながら鳴らし、

 

ドゴンッ!!!!!

 

仕返しとばかり男子の顔面に拳を突き付けた。それだけでは留まらず、廊下の奥まで吹っ飛んで

壁と激しく衝突した。それ以降身動きせず、気絶している様子の男子が聞こえようが聞こえまいが、

 

「覚えておけ、パンチとはこういうことだ」

 

そう言った後に拳を引いたサイラオーグをリアスが声を掛ける。

 

「相変わらずの拳の威力ね。人を軽々とふっ飛ばすなんて」

 

「兵藤一誠や川神百代と言う人間もできると踏んでいるが?」

 

「川神百代まで目を付けているのね」

 

「人間の身で、拳だけで戦ったのだ。兵藤一誠と同じくらい興味がある」

 

不敵に口の端を吊り上げ、リアスの肩に手をポンポンと叩いた。

 

「あの男を手放すなよ?逃したらお前の魅力はないということだからな」

 

挑発的な発言を残して自分のクラスへと戻った。リアスは口先を尖らして「わかってるわよ」

と不満げに漏らす見守っていたソーナも苦笑を浮かべていたのであった。

 

―――○●○―――

 

パチュリーはHRが終わると図書室に赴いて珍しい植物が記されている本を分身体の

一誠に教え読書する。

兵藤家を容易く倒す一誠の傍は安全ゾーンであり、趣味の読書に耽ることができ大満足。

図書室には上階へ行ける空間があり、二人は三階の一番奥でひっそりと設けられている

ソファへ座り、本のページを開いて目を落とす。

 

カキカキ・・・・・・。

 

直ぐ傍から筆を走らせる音が聞こえる。珍しい植物の詳細を書き写している様子で

互いが邪魔しない程度の配慮でそれぞれ没頭している。

 

「・・・・・」

 

なんとなく分身体の一誠に目を向ける。こうして傍にいるのに魔法で作られた分身体とは

思えないほどの存在感を感じる。魔女であるパチュリーですら知らなかった魔法の一種。

こうして目の前に存在しているのだから魔法使いの世界は広いらしい。

 

「ねぇ」

 

「なんだ」

 

目を本に落としたままでも返事をしてくれる。パチュリーは問うた。

 

「分身体のあなたがここにいるけど、オリジナルのあなたに何かの影響は無いの?」

 

「その気になれば意思疎通ができたり、俺がここにいる間の記憶はオリジナルに残した

映像を観させるビデオのように受け継がれる」

 

「あなたのご両親は魔法使いなの?」

 

「母さんが魔法使いだよ。式森家の出身で俺の父さんと結婚して俺が生まれた」

 

この国を治めている一族の子供というだけあってどこか納得できた。

 

「あなたは恵まれていたのね。有名な一族の間に生まれて幸せだったでしょ?」

 

パチュリーの発言を聞きピタリと一誠の筆を走らせる手が停まった。一拍して一誠は溜息を吐いた。

 

「恵まれているのは確かだけど、幸せだったわけじゃない」

 

「なぜ?欲しいものを何だって手に入られるものじゃないのかしら?」

 

「―――お前は俺をどんな風に見ているのかなぁー?」

 

徐にパチュリーの頬を摘まんで引っ張る。

いきなりの言動に焦って頬を引っ張る手を叩いて止めさせた。

 

「な、なにをするのよ・・・・・」

 

「俺は他の兵藤とは違うと言ったはずだぞ」

 

「それは同じ兵藤家の男子たちと一緒にするなという意味なんでしょ?」

 

「それもある。が、俺が言った言葉の意味はもっと深い」

 

意味はもっと深い・・・・・どういうことなのかとパチュリーは訊ねた。

 

「俺が幸せなら、どうして俺は同じ兵藤家に攻撃をしているのか考えたことは無いだろう」

 

「・・・・・」

 

「お前は俺の表面だけ知って裏面を知らない。裏面とは過去だ。

俺の過去を知らないからパチュリーはそう言えるだけに過ぎない」

 

話は終わりだとばかり筆を走らせだす。言われて無言で一誠を見詰めるが何も言わず、

気まずい雰囲気の中で読書に没頭する。

 

「(兵藤の過去・・・・・確かに私は知らない。

  同じ兵藤家を毛嫌いする理由も・・・・・)」

 

軽率な発言をしたかもしれない。謝る時は一誠の過去を知ってからでも遅くは無い。

だとすれば―――。

 

―――1-C―――

 

このクラスには紺野木綿季ことユウキが所属しているクラス。

ユウキは只今絶賛、昨日のゲームの質問攻めを受けていた。悪魔と戦ってどうだったかが

主に追及され目まぐるしく返答をするに必死だったところ。

 

「あの赤髪の・・・・・兵藤一誠先輩だっけ?格好良かったねー」

 

「う、うん・・・・・剣を構えた時の立ち姿が格好良かった」

 

「私的には炎を真正面から突きぬけて殴りながら愛を語ったあの時の姿に格好良かったよ」

 

「リアス先輩ってヒト、あんな素敵な男の人に助けてもらえていいなー。

私もピンチの時は助けられたい」

 

一部の女子が一誠のことについて語っていた。ユウキは一誠の印象が悪くないことに

嬉しく思っていた。

 

『・・・・・』

 

それに反して、面白くないと男子たちが不満げに話を聞いていたのをユウキは知らないでいた。

 

「ねね、紺野さん。一緒に戦ってどうだった?」

 

「へ?」

 

「兵藤一誠先輩のことだよ」

 

同級生に問われて気を取り直して苦笑いを浮かべた。

一緒に戦ったと言っても離れ離れで戦っていたから分からないと告げたが、

同級生たちは目を輝かせて「私たちに紹介してよ」と言われてしまった。

 

「い、一応訊いてみるよ。ダメだったらゴメンね」

 

「お願いね!」

 

キャー!と黄色い声が発生する。ユウキにとっては複雑な心境だったが、

一誠に対するイメージを悪くさせたくないが為にそう言うしかなかった。

何よりもこの学校生活を楽しみたい。ユウキは病気を患ってからずっと病院生活をしてきて

両親を亡くし、姉も同じ病で無くなり天涯孤独となってしまった。

自分も死ぬ運命だとどこかで悟り、受け入れようとしたところで―――『奇跡の一日』が

ユウキを救ったのだ。

 

「(先輩はボクのヒーローなんだ。本人はそうじゃないって苦笑いを浮かべるだろうけどね)」

 

間近で見たあの光景にそれ以来、敬愛以上の感情を抱きつつあるユウキだった。

 

―――○●○―――

 

放課後、一誠たちは休日に向けて初めての部活活動を行った。

部室に集まり、一誠の話を耳に傾ける姿勢に入る。

 

「パチュリーに手伝ってもらって珍しいものを調べた結果。当初の計画通り冥界で冒険する」

 

「町中を歩いたりする?」

 

冥界は人間界―――地球と同じ程度の面積があるけれど、悪魔は人間界ほど人口はない。

悪魔と堕天使、魔獣、それ以外の種族を含めてもそれほど多くない。

それと海も無いのでさらに土地が広い故、未開の地だらけの世界に行く

一誠たちにとっては冒険する場所に適していると言えよう。

 

「そうだな。そんな俺たちにガイドも付けたいと思っているがどうだ?」

 

「いいじゃない?迷子になりたくないわ」

 

ルクシャナの肯定にウンウンと頷く面々も同意した。

 

「それで、私たちを案内してくれる悪魔って誰?」

 

「俺が知っている悪魔、リアスに頼もうと思っている。

彼女の領土、グレモリー領にしか咲いていない植物があるしタンニーンの領土にも

行ってみたいな」

 

「ほう、タンニーンか。私もそれには賛成だ」

 

「クロウ・クルワッハはただ単に戦いたいだけでしょ?」

 

アルトルージュに指摘され、「そうだがそれが?」と風に返されたのだった。

 

「でも一誠。それだったらレーティングゲームが始まる前にも休日だったでしょ?

その時にでも行けば良かったんじゃない?」

 

「後顧の憂いを無くしたかったから後回しにした。今は問題もなにも抱えていないから

心おきなく部活を出来るだろう?」

 

「なるほど。そういうことだったのネー」

 

ヴァレリーの指摘に一誠の返答を聞き金剛は納得の面持ちで紅茶を飲みながら聞いていた。

 

「それにしても一誠さま。一緒に調べた方が効率が良かったのでは?」

 

「まぁ、部活の部員の家族と一緒に調べるのもいいけど・・・・・またあの教室に

兵藤家の奴らが来ないとは限らないし、分身に調べてもらった方が色々と効率がいいのさ」

 

「では、学校外の図書館でも全員でジャンルを決めて調べましょう」

 

一誠の咲夜に対する返答にリーラがそう言う。リーラの言葉を一誠は頷いた。

 

「行ったことがないけど、場所は―――ナヴィに訊けば済むか」

 

顎に手をやって頼もしい情報収集が得意とするハーフの悪魔の顔を頭に浮かべていると

シャジャルが挙手する。

 

「ネリネさんたちの護衛はどうするのですか?」

 

「・・・・・多分、魔王のおじさんにお願いする際に一緒に連れて行ってくれと

頼まれるかもしれないな。それに便乗して神王のおじさんもシアも連れて行けと

言うだろうし」

 

「イリナさんたちも同行するでしょうね一誠さん」

 

現時点でネリネ、リコリス、シアはイリナたちに護衛されながら帰宅している。

二十人近い人数で冒険というより観光旅行に近い状況になるだろう。

 

「・・・・・そう言えばリーラ」

 

「はい」

 

「非公式新聞部って部活どんなのか分かっている?」

 

一誠からの質問に場は『?』で支配された。どうして今そのことを訊くのだろうという思いでだ。

 

「残念ながら、生徒会に申請されていない部活のようでして部員の人数やその詳細、

部室など神隠しのように不明なのです。去年からそのような新聞部の存在が知られているらしく、

この学校の生徒であることは間違いないようですが未だ、

先ほど申し上げたように不明で・・・・・」

 

「そっか。各部活の欄にも非公式新聞部ってちゃっかり載っていたから気にはなっていたんだが」

 

「申し訳ございません。ですが、学校のイベントが始まると必ず非公式新聞部が

動くそうなのでそこを突けばあるいは」

 

「イベントか。今近いイベントってなんだ?」

 

「YES!私が説明するネ!」

 

勢いよく挙手をする金剛に視線が集まる。それに臆せず金剛はハキハキと述べる。

 

「夏休み前は交流運動会と海での水上体育祭、それよりも強化合宿!」

 

「強化合宿?なんのだ?」

 

「学年全体で学力や身体能力、神器(セイクリッド・ギア)の所有者には先生から

課せられた特訓で自分を強化することが目的なのデス。私も去年体験しましたヨ」

 

一誠たちにそう説明する。そのようなイベントがあることを

今年この学校に来た一誠たちにとっては知らなかった為、さらに説明を求めた。

 

「交流運動会は?」

 

「この学校と他の学校と一緒に運動会をするんデスヨ。

去年は負けましたけど今年は勝ちマース!」

 

勝利に燃えあがる金剛。この異種族同士が通う学園が負けていたとは驚きものだ。

 

「去年ってどこの学園と?」

 

「川神学園デスヨ?今年も川神学園と運動会をするんデス」

 

「ああ、納得できるわ。あの二人がいるんじゃ悪魔や堕天使、天使が負けるよそれじゃ」

 

二大巨頭ともいえるべき武神・百代と氷帝・エスデスが活躍すれば勝利は間違いないだろう。

だが今回の、今年の運動会は一味違う。それは川神学園も知っているかもしれない。

 

「先に強化合宿をするようだけど、合宿先はどこだ?」

 

「去年はここ学校でしましタ。ここの学校には寝泊まりできるスペースがあってデスネ、

食事は学食から支給されレ、お風呂もあるんデスヨ」

 

「まだ俺たちが知らない設備と学校の風習があるんだな」

 

と、一誠が代表して感嘆した。そしてその時が楽しみだと口の端を吊り上げたのだった。


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