HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード1

世界各地で修行を初めて数年後の朝―――。

 

ジリリリリリリリッ!

 

「・・・・・んー」

 

けたたましく鳴る音を停めようと腕を伸ばす。適度に鍛えられた腕は音がする方へ

伸びて―――第三者の手によって音を停められた。

 

「おはようございます」

 

「・・・・・ぐー」

 

「起きてください、朝ですよ?」

 

第三者の言葉が寝ている者の意識をぼんやりと覚醒させる。一緒に寝ている黒い長髪の

少女の隣で身体を起こすと真紅の頭に寝癖があることを気付き、

サッと長い銀髪を一つに結ったメイドが梳かすと少年に訊ねられた。

 

「・・・・・今日はいつまでいたの?」

 

「一時間ぐらいですが?」

 

「・・・・・何時も思うけどさリーラ。俺の寝顔を毎日見てもつまらないと思うけど?」

 

どうやら習慣らしく、目覚めた者の寝顔を見ていたメイドが「そんなことはございません」と述べた。

 

「寝言も漏らす時もありますのでつまらなくはございませんよ」

 

「・・・・・プライバシーの侵害じゃない?」

 

「家族ですから侵害も問題にはなりません」

 

家族と言われ、真紅の髪に垂直のスリット状の金色の瞳を持つ少年は言い返すことができず、

息を漏らした。

 

「その言葉を使うと俺が弱くなることを知っててズルイよ」

 

「申し訳ございません一誠さま」

 

「ん・・・・・おはよ」

 

黒髪の少女が起き上がるもまだ眠気があるようで一誠に寄り掛かった。

そんな少女にオーフィスと呼び頭を撫でた。

 

「既に朝食のご用意ができております」

 

「わかった。それじゃリビングキッチンに行くとしよう」

 

オーフィスを抱きかかえリーラと共に目的地へと歩む。一誠は全ての修行を終え、

それ以降とある場所で暮らしている。今現在そんな場所で暮らしているメンバーは

一誠とリーラ、オーフィスは当然として―――。

 

「おはよう美少年!今日も私と熱いベーゼを―――(ガシッ!)」

 

「・・・・・何時も身内のバカが迷惑を掛ける」

 

「プライミッツ・マーダ、リィゾと一緒にフィナを見張ってて」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

「飽きないわねぇー?同性の血を飲むなんてそんなにいいのかしらねテファ?」

 

「さ、さぁ・・・・・私には分からないわルクシャナ。ね、お母さま」

 

「ふふ、そうね」

 

「でも、一誠の血は吸血鬼にとって美味しいのは確かよ?」

 

「ドラゴン同士が飲めばどうなるのだろうな。少し興味がある」

 

「あんまり変わんないじゃない?ま、試して効果があったら私に教えてねー?」

 

「おはよう、一誠とオーフィス」

 

男女の十人と一匹。全員人間ではなく、一誠がこれまで世界各地で修行していた中で

出会い、一誠の家族となったメンバーである。リーラが視線をある人物に向けた。

 

「―――咲夜。私たちも座りましょうか」

 

「はい、リーラさん」

 

メイド服を着ている銀髪の少女が頷き、全員が席に座ったことで朝食の時間が始まった。

ご飯、味噌汁、おかずに焼き魚とたくあん、のり、納豆とポピュラーな料理を食べる

面々は雑談も投げる。

 

「一誠さま」

 

「なんだ?」

 

「一誠さまはもう修行を終わりになられましたので、これからはどうしたいのですか?」

 

そう問われ、一誠は頭を捻った。特に修行以外はやることはない。

社会に出ても恥ずかしくない最低限なことはリーラから教わっている。一誠がリーラの

質問にどう答えようか悩んでいると。

 

「思い付かないんならさ、下界に出て見てくればいいじゃない?」

 

「ナヴィ?」

 

「考えることよりも行動で決めた方が良い時もあるわけよ。なによりも―――」

 

ガーゴイルと人間のハーフであるナヴィがそう提案した。

そして意味深に言い続けたナヴィの口から。

 

「今現在、人間界は悪魔、堕天使、天使、人間たちで溢れかえっているから私たちも

外に出て問題ないと思うわよ?」

 

ナヴィの提案で一行は外に出かけることに決まった。朝食を食べ終えた面々は支度を

整え町に繰り出す。

 

「んー久し振りの外は良いわね。ヴァレリーのおかげで太陽の下でも活動できるように

なったから感謝だわ」

 

幽世の聖杯(セフィロト・グラール)が役に立ってなによりです」

 

「昼夜問わず美少年の血を吸えるなんて最高だ!」

 

「あまりはしゃぐな。視線が集まってくるだろう」

 

晴天の下を歩く一誠たち。美男美女の集団が町中を歩けば、

周りから二重の意味で視線を集めて注目の的となる。

リィゾはそれをあまり好まなく、フィナの言動で周りからの視線を無視。

 

「だけど、何時の間に人間界に悪魔と堕天使と天使が闊歩できるようになったんだ?」

 

「十年前から人間界で共存しようという話しは持ち上がっていたわよ。

その為には色々と面倒なことが起きたり遭ったり、それでもようやく長い月日と年月を

費やして異種族の共存を象徴とするこの町を零から創り上げて完成させたのよね」

 

「私たちにとって敵だらけな町ね。オチオチ気を抜いていられないわよ」

 

「大丈夫よ。特に人間に害を与えた異種族はそれぞれの世界で百年も人間界の出入りを

禁止されちゃうからさ」

 

「私たちエルフと吸血鬼、ドラゴン、魔獣、人間の混合集団だけどそれも適応するのかしら?」

 

「私が抜けているわよ。でも、どうかしらね。

この町は基本、悪魔と堕天使、天使が共存して人間と共に暮らしているからわからないわね」

 

ナヴィがこの町の情報を一誠たちに告げ、認識を植え付けた。

確かにナヴィの言う通り、歩くだけでも悪魔や堕天使、天使たちが堂々と人間界の町を

歩いて楽しげに笑っていたりする。

 

「異種族同士が交流する市街地・・・・・ある意味ファンタジー的な光景だよ」

 

「堂々と人間界で正体がバレても構わない町に暮らせていいんじゃない?」

 

「この町だけじゃなく世界中もそうだったらいいのに」

 

「ヴァレリーさま。それはそれで世界がパニックになりますよ」

 

「そうだな。人間に危害を加える異種族もいるから限定的な場所でしかできないはずだ」

 

理想は儚い。町中を歩きまわり、休憩と兼ねてとあるレストランで昼食をし、

一行は正体がバレても問題のない町で気兼ねなく楽しんだ。

 

 

 

 

 

「素敵な町ですわね。それに私のような存在でも堂々と外に出歩けれるなんて

嬉しい限りですわ。魔王さま方には感謝しないと」

 

「です、色々と規制がありますのでご注意してください」

 

「分かってますわよ。人間に危害を加えたら百年は冥界で暮らさないといけないなんて

イヤですもの」

 

西洋風のドレスを身に包み金髪のツイン縦ロールの少女と顔に半分だけの仮面を

付けている女性がそう話をしていた。二人ともあくまでこの町を訪問しに来た理由は

ショッピングである。親に心配され兄の制止を振り切ってまで付き人を

引き連れてショッピングを楽しもうとする。

 

「まったく、お兄さまも心配し過ぎなのですわ。悪魔に敵う人間なんてそうそういないですのに」

 

「レイヴェルさまを思ってこその発言だと思いますよ」

 

「兄としては尊敬と敬愛をしますが一人の男としては品が無い兄ですわよ。

昼夜問わず猿のように発情する姿を見てはウンザリしますもの」

 

「・・・・・」

 

「あなたのようなヒトがお兄さまのどこに惹かれたのか分かりませんけどね。

貶すつもりはありませんけど」

 

付き人はレイヴェルの発言に何とも言えない表情で無言になる。

心当たりがあるようで付き人にもレイヴェルのジト目が向けられる。

 

「・・・・・レイヴェルさまにもきっと素敵な殿方が見つかるかと」

 

「悪魔の殿方はともかく、人間の殿方で私に見合う者など―――」

 

とレイヴェルが言いかけた瞬間、集団で歩いていた一人の男と軽くぶつかってしまった。

本来のレイヴェルの性格からすれば一言文句を言うが人間界でことを

起こしてはならない決まりがあることを耳に胼胝ができるぐらい言われて、

 

「申し訳ございませんわ」

 

と軽く頭を下げて礼儀正しく謝罪をした。これで些細な問題はなくなったと思い、付き人と歩く。

 

「いてて!いまぶつかったところから激痛がぁ!」

 

「え?」

 

「あー、お前ダチになんてことをしてくれやがったんだ?これはあれだな。重傷ものだぜ」

 

レイヴェルは目と耳を疑った。ぶつかったにせよ激痛がするほどの衝撃ではなかったはず。

ぶつかった相手は痛みが生じている部分に手で押さえ、痛いと大袈裟に言う。

 

「治療費、軽く十万ぐらいでいいか?」

 

「は?なにを言って・・・・・」

 

「あああ?お前がぶつかってきたせいでダチが痛がっているからだろうが。

病院に連れて行くから診察料と治療費を含めて十万を払えって言ってんだ。

なんか文句あるのかよ?」

 

「そうそう、しかもお前が怪我したこいつはあの兵藤家の人間なんだぜ?

お前、逆らってどうなるか知らないわけじゃないだろう?」

 

兵藤家・・・・・。その単語を聞きレイヴェルは緊張が走った。もしも本当に兵藤家なら、

この国を統べている一族の者であればただでは済まないはずだ。

 

「レイヴェルさま・・・・・」

 

「・・・・・分かっておりますわ」

 

問題を起こせば家や家族に迷惑を掛ける。ショッピングの為に持ってきた札束の

一部を抜こうと可愛らしいポシェットに手を突っ込んだ時だった。

 

「あー、見るに堪えない三流の紙芝居にも等しい演技だな」

 

呆れた声が聞こえてきた。レイヴェルはポシェットに手を突っこんだままの状態で声が

聞こえた方へ振り向くと、男女の集団が近づいてきた。

しかも全員、片手にクレープを持っている。

 

「つまらない演技で金をだまし取ろうとするなみっともない」

 

「誰だテメェ!外野は引っ込んでいろ!」

 

「一応、お前らに警告しているんだけど?その二人は悪魔だからさ」

 

―――初見で自分の正体を見破った。あの真紅の髪に金色の双眸の男性は誰なのだろうと

レイヴェルは視線を男たちと真紅の髪の男に目を向けると、

 

「だからどうした。悪魔が人間に手を出してはいけない決まりがあるんだぜ」

 

「そうみたいだな。実際、俺たちもこの町に来たのは今日が初めてだから

この町のルールなんてあまり知らない。だが、悪魔を騙せば人間のお前らにだって

ただでは済まさないはずだ」

 

「人聞きの悪いことを言うな。見ろ、ダチが痛がっているだろうが」

 

「なら、今すぐこの場で救急車を呼んだ方が早いとは思わないか?金を請求するなら

それからでも遅くは無い」

 

真紅の髪の男が携帯を見せびらかす。確かに病院へ連れていくには移動中でも

治療してもらう方が効率が良いかもしれない。その方が応急処置でも施せるからだ。

指摘された男たちから余裕の表情が消え、苦虫を噛み潰したかのような表情となった。

 

「えっと、病院の番号はーっと」

 

「てめぇ!」

 

突然、男が真紅の髪の男に殴りかかった。付き人が動き出そうとしたが

この町のルールを思い出したのか歯がゆい思いを下唇を噛みしめた。手助けができずに

 

ゴッ!

 

真紅の髪の男の頬に拳が突き刺さった。側にいる面々は一歩も動かず、様子を見守る

姿勢になっているのがどうにも気になる。

 

「・・・・・殴ったな?」

 

「なに・・・・・?」

 

「―――えっと、確かに悪魔と天使、堕天使が人間に危害を加えてはいけない。

でも逆に襲われてしまったら正当防衛として度が過ぎた攻撃をしなければ

軽く反抗しても良いというこの町のルールがあることを知らないわけじゃないよねー?」

 

桃色の少女の発言で男たちは目を丸くし、「計ったな!?」と叫んだ。

 

「計った?お前らを謀る為に俺がワザと殴られたと?殴り返す為に?

おいおい、俺は決してお前らに肉体的なダメージを与えるつもりは毛頭もないぞ」

 

「んだと・・・・・?」

 

「くくくっ、だって・・・・・」

 

ザザザッ!

 

「恐喝、恫喝、詐欺罪の容疑と暴行の現行犯でお前たちを拘束する!」

 

自分と同じ同族の者たちが空から舞い降りて男たちを囲んだ。

 

「この町を守る警備隊へとっくに連絡していたからな」

 

その時の真紅の男の表情はとても悪魔ぽかったとレイヴェルは心の中で漏らした。

手を出さず、こんな方法で男たちを無力にした真紅の髪の男に深く頭を下げた。

 

「助けていただき誠にありがとうございます」

 

「ん、別にいいよ。ただ気になった言葉が聞こえてきたからな」

 

「気になった言葉・・・・・ですか?」

 

「ああ、まっ、どうでもいいことだ。もう気にしないことにした」

 

曖昧な返事をされた。だが、レイヴェルには心残りがある。

 

「兵藤家の者が捕まってしまいましたが・・・・・どうなるのでしょうか?」

 

「別にどうもならないだろう。金をだまし取るのが兵藤の人間のやる事ならそれは兵藤が悪い。お前が悪いわけじゃないから気にするな」

 

「ですが・・・・・」

 

レイヴェルは気がかりで仕方がないと醸し出す。そんなレイヴェルに呆れた真紅の髪の

男は言った。

 

「これで問題が発展するとなるなら兵藤家は高が知れる。だからお前はもう気にするな。

せっかく人間界に来て楽しもうとしているのにそんなんじゃ楽しむことが楽しめないだろう」

 

そう言ってクレープを手渡された。

 

「え、これは・・・・・」

 

「まだ食べていないから大丈夫だ。これで今日の一件は終わりにしてくれ」

 

「そんじゃ、またどこかで会おうな」と言い残し、真紅の髪の男と他の面々は

レイヴェルと付き人から離れて去った。

 

「・・・・・あの殿方は一体何だったのでしょうか」

 

「ですが助けられました。申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに」

 

「いえ、あなたのせいではございませんわ。相手を見抜くことができなかった私が悪いのです」

 

今日のことを兄と両親に伝えるかはそれと別でと思いつつ手渡されたクレープを見詰め、

小さくパクリと食べた。

 

「・・・・・甘くて美味しいですわ」

 

―――○●○―――

 

家に戻った一行に待っていた二人組がいた。一行がよく知る人物でのんびりと

リビングキッチンにいた。

 

「よー、一誠と皆。久し振りだな」

 

「元気そうでなによりね」

 

「父さんと母さん!いつここに?」

 

「三十分ぐらい前だな。どうやら皆、町に繰り出していたようだし?」

 

朗らかに言ってどこに行っていたのかも見抜かれた。徐に各々と座りだす一誠たちに

一香が声を掛けた。

 

「一誠、そろそろあなたは当然のことをして貰うわよ」

 

「当然って・・・・・なに?」

 

「勿論、学校に行くことよ?」

 

「・・・・・え”」

 

嫌な反応を示す一誠だった。なぜ今頃になって学校に行かないといけないのか納得できない。

このまま家族と楽しく暮らせばそれでいいと思っていた一誠に誠と一香が言う。

 

「お前ぐらいの奴は高校にも通っているんだ。リーラに知識と勉強を教わっているから

社会に出ても問題ないと思っているだろうが、それだけじゃダメなんだ」

 

「世界を知ったあなたは確かに強くなっている。だけど、同年代の相手と競い合う

楽しさをあなたは知らない。知っているとしても片手で数えるぐらいでしょ?」

 

「全ての修行を終えたお前のことだ。今度は何をしようか考えているだろうと思ってな。

俺と一香はお前たちに学校へ行かせることにした」

 

その時、一誠を含め他の面々が「お前たち?」と疑問を漏らした。

 

「あの、一誠さまだけじゃないようにも聞こえましたが」

 

「ああ、この場にいる全員は学校に行って貰う。それぞれ教師と生徒としてな」

 

「既に私たちで手配をさせてもらったわよ。これは決定事項、異論は認めないから」

 

「・・・・・私たち吸血鬼も?」

 

アルトルージュが自分で指を差せば、一香が頷いた。

 

「ティファニアのお母さん、シャルジャルさんにも学校に行って貰います」

 

「あの、私は一体何をすればいいんでしょうか?人に教えるほどのことはできませんし・・・・・」

 

「ふふっ、あなたは後で教えてあげるわ。きっと驚くでしょうね」

 

意味深な笑みを浮かべ、困惑するティファニアの母親。そんな彼女に賛同する面々もいた。

 

「私たちも他の者に教えるようなことはできないが」

 

「一体この親たちは何を考えているんだろうか」

 

口々にそう漏らす面々を余所に一誠は誠に訊ねていた。

 

「学校に行っても良いの?」

 

「勿論だぞ。元々お前は今の歳になったら学校に行かせる予定だったんだからな。

あの異種族が共存している町にある学校へ」

 

「それって・・・・・」

 

「一誠にとっても負担にならない環境で勉学を励むことができれば私たちは安心できるわ。

そこで友達を作ったりそこで自分が誇れるようなことをして、ガールフレンドとか

作るのも良いわ。学校は青春が溢れかえっている面白い施設なのだからあなたも通うべきよ」

 

「学校の理事長は俺たちと交流している悪魔だからお前のことも知っている。

だから何も心配しないで楽しんでくれ」

 

そう言われてしまい、渋々と一誠は首を縦に振った。

 

「因みに一週間後に入ってもらう予定だからよろしくな」

 

「それで、どこの学校に行くのですか?」

 

その問いかけに誠と一香は顔を見合わせ言った。

 

「国立バーベナ駒王学園という四種の種族が交流する学校だ。

なんなら今夜、その学校に忍び込んでみるか?」

 

誠の言葉で一誠は頷いた。


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