HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード37

 

 

「そういやー一誠、あの大剣はどうした?」

 

「施設に置いて来ちゃった」

 

「んじゃ、今手元に武器は無いのか」

 

「今は神器(セイクリッド・ギア)や皆がいるから大丈夫だよ」

 

見えない敵を倒した一行。最後の敵はボス的存在だったらしく、

扉が出現すると扉の向こうは宝物庫であるかのような金銀財宝が大量に置かれていた。

その財宝に囲まれている一つのお香があって、財宝と共に回収し外界へ脱出した後

ガリア王にそのお香を渡し、財産の半分を貰ってはトリステインへ旅立った。

 

「ところで一誠、身体は大丈夫か?」

 

「うん?別に痛くとも苦しくもないよ」

 

「そうか、ならいい」

 

誠の質問に疑問符を何個も浮かべる一誠だった。トリステインまでは馬でも徒歩でも

数日はかかる距離だが、一香の魔法であっという間に―――。

 

「はい、トリステインに到着」

 

『早い!』

 

「そして、あの大きな像がある場所にはガリア王国にもあった塔と同じ塔があったんだ」

 

誠の説明を聞き一行は「へー」と相槌を打った。大きな像は六人のマントを羽織り、

背中を合わせてレイピアを天へ突き出しているポーズの像だった。

 

「他四人はいまどうしているの?」

 

「さぁーな。全然会っていないから分からないな。久し振りに会ってみるか」

 

「場所、知ってるの?」

 

「いんや、知らん。知っていそうなヤツから聞く」

 

誠は一誠だけを引き連れて一香たちと別れた。大きな像より数キロ離れた場所のかなり

古びれた木造の家の前にたどり着き、扉をノックした。

 

「ここ?」

 

「まだいるならここのはずだな」

 

周囲には猫一匹すらいない無人の区域。ここでなにか悪巧みをする者たちにとっては

最良の場所であろう。ノックをしてから十秒以上過ぎた頃、扉が開いた。

二人を出迎える存在は居らず、勝手に扉が開いたような感じであった。

 

『入ってらっしゃい』

 

どこからか女の声が聞こえた。誠は堂々と建物の中へ入る。一誠も続いて中に入ると

生活感がない空間が出迎えた。誠は直ぐに上に行ける階段を登って二階の廊下に出て

直ぐ横の通路へ歩み、さらに曲がり角へ足を運ぶと一つの木製の扉があって

一人の男性が静かに佇んでいた。その男性は何も言わず扉を開け放って誠と一香を招き入れた。

 

「うわ・・・・・」

 

一誠は信じられないと漏らした。外見と中身が古臭かったのにこの一室だけは次元が違っていた。

テーブルとベッドぐらいしか家庭に使う家具が無く、それ以外の殆どがチューブやコード、

コンピューターや数えきれないテレビが様々な風景や市街地、国を映していた。

その機械的な空間に一人の少女が椅子の上で胡坐を掻き、忙しなくキーボードに指を

叩きつけていた。すると、前を向いたまま少女が声を掛けてきた。

 

「聞いているわよーあなたともう一人の魔法使いの女性の話。

今まで誰にも発見されなかったはずの自分の仕事場を見つけた人間がいたって」

 

「というと、キミは新しくこの国に配属された―――下級悪魔、世界を監視するガーゴイルの子か」

 

「ガーゴイル?」

 

「そ、前任者・・・・・あなたたちが見つけた以前のこの国を監視するガーゴイルは

十年ぐらい前に別の国へ配属されちゃったわよ」

 

椅子は回転式の物だったらしく、ぐるりと誠と一誠に振り返った。

桃色の髪に悪魔の翼を模したカチューシャ、人を見ただけで魅了させるような瞳、

スレンダーな体なのに豊満な胸を強調させるフリルが付いている黒いシャツを身に包んでいる少女だった。

 

「まさか、前任者同様にここへ来るなんてね。私、これでも忙しいのだけれど?」

 

「はは、悪いな。とある人物の意場所を教えて欲しくてな」

 

「そのぐらい他の人間たちに訊けばすぐに分かるんじゃないの?」

 

首を傾げるガーゴイルに誠はこう告げた。

 

「世界を監視するガーゴイルの情報網は世界各国の重要機密すら入手するほどの腕前だ。

だからガーゴイルのお前たちに訊く方が早いんだよ」

 

「あら、力がない下級悪魔の私たちにそこまで買ってくれるヒトは滅多にいないから嬉しいわ。

ところで、その子供はあなたの息子?」

 

「ああ、そうだ。兵藤一誠だ。ただし、夢幻を司るグレートレッドと

無限を司るオーフィスの力を有する唯一のドラゴンだけどな」

 

ガーゴイルは一誠の正体を聞き目を張り、その真実を知らせようと思ったのか

身体をパソコンに振り向きダダダダッ!とキーボードを叩いた。

 

「・・・・・他の国にいるガーゴイルたちが驚いているわよ。

そんなドラゴンがいるわけがないって」

 

「魔王フォーベシイは知っているのにか?」

 

その発言に尻目だけで誠へ向けガーゴイルは溜息した。

 

「・・・・兵藤誠、兵藤一香。あなたたちのことは私たちガーゴイルの中で話題が尽きない存在。

何時だったか、ヨーロッパ行きの飛行機が謎の現象で中破したって話は聞いたこと

あるけど原因は不明なのよね」

 

「あ、アリュウってドラゴンに襲われたときだね。その後、アジ・ダハーカと出会ったんだよ」

 

「・・・・・揃いも揃ってアンタら親子はエンターテイメント的な存在か」

 

当時の飛行機の事件の真相を知り、あきれ返ったガーゴイル。

 

「ところで名前はなんて言うんだ?」

 

「ナヴィよ。よろしく。んで、聞きたいことって何?」

 

「ああ、サンドリオンっていう男の現在の居場所を知りたい」

 

「サンドリオン、ね。あの英雄の魔法衛士隊の一人の名前だったわね。

前任のガーゴイルが残してくれたデータに記録されているかも。ちょっと待ってて」

 

調べ始めるナヴィ。その間、ボーと立ち続ける二人。

何もすること無く無機質な音が部屋中に響き渡る。しばらくして、タンとキーを押した

ナヴィが空中に発生した一瞬の閃光から現れた紙を手にし、誠に突き出した。

 

「はい、この紙にあなたが探し求めている人物がいる場所を記してあるわ」

 

「ありがとう。助かった」

 

「さて、下級とはいえ私は悪魔よ?それなりの代価を貰いたいのだけれど」

 

抜け目がないと誠は思ったが悪魔に対して当然のことかと思った。

 

「できる範囲ならば何でも言ってくれ。休暇が欲しいなら魔王に頼むが?」

 

「そうね・・・・・」

 

ナヴィは代価を何にしようかと悩む。直ぐに思いつかない

自分の欲望を考えていると―――彼女の直ぐ傍に魔方陣が浮かんだ。

耳を傾け、相槌を打つ姿を見ているとナヴィは「はぁっ!?」と叫んだ。

 

「ちょっ、それってどういうことなの!?私、仕事をしっかりこなして―――え、

新人がここに?じゃあ私は―――は?マジで?」

 

「「・・・・・?」」

 

何やら話が見えない。しばし静観の態勢でいると魔方陣が消えて無くなり

ナヴィは深く溜息を吐いた後、指を忙しくキーボードに叩きつけだす。

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

「私、次の国に転属することになったわ。その為に今まで記録したデーターを残す作業をしているの」

 

「新人が来るらしいな?」

 

「ええ、本当なら違う国で能力を向上させる予定だったのだけれど、

新人は予想以上の処理能力で直ぐに実戦に投入しても問題ないみたいなの。

普通、ガーゴイルが配属された国に最低でも十年はいなくちゃいけないのに・・・・・」

 

「私はまだ七年しか経っていないのに・・・・・」と愚痴るナヴィに一誠は聞いた。

 

「次の国ってどこなの?」

 

「日本よ。だから―――」

 

ナヴィは二人に向かって言い放った。

 

「平等な代価とは言えないけれど、私をあなたたちの家に住まわせてくれないかしら?

勿論、私もあなたたちに協力する」

 

「ここはどうするんだ?」

 

「次にこの国に来るガーゴイルの為に残しておくの。

基本、ガーゴイルは動かない悪魔だから使い魔を使役する方が多いのよ。

それにこの建物自体、人避けの結界を張っているから普通誰も

近寄ってこないのだけれど・・・・・」

 

「あなたたちがそんなの無視してくるんだから異常よ」と漏らすナヴィだった。

しかし、誠は腕を組んで首を傾げた。

 

「うーん、俺たちはまだ日本に帰るつもりはないんだ。先に家にいてくれるなら住んでも良いが」

 

「それじゃ、あなたたちが帰ってくるまで留守番をしているわ」

 

話は決まったとナヴィは目の前の機械の電源を切った。

 

「はぁー、せっかくこの狭いところで七年間もいたのに。嫌なっちゃうわ」

 

「最低でも十年間って言っていたけど、期間を過ぎたら次はどうするの?」

 

「別にどうでもないわよ?ガーゴイルを眷属にしようという物好きな上級悪魔が

いるわけないし、そもそもガーゴイルは戦闘できない弱い悪魔。

一万年掛かっても上級悪魔になれるわけじゃないしね」

 

「悪魔なのに魔力で攻撃とかできないの?」

 

「ガーゴイルの宿命は世界を監視すること。戦うことより世界を見聞して

全てを把握することが重要なの。情報は武器にもなるからよーく覚えておきなさい?」

 

口元を緩ますナヴィに一誠は感嘆の声を発する。

 

「なんか、凄いね」

 

「ん?そうかしら?」

 

「そうだよ。情報が武器にもなるなんて初めて知った、戦い方も色々あるんだねー」

 

純粋な眼差しを向ける一誠から、照れたのかナヴィは向けられて来る視線から顔を逸らす。

 

「別に凄くないわよ。結局勝つのは物理的な攻撃だし」

 

「そうかな?先に相手の弱点を調べて分かるならそれはそれで凄いじゃん」

 

「・・・・・それって、褒めてるの?」

 

「うん。お仕事も頑張っているし、そんな凄い能力があるのに認められていないなんて残念だよね。もっと人を助けるためにとか、悪い人を捕まえたりとか活躍できそうなのにさ」

 

―――っ。

 

ガーゴイルの宿命からか、当然のように、当たり前のように情報を集め続けた

ナヴィにとって生まれて初めて自分を認めてくれるような言葉だった。まだ幼い子供に

そう言われてナヴィは―――。

 

「じゃあさ兵藤一誠くん」

 

「ん?」

 

「私がもっと活躍できるようなことを与えてくれないかしら?今じゃなくても何時かきっとさ」

 

一誠にそう言っていたのだった。最初はキョトンとしていたものの一誠は

「うん」と笑顔で肯定した。

 

「約束する。何時かきっとね」

 

「ふふっ、決まりね。キミを気に入っちゃったわ。これからもよろしく」

 

「よろしくね、ナヴィお姉ちゃん」

 

「ナヴィでいいわよ」

 

握手を交わし合う一誠とナヴィ。そんな微笑ましい光景を見守る誠は思った。

 

「(ドラゴンの特性か、一誠は魅力の塊か・・・・・?どんどん仲間を、

一誠にとっては家族を増やしていく。ま、別に悪いわけじゃないか。

寧ろそれが一誠の力の源になるなら―――面白いことだ)」

 

―――○●○―――

 

「誰ですかそのヒトはぁっ!」

 

帰ってきた二人+ナヴィに激しく反応したルーラから小一時間後。

誠と一香の探し人がいる居場所へ何故か誠の提案でアジ・ダハーカに乗って移動することになった。

 

「ねぇ、どうしてアジ・ダハーカの背中で行くの?普通に飛んで行けばいいんじゃない?」

 

「それは一誠がドラゴンになってだろう?それと大して変わらない。それに―――」

 

「それに?」

 

「人を驚かす気持ちが分かれば、一誠も驚かしたくなるだろうさ」

 

ニヤーと誠が悪戯っ子の笑みを浮かべた。疑問符を浮かべる一誠は自分の父親の笑みを

見て驚かしたいんだなーっと他人事のように思った。

 

「私がアジ・ダハーカの背に乗る日が来るとは・・・・・」

 

『それはこっちのセリフだ。どうして俺が乗せねばならんのだ』

 

「邪龍の身体って硬いんですねー」

 

「初めて乗るわよ、邪龍の背中なんて」

 

光の反射で黒曜石みたいな鱗に触れる面々。そうしている間にも刻一刻と目的地に

巨大な黒い影が自ら迫っていく。馬車では数日かかる場所をこのアジ・ダハーカの速度

では―――一時間も掛からない内に辿り着く。

降りる場所を目的地である中世ヨーロッパみたいな岩で積み上げられた外壁を容易く通り越し、

湖がある庭園の方へと着地をした。当然、巨大な黒い三つ首龍の襲来を門番や衛兵が

気付かないわけがなく。騒ぎを起こし始めた。

 

「ねぇ、お父さん」

 

「なんだ?」

 

「黙って入ったらいけないんじゃない?ちゃんと玄関から入ろうよ」

 

と当然の常識を投げた一誠。息子の言葉に「わかってないなぁ」とばかり溜息を吐いた誠は言った。

 

「一誠、友達ならどんな入り方をしていい時代なんだ」

 

「そうなの?」

 

『(そんなわけないから!)』

 

軽く常識を変えられそうになる一誠。そんな時、嵐が一誠たちを囲んだ。

 

「お、この風は・・・・・」

 

「相変わらずの魔法ねー」

 

誠と一香は知った風な口で述べる。一香の指が弾いたと思えば嵐が消失した。一拍して、

 

「ド、ドラゴン!私が相手だ!」

 

下から女の声が聞こえた。一誠がひょこっと顔を出すと金色の双眸に映り込む下の様子、

桃色のポニーテールに鳶色の瞳に恐怖の色が浮かんでいて小さな手に杖らしきものが持っていた。

気丈に振る舞っているのが良く分かる。

 

「・・・・・勘違いしちゃってるよね絶対」

 

『傍迷惑な話しだな。踏みつぶして良いか?』

 

「ダメ」

 

「よし、一誠。あの子とちょっと話してみろ」

 

と同時に一誠は下へ放り投げられた。思考が停止し、

自分はどうして落ちているのか分からないまま少女の目の前に顔から落ちた。

 

「・・・・・痛い」

 

「だ、大丈夫か・・・・・?」

 

「あ、うん・・・・・心配してくれてありがとう。それとごめんね勝手に入って来ちゃって」

 

ペコリと謝った一誠。流石の少女も謝れて毒気が抜かれてしまい、

「あ、ああ・・・・・」と意気消沈。

 

「何の騒ぎだこれは」

 

と、低い声音が一誠の耳に入った。顔を上げると威厳に満ちた立ち振る舞いをしつつ

近づいてくるモノクルを左目に嵌めた男性がとドレスを身に纏う桃色の髪を纏め結い上げた女性。

どちらも臨戦態勢の姿勢で目の前の巨大なドラゴンに厳しい目を向ける。

何時でも戦いができるような構えを自然体でしている。

 

「平民がこのドラゴンを乗って来たと?」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・」

 

「・・・・・」

 

男性はジッと委縮する一誠を見詰め、視線をドラゴンに向ける。

 

「何をしにこのラ・ヴァリエール領地に土足で入ってきた?」

 

「お、お父さんとお母さんが・・・・・」

 

「お父さん、お母さん?」

 

コクコクとそうだと首を縦に振る一誠。訝しいと目元を細め周囲に視線を配ると―――。

 

「よっ、老けたなサンドリオン」

 

「っ!?」

 

男性の背後から声を掛けられた。一誠が何時の間に?と目を丸くし誠に目を向けている。

二人の男女は反射的に後ろへ振り返る瞬間、

 

「あら、あなた・・・・・カリンかしら?」

 

女性の目の前に一香が女性の顔を覗きこんでいた。

その行動も何時の間にかしていたのか分からず一瞬だけ思考が停止した女性は、

 

「ぶ、無礼者!」

 

杖を振るおうとしたが、その杖をアッサリ奪われた。杖が無ければなにもできないらしく

攻撃をしなくなった。奪った杖を手の中で弄ぶ一香は女性に話しかけた。

久々に出会った友人のように接する感じで。

 

「ちょっと、久し振りにあった戦友にそれはないんじゃない?しかも変わらないわね。

あっさりと私に杖を奪われる所と直ぐに怒るところも」

 

「なんですって・・・・・」

 

鋭い眼差しを向けられるも涼しい顔で一香は受け流す。

 

「・・・・・もしや、お前たち」

 

男性は誠と一香を見詰め・・・・・漏らした。

 

「誠と一香なのか・・・・・?」

 

その問いかけに二人は口元を緩ました。

 

「ようやく気付いたか。ま、こっちも一瞬誰かと思ったけどその立ち振る舞いと声を

訊いたらお前だって理解したぞサンドリオン」

 

「―――っ!」

 

目を張るサンドリオンという男性。女性、カリンもようやくといった感じで目を丸くする。

 

「はっはっはっ!よう、久し振りだな!数十年振りか?サンドリオンとカリン!

まーさか二人が結婚していたなんて驚いたぞ!」

 

「・・・・・お前という男を忘れていた。人を驚かすことが好きな奴だったことをな」

 

「カリン、眼つきが鋭くなっちゃって。

女性らしく可愛らしさが大事だって前から言っていたでしょう?」

 

「あの時は・・・・・私の事情を知っていたでしょう。それにこれは生まれつきです」

 

急に和やかなムードと成り、一誠と少女は首を傾げる。

 

「父上と母上の知り合い・・・・・?」

 

「みたいだねー」

 

互いの子供たちが様子を見ていると、誠がサンドリオンの肩に腕を回した。

 

「しかもお互い子供がいるとはな。いやー実に愉快なことじゃないか。サンドリオン、

暇なら一緒に昔のことを語ろうぜー。因みに決定事項だからな?」

 

「まったく・・・・・そういうところも変わっていないな」

 

「あなたの娘?男装していたあなたと瓜二つじゃない。

可愛いわー。やっぱりあなたのように目指しているの?」

 

「ええ、私たちの話を聞いて・・・・・困ったことに立派な騎士になりたいと言いだして」

 

「「応援するべき(グッ!)」」

 

二人して親指を立てると女性は額に手を当てながら苦笑を浮かべる。

 

「そういう息が合っている仕草も懐かしいですね。というか、なぜまだ若いまま?

いえ、若干歳を取っているみたいだけどそれにしては・・・・・」

 

「あら、羨ましい?」

 

「久々に私の風が吹きそうね・・・・・っ!」

 

「あなたの杖、私が持っているから使えないわよ?ま、返すけどね」

 

杖を女性に手渡し、サンドリオンと話をしている誠に声を掛けた。

 

「誠、来たのはいいけれどこれからどうするの?」

 

「ん?ああ、やっぱ直ぐに行くぞ」

 

と、あっさりこの場から離れることを言いだした誠にサンドリオンは怪訝な面持ちで誠に問うた。

 

「どこに行く気だ?」

 

「息子がアルビオンに行きたいって言うから俺たちはアルビオンに向かうところだ」

 

「数十年振りに再会したのにもう行くというのか。もう少しゆっくりしていけばいいだろう」

 

「悪いなー。こう見ても俺たちは世界中を飛び回って忙しいんだ。

俺たちの息子も修行中で世界を飛び回っているし」

 

「親子揃って普通に生活はできんのか」

 

と、サンドリオンが溜息を吐いた。

 

「ま、そういう一家もいることっていいだろう?

サンドリオン、何時か極東の国に遊びに来いよ。歓迎するぜ」

 

「ふん、行く機会があったらな」

 

一誠を抱きかかえアジ・ダハーカに乗ると、サンドリオンたちに別れを告げて

アジ・ダハーカが翼を羽ばたかせ空の彼方へ向かった。

 

「父上、母上、あの方たちは一体・・・・・」

 

「まだ私とカリーヌが魔法衛士隊だった頃―――同じ隊の仲間であり戦友だった二人だ」

 

「っ!じゃあ、あの方たちも父上と母上と同じ―――!」

 

「ええ、共に塔を攻略した英雄たちですカリン。・・・・・相変わらず元気そうでよかったわ」

 

「ナルシスとバッカスにも梟便で教えてやるとしよう。きっと驚くか悔しがるだろうな」

 

愉快そうに口元を緩ますサンドリオンは踵返して城の中へと戻る。少女は目を輝かせて

カリンに言った。

 

「母上、私は母上たちのような騎士になります!」

 

「・・・・・まったくあなたは本当に私とそっくりですね」


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