HIGH SCHOOL D×D ―――(再)―――   作:ダーク・シリウス

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エピソード36

「一誠、どうしてあなたがここにいるの?」

 

「うーんと、僕じゃ分からないからクロウ・クルワッハたちに聞いてよ」

 

「クロウ・クルワッハって邪龍の?」

 

「私だ」

 

名乗り上げるクロウ・クルワッハは今までの出来事を誠と一香の質問を簡潔に告げた。

 

「この国の召喚魔法でこの国に来るなんて、なんて偶然なのかしら」

 

「その場所は竜の巣。お前たち二人の隠れ家であることは既に明白だ」

 

「おいおい。あの場所に召喚されたってのか。・・・・・まさか、何か持ってきたか?」

 

亜空間から例の二つの分厚い日記帳を取り出した瞬間。

 

「ああ、これ―――」

 

「ちょっ、なんて物を持ち出しているのよあなたはーっ!」

 

真っ赤な顔をして赤い日記帳を奪った一香に対して、

懐かしみつつ照れた顔で乾いた笑い声を発する誠。

 

「・・・・・見た?」

 

「この国の手掛かりが書かれているかもしれないと思って見た。

が、まだほんの一部しか見ていない」

 

「くっ・・・・・まさか、これを見つけられるなんて思いもしなかったわ」

 

「これを手にすると懐かしいよなー。ジョゼフとシャルルとの出会いも書いてあるんだよ」

 

誠は二人の若い男性に視線を送る。

一誠はその二人の男性に視界を入れると「知り合い?」と尋ねた。

 

「ああ、まだ父さんと母さんが若かった時からの付き合いだ」

 

「父さんと母さん、まだ若いのに?」

 

「あら、嬉しいことを言ってくれるわねこの子は。

ま、その時は色々と遭ったけど今はこの通り友達なのよね」

 

一香が一誠を抱きしめながら笑みを浮かべる。

 

「誠、ここまで封印が不安定なままでしておくと却って危ないかも」

 

「再封印は?」

 

「できないわけじゃないけど、そうしたら私の力が殆どなくなるわ」

 

「・・・・・そうだな。いっそのこと、ここで解いて一香の力を戻すとしようか」

 

「父さん、母さん?なにを言っているの?」

 

不思議に思った一誠だったが、一香は魔方陣から二つ赤い液体が入った大きな瓶と

筆を取り出した。宙に筆で赤い液体を付着させ、何か儀式の際に媒体として

使う摩訶不思議な円と紋様を描いていた。それを一回だけじゃなく、二回もなぞって。

 

「おい、そこの吸血鬼の少女」

 

「・・・・・私の事?」

 

「はい?」

 

アルトルージュとヴァレリーが反応する。誠はアルトルージュだけ呼んだつもりだが

掛ける言葉を間違えた。だが、今さら言い直すのもなんだしと敢えて肯定と頷き手まねきした。

 

「一誠の血を吸ってくれ。ああ、ちょっとだけな」

 

「「はい?」」

 

何で今そんな事をするの?二人は不思議に首を傾げるが誠の催促に一誠の両腕を突き出した。

 

「え、父さん?どうして二人に吸わせるの?」

 

「んー、必要なことだから」

 

と、言うだけで半ば強引に二人を一誠の血を吸わせた。吸血鬼としての力が増幅するが、

誠はそのことを気にも関せず、一香が描いた赤く煌めく魔方陣へ連れていく。

 

「ちょっとだけ痛くて苦しいだろうが・・・・・その分、お前を強くしてくれるはずだ。

何せ母さんの魔法を使えるようになるからな」

 

「魔法を?でも、僕は魔力が使えるよ?」

 

「それはドラゴンの魔力だろう?お前は一香の、式森家の血も受け継いでいる」

 

「・・・・・それって僕だけじゃないよね」

 

「言いたいことは分かる。だが、どうやら俺の血の方が濃く受け継いでいるようでな。

お前だけなんだ、兵藤家と式森家の血を濃く受け継いだ存在は」

 

どこか嬉しそうに自慢げに漏らす誠は一誠を赤い魔方陣に押し付けた瞬間、魔方陣が一誠を拘束した。

 

「お前に新たな力を、封印を解く。本当ならお前が数々の修行を終えた後にするつもりだったが、

封印が解けそうな状態であるからこの際、封印を解くことに決めた」

 

誠から闘気が、一香から魔力が迸り宙に描かれた魔方陣へ送るとさらに輝きが増した。

すると魔方陣が異変を起こし、意思が持っているかのように一誠が噛まれた傷口へと自ら侵入した。

 

ドクンッ!

 

「あうっ・・・・・!」

 

一誠にも変化が生じ苦痛の表情で漏らした。一誠の親は一体何をしているのか

苦しそうな一誠を見かねてルーラが質問した。

 

「あ、あの・・・・・一誠くんが苦しそうですっ」

 

「最初にも言った。だが、こうしないと一誠は今後もっと辛い思いをする。

辛い思いをするなら先に感じた方がいい」

 

「どうしてこんなことを・・・・・?」

 

「悪いが、これは俺たち親子の問題だ。だがな、こんなことをする理由は一誠の血、

兵藤家の血が大量に吸われた結果、一誠の身に危険が起きているからだ。

親として危険を排除したい」

 

真剣な面持ちでルーラに答える誠。すると、クロウ・クルワッハが日記帳を開いていて

今まで読んでいた様子で―――。

 

「兵藤家と式森家、か」

 

「・・・・・人の日記を読むのはプライバシーの侵害だぜ?

いや、暗黒龍だから人権の云々なんて言っても意味がないか」

 

「悪いな。私も兵藤家と式森家という人間の一族の存在は知っている。

だが、こうも目の前に起きている展開を見るとつい調べたくなった」

 

「だーが、そこにはなんにも書いていないだろう?」

 

不敵に笑む誠に同意と頷いたクロウ・クルワッハ。

 

「ああ、逆に赤裸々なことが書かれているな。

例えば、『一香を気絶させる回数を更新したぞいぇいっ!』とか」

 

「んなっ!?」

 

「『彼女は俺だけのものだ。一香は絶世の美女だからか他の男、

特に神が俺の女を孕まそうとする奴が多くて仕方がない。その度に俺は二度と手を出さないように、

相手が泣き喚こうが俺の気が済むまで殺り続けるがな』」

 

無表情で日記を読み上げるクロウ・クルワッハ。読まれ続けられる誠の顔は次第に赤く染まる。

 

「『二人目の子供が誕生した。次も男だったら三人目は女の子がそろそろ欲しいな。

一香、何度気絶しても俺はお前の中に新しい―――』」

 

「そ、それ以上言うなぁぁああああああああああっ!」

 

咆哮とも言える絶叫がクロウ・クルワッハの言葉を遮って中断させた。

それだけでは終わらず壁や床に罅が生まれていて、その音量は凄まじいと物語っている。

眉間にしわを寄せたクロウ・クルワッハが一言漏らす。

 

「・・・・・うるさい」

 

「うるさい、じゃない!なに人の日記を読んでいるんだ声を出して!」

 

「もう、実際に私はあなたに何度も気絶させられているのだけれど?

有言実行していただなんてあなたったら♪それに私はあなたのしか

感じられない身体になっちゃっているから―――」

 

「一香、一誠の目の前でそれは言わないでくれ」

 

「あら、そうだったわね・・・・・うふふっ」

 

『・・・・・』

 

ルーラ、アルトルージュ、ヴァレリーが顔を真っ赤にした。

クロウ・クルワッハはその手の知識がないのか、

何の事だかさっぱり分からないという風で首を傾げた。そうこうしているうちに、

完全に一誠の体内に入り込む赤い血の魔方陣。全身で息をする一誠もまた辛そうで―――、

 

「今日はお休みなさい」

 

一香が一誠の頭を触れた途端にバタリと床に倒れた。一香は倒れた一誠を抱きかかえると

誠が青い髪の男性に乞うた。

 

「ジョゼフ、悪いけど客室を借りて良いか?」

 

「色々と聞きたいことがあるが、分かった用意しよう」

 

「それとも今日は泊まるかい?」

 

「あら、いいの?それじゃお言葉に甘えるわ」

 

「ああ、そうしてくれ。お前たちの息子がいるのだ、娘たちも会わせたいからな」

 

「既成事実を作ろうとしても簡単にはいかないわよ?この子を狙っている娘は大勢いるんだから」

 

「モテているねぇー」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・しかし良かった。グレートレッドの身体なのか分からないが」

 

「ええ・・・・・相反する二つの力を完全に抑え込んでいる。

相反する力を融合できているなら既に尚更のことなのかしらね」

 

「互いの一族の歴史じゃ危険極まりないことだったらしいが、

これで実証できた。人間の身体じゃ―――」

 

「ヒトを捨て、新たな力を得る。何事にも代償が必要なのね」

 

「今は喜ぼう一香」

 

「・・・・・はい、あなた」

 

その後、一誠は客室の豪華絢爛な天蓋付きのベッドに眠る。

すると客室の扉がゆっくりと開き、ベッドに近づいて眠る一誠を見下ろす

青髪の二人の少女。一人は眼鏡を掛けている少女、もう一人は眼鏡を掛けていないが

眼鏡を掛けると顔が瓜二つな双子の姉妹。

 

「お姉さま、この男の子の寝顔可愛いですね」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

一誠の寝ている姿を魅入られている双子はさらに魅入る。

 

「ん~だめだよ~くすぐったいよ~」

 

「「・・・・・っ」」

 

目を瞑ったまま笑っている一誠。夢の中で何者かによってくすぐられているのだろう。

その表情と猫撫での声が双子の気持ちを高ぶらせる。

 

「か、可愛い・・・・・っ」

 

「お父さまのお友達の子供だって言ってた。仲良くしなさいとも言われたから」

 

「じゃあ、仲良くなっちゃいましょう。一緒に寝ましょう」

 

「賛成」

 

二人の少女はもぞもぞと左右から高級羽毛が敷き詰められた上掛け布団と下掛け布団の間に潜り込み、

一誠の傍でヒョコっと顔だけだした。―――が、

 

「残念です。私が先にいました」

 

「ふふ、ごめんなさい?」

 

「「誰っ!?」」

 

さらに一誠を寄り添うように双子が頭を出していた時点で見知らぬ

二人の少女が顔を出していて一誠の隣で寝る目論見が阻まれた。

 

―――○●○―――

 

翌日、一誠たち一行は王宮を後にした。目的地であるアルビオンに向かうかと思えば

聳え立つ巨大な塔の前に立っていた。

 

「さーて、入るか!」

 

「入っていいの?」

 

「許可を貰ったからな。中にあるガリア王国の秘宝を渡してくれれば富の半分は俺たちにくれる話だ」

 

「数十年振りの攻略だわ。ふふっ、一誠と攻略する日が来るなんて思いもしなかった」

 

装飾と匠が凝った扉に触れる誠と一香。二人の顔は活き活きとしていて子供のようだった。

その表情をジッと一誠は見詰めると開け放った扉の向こうから光が一行たちを出迎える。

 

「それじゃ、出発!」

 

誠の発令に一行は扉を潜り塔の中へ侵入する―――。

 

 

『・・・・・』

 

塔の中へ入った一行。自分たちを待ち受けるその光景に誠と一香以外の面々は呆然としていた。

ガリア王国の城下町が一切見当たらない。別の世界に飛び込んでしまったと錯覚せざるを得ない状況下で

周囲を見渡す。

 

「ここ・・・・・どこ?」

 

どこか分からない洞窟に入り込んでいた。進める道は一つしかなく。

 

「考えたってしょうがない。行くぞ」

 

「ポジティブな思考なのね・・・・・」

 

「冒険はドキドキする事が多いからネガティブなんて考えは一度もしたことがないわよ?」

 

「一誠、冒険は、旅は楽しいぞー?」

 

「うん、楽しみ!早く行こう!」

 

『(この親子は・・・・・)』

 

親も親なら子も子だと冒険好きな一家について行くしかない面々。一香の魔法で光を灯し、

洞窟の中を歩き続けること十数分ぐらい経ったことだった。

 

「お、道が三つ・・・・・王道的だなぁ」

 

「お父さん、どっち?」

 

「こう言うのは全部調べてから決めるんだ。一香、久々に頼んだ」

 

「ええ、分かったわ」

 

誠は一香に頼み、一香は呪文のような言葉を口にし続けた。呪文が言い終えると一香が四人に増えた。

 

「お母さんが四人・・・・・?」

 

「一誠も後で教えるわ。この魔法はとっても便利だからね」

 

「分身魔法・・・・・?」

 

誰もが一香の魔法に不思議さと興味が湧きあがっている余所で三人の一香が真ん中の

洞窟を残して左右の洞窟に入り込んでいった。本物の一香は魔方陣を展開して、

三人の分身の視点から映る光景を立体映像に映し出す。

 

「凄い、確かにこれなら安全に調べられるわね。式森家は伊達ではないってことか」

 

「元式森家だけどね?」

 

アルトルージュの話に付け加えた。その後、三人の分身体の視点から移る光景に異変が生じた。

右の洞窟ではゴロゴロと転がる巨大な岩が迫っていて、逃げる分身体の先に巨大な

空間が広がって足場がない。

浮遊魔法で宙を浮かび、周囲に眩い光を発現したところで次の道に進めるような場所がなかった。

 

真ん中の分身体は巨大なワームが道を阻んでいたがその障害を突破し、

先に進んでも右の洞窟と同じ場所に行き着いた。

 

左の洞窟にいる分身体は特に何の異変も無く次のステージらしき扉に辿り着いた。

何の躊躇いなく扉を開けた瞬間―――無数の黒い生え揃えた牙をもつ触手に身体を貫かれては

身体を絡め取られ扉の奥に引きずり込まれ扉が閉まった。

 

「・・・・・左の洞窟、エグい・・・・・」

 

「分身だったから良かったものの・・・・・私、触手に食べられるなんて絶対に嫌だったわ」

 

「だが、右と真ん中の洞窟は同じ場所に行き着くのか。取り敢えず、真ん中の洞窟に行こう」

 

一行は真ん中の洞窟を突き進む。ワームが棲みついていた洞穴を通るものの異変は起きず、

二人の分人体が浮遊している空間に辿り着く。

 

「下が真っ暗です・・・・・」

 

「私も何か手掛かりになるようなものを探しましょうか」

 

身体から無数の蝙蝠を生み出し、散開させる。

 

「・・・・・」

 

ジッと常闇の空間で広がっている下を見続ける一誠。

 

「一誠、何を見ているの?」

 

ヴァレリーが話しかけてくる。ヴァレリーも下へ視線を落とすが何もない。見えない。

 

「上がなにもないなら下かなーって思ったけど、やっぱり見えないね」

 

「しょうがないわ、真っ暗だもの」

 

それから少し時間が経つ。無数の蝙蝠がアルトルージュの元に集まりだした。

 

「どうだった?」

 

「ダメね、入口らしきものなんて見つからない」

 

「いきなり詰みかよ」

 

「この辺ではないとすると・・・・・下なのかしら?」

 

光の球体を下に落とす一香。光はあっという間に常闇の中へと消えて無くなった。

 

「まるで暗雲に吸いこまれた感じだわね」

 

「あの程度の光では灯すこともできないのでは?」

 

クロウ・クルワッハの指摘にもう一度光る球体を今度は多く具現化させてゆっくりと下に落とす。

それでも常闇に包まれて光の役割を果たせないまま消失した。

 

「あそこ、何かあるようね」

 

「魔力がダメなら気でやってみるか」

 

軽く誠が宙へ跳躍したまま手に溜めた気を下に打ちこんだ。

レーザービームの如くの気は常闇に突き進み

何か直撃する轟音が響いた。常闇はその衝撃波で霧のように四散し―――入口を覗かせた。

 

「あそこか!」

 

「あの常闇は魔力を吸収していただなんてね」

 

見る見るうちに常闇は入口を隠そうと充満する。

 

「よし、もう一度する。入口が見えたら皆は一気に向かってくれ」

 

一行の反応を確認せずもう一度、常闇に向かって気のレーザービームを放った。

再び地面と直撃しその衝撃波で常闇は晴れ、入口が見えた瞬間に一香たちは入口へと飛び出した。

その間、常闇は入口を覆うとして迫る。その前に地面に辿り着き常闇が来る前に

入り口の中へ侵入を果たし、常闇が入ってこないように一香が障害物を作っては塞いで先へ進む。

 

「お、扉だ」

 

無機質な扉が一行を出迎えた。一香が分身を生み出して自分たちの代わりに開け放つ。

と―――扉の向こうから光が漏れだし、一行を包みこんだ。

 

『・・・・・』

 

光が消失し、一行が目を開け、目の前に広がる森林と一際目立つ巨大な木が。

自分たちが潜った扉に振り返ると崖しかなく来た道に戻ることはできなかった。

 

「あの大きな木に目指せってことかな?」

 

「多分な」

 

「そろそろモンスターみたいなものが現れてもおかしくないわね」

 

と、一香は述べるとクロウ・クルワッハがあることを聞いた。

 

「以前にも塔を攻略したそうだな?日記に書かれたいたが」

 

「ああ、友達四人と塔に入ってチャレンジしたんだ。今の俺たちほど強くなかったから

シビアだったなー」

 

「でも、何とかクリアできて私たちはトリステインの間じゃ英雄みたいな扱いを受けたわ」

 

「では、トリステインとやらに行けばお前たちのことが分かるんだな?」

 

「ああ、生きたいならばここを攻略しないとな」

 

一行は崖から降りて日差しが降り注ぐ森林の中を歩く。

ここが塔の中とは思えないほど

穏やかで空気が新鮮な場所である。

 

「今時の人間たちがこんなことできるなんて知らなかったわ」

 

「この塔は六千年前に現れた始祖ブリミルが何らかの理由で建造したらしいのよ。

エルフで言うと悪魔って呼び名よね?」

 

「ええ、大体そうね。

というか、この塔は悪魔が作っていただなんて・・・・・何を考えて作ったのかしら」

 

「そうね。何を考えて作ったのか分からないわね」

 

表情を険しく考える仕草をしたが一香の話で直ぐに止めたルクシャナ。

考えたって仕方がないし分かったところで自分がどうこうすることもできるわけでもない。

巨大な木まで歩き続けた一行。ピクニック気分でヴァレリーがなんだか楽しげに微笑み歩く。

 

「んー、何も起きないな」

 

「何も起きない方がいいでしょ?今回ばかりは」

 

「確かにそうかもな。あん時、バッカスとナルシスが大慌てして、

カリンが二人を慰めようとしたが急にテンパったり、

サンドリオンはそんな三人を抑え込もうと苦労の絶えなかったから笑ったよなー(笑)」

 

「懐かしいわねー。笑っている私たちに揃ってツッコンできたわよね」

 

「ああ、そうそうそんなこともあったよな」

 

誠と一香が昔を思い出しながら先へ進む。

 

「一誠くんのお父さんと母さんは明るい人たちですね」

 

「うん、だから好きなんだよねー」

 

「そうですか・・・・・」

 

「ルーラのお父さんとお母さんは?」

 

話の流れ的にそう訊かれてしまいルーラは答え辛そうに、苦笑を浮かべた。

 

「ごめんなさい、私は天涯孤独なんです。私を産んだ家族は教会の前に置いてどこかへ

行ってしまったみたいなのです」

 

「・・・・・じゃあ、家族がいないんだね」

 

寂しげに漏らしたが、一誠は何か閃いたのか急にルーラの手を掴んだ。

 

「じゃ、ルーラも家族にならない?」

 

「え?」

 

「お父さんとお母さんがいないなら家族になろうよ」

 

ニッコリと笑む一誠にルーラは目を張った時、ドドドドッ!と何かが迫ってくる音が聞こえてきた。

 

「やっぱ、何も起きらない方が不自然かな」

 

「この展開だと・・・・・走った方がいいわよね」

 

「そうだな。それじゃ皆、巨大な木に向かって走るぞ!」

 

ダッ!と駆けだす二人を追い掛ける一誠たち。何かが迫ってくるなら

それを対処したらいいじゃないかって思ったが尻目で背後に

視線を向けると・・・・・大量の巨大な虫らしき生物が口を開けて迫って来ていた。

―――確かに逃げた方が賢明であることを悟った。

木々を素通りしながら前へ前へ進む。追いかけてくる虫たちに食われない為、

必死に逃げる一行だったが、

 

「あっ!」

 

「きゃっ!」

 

ルーラとヴァレリーが躓いて転んでしまった。

一誠は二人に近寄って安否するその間にも虫たちが迫っていた。

 

「―――二人を守る!」

 

二人の女の子を守る一誠はあの禁断の鎧を纏う。

 

「ゾラード、力を貸して!禁手(バランス・ブレイカー)!」

 

禍々しい魔力のオーラが一誠を覆い隠し、魔力が鎧へと具現化する。

入り乱れた黒と紫の龍を模した全身鎧。各身体の部分に赤い宝玉があり赤い目で

眼前の虫たちを睨む。

 

「・・・・・僕の家族を傷つける敵は・・・・・許さない」

 

イメージは相手を全て消す。生半可な攻撃では守りたい者を守れない。

手と腕に魔力を纏うと薙ぎ払うように振るった。

 

「消えろぉっ!」

 

『―――っ!?』

 

完全に振られた腕と手から禍々しい魔力のオーラが激浪の如く虫たちに迫った。その際、

地面を激しく抉る。扇状で広がる滅びの魔力が森林を虫を全て削りこの世から消す。

成す術もなく虫たちは回避することもままならず一誠が放った攻撃によって消えて無くなる。

 

「―――凄い」

 

「あの一撃で荒地になったぞ」

 

「滅びの魔力・・・・・なんて力なの・・・・・!」

 

後に残った目の前の光景は抉れた地面だけ。

アレだけいた大量の巨大虫がたったの一撃で全て消えていなくなった。

 

「やっぱ、あの力を具現化した鎧は危険極まりないな」

 

「扱い方を誤れば余計なものまで消しかねない」

 

鎧を解いた一誠に感謝の言葉を送るルーラとヴァレリーを見守る誠と一香。

今後の一誠の課題が増えそうだと思った瞬間でもあった。

 

―――○●○―――

 

巨大な木の麓にある扉の前に辿り着いた。中に侵入すると木の階段が螺旋状に続いて

全員が視線を上に向けると何かがぶら下がっている物が見える。

それは何なのか分からないが、上に進むしか道がないと階段を登っていく。

 

「なんか、甘い匂いがするね」

 

「そう言えば・・・・・」

 

「この匂い、どこかで嗅いだような気がする」

 

上がるにつれ、ほのかな甘い香りがしてきた。その匂いを一誠はあるものだと気付き言った。

 

「あ、ハチミツだ」

 

「ハチミツ?」

 

「うん、絶対にハチミツだよこれ」

 

この中でハチミツなど持ってきていないしあるわけがない。

と、誰もが頭の中で考えたが―――どこからかブンブンと虫の羽のような音が聞こえてくる。

その正体は上空から現れ迫っていた。

 

「なるほど、蜂か」

 

「で、でかい・・・・・でかすぎでしょ・・・・・」

 

本来の蜂の大きさは大雑把で言えば手の平サイズ。

だが、一行の目の前に現れた蜂の大きさは優に数メートルを超えていた。

 

「毒針を突き刺してくるのかな」

 

「いや一誠。こう言う相手は大概―――」

 

蜂は生えている鋭い針を―――突き刺すのではなく連射式で飛ばしてきた。

 

「本来の常識と生態を覆すもんなんだ覚えておけ!」

 

「わかったー!」

 

飛ばしてくる針を躱、無抵抗なルーラとヴァレリーに向かう針を弾いたり防いだりする。

その状態が螺旋階段を登りきるまで続いた。

 

「あー鬱陶しいっ!」

 

誠がシビレを切らし巨大蜂に飛び掛かって殴打した。

 

ドカッ!バキッ!ゴンッ!

 

「す、素手で殴っている・・・・・」

 

「本当に人間なの・・・・・?」

 

巨大蜂を果敢に殴っては蹴る誠に異種族の吸血鬼とエルフからしてみれば異常な光景だろう。

 

「ストラーダ猊下みたい」

 

「あら、やっぱり知っているのね」

 

「はい?」

 

「誠、ストラーダ猊下と戦った過去があるわよ。どっちも常識外れで逸脱した戦いだったわねー」

 

のほほんと魔方陣を展開して飛来してくる巨大な針を防ぐ一香の言葉にルーラは目を張る。

 

「そ、そうなんですか?ど、どっちが勝ったのですか・・・・・?」

 

「誠が勝ったわよ。神器(セイクリッド・ギア)と剣技でね」

 

「そうなんですか!?」

 

敵なしだと思っていたストラーダ猊下が負けていた。

誠が勝っていたとは教会に育てられている身として信じ難かった。

 

「お父さんって神器(セイクリッド・ギア)、持っていたんだ」

 

「そうよー?私も持っているし」

 

「どんなのー?」

 

息子に興味身心で聞かれ、ちょっと自慢げに一香は誠と自分の神器(セイクリッド・ギア)を説明した。

 

「誠のは『時空間と次元の自由航路(スペースタイム・ディメンション・ルート)』。私のは『神愛護珠(ゴッド・ラブ・ディフェンス)』。

それが私たちの神器(セイクリッド・ギア)であり神滅具(ロンギヌス)―――」

 

神滅具(ロンギヌス)!?そんな、一誠くんの家族が二つも揃って神滅具(ロンギヌス)を―――!」

 

「あら、一誠だって神滅具(ロンギヌス)と認定や認知されてもおかしくない

神器(セイクリッド・ギア)を持っているわよ?それも二つ、ゾラードとメリアの力がそう」

 

「へーそうなんだ」

 

―――あっさり受け入れるんだ!?とても重要性が分かっていないんじゃないか!?

 

「まぁ、私たちって神滅具(ロンギヌス)の力を滅多に使わないのよ」

 

「どうしてー?」

 

「だって、使わなくても私には魔法、誠は物理的な攻撃の方が強いもの。

それに昔はともかく今の時世、戦いなんてそんな頻繁に起きやしないしね」

 

そう言いながらも、微笑みながら魔方陣から巨大な業火球が放たれて巨大蜂を焼き尽くす。

その轟音と熱風、衝撃波も完全に防ぐその技量。

 

「(ハ、ハンパ・・・・・ない)」

 

「(人間の中で逸脱した強さではないか・・・・・?)」

 

「(敵だったら倒されていたかも・・・・・)」

 

アルトルージュとリィゾ、フィナが心底畏怖の念を感じるに値する一香の強さ。

これでもまだ一部だろうが素手で倒す誠と魔法で倒す一香を見て自分たちはなんて親の

子供と関わってしまったのだろうかと思わずにはいられない心情でいると

ようやく螺旋階段を上がり切った。天井には巨大な楕円形の物体がぶら下がっていて

一行を巨大な蜂たちが出迎えていた。

 

「あらあら、やっぱり多いわね」

 

「どーするの?」

 

「そうね。久々に力を解放しましょうか。誠ー」

 

「おー、わかった」

 

二人は肩を並べ「禁手(バランス・ブレイカー)」と言い放った。

一香の亜麻色でウェーブが掛かった髪が金色に変わり、

頭上に金色の輪っか、瞳が蒼と碧のオッドアイ、背中に六対十二枚の天使の翼が生え出した。

 

「・・・・・あれ、お父さん?」

 

「なんだ?」

 

禁手(バランス・ブレイカー)になっていないの?」

 

身の変化がない誠に一誠が疑問をぶつけた。

 

「ああ、なっているが目には見えないんだ。見ていな」

 

そう言って誠は―――音もなく姿を消したと思えば、一刹那も掛からない時間で戻ってきた。

 

「・・・・・え?」

 

刹那。巨大蜂が勝手に粉々になって吹き飛んだ。その光景と様子に一誠たちは目を疑う。

 

「一体・・・・・なにが?」

 

「俺の神器(セイクリッド・ギア)は時間を無くす能力だ。例えば移動する時間、

攻撃する時間、防御する時間を全てなくして行うんだ。まー大雑把で言えば

光の速度以上の動きができるんだ。百メートルを0秒で走り切る以上の速度でな。

逆に標的の時間をコントロールできる。他にも能力はあるが―――」

 

十二枚の金色の翼から閃光を放って巨大蜂や巨大な蜂の巣と思しき楕円形の塊に

当て続ける一香を見て誠は告げた。

 

「今は目の前の敵を倒すことに専念しようか」

 

「ようやく戦いらしい戦いができそうだ」

 

クロウ・クルワッハが何気に嬉しそうに構えて巨大蜂に攻撃を仕掛けた。

 

「あ、一誠。お前はあのゾラードの力を具現化した鎧、味方が大勢いる間使用禁止な」

 

「えええええ!?」

 

『解せん・・・・・』

 

禁止命令が下され驚愕する一誠と納得がいかないゾラードであった。その後、小一時間で

敵を倒し尽くし、巨大な巣を崩落したら天井に穴が開いた。その穴へ飛びだして潜ると

青い空、緑の草原に侵入した。

 

「本当、この塔はどんな仕組みをしているんだか」

 

「面白くて良いじゃない?さて、三回もクリアしたからボスみたいな相手が出て来ても良さそうだけど」

 

誠と一香の話を聞き、警戒する一行。―――と、

 

ヒュンっ

 

「え?」

 

微かな風を切る音が聞こえ、一誠はとある方へ顔を向けた時、突風が吹いたかと思えば

何かに踏まれた感じで倒れた。

 

「重いー!?」

 

「え?一誠、何を言って―――」

 

アルトルージュが吹っ飛んだ。周りも何事だと目を張るも自分たちも何かによって吹っ飛ばされた。

 

「なんだ、どこから攻撃が・・・・・?」

 

「見えない攻撃、それとも見えない敵?」

 

「兵藤一誠が倒れている状態なのがおかしい」

 

クロウ・クルワッハが魔力弾を一誠の上に向かって放った。

しかし、何かに吸いこまれていくように消え去った。

 

「・・・・・なるほど」

 

たった一回の攻撃で何かを悟ったのか、今度は駈け出して一誠の傍で横薙ぎに蹴った

瞬間に何か硬い感触が足から伝わった。直ぐさま拳を突き出したが空ぶった。

 

「あ、軽くなった」

 

そう言って立ち上がった一誠。周囲に視線を配るが影の形も見当たらず気配も感じない。

 

「クロウ・クルワッハ。何を気付いた?」

 

「相手は見えない敵というぐらいだけだ。そして魔力を吸収する」

 

「そうなのか?気配を探知しているが全然感じない」

 

「きっとそれすら感じさせないのだろう。だが、確かに身体はある」

 

「見えない敵・・・・・透明な身体を持つ敵と考えた方が良さそうね。

だったらこうしたほうがいいかしら」

 

遥か上空、そして数キロにわたる超巨大な魔方陣を展開した一香の見えない敵に対する攻略方―――。

魔方陣からポツポツと降ってくる水滴―――雨。

 

「雨?」

 

「身体まで幽霊みたいに透けていなければ形が浮かぶはずよ」

 

不敵に漏らす一香。全身ずぶ濡れになる一行だが、敵を倒すにはこれしかないのだと頭は理解する。

振り続ける雨の中でどこから襲ってくるか警戒していた一行の、リィゾの上空から何かが迫った。

 

「―――なるほど、確かにこれなら見える」

 

腰に帯剣していた剣を抜き放ち振るった。確実に刃は敵の身体に傷を負わしたが

傷らしい傷は見当たらず血液も見えない。が、痛みで叫ぶ獣のような声が雨の中で聞こえる。

味方が何かによって弾き飛ばされる最中、アルトルージュは身体から無数の蝙蝠を

生み出して見えない敵に張り付くことで雨がなくてもハッキリと敵の姿を捉えることができた。

長い首、四肢の身体に長い尾の敵だった。

 

「一誠、ネメシスの能力で縛れ!」

 

「うん!」

 

空間を歪ませ蝙蝠だらけの敵を厳重に縛りあげた。

激しく鎖が揺れ、それは鎖の拘束から解かれようともがいている様子だった。

雨を降らす魔方陣は一香の意思で消され、鎖で縛られた敵は―――。

 

「形的にドラゴンっぽそうだから僕の中に封印してくれる?」

 

と一誠の提案で、ネメシスの能力によって一誠の中に封印されたのだった。


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